iBassoのヘッドホンアンプKunlunを試聴してみたので感想を書いておきます。
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| iBasso Kunlun |
2025年12月発売、約10万円でDAC非搭載の据え置きアナログヘッドホンアンプです。これまでポータブルがメインだったiBassoとしては意外な新境地なので、興味を持って聴いてみました。
Kunlun
あいかわらず新製品リリースのペースが速いiBassoですが、少し前のようなDAPのマイナーチェンジやバリエーションばかりではなく、最近は様々なジャンルを模索しており、今回は据え置きアナログヘッドホンアンプです。よくここまで同時進行で開発を進められるなと感心します。
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| iBassoには珍しい据え置き機です |
他の中華系メーカーを見ると、50万円を超えるようなラグジュアリーに傾倒するメーカーや、逆にポップなカセットやCDプレーヤーなどのライフスタイル製品に裾野を広げるメーカーという両極端に分かれている様子ですが、そんな中でもiBassoは「イヤホンやヘッドホンの駆動機器」という原点に忠実で、比較的納得のいく価格帯に収まっている印象があります。
デザインや使い勝手は多少荒削りな部分があっても、ポータブルオーディオのファンが求めている中身重視の製品にこだわっており、今作KunlunもそんなiBassoらしい新製品と言えそうです。
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| DC07PROと連携 |
主な使い方としては、既存のスピーカーオーディオシステムの空いたスペースに入れるとか、外出時はDAPやスマホとUSB DACを使っていて、自宅ではKunlunをブースターアンプとして接続するとかでしょうか。
たとえばiBasso DC07PROドングルDACはライン出力用ソースとしても優秀なので、私も出先でスピーカーシステムに接続する用途で重宝しています。
最近のイヤホンやヘッドホンはだいぶ鳴らしやすいモデルが多いので、外で使う程度ならドングルDACで十分で、自宅の静かな環境に戻ったらKunlunに接続して開放型ヘッドホンを聴くといった使い分けができます。巨大なポタアンを持ち運ぶよりも合理的で、コスパ的にも有利かもしれません。
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| 一般的なデスクトップサイズ |
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| Cayinよりは小さいです |
239 × 223 × 64 mmで2.4kgというと、いわゆるハーフラックよりも一回り大きい、最近のデスクトップ機としては一般的なサイズ感で、Cayinとかの本格的なオーディオラック用ヘッドホンアンプと比べると幅が若干狭いです。
奥行きはそこそこあるので、パソコンデスクに置くにはちょっと邪魔かもしれません。
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| KUNLUN GaN Desktop Headphone Amplifier |
ちなみにKunlunというのは崑崙山の事だそうで、D17とかPB6みたいなモデルナンバーはありません。
iBassoというと、DACアンプはD17 Atherisなど蛇で、アナログポタアンならPB6 Macawのように鳥といった具合に、製品ジャンルごとにニックネームを使い分けていましたが、今後据え置きモデルは山名で統一するのでしょうか。崑崙山というと封神演義で道士の弟子が助けにきたり解毒の薬草を取りに行くみたいなイメージしか湧かないのですが、現在はヒマラヤ山脈あたりの総称としても使われるそうです。どちらにせよ大仰な名前ですね。
「GaNデスクトップヘッドホンアンプ」と書いてあるとおり、最先端のGaN(窒素ガリウム)半導体のトランジスターをアンプ回路に活用しているのが大きな見どころのようです。公式スペックによると最大出力はバランスで7.4W、シングルエンドで1.9W(どちらも32Ω負荷)ということで、ちょっとしたスピーカー用アンプくらいハイパワーです。
GaNはシリコンと比べて電力損失が低いため高効率で発熱も抑えられるということで、最近だとUSB充電器などの小型化に大きく貢献していますが、オーディオアンプでの採用例はまだ珍しいです。
そもそもオーディオアンプはそこまで効率重視の世界ではありませんし(むしろアンプが熱くなる方が高音質っぽく感じる人も多いです)、高耐圧や高速動作といったGaNの他のメリットもあまり直結しません(クラスDなら有用ですが)。現状手に入りやすいGaN MOSFETがNチャンネルばかりでコンプリメンタリーペアを組めないという根本的な問題もあります。
それよりも作例が多く定評のあるシリコン半導体を選ぶメーカーが多い中で、もしGaNを採用したくて我慢できないメーカーがあるとするなら、きっとiBassoだと思うので、我々の期待を裏切りません。
| DAP用のGaNアンプカードAMP17 |
ちなみにiBassoはDX300/320/340というDAPシリーズで交換可能な別売アンプカードモジュールを販売しており、その中でもすでにAMP17というモジュールにGaN半導体を採用しています。
AMP17はバッテリー駆動のポータブル用回路なので、今作Kunlunと比べて設計の共通点は少ないと思いますが、GaN活用の作例に積極的に取り組んでいることが伺えます。
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| シンプルです |
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| 底面には電源セレクターのみ |
本体をひととおり観察してみると、背面にはRCA、4.4mm、3ピンXLRライン入力のみのシンプルな構成です。背面だけ見ると、まるで自作キットみたいですね。
電源は底面のスイッチで110/230Vを切り替える必要があるということは、スイッチング電源ではなくトランス電源を搭載しているのでしょう。
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| 電源ボタンとゲイン切り替え |
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| ヘッドホン出力端子 |
フロントパネルにはラックイヤーがデザインアクセントになっています。最近はLotoo Mjölnir/Gungnirとかもそうですが、こういうNagraっぽいデザインが流行っているみたいです。
イヤーが側面に張り出しているので取り外せる別部品のように見せかけて、実はフロントパネルと一体型です。
普通こういうシャーシは六面アルミパネルの組み合わせで作るものですが、Kunlunはよく見ると側面や背面もぐるっと一体型ということで、アルミブロックからの削り出しだとすると相当コストをかけたデザインです。日本のメーカーなら生産チームから却下されると思うのですが、一体どうやって作っているのでしょう。
フロントパネルは中央のボリュームノブの他に、電源ボタンと三段階のゲイン切り替えのみ、あとは6.35mm、4.4mm、4ピンXLRのヘッドホン出力だけという、一切のギミックを排除したシンプルな設計です。
外観デザインに関しては、十万円の製品としてはだいぶ丁寧に仕上がっていると思いますし、とくに頻繁に抜き挿しするヘッドホン端子は堅牢に作られている様子です。背面は自作キットみたいだと言いましたが、前面はしっかり高級感があります。
ボリュームノブはそこそこ重い抵抗感があって気持ちよく回すことができますが、ゲイン切り替えスイッチはグラグラしていて心もとないです。
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| 天板のグリル |
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| 中身 |
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| 電源側 |
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| オーディオ回路 |
上面の天板は黒いパンチングメッシュの上に厚いアルミ板の二重グリルになっていて、だいぶカッコよくて高級感があります。
天板を外すと内部の回路基板が見えます。だいぶオーソドックスなアナログアンプ基板構成で、向かって左側にトランスと電源周りがあって、中央のヒートシンクを境に右側にオーディオ回路があります。
新品開封時からカタカタと音がするので気になって確認してみたところ、基板固定のネジがいくつか不在で、しかもなぜか皿ネジを使っており、規格もバラバラです。電解コンもメーカーや選択基準が意味不明ですし、電圧レギュレーターもプラスとマイナス側でICメーカーが違うなど、全体的にiBassoのような大手の量産品でここまで手作り感があるのは意外です。自作する人なら、手近にあるデバイスやコンポーネントでなんとか仕上げたような感じを連想すると思います。
オーディオ回路はTIのPGA4311Uデジタル制御アナログボリュームICからオペアンプやゲインスイッチICを通って、ヒートシンクのTO-220はロームの2SB1185 PNPトランジスターです。
| 裏面 |
| GaN MOSFET |
肝心のGaNデバイスがどこにも見当たらなかったのですが、裏面にありました。ボリュームと電源制御用のマイコンなども裏面にあります。
GaNデバイスは150V FETのNexperia GAN7R0で、これは多分AMP17カードで使っていたものと同じです。この極小サイズながら7mΩで28Wを流せるらしいので、さすがGaNです。Nチャンネルのみなので、表面のPNP BJTとハイブリッドなバイアス構成にしているのでしょうか。
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| ボリュームノブ |
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| 謎のグリス |
ボリューム調整はフロントパネルのボリュームポットの抵抗値を参照してPGA4311Uで行っており、ボリュームポット自体に音楽信号が流れるわけではないため、ノイズやステレオギャングエラーが存在しないのが嬉しいです。
そんなわけで、ボリュームノブにはギターとかで見られるようなベーシックなポットが使われているのですが、そのわりにノブを回すと重みがあるなと不思議に思っていたところ、ノブを引っ張って外してみると、粘性の高い接着剤のようなグリスが充填されていました。このベタベタでノブの重さを演出しているようです。普通に使う分には問題ないと思いますが、高温の倉庫とかで保管する場合はグリスが流れ出ないか心配です。
不満点
Kunlunは極めてシンプルな製品なので、これといってバグや不具合みたいなものは無かったものの、個人的に二点ほど不満があります。
まず、せっかくの据え置き機なのに、まともな足がついておらず、足用のネジ穴もありません。アルミ削り出しのカッコいい足を付けてくれるだけでだいぶ見栄えが良くなると思うので残念です。音が良くなる謎の木材ブロックとかタングステン針に真鍮受けとか、足のドレスアップパーツは中国の製造業と相性が良いと思うので、もったいない気がします。
実用上でもうひとつ気になった不満点として、ボリュームノブと電源ボタンのユーザビリティ設計があまり良くないため、店頭試聴で困惑している人を何度か見かけました。このあたりの作り込みの粗さがiBassoらしいと納得できてしまう部分です。
実際に使ってみるとわかると思いますが、まずボリュームノブの最初の30%くらいが無音で、普段の想定以上にボリュームを思い切り上げないと音が聴こえてきません。
そしてフロントパネルの電源ボタンはラッチやトグルスイッチではないため、目視で電源が入っているか容易に確認できません。長押しすることで電源が入る仕組みで、ボタンにLEDがあるものの、小さく暗すぎて全然見えません。
これがオーディオ経験豊富な人ほど混乱させます。まず電源投入時にはボリュームノブを最低まで下げておくのはオーディオユーザーの体に染み付いた鉄則です。すでに電源が入っていたとしても、ボリュームノブをちょっと上げでも音が聴こえず、フロントパネルの電源ボタンを押しても何も起こらないので、背面の電源スイッチで再度通電するも、フロントパネルの電源ボタンを長押ししないと電源が入らないことを知らず・・・といったループに陥ります。
慣れればどうということないと反論されるかもしれませんが、これまでオーディオユーザーが使い慣れてきた据え置き機器の常識とズレているため困惑します。
シングルエンドとバランス接続
Kunlunには入出力端子がそれぞれ三種類用意されているのに、フロントパネルにセレクタースイッチが無いのでどうなっているのか気になっていたのですが、バランス入力端子の2番ホットがRCAシングルエンド端子と直結してしているようなので、接続には要注意です。
回路的に差動合成は行っておらず、シングルエンドはシングルエンドのままバランスアンプのホット側のみを使っています。つまりRCAシングルエンド入力を使う場合、ヘッドホンにバランス接続を使ってもシングルエンドと同じ信号経路になるため出力のメリットはありません。
入出力ともにバランス接続を使えばヘッドホンまでしっかりバランス駆動されるので、極端に鳴らしにくいヘッドホンとか、バランス駆動の方が音が良いと感じる人は、ライン入力側もバランス信号を使うべきです。
入力セレクターが無く直結しているということは、基本的に入出力ともに一つの端子のみに限定すべきです。これは以前Austrian Audio Full Score Oneヘッドホンアンプでも同じく直結していたのでトラブルに巻き込まれるリスクがありました。
複数のラインソースを同時に接続してあると、たとえばRCAのソースからXLRのソースへと音楽信号が流れてしまうため、音が歪んだり、最悪ソース機器を逆電力で壊してしまうリスクがあります。
純粋なライン機器であれば信号が弱いので、ただ音が小さくなったり歪む不具合だけで済みますが、たとえばポータブルDAPのヘッドホン出力をライン信号の代わりに使ったりすると、パワフルで出力インピーダンスも非常に低いため、機器間で膨大なエネルギーを短絡させてしまい最悪壊れます。
一般的なオーディオ機器の場合、入力セレクターで選択した端子以外はリレーで物理的に遮断されることで、信号が逆方向に流出するのを回避していますが、Kunlunはそれが無いので、使用の際には十分注意してください。
出力
いつもどおり1kHzサイン波信号を再生しながら負荷を与えて歪みはじめる(THD > 1%)最大出力電圧を測ってみました。
Kunlunはアナログアンプなので、入力信号のレベルによって出力電圧も変わります。
バランス接続での電圧ゲインは三段階のゲイン切り替えでそれぞれ+12、+8、+0dBあたりです。公式スペック表によると最大出力電圧はバランスで16Vrms、シングルエンドで8Vrmsとあるので、+12dBで逆算すると定格入力はそれぞれ4Vrmsと2Vrmsに設定されているようです。
上のグラフの赤線がバランス、青線がシングルエンドで、それぞれ三段階のゲイン切り替えがあります。グラフの実線はスペックどおり4Vrms / 2Vrmsを入力、破線は無負荷で飽和しはじめる上限の6.5Vrms / 3.5Vrmsを入力した時の出力です。公式スペックを超えるので推奨しませんが、入力側のヘッドルームに十分な余裕があることが確認できます。
20Ω以下までしっかり定電圧を維持しているのは、さすが強力なコンセント電源とGaN MOSFETアンプのおかげでしょうか。公式スペックでの最大出力は7.5Wですが、上のグラフだと瞬間的には14W以上出せています。
ただし一般的なアンプのように負荷で波形が徐々に丸く歪んでいくのではなく、一定の負荷を超えると波形がバタバタと不安定になるので、左右同時の定格運用という条件ではスペック通り7.5Wくらいが妥当なのかもしれません。そもそもここまでの高出力が必要なヘッドホンは存在しないでしょう。
同じテスト信号で無負荷時にボリュームを1Vppに合わせてから負荷を与えたグラフです。シングルエンドとバランスのどちらも綺麗な横一直線で、ゲイン切り替えによる影響も無く、出力インピーダンスは0.3Ωくらいです。
バランス出力の最大ゲインモードのみで、いくつか他のヘッドホンアンプと比較してみました。
やはりポータブルのL&P EA4はものすごい高ゲインを発揮していますが、40Ω以下だとKunlunの方が高出力を維持できています。Kunlunと同じGaN FETを採用しているAMP17カードはだいぶ出力が低いです。やはりポータブルだと電源がボトルネックになるので、コンセント電源と巨大なコンデンサーの余裕があるKunlunには敵いません。
音質
Kunlunは余計なギミックが無いので試聴が楽で助かります。Cayin C9iiやL&P EA4など、真空管やクラスAバイアスのモード変更スイッチが多すぎて、評価するのがめんどくさい製品ばかりで困っていました。
DACのフィルター設定などもそうですが、音色を変更するギミックが多ければ多いほど、メーカーの音作りの自信の無さや、ユーザー側に委ねる保身のように見えてしまう側面もあります。個人的には、高価なハイエンドモデルに向かうにつれて無駄を削ぎ落とし洗練されていくのを求めたいです。
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| ATH-ADX7000 |
まず最初にオーディオテクニカATH-ADX7000を鳴らしてみました。比較的鳴らしやすいダイナミックドライバー開放型ヘッドホンなので、Kunlunの強大なパワーが必須というわけではなく、USBバスパワーのドングルDACでも十分な音量が得られますが、そこにKunlunを追加することで純粋な音質比較ができます。ラインソースにはひとまずiBasso DC07PROやHiby RS6 DAPを接続してみました。
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「鐘」と「交響的舞曲」という定番の組み合わせで、とくに後者は個人的に大好きな演目なので新譜は欠かさずチェックしています。オランダ放送フィルというとBISでWigglesworthとのショスタコーヴィチやChallengeでZwedenとのブルックナーなど、精密な流れるような演奏が魅力的で、PentatoneではCanellakisとのバルトークも良かったので、今作も期待大です。
まず第一印象から、Kunlunはかなりダイナミックなスピード感のあるサウンドで、ボリュームを上げていっても十分な余裕が感じられます。オーケストラと合唱や歌手の分離も良好で、ソースの音色にあまり脚色を加えないシンプルなブースターアンプとしての役目を果たしてくれます。
逆に言うと味わい深さみたいなものは希薄ですが、それは弱点というよりも、汎用性が高く飽きが来ない入門用のオールラウンダーとしての意図が感じられます。そもそもiBassoは他に据え置き機器を作っておらず、普段から愛用しているドングルDACやDAPのライン出力モードをソースとして接続することを想定しているとすれば、アンプはこれくらいシンプルな方が良いです。
このアルバムはKunlunで駆動するメリットがとくに強く感じられます。交響的舞曲は演奏がだいぶ薄味で、最近だとDGGのネゼ=セガンとフィラデルフィアやEratoのPヤルヴィとパリ管の録音とくらべると物足りない気がしていました。そこでKunlunを通してみると、ここぞという時のインパクトやダイナミックさが増強され、もっと踏み込める余裕を得て、ADX7000の振動板を余すことなく駆動できている実感が湧きます。
たとえば真空管アンプならコンプレッサー的にダイナミクスを狭めて響きの倍音成分などを引き立てる美音効果が期待されるわけですが、Kunlunはそれとは正反対のサウンド傾向であることは確かです。
聴いている音量は同じでもダイナミクスの幅が広くなり、これまで0~80の範囲だったものが0~100に拡張されたような、いわばコンプレッサーの逆みたいな効果があります。打撃音の勢いが増して迫力に貢献しますが、アタック以降の音色はスッと消えるので、ホット過ぎる感じはありません。
シングルエンドとバランス接続の差が大きく、入出力ともにバランス接続することでステレオ空間の広さが増して、奥行き方向の距離感も把握しやすくなります。コンサートホールの広さやオケの分離が向上するので、今回試聴に選んだようなオーケストラ録音はバランス接続との相性が良いです。
ただしシングルエンドの方がフォーカスが増して左右両端のザワザワ感も落ち着くので、必ずしもバランス接続優先ではなく両方試してみるべきですし、それぞれインターコネクトケーブルも影響します。
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| DC04U |
Kunlunの音質傾向については、もちろん上流機器にも依存するのですが、私の感覚としては同じくiBassoのDC04Uとよく似ていると思います。他にはD17やDC-Eliteもその系統に近く、一方PB6、DC07PRO、Nunchakuはちょっと違うというイメージです。
具体的には、クリアでレスポンスが速いけれど、ちょっと落ち着きがなく集中力と注意を求めるタイプです。スムーズでまろやかなリラックス系や、ホットなオーバードライブ系ではありません。DC04Uが最近のiBassoサウンドを象徴するモデルであればKunlunが同じ方向性なのも納得できます。
そのためKunlunのラインソースにDC04Uを使うと効果が二倍になって、ちょっとソワソワと浮き足立つ感じになるので、もうちょっと落ち着いたDACと合わせた方が良いかもしれません。
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| IEMイヤホンを駆動 |
サウンドがDC04Uと似ているという点では、とくに高感度IEMイヤホンではDC04Uと比べてKunlunを通すメリットはそこまで感じられません。
Kunlunもノイズが十分低いのでイヤホン駆動に使えるという点は優秀です。ゲインスイッチを最小にすればボリューム調整範囲も十分にあるので、実用上の問題はありません。しかし上の写真のQDC V14のような広帯域なマルチドライバー系イヤホンはKunlunだと落ち着きが無く、短時間の試聴時は良くても、長く聴いていると疲れやすいです。
その一方で、平面駆動型のMadoo Typ821など鳴らしにくいイヤホン、もしくは以前紹介したMoondrop Harmon SPのような厚めのダイナミック型イヤホンなどではKunlunを通した方がパワフルかつスッキリした駆動が味わえるメリットがあります。
最近はポータブルDACやDACに個性豊かな製品が揃っていますが、ひとまずイヤホンを本当にしっかり駆動できているのか確認するためにもKunlunを通して鳴らしてみる価値はあります。
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ACTとしては意外なほどストレートアヘッドなジャズなので冊子を確認したら、ブルックリンの殿堂Bunker Studioでの録音だそうです。演目も北欧風の知的温厚なピアノトリオを主体にゲストが推進力を加えており、アルバムタイトルどおり二つの文化が対流して融合する、充実した一枚です。
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| Abyss Diana |
せっかくの高出力アンプなので、とりわけ鳴らしにくいことで有名なAbyss Dianaシリーズの新作ヘッドホンTC Signatureを使ってみました。
このDianaというシリーズは非常に高価ながら決して万能レファレンスというわけではなく、むしろ逆に、駆動する機器の性能に答えるようにどんどん音が良くなっていくポテンシャルを秘めたヘッドホンです。
ベーシックなシステムだと、シリーズの中でも値段が安いJOALやDiana MR(それでも高価ですが・・・)の方が良く鳴ってくれて、むしろ上位のDiana DZやTC Signatureは音が悪く思えるのですが、いざシステムが良くなると立場が逆転するという、まさにハイエンド志向のブランドです。
そんな気難しいDiana TC SignatureをKunlunで聴いてみたところ、ゲインスイッチをHighにする必要がありますが、さすが高効率なGaN MOSFETのおかげかシャーシが発熱する気配もなくDianaを難なく駆動してくれます。
ジャズのドラムの音圧、リズムのタイミング、背景の静けさといった部分はだいぶ優秀で、先程のADX7000と同様にKunlunのおかげでしっかりと駆動できている実感が湧きます。ただしジャズバンドの有機的な統一感や現場の雰囲気みたいなものは希薄で、なんとなく音の列を順番に追っているだけのような物足りなさも感じます。
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| Chord DAVE |
Dianaヘッドホンのポテンシャルをもっと引き出すために、まずはラインソース側を変えてみました。アンプはKunlunのままでDACをChord QutestやChord DAVEと交換してみると、確かに段階的な変化が実感できます。
私自身はQutest DACの音が好みで長年愛用しているのですが、Kunlunに接続してもQutestらしい流麗な艶っぽさが加わり、とくにピアノの単音やコードの魅力が向上するあたり、KunlunがボトルネックにならずQutestの得意な部分をストレートに伝えてくれています。ちなみにQutestはChord Hugo 2からバッテリーとヘッドホンアンプ回路を取り除いたモデルなわけですが、QutestとKunlunの組み合わせはHugo 2を連想させるような鳴り方なので、やはりKunlun自体が余計な脚色を加えていないのでしょう。私としてはChord Anniとの組み合わせよりもこちらの方が好みです。
Hugo 2と同じくちょっと軽妙すぎる印象もあり、続いてChord DAVEに変えることでそのあたりが改善されます。もう少し粒の細かい硬さが生まれ、ドラムやサックスなどアタック部分も引き締まることで分析力が一気に増します。DAVEはバランス駆動できるのも貢献していそうです。
こうやってDACをアップグレードしていくことで、ある側面においては音質向上が実感できるのですが、ここまでくるとKunlunの限界も見えてきます。ラインソースのサウンドを素直に届けるという点では優秀でも、据え置きアンプとしては物足りなさもあり、いくらDACを変えてもそこから抜け出せません。
たとえばChord DAVEにはヘッドホン出力端子も用意されているわけですが、そちらで聴くのと、DAVEからKunlunを通して聴くのでは印象があまり大きく変わりません。先ほどQutestとKunlunでHugo 2っぽいと思えたのと似ています。
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| Austrian Audio Full Score One |
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| Ferrum Audio OOR |
そんなわけで、Kunlunと他の据え置きヘッドホンアンプを聴き比べてみました。ソースはChord DAVEのままです。
今回は手近にあったAustrian Audio Full Score OneやFerrum Audio OORを使ってみたのですが、どちらを選んでもKunlunと比べて明確な違いが感じられ、Kunlunに不足している部分も見えてきました。
一番わかりやすいのは空気の厚みで、周囲を立体的に取り巻くざわめきのようなものがKunlunよりも強調されます。とくにKunlunでは薄味だった低音側の空気の立体感が増すため、土台が広く安定したピラミッド型の音響空間を生み出してくれてます。単純に低音の量が増すわけではなく、最低音の方まで空間表現に貢献してくれる感じです。Kunlunがちょっと浮足立った感じだったのがこれで解消されます。
この空気感が演奏者の音像と私の耳周りの周囲を橋渡ししてくれることで、より音楽空間への没入感や一体感が増すようです。先ほどKunlunはジャズバンドの現場の雰囲気が物足りないといった部分が改善されます。
さらに楽器の音色部分に注目すると、今度はFull Score OneとFerrum OORで明確な違いが出てきます。Full Score OneはKunlunほど勢いのある感じではないのですが、深い奥行きを持った豊かな雰囲気を描き出すのが得意なアンプなので、たとえば2曲目「Into Insanity」ではピアノとベースが腹の底に沈み込み、ヴィブラフォンの複雑な余韻が空気と混ざり合い、演奏そのものよりも情景を思い浮かべて楽しむような聴き方になります。
一方Ferrum OORはもうちょっと演奏の熱気を浴びせてくるタイプで、6曲目「Say」や7曲目「When We Break」で縦横無尽なヴィブラフォンを下敷きに、サックスの激しい音色の質感が味わい深く、気がつくと曲の最後まで楽器の表現だけで堪能できてしまいます。
ここでもう一度Kunlunに戻してみると、音量のダイナミクスの幅がだいぶ強調されることに気が付きます。周囲の微細な空気感に包みこまれていたのに対して、Kunlunでは無音から大きな音が次々と発せられる感覚です。映像でいうところのHDR用高輝度モニターみたいな感じでしょうか。明るさを強調することで瞳孔が狭まり、より黒が黒く見えるというコントラスト差を狙っているわけですが、Kunlunも同様に、アタック部分がだいぶ活発なことで、その後の楽器の音色や残響といった細かい部分に耳が反応しにくいのかもしれません。
Kunlunはアタックが刺さるほど尖っているというわけではないので、もうちょっと音量を上げて音色や残響を引き出そうと思うのですが、そこで聴こえてくるものが楽器の倍音成分や空間音響とは無関係のディテールが強調されがちで、音楽との親和性に貢献しません。その点はプロ用オーディオインターフェースの鳴り方と似ています。
そもそも据え置きアンプを導入するメリットは何なのかと考えてみると、まずポータブル機の場合はバッテリーの出力や持続時間との兼ね合いから妥協が求められ、ヘッドホンごとの相性に左右されやすいのですが、コンセント電源の据え置きアンプであればヘッドホンを十分に駆動するという課題は容易にクリアできるため、ヘッドホンとの相性をそこまで考えずに導入することができるのが強みです。私みたいに日頃から様々なヘッドホンを入れ替え試聴している人にとって、頼りになる据え置きアンプが手元にあるとだいぶ心強いです。
その上で、各メーカーごとに、電源やシャーシサイズに制限されることなく、スペック上には現れない部品選定や基板レイアウトなどの細かい音の整え方のセンスで、プラスアルファを引き出すことを目指しています。脚色が行き過ぎると、楽曲よりもアンプの音を聴いている感じになってしまいがちですが、Full Score OneやFerrum OORはそのあたりのバランス感覚が上手いです。
Kunlunの話に戻ると、今回実践したように、ポータブル機のブースターとしてKunlunを導入するところから始まり、そこから音質向上を目指して据え置きDACに乗り換えて、さらにKunlunから別のアンプに目移りして、というシーソーのようなアップグレードスパイラルの中において、自分なりにKunlunのおおよその位置づけが把握できました。
オーディオの泥沼というのはまさにこの事で、ラインソースとアンプの限界が交互に作用して、どちらか一方だけに注目するだけでも駄目ですし、かといって完璧な調和が取れることはなく、心理的にどちらかに傾いた状態から抜け出せません。その点ではオールインワンDACアンプ複合機で完結するのと比べて、Kunlunのようなセパレート式に手を出した時点でもはや後戻りができません。
おわりに
iBasso Kunlunは現在のヘッドホンアンプ市場の中でもひときわユニークな製品だと思います。
コンセント電源の据え置きアンプというと法外に高価な製品が多い中で、約十万円でここまでストレートにパワフルなアンプというのは極めて稀です。
鳴らしにくい平面駆動型ヘッドホンを使ってみたいけれど、どの程度のアンプが必要なのか迷っている人、DAPやポタアンでは本当にポテンシャルを引き出せているのか不安な人はKunlunを導入することで、少なくともパワー面での心配は無くなります。
とりわけ過剰な味付けギミックを詰め込んでいないため、上流ソース機器のサウンドを濁さないクリーンな増幅が得られますし、おかげで価格もだいぶ抑えることができています。
iBassoらしく作りに関しては高級感のある部分とそうでない部分が中途半端に混在しており、据え置きオーディオのベテランメーカーと比べると詰めが甘いところもありますが、これをスタート地点として今後発展していくポテンシャルは十分にあります。
私の願望としては、これからさらに機能を追加することで付加価値を高めるのではなく、純粋にボリュームノブだけの真剣勝負で良い音を探求してもらいたいです。ラインナップの全モデルがそうである必要はありませんが、機能性で横並び感のある中華系メーカーの中で、そろそろガジェットのイメージから抜け出して、価格を抑えながらピュアオーディオ路線を追求するシリーズが存在してもよい頃合いだと思います。
DACアンプ複合機と比べて、セパレートの据え置き機では他社機器との相互接続が前提となるので、入出力の切り替えリレーやミュートとソフトスタートなど、システムに組み込む際の安心感についても考慮してもらいたいです。これはiBassoだけの話ではなく、ポータブルオーディオ発祥メーカーの多くがハイエンドシステムで認められにくい大きな理由の一つに、ノイズや不具合などへの不安感があると思います。
ところで、Kunlunのクリーンな特性はプロオーディオにも極めて有用です。最近は動画編集やストリーミング配信のために高価なヘッドホンを導入する人も増えており、もはやオーディオマニアだけの嗜好品に留まりません。それに沿ってレコーディング用のUSBオーディオインターフェースもヘッドホン出力のパワフルさを主張するメーカーが増えていますが、まだ当たり外れが激しく、出力インピーダンスが50Ωだったり、シングルエンドのみでステレオクロストークも悪かったりといったインターフェースが多いです。そこでインターフェースのモニター出力からKunlunを通せばAudeze MM500などの難しいモニターヘッドホンも悠々駆動できますし、オーディオインターフェース購入時にヘッドホン出力の良し悪しを考慮せずに済みます。DAWでASIOのUSBインターフェースを動かしている人にとって、もうひとつUSB DACアンプを接続するよりも、アナログ接続のKunlunの方が都合が良いです。
楽器店で売っているプロ用ヘッドホンアンプというとSPLやLake Peopleなど欧州系が強く、中華メーカーはまだまだ未開拓のジャンルです。もちろんプロ方面に売り込むなら定量的なゲイン設計であったり耐圧や逆電流など保護回路にもさらなる配慮が求められますが、音質性能面ではKunlunはすでに実用的でコスパも良いです。
そんなわけで、シンプルでクリーンなヘッドホンアンプということで、KunlunはこれまでのiBassoの製品ジャンルに収まらない活用方法の可能性がありますし、シンプルだからこそ、多機能な複合機のような不要な機能にコストを割いている不安もなく導入しやすい製品です。
オーディオファイル的にはもっと凄い据え置きヘッドホンアンプも思い浮かびますが、実際それらに数十万円払う価値があるのか、ひとまずKunlunをレファレンスに置くことで、値段や出力スペックに惑わされず、音質の好みという主観的な評価基準だけの世界に足を踏み入れることができます。
アマゾンアフィリンク
| 【VGP2026受賞】iBasso Audio Kunlun クンルン GaN デスクトップ ヘッドホンアンプ |
| 【VGP2025金賞】iBasso Audio DC07PRO Quad DAC搭載ポータブルDAC/AMP |
| iBasso Audio DC04U (Ultra) ポータブルDAC/AMP |
| iBasso Audio Nunchaku 真空管搭載ポータブルDAC/AMP |
| iBasso Audio CB19 /CB19CセパレートパワーOTGケーブル USB Type-C to Type-C |
| iBasso Jr. MacchiatoマキアートCompact Hi-Fi DAC/AMP |






















