FinalのワイヤレスイヤホンTonaliteを買ったので、感想を書いておきます。
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| final Tonalite |
2025年12月発売、約4万円のアクティブNCワイヤレスイヤホンで、自分の顔や耳の形状を撮影解析したデータで音質をパーソナライズするDTASという新機能を搭載しています。
Tonalite
ポータブルオーディオファンにとってFinalというと、ヘッドホンD8000やイヤホンA10000など数十万円もするような有線モデルが印象にありますが、ワイヤレスでは最上位モデルでも今のところ他社の売れ筋モデルと同じ5万円以下に収まっているため、私もこれまでにUX5000やZE8000などのワイヤレスモデルを購入してきました。
業界最高峰クラスの有線モデルを開発製造することで培ってきたノウハウがワイヤレスモデルにも反映されることを期待しているのと、自社の独自技術を大事にしているメーカーという印象から、ワイヤレスでも他社とは一線を画すユニークな試みに魅力を感じています。
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| final Tonalite |
今回紹介するTonaliteはまさにそんなFinalらしいユニークなコンセプトです。基本的には2022年の前作ZE8000を超える新型フラッグシップとして登場したモデルなのですが、Tonalite専用アプリの指示に従って自分の顔や耳周りの形状をスマホのフロントカメラで撮影することでイヤホンの鳴り方がパーソナライズされる「DTAS (Dynamic Tone Adjustment Simulation)」という機能を搭載しています。
もちろんDTASを使わずに普通にワイヤレスイヤホンとしてそのまま使う事も可能ですが、DTAS適応後は鳴り方がユーザーごとにだいぶ変化すると思うので、音質評価レビューが難しい製品でもあります。
私のためにパーソナライズされたサウンドの感想を書いても参考にならないという一方で、そもそも顔や耳形状の個人差による音質変化を低減する効果を狙っているのであれば、DTAS適応後の音質評価の方が多くの人の参考になるとも言えます。
基本的なスペックは最新のワイヤレスイヤホンにふさわしい仕様を満たしており、Bluetooth 6.0、IPX4防水、SBC、AAC、LDACコーデック、マルチポイントペアリング、本体9時間、ケース込みで27時間再生といった感じです。とくに9時間再生はかなり長い方だと思います。一昔前のワイヤレスイヤホンは再生時間が2-3時間とかで、これでは使い物にならないと文句を言っていたのが嘘みたいですね。技術の進歩は凄いです。
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| パッケージ |
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| DTAS測定用ヘッドバンド |
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| イヤピース |
パッケージはシンプルな紙箱で、アクセサリー類をコンパクトに収納しています。イヤピース類とDTAS測定用のヘッドバンドなどがあります。
ちなみにイヤピースはfinal FUSION-Gというタイプが付属しています。フォームとシリコンのハイブリッド構造で、別売だとけっこう高価なイヤピースなので、付属しているのはお買い得感があります。
私も以前からFUSION-Gは気になっていたのですが、SSからLLまでサイズが5種類あり、単品で買うとマルチサイズパックみたいなものが無くて一つのサイズ(2ペアで3,500円)しか選べないため、結局どのサイズか合うのか迷って買いそびれていました。Tonaliteには最小SS以外の4サイズが1ペアづつ付属しているのでありがたいです。ちなみに私の耳だとfinal Type Eシリコンと同じくMサイズがベストのようです。
アマゾンのfinal公式ストアでは、FUSION-Gではなくfinal TWS用TYPE Eイヤピース付属で若干安くなるバージョンも選べます。TYPE Eもfinalの定番シリコンタイプなので優秀ですが、せっかくなのでFUSION-Gをおすすめしたいです。
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| 本体デザイン |
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| そこそこ奥まで入ります |
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| ユニークな形状 |
Tonalite本体のデザインはティアドロップ型で結構ユニークな形状だと思いますが、比較的コンパクトですしフィット感も悪くありません。
黒いシボ塗装みたいなザラザラした質感はfinalの定番になっているので、もう見慣れてなんとも思わなかったのですが、あらためて考えてみると、美しさと実用性を両立して、他社との差別化に貢献している素晴らしい仕上げです。滑り止めになりますし、汚れや指紋の油も目立たず、しかも個人的にだいぶ使い倒したA5000イヤホンを見ても摩耗で消える気配もなく、むしろ盛り上がっている部分が磨かれてコントラストが増してカッコよくなっています。
側面の丸いゴムは操作用のボタンかと思ったら、実は何の機能も無い、ただの突起です。操作用のタッチセンサーはその下あたりの表面です。
このゴム突起はシンプルでありながら、かなり上手く考えられています。ケースから取り出すときの引っ掛かりになりますし、装着時にもここに指を乗せることで感覚的にフィットしやすく、タッチセンサーの誤動作も回避できます。デザイン上でもちょっとしたアクセントになっていて好印象です。これが無いと遠目では黒い虫みたいでちょっと嫌だったのですが、この突起のおかげでメカっぽい人工物感が出せています。
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| テクニクスEAH-AZ100と比較 |
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| Uzura、ZE8000も比較 |
私が普段使っているテクニクスAZ100と、final AG Uzura、final ZE8000と並べて比べてみると、Tonaliteはコンパクトにまとまっていると思いますし、前作ZE8000の長い棒みたいなデザインと比べるとだいぶ普通寄りになっています。
フィットに関しては、さすがIEMイヤホンの老舗メーカーだけあって良い感じなのですが、実際に使ってみた上で一つだけ注意点を挙げたいです。
楕円形のデザインなので、つい本体下部の尖っている部分(充電接点がある部分)を下にした縦向きに装着してしまいがちですが、実際は装着後に下側を前に向けるようにひねって、本体上部の丸い部分が耳穴の上のくぼみにピッタリと収まることを心がけると良いです。そのためにゴム突起がとても役に立ちます。
私も購入当初は縦向きで装着していたせいで変な音で、しかも歩行時に耳の下にガサガサ擦れる異音がして、これでは使い物にならないなと落胆していたのですが、DTAS測定時のアプリに出てくるモデルの女性が装着している向きを参考にしてみたところ、だいぶ良くなりました。
正しいフィット感という点では、イヤピースも極めて重要です。付属しているFUSION-Gは比較的浅めで、同じようなスポンジフォームのAzla Foamaxの方が古典的なComply風の長さに近いです。
FUSION-Gはさすが高価なだけあって、浅めで圧迫感も少なく、軽く入れているだけなのにピッタリと収まってブレないという不思議な感覚なのですが(Complyと違ってベタつかないので耳垢が付着しないのも良いです)、IEMイヤホンは耳穴の奥までしっかりと入れたい人は、他のイヤピースも色々試してみると良いです。
どちらにせよ、イヤピースはサイズが肝心です。大きすぎると本体が耳から浮いて、自重で垂れ下がるような感じになるので、音もまっすぐ鼓膜まで届きませんし、本体下部の尖った部分が擦れてしまいます。逆にイヤピースが小さすぎると耳穴内でしっかり密閉してくれにため、低音が逃げてスカスカな音になってしまいます。
耳穴内で確実に密閉していながら、本体上部が耳穴周辺のくぼみにピッタリと収まっているのが理想的です。
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| 黒いリング |
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| リングの位置が合っていない状態 |
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| これだとケースが閉まりません |
イヤピースの他に、大小二つの黒いゴムリングが付属しています。耳穴周辺に引っかかってフィットを安定させる羽根のようなパーツなので、これも自分に合ったものを選びます。
注意点として、このリングをよく見ると矢印が刻印されており、これが本体の矢印とピッタリ合う向きでないと、上の写真のように隙間が空いた状態になります。これではフィットも正しくないのと同時に、羽根が邪魔になってケースが閉まらなくなります。頻繁に触る部品ではありませんが、交換する際には要注意です。
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| 充電ケース |
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| ペアリングボタン |
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| 充電LED |
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| 本体のゴム突起が良いです |
充電ケースは若干大きめですが、持ち歩くのが面倒なほどでもありません。本体が縦に入るので、先程言ったように取り出す際には本体側面のゴムの突起が滑り止めになってくれて役に立ちます。テクニクスはこれが無いのでツルツル滑って何度も落としています。
充電はUSB-C、Qiワイヤレス充電にも対応しているそうです。側面にバッテリー残量のLED、蓋を開けると中央にボタンがあり、3秒長押しするとペアリングモードに、10秒長押しするとLEDが青く光りファクトリーリセットになります。
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| 他のケースと比較 |
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| 有線用TYPE Eは厳しいです |
他のケースと比較してみると、テクニクスAZ1000よりも若干背が高いくらいで、ZE8000の大きな石鹸みたいなケースと比べるとだいぶコンパクトな感じです。
ちなみに有線イヤホン用のfinal TYPE Eイヤピースを装着してみたところ、左右がぶつかるものの、ケースにはギリギリ収まりました。これ以上長いと厳しいです。TYPE E付属のTonaliteを買うと、ワイヤレス用の短いタイプ(TYPE P?)が同梱しているようです。
アクティブNC
TonaliteのアクティブNC効果はそこそこ良いと思うのですが、実際に使ってみると注意点がいくつかあります。
ソニーの最先端ANCチップCXD3784を搭載していると公式サイトで自慢しているだけあって、消音効果に変な不具合や違和感もなく、だいぶ快適です。
前作ZE8000は本体が四角い棒状だったせいもあり、屋外だと風切り音がかなり目立ち、それをカットする専用モードだと音質に影響を与えるため、いちいち設定を切り替えるのが面倒でしたが、Tonaliteは風切り音はだいぶ少ないです。本体がツルッとした形状なのも貢献しているのかもしれません。
| NC設定 |
出荷状態では外部音取り込みのアンビエントモードになっており、本体タッチセンサー長押しでNC ONに切り替わります。ただし、NC ONは「音質優先」と「ANC優先」の二種類があり、アプリからしか変更できません。
エアコンなどの高音のサーッという騒音はどちらのモードでも良い感じにカットしてくれるのですが、自動車の低音の唸りはANC優先モードの方がだいぶカットしてくれるため、屋外で使うのならANC優先モードのメリットは大きいです。
ちなみに、DTASでパーソナライズモードがONになっていると、NCは「音質優先」のみに制限されます。
音質向上のためにDTASを行うのだから、音質優先のみで当然と思うかもしれませんが、実際に使ってみると、音質優先とANC優先でだいぶ消音効果が変わるため、通勤の電車内などで、音質を犠牲にしてでもANC優先モードで使いたい場面が結構あり、そのたびにDTASをOFFにしてNCをANC優先にと切り替えるのが面倒です。
慣れれば難しい作業ではないのですが、毎回使うたびに「今はどのモードだっけ」とアプリを立ち上げて確認する一手間があるので、そこまでこだわる人でないと、なかなか使いこなすのが難しいです。
NCモードごとの音質効果については後述します。
スマホアプリ
従来のfinalアプリとは別のTonalite専用アプリが必要です。私はAndroidスマホを使いました。DTAS以外にもアプリ必須の設定項目がいくつかあるので目を通しておくべきです。
アプリ自体は単純明快でスッキリしたデザインです。本体ファームウェアはこれを書いている時点で最新の2.4.0にアップデートしました。
タッチコントロール操作が三種類から選べるのは個人的に嬉しかったです。TYPE Cが私が普段使っているテクニクスとほぼ同じなので、迷わずスムーズに移行できました。
一つだけ不思議なのは、マルチポイントペアリングのON/OFFはアプリのメインページから設定できるのですが、ゲイン設定、LDAC、低遅延モードのON/OFFはメインページ右上のサイドメニューから「各種設定」を開く必要があります。Tonalite本体の設定なのに、なぜここに隠されているのか謎です。
公式スペックではLDAC対応なのに、スマホにペアリングしてみるとAACになってしまい、私のAndroidスマホの設定がおかしいのかとだいぶ迷ったのですが、いざTonaliteアプリを開いてみると、初期設定ではLDAC OFFになっていることが判明しました。
ちなみにLDAC接続はスマホ側のアンテナ出力が弱いと音飛びしやすいので、そういうのを知らないユーザーが文句を言わないように、とりあえず安定重視のSBC/AAC接続に制限しておいて、本当に必要な人だけLDACを任意でONにするというのは、メーカーの判断としては理解できます。
DTAS
肝心のDTASはTonaliteアプリから実行できます。付属のQRコードマーカー付きヘッドバンドを装着して、アプリの指示通りにフロントカメラで耳周りなどを撮影すると、そのデータがfinalのサーバーで解析され、数分後に最適なプロファイルがイヤホンに送られてくるという流れです。
このパーソナライズ・プロファイルはイヤホン本体にアップロードされるので、別のデバイスにペアリングした状態でも効果は維持されます。プロファイルのON/OFFや削除などは再度スマホアプリから行います。
個人的にfinalに称賛を送りたい点として、TonaliteアプリやDTAS測定を行う際に、アカウント登録やログインなどの手順が一切不要なのが嬉しいです。
最近はちょっとしたアプリでもすぐアカウント登録を求められて、そのイライラがメーカーのイメージダウンに大きく貢献していると思います。久しぶりに使おうと思ったら再ログインを要求されたり、店頭試聴の際に一時的にアプリインストールしたらアカウント作成必須だと、もう使いたくなくなります(先日BOSEの新ヘッドホンアプリもそれが面倒で試聴しませんでした)。
| DTAS |
ところで、ワイヤレスイヤホンはイヤホン本体の中にバッテリーやDACアンプが搭載されているので、メーカーはそれらをセットで開発することが可能になり、しかもアクティブNCでどのみちDSP演算処理を通すのだから、DSPを積極的に活用するに越したことはありません。これはイヤホンとヘッドホンアンプを別々に購入する有線イヤホンでは実現できない、ワイヤレスならではのメリットと言えます。
ただし、イヤホンは耳穴の中で音が鳴るので、我々の普段の生活で外部から聴こえてくる音楽とは違った聴こえ方になってしまうという根本的な課題があります。
大型ヘッドホンであれば、ハウジングを大きくして、ドライバーを耳から遠く離して、傾斜や反射板などを駆使して前方遠くからの音を錯覚させることが可能ですし、最近のワイヤレスヘッドホンだと、装着時のジングル音を内蔵マイクで拾って耳周りの音響解析をして補正するなどのテクニックも使われるようになりましたが、イヤホンではそれができません。ヘッドホンであっても、顔の大きさや耳の位置による個人差までは対応できないので、結局どうしてもスピーカーで聴くのが最善という結論に至ってしまいます。
イヤホンの場合、ダミーヘッドや被験者の耳穴に小型マイクを入れるなどで測定した平均的な頭部伝達関数を活用するという手法がありますが、その平均が自分自身にピッタリ当てはまるわけではありません。私みたいなオーディオマニアのアジア系中年男性という括りならそれなりに近似するかもしれませんが、小柄な女性とかでは大幅な差が生まれてしまうと思います。
もっと深堀りするなら、イヤホンメーカーの開発者が最高のサウンドチューニングを仕上げたとしても、結局それは当人にとっての自己満足でしかありません。小規模ガレージメーカーのイヤホンは個性的なサウンドだと感じたり、国やメーカーごとにサウンドシグネチャーがあると感じる理由にも繋がります。
DTASでは頭部上半身における左右の耳の位置関係や、耳全体のサイズ形状などの情報を画像解析することで、ユーザー自身の伝達関数を割り出すという画期的な試みです。
DTASのメリットを私なりに解釈するなら、DTASを使うことで「正しい」サウンドになるというよりも、イヤホンの根本的な課題である「同じ音を外の世界で鳴らした時と耳穴の中で鳴らした時のユーザーごとの感覚的な差」を解消するという意図が近いと思います。
finalは前作ZE8000にて「自分ダミーヘッドサービス」という似たような試みを行っていました。ただしそちらは神奈川県川崎にあるfinal本社に行って測定してもらうという大掛かりなサービスでした。私も興味は持っていたものの、さすがに思い切りがつきませんでした。
ZE8000のサービスなどで蓄積した統計データとノウハウをもとに、ユーザー自身のスマホカメラだけで同じ効果が得られるところまで開発を進めたのであれば凄いことだと思いますし、オーディオマニア的なハッタリやオカルトとは根本的に異なる、意義のある試みだと思います。
| トラブル発生 |
そんなわけで、DTASを試してみたわけですが、ここで思わぬトラブルに遭遇しました。
アプリの手順解説はかなり入念でわかりやすく、顔の撮影も良い感じに撮れたと思ったのですが、耳の撮影が終わり、finalのサーバーとデータの送受信を行っている段階で、「データ取得エラー」と表示され、中断してしまいます。
自分の撮影が悪いのか、finalのサーバーが落ちているのか、このエラーが何を意味しているのか不明なので、本体ファクトリーリセットしたり、AndroidではなくiPhoneで試したり、友人に試してもらったりと試行錯誤してみたのですが、毎回同じエラーが出ます。
DTAS以外の部分は完璧に問題なく使えているので、なにか対処可能な原因があるはずだと、ずいぶん悩んで迷走しました。
結局お手上げで、final公式サポートセンターに問い合わせてみたところ、本体の初期不良という結論に至り、すぐに返品交換作業を行ってくれました。ちなみに当ブログで書くとかは一切無しに、普通の購入者としてサイトから問い合わせたのですが、サポートの対応がかなり的確かつ迅速で感心しました。
そんなわけで届いた交換品を試してみたところ、いとも簡単にDTAS手順が完了しました。今までの苦労がなんだったのか、最初からそうするべきでした。
| DTAS完了 |
| パーソナライズとゲストプロファイル |
もうひとつはGuest Profileで、これは私自身のプロファイルを削除しなくても、別枠で他の人のプロファイルをひとつ作成できるという機能です。
ちなみにTonalite発売当時はDTASの作業に45分かかったのですが、直近のアップデートで約10~15分で完了するようになりました。実際の写真撮影は数分もかからず、サーバーとの通信に5-10分かかるような感じです。これくらい短いと友人にも気軽に勧めることができるので嬉しいです。
ちなみに以前の45分バージョンもアプリから任意で行うことができます。そちらだとイヤホンを装着して音波を測定するなどの手順が加わっており、より本格的っぽいのですが、結果としては現行の10分バージョンで問題ないと思いました。多分final側も統計データの蓄積のおかげで少ない情報でより正確なプロファイルが作成できるようになったのでしょう。
音質
まずはDTASパーソナライズはOFFで、素の状態でのサウンドを試してみます。
アクティブNCは「音質優先」か「ANC優先」モードで音楽の聴こえ方が大きく変わるので、静かな環境なら「音質優先」モードを選ぶことをおすすめします。
具体的には、ボーカルに注目するとわかりやすいと思います。「ANC優先」モードだと歌声の低い部分が絞られるような感じで、腹から声が出ていないというか、歌手が風邪をひいているようなもどかしさがあります。その一方で、高音と低音の派手さが増してワイドレンジっぽくなるので、屋外の騒音下で使うなら「ANC優先」の方がリズムにメリハリがあって聴き応えがあります。これは以前final UX5000ワイヤレスヘッドホンでも似たような感想でした。
Bluetoothコーデックに関しては、私はやはりLDACの鳴り方が好きです。LDACは音飛びしやすいですし、iPhoneだとそもそも使えませんが、Androidの人はAACとLDACを聴き比べる価値はあります。
Tonaliteの初期設定はAACなのですが、AACっぽい鳴り方というのか、どうもシュワシュワして落ち着きの無いイマイチなサウンドだと思っていたところ、アプリでLDACをONにすることで、だいぶ音色や響きの安定感が増して、筋が通ったような感じになりました。LDACは通信状況によってビットレートが変化するので、駅やショッピングモールなど劣悪な電波環境だとむしろ不利かもしれません。LDACやaptX Adaptiveなどを使っている最近のBluetoothイヤホンは肝心の音質が通信環境に左右されてしまうため、純粋な試聴評価が難しくなっています。一部のDAPなど、最高ビットレートに固定できるタイプだと確実です(音飛びしやすくなりますが)。
そんなわけで、ここからの試聴は「音質優先」「LDAC」で、イヤピースはFUSION-GのMサイズを使いました。
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ほぼ同時期に発売したHarmonia MundiのPichon盤ばかり絶賛されて、こちらは影が薄いのですが、良い感じのアルバムだと思います。マタイと比べて短いので、この機会に聴き比べるのも面白いです。Pichonの精鋭Pygmalionとは対照的に、こちらはダラスの教会を中心に年間十演目くらいで活動しているグループで、監督とソリストも含めて息の合った地元の安心感みたいな雰囲気が楽しめます。
Tonaliteのサウンドはクリアでスピード感があり、空間展開が広く、音像が前方遠くから向かってくるような鳴り方で、大規模なコンサート演奏にピッタリです。真っ先に「finalらしいサウンド」だと実感しましたし、ワイヤレスイヤホンでは珍しいタイプだと思います。
周波数帯に関わらず音像配置が正しく、オーケストラ、合唱、ソリスト歌手の全体が前方の一歩離れた広い空間からこちらに発せられている感覚が得られるおかげで、コンサート客席にいる雰囲気が味わえます。ワイヤレスに限らず多くのイヤホンの場合、低音だけが耳の下、ボーカルだけが頭内といった具合にアンサンブルがバラバラに崩れてしまう鳴り方が多いのですが、Tonaliteではそういった違和感がありません。
私が普段使っているテクニクスEAH-AZ100も空間のまとまり具合は優秀なのですが、そちらは自分の目の前に球体のような空想の空間が形成され、そちらに集中することで、現実から隔離された音楽のバーチャルな世界に没頭するトリップ感みたいなものが得られるのですが、Tonaliteはちょっとそれとは違います。Tonaliteの方が上下左右の展開が広く、しかも球体ではなく地平線的な広がりなので、音楽が現実空間とブレンドされて、同じ空間で鳴っている感覚が得られます。
自分の好みでいうと、AZ100の方が電車通勤の騒音下とかで音楽の世界に集中したい場面に最適で、一方Tonaliteはのどかな自然の中を散歩している時に調和した音楽を楽しみたいような感覚です。
FUSION-Gイヤピースのおかげかもしれませんが、アクティブNCはそこそこ効いているのに、密閉される閉鎖感が少ないため、NCは耳が詰まる感じが苦手で敬遠している人はTonaliteとFUSION-Gを試してみる価値があります。
教会での大編成オラトリオ録音というのは、打ち込みと違って明確な「現実に基づいた鳴り方の正解」があるので、それを違和感無く描ききれているTonaliteは素直に凄いと思います。感覚としてはHD600みたいなレファレンス開放型ヘッドホンの鳴り方が好きな人に向いていると思いますし、finalの開放型ヘッドホン、たとえばD8000と同じ方向性だという実感も湧いてきます。
とくに低音の表現は密閉型ヘッドホンのような鼓膜をズンズンと圧迫するのではなく、距離を置いて前方から向かってくる、コンサートステージを形成する土台になっているあたりが開放型ヘッドホンの印象を与えてくれるようです。
周波数バランスもそれこそD8000のような真面目な平面型ヘッドホンに近く、アタックがとてもシャープで正確だけれど、必要以上の金属的な尖りや響きの質感を加えていないため、とりわけオケ弦楽器セクションの描き方が得意です。
ヴァイオリンに注目すると、楽譜の一音ごとのアタックが明確なのと合わせて、楽器周辺の空気感みたいなもの同時に聴き取れるため、それらが橋渡しとなって、アンサンブル全体の情景に統一感が出せており、しかもそれらが頭内ではなく耳から離れた場所から聴こえるため、現実の空気感ともブレンドして、自然な開放感が得られるのだと思います。
finalの前作ZE8000もTonaliteと同じように繊細で広大な空間表現が楽しめるイヤホンでした。ただしZE8000は明らかにその特徴に特化しすぎていて、だいぶニッチな製品だったと思います。NC効果やイヤピースのホールド感なども限定的で、音のメリハリも弱かったため、ANCワイヤレスイヤホンなのに屋内の静かな環境で使わないとポテンシャルを引き出せないという、万人受けしにくいコンセプトだったと思います。その点Tonaliteはfinalらしいサウンドを継承しつつも、より世間一般のワイヤレスイヤホンに求められている使用環境に寄せており、日々の通勤通学に使ってもポテンシャルが実感できる仕上がりです。
| DTAS ON |
続いてDTAS測定後にパーソナライズ・プロファイルをONにした状態で聴いてみました。
DTASパーソナライズの効果はかなり劇的で、ONとOFFの違いは一目瞭然です。集中して聴かないとわからないような些細な違いではなく、Tonaliteが全く別物のイヤホンに入れ替わったくらいの差を感じます。
まず大前提として、私個人のプロファイルの感想なので、他の人も同じ効果が得られるかは知る由もありません。ひとつ確実に言えることは、DTASゲストモードで私の友人にも測定してもらったのですが、そちらのプロファイルで聴いてみると凄く変なキンキンしたサウンドになってしまい、逆に友人が私のプロファイルで聴いてもかなり変だということでした。つまり個人の測定結果によって鳴り方が変わるのは事実のようです。
ひとつ懸念点を挙げるとするなら、自分のプロファイルを消してDTAS測定をやり直してみるたびに、とくに中高音の派手さが毎回微妙に違うようにも思います。とくに45分の旧モードの方が本格的っぽいと思って実行してみたら、あまりパッとしない結果になりました。10分の新モードで再度測定したプロファイルで今のところ満足しているので、それを使っていますが、削除してもう一度やり直したら同じ結果が得られるのかという不安は残ります。
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Candidレーベルからイリアーヌ・イリアスの新譜「Ao Vivo」を聴いてみました。歌手とピアニストの二刀流で凄まじいキャリアと腕前を誇るブラジルの国宝級アーティストですが、今作は2024年サンフランシスコでのライブで、音質も最高です。ライブの一部が公式Youtubeに上がっており、バンド演奏というものの本質が体験できます。
メジャーなボサノヴァ歌曲集からECMでの硬派なジャズピアノまで多義に渡る活動の中で、今作はバックにギターが入ることでピアノ伴奏から解放され、より自由な歌とピアノソロが繰り広げられます。夫で世界的ベーシストのマーク・ジョンソンとのパートナーシップで、あいかわらず息のあった掛け合いも見どころです。
DTASパーソナライズの効果を端的に言うと、finalにとっては不本意な表現かもしれませんが、「優秀なステレオクロスフィード」のように感じます。単純にステレオの左右をブレンドしたわけではなく、もっと意図的に左右両端の耳元の雑味が消えて、メイン音像がグッとフォーカスされて浮き上がってくる感じです。
とりわけイリアスのような女性歌手への影響がわかりやすいです。存在感が増すだけでなく、艷やかさや鮮やかさといった生の歌声そのものの魅力が劇的に向上します。特定の帯域だけでなく、歌手の息や体の動き、そして周囲の空気も含めた広帯域な情報を余すことなくDSP演算に活用できているおかげだと思います。
肝心のジョンソンのベースも、存在感が増すといっても低音の量がブーストされるのではなく、歌声とは別の音像としてアップライトベースと奏者の全体像が生まれ、反対側のギターも小音量ながら確実にスポットライトが当たり、ピアノの艷やかな一音を引き立てながら、厚いコードも邪魔にならず、それぞれの役割と立ち位置が明確になり、まさにイメージングが向上します。
DTASは私の頭や耳の形状をもとにパーソナライズしているそうなので、たぶんライブ音源に含まれている響きの拡散や空気感が、普段イヤホンで聴いている以上に、自然でリアルな情景や雰囲気を錯覚させているのでしょう。その結果、よくオーディオで言われるような「自分の目の前で歌っているような」溌剌とした鮮やかさが実現できており、優れたスピーカーシステムでの体験にもだいぶ近づいています。
このDTASパーソナライズの効果はクラシックの歌曲やヴァイオリンソナタなどピアノ伴奏の楽曲でも同様に有効です。単なるイコライザーと違い、二人の演奏者の一方に偏って強調されることなく、どちらも色濃く鮮やかになるおかげで、演奏の流れの解釈が深まります。さらにTonaliteの強みである空間の自然さも損なわないため、閉鎖的な違和感が少ないのもDTAS OFFの時と変わりません。
優れた音楽というのは、バンドやアンサンブルのリアルタイムな対話によって発生する自発的、即興的な変化、たとえば目配せした後の微妙なテンポの溜めや、良い感じだからもっとのびのびとやってくれと促す表情などが素晴らしい演奏に繋がります。たとえば上のYoutube動画は良い例で、演奏風景を見ることでメンバーの役割や対話を感じる助けになります。DTASパーソナライズの効果も、単純に周波数的にどう変化するというよりも、こういった対話をリアルに浮き上がらせることで、演奏の解釈を深める助けになってくれるようです。
DTASパーソナライズで色々な楽曲ジャンルを聴いてみると、必ずしも完璧ではなく、向き不向きみたいなものも見えてきます。どちらかというとボーカル中心のバンドや、ジャズやクラシックだとデュオやトリオくらいの少編成アンサンブルくらいで一番優れた効果が体験できて、それ以上規模が大きい演奏になると上手くいかない場面もあります。
たとえば冒頭で紹介したバッハのオラトリオのような教会での壮大な演目だと、DTASでソリストの歌声は鮮明になる一方で、オケや合唱の低音側の響きの前方以外の拡散がスッキリと解消されてしまい、教会の音響やスケール感が損なわれます。コンサートホールでの交響曲などでも同様に、弦楽セクションの鮮やかさが強調される反面、ホール空間の広がりが消極的で物足りません。例えるなら、コンサートホールが改装中だから臨時で公民館で演奏しているような音響の弱さです。
この場合はDTASパーソナライズをオフにして聴いた方が、ホール全体のステレオ空間が左右に広く行き渡り、オケ自体はぼやけるものの音響と上手くブレンドして、ホール観客席で聴くサウンドに近くなり、私はこちらの方が好ましいと感じます。
これはDTASパーソナライズの不具合というよりも、結局どのような音響空間を目指してDSP演算処理を行っているのかの結果だと思います。
スピーカーオーディオでも、家庭のオーディオルームから放送局スタジオまで色々な正解がありますし、オーディオショップや友人宅のリスニングルームを訪問すると、それぞれ音楽の趣味や理想に合わせてセッティングが全然違うというのを経験していますし、どれだけハイエンドなシステムでも、全てのジャンルを満たす普遍的な正解が無いことは理解できます。
そんな中でもTonaliteのDTASが目指しているのは、どちらかというと響きの管理が行き届いたコンパクトなリスニングルームで、ボーカル中心の小規模な演奏に特化した環境を再現しているように感じます。
Tonaliteのアプリでいくつか異なるリスニングルーム環境を選べるオプションがあっても良いのかもしれませんが、そっちの路線に傾倒しすぎるとAVアンプとかにあるDSPエフェクトのようなギミックに成り下がってしまうので、線引きが難しいところです。
| 詳細設定後はRef- / Ref+ が謎の数値に変わります |
私自身、オーディオは自己流にアレンジするよりも、メーカーが作り込んだ回答を味わいたいという性格なので、DTASのようにあれこれカスタマイズするのはそもそも心理的に向いていないのかもしれません。
この三段階切り替えの効果も、女性ボーカルに注目すると違いがわかりやすいです。私以外の聴こえ方に当てはまるかわかりませんが、私の感覚としては周波数バランスと空間の上下が連動しているような感覚です。
たとえばRef+側を選ぶと、歌手の息や滑舌など高音成分が目立つようになり、それに合わせて自分の目線よりも上の空間が忙しくなる感覚で、逆にRef-側を選ぶと歌声に厚みが出るものの、目線より下の空間が充実して、上半分が寂しくなります。
この上下の感覚は私だけのものなのか、音響心理学に詳しい人に尋ねてみたいですが、ようするに周波数バランスとしての好みよりも音像の重心が自分の目線に対して上下に移動してしまう違和感の方が気になってしまい、何度試しても標準のReferenceに戻してしまいます。
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| finalといえばA5000も長らく愛用しています |
そんなわけで、DTASパーソナライズONとOFFで使い分けて、Tonaliteを一ヶ月ほど毎日の通勤などに使ってみたところ、二点ほど気になる弱点も見つかりました。
サウンドの傾向がfinalの有線モデルとよく似ているというのは最初から感じていたのですが、それらとの具体的な違いはどのへんにあるのかと考えてみたところ、なんとなくTonalite特有の弱点みたいなものが見えてきたわけです。
まず一つめは、Tonaliteのアタック部分が目立つ特徴が関連しており、街中や道路沿いの騒音下で音量を上げすぎると、表現がだいぶ荒っぽくなってしまい、Tonalite本来の良さが台無しになってしまいます。A5000など有線イヤホンの方がもう少し大音量への耐性があります。
TonaliteはZE8000ほどではないにしろ、まるで開放型ヘッドホンのごとく、静かな環境で適正音量で聴くことで本領発揮するのでは、そもそもNCワイヤレスイヤホンの用途と矛盾していると感じる人もいるかもしれません。その点ではBOSEなどの方がコンプレッサーのようにアタックのダイナミックレンジを意図的に抑えて、騒音を上回る大音量に適したサウンドに調整されています。そういうモデルを静かな環境で聴くとダイナミクスの幅に乏しく面白くないので、Tonaliteとは両極端です。
二つめの弱点は、Tonaliteは一音ごとのアタック部分と、その周囲に生まれる空気感を描くのが上手なのですが、そこから音色が伸びていく部分に注目してみると、なんだかツルッとしすぎていて、リアルさが不足しているように思います。これはとくにグランドピアノなど聴き馴染みのある楽器に注目してみるとわかりやすいのですが、打鍵以降の時間経過で弦と響板が響いていく部分が、嘘っぽいくらいスムーズで、リアルな表面質感に乏しく、デジタルで生成されたピアノ音みたいです。
こちらもfinalのA5000やA6000有線イヤホンと比較してみると一目瞭然で、もちろん駆動するDAPにもよりますが、それらではピアノの音が伸びていく過程での歪みやビビりのような雑味、複雑なうねりみたいなものが感じられ、Tonaliteで聴くのと比べてリアルな質感が得られます。
こういう雑味というのは生楽器ではない合成音であれば意識しにくいですし、ボーカルの場合はスムーズに伸びていく方がむしろ良い感じに聴こえたりもするのですが、オーディオファイル的には物足りません。
ちょっと話が逸れますが、オーディオの初心者であれば、イコライザーでフラットに補正すれば完璧になると考えており、そこからもうちょっとオーディオに興味を持ちはじめると、空間や音場展開の自然さも評価の対象になり、さらに踏み込んだマニアになると、生楽器と同等の質感描写、たとえばピアノの鍵盤を一音叩いただけでもリアルな良い音として楽しめるような体験が求められます。
Tonaliteは、これらの最初の二段階、つまり周波数特性と空間の自然さ、そしてアタック部分の質感描写まではだいぶ優秀で、最後に残された、音色が伸びていく質感が今一歩物足りないため、さらに上を目指すなら有線イヤホンを選びたくなる理由になります。
DTASパーソナライズのON/OFFでこの傾向は変わらないので、DTAS由来ではなさそうですが、アクティブNCを含めたDSP処理の影響なのか、Bluetoothコーデックの圧縮由来なのか、それとも単純に、四万円台の量産モデルで採用できるドライバー振動板や音響素材の物理的な限界なのかもしれません。
そんな事を言うと、今後finalが十万円を超えるような高級素材のワイヤレスイヤホンを出してこられても困るのですが、少なくともTonaliteは現時点で最高峰クラスのワイヤレスイヤホンだという実感はあり、それでもなお有線イヤホンを使うメリットはあるのかという疑問に対して、私なりの感想ということになります。
私が普段使っているテクニクスを含めて、ワイヤレスイヤホンは総じてこのような質感の物足りなさという弱点が感じられるのですが、多くの場合、響きの派手さや厚みで上手いことカバーしているのに対して、Tonaliteはfinalの高級有線モデルと同じような仕上がりに迫っていることで、それらと比較した時の弱点として目立ってしまうようです。
おわりに
final Tonaliteイヤホンを購入して使ってみたところ、finalの高級有線モデルのサウンドに近づく素晴らしい出来栄えだと思いました。
注目のDTASパーソナライズ機能も手軽なステップで想像以上に大きな変化が実感できたので、これを体験せずにTonaliteの評価はできません。その点では店頭でちょっと試聴するだけでは知り得ないポテンシャルを秘めていますし、他社が簡単には真似できないfinalだけの先進的な試みだと思います。
とりわけボーカル中心のメインストリームな音楽を聴く人にとって、TonaliteのDTASパーソナライズモードは現時点でワイヤレス最高峰の体験だと思いますし、高価な有線イヤホンでもこれを超えるのはなかなか難しく、それが4万円で手に入るのが凄いです。
普段使いのオールラウンダーとして見ると、Tonaliteはなかなか扱いづらい側面もあります。DTASパーソナライズON/OFFの使い分けはもちろんのこと、アクティブNCの音質優先・ANC優先モード(さらにDTAS ONだとANC優先が使えない)といった選択肢であったり、イヤピースも圧迫感の少ないFUSION-Gと遮音性の高いTYPE Eなど、ユーザー側に判断を求める部分が多く、使いこなすのが難しく、使い方次第で評価が大きく変わってしまいそうです。それがfinalらしいマニアックさを感じる部分であり、初心者に勧めるのが難しくもあります。
そんなTonaliteとは対照的に、たとえば私が普段使っているテクニクスEAH-AZ100は、余計な設定とかを気にせず、とにかくペアリングして再生ボタンを押すだけという手軽さが強みになっており、オーディオマニアではない友人やスマホアプリが不慣れな年配の人にも安心して勧めることができるという点で優れた製品です。我々のようにオーディオの沼にどっぷり使っていると、つい忘れてしまいがちですが、やはりfinalは熱心なオーディオファイル向けのニッチなメーカーということをTonaliteを通じて再認識しました。
finalは40万円のA10000や20万円のA8000といったハイエンドな有線イヤホンも作っており、これらの純粋な機械・材料の音響設計と、今回TonaliteのDSP補正によるパーソナライズという二つの世界が、今後どのように発展もしくは融合していくのか、とても気になります。
A10000の値段でDTAS搭載のワイヤレスイヤホンとかが出ても困りますし、現時点のBluetooth通信やイヤホン内蔵の小型バッテリーと電子回路では、まだまだA10000を満足に駆動するレベルの環境は提供できないと思いますが、逆にDTASパーソナライズにおける恩恵の方が高級有線イヤホンのメリットを上回るという可能性も出てきます。
さらに勝手な考察ですが、Etymotic ER4やUE Super.fiなどの頃から高音質イヤホンが一大ジャンルを築き上げて、すでに20年が経っているので、イヤホンでしかオーディオを知らないという人も多くなってきました。イヤホンという形態だけに没頭してきた人にとって、リアルな生演奏やスピーカーオーディオの音よりも、鼓膜の間近で鳴っているイヤホンの音の方が「正しい」という認識を刷り込まれており、DTASパーソナライズの目指すところに魅力や恩恵を感じないかもしれません。「今聴いている音楽は、そもそもステージ上の生演奏やスピーカーを前提にした作品なのか」と改めて考えてみると、実はそうではない楽曲を聴いている人もだいぶ増えています。
今後イヤホンが独立した文化として根付いていくのか、それとも生演奏を再現する方向へと軌道修正していくのかの境界線に立っており、その中でfinalは最先端の技術を駆使して我々に問いかけているので、そんな高音質イヤホンの現状に少しでも興味があるなら、TonaliteのDTASを試してみて、自分なりの所感を得ておく価値があります。
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