2024年7月31日水曜日

iBasso DX180 DAPの試聴レビュー

今回はiBassoの新作DAP DX180を試聴してみました。

iBasso DX180

DX170の後継機として2024年7月に発売、価格は約8万円です。2月に登場した16万円のDX260とよく似たデザインの兄弟機でもあります。

DX180

前回はライバルHiByからの新作DAP 「R4」を取り上げたばかりなので、今回も似たようなAndroidポータブルDAPということで手短に紹介したいと思います。

iBassoは以前試聴したPB5やD16のようなマニア向けの高級ヘッドホンアンプ製品で有名ですが、近頃は売れ筋の普及価格帯でも頑張っており、たとえばUSBドングルDACなんかはモデルチェンジのペースが速すぎて付いていくのも大変です。

DX170・DX180

その点DAPの方は比較的落ち着いたペースで、

  • DX160 (2020) 
  • DX170 (2022)
  • DX180 (2024)

と二年ごとに更新されており、上級機も

  • DX220 (2019)
  • DX240 (2021)
  • DX260 (2024)

といった感じなので、まず上級シリーズを出してから、その数カ月後にコストダウンした低価格シリーズを出すような開発サイクルなのかもしれません。二つのシリーズの価格差も約二倍というのもわかりやすくて良いです。

そんなわけで、今作DX180は1920×1080の5インチ画面で206gという、最近のDAPとしては標準的な仕様です。旧モデルのDX170は同じ画面サイズで168gだったので、重量がだいぶ増えたのはオーディオ回路の高級化によるものでしょうか。上位モデルのDX260も5インチ画面でさらに重い229gです。

DX170 DX180 DX260

実際に並べて比べてみると、たしかにDX170の後継機というよりはDX260の弟分という印象が強いです。シャーシデザインも丸みを帯びたスマホのようなDX170と比べてDX180とDX260は無骨でメカニカルなスタイルになっています。

さらに上のクラスのDX320は6.5インチという巨体になってしまうので、実用的な5インチサイズで価格帯の異なる二種類を出してくれたのは嬉しいです。

iBassoというメーカー全体に言えることなのですが、DX180の公式サイトを見てもヘッドホンアンプ回路に関しては一切言及していません。他のメーカーだったら、高級オペアンプだディスクリートICだと入念に力説しているところ、その点iBassoは音で勝負といった感じなのか、多くを語りません。

D/A変換については説明があり、シーラスロジックCS43131を四枚搭載しているそうです。2022年のDX170は同じチップを二枚搭載していたので、純粋に二倍のアップグレードということになります。ちなみにDX260は高級機だけあって同型のCS43198チップを八枚も搭載しています。

DACチップは二倍に増やせば音質が二倍になるというほど簡単なものではありませんが、音楽信号が二倍になるのに対してランダムなノイズフロアは二倍にならないのでS/N比が向上するというメリットがあるため、高級機といえばチップの並列化が常套手段になっています。

iBassoの現行ラインナップを見ると、DAPやドングルDACなど多くのモデルでCS43131を採用しており、上級モデルではチップ枚数を増やしたりブースターアンプを追加するといった手法をとっています。

17万円のDX260になると、CS43131からヘッドホンアンプ回路を取り除いた純粋なDACチップのCS43198に変更されているので、独自のアンプ設計に力を入れていることが伺えます。

最上位のDX320に至ってようやくロームBD34301EKVという珍しいD/Aチップを採用し、アンプはモジュール基盤を着脱交換することで数種類から選べるようになっています。

このように、ラインナップを一覧することで、価格帯ごとにベストな構成を考えて作っていることが理解できるのもiBassoというメーカーの魅力です。逆に言うと、一般ユーザーとしては今作DX180くらいがちょうどよく、以前紹介したPB5やD16などの高級機は操作性や使い道がマニアックすぎておすすめしにくいモデルになってしまうのもiBassoらしいです。

DX180とDX260のFIRモード

D/A変換の話の続きになりますが、iBassoはDACチップを二枚、四枚、八枚と単純に並列処理で増やすのではなく、ユニークなギミックも導入しています。

Androidオーディオ設定を見ると「FIR」という項目があり、これはデジタルデータをD/Aチップに送る際に、左右それぞれ二枚のチップに同時に送るのではなく、それぞれ1クロックずつ時間差でずらして送ることで、一種のスムージングみたいなことを行う処理です。設定でオフにすれば普通の並列処理に戻ります。

DX180だとチップが四枚つまり左右に二枚づつなので2× FIRというモードが選べて、DX260は八枚なので4× FIRもあります。

そもそもCS43131のようなデルタシグマDACはD/A変換過程で膨大なオーバーサンプリングを行っているため、わざわざ事前にカスケードするメリットは薄いというか、実際にこのFIR機能が高音質につながるのかは不明ですが、任意で有効にできるギミックとして提供してくれているのは嬉しいです。

DX180とDX260のデジタルフィルター

DX260のNOSモード

余談になりますが、CS43131チップに内蔵されているデジタルフィルターの選択肢にて、Fast Roll-OffやSlow Roll-Offと並んでNOSモードも用意されています。

デルタシグマなのにNOSというのは矛盾していると思うかもしれませんが、実際はオーバーサンプリングで意図的に階段状の波形を生成しています。そのためNOSモードにてサイン波をオシロで見ると、R2RのNOSほど綺麗な階段状ではなく、もっとギザギザしたノコギリ状の段差になります。昔のCDプレーヤーみたいにチップ出力をアナログフィルターでスムージングすればR2R NOSっぽく見えると思いますが、ハイレゾ対応だとそうもできないので結構ギザギザです。

謎の挙動

ところで、今回FIRモードを試していて不思議な現象に遭遇しました。44.1kHz・16bitのパルス波形を再生しながらFIRモードのオンオフを切り替えていると、たまに波形がおかしな形になります。(上のプロットはNOSモードでのパルスです)。

FIR 2×では正常で、オフに切り替えた時に、稀にパルスが二倍幅の潰れたような形状になってしまうことがあります。この状態からFIRオンオフを繰り返すと大抵元に戻ります。なんらかのロジックバグで、チップのタイミングが2クロックずれているのでしょうか。どのような頻度や条件で発生するかわからなかったので、今回の試聴では主にFIR 2×モードを使いました。

デザイン

DX180のシャーシデザインはDX260をそのままわずかに縮小したようなフォルムなので、裏面のロゴを確認しないと一見どちらかわからないかもしれません。

DX180 DX260

付属ケース

出力端子

OSはAndroid 13、上面にUSB-C、底面に3.5mmシングルエンドと4.4mmバランス出力、そして側面にトランスポートボタンとボリュームエンコーダーという至極一般的なデザインです。ボリュームを押し込むと電源ボタンになります。

付属クリアケースはごく一般的な柔らかいタイプです。

Mango Player

Androidオーディオ設定

ショートカット

近頃はTidalなどのストリーミングアプリを使う人が大多数だと思いますが、iBasso独自のプレーヤーアプリMango Playerも悪くありません。スワイプ操作を多用するので操作性は慣れるまで戸惑いますが、見た目のデザインはFiioやHiByのものよりも個人的に好みです。

Androidオーディオ設定には前述のデジタルフィルターやFIRモードなどが用意されており、多くの機能はスワイプダウンショートカットでも変更できます。

そんなDX180を実際に使ってみて、不満点が二つありました。

まずボリュームエンコーダーについてはDX260と同じ難点があります。写真で見てもわかるとおり、本体からかなり張り出しているため、バッグのポケットに入れる時など勝手に回転してボリュームが変わってしまうことが多々あります。

画面消灯時はエンコーダーを無効にするような設定もできると思いますが、音量調整するためにいちいち画面を起動するのも面倒です。狭いポケットだとノブが押し付けられて電源が切れてしまうことすらあります。

ボリュームノブが飛び出しています

DX170や他社のDAPを見ると、ボリュームノブはシャーシ内に埋め込まれたり回転防止のプロテクターを設けるなど、指では操作しやすく、それ以外では勝手に回らないようにする配慮が伺えますので、DX180・DX260であえて飛び出しているデザインにした理由がわかりません。

カードがこれより奥に入ってしまいます

もう一つの不満点というのは、マイクロSDカードが引っかかって抜けないというトラブルです。私が借りた個体だけの不具合ではなく、他方での報告も散見しています。

私自身も持参したSDカードを入れて試聴して、帰り際にカードを押しても抜けなくて焦りました。

公式でもパネル取り外しが宣伝されています

ところで、DX180は背面パネルがネジで着脱可能という謎のギミックがセールスポイントになっているのですが、実はこれがカードが抜けない時に活躍してくれます。まるで不具合を見越しているかのような設計です。

この部分を動かすとカードが射出されます

具体的には、カードのソケット部品の組付けが剛性不足で撓んでしまい、取り出そうとカードを押し込んだ時に奥にひっかかってしまうようです。毎回起こるわけではありませんが、Sandisk ExtremeやSamsung Evoなど標準的なカードで何度か試してみたところ、二割くらいの確率で発生しました。

背面パネルを外して、上の写真の矢印の部分のバネを針やピンセットで動かすと、SDカードが勢いよく飛び出します。

背面パネルが・・・

爪をスライドして外す仕組みです

ちなみに、私が借りた試聴機は背面パネルがバキバキに割れていたので、どうしたのかと聞いたら、案の定、私が借りる前にカードが抜けずパネルを無理やり外そうとして割ってしまったそうです。

そうならないよう解説しておくと、まず横のトルクスネジを二本外してアルミ部品を取り出したら、パネルの上部を浮かせることができるのですが、そのまま外側へと無理矢理引っ張るのではなく、クリアランスが確保できたら上方向にスライドさせることで爪がシャーシから外れる仕組みです。

出力

いつもどおり0dBFSの1kHzサイン波を再生しながら負荷を与えて、歪み始める(THD > 1%)最大出力電圧(Vpp)を測ってみました。

赤がバランス、青がシングルエンドで、それぞれハイ・ローゲインモードが選べます。

公式スペックによるとバランスでの最大電圧は6Vrms、つまり17Vppなので、グラフとぴったり合います。32Ωでの最大出力は690mWだそうで、グラフの実測でも700mWでした。

さらに破線はラインアウト出力です。物理的な端子はヘッドホンと兼用ですが、内部回路がちゃんとヘッドホンアンプをバイパスしたライン信号に切り替わってくれるのは嬉しいです。

ラインアウトモードでもボリュームは固定ではなく変化できます。最大まで上げると、バランスのハイゲインとローゲインでそれぞれ4Vrms・2.8Vrms、シングルエンドはそれらの半分になります。

同じテスト信号で無負荷時に1Vppにボリュームをあわせて負荷を与えたグラフです。ヘッドホンモードではバランス・シングルエンドのどちらも綺麗な定電圧を維持して、1Ωあたりの出力インピーダンスに抑えられており、一方ラインアウトモード(破線)ではバランスで24Ω程度の高インピーダンス出力になるので、家庭のオーディオや外部ヘッドホンアンプに接続するラインソースとして有効活用できそうです。

iBasso D16・DX260・DX170・DC07PROとの比較、そしてDX180と同じくらいの価格帯の他社DAPと並べてみました。

高価なD16が一番高出力なのはわかりますが、DX180よりもDX170の方が最大出力電圧が高いのは面白いです。公式サイトのスペックでもその通りに書いてあります。ただし負荷が70Ω以下になるとDX180の方が高出力を発揮できているので、低インピーダンスのイヤホンを駆動するという実用面ではDX180の方が優れています。

私のグラフはデータ点をあまりとっておらず大雑把な傾向を確認しているだけなので、普段は出力(ワット)換算は表示しないのですが、今回はせっかくiBassoが勢揃いしているので、最大電圧グラフをワットに換算してみると、このようなわかりやすい比較ができます。

DX170以外のDAPは30-40Ω付近で最大出力が得られるようなアンプ設計になっており、DX180とDX260は高インピーダンス側ではほぼ重なるので、アンプの基礎設計は同じで、高価なDX260のみ強力な電流バッファーを設けていることが伺えます。D16も似たような傾向ながら全体的に高出力ですね。20Ω以下でカクカクしているのはボリュームノブのステップが粗いためです。

これらと比べると、ドングルDACのDC07PROは20Ωまではしっかり頑張っており、それ以上になると一気にパワーが落ち込んでいますので、つまり20Ω以下のイヤホンならそこそこ健闘してくれて、それ以上のヘッドホンなどを駆動する場合にはDAPの方が余裕があることがわかります。

電圧やパワーが音質と直結するとは断言できませんが、同じiBassoというメーカー内で比較することで、各モデルの想定用途や価格帯に応じて設計の違いが垣間見えてきます。

音質とか

普段から聴き慣れているUE Live、ゼンハイザー IE900、64 Audio Nioなどのイヤホンで鳴らしてみました。オーディオ設定は色々試した結果、フィルターがFast、FIR 2×で使う事が多かったです(ハイレゾファイルを聴くならそこまで大きな変化はありません)。

64 Audio Nio

DX180のサウンドの第一印象は、DX260とは大幅に異なる、どちらかというとDX170の正統進化型という感じです。

外観デザインはDX260と似ているものの、その廉価版としてDX180を選ぶと失敗するかもしれません。逆に言うと、DX180のサウンドを気に入ったからといって、奮発してDX260にアップグレードしても期待通りにならないかもしれません。

iBassoの上級モデルはアナログアンプ回路にこだわった重厚な音色というイメージがありますが、DX180はどちらかというと音抜けの良いスッキリした高解像サウンドです。DAPよりもドングルDACとの共通点が多く、たとえばDC07PROと交互に聴き比べると、DX180は同じ系統の上位互換といった印象を受けます。

iBassoはドングルDACとDAPを並行してリリースしているので、DC04PROとDX170、そして今回DC07PROとDX180がそれぞれ同世代における上下関係のように感じます。

全体的な音色や解像力は似ているものの、ドングルDACだとどうしても音量を上げていくとスカスカ、フワフワと、ダイナミクスが損なわれるような感覚が現れてしまうのに対して、DAPであれば小音量と大音量で音色の変化が少なく、つまりイヤホンの能率に関わらず、期待通りの駆動ができている感覚があります。このあたりがDAPを使うメリットなのかもしれません。

感度の高いイヤホンであれば、ドングルDACの方が低ノイズで繊細なサウンドが楽しめて、むしろ強力なアンプを選んでしまうとノイズフロアも上昇してしまう傾向にあります。(相当高価なアンプでも、高出力と低ノイズを両立するのは困難です)。

そのため、20万円のDX320まで行くと「アンプモジュール交換」という金に糸目をつけない物理的な解決法を用意してあるのも納得できます。そうやってiBassoのラインナップを俯瞰で見ると、DX180は良い位置に収まっていると思います。

そんなわけで、普段はIEMイヤホンを使っているけれど、たまにはヘッドホンも鳴らしたいというユーザーには、DX180くらいのモデルがちょうど良いです。

Abyss Diana DZ

とりわけヘッドホンを鳴らす場合、単純に最大音量の差だけでなく、音質面でもDAPを使うメリットは大きいです。

上の写真のAbyss Diana DZのように、最近は平面駆動型ドライバーでインピーダンスが低いモデルが増えています(こちらは50Ωです)。その程度ならドングルDACでも鳴らせるだろうと思うかもしれませんし、たしかに音量はそこそこ確保できます。しかし冒頭で言ったような、音量は十分でもなんとなくメリハリの無い、流れているだけの音楽といった感覚がつきまといます。

DX180くらいのDAPで駆動すれば、ヘッドホンでも音像が前後に立体的に浮かびあがるような迫力が体感できるようになり、演奏のリズムやグルーヴ感が伝わってきます。大型ヘッドホンのポテンシャルをさらに引き出したければコンセント電源の据え置きアンプとかに移行すべきで、これ以上に高価なDAPを選ぶメリットは薄くなってきます。

DC07PRO

一方IEMイヤホンを鳴らすならDC07PROの方が良いと感じるケースもありました。軽快で澄んだ音色は、私が持っている中だとUE Liveのように響きが厚いタイプのイヤホンとの相性が良く、演奏の細かなニュアンスまで見つめるのに適しています。最近のドングルDACの進化がつくづく実感できます。

逆にイヤホンでもDX180で鳴らした方が良いと感じるケースは、音の勢い、一音の迫力、威勢の良さといった要素を引き出したい場面です。そして、そのあたりのメリットにおいてDX170とDX180に大きな違いを感じました。

ドングルDACとの差別化という意味で、DX170はDAPらしいパワフルさの演出ができていると思いますし、2022年当時の感覚なら確かに説得力のある仕上がりです。

しかし新たにDX180を聴いた後だと、DX170は勢いや迫力を強調することに専念しすぎて押しが強いと思えてきます。小さな器の中で、低音の押し出しや高音のきらめきといったドンシャリ成分を詰め込みすぎて余裕が無いように聴こえます。DX180ではそれらドンシャリ成分が控えめになったのではなく、むしろ器のサイズを拡大することで許容できるようになった感じです。

迫力と引き換えにクリア感が損なわれることなく、レンジも音場展開も広くなったことで、DX170が本来意図していたサウンドが実現できるようになったという意味で、DX180はDX170の正統進化だという実感が湧きます。DX170の発売からまだ二年しか経っていませんが、買い替えを検討するだけの価値はあると思います。

それでは上位モデルDX260と比べるとなると、ここはちょっと難しくなります。好みが分かれるというか、方向性の違いが目立つので、単純なアップグレードではありません。

DX260の魅力は自然体なバランス感覚の良さです。ドンシャリ傾向から離れて、中域全般が極めてフラットで質感良く鳴るようになり、歌唱や楽器の音色を自然に再現してくれます。しかし、その一方で、先程言ったような「威勢の良さ」みたいなものは低減するので、とくにDX180から移行すると、風船がしぼんだような、インパクトに乏しいサウンドだと思えてしまいます。

さすがに高価なモデルだけあって、じっくり聴き込めば目立った弱点も無く、音源を正確に描写できているという実感は湧くのですが、相当聴き慣れた愛聴曲でこそ優位性が伝わってくるものの、色々な楽曲やイヤホンをあれこれ楽しむ場合にはそこまで重要ではありません。

将来を見越して末永く使えるレファレンスモデルを選ぶならDX260も悪くないと思いますが、今現在、価格差を踏まえても、どうしても必要かというと、DX180の方が魅力的に思えてしまいます。

IE900

たとえばゼンハイザーIE900のような高解像でアタック感が強めなイヤホンを鳴らす場合、DX260の方が明らかに良いと思えたのは、とても静かな室内で、普段から機器試聴に使っているレファレンス楽曲をじっくりと聴いた時に限定されました。

私が新製品を試聴する際は、型にはまった評価を避けるため、そしてできるだけ長時間聴くために、テストトラックとは別に、ジャズやクラシックなど直近の新譜を何枚か通して聴くようにしています。

そんな場面ではDX180の方が演奏そのものの展開や推進力に没頭することができ、一方DX260では「録音の音質があんまり良くないから、別のアルバムを聴いてみるか」というような批評モードに陥ってしまいます。

どちらも同じようなスッキリした風通しの良い音響空間を下敷きとして、DX260では一つ一つの音色の造形が深く、DAW上に配置されたトラックを眺めているような聴き方になるのに対して、DX180ではベースの低音やスネア・ハイハットの打撃がバネのように張り出し、響きが周囲に発散していく過程を楽しむような、体を動かす音楽体験に近づきます。

このDX180とDX260の関係性は、私が以前HiBy R6 IIIとR6 PRO IIで感じたものと似ているので、メーカーごとに価格差はあるものの、このあたりが折り返し地点というか、単純に高い方を買っておけばよいと言えなくなってくるようです。

DX260よりもさらに高価なクラスのDAPになってくると、倍音の響きなどで楽器や声の美しさを際立たせた、一工夫あるモデルが増えてきます。私が使っているHiBy RS6もそのカテゴリーに足を踏み入れていると思うので、私みたいにカジュアルなポータブル目的で使いたい人は、DX180の価格帯か、あるいはDX260あたりを飛び越えて、もっと上の個性派モデルを狙うかに分かれてくると思います。

そんなわけで、普段使いの音楽鑑賞用DAPとして見ればDX180はかなりの優等生で、音質面では購入を妨げるほどの大きな弱点や不満点が浮かびません。あえて挙げるとするなら、この8~10万円という価格帯はFiio M11SやHiBy R6 IIIなど、そこそこ優秀なモデルが出揃っている激戦区です。

各モデルごとの音質差を事細かに評価することもできますが、どれも似たようなレベルのサウンド傾向で、それよりも上や下の価格帯と比較した時の方が違いを明確に実感できます。どれを買っても失敗は無いと思いますし、とりわけドングルDACからのアップグレードとしては、これくらいを狙うのが最善です。逆に言うと音質以外の部分、つまりシャーシやOSインターフェースの使い勝手が大きな判断材料になってきます。

おわりに

iBassoの製品を試聴するたびに思うのですが、出力や音質といった根幹の部分では非常に優秀でありながら、デザインの作り込みが甘いのが惜しいです。

毎回「今度こそiBassoを買ってみようかな」という心意気で挑んでいるものの、必ずなにか弱点を見つけて断念するというのを繰り返している気がします。

今回もボリュームノブが邪魔だったりSDカードが抜けなくなるなど、些細な問題でも「他にも問題が起こるのではないか」という不安が頭をよぎってしまいます。今後修正される可能性があるにせよ、店頭試聴機は初期型が居残ることが多いですし、レビュー記事やソーシャルメディアのインプレッションも初速が肝心です。

それでもDX180は低価格でここまでの高音質を実現しているのだから、些細な弱点は我慢すべきだと言われればもっともです。実際のところ、iBassoに限らず20万円を超えるような高級DAPでも事態はそこまで改善しません。

つい先日も、FiioのデスクトップDAP R9を使う機会があって、個人的に欲しかったフォームファクターなので喜んでいたら、SDカードがスロットの隙間からシャーシ内部に落下してしまい拾い出すのに一苦労したり、他のFiio DAPで使えたカードが認識しなかったりなど、本質的ではない作り込みの部分で消極的になってしまいました。他にも例を挙げればキリがないですが、ようするにどのメーカーも開発サイクルが速いためか完成度が一定のレベルを超えてくれません。(そのあたりAKやソニーなんかは一枚上手だと思います)。

ストリーマーやパワーアンプのようにリモコンで操作する機器と違って、DAPというのは常に手元にあるものなので、高価なモデルともなれば、やはり質感や使用感は重要になってきます。

スマホ全盛期の現在でも(むしろ、だからこそ)高級腕時計や高級万年筆が好評を得ていたり、スマホカメラで十分だと言われる時代でも富士のX100VIが品切れになるほど飛ぶように売れているのも、やはりコスパやスペック数値以外にも質感や使用感に感化される人が多いからです。その点DAPというジャンルはコスパやスペック以上の特別感というポテンシャルをまだ引き出せていないように感じます。

長々と何を語っているのかというと、ようするにDX180は悪いと言っているのではなく、むしろ逆に、これ以上高価なDAPに質感の高さや所有する満足感を求めるよりも、DX180あたりがボリュームゾーンで最善の選択だと言いたいです。(DC07PROもかなり良いです)。

スマホと同様に、このあたりのDAPを2~3年のペースで買い替えるのが賢明だと思いますし、もしそれらが長らく停滞していたら上位モデルに移行するのも良いですが、DX170からDX180へは明らかな進化が実感できたので、2024年の時点で選ぶなら最良のDAPの一つだと思います。


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