T5pというと、ベイヤーダイナミック独自の「テスラテクノロジー」を搭載した密閉型ヘッドホンとしては最上位モデルで、半開放(セミオープン)型ヘッドホン「T1」の兄弟機として販売されています。
Beyerdynamic T5p 2nd Generation |
フラッグシップモデルである「T1」のサウンドを、遮音性の高い密閉ハウジングと低インピーダンス化によって、ポータブルヘッドホンとして使えるように、という要望から生まれたモデルなのですが、T1・T5pともに約10万円というほぼ同価格なので、用途に応じてどちらを選ぶか非常に悩ましいラインナップです。
初代T5pは2010年デビューということでそろそろ年季が入ってきたようで、2015年の「T1 2nd Generation」発売につづいて、2016年3月に「T5p 2nd Generation」としてリニューアルされました。
単純な外装のブラッシュアップだけではなく、チューニングの見直しによって別物のヘッドホンとして蘇ったため、初代T5pのサウンドがあまり好みに合わなかった人にも、ぜひ試聴してもらいたい素晴らしい仕上がりです。
また、昨年発売された「Astell & Kern AK T5p」というコラボモデルもありましたので、それも含めて試聴してみました。
T5p
真面目な試聴のため、色々集まりました |
ベイヤーダイナミック社の主力ヘッドホンというと、2万円だろうが10万円だろうが、外観上はどれも基本的に同じデザインなので、なかなか見分けがつかないというか、各モデルごとの上下関係がいまいち伝わりにくいように思います。
また、ベイヤーダイナミックでの各種モデルとは別に、最近では韓国iRiver Astell & Kernとのコラボレーションモデルも続々と展開しており、それらは基本的にAstell & Kern名義で販売しているため、ベイヤーダイナミックの公式サイトなどには記載されていない(日本での販売代理店がそれぞれ異なる)など、なんだかめんどくさい状態になっています。
テスラテクノロジー搭載のMHP1000 |
余談ですが、数年前にはアメリカの老舗オーディオ機器メーカー「McIntosh」名義でMHP1000という高級ヘッドホンも出しましたね。色々と手広くやっているようです。
外観上はどれもそっくりなベイヤーダイナミックのヘッドホンですが、いくつかの特徴によってグループ分けすることができます。今回紹介するT5pというのは、テスラテクノロジー搭載で、ハウジング内部でドライバが前方に傾斜されているタイプ、ということで、「T1」と共通した設計だといえます。
T1・T5p以外は、ドライバが平面的に配置されています(写真右はDT880) |
T1以外のテスラテクノロジー搭載モデルは、T90、T70などありますが、それらはハウジング内部でドライバがベタッと平面的に配置されているため、音響設計が根本的に異なります。どちらが優れているというわけではないので、現行モデルでも用途に応じて両方のスタイルが採用されています。
以前購入レビューしたDT1770 PRO |
ところで、ベイヤーダイナミックは最近DT1770 PROという新たな密閉型ヘッドホンを発売しました。(レビュー→http://sandalaudio.blogspot.com/2016/01/beyerdynamic-dt1770-pro.html)
このDT1770 PROには「テスラ 2.0」という新開発ドライバを投入してきましたが、T1 2nd GenerationやT5p 2nd Generationには初代から定評のある従来型テスラドライバを続投しているようです。(サイトの情報を見るかぎり、テスラ2.0と書いてあるのはDT1770のみです)。
T1・T5pにおける「2nd Generation」というのは、もちろんドライバにも多少のチューニングなどは施されている可能性もありますが、基本的にハウジング音響設計の再検討という方向性なのだと思います。
事態を混乱させるのは、Astell & Kernモデルの存在です。現状では、AK T1pとAK T5pという二機種が存在しています。
現在販売しているバリエーションをまとめてみると、下記のようになります
こうしてみると、2nd Generationというのは、Astell & Kern特注モデルによる研究開発に後押しされて発売されたような印象がありますね。
ケーブルについては、交換可能なタイプであれば各モデルに互換性があります。
ここまで、密閉型のT5pシリーズはポータブル用途ということで32Ωの低インピーダンス仕様になっています。また、セミオープンタイプは600Ωで、AK T1pのみが32Ωになっていますね。基本的に「p」がついてPortableになると、低インピーダンス仕様という意味のようです。
ヘッドホンのインピーダンスというのは低ければ低いほど良いというわけではなく、それに伴う弊害もあるので、なかなか難しいところです。どのモデルも102dB/mWということで全く同じ能率なので、つまり同じ音量を発揮するために消費するパワーはどのモデルも一緒だということです。
ヘッドホンを低インピーダンスにすれば低い電圧で駆動できますが、その分余計に電流が消費されます。スマホのように内蔵電池が高い電圧を出せない場合、低インピーダンスヘッドホンを選ぶ必要がありますが、その分だけ電流を消費しますし、電流不足による音質劣化も懸念されます。
また、ヘッドホンを低インピーダンスにするためにはドライバのコイルを太く大きくしなければならないので、それだけ振動板の動きがもっさりしてしまい、切れ味が悪くなる、なんてこともあります。つまり、ヘッドホンメーカーとしては、やみくもに低インピーダンス化することは諸刃の剣なので、そこをどう上手に料理するかが肝心なポイントです。
高インピーダンスヘッドホンであれば、アンプが十分な電圧を出せれば、電流はチョロチョロと少ない量しか流す必要はないというメリットがあります。メーカー側としては、願わくば高インピーダンスのヘッドホンを高電圧アンプで駆動してくれ、というのが本音でしょう。
もちろんアンプの電圧が貧弱で、600Ωのヘッドホンでは満足な音量が出せなければアウトですから、合わせるアンプによって的確なヘッドホンを選ぶことが肝心です。
T5p 2nd Generation
付属品のケースは、T1 2nd Generationと同じく、新設計の布地ハードケースになっています。初代T5pには大型アルミケースが付属されており、カッコいいのですがそもそもポータブルとしての実用性は皆無でした。付属のケース |
T5p 2nd Generation |
ハウジングのデザインは印刷です |
ヘッドバンドや調整機構は従来通りです |
ヘッドバンドはT1 2nd Generation譲りの、新しいフカフカタイプに更新されています。
ハウジングのデザインは、これまでのベイヤーダイナミックらしい定番フォルムで、これといって目立った変更点はありません。
ハウジング外側のジグザクパターンは印刷ですが、グリルメッシュみたいでカッコいいですね。国産メーカーにも、仏具店のような漆塗りシボ加工とかだけじゃなくて、このような意表をついたインパクトのあるデザインをあえて挑戦してもらいたいです。
ケーブルは3.5mm端子です |
3.5mm両出しで着脱可能です |
ケーブルは、布巻き1.4mで3.5mm端子のものが付属しています。残念ながらバランスケーブルなどは付属していません。
ヘッドホン側の端子はT1p、T1 2nd Generation同様に3.5mm両出しです。端子の取っ手が太いとハウジングに入らないので、社外品のケーブルを使用する場合には注意が必要です。たとえばソニーMDR-Z7なんかも同じ端子形状ですが、取っ手部分が太すぎるため入りません。
たとえばポータブルということで2.5mmバランスケーブルが欲しい場合は、Astell & Kern AK T1pの付属ケーブルが使えますが、別売しているんでしょうかね。いまのところベイヤーダイナミック名義で販売しているオプションケーブルは3mの4ピンXLR仕様のみです。
Astell & Kern AK T5p |
AK T5pのみがケーブル着脱不可能で旧式デザインに取り残されている印象ですが、今後これも2nd Generation相当に進化するんでしょうかね。
T5p 2nd Generationの新型イヤーパッドはモチモチしています |
ドライバと外周フレームは初代T1、T5pを継承しています |
イヤーパッドは新設計のモチモチした低反発ウレタン製で、従来のT5pと比べて格段に気密性というか、耳の密閉感が増しています。本当に吸い付くようにピタッと装着できます。このパッドだけでもオプション品として過去のベイヤーヘッドホンに使ってみたいです。表面はプロテインレザーという合皮です。
AK T5pは本皮なのでボロく見えますが、肌触りが良いです |
AK T5pのドライバはT5p 2nd Generationとそっくりです |
ちなみにAK T5pには高級なシープスキン本皮を採用しており、自動車のレザーシートみたいな光沢のある厚手のレザーです。合皮と本皮と、どちらが良いかは好みが分かれると思いますが、個人的な印象としては、見た目や肌触りはAK T5pの本皮が好きですが、中身のスポンジは、T5p 2nd Generationの低反発ウレタンのほうが断然優れています。
イヤーパッドを外してみると、T5p 2nd GenerationとAK T5pはほとんど見分けがつかないくらい似ています。
音質について
今回の試聴には、有志のおかげでシリーズ全員集合が実現でき、T1、T1 2nd Generation、AK T1p、AK T5p、T5p 2nd Generation、そしておまけにDT1770 PROが揃いました。AK380やALO Continentalも出動してくれました |
試聴には、せっかくのポータブルヘッドホンということで、AK240や、友人が持参したAK380を使いましたが、600ΩのT1などもあるので、パワフルなハイブリッド真空管アンプ「ALO Continental Dual Mono」も使ってみました。ちなみに、AK380を持ってきてくれた友人は、このALOと合わせて(つまりAK380からライン出力で・・・)AK T1pなどを鳴らすのがベストだと言っていました。贅沢な話ですね。私の財布では到底ムリです。
残念ながら初代T5pは不在でしたが、はっきり言って初代T5pの音質はどうしても好きになれなかったので、あえて眼中にありませんでした。T5p 2nd Generationを試聴するにあたって、初代T5pではなく、AK T5pと比較するのが妥当だと思います。
個人的に、初代T5pの何が気に入らなかったかというと、セミオープン型の「T1」を無理矢理密閉型に改造しました、と思えるくらい不自然なトーンバランスです。
密閉型にするということは、ハウジング内を通過する空気の流れが制限されるため、音の伸びや、深みが損なわれてしまいます。初代T5pはまさにそのようなサウンドで、なんというか「中低音がスカスカ」「高音が伸びない」というわかりやすく具体的な不満点が多く、どうしても好きになれませんでした。
実はこれは2010年当時のベイヤーダイナミック製ヘッドホン全般に当てはまることで、たとえばセミオープン型のDT880やT1と比べて、密閉型のDT770やT70などはどうしても硬質でドンシャリしたサウンドに仕上がっています。
これはこれで硬派なサウンドだといって好んでいる人も多いのですが、やはり一般的な家庭用スピーカーリスニングとはかけ離れた音作りでは市場で好まれないため、最近になってベイヤーダイナミックのヘッドホン全般で、人々に好まれるチューニングへの再検討が進んでいるようです。
AK T5p |
この初代T1やT5pのような過去のベイヤー臭いサウンドから逸脱して、DF補正よりも低音を+5dB程度持ち上げた音作り(つまり最近のソニーやゼンハイザー、AKGなどに近づけた周波数特性)として仕上がった第一号モデルが、AK T5pだったように思います。
コラボレーションという後押しが、伝統的なベイヤーサウンドから一歩離れるために必要なスパイスだったのかもしれません。
近年、人並みに中低音アップを果たしたベイヤーダイナミックですが、ここで注意が必要なのは、「周波数特性を他社に似せる」というのは、「他社と同じサウンドにする」と同意義ではない、ということです。
ヘッドホンにおいての良い音、悪い音、というのは、ヴォーカルの生演奏感や、楽器の再現性であったり、リアルな音場、三次元的な奥行きなど、「音楽表現」の上手さで決まります。そこで、たとえば周波数バランスが他社と異なるだけで「ベイヤーダイナミックのヘッドホンは、ゼンハイザーとくらべて低音不足だからダメだ」というような安直な比較で市場評価の勝敗が決まってしまうのは不本意でしょう。
そういった意味で、ヘッドホン設計者として、まず第一に、一般リスナーが好む周波数バランスに調整した上で、音楽表現の良し悪しで勝負するということが重要だと思います。
AK T5pは2.5mmバランス端子です(3.5mm用アダプタ付属) |
AK T5pは、初代T5pで不満とされていた中低域の薄さを、ハウジング設計を再検討することで克服して、T1以上に量感のある低音を発揮できるヘッドホンになりました。密閉性の高いシープスキン製イヤーパッドを採用したこともあり、初代T5pと比べて飛躍的に実用性の高いヘッドホンに進化したと思います。
個人的な意見として、この増強された低音は、AK T5pの弱点のようにも感じます。初代T1でも指摘されていたことなのですが、テスラドライバーが不足している低音の量感をハウジング設計に頼って補ってしまうと、どうしてもふわふわした、フォーカスの甘い低音になってしまいます。
つまりAK T5pは、グラフ上の周波数バランスという視点では人並みに聴きやすいチューニングに仕上がっているのですが、テスラドライバーのメリットである高域の鋭さとは対象的に、中低音のメリハリの弱さは当時どうしても克服できなかった、という印象を受けました。
AK T1p |
ベイヤーダイナミックが次に投入してきたのはT1 2nd Generationと、AK T1pです。これら二つのモデルは2015年中旬、ほぼ同時期に登場しました。ベイヤーダイナミックのフラッグシップ機は定番の600Ω仕様で、Astell & Kernのポータブルプレイヤー用に32Ω発生モデルを同時にリリースしたのは有意義だと思います。
これらはほぼ同時発売されたこともあり、サウンドチューニングは似ています。どちらも合わせて言えることは、AK T5pの時と同様に、初代T1よりも低音を+5dB程度盛って、リスニング向けのサウンドに仕上げているということです。テスラドライバーそのものの魅力は維持したまま、セミオープンハウジング設計をさらに深く練りこんで、不要な高周波の共振点などもしっかりと抑えて、堅実なアップグレードを果たしました。
個人的な感想としては、この「T1 2nd Generation」「AK T1p」の時点で、それまで問題とされていたテスラドライバー由来の低音のフワフワ感を克服できたように思えます。具体的な手法はよくわかりませんが、これまでT1やAK T5pで感じていた「量感はあるのにキレが甘い」低音が見事に解消され、ゼンハイザーなどと勝負できるクラスの、質感豊かな低音に進化したように思います。
これでようやくめでたしめでたし、と言いたいところですが、さらなる完璧への探求は続いているようです。
初代T1が大好きな私としては、この新世代T1 2nd Generationのサウンドはどうにも面白みの無い優等生的な仕上がりに感じています。具体的には、高域の共振が抑制されたせいか、ヴァイオリンなど金属的な響きの鈴鳴り感が薄れて、初代T1で気に入っていたキラキラした響きの鋭さが幾分か低減しています。その代償として得た中低域はたしかに魅力的なので、難しいところです。ギブアンドテイクなので、買い換えるほどのメリットは感じられませんでした。また、AK T1pにおいては、低インピーダンス化の代償か、個々の音像がブレンドされて分離が悪いようなもどかしかさを感じました。
T5p 2nd Generation |
ここで登場するのが、今回紹介する「T5p 2nd Generation」です。このヘッドホンを試聴してみたところ、また新たにベイヤーダイナミックは一歩先へ進化を遂げたなと、つくづく実感しました。
つまり単純にありきたりな発生モデルという枠を超えて、現在進行形で進化しているサウンドを身を持って体感できました。
T5p 2nd Generationの魅力は、初代T1やT5p系譲りのシャープで力強く伸びる高域特性を存分に発揮していながら、T1 2nd Generationで実現した中低域の質感の高さを両立していることです。
まず、T5p 2nd Generationと、AK T5pを比較してみると、高域の伸びの良さや、金属音の響き方、そして空間提示の手法は両者ほぼ変わらないように思えます。しかし、T5p 2nd Generationでは、男性ヴォーカルや、さらに低い域のエレキベース、オルガンといった、メロディのある中低音楽器が、AK T5pよりもグッと前に出て、彫りの深い実在感を描いています。AK T5pでは、「なんとなくボワッと聞こえるけど、耳を凝らしても、なんだかよくわからない」といったもどかしさがありました。量感は同等なのに、不思議です。
次に、AK T1pやT1 2nd Generationと比較してみると、意外にも空間の広さや音場の定位感は両者あまり変わらないということに驚きました。やはりセミオープン型であるT1系のほうが若干素直というか、スムーズでふわっとした空気のようなものが感じられます。楽器の主音声分とは別に、プレゼンスや空気感のような響きが殺されずに、リスナーの周囲の空気と一体感を持って鳴っているからでしょうか。閉塞空間ではなく、スピーカー的なナチュラルさがあります。その反面、メリハリやアタック感はT5p 2nd Generationのほうが一枚上手です。中高域のアタック感はちょっと硬質すぎるかな、なんて思うこともあるのですが、従来のベイヤーファンであれば、これくらいが丁度良いでしょう。立ち上がりが速く、なおかつそこで終わらずにハッキリと伸びていってくれて、さらに中低音が過度に反響しないという、密閉型としては理想に近い仕上がりだと思います。
ところで、密閉型のT5pとは対照的に、T1というモデルは「セミオープン」ヘッドホンと呼ばれているのですが、実はそこまでオープンではない、というふうに思っています。たとえば開放型ヘッドホンのゼンハイザーHD800やAKG K812なんかと比べて、T1は音漏れの量が非常に少ないですし遮音性が高いです。
T1シリーズのバッフル形状はT5pとほぼ一緒です |
T1とT5pはどちらも同じようなバッフルデザインで、前方に傾斜したドライバ周辺に薄いメッシュのグリルを備えて、中低域の量感はハウジング反響に依存しています。T1はドライバ後ろに分厚い吸音材を設けて、ハウジング外側への音漏れを抑制した、ほぼ密閉型的なデザイン手法です。実際の数字はわかりませんが、ハウジング内で反響させる音と、外に逃がす音の比率がT5pでは8対2だとしたら、T1では6対4くらいでしょうか。
ようするに、T5pは密閉型だからT1に劣る、というような固定概念は捨てたほうが良いと思いました。どちらも中低域はバスレフ構造に依存しており、その度合によって微妙なチューニングが施されているというだけのことです。
最後に、最近発売された密閉型テスラテクノロジー搭載ヘッドホンということで、DT1770 PROも比較してみました。これは個人的に所有しているモデルです。
T5p 2nd GenerationとDT1770 PRO、どちらもテスラテクノロジーの密閉型ということで、サウンドの傾向は似ていると思うかもしれませんが、結構違います。
まずドライバそのものが、T5pは従来通りのテスラドライバーを搭載していますが、DT1770 PROは新開発のテスラ2.0というものを採用しています。これは振動板がこれまで一枚のプラスチックで作られていたものを、二枚のプラスチックの間にジェル素材を挟み込んだサンドイッチ複合構造に変更されています。フィリップスのFidelio X2なんかで使われている新技術ですね。
まだこのテスラ2.0をフラッグシップ機のT1・T5pに搭載するのは時期尚早ということで、これらの2nd Generationモデルでは従来型のテスラドライバーが続投されているのかもしれません。
残念ながら中身は見えませんが |
広報画像によると、ドライバは中心に平行配置されています |
もうひとつ重要なポイントは、ドライバ周辺のバッフル構造が根本的に異なるということです。T5pはT1譲りの開放メッシュにドライバが傾斜配置されていますが、DT1770 PROはT70やDT770のように、白い紙のような厚いメッシュと、ガチガチのプラスチック製フレームにドライバが平行配置されています。
つまり、T5pはハウジング全体の空気を活かしたバスレフ的構造で、DT1770 PROはドライバそのものの素の特性に重点を置いた設計です。
これは実際装着して試聴してみるとわかるのですが、T5p系やT1系を装着して、リスニング中にハウジングを手で横から何度か押してみると、低音の音抜けが狂って、シュワシュワとおかしな位相歪みが発生します。ハウジング内がピストンのように、鼓膜と釣り合って低音をポンピングしています。ドライバがトランポリンのように宙吊りになっているという感じですね。
その一方で、DT1770やT70などの場合は、リスニング中にハウジングを押しても、音楽はそのまま鳴り続け、このような圧力の狂いは発生しません。つまりドライバがしっかりとハウジングの一部として固定してあり、その後ろの吸音材で圧力を逃がしてます。
DT1770はあくまでダイレクトにドライバが発するサウンドを耳に届けるというモニター的役割を果たしており、T5pほどの前方空間イメージや、音像のリアルさは実現できません。また、たとえばフルオーケストラなどでは、DT1770ではあまりの情報量の多さが交通渋滞を起こしてしまい、色々聴こえるのに情報過多というジレンマを起こしてしまいます。一方T5p 2nd Generationでは、その高密度な情報が上手に前方空間に分散され、主楽器は歯切れよく、背景のゴチャゴチャは一歩退いた場所で、という空間配分が上手です。
DT1770とT5p 2nd Generationで価格差は二倍近くありますが、それだけのメリットはあると思います。DT1770でバーっと目前に広がる音楽情報を目の当たりにした後に、T5p 2nd Generationを聴くと、なんか綺麗に整頓されているな、なんて印象を受けますが、その絶妙な仕上げ方がリスニング用途にはワンランク上のサウンドになっているようです。また、DT1770 PROは250Ω 102dB/mWということで32ΩのT5p系よりも若干音量が取りにくいため、貧弱なアンプでは駆動に苦労するかも知れません。ちなみにAK240での試聴中は、DT1770 PROは一割増しくらい音量を上げていましたが、頭打ちする気配は無かったです。600ΩのT1はさすがに辛いです。
まとめ
今回登場したT5p 2nd Generationで、また新たにベイヤーダイナミックの進化を実感できたように思えます。新モデルを投入するごとに、従来機の不満点を着々と克服しているその地道な努力は大変素晴らしいです。Beyerdynamic A2にドッキング中 |
最近ではAstell & Kernコラボなどで安易な発生モデルを連発している印象もあるのですが、それらを開発したことによる経験が実って、常に前進していることを実証しています。
なんといっても高価なヘッドホンなので、私のように初代T1を所有しているユーザーにとってはなかなか手が出しにくい商品だとは思います。また、ここまで毎回ニューモデルごとに音質の進歩を体験してしまっては、「じゃあ次に出るモデルはもっと凄いかも?」と気がかりで、なかなか買い換える気になれないというもどかしさも感じます。
初代T1・T5pが2010年から5年間現役だったことを踏まえて、今回の2nd Generationはこれから末永く愛用できることは確実ですが、最近ではAstell & Kernコラボモデルという変化球がいつ出るかわからないという怖さもあります。
もし私がベイヤーダイナミックのヘッドホンを一台も所有していなければ、じゃあ現時点でどれを買うかと尋ねられたら、確実にこの「T5p 2nd Generation」を選ぶと思います。
T1はセミオープンだとか、600Ω対32Ωとか、そういった技術的な差とは別の次元で、このT5p 2nd Generationというのは上手に仕上がっているヘッドホンだと思います。もちろん各モデルに特徴やクセのようなものはありますが、その中でもこのモデルはベイヤーダイナミックらしいサウンドを十分に発揮できていることが魅力です。
安直な考えですが、この絶妙なチューニングで、もし600Ω仕様だったらどうなるのかな、なんて想像したりもします。
では私自身がT1を処分してT5p 2nd Generationを買うかというと、これはまた難しいところです。余裕があったらそうしたいのですが、どちらも根本的にベイヤーダイナミックのサウンドに変わりないので、あえてそこを無理に追求するよりも、T1でひとまず満足なので、他のメーカー独自の魅力もまた味わいたいという浮気心が優先されてしまいます。
とにかく、素晴らしいヘッドホンですので、ぜひ試聴してみてください。