Bose QuietComfort QC35 |
BOSE社は、これまでワイヤレスヘッドホンの「SoundLink」シリーズと、ノイズキャンセリングヘッドホンの「QuietComfort」シリーズという二種類のラインナップが存在していたのですが、今回発売されたQuietComfort QC35にて、ノイズキャンセリングとワイヤレスの両機能がひとつのヘッドホンに集約されました。いつかは出るだろうと、これを待っていた人は多いと思います。
最近はソニーやゼンハイザーなど各社からワイヤレス+ノイズキャンセリングを両方搭載しているヘッドホンが増えてきたので、ノイズキャンセリングの老舗BOSEから今回発売されたQC35は注目度が高いです。ちなみに私が買ったのはブラックですが、ほかにシルバーもあります。
QuietComfort
BOSEのQuietComfort(QC)ノイズキャンセリングヘッドホンシリーズはすでにいくつものモデルが発売されており、ここ数年ではQC3→QC15→QC25といったモデルがありました。また、ヘッドホンではなくイヤホンのQC20も2013年に登場しており、未だに現行モデルのロングセラーとして好調な売上を伸ばしています。ビジネスマン出張の友、BOSE QC3 |
これまでQCシリーズにBluetoothを使ったワイヤレスモデルは存在していなかったのですが、最近他社から続々と登場しているため、BOSEとしても遅れをとってはいけないということで、急遽デビューしたのがQC35です。
下地となるのは現行モデル「QC25」なので、ケーブルが無いこと以外では、なかなか外観で見分けはつきません。
QC35の価格は約40,000円です。最近はとても高価なヘッドホンが増えてきたので、4万円程度では驚かなくなってしまいましたが、世間一般から見て「高級ヘッドホン」の代名詞といえば、BOSEやBeatsを指していたりします。とくにオーディオマニア以外の一般ユーザーの知名度はとても高いです。
ベースとなったQC25が35,000円だということを考慮すれば、40,000円というのもまあ妥当な値段だと思います。
飛行機をよく使う人であれば気がついていると思いますが、ここ2年くらいで、多くの航空会社では機内でのBluetooth使用が許可されており、フライト中だけでなく、離着陸時にもポータブル電気機器を使えるケースが増えてきました。そのため、以前はダメだったBluetoothワイヤレス+ノイズキャンセリングという組み合わせが長旅の友に使える事になったので、各メーカーから雨後の筍の如くニューモデルが登場しています。
特に人気なのは、ソニーのMDR-100ABN、ゼンハイザーMomentum Wireless、DENON AH-GC20、Beats Studio V2 Wirelessなどです。
それと、単純に飛行機の規則の問題だけではなく、以前であればノイズキャンセリングとワイヤレスのどちらもバッテリー消費が激しいため、両方を搭載してしまうと電池が2〜3時間ほどしか持たないという難点がありました。
最近になって、とくにBluetoothの省電力化や、電池の小型化といった色々な技術進歩を乗り越えて、ようやく現実的なサイズ感で長時間再生が達成できるようになってきました。このQC35は、満充電で20時間の再生が可能ですので、長旅も余裕ですし、日々の通勤でも週一回の充電くらいで十分です。
ポータブル家電というのは、デジカメやスマホ、タブレットなどを見ても、「毎日使うたびに充電しなくても良い」、というのがターニングポイントというか、技術の熟成の象徴だと思います。
パッケージとデザイン
パッケージは白ベースで、従来のBOSEよりも高級感が増しているように思います。この白背景に商品写真のみというのは、最近のソニー製品とかも同じコンセプトなので、この業界全体で流行っているんでしょうかね。BOSEとしては若干のイメージチェンジ感があるパッケージ |
中身はハードケースに入っています |
スポンジに包まれていました |
付属品はこれだけです |
マイクロUSBと3.5mmアナログケーブル |
パッケージの中にはハードケースがそのまま入っており、付属アクセサリは1.2mの有線接続用3.5mmケーブルと、0.3mの充電用マイクロUSBケーブル、そして機内用アダプタのみの、必要最低限といった感じです。
ハードケース |
イヤホンQC20と比べると、このハードケースの大きさがネックですね |
付属ハードケースはしっかりしたプラスチック製のもので、かなり頑丈です。頑丈なのは良いのですが、サイズが大きいので、ちょっとした出張旅行などではわざわざ持っていくかどうかいつも悩んでしまいます。
BOSEはヘッドホン自体が結構丈夫なので、ここまでハードなケースはいらないのでは、とも思いますが、ライトユーザーの購入者層を考えると、そこそこ高価な買い物なわけですし、よくある巾着袋とかよりはこのハードケースのほうが喜ばれると思います。
QC25のケースとほぼ一緒です |
ハードケースそのものはQC25のものと全く一緒ですが、ケーブル類を収納するポケットが蓋側に追加されているのと、単4乾電池ではなくなったので、スペア電池スロットが無くなりました。
QC35(左)とQC25(右)は全く同じ形状です |
オーディオテクニカATH-MSR7とのサイズ比較 |
ヘッドホンそのもののデザインはQC25と瓜二つで、並べてみても見分けがつきません。装着感は一緒ですが、QC35はワイヤレス用回路が搭載されていることで、QC25の196gに対してQC35は234gと、重量が増加しています。
普段大型高級ヘッドホンを使い慣れている人にとっては、どうということも無い重さだと思いますが、それでも実際に装着して比べてみると、QC35は重く感じます。試しに6時間ほど使ってみましたが、まあ重すぎて苦になるということは無かったですが、「何も装着してないくらい身軽」とまではいきませんでした。
ちなみに公称スペックだとBeats Studio V2 Wirelessは260g、ゼンハイザーMomentumWirelessは256g、ソニーMDR-100ABNが290g、DENON AH-GC20が275gということで、QC35の234gは軽い方です。
リモコンが無い分だけ、QC35のケーブル(左)のほうが細いです |
機能面では、QC25にあった単4乾電池が廃止され、マイクロUSB充電になりました。それと、QC25はリモコンケーブルだったところ、QC35はリモコン機能が本体に搭載されているため、有線ケーブルは細くなっています。どちらも3.5mmステレオ端子ですが、QC25はL字型、QC35はストレート型で、ヘッドホン側の接続端子は2.5mmです。
QC25ではこのように端子が奥深くに入りますが |
QC35では端子が露出しています |
QC25はケーブル挿入部分がスロットになっており、端子をしっかり守るような形状だったのですが、QC35はそのまま直挿しなので、ぶつけたりすると端子が壊れそうで心配です。と言っても実際はワイヤレスで使うことがメインなので、有線ケーブルを使う期会は少ないでしょう。
ちなみに、ワイヤレスと有線の切り替えスイッチなどは無く、ケーブルを接続した時点でワイヤレス再生が一時停止して、有線モードに切り替わります。その状態でもワイヤレス側を再生再開することもできるのですが、有線側から音楽信号を感知すると、有線側に優先的に切り替わります。ようするに、結構スマートに自動検知しています。
QC25と同じ快適なイヤーパッド |
着脱交換は簡単です |
イヤーパッド下の布は両面テープで固定してあります |
イヤーパッドはプラスチックのツメで固定されているので、着脱は容易です。パッドの下はLとRと書いてある布で覆われており、その下にドライバなどがあるのですが、両面テープで固定してあるので無理に剥がそうとすると、もとに戻せません。
イヤーパッドは薄手の合皮なのですが、非常に快適なフィットが得られます。さすが大人気メーカーだけあって、ちゃんと幅広い頭形状をリサーチしたなと思える絶妙なフィット感です。
吸い付きの密閉はあまり強くなく、自然でリラックスした装着感です。たとえばDENON AH-GC20はこのイヤーパッドのモチモチ具合がちょっと過剰過ぎて、耳の閉鎖感というか空気の圧迫がどうしても慣れることができませんでした。ソニーMDR-100ABNはほぼBOSEと似たフィット感ですが、ゼンハイザーMomentum Wirelessは私の頭にはどうしてもフィットできず、ハウジング下部に隙間が空いてしまいました。やはり色々なメーカーのヘッドホンを試してみると、BOSEの設計は素晴らしいと再確認してしまいます。
マイクロUSB充電端子と、Bluetooth操作用リモコン |
Bluetoothリモコン機能は右側ハウジングに集中しており、ボリューム上下と再生(多機能)ボタンという、いわゆる典型的なリモコンボタン配列です。
ボリューム用ボタンと再生ボタンが段差になっているので、手探りでも誤動作が全く無いので快適です。あと、余計な機能のボタンなどが付近に無いため、押し間違いが無いのは嬉しいです。最近B&OやParrotなど、ヘッドホンハウジングそのものが静電タッチセンサーになっているモデルが増えてきましたが、あれは装着時に手に持った時などに誤動作しやすいため、あまり好きではありません。このBOSEのように、必要なボタンだけを確実に押せる設計が一番良いと思います。
Bluetoothペアリング
QC35はNFCを搭載しているので、NFC対応デバイスであればタッチするだけで手軽にペアリングできます。これまでBOSEは大人気SoundLinkスピーカーなどでもNFC未対応だったので、今回のNFC対応には驚きました。変なところにNFCマークがついています |
私のスマホはXperiaなので、早速NFCを使ってみたかったのですが、残念ながら何故か最近Android 6にアップデートしてからNFCがまったく使えなくなってしまったので、認識できませんでした。BOSEではなくXperia側の問題です。(治す方法を知ってる人がいたら教えて下さい・・・)。
Xperia Z3タブレットからは、問題なくNFC接続できました。
電源スイッチがOFF・ON・ペアリングの三段階になっています |
簡単にペアリングできました |
QC35本体のNCのON/OFFスイッチは三段階になっており、奥まで押しこむことでペアリングモードに入ります。この方法であればXperiaとも問題無く接続できました。一旦接続すると、通信レンジは結構広く、スペックでは10mということですが、たしかにそれくらい離れても、多少の遮蔽物があっても音飛びなどは発生しませんでした。Bluetoothワイヤレスヘッドホンの中でもかなり優秀な部類だと思います。
ちなみに、Bluetoothペアリングには最近流行りの音声ガイダンスが搭載されています。ソニーやゼンハイザーのと同じような感じです。ロボット的な合成ボイスですが、意外と色々なことを言ってくれるので、感心しました。
たとえば電源を入れると即座にペアリングを開始して、私のXperia Z3との接続が確立すると「Connected to Xperia Z3」と喋ってくれます。また、マルチペアリングでXperiaとiPhone両方と接続している場合は、「Connected to Xperia Z3 and iPhone 6」なんて言ってくれました。
また、電源投入時や有線ケーブル接続時など、事あるごとに電池残量を「Battery 60%」とか喋って教えてくれます。煩わしい場合は、後述するアプリを使うことで、音声をOFFにしたり、日本語などにすることも可能です。
ペアリングはSBCでした |
ちなみに、重要なことですが、オーディオコーデックは標準のSBCコーデックのみ対応で、AptXなどは使えません。これはソニーなどと比べるとマイナス点です。
そもそもBOSEのヘッドホンは音質がアレなので、AptXの意味はあるのかという論点もあります。ただし、AptXは遅延というかタイムラグがSBCよりもかなり少ないため、ゲームや動画などでは違和感が少なくなるというメリットがあるので、AptX非対応はその方面でダメージが大きいです。とくに音ゲーなどでは、有線やAptXとくらべてSBCではほぼプレイ不可能なくらいの遅延があります。
とは言ったものの、これまで何十台ものAptX対応ヘッドホンやスピーカーを使ってきて感じたことは、まずSBCでもピンからキリまであるので、頭ごなしに音が悪いとは断言できないこと(特にBOSEやJBLなどはSBCでも十分良いです)、それと、成熟して安定志向なSBCとくらべて、AptX接続はスマホデバイスやBluetooth規格対応によってはレンジや接続安定性に難ありなケースが多いため、誤動作やプチノイズなどのトラブルを何度も経験しています。ライトユーザー向けのBOSEとしては、下手にAptXのような高音質機能を搭載するより、意図的にSBCの信頼性を選んだとしても不思議ではありません。
実際AptXに対応しているソニーMDR-100ABNでも、ペアリングするスマホによっては隠しコマンドで強制SBCモードにしないと、音飛びなど、接続が安定しないことが何度かありました。
QC35のBluetoothはマルチポイント接続対応なので、一旦ペアリングしておけば、BOSEいわく二つのデバイスと同時にペアリング状態を維持できるそうです。実際にXperia Z3とiPhone 6で同時にペアリングしてみましたが、問題なく使えました。同時に使えるというのは、二台のスマホのソフトから同時に音が鳴るという意味ではなく、片方の再生を始めると、もう片方の再生が止まる、という仕組みです。
このマルチポイントやマルチペアリング接続に対応していない古いタイプのBluetoothヘッドホンやスピーカーの場合は、現在ペアリングしてあるデバイスを切断するか、電源を落とさないかぎり、次のデバイスとペアリングすらできないため、たとえばスマホとタブレット両方で交互に使いたい場合などに毎回切断・接続作業を繰り返さねばならなくて、イライラさせられます。QC35ではこの心配はいりません。
BOSE Connect
Bluetooth接続をより簡易化するための「BOSE Connect」というiOS・Androidスマホアプリがダウンロードできます。シンプルなデザインのBOSE Connectアプリ |
このアプリが無くてもペアリングは問題なくできますし、30MBくらいの結構大きいアプリなので、必要無い人はわざわざインストールすることも無いと思います。
ただ、このBOSE Connectアプリを使うことで、音声ガイダンスのON/OFFや言語設定が変えられたり(日本語もあります)、ヘッドホンのオートパワーオフタイマー設定、Bluetoothデバイス表示名変更、そして将来的にはQC35本体のファームウェアアップデートなどが行えるそうです。
意外と多くの機能をこのアプリで設定できます |
本体の音声ガイダンスの言語設定や |
待望のオートパワーオフタイマーもついています |
オートパワーオフのタイマーというのは、嬉しいですね。これまで私も電源スイッチを切り忘れていて、いざ使おうと思ったら電池が空っぽになっていた、なんていうミスを何度かしています。
可能であれば、今後もっと色々な機能を追加して欲しいです。ヘッドホンのファームウェア次第でできることとできないことはあると思いますが、たとえばBOSE Connectアプリ上からクロスフィードとか3Dサラウンドやモノラルモードとかが選べたりしたらとても楽しいと思うのですが、どうですかね。
電池
QC25は単4乾電池だったのですが、QC35は内蔵電池をマイクロUSBで充電するタイプです。これは賛否両論あると思います。というのも、単4乾電池であれば、充電時間を待たずに即座に電池交換ができます。大体どんな長旅でもスペアの乾電池が1〜2本あれば十分です。旧モデルQC3では交換可能な専用電池を採用しており、必要であればスペアの電池をBOSEショップなどで購入できましたが、純正品は高価でした。ヤフオクやeBayなどでニセモノの電池が色々売っていますが、信頼性は悪いと思います。今回QC35ではこのような着脱可能な電池は採用されていません。万が一電池が劣化故障した場合は本体の保証で交換ということです。
結局、電池に関しては何がベストなのかわかりません。乾電池とくらべて充電式の待ち時間は煩わしいので、個人的には、B&O H8のように、マイクロUSB充電に対応していながら、電池は交換可能で、しかもLGとかのスマホと互換性があるため手に入りやすい、というのが良いアイデアだと思いました。
充電中はワイヤレスNCが使えません |
ちなみに、QC35は充電中はBluetoothとNC機能がオフになってしまいます。つまり受電しながら活用することは無理です。一応充電中でも有線接続であれば音楽は聴けます。
充電時間はフル充電まで2.25時間だそうです。残量60%の時点で充電して、電流値を図ってみましたが、300mA程度しか流れていなかったので、2Aなどの高出力充電器を使ってもあまりメリットは無さそうです。
再生時間は20時間ということですが、Beats Studio V2 Wirelessは公称12時間、ゼンハイザーMomentum Wirelessは22時間、ソニーMDR-100ABNとDENON AH-GC20は20時間といった感じで、どれも似たり寄ったりです。
NC効果
まずはっきりと言えるのは、アクティブNCの効果はQC25と全く一緒でした。若干QC35のほうが低域の遮音性が高いと感じましたが、それは私のQC25のイヤーパッドが消耗して密閉が悪くなっているとか、ワイヤレス機能のためハウジング内の密度が高いからとか、そういった理由もあるかもしれません。
ソニーMDR-100ABNと比べると、とくに中高域のシャーとかシューという音がBOSEのほうが多めにカットしてくれるため、静粛感が良いです。低音のゴロゴロはソニーのほうがより多くカットしていると思いました。QC35でカットされずに残るのは比較的中低音のモヤモヤしたノイズで、MDR-100ABNで残るのはシュワーという高域です。
個人的には、MDR-100ABNのNC性能は正直あまり好みではなかったです。例えばショッピングモールなどで試聴してみると、どうしても雑踏や会話などのノイズのシュワシュワ、シャカシャカした部分だけがカットされず残って、ノイズが聴き分けやすいというか、そこに健在しているというイメージが強いです。一方QC35のほうが、残ったノイズがどこから来た何なのかわかりにくい感じなので、さほど気になりません。
また、アクティブNCはホワイトノイズが出るのが嫌だというユーザーが多いみたいですが、その場合もQC35のほうがソニーよりも若干有利だと思いました。どちらも完全な無音状態ではホワイトノイズが聴き取れますが、ソニーのほうが「シュー」という感じで、QC35よりも高音が耳につきます。
以前紹介したソニーのイヤホンタイプ「h.ear MDR-EX750NA」がライバルのBOSE QC20と比べてかなり良かっただけに、ヘッドホンタイプMDR-100ABNのパフォーマンスには正直期待していたのですが、実際に使ってみると、それほどの有利性は感じられませんでした。やはりヘッドホンタイプのアクティブNCはBOSE QC25・QC35が現行で最強だと思います。
音質について
BOSEというと、ヘッドホンマニアに言わせると、値段が高いわりに音が悪いヘッドホンの代名詞です。
たしかに、QC35の4万円という価格のうち、3万円はNCやワイヤレス技術のために払っているようなもので、音楽鑑賞の音質は、4万円相当のヘッドホンを期待するのは理不尽だと思います。
とは言ったものの、最近のBOSE製品、特にQC25とQC35は、現状のヘッドホンブームにおける「高音質」とは何か、ということをBOSEなりに入念に調査したらしく、従来のBOSEとは異なる、かなり良いサウンドに仕上がっていると思います。実際このクラスのサウンドが体験できるヘッドホンは、1〜2万円ではなかなか無いでしょう。
ワイヤレスでアクティブNCはONの状態がベストな音質です |
まず初めに言えることは、QC25とQC35のアクティブNC性能はだいたい同じでしたが、音質面でもほとんど同じだと感じました。特に、有線接続でNCをONにした状態であれば、両者のサウンドは全く同じです。
QC25、QC35ともに、アクティブNCをOFFにすると、サウンドがめちゃくちゃになるというか、そもそも周波数特性のフラットさはアクティブ回路で補正することを前提としているため、NC無しではまともに聴けません。帯域ごとに音圧が薄い厚いなど、バラバラです。
QC35のワイヤレスと有線の違いは、思ったより大きく、個人的にはワイヤレスのほうが好みでした。有線の場合は、組み合わせるDAPのアナログ性能に依存するため、一見そっちのほうが有利だろうと思えるのですが、AKなどのDAPを試してみても、ワイヤレスでデジタル送信するほうが良い結果が得られました。
ワイヤレスのほうが有線よりも空間が広がり、高域も若干メリハリが強くなります。なんとなくハキハキとした3D感が増すというか、わかりやすく解像感が上がったような錯覚が得られます。もっとマニア嗜好なヘッドホンであれば、このような「わかりやすい」演出効果は嫌われるのですが、BOSEの場合は利用環境が騒音のうるさい場所であることが多いため、魅力的な音作り演出のほうが好まれます。
ともかく、QC35を使うときは、ワイヤレスでNC ON、という組み合わせが最善だと思いました。
Smoke Sessionsレーベルから、新譜でPeter Bernstein「Let Loose」を96kHzハイレゾ音源で聴いてみました。ジャズギタリストのピーター・バーンスタインによるカルテット録音で、最近では珍しくホットでブルースとハードバップが混ざり合った演奏が楽しいです。
最近のジャズギターというとパット・メセニーのようにエコーを効かせたフワフワサウンドが主流ですが、バーンスタインはウェスやケニー・バレルをリスペクトしたような古臭いサウンドで渋いです。
BOSEの音が悪い、と言われている最大の原因は、高域のロールオフと、過剰な低音ブーストです。アメリカンというか、一般的なアメリカの大衆が好きそうなポピュラー・ロック音楽にマッチするような、意図的なチューニングが施されています。そのため、ジャズギターのような楽器とは相性が良いようです。
サウンドのチューニング自体は、旧モデルQC3やQC15からあまり大きく変えておらず、あいかわらずのまったり系サウンドなのですが、QC25から大幅に進化したのは、サウンドに色艶が乗っていることです。
とくに旧モデルQC15などは、非常に乾燥した面白みの無い音色で、音楽を聴いているというよりは、ニュース番組を見ているかのごとく淡々と物事が進行しているような退屈さがありました。これはNC回路のせいで、音楽に含まれた細部のディテールが削り取られてしまい、全てがベーシックな信号音のみに成り果てた結果のように思いました。なんというかグランドピアノが電子ピアノになったような無機質感です。
この問題点が後継機QC25・QC35ではかなり改善されて、とくにギターなどの弦楽器や、ピアノやヴィブラフォンなどの打楽器系の音が、艷やかで質感豊かに響いてくれます。金属音というか、黄金のような鈍く眩しい響きです。とくにギターのオーバードライブから得られる響きの良さは、「ああ、こういう音を目指しているんだな」と共感できます。
空間表現も明確ではないものの、そこそこ悪くなく、センターのギターの周辺をドラムとピアノがふらふらと宙を舞っているような、リラックスした音響です。良く言えばカフェやレストランから聴こえてくるナイスなBGMといった感じで、悪く言えばカラオケボックスのスピーカーみたいな、距離感はあるけど明確な低位が無いサウンドです。
次に、CD音源から、スタン・ゲッツ&ケニー・バロン「People Time」を聴いてみました。サックスとピアノによるデュオで、雰囲気の良いジャズバーでのライブ・アルバムとして、そしてスタン・ゲッツ晩年の至宝として愛聴されている一枚です。以前からハイライト版として販売されていましたが、2010年に高音質リマスターが施されて、CD4枚の完全版として再販されました。演奏と録音ともにトップクラスに素晴らしいです。
サックスを聴いてみると、やはりQC35特有の趣味の良さというか絶妙な味付けに感心してしまいます。サックスのようなバリバリ鳴り響くサウンドは、QC35の手によってマイルドでスムーズ、バターの如く艷やかに仕上げられて、不快感を感じさせずに音楽が楽しめます。オーバードライブの効いたギターや、しゃがれた男性ボーカルなども同様の効果が得られると思います。
一方、ピアノのようにギザギザが少ないピュアなトーンにおいては、玉鳴り感が得られていないというか、どうにもぼやけたBGMのような不透明さがあります。マイルドにしすぎるのも諸刃の剣だなと思いました。ピアノのアタックが滲んで、ワーンという響きの部分だけが良く伸びています。
勘違いしてはいけないのは、響きの良さとは、高域の伸びやかさとは異なります。QC35は高域の空気感や、プレゼンスと言われる帯域が大幅にカットされており、常に天井のような上限を感じさせます。それと引き換えに、サックスのような楽器では響きの豊かさを得ているという感じです。
とくに、イヤホンQC20などと比べると、格段に空間の広さが感じられるため(前後感や定位ではなく、全体的に距離が遠いので)、NC効果も耳に圧迫感や閉鎖感をもたらさず、快適に過ごせます。
高域のロールオフについては、意図的なもので、多分これ以上高音を出し過ぎるとNCが破綻するという上限があるのでしょう。
とくに、BOSE QuietComfortシリーズ全体の弱点として、NC効果の強さと音楽の高音部分か少なからず連動しているように感じてしまいます。具体的には、NCがカットしているノイズというのは、バスのエンジン音や、電車のガタンゴトンだったり、周期性のあるノイズがメインになると思うのですが、これらと音楽の音色が干渉してしまいます。
高域はとくに、NCのゆらぎによって、明確なバシッというフォーカスが定まらないため、常にぼやけたように聴こえます。実物ではなく、水面に映し出された虚像のごとく、現実味が無いというか、アタックがふらふらと揺れて定位置についてくれません。
とくに周囲の騒音ノイズが強くなると、その水面に一石を投じて波立つかのごとく、一音一音の響きも波立ってしまいます。サックスのようなギザギザな波形では気がつかないことでも、ピアノ・ソロなどを聴くと顕著に現れます。シャープなアタック感を期待しているところで、QC35では打鍵音がほとんど聴き取れず、音色だけが蜃気楼のごとく鳴っている感じです。
この高域の処理をもっとクリアな方向に改善しようとすると、ソニーMDR-100ABNのごとく高域NC性能が犠牲になるみたいなので、まだ現段階ではアクティブNCにはずいぶん改善の余地があるようです。
QC35は、低域の量感はたしかに多いのですが、ドスンど体感できるサブウーファー的な低音ではなく、もっと鈍い、遠くの鐘が鳴っているようなゆるい低音です。
以前のBOSEであれば、この低音が耳全体を覆うような間近な音場で発せられるため、低音以外の音が濁ってしまったのですが、QC25・QC35ではNC ONの状態であれば、周囲の空間に余裕があるため、低音が「強烈」というよりは「豊か」な、邪魔をしないゆったりとしたサウンドを演出してくれます。
ここがBeatsなどと差別化しているところで、BOSEのイメージである「大人なサウンド」を誇示できている部分だと思います。
要するに、限りなく「フラット」な技術者肌というよりは、「演出上手」なセールスマン肌といった傾向なのですが、それが悪い印象を与えないのがBOSEの上手なところです。
現在一番身近なライバルというと、やはりソニーMDR-100ABNがありますが、個人的にはQC35のほうが好みです。MDR-100ABNが発売した際も、そろそろBOSEのライバル機が発売されるだろう、と考えて、ソニーのほうはとりあえず様子見を続けていました。
イヤホンのMDR-EX750NAがとても良かったので、MDR-100ABNにも過度な期待を持っていたからかもしれませんが、NC性能と音質の両方に満足できませんでした。本来ならブログでレビュー記事でも書こうと思っていたのですが、どうしても好きになれなかったため、悪口を書くために記事を書くのもためらわれて、中止しました。基本的に、良かったと思う商品しかレビューしないようにしています。
NC性能の違いについては前述のとおりですが、ソニーは音質もなんか不思議な仕上がりでした。通常、アクティブNCヘッドホンというと、NC ONにした状態のほうが音質が良いように設計されているのですが、MDR100ABNの場合は、NC OFFのほうが高音質でした。
というか、NC OFFであれば、MDR-100Aと同じようなサウンドなので、MDR-1Aなど直系の、ソニーらしいクリアで解像感の高い、分析的サウンドには大変満足できました。しかし、MDR-100ABNはいざNCをONにすると、過剰なまでの低音ブーストがかかり、定位がめちゃくちゃになってしまい、思いっきり前面に迫り出してくる下品なチューニングになってしまいます。この低音の乱れさえ無ければきっと良好なサウンドだと思うので、非常に残念です。これに比較すると、低音が強いと言われているBOSEといえども、よほどマイルドでバランスよく聴こえます。
ところで、話はそれますが、同時期に海外で発売されたオーディオテクニカのATH-MSR7NCというモデルが結構面白かったです。高評を得ているATH-MSR7をベースに、アクティブNCを追加したモデルです。残念ながらワイヤレスではないので、ソニーでいうところのMDR-1R、MDR-1RNCの関係みたいなものです。オーテクというのはなんとなくいつも一歩遅れている感じがしますね。ちなみにワイヤレスのATH-SR5BTという、MSR7の弟分みたいなモデルもあります。
ATH-MSR7NCですが、このヘッドホンが面白い点は、これまで試してきた数多くのアクティブNCヘッドホンの中で、一番「NC ON OFF時の音質差が無い」ヘッドホンだと思います。サウンドの基本はMSR7なのですが、NCをONにしても、何も変わったように思えず、「あれ?NC ONになってる?」と不思議に思ってしまいます。NCの消音効果は申し訳程度で、BOSEやソニーの足元にも及ばないのですが、それでも効いていることは効いているので、ここまで音質差が無い(むしろNC ONになっていることを気づかせない)音響デザインに感心します。
話をBOSE QC35に戻しますが、様々なアクティブNCヘッドホンを使ってみてもやはりBOSEの優位性は拭えないため、まだまだ他社による追い上げは続きそうです。
新たに導入されたBluetoothワイヤレス機能も、以前からSoundLinkシリーズなどで長年培ってきた技術なので、新モデルにありがちな不具合などは見つかりませんでした。特にスマホなどとの接続環境や、専用設定アプリの存在など、抜け目の無い安定志向のデザインです。SBCのみでAptX未対応なのは、動画やゲームでの遅延を思うと残念です。
サウンドに関しては、旧モデル勢よりはだいぶ良くなったとは思いますが、それでもあいかわらずBOSEらしいマイルドで中低域重視のサウンドなので、気にいるかどうかは結構意見が別れると思います。
エッジや刺さりが無く、ぼやけた暖かいサウンドなので、今後BOSEがヘッドホンマニアに受け入れられるためには、もうちょっと解像感が欲しいところです。
結局のところ、BOSEのヘッドホンというのは、同社のワイヤレススピーカーなどと同様に、ピュアオーディオを目指していないと思います。BOSEを使うユーザーの大半は、きっと音場がリアルなクラシックやジャズのハイレゾ新譜などではなく、ベタッとしたストリーミング圧縮音源を聴くことが多いと思います。また、音楽以外でも、スマホのゲームや動画を観覧するなど、幅広い用途で使われる、通勤や旅行の友としての役割を果たしています。
BOSEに高解像なサウンドを求めても意味が無いというか、それよりもYoutube動画でも、ゲームの効果音でも、マイルドで暖かいサウンドで楽しめたほうが良いでしょう。
つまりBOSEのサウンドにスタジオモニターを期待するのは「のれんに腕押し」感が強いので、オーディオマニア的なBOSE悪者論は、時間の無題だと思います。HD800を飛行機内の騒音下で使えるわけはないですし、遮音性の高いカスタムIEMは万人受けせず高価です。
そもそも騒音下で使うことを想定した、なんでも楽しめるヘッドホンとしての存在意義は、BOSEが一番良い選択肢だという現状は未だ変わっていないようです。今回QC35でワイヤレスになったことで、より一層自由度が増したQuietComfortシリーズは、まだ当分リーダーシップの座を失わないと思います。
イヤホンのMDR-EX750NAがとても良かったので、MDR-100ABNにも過度な期待を持っていたからかもしれませんが、NC性能と音質の両方に満足できませんでした。本来ならブログでレビュー記事でも書こうと思っていたのですが、どうしても好きになれなかったため、悪口を書くために記事を書くのもためらわれて、中止しました。基本的に、良かったと思う商品しかレビューしないようにしています。
NC性能の違いについては前述のとおりですが、ソニーは音質もなんか不思議な仕上がりでした。通常、アクティブNCヘッドホンというと、NC ONにした状態のほうが音質が良いように設計されているのですが、MDR100ABNの場合は、NC OFFのほうが高音質でした。
というか、NC OFFであれば、MDR-100Aと同じようなサウンドなので、MDR-1Aなど直系の、ソニーらしいクリアで解像感の高い、分析的サウンドには大変満足できました。しかし、MDR-100ABNはいざNCをONにすると、過剰なまでの低音ブーストがかかり、定位がめちゃくちゃになってしまい、思いっきり前面に迫り出してくる下品なチューニングになってしまいます。この低音の乱れさえ無ければきっと良好なサウンドだと思うので、非常に残念です。これに比較すると、低音が強いと言われているBOSEといえども、よほどマイルドでバランスよく聴こえます。
ところで、話はそれますが、同時期に海外で発売されたオーディオテクニカのATH-MSR7NCというモデルが結構面白かったです。高評を得ているATH-MSR7をベースに、アクティブNCを追加したモデルです。残念ながらワイヤレスではないので、ソニーでいうところのMDR-1R、MDR-1RNCの関係みたいなものです。オーテクというのはなんとなくいつも一歩遅れている感じがしますね。ちなみにワイヤレスのATH-SR5BTという、MSR7の弟分みたいなモデルもあります。
ATH-MSR7NCですが、このヘッドホンが面白い点は、これまで試してきた数多くのアクティブNCヘッドホンの中で、一番「NC ON OFF時の音質差が無い」ヘッドホンだと思います。サウンドの基本はMSR7なのですが、NCをONにしても、何も変わったように思えず、「あれ?NC ONになってる?」と不思議に思ってしまいます。NCの消音効果は申し訳程度で、BOSEやソニーの足元にも及ばないのですが、それでも効いていることは効いているので、ここまで音質差が無い(むしろNC ONになっていることを気づかせない)音響デザインに感心します。
話をBOSE QC35に戻しますが、様々なアクティブNCヘッドホンを使ってみてもやはりBOSEの優位性は拭えないため、まだまだ他社による追い上げは続きそうです。
おわりに
BOSE QC35は、単純にQC25からケーブルの煩わしさを取り除いただけのモデル、といったコンセプトなので、NC性能と音質ともにQC25とソックリでした。ワイヤレスモードではQC25よりも若干クリアさが増すようにも思えます。新たに導入されたBluetoothワイヤレス機能も、以前からSoundLinkシリーズなどで長年培ってきた技術なので、新モデルにありがちな不具合などは見つかりませんでした。特にスマホなどとの接続環境や、専用設定アプリの存在など、抜け目の無い安定志向のデザインです。SBCのみでAptX未対応なのは、動画やゲームでの遅延を思うと残念です。
サウンドに関しては、旧モデル勢よりはだいぶ良くなったとは思いますが、それでもあいかわらずBOSEらしいマイルドで中低域重視のサウンドなので、気にいるかどうかは結構意見が別れると思います。
エッジや刺さりが無く、ぼやけた暖かいサウンドなので、今後BOSEがヘッドホンマニアに受け入れられるためには、もうちょっと解像感が欲しいところです。
結局のところ、BOSEのヘッドホンというのは、同社のワイヤレススピーカーなどと同様に、ピュアオーディオを目指していないと思います。BOSEを使うユーザーの大半は、きっと音場がリアルなクラシックやジャズのハイレゾ新譜などではなく、ベタッとしたストリーミング圧縮音源を聴くことが多いと思います。また、音楽以外でも、スマホのゲームや動画を観覧するなど、幅広い用途で使われる、通勤や旅行の友としての役割を果たしています。
BOSEに高解像なサウンドを求めても意味が無いというか、それよりもYoutube動画でも、ゲームの効果音でも、マイルドで暖かいサウンドで楽しめたほうが良いでしょう。
つまりBOSEのサウンドにスタジオモニターを期待するのは「のれんに腕押し」感が強いので、オーディオマニア的なBOSE悪者論は、時間の無題だと思います。HD800を飛行機内の騒音下で使えるわけはないですし、遮音性の高いカスタムIEMは万人受けせず高価です。
そもそも騒音下で使うことを想定した、なんでも楽しめるヘッドホンとしての存在意義は、BOSEが一番良い選択肢だという現状は未だ変わっていないようです。今回QC35でワイヤレスになったことで、より一層自由度が増したQuietComfortシリーズは、まだ当分リーダーシップの座を失わないと思います。