2016年8月11日木曜日

Final Audio Design F7200 F4100 F3100 Etymotic Research ER4SR ER4XRの試聴レビュー

Final Audio DesignのF7200、F4100、F3100、Etymotic ResearchのER4SR・ER4XRを一気にまとめて試聴してきました。どれも2016年7月に発売されたニューモデルです。

Final Audio F7200, F4100, F3100

Etymotic Research ER4SR, ER4XR

バランスド・アーマチュア(BA)型ドライバをシングルで搭載した新型イヤホンで、価格帯もそこそこ近いため、いざ購入するとなると、どれを選ぶべきか悩ましいです。結論から言うと、どちらも良かったです。

Final Audioは価格で分けた3モデルで、2万円のF3100、3万円のF4100、そして5万円のF7200といったラインナップです。Etymotic Researchのほうは、超ロングセラーER4シリーズのリニューアル品としてデザインを継承しながら、レファレンスチューンのER4SRと、リスニング向けに低域を豊かにしたER4XRという二つの兄弟モデルを発売しました。どちらも5万円程度です。

双方ともIEMイヤホンにおいては長い経験と実績を持っているメーカーなので、今回のニューモデル登場はずいぶん話題になりました。とりあえずどんなものかと興味本位で試聴してみたのですが、想像以上に進化したサウンドに驚かされました。


Final Audio Design F7200 F4100 F3100

Final Audio Designは日本のヘッドホンメーカー勢の中では群を抜いてマニアックなブランドだと思いますが、私はこれまであまり縁がありませんでした。

4万円のSonorous IIと、63万円のSonorous X

ヘッドホンではSonorous (旧Pandora)シリーズというのが有名で、個人的には最近発売されたSonorous IIIのサウンドを聴いてかなり好きになりましたが、それ以前のモデルは最上級のSonorous Xを含めて、どれもチューニングの個性が強すぎて、購入には至っていません。

アンプや楽曲との組み合わせで、絶妙にマッチするときと、壊滅的に合わないときの差が大きすぎるのが難点です。デザインや装着感を含めて、商品そのものの完成度は非常に高いと思います。

ジュエリー感が強いHeavenシリーズ

Final Audioのイヤホンというと、一万円以下の「Adagio」シリーズは未聴ですが、シングルBA型では「Heaven」シリーズというのがあります。一万円のHeaven IIから6万円のHeaven VIまで展開しており、今回のニューシリーズとそのまま価格帯がかぶるので、今後ラインナップがどう整理されるのか気になります。

Piano Forte IIとPiano Forte X

また、ダイナミックドライバ搭載の「Piano Forte」シリーズは、5千円のPiano Forte IIから、25万円もするPiano Forte Xまであり、よくここまでラインナップを広げたなと懐の深さに感心します。Piano Forteの高級モデルは、金属のヒョウタンみたいなユニークな形が、一目見たら忘れられません。Final Audioというと、この変なイヤホンを思い浮かべる人も多いと思います。

私自身、各モデルを何度か試聴する期会がありましたが、やはりヘッドホン同様に、響きやアタック感を強調したクセの強いサウンドのものが多く、かなり人を選ぶチューニングだと思いました。

よく冗談半分で言われているのは、年寄りになると高音域の空間要素が聴こえにくくなってくるので、GradoやFinal Audioみたいなシャープなサウンドの方がリアルに聴こえるようになるらしいです。まあなんにせよ、独創的で個性豊かなメーカーであることに変わりありません。

FI-BA-SS

個人的にFinal Audioで一番印象的だったのは、FI-BA-SSというステンレス削り出しのイヤホンです。12万円くらいの高価なモデルで、見た目は家電店のワゴンセールで売ってそうなピカピカの砲弾型デザインなのですが、いざ手にとって見ると、精巧な仕上がりは一級品で、サウンドもかなり濃厚でパンチが効いており、一種の麻薬的な音色の魅力を感じさせます。

左からF3100、F4100、F7200

今回登場したF7200、F4100、F3100は、どれもインピーダンスが42Ωと統一されており、無駄な要素を省いたシンプルなフォルムです。これまでのFinal Audioほどのゴージャスなジュエリー感はありません。とくに無骨なMMCXコネクタが、何となくDIYというか自作キットみたいなストイックさを醸し出します。

Final Audio Design F7200

出音部分はメタルのグリルになっています

トップモデルのF7200のみが銀色の鏡面仕上げで、金のコネクタ、銀のケーブルと合わせて、Final Audioらしいキラキラ感は継承しています。つなぎ目の見えないスムーズなボディで、イヤピースを外すと、出音面は小さな穴が空いたグリル形状になっています。

F4100もMMCXですが、ケーブルはF3100とそっくりです
F3100はケーブル固定です

下位モデルはどちらもマットブラックです。本体の質感はやはり銀色のF7200が特筆して優れており、F4100とF3100はどちらも地味なザラザラした手触りが若干チープです。値段相応といったところでしょうか。

F7200の付属品と、謎の円盤

ところで、余談になりますが、今回は試聴のみだったのでパッケージとか付属品などについてはあまり真面目に見なかったのですが、付属していたケースが奇妙だったので、ついつい写真におさめてしまいました。

謎の円盤は収納ケースでした

裏側も収納スペース(?)になっています

これまでのFinal Audioイヤホンは、ごく一般的なジッパー付きのナイロンセミハードケースみたいなのが多かったのですが、今回はシリコンゴム一体成形のUFOみたいなやつです。

手触りは、中華の露天で売ってるスマホケースというか、FiioのDAPに付属してたみたいなフニャフニャのシリコンで、外周にケーブルをグルグル巻きつける仕組みです。

若干めんどくさいですが、変に気張ったレザーケースとかよりも実用性は高いかもしれません。(汚れたり傷がついても気にならないですし)。とにかくユニークです。

Etymotic ER4SR SR4XR

全くの新デザインのFinal Audioと比べると、今回のEtymoticの場合はニューモデルというより、従来機の延長線みたいな感じです。そのため、これといってデザイン上の語るべきポイントが少ないです。

Etymoticのイヤホンというと、古くはヘッドホンブーム到来以前、高級イヤホンというジャンルで至高の存在としてマニアにもてはやされていました。補聴器のメーカーとして優れた技術とノウハウを蓄積していたEtymotic Research社が、音声業務用のレファレンスモニター級イヤホンを作ってみたら、オーディオマニアの目に留まって予想外の大好評を得てしまったといったという流れです。

業務用感の強い、初期のER4S

ちょうどiPodとかMP3プレイヤーとかのブームが意識されだされた頃だったので、その当時は国産品だとソニーのMDR-EX90とかのいわゆる「耳のせ」タイプが高級と言われており、まだまだShureなどのマルチBA系IEMスタイルは一般的に普及していなかったころです。

いかにもiPodブームに載せてきたER6i

私自身も当時iPodのために、下位モデルのEtymotic ER6を購入して、「なんだかすごい高い買い物をした」、「一生ものの高級イヤホンを手に入れた」とドキドキしていたのが良い思い出です(すぐ断線して壊れましたが・・)。

Etymoticの代表的イヤホンER4シリーズは、初代モデル以降、周波数特性をよりモダンにしたER4Sにマイナーチェンジ(この辺の事情については以前ちょっと書きました→フラットな音色のヘッドホンとは?)、さらにポータブルオーディオブームに便乗してインピーダンスを下げ大音量を出しやすくしたER4P(ER4PT)、それから下位モデルのER6が登場しました。最近ではhf3やhf5など、一万円台のカジュアルイヤホンも人気です。ダミーヘッドのバイノーラル録音に特化したER4Bなんてマニアックなのもあります。(そういえば最近「バイノーラル」って聞かなくなりましたね・・)。

ER4Pが登場したのは2005年くらいなので、約十年間継続して販売されていたことになります。超ロングセラーですね。現在でもネットレビューや、「バイヤーズガイド」的な媒体で高評価なので、ER4S、ER4Pのどちらも安定して売れ続けています。

左からER4SR、ER4XR、旧モデルのER4P

ER4Sのインピーダンスは100Ω、ER4Pは27Ωだったのですが、今回の新型は、ER4SR、ER4XRともに45Ωだそうです。

ドライバの感度はほぼ変わってないようなので、1kHzでのスペックは、ER4Sは90dB/0.1V、ER4Pは102dB/0.1V、そしてER4SR、SR4XRが98dB/0.1Vということなので、ほぼインピーダンスどおり、ER4SとER4Pの中間的なスペックに仕上げたみたいです。(dB/0.1Vなので、dB/Vだと+20dB足します)。

ER4Pの27Ωくらいインピーダンスが低いと、たしかに貧弱なアンプでも大音量が期待できるのですが、アンプの相性問題や周波数特性の安定感が犠牲になるため、あまり低すぎるのもダメだということで落ち着いたのが今回の45Ωというスペックなのでしょう。(インピーダンスに関しては以前ちょっと書きました→ヘッドホンアンプの出力とか、インピーダンスについて

さすがに新世代モデルということで、デザインもモダンに一新されました。かなりプロフェッショナルっぽい出で立ちで、カッコいいです。

スポーツ用品みたいなカッコいいフォントです

イヤホン本体そのものはこれまでのER4S、ER4Pと同様のメタルボディで、ブラックの塗装が施されています。そういえばER4Sのかなり古いバージョンは本体がプラモみたいなプラスチックでしたが、壊れやすいということで数年前にメタルに変更されてました。

注目点としては、従来機の特殊2ピンケーブルではなく、最近主流になってきたMMCXに変更されていることです。

今回は本体にモデルネームが大きく印刷されているので、どのバージョンか混乱することもないです。ちなみに本体に書いてあるとおり、XRは「eXtended Response」SRは「Studio Reference」の略称のようです。

装着感

どちらもコンパクトなシングルBA型IEMなのですが、それぞれのフィット感は大きく異なります。

Final Audioの方が本体が短いため、ケーブル部分が耳穴から飛び出さず、邪魔になりません。個人的に、「ベッドとかで横向きになっても耳が圧迫されない(そして音が変わらない)イヤホン」というのを長年探し求めているのですが、このF7200はトップクラスの理想形だと思いました。リスニング中、耳を覆うように手を当てても、一切サウンドが乱れず、不快な圧迫感もありません。非常に快適です。

いわゆるソニータイプのシリコンチップ

イヤピースが一般的なソニーサイズなのも嬉しいです。つまり、見かけによらず装着感はゼンハイザーCXシリーズとか、スマホに付属している安っぽいイヤホンなどと同じくらい軽快で手軽です。また、簡単にパッと耳に装着しただけで、左右の定位感がピッタリ合うのが不思議でした。まったく手間をとらせず、期待以上に手軽に使えるイヤホンだということに驚きました。

シリコンチップの中の部分はゾイドのキャップみたいな珍しい形状です

付属シリコンとSpinFitでは、出音面の距離が全然違います

ちなみに、上記写真のように、イヤホン本体の中間くらいに、イヤピース脱落防止のため若干の出っ張りがあるので、純正のシリコンチップの場合、ここからさらに奥へグッと押し込まないといけません。そうすることで、イヤホンの出音面がシリコンチップの前面ピッタリになります。

一方SpinFitを装着してみたところ、上記写真のあたりでストップしてしまうため、純正チップと比べてドライバが鼓膜から離れて、サウンドに影響を与えます。SpinFitの方が出音がマイルドでサラウンド的な広がりを見せますが、低音が損なわれてしまったため、今回の試聴には純正の付属シリコンチップを使いました。

コンプライとか本体奥まで入りすぎないようストッパーです

コンプライなど一部のイヤピースは、本体の一番奥まで挿入出来てしまうので、その場合は付属の黒いゴム部品を使うことで、それ以上奥へ押し込まれないようストッパの役割を果たします。

ER4SR(上)とER4P(下)

一方Etymoticの方は、これまでのER4シリーズと同様に、細長い金属製のチューブ形状で、Shureと同じ長いイヤピースを使うタイプです。装着感に関しては、従来型とまったく変わりません。

Final Audioと違って、気楽にパッと装着しただけでは左右の出音バランスがバラバラになってしまうので、確実なステレオイメージを形成するためには、いわゆる「Etymotic装着の儀式」を行なわなければなりません。反対側の手を頭の後ろから回して外耳を上に引っ張りながら、イヤホンをグーッと奥深くまで挿入していきます。

↓ Etymoticの公式サイトにて、濃い顔のオッサンによる装着方法動画がありました。



私自身、ここ10年くらいEtymoticを装着することなんてほぼ無かったので、今になってやってみたら、懐かしさがこみ上げてきました。今回はせっかくのEtymoticということで上記写真の三段キノコを使ってみましたが、やっぱり慣れないと耳が圧迫されて不快ですね。当時も1ヶ月ほど使い続けていて、ようやく体が慣れた覚えがあります。

ちなみに、音質的には三段キノコがベストでした。ここで苦難を乗り越えないと、良い音は得られません。不快だからといって奥に押し込まずそっと耳元に置いただけだと、中低音のメリハリが無いスカスカサウンドになってしまいます。レビューなどを読んでいると、ちゃんと装着せずに聴いたのかもな、と思わしきインプレッションが意外と多いです。

慣れるとわかるのですが、指でイヤホンをグーッと押し込んでいくと、「本当にここまで入れて大丈夫なのだろうか?」と思うくらい耳の奥に入っていきます(もちろん個人差があるので、無茶は推奨しません)。外すときに三段キノコが耳の中に残ってしまい、取り出すのに苦労するなんてことがあるくらいです。

ちなみに、この独特な装着感のせいで、利用するイヤーチップの形状によってかなりサウンドが変わってしまうのもEtymoticの面白い部分です。三段キノコを二段にカットしたり、コンプライを試したり、試行錯誤するのもオーディオマニア論議が盛り上がります。重要なのは「個人差がある」ということなので、何が正解か、持論をあまり周りに押し広めるのも迷惑かもしれませんね。

Final AudioとEtymoticの両者を装着して比べてみたところ、個人的には、Final Audioの方がフィットの快適具合は圧勝でした。

とくに想定外だったのは、F7200とF4100はMMCXコネクタの部分でケーブルがグルグル回るようになっていることが大きなメリットになっています。

じつは一般的なイヤホンが耳から外れやすい最大の理由は、ケーブルが色々な方向に引っ張られた際に、イヤホンが耳の中で回転しようとして、イヤピースが本来の位置からズレてしまうからです。その点、このFinal Audioの場合、どの角度にケーブルが引っ張られても、MMCX端子が回ることで、イヤホンそのものは回転することがないため、ピタッと安定していてくれます。

MMCXではないF3100ではこれが実現できないため、歩きまわってみたらF7200やF4100よりも若干外れやすいというか、音像が乱れやすいようでした。

Etymoticの方は、耳奥に挿入すればそう簡単に外れたりはしないのですが、やはり過剰な耳栓効果があるので、動きまわるとガサゴソと自分自身の体の騒音が耳障りです。じっとしている分には静かですが、普段はシュアーがけのようにケーブルを耳の上を回す必要があるみたいです。

ところで、今回両ブランドを試聴していて、遮音性について気がついたことがあります。

これまでEtymotic ER4Sなどのレビューを読むと、「他のイヤホンと比べて遮音性が非常に高い」といったことが評価されています。しかし、これは個人的な感想ですが、実際はそこまで遮音性が高いとは思いませんでした。

たしかに、2000年当時の耳置き型イヤホン(アップルの白いやつとか)と比べるとEtymoticの方が断然遮音性が高いです。しかし、ここ数年の新型マルチBA型IEMなど、シェル形状やイヤピースの角度なんかもかなり熟成されたデザインが続々登場しているため、それらでも十分な遮音性が得られていると思います。

Etymoticを三段キノコでグッと挿入しても、完全に遮音するというわけではないですし、逆に衣服のこすれるガサゴソ音や、血液のゴーッという音、息を呑む音なんかが目立ってしまい、耳穴を人差し指で塞いでいるような「閉鎖的」な違和感を感じます。

最近のイヤホンは、そのような閉鎖感を感じさせず、スピーカー的とまではいかなくても大型ヘッドホンくらいの快適さで音楽を楽しめるように進化しています。つまり、あえて遮音性という点のために今更わざわざEtymoticで苦労することも無いかな、なんて思いました。

もちろんFinal Audioと比べると、Etymoticの方が遮音性は高いですし、慣れれば耳栓代わりに使えるEtymoticを高く評価する人も多いです。

MMCXコネクタとケーブル

今回の新モデルでは、Final AudioのF7200とF4100、そしてEtymoticはER4SR・ER4XRの両方でケーブルがMMCX方式の着脱可能タイプになりました。Final Audio最下位モデルF3100のみが固定式ケーブルです。

どちらもケーブルを外した状態のイヤホンは完全なる左右対称の筒状なので、どちらが左か右かといった区別は無いようです。本体の印刷ラベルに左右の違いはありますが、どっちがどっちでも本来音は変わらないはずだと思います。ケーブルにはちゃんとL/Rが刻印されています。Final Audioの場合、手探りでケーブルのMMCX付近に突起がある方が左です。

MMCXですがL字型です

一般的なMMCXケーブルだと装着感が悪いです

MMCXということで色々と夢が広がるかと思いますが、実際は社外品ケーブルとの互換性はほぼ無いようなものです。Final Audioの場合はケーブル側のコネクタがL字なので、他の一般的なケーブルを使うと左右に突き出して不格好で、装着感が安定しません。

イヤホンではこのようなL字型のMMCXというのは珍しいですが、産業用の同軸SMCとかMMCXはL字がよく使われます(無線のアンテナとか)。

一応MMCXですが、本体側に枠があります

このタイプのケーブルだと奥までカチッと挿せません

一方Etymoticの方は本体側ハウジングにくぼみがあり、そこにピッタリ収まる形状のケーブルでないと接続できません。ためしにCampfire Audioのケーブルを接続しようとしても、ぶつかってしまい無理でした。

ちなみにEtymoticは溝の形状のおかげでケーブルがグルグル回転しないようになっています。一方Final Audioのほうはコネクタ部分が自由にグルグル回ります。耐久性という点では回らないほうが良いのでしょうけど、前述のとおり、回るFinal Audioの方がフィットの安定具合は良かったです。

F7200の付属ケーブルはかなり良さそうです’

3.5mm端子も独自デザインで高級っぽいです

ちなみにFinal Audioのケーブルは、最上位のF7200のみかなり高級そうな銀色のケーブルが付属されています。銀コートOFCと書いてありました。一方、F4100とF3100は表面がスルスルした黒いビニール製で、OFCだそうです。こっちはこっちで、まとわりつかなく手触りは良好です。

旧ER4シリーズから若干進化したケーブル

Etymoticのケーブルは旧タイプのER4と比べると若干モダンになった感じで、左右分岐点はカッコいいメタルのシリンダーみたいな形状になっています。

一応音は出ますが、装着感は最悪です
Etymoticはまあまあ他のイヤホンにも接続できますが、装着感は悪いです

せっかくMMCXなので、これらのケーブルがどんなものか、ためしにCampfire Audio Andromedaに装着して試聴してみました。装着感は最悪ですが、一応音は出ます。

試聴の結果、F7200のケーブルはCampfire付属のケーブルと同程度というか、普段通りのサウンドで満足に楽しめました。F4100のケーブルも多少線が太く滲む傾向ですが、無難で癖の少ない感じが悪く無いです。Etymoticのケーブルはそれらと比べると若干素朴というか、帯域とダイナミクスともに絞られるようなもどかしさがありました。

Etymoticのコネクタ部分は、社外ケーブルでも外周をちょっと削ればカチッと入ると思うので、色々と良いケーブルを試してみるとサウンドも結構変わる予感がします。

音質について

Cowon Plenue Sで試聴してみました。各モデルの能率はごく一般的な部類で、DAPやスマホなどでも十分な音量が引き出せます。

Cowon Plenue Sで使ってみました

大まかなサウンドの傾向としては、Final Audioの各モデルは音色の美しさを重視した音作りです。周波数帯域のレンジは若干狭く、特に低音は心許ないですが、自然で聴きやすいため不満は感じません。シングルBA型としては珍しく、意外にも音像が前方寄りで、普通のダイナミック型イヤホンに似た、一歩退いたリラックス感が味わえます。BA型をベースに、ダイナミック型っぽさも合わせて、Final Audioらしさをプラスした魅力的な仕上がりです。

Etymoticのほうは、低音から高音まで十分に出しきれている感じですが、Final Audioほど音色の魅力は感じられず、より攻撃的でダイレクトな音色です。低域も無駄な響きが無いため、豊かな量感というよりはパンチが強いです。一音一音のメリハリが強いので、「全部聴かせる」モニター系サウンドと言えるかもしれません。ただし「モニター=フラットで繊細」だと想像していると、期待を裏切られるかもしれません。

Etymoticの音像は完全なる脳内定位で、各楽器が頭のなかに点々と散らばっているようです。とくに、最近のイヤホンを聴き慣れていると、このEtymoticの過激な脳内音像は違和感が大きいです。今までイヤホンでの「音像配置」を気にしていなかった人でも瞬時に気がつくほど、他社と比べてEtymoticは特殊です。スピーカーやヘッドホンと全く異なる、宇宙遊泳をしているかのような「自分を中心とした」脳内体験です。

もちろん脳内定位が悪いというわけではありませんし、ここまで明確な音像が形成できるのは左右ドライバの特性やマッチング精度が高いことによる賜物だと思うので、評価できる点でもあります。しかし、一般的なイヤホンサウンドと大きくかけ離れていて、受け入れ難いと思う人もいるかもしれません。

各モデルの音色は似ています

Final Audioの話に戻りますが、各モデルを比較してみたところ、やはりというか、案の定、最上位のF7200が一番好みのサウンドでした。

各モデルの音色の傾向はそこそこ似ており、一番安いF3100だからといって全く別物だとか、音が悪いということはありませんが、価格なりに音質の違いもあります。

F7200と比較すると、F3100が不足しているのは高域の伸びと、音像の立体感や奥深さだと思います。F3100のほうが音が丸く平面的で、ごく普通のイヤホンといった感じです。しかし変な響きとか、チューニングの乱れみたいな問題点は感じられないので、仕上がりは上等です。もうちょっと響きの伸びが充実して、繊細さが出せればな、なんて思ってしまいますが、コスパは高いです。

F3100とF4100のサウンドは結構似ているので、純粋にMMCXコネクタの有り無しで選ぶのも良いと思います。細かいことを言えば、F4100のほうが空間的に発散しており、高域もF3100より出ているようです。一音ごとの分離が良く、左右の広がりなんかが出やすいですが、ちょっと奔放で落ち着きが無く不安定で、予測不能だとも言えます。

F7200になると、F4100よりも一層高域がクリアになりますが、その仕上がりの良さが絶妙です。落ち着きの無さは解消され、ちゃんと各音があるべき場所にピッタリと配置されます。つまり響きの乱れや、干渉が少ないのでしょうか。左右の広がりは若干控えめになり、逆に、リスナーの前方に、センター寄りで奥深い立体音場を形成してくれます。ゼンハイザーIE800ほどではありませんが、それに近い方向性の空間表現です。シングルBA型でここまで出来るのは非常に優秀です。

また、低音は控えめですが、高域が目立つわけではなく、金属ボディでありながら、FI-BA-SSであったような金属的なキンキンの刺激音はかなり控えめになっています。従来のFinal Audioらしさは残しながらも、より「普通の」サウンドに近づいたと思います。

ER4XRの方が好きでした

Etymoticの二つのモデルでは、個人的にはER4SRよりもER4XRのほうが好みの音質でした。

モニター調のER4SRと比較して、より低音が増したER4XRということで、低音が盛られたドンシャリのストリート系ヘッドホンなんかを想像するかもしれませんが、実際は低音のブースト量はごくわずかです。

それよりも、全体的な音色のプレゼンテーションが豊かになったような感じです。私にとって、普段聴き慣れているヘッドホン(K812とかDT1770とか)に近いと思ったのはER4XRの方で、ER4SRはちょっと線が細すぎて退屈に感じました。

とても重要なポイントですが、低音がブーストされているといっても、よくバスレフ構造などでありがちな、特定の周波数にピークが生じているようなブーストではなく、1kHz以下の全帯域がまんべんなく+3dB程度持ち上がっているような上品な仕上がりです。

つまり、何らかのクセやサブウーファー的な共振のような不快感は一切起こらず、音色全体が色彩豊かに聴こえる効果があります。たとえばゼンハイザーHD600とHD650の違いのような感じかもしれません。

もうひとつのポイントは、ER4SRは旧ER4Sの正当な進化といった感じですが、ER4XRは旧ER4Pとは全く異なるサウンドでした。どちらかというと、ER4Sの系統です。

ER4Sは完成度が高いため、今回あえて新型に買い換える必要はないかも、なんて思うかもしれませんが、ER4SRの方が一音ごとの重みが増して、立ち上がりの部分が聴き取りやすくなっています。そしてホワイトノイズなどの雑音と、肝心の音楽との分離がより強調されて、まさに「手に取るように」音楽に没頭する感覚がよりいっそう増しています。

ER4SR、ER4XRを聴いた後だと、ER4Pのほうはクセというか問題点がかなり目立ちます。ER4Pは、静かなリスニング音量においても、中高域の女性ボーカルなどがメガホンを使ったかのような拡声器サウンドのようです。

ポピュラー歌曲にメリハリを与える効果は絶大ですが、不自然に刺激的でダイナミクスが潰れているため、これが多くのイヤホンマニアがBA型IEMを嫌う最大の理由だと思います。

ER4SR、ER4XRはどちらも通常のリスニング音量においてはこのようなメガホン的なうるささはありません。旧モデルの問題点を認識して、改善することに成功しています。

「通常のリスニング音量においては」と、あえて念を押したのは、これらEtymoticにかぎらず、Final Audioにおいても、シングルBA型イヤホンの根本的な弱点として、過度なダイナミクスや大音量になると、「音色」が破綻しやすいと思ったからです。

シングルBA型を選ぶ理由

最近では、ある程度の価格帯以上になると、複数のドライバを搭載したマルチBA型イヤホンが主流になっています。ダイナミック型も意外と健闘していますし、BAとダイナミックを両方搭載したハイブリッド型なんてのもあります。そんな中で、コンパクトであるという理由以外で、あえてシングルBA型イヤホンを選ぶメリットはあるのでしょうか。

一般論になりますが、シングルBA型の最大の魅力は、中高域の自己主張が強いことだと思っています。単純に音量が高いという意味ではなく、たとえフラットであっても、中高域が非常にクリアでメリハリがあり、よく「音が通る」傾向です。

シングルBA型を聴いた後に、5~10ドライバのマルチBA型や、ダイナミック型を聴いてみると、なんだか音がワサワサとせめぎあって、クリアじゃない、歌詞が上手く聴き取れない、なんてモヤモヤした不満が生じます。

私自身も今回Final AudioとEtymoticを交互に試聴した後に、ALO AndromedaやベイヤーT8iEを聴いてみたら、「えっ、こんなにモヤモヤしてたっけ?」とショックを受けました。それくらいシングルBA型のクリア感は偉大です。

一方、シングルBAの不利な点は、音楽の全体像を捉えきれないことです。録音の細部にある伴奏や空気感などを楽しもうとしても、メインの主張が強くて背景が上手く解像されません。

たとえばピアノ伴奏であったり、オーボエやクラリネットなど木管セクションであったり、映画におけるセリフやBGMの後ろで聴こえる環境音であったりといった隠れがちなサウンドはあえて控えめなことで、全体のクリア感が向上しています。そこで、それらを聴き取ろうとして音量を上げていくと、メインのボーカルやセリフが拡声器のごとく棘々しくなってしまいます。

極端な例ですが、ポピュラーな歌謡曲を楽しみたい場合、世間一般では小型のBluetoothスピーカーやノートパソコンのスピーカーでも十分だと感じている人が大半です。何故かと言うと、リズムのチキチキ音と、ボーカルの歌詞の帯域さえ聴き取れれば満足なので、その部分がクリアであることが「高音質」なのであって、背景の伴奏が「1855年製エラール・ピアノの豊かな倍音とのハーモニーを」、とか、「石造りの教会の中でオルガンの響きを」とか、そんなこととは無関係です。

もちろんシングルBA型イヤホンはノートパソコンのスピーカーと同レベルという意味ではなく、人それぞれ「クリアで高音質」と感じられるベクトルが異なる、ということの一例です。どの聴き方が優れているかと比較するのは水掛け論というものです。

複雑なマルチBA型イヤホンなどでは、メイン歌手の自己主張は慎ましやかに抑え、広帯域なドライバ配置で周囲のディテールを聴き取りやすく仕上げることもできますし、もしくはあえて中高域のドライバを増強して、音量を上げても潰れにくくすることも可能です。どちらの手法も上手にチューニングすることは困難で、クロスオーバーは避けられないため、シングルBA型のような明朗感は犠牲になります。家庭用大型スピーカーにおいても、マルチドライバー式が9割を占めますが、世界中の贅を尽くした高級スピーカーを経験してきたマニアが、結局クロスオーバーを排除したシングルドライバーに回帰する、なんて話もよくあります。

今回、Final AudioとEtymoticの両方を試聴してみたところ、どちらのイヤホンも、ダイナミックレンジが比較的狭い録音(EDMとか、ヒップホップとか)や、歌唱やメイン楽器にスポットライトを当てたアルバムでは、モヤモヤを一切感じさせないパンチと明朗感が素晴らしく効果的でした。

その反面、全帯域で情報密度が高く、小音量から大音量までのダイナミックレンジが広い録音の場合、突発的なフォルテシモに対応しきれず、キツイ刺激音として耳に刺さります。その点ではマルチBA型やダイナミック型のほうが有利でした。

まとめ

話がかなりそれてしまいましたが、Final AudioとEtymoticはどちらも、シングルBA型特有のサウンドを活かして、より一層ポテンシャルを引き出したような進化を感じさせます。

とくに、これまで無数の高級イヤホンを聴いた上で、「やっぱりどうしてもシングルBAの音に魅力を感じる」という人はかなり多いです。

そういう人達は、長年ずっとER4Sとかを使い続けていて、近年のハイエンドイヤホン競争とは無縁の音楽生活をエンジョイしていたことでしょう。今回Final Audio、Etymoticともに素晴らしい完成度のイヤホンを作り上げてくれたおかげで、ようやく旧式モデルから買い換えることを検討すべきだと勧められると思いました。

また、これまでシングルBA型を敬遠していた人達でも、従来の「拡声器」サウンドは低減されて、より聴きやすくなっているので、再考してみる良い機会だと思います。

Final Audioは繊細で空間に奥行きがあり、クリアで綺麗な音色と、自然で快適なフィット感が魅力的です。とくにF7200はかなりレベルが高いと思いました。コンパクトで、手軽で、シュアーがけなどをしなくても良い、高音質イヤホンが欲しい、という人には真っ先にオススメできます。

Etymoticは個人的にER4SRよりも、ER4XRの方が好みでした。値段は同じなので、各自試聴して決めればよいことです。ER4SRは音色が軽快過ぎて退屈にすら感じたので、私が普段使っているヘッドホンに近いのはER4XRの方だと思いました。どちらにせよER4Pのようなやかましいサウンドが解消されて、より素直で力強い、破綻の少ないサウンドですが、Final Audioとくらべて空間が広がらず、脳内のど真ん中で鳴り響く感じなので、最近のイヤホンの傾向とはかなりかけ離れています。

結局、買うべきか、そして、買うならどれか、という事が悩みの種なのですが、今回は衝動買いするには至りませんでした。それぞれにメリットがあり、なかなか選びかねます。

音質面ではER4XRが万能選手として後腐れ無い選択肢だと思いましたが、F7200の美しさも魅力的です。フィット感はF7200の圧勝なので、それらの妥協点を見いだせないです。

F3100、F4100は、単品では良いですし、価格相応以上の魅力はあるので、とりあえず安いから買おうかな、なんて気にもなったのですが、一度F7200を聴いてしまったら、決意がゆらぎます。「やっぱりF7200が良いけど、そこまで払うのも・・」といった、よくある思考パターンです。

シングルBA型はシンプルな機能美が魅力的です

こういうのを興味がある人は、すでにそこそこ高価なマルチBA型などのイヤホンを持っているかもしれませんが、そこからの第二の選択肢というか、普段用のファミリーセダンとは別腹の、ピーキーな軽快スポーツカーみたいな位置づけで購入するのも面白いかもしれません。

なんにせよ、シングルBA型というのは、奇妙なものですね。BAドライバを細長いチューブに入れただけのようなシンプルな構造なのに、ここまで各モデルそれぞれの音色差が出て、価格ごとの性能アップも感じられるのが、不思議でなりません。一体どんな魔法やトリックがあるのでしょうか。良い物は値段もそこそこしますし、安易なコピー品が氾濫しないという事実だけでも、この小さなイヤホンの中に、入念な開発努力とノウハウが詰め込まれているのでしょう。