JH Audio PERFORMANCE SERIES |
どれも「PERFORMANCE SERIES」という名前がついており、Astell & Kernとのコラボレーションモデル「THE SIREN SERIES」とは別のシリーズだということを明確にしています。
すでに発売されているカスタムIEM版のユニバーサルタイプで、値段はそれぞれ13、17、21万円という高価なイヤホンです。私ではちょっと手が出せない価格帯ですが、せっかく試聴したので、忘れないうちに感想とかを書いておこうと思いました。もうちょっと低価格なイヤホンも色々紹介したいのですが、2017年1~2月はまだパッとしたネタに出くわしていません。
PERFORMANCE SERIES
日本では2017年2月に三モデルが同時発売されました。JH13V2 PROは「高4・中2・低2」の合計8BAドライバ、JH16V2では低音ドライバが2つ追加され「高4・中2・低4」の10ドライバ、最上位のRoxanneは「高4・中4・低4」の12ドライバで、これはすでに発売されているTHE SIREN SERIES AK Roxanne IIと同じ搭載数です。
どのモデルにも、JH Audioの特徴的な3WAYクロスオーバー回路と、金属管のFreqPhase技術を搭載しています。高中低の周波数ごとに、各ドライバから音が出る金属管の長さや太さを微調整することで、タイミングをピッタリと合わせるという技術で、最近では他のIEMメーカーでも似たような金属管を導入しているところが増えてきましたが、やはりJH Audioは米国で特許を持っているだけあって、ノウハウには一日の長があると思います。
Astell & KernコラボのTHE SIREN SERIESは、昨年登場したバージョンIIでメタルボディに進化したのですが、今回のPERFORMANCE SERIESはカスタムIEMベースのユニバーサルモデルということで、3Dプリンタを駆使したプラスチックボディで作られています。
厳密に言えば、THE SIREN SERIESはAstell & Kernブランドなので、日本での代理店はアユートで、PERFORMANCE SERIESはJH Audioブランドなので代理店はミックスウェーブなのですが、買う側から見たら同じ店頭に並ぶので、どうでもいい事です。(修理サポートとかは各代理店頼りになります)。
搭載しているBAドライバは、JH Audio独自のSoundrIVe Technologyユニットということですが、これはTHE SIREN SERIESでも書いてあるので、同じものかもしれません。ちなみにこのSoundrIVeドライバというのは、いつもパンフレットとかに名称だけ書いてあるのですが、具体的に他社のBAユニットとどう違うのかあまり説明していないため、よくわかりません。カスタムIEMとかの写真で見るかぎり、周波数毎のBAドライバ群が、4基づつまとまったユニットになっているような感じかもしれません。
最上位モデルのRoxanneは、AKコラボのTHE SIREN SERIES版と名前は同じでも、外観や手触りは大幅に異なります。手にとって見ると、バージョンII以前のAK Roxanneと似ているような感じです。
サイドパネルはJH Audioらしくエキゾチックな素材をあしらったデザインが魅力的です。過去のモデルでも、綺麗なパネルデザインに魅了されて買ってしまった、という人も多いと思います。個人的には、JH13V2の「マホガニー木材に緑色のロゴ」が一番カッコいいと思います。
JH16V2はブラックパールに銀色ロゴ、そしてRoxanneはシルバー・カーボンファイバーに黒色ロゴです。
フィット感はまあまあ良好ですが、私の耳の形状にはTHE SIREN SERIESのメタルボディの方がピッタリ合うようでした。JH Audioイヤホンの特徴として、このモデルも音導管部分が非常に長いので、色々なシリコンイヤピースを試しても、結局は本体が耳から結構離れてしまいます。
THE SIREN SERIESでは重厚なメタルボディのおかげでドッシリと安定した感じだったのに比べて、これら新モデルはプラスチックでそこそこ軽量なせいもあり、若干安定感が悪かったです。個人差があると思いますが、私の場合はグッと奥まで押し込んでも、どうしても音導管だけで宙吊りに支えられているような感じで、イヤピースの位置がピッタリと合うまで苦労しました。付属シリコンではポロポロ外れてしまったので、SpinFitを使いました。フィットが得られないと、左右のバランスが乱れたり、低音がスカスカで高域寄りのシャリシャリになってしまいます。
JH11などカスタム系モデルやMichelleなど、これまでのJH Audioイヤホンというと、いわゆるカスタムIEMタイプの2ピンケーブルが多かったのですが、今回はTHE SIREN SERIESと同様に、4ピンケーブルが採用されています。手にとって見た感じではTHE SIREN SERIESと同じケーブル素材のようです。
この4ピンケーブルというのは、低音用と高音用にそれぞれケーブルが分けてある、スピーカーオーディオで言うところの、いわゆる「バイワイヤリング」的な発想です。さらに、ケーブルの根本の方にあるネジを調整することで、低音の量感を0から+12dBまで変化させることができるというユニークな発想です。
プロフェッショナル用イヤホンで有名なJH Audioですが、この低音調整という発想も、プロ用のアクティブPAスピーカーや、スタジオモニタースピーカーなどでよくある機能なので、そういった機材を使い慣れている人であれば、すんなりと受け入れられると思います。
ピュアオーディオ系の人だと、こういったイコライザーまがいの事は邪道だと文句を言うかもしれませんが、家庭用ハイエンドスピーカーでも中身のクロスオーバー回路に抵抗は入っているので、それと同類だと思えば気が休まります。
ケーブル太さや柔軟性は一般的な2本線とほとんど変わらないので、実用上で不便だとは感じませんでした。社外品のアップグレードケーブルが手に入りにくいのと、調整ネジの部分がDAPにぶつかったりして邪魔なのが難点でしょうか。
付属ケーブルは一見ビニールの安物っぽく見えるのですが、JH Audio公式サイトによると、著名ケーブルメーカーMoon Audioの手によるものだそうです。Moon Audioのサイトに行くと、このケーブルは単品$100で販売しており、さらに上位アップグレードで$200のBlack Dragonと$350のSilver Dragonというケーブルを販売しています。(ちゃんとJH Audio専用に、低音調整ネジも搭載しています)。
写真のように、ソニー用4.4mmバランスとかもすでにオプション販売のラインナップに入れていたり、かなり頑張っているケーブルメーカーです。
私自身も、2ピンIEMタイプのMoon Audio Silver Dragonケーブルを持っており、この間購入したAudeze iSINE20に合わせてとても満足しています。
Moon Audioのケーブルは、高音とか低音とか明確な特徴や派手さが加わるわけではないので、総じて地味なのですが、むしろ標準ケーブルそのままの特性で、全体的に「なんとなく音質が良くなったような気がする」と感じられるのが好印象です。JH Audio用の交換ケーブルは未聴ですが、せっかく高価なイヤホンですし、興味があったらアップグレードを試してみるのも面白いと思います。
3モデルとも同じシェル(ハウジング)形状です |
イヤピース部分には金属の音導管が見えます |
どのモデルにも、JH Audioの特徴的な3WAYクロスオーバー回路と、金属管のFreqPhase技術を搭載しています。高中低の周波数ごとに、各ドライバから音が出る金属管の長さや太さを微調整することで、タイミングをピッタリと合わせるという技術で、最近では他のIEMメーカーでも似たような金属管を導入しているところが増えてきましたが、やはりJH Audioは米国で特許を持っているだけあって、ノウハウには一日の長があると思います。
PERFORMANCE SERIES Roxanne |
メタルボディのTHE SIREN SERIES Roxanne II |
Astell & KernコラボのTHE SIREN SERIESは、昨年登場したバージョンIIでメタルボディに進化したのですが、今回のPERFORMANCE SERIESはカスタムIEMベースのユニバーサルモデルということで、3Dプリンタを駆使したプラスチックボディで作られています。
厳密に言えば、THE SIREN SERIESはAstell & Kernブランドなので、日本での代理店はアユートで、PERFORMANCE SERIESはJH Audioブランドなので代理店はミックスウェーブなのですが、買う側から見たら同じ店頭に並ぶので、どうでもいい事です。(修理サポートとかは各代理店頼りになります)。
そもそも米国JH Audioの公式サイトでも、両シリーズが仲良く並んでいます。 |
搭載しているBAドライバは、JH Audio独自のSoundrIVe Technologyユニットということですが、これはTHE SIREN SERIESでも書いてあるので、同じものかもしれません。ちなみにこのSoundrIVeドライバというのは、いつもパンフレットとかに名称だけ書いてあるのですが、具体的に他社のBAユニットとどう違うのかあまり説明していないため、よくわかりません。カスタムIEMとかの写真で見るかぎり、周波数毎のBAドライバ群が、4基づつまとまったユニットになっているような感じかもしれません。
最上位モデルのRoxanneは、AKコラボのTHE SIREN SERIES版と名前は同じでも、外観や手触りは大幅に異なります。手にとって見ると、バージョンII以前のAK Roxanneと似ているような感じです。
ウッドと宝石のような緑色のJH13V2 |
サイドパネルはJH Audioらしくエキゾチックな素材をあしらったデザインが魅力的です。過去のモデルでも、綺麗なパネルデザインに魅了されて買ってしまった、という人も多いと思います。個人的には、JH13V2の「マホガニー木材に緑色のロゴ」が一番カッコいいと思います。
銀色のロゴが目立つJH16V2 |
Roxanneはよく見ると編み込みが綺麗です |
JH16V2はブラックパールに銀色ロゴ、そしてRoxanneはシルバー・カーボンファイバーに黒色ロゴです。
かなり横長なデザインなので、フィット感は要試着です |
フィット感はまあまあ良好ですが、私の耳の形状にはTHE SIREN SERIESのメタルボディの方がピッタリ合うようでした。JH Audioイヤホンの特徴として、このモデルも音導管部分が非常に長いので、色々なシリコンイヤピースを試しても、結局は本体が耳から結構離れてしまいます。
THE SIREN SERIESでは重厚なメタルボディのおかげでドッシリと安定した感じだったのに比べて、これら新モデルはプラスチックでそこそこ軽量なせいもあり、若干安定感が悪かったです。個人差があると思いますが、私の場合はグッと奥まで押し込んでも、どうしても音導管だけで宙吊りに支えられているような感じで、イヤピースの位置がピッタリと合うまで苦労しました。付属シリコンではポロポロ外れてしまったので、SpinFitを使いました。フィットが得られないと、左右のバランスが乱れたり、低音がスカスカで高域寄りのシャリシャリになってしまいます。
イヤホン側のコネクタは4ピンタイプです |
JH11などカスタム系モデルやMichelleなど、これまでのJH Audioイヤホンというと、いわゆるカスタムIEMタイプの2ピンケーブルが多かったのですが、今回はTHE SIREN SERIESと同様に、4ピンケーブルが採用されています。手にとって見た感じではTHE SIREN SERIESと同じケーブル素材のようです。
ユニークな4本ケーブルと低音調整ネジ |
この4ピンケーブルというのは、低音用と高音用にそれぞれケーブルが分けてある、スピーカーオーディオで言うところの、いわゆる「バイワイヤリング」的な発想です。さらに、ケーブルの根本の方にあるネジを調整することで、低音の量感を0から+12dBまで変化させることができるというユニークな発想です。
プロフェッショナル用イヤホンで有名なJH Audioですが、この低音調整という発想も、プロ用のアクティブPAスピーカーや、スタジオモニタースピーカーなどでよくある機能なので、そういった機材を使い慣れている人であれば、すんなりと受け入れられると思います。
プロ用モニターの低音調整機能 |
ピュアオーディオ系の人だと、こういったイコライザーまがいの事は邪道だと文句を言うかもしれませんが、家庭用ハイエンドスピーカーでも中身のクロスオーバー回路に抵抗は入っているので、それと同類だと思えば気が休まります。
ケーブル太さや柔軟性は一般的な2本線とほとんど変わらないので、実用上で不便だとは感じませんでした。社外品のアップグレードケーブルが手に入りにくいのと、調整ネジの部分がDAPにぶつかったりして邪魔なのが難点でしょうか。
付属ケーブルは一見ビニールの安物っぽく見えるのですが、JH Audio公式サイトによると、著名ケーブルメーカーMoon Audioの手によるものだそうです。Moon Audioのサイトに行くと、このケーブルは単品$100で販売しており、さらに上位アップグレードで$200のBlack Dragonと$350のSilver Dragonというケーブルを販売しています。(ちゃんとJH Audio専用に、低音調整ネジも搭載しています)。
写真のように、ソニー用4.4mmバランスとかもすでにオプション販売のラインナップに入れていたり、かなり頑張っているケーブルメーカーです。
JH Audio用Moon Audioアップグレードケーブル |
私自身も、2ピンIEMタイプのMoon Audio Silver Dragonケーブルを持っており、この間購入したAudeze iSINE20に合わせてとても満足しています。
Moon Audioのケーブルは、高音とか低音とか明確な特徴や派手さが加わるわけではないので、総じて地味なのですが、むしろ標準ケーブルそのままの特性で、全体的に「なんとなく音質が良くなったような気がする」と感じられるのが好印象です。JH Audio用の交換ケーブルは未聴ですが、せっかく高価なイヤホンですし、興味があったらアップグレードを試してみるのも面白いと思います。
音質とか
今回の試聴には、普段使い慣れているCowon Plenue Sを使いました。JH Audioの公式スペックによると能率は116~119dB/mWということで、音量は取りやすい部類です。Plenue Sでボリューム60%くらいで適正音量が得られました。Cowon Plenue Sで試聴してみました |
ただし、いくら高能率であっても、インピーダンスはJH13V2の28Ωから、JH16V2は18Ω、Roxanneは15Ω(AK Roxanne IIも15Ω)と、高価なモデルほど低くなっていく仕様なので、DAPによってはパワー不足に陥ることもあるので注意が必要です。
イヤホンのインピーダンスが低いほど「貧弱なアンプでも鳴らしやすい」と誤解されがちですが、以前紹介したように、実際はインピーダンスが低いイヤホンほどアンプの電流をより多く消費するため、「音量」は出しやすくても、アンプの性能によって歪みや周波数特性といった「音色」の部分が左右されやすいです。
とくに最上位モデルのRoxanneは、スマホなどに直挿しではポテンシャルを発揮できないと思うので、できれば出力インピーダンスが十分低く、パワーに余裕がある、IEMに特化したDAPやヘッドホンアンプと合わせて使いたいです。
まず、各モデルを交互に聴き比べてみましたが、これらPERFORMANCE SERIES全体の特徴として、他社のIEMと比べてとても硬派でダイレクトなサウンドだと思いました。目が覚めるような解像感です。
他社のハイエンドBA型IEMの例として、Noble Audio K10 Encoreや64Audio U12などとも比較してみたのですが、それらはJH Audioと比べるとどれも「マイルド」「聴きやすく」「綺麗な」みたいな印象を受けてしまいます。
JH Audioは聴きやすくない、というわけではないのですが、いわゆるBA型の本質を貫いた、メリハリの強い、乾いたサウンド寄りなので、好みは分かれると思います。雰囲気でリラックスさせるよりも、音楽に精神を100%集中させることを求めているかのようです。
具体的には、このPERFORMANCE SERIESは、響きや「鳴り」を徹底的に排除して、全てのサウンドがピッタリと正確に発せられるように、強めのコントロールを効かせているように感じます。ハウジング素材や内部空間で芸術的な響きを持たせる手法とは真逆で、アンプから発せられた電気信号が、無駄な寄り道をせず、ケーブルを伝わってそのまま鼓膜に届いているかのようです。
どのモデルも、たとえば低音の空気を駆使して広い立体空間を演出するようなサウンドではないので、そういうのを求めている人は、他社のダイナミックドライバ登載モデルなどの方がよいと思います。
私が最近よく使っているハイブリッド型イヤホンのUnique Melody Mavisとはサウンドが正反対すぎて、どっちが「高音質」かなんて比べようもありませんでした。最近、世の中のイヤホンメーカーがより「スピーカーらしさ」に近づけようとしているのに対して、PERFORMANCE SERIESはあくまでスピーカーでは味わえないイヤホン本来の醍醐味を極限まで追求しています。
たとえば、シングルBA型のEtymotic Research ER4シリーズなどを聴き慣れている人で、そろそろアップグレードを考えているけど、どうしても他社の高級イヤホンは肌に合わない、なんて思っているのであれば、このJH Audioがベストな候補だと思います。シングルBAのような明確さを維持しながら、マルチBAの恩恵で帯域やダイナミックレンジが大幅に拡張されています。
今回の試聴では、低音調整ネジは、ちょうど50%の位置に合わせました。カタログによると0から+12dBと書いてあるので、もしかするとネジを完全に絞っておく方が測定上フラットになる設計なのかもしれませんが、それだとスカスカで物足りなく感じたので、50%くらいが普段聴き慣れたイヤホンに近い感覚でした。
さらに上げていくと、低音のパンチは力強くなっていくのですが、ブーストされる帯域が強調されすぎて、圧倒される感じがしました。やはり50%くらいがちょうどよいです。どれだけ低音の量をいじっても、中高域の音色は乱れたり崩れたりしないので、自分好みのレベルに合わせやすいのは素晴らしいです。
シリーズ全体の傾向がなんとなく把握できたので、次は各モデルの違いを聴き比べてみました。
まず、JH13V2が一番スタジオモニターヘッドホン的な「フラット」調のサウンドでした。スタジオモニターといっても、ベイヤーダイナミックDT880やゼンハイザーHD600のような軽めのサラッとした感じではなく、むしろソニーMDR-CD900STとかMDR-Z1000みたいな、録音のエネルギーを直接包み隠さず提示するスタイルです。ソニーつながりで言うと、MDR-1AとかZ7、Z1Rといったリスニング系ヘッドホンとは根本的にアプローチが異なる鳴り方なので、やはりJH13V2はスタジオモニターっぽいサウンドだな、と納得できます。
こんなシーンを連想しました |
JH13V2について、別の例えを挙げるとすれば、パソコン用スピーカーとしても人気のある、ジェネレック8030・8040みたいなニアフィールド用スタジオモニタースピーカーのサウンドを連想しました。これは良い意味でも悪い意味でもあります。
音楽制作に関わっていない我々オーディオマニアでも、日々色々と悩んでいるうちに、家庭用スピーカーに嫌気が差して、プロ用スタジオモニタースピーカーを導入してみたくなるのは、きっと誰もが一度は通る道だと思います。自宅のリスニングルームにプロ用スタジオモニターをセッティングしてみて、最初のうちはその解像感やフラットな特性に驚愕するのですが、数週間使っていると、なんとなく、どんなアルバムを聴いても、音楽が楽しめなくなってきます。
粗が目立つ、とか、音が悪く思えてしまう、といった明確な理由もなく、むしろ性能の完璧さには納得したままなのですが、それでも、なにか感性的な部分で物足りなくなってしまい、心移りしてしまうのです。スピーカーが「演出の引き立て役」みたいなことをしてくれないからでしょうか。まるで、衣装なしのリハーサルを見ているような感じです。
もちろん逆のケースもあり、長年ずっとプロ用スタジオモニターを愛用していて、民生用スピーカーは害悪だと主張している人も世の中には多いですので、結局は趣味の両極端ということだと思います。
ようするにJH13V2のサウンドは、好きな人にはたまらないプロ用モニター的な雰囲気があるので、この音に愛着を持ってしまうと、他のどのメーカーのイヤホンでも、なにかしら作為的な不具合があるように感じてしまうと思います。
勝手な想像ですが、JH Audioもきっと、あえて一般的なコンシューマIEMの「平均点」を狙うことはせず、PERFORMANCE SERIES JH13V2「PRO」という名前に恥じないサウンドを追求したように感じます。
今回の試聴でも、最初に全モデルを簡単に聴き比べてみた第一印象では、このJH13V2が一番良いと思いました。非常にクリア、正確で見通しもよく、破綻が少ない万能サウンドです。しかし、2時間ほど交互に聴いているうちに、なんだかやっぱり上位モデルの方が良いかも、なんて心変わりしてしまったようです。
上位モデルのJH16V2では、低音用ドライバが二つ追加されたことで、よりズンズン鳴り響くサウンドを予想していたのですが、実際に聴いてみると、低音というよりは、中低音域が充実する印象を受けました。高域とかの感触はJH13V2とあまり変わりません。
中低音の、具体的には男性ボーカルの音域です。この部分がかなり彫りが深くなり、立体感が出るため、JH13V2よりも若干暖かく聴きやすいサウンドになっています。
最初の10分くらいは、音が太くてちょっと重苦しいかな、なんて思ったのですが、結局はJH13V2との相対的な印象なのでしょう。JH16V2を長時間聴いて慣れてくると、こっちの方が普通っぽく感じられ、よりリスニングに適しているようでした。中高音はJH13V2と全く同じ感覚なので、解像感とかは悪化しているようでもありません。
とくにオペラや歌謡曲なんかを聴いていると、テノールやバリトンの男性歌手がJH13V2よりも一歩前に出てきれくれて、オーケストラの雑踏に埋もれないですし、ジャズとかバンドの楽器演奏でも、主役ソロのテナーサックスやギターがそれ以外のリズムセクションに負けずに主張してくれるので、充実した安心感があります。
ただ単にドライバが増えた分だけ中低域のボリュームが上がったというわけではなく、アーティストの輪郭や実在感が向上するので、たとえばJH13V2の低音ネジを調整するだけでは同じ効果は得られない、「深み」みたいなものが感じられました。
次に、PERFORMANCE SERIES最上位のRoxanneを聴いてみました。JH16V2の「4・2・4」から中域用ドライバが二つ追加された「4・4・4」という12ドライバ構成ですが、たとえば女性ボーカルとかはJH16V2からあまり変わっていない感じで、むしろ高音の打撃音とかに違いが現れました。
高域といっても、清々しい爽快さではなく、カチッとしたダイレクトな高音です。空気感は下位モデルとあんまり変わらず、それよりもドラムやパーカッションのアタック感とか、楽器の指使いや歌手の息継ぎみたいな情報がより明確になったような感じです。
JH16V2の男性ボーカル域でもそうだったように、ただ音量が増して高域寄りなチューニングになったわけではなく、一つ一つのサウンドが、輪郭を持って彫りが深くなっています。肝心な音が背景に埋もれなくなったという表現が一番合います。
フラット具合というと、フラットであることは確かなのですが、JH13V2がモニター的なフラットだとすれば、Roxanneはちょっと全音域が主張しすぎるというか、IEMという限られた空間の中で、低音から高音まで、色々なサウンドを詰め込みすぎていて、圧倒されます。それらを全部聴き分けるためには、アンプの音量を普段よりもちょっと下げて、精神を集中しないと、頭の中が混乱してしまいます。けっして大音量でガンガンとノリの良さを味わうようなカジュアルなイヤホンではありません。
そんなわけで、Roxanneは聴き応えがあるのですが、ここまで来ると、長時間リスニングではちょっと聴き疲れする、という人もいるかもしれません。とくに一曲を通して起伏が少なく、平均音圧が高いような音楽ジャンルでは要注意です。逆に言うと、優れた録音であるほど、そのポテンシャルを引き出せるイヤホンでもあります。録音の良し悪しに一番敏感なのがRoxanneで、録音に収められた全ての音を引き出しきっているのもRoxanneでした。
あらためて全部のモデルを聴き返すと、三者三様というわけではなく、まずJH13V2というレファレンス的な基礎があって、そこに音楽的な肉付けをしていくことでJH16V2、そしてRoxanneにパワーアップしていくというイメージが浮かびました。たとえば、各モデルの空間表現はよく似ています。
どのモデルも空間は二次元的で、目の前の大きな壁に全てが提示されるような感じです。これもMDR-CD900STとかのモニター系だと思える理由のひとつでしょう。上位モデルになるにつれて、空間がちょっとづつ三次元的になるのですが、それでも前方遠くへの距離感みたいなものはあまり無く、むしろ特定の要素がリスナー前方周囲を取り巻くような、音楽に包み込まれる感覚になっていきます。映画館の最前列という感じに近いです。
JH16V2でまず中域の立体感が出ますが、ボーカルとかはセンター寄りの場合が多いので、あまりステレオ感が拡張されたようには感じられません。JH13V2、JH16V2ともに、サウンドはまるで地平線のように、ピタッと平行に左右のみに展開している感じです。
Roxanneで中高域が出るようになって、ドラムやパーカッションなどのカチッとした打撃音がより広い空間で鳴るので、ステレオ感がより立体的になったように感じられます。地平線のようなサウンドから、より上下にも広がるようになります。
これ以上高域の空気感や空間の余裕を持たせるには、もはやハウジングに通気口を持たせるとか、たとえば前回紹介したAudeze iSINEみたいな開放型デザインにするしか無いと思うので、これは密閉型プラスチックシェルの宿命だと思います。
両モデルの違いは非常にわかりやすく、まさに外観の違いがそのままサウンドに反映しているかのようでした。ハウジングデザイン以外で、たとえばドライバとか中身の違いがあるのかどうかは不明ですが、それにしてもサウンドは大幅に異なります。
AK Roxanne IIは高音の「響き」がかなり拡張されて、派手に音色が強調されます。とくに気になったのはオーケストラのヴァイオリンセクションなどで、PERFORMANCE SERIESのRoxanneではただ「鳴っている」だけで、あまりおもしろくなかったのですが、AK Roxanne IIでは、グッと高音の音色が豊かになり、金属的な質感が存分に出るようになります。
これを聴いてしまうと、JH13V2、JH16V2、Roxanneのどれも高音に不満を感じてしまいます。AK Roxanne IIと比べると、高音の鳴り方がドライすぎて、上限の「天井」みたいなものを意識してしまいます。
JH13V2の時点で、すでに録音内に含まれる高音は十分に鳴りきっているのでしょうけれど、それがあまりにもコントロールされており、なんだかコンサートホール全体がゴムで覆われているかのような感じでした。変な例えになりますが、「重箱に丁寧に収まった、豪華な仕出し弁当」みたいな印象です。そこをAK Roxanne IIが派手に響かせることで、なんというか「Gradoヘッドホンっぽい」響きの充実具合をプラスしています。
Gradoっぽい、なんて言うと、マイナスイメージに取られそうで心配ですが、けっして悪い意味ではなく、THE SIREN SERIESとPERFORMANCE SERIESとの明確な違いという事で、あえてそういう表現をしたくなりました。
この高音の響きは本当に金属ボディのみが原因なのかはわかりませんが、たとえばCampfire Audio Jupiter/AndromedaやNoble Audio Katanaなんかでも感じられる効果ですので、関連性はあるかと思います。これはようするにピュアオーディオに反する作為的な「味付け」なのかもしれません。それでも「そのほうが良いから」という人が、THE SIREN SERIESを選ぶのだと思います。結局どっちを買うべきかとなると、なかなか難しいです。
おわりに
JH Audioというメーカーの悩ましいところは、ブランド全体で一貫した共通の「サウンドチューニング」みたいなものがあるため、(それはそれで素晴らしい事だとは思うのですが)、各モデルごとに独自のサウンドの魅力を楽しむというよりは、上位モデルになるにつれて魅力が段階的にプラスされていくように感じてしまいます。
ShureやWestoneなんかも同じなのかもしれませんが、その場合はたとえば1万円のSE215で入門者を掴んで、そのうち6万円のSE535にアップグレードさせて、最終的に11万円のSE846を買わせる、みたいなアップグレード図式が当てはまる価格帯だと思います。
一方、PERFORMANCE SERIESの場合、すでにJH13V2の時点で13万円と非常に高価なので、(各自の懐具合にもよりますが)、購入には相当の覚悟がいる価格帯だと思います。そうなると、必然的にひとまず全モデルを試聴してみてから判断したい、となると、なかなか悩みが多いラインナップです。
ShureやWestoneなんかも同じなのかもしれませんが、その場合はたとえば1万円のSE215で入門者を掴んで、そのうち6万円のSE535にアップグレードさせて、最終的に11万円のSE846を買わせる、みたいなアップグレード図式が当てはまる価格帯だと思います。
一方、PERFORMANCE SERIESの場合、すでにJH13V2の時点で13万円と非常に高価なので、(各自の懐具合にもよりますが)、購入には相当の覚悟がいる価格帯だと思います。そうなると、必然的にひとまず全モデルを試聴してみてから判断したい、となると、なかなか悩みが多いラインナップです。
JH13V2でも十分すぎるほど「高音質」だとは思うのですが・・・ |
結論から言うと、個人的にはAK Roxanne IIやLayla IIなんかの派手なサウンドが一番好きでした。でもAK Roxanne IIは20万円と高価ですし、ではJH13V2は13万円でそれに迫る音質を得られるのか、ということになると、「同じJH Audioなので、サウンドチューニングはよく似ているし、性能も申し分ないけど、音楽の楽しさには差がある」という風に答えてしまいます。
参考までに、私自身の体験談としては、まずJH13V2を聴いてみて「おっ、ずいぶん良いな」と思ったのですが、次にJH16V2を聴いて「ボーカルがちょっと良くなった」、そしてRoxanneで「ボーカルもドラムも良くなった。これがベストだ」、最終的にAK Roxanne IIを聴いて「なんか派手で凄いぞ」という結論に至ってしまいました。
そして結局、AK Roxanne IIの値札を見て現実と直面してしまい、諦めてしまいました。再度JH13V2を聴き直しても、具体的な不具合や欠点があるわけではないのですが、むしろ上位モデルとチューニングが似ていることが逆効果というか、ランクアップするごとの音質向上に気づきやすいことが、購入の足を引っ張っているかのようです。
もちろん、JH13V2くらいモニター調な方が好きだという人もいますし、別シリーズではRosieやAngie IIも同価格帯にあるので、選択肢は多いに越したことはありません。
JH AudioのユニバーサルIEMは、すでにAKコラボのTHE SIREN SERIESがあるのに、このPERFORMANCE SERIESをわざわざ出すのは無駄じゃないか、と言う人もいるかもしれませんが、私が試聴した印象では、そうには思えませんでした。
今回のPERFORMANCE SERIESは、JH13V2 PROの段階ですでに「フラットさ」とか「解像感」といったプロフェッショナルモニターイヤホンとしての要求点は満たしており、そこから上位モデルに進むことで、それぞれ特定の「音楽的な魅力」が段階的にプラスされていくようです。モニター系サウンドのファンが主張するような万能なフラットさという意味では、むしろ逆行しているようにすら感じます。
一方、同じくJH Audioでも、AKコラボのTHE SIREN SERIESのアプローチは全く正反対で、最下位モデルの「Rosie」では中高域の刺激や厚みなどといったピンポイントな「音楽的な魅力」から始まり、そこから「Angie II」「Roxanne II」「Layla II」と上位モデルになるにつれて、より幅広いユーザーの期待に応えられる広帯域や完璧さに近づけているようです。
つまり、「音楽を楽しむ」という結果的な終着点はどちらのシリーズも同じでありながら、そこにたどり着くまでの道筋の違いが、二つのシリーズの違いを明確にしているように思いました。