2017年4月2日日曜日

KEF SPACE ONE ノイズキャンセリングヘッドホンの試聴レビュー

英国オーディオメーカーKEFのノイズキャンセリングヘッドホン「SPACE ONE」を試聴してきましたので、感想とかを書いておきます。

KEF SPACE ONE

2016年10月くらいに発表されたモデルなのですが、それから音沙汰が無く、ショップなどの発売情報も見なかったので、すっかり忘れ去っていたのですが、2017年3月現在になって試聴機を手にする機会ができました。価格は55,000円だそうです。

KEFといえば英国老舗スピーカーブランドの中でも最大手ですし、今回の「SPACE ONE」ヘッドホンはドイツのポルシェ・デザイン社と共同開発したということで、格調高いエレガントなスタイリングが印象的です。

最近この手の多目的ノイズキャンセリングヘッドホンが市民権を得てきており、各メーカーから様々な類似モデルが続々登場していますが、そんな中で、このSPACE ONEはKEFのDNAをしっかりと体現しているモデルなのか気になってチェックしてみました。


KEF

KEFは1961年に発足した名門スピーカーブランドで、それ以前に存在していた「KENT ENGINEERING & FOUNDRY」という会社から工場施設を引き継いだことから、KEFという名前になったそうです。施設名の通り、イギリス・イングランドのケント州に本社工場があり、いわゆる1960〜70年代ブリティッシュサウンドを体現する代表的なブランドと言えます。

現行モデルで売れ筋のQシリーズ

スピーカーといっても、当時のKEFは主にドライバ単体を供給するOEMメーカーとして英国市場を圧倒していました。KEF製ドライバは様々なスピーカーブランドが採用しており、現在でも英国製ビンテージスピーカーを探す際には、どのスピーカーというよりも、どのドライバを登載しているかで価値や相場価格が大きく変わったりします。

また、その頃はドライバを買って日曜大工でキャビネットを造る人が多かったため、KEFのドライバを自作ハウジングに入れるというのがオーディオマニアの常識だったようです。(70年代までのイギリスでは、嗜好品の税率が高かったため、キットだと安く買えたという事情もあります)。

世界的な放送局BBCや、HMV、DECCAなど数多くのレコード・レーベルが存在するイギリスは、それらを取り巻くオーディオ産業が盛んな事が有名ですが、当時から、ラジオを通してビートルズやローリング・ストーンズなどの名曲をリアルタイムで楽しんでいた人々の多くがKEFスピーカーを使っていたことでしょう。

KEFというと、「BBC LS3/5Aスピーカーの生みの親」という事実だけでも、歴史上もっとも重要なオーディオブランドのひとつとして誇りを持てると思います。

LS3/5A

伝説として名高いLS3/5Aは、1970年代当時BBCが、世界中に展開する放送網や移動スタジオのために、「搬送が楽で、卓上で使えて、しかもメインスタジオと同等の厳密な音質スペックを満たす」といった無理難題なスピーカーの開発をメーカー各社に要請し、その試作一号機として見事採用されたのが、KEFのB110+T27スピーカードライバをBBC用スピーカーキャビネットに収めたものでした。

それ以降、このLS3/5AというスピーカーはBBCとのライセンス契約の元、多くのオーディオメーカーで製造され、KEFドライバを登載した公式ライセンス品や、無数の模造品が大量に製造され、2017年現在でも多くのバリエーションが購入できます。コピー品などを含めると、合計100,000ペア以上が製造されており、世界で一番売れたオーディオスピーカーだとされています。そういえば月刊「無線と実験」誌の今月号でも、最新のLS3/5A風自作キットのレビューがありました。

ヘッドホンオーディオとはあまり関係ない話かもしれませんが、実際このLS3/5Aスピーカーの存在意義は、我々にとってあまりにも大きいです。

70年代当時イギリス一般家庭の住宅事情では、リビングルームに置くオーディオレシーバーシステム(レコードプレーヤーとラジオとスピーカーが一体式になった、箪笥みたいなやつ)がまだ一般的で、アメリカのような巨大なスピーカーシステムは高嶺の花でした。

そんな中で、ロケーション用にコンパクトサイズに仕上げたLS3/5Aは、サラリーマンの貯金でも手が出せる価格帯で、リビングルームでなく書斎やベッドルームの卓上であっても驚異的な高音質が実現できるという、現代まで続く「高性能ニアフィールド・コンパクトスピーカー」の原点というべき存在です。

また、たとえ富裕層でリビングルームに家族用のシアターオーディオを導入したとしても、それとは別に、自分専用のプライベートな空間で趣味の音楽に没頭したい、という人は案外多いものです。書斎のブックシェルフスピーカーと真空管アンプのコンパクトシステムで、静寂の中、小音量で音楽をじっくり堪能できる「マニアックなホビー」としてのパーソナルオーディオは、現在においてもニーズは変わらず、それが高級ヘッドホンオーディオに進化していっただけのことです。

結局のところ、世代は変わっても音楽体験というのは不変のものなので、そんな「パーソナル・オーディオ・ファン」の求めているサウンドを熟知しているということがKEFというメーカーの強みだと思います。

KEF以外にも、イギリスにはスペンドールやロジャース、タンノイなどの名門メーカーが無数存在していますが、それらの多くがノスタルジックな家具調デザインでレトロマニアを誘惑している一方で、KEFは「時代を先取りしすぎているのでは」と心配になるくらい革新的なスピーカーMUONやBLADEなどを次々とデビューし続けています(しかも売れてます)。

どんなに音響理論や科学を振りかざしていながらも、結局は「スピーカー」というと、「木目が綺麗な長方形の箱」を期待しているオーディオマニアが未だに多い世の中ですが、KEFは常に常識を覆す挑戦的な姿勢でいるのが好感が持てます。

先を行き過ぎてるKEF MUONとBLADE

ちなみにKEFの本拠地は依然イギリスにあるのですが、会社自体は香港の巨大企業グループ「Gold Peak」の資本傘下にあります。

こういった老舗メーカー買収の話になると、一時代の終焉だとか、ブランドの崩壊だなんて騒がれたりすることが定説なのですが、KEFの場合は1992年から同グループの傘下に入っており、上記の革新的なスピーカー技術のほとんどが、この買収後に実現されています。

買収後の企業体制が(利益が出ているかは知りませんが)製品開発の積極性に大いに貢献している、稀に見る成功例だと思います。

あのGP電池のメーカーが親会社でした

ちなみにKEFの親会社Gold Peakについてはどういった会社なのか知らなかったのですが、検索してみたところ、GPバッテリーの会社だと判明して驚きました。GPはGold Peakの略称だったんですね。ダイソーとかで売ってる金色のGPアルカリ電池は、安い割にそこそこ性能が良くて重宝してました。あとオーディオ機器のリモコンとかでよく付属している気がします。乾電池以外にも色々と手広くやっている香港屈指の大企業だということで、恐れ入りました。

SPACE ONE

SPACE ONEは日本のKEF公式サイト(http://jp.kef.com/space-one)に行くと、定価55,000円 で直販しています。現時点ではアマゾンにも価格コムにも無いですし、店頭でも見かける機会が無いので、直販限定の販売戦略なんでしょうかね。よくわかりません。

アルミを多用したポルシェ・デザインらしいフォルムです

今回、ポルシェ・デザインとの共同開発ということで、素人・ヘッドホンマニアのどちらの目線から見ても、「これは良さそうだ」と期待できるデザインに仕上がっているように思います。

ポルシェ・デザインはポルシェの子会社として、自動車デザイン以外に、ファッションブランドとしても最近かなり頻繁に目にするようになりました。文房具や、財布や香水とかの男性ファッションアクセサリ以外では、Lacieのハードディスクとかも有名ですね。

ポルシェ・デザインというと、ガジェットマニアはコレを連想します

似たようなケースで、米国Audezeのポータブルヘッドホン製品はBMWデザインワークスに委託した、というのがありました。この手の産業デザインコンサルタントというのは、単なる「カッコいい外観」をササッとスケッチするだけではなく、自動車の内装デザインなどと同様に、人間工学に基づいた快適さや、人種、年齢、性別を問わない汎用性、唯一無二のデザインアイデンティティ、そして予算内でいかに高級に仕上げるかの材料選びや製造方法などを全て請け負うことになるので、困難な作業です。

もちろん、それで安価な粗悪品を作られたらブランドイメージに傷がつくので、必然的に高級志向で高価な商品になりがちですが、我々消費者にとっては「このブランドなら、絶対大丈夫だろう」という安心感を買っているようなものです。高級ブランドというのは本来デザイン性以前にそういったものだと思います。

KEF M500

これまでに発売されたKEFヘッドホンというと、M500というやつが日本でもそこそこ有名で、現在でも30,000円くらいで流通しています。今回のSPACE ONEも全体的なフォルムはM500と同系統で、一回り大きくなったような感じです。

M500ヘッドホンも、実はSPACE ONEと同様にポルシェデザインだそうです。個人的な印象としては、KEFらしいというか、いわゆる据え置き型オーディオメーカーが作った、中堅価格帯の無難なヘッドホン、といったイメージがピッタリの商品でした。我々のようなヘッドホンマニアの食指が動かなそうな、地味すぎるヘッドホンです。

長時間使用にはあまり向かないコンパクトオンイヤーパッドに、ハウジングにベタ付けのドライバ、リモコン付き片出しフラットケーブルといった出で立ちで、人知れず高級オーディオショップの片隅に置いてあるイメージです。

サウンドも中域重視で無難だけれど、その価格帯としては特出した意気込みも無く、ようするにKEFスピーカーファン向けのアクセサリ的な印象があります。(悪い商品ではありませんよ)。勝手な想像ですが、同じくスピーカーメーカーのB&Wとかも同様に、内心では「ヘッドホンは所詮スピーカーの劣化版、富裕層に自社の高級スピーカーを売り込むきっかけになればそれでいい」という意識が少なからずあるのかもしれません。

新モデルSPACE ONEは、そんなM500を全方面で進化させ、NC搭載で55,000円という価格相応に高級ヘッドホンとしての魅力を出すことを目指した商品のようです。

カッコいいディスプレイにBluetoothスピーカーもありました

SPACE ONEの試聴ディスプレイには、KEF&ポルシェ・デザインコラボのBluetoothスピーカーGRAVITY ONEが置いてありました。残念ながら人目のある場所で音を鳴らすのもはばかられたので、こちらは試聴しませんでした。

スピーカーよりも飲みかけの水が気になってしまうGravity One

美男美女が高層ビルで水質調査

ちなみにラインナップにはもう一つ、MOTION ONEというBluetoothイヤホンもあるらしいですが、こちらは実物はまだ見ていません。

ノーヘル+イヤホン装備で自転車は危険だと思います

今回の製品ラインナップでKEFがとったアプローチは、ポルシェ・デザインとのコラボで、ファッション系の販売路線を開拓するといった方向性のようです。このコラボはKEFが単純にポルシェ・デザインにデザインを依頼したというよりは、KEFというブランドを知らない人達向けに、「ポルシェ・デザイン・サウンド by KEF」といったブランドを作り上げる試みのようです。

実際、ここ2年ほどでラグジュアリーファッション店でのヘッドホン販売はかなり目立つようになってきており、衣類系セレクトショップの店頭に陳列されて好調に売れている、なんて事例が続々と増えています。(B&OやParrot Zikなんかが先駆けでしたね)。日本の大手オーディオメーカーはそっち方面のプロデュース力が圧倒的に下手なので、KEF+ポルシェ・デザインのようなブランドが開拓するチャンスがあるのでしょう。

こういうケースらしいです

SPACE ONEヘッドホンの試聴機は本体のみだったので、残念ながら付属品などは見ることができませんでしたが、パッケージにはBOSEと似たような薄型ジッパーケースが付属するようです。

ケーブルの隣にNC ONボタンとLEDがあります

NC機能はケーブル付近にあるボタンを長押しすることでON/OFFできます。非常にシンプルな構造なので、Bluetoothのように誤作動やペアリングでイライラさせられることもありません。

ヒンジ部分にPORSCHE DESIGNと書いてあります

反対側のヒンジはKEFロゴです

ヘッドバンドは「何の変哲も無い」という言葉がピッタリです

デザインはポルシェ・デザインらしいというか、キャリアのビジネスマンに似合いそうな、地味に落ち着いていながら、キラッと光る部分もある、上品な仕上がりです。アルミ削り出しのガンメタル仕上げというのはよくあるデザインかもしれませんが、重要なのは、レザーとアルミという二つの要素のみに徹底しており(LEDも目立たない白色)、各パーツの色合いや質感、光の反射などがちゃんと統一していることが美しいと思います。

このヘッドホンのカチッとしたメタリックデザインは、たとえばロットリングなんかのように、使い込むことでダメージによる美しさも生まれるのではと期待させてくれます。

デザインが下手なメーカーの場合、同系色を使っても、どうしてもプラスチックや塗装などの質感が合わず、「寄せ集め」的なチープさやテカテカ感が拭えません。その点、このSPACE ONEには見事な「飾らない美しさ」が感じられます。

ただ、個人的には、ポルシェ・デザインのアルミというと、どうしても家電量販店のLacieハードディスクを連想してしまうので、その先入観から、あまり高級ブランドというイメージはありません。そういった意味では、あのコラボは失敗かもしれませんね。

BOSE QC35(右)との比較

フラットに畳んだ状態ではBOSE QC35とほとんど変わらないサイズ感です。SPACE ONEは265g、QC35は234gということで、実質あまり違いは無いのですが、体感上は金属を多用しているSPACE ONEの方が重厚感があります。

ケーブルは3.5mmで着脱可能

ドライバは見えませんが、イヤーパッドはフカフカです

登載されているドライバは「40mmでCCAWボイスコイル」という親近感のあるスペックですが、KEFエンジニアによるチューニングが行われたそうです。

イヤーパッドは厚みがあり、吸着感も良いのですが、なんだかオンイヤーとアラウンドイヤーの中間みたいな中途半端なサイズなので、フィット感はかなり人を選ぶと思います。

BOSE QC35(右)の方が軽量で薄型です

イヤーパッドはQC35よりも狭いです

SPACE ONEは厚いイヤーパッドのせいで側圧もそこそこあり、装着時はビタッと押さえつけられる感じがありました。ギリギリ長時間使用でも耐えられると思いますが、私自身では2−3時間で蒸れて不快になってきました。全体的な雰囲気は、たとえばOPPO PM-3とかに近いと思います。

BOSE QC35は薄手のイヤーパッドが耳周りにペタッとくっつくのみで、非常に軽量軽快な装着具合なので、やはり手軽さというかカジュアル具合ではBOSEに敵うものは無いと思います。オーディオマニア以外の人種の大多数がBOSEヘッドホンやイヤホンを店頭試着して、満足して買っているという事実は、他のヘッドホンメーカー勢は真摯に認めて徹底的に勉強するべきだと思います。

このSPACE ONEヘッドホンで唯一困ったのが、電池へのアクセスです。ハウジングの外側を探しても、どうすべきか全く見当がつきません。ショップの人に教えてもらってようやく判明したのですが、右側イヤーパッドの内部(ドライバグリルの部分)に指を入れて手探りで丸いボタンを押すと、ハウジング外側のフタがパカッと開いて、内部の電池が交換できます。

近未来フォルムなくせに、ずいぶんクラシックな乾電池式

初見では全くわからず、しかもボタンがあるということを事前に知っていても、なかなか感覚的に判別が付きにくいので、これはデザイン優先で使用感を犠牲にしたのだと思います。ようやくボタンを見つけてフタがパカっと開くと、忍者屋敷の秘密通路のような達成感があります。

一本の単4電池で50時間再生できるらしいので優秀ですね。ちなみに最近では内蔵電池をUSBで充電するタイプのヘッドホンが主流なので、乾電池というと古臭いイメージがありますが、実は私自身は乾電池の方が好きだったりします。たとえばBOSEの場合もQC25からQC35に買い換えた際に乾電池からUSB充電に変わったのがちょっと残念でした。

NCヘッドホンの一番致命的な問題点は、電源を切り忘れて電池が空になってしまうことだと思います。それをすでに数回経験しているので、USB充電タイプの場合は、長距離フライトの前などだと、常に電池寿命が大丈夫かドキドキしてしまい、機内にUSB充電器があるか、予備のUSBバッテリーはあるか、なにかと気苦労が多いです。

その点、単4乾電池だと、家庭ではエネループとかの充電電池を使い回せば十分ですし、出先でどうしても困った際にはコンビニでアルカリ電池を買えば済むので、精神的な負担が軽いです。ようするに、満充電になるまで待たなくても、作業を中断せずにすぐ(安価に)電池交換ができるというのは、NCヘッドホンにおいてはかなり大事なポイントです。

そういえばKEFの親会社はGPバッテリーなので、「乾電池」の有用性を披露する、良い機会なのかもしれません。

NCとか

騒音下でSPACE ONEのノイズキャンセル性能をテストしてみたところ、数年前のNCヘッドホン勢と比べるとかなり進化していると思いますが、感覚的にはBOSE QC35よりは一歩劣ると思いました。とは言ったものの高域・低域ともに十分にカットしてくれますし、旧式なNCであったような「サーッ」というバックグラウンドノイズも気にならない程度に抑えられています。

絶対的な静粛感が得られるQC35と比べると、SPACE ONEではまだちょっとだけエアコンの風切り音のような「シューッ」という音が残っているような感じです。だたし、私の友人いわく、QC35は静かすぎて気分が悪くなるとか、息苦しくなる、みたいな現象もあるみたいなので、長時間装着するにはむしろSPACE ONEの方がリラックスできるかもしれません。数年前のNC商品にあったような、空気の位相がぐにゃぐにゃと捻じれて圧迫したり平衡感覚が失われるような不快感は一切無いので、技術水準はちゃんと地道に進化しているんだなと感心しました。

SPACE ONEを装着していて、唯一気がついた欠点は、NC ONの状態で(音楽は聴かずに)歩いていると、かかとの衝撃や、首が左右に振れるタイミングで、0.1秒くらい遅れて、左側のドライバから「ポッ」という微小ノイズが聴こえることがあります。つまり低音の逆位相信号が不具合を起こしているんですんかね。音楽を鳴らしていれば聴こえませんし、体を激しく動かさなければ発生しないので、これは使用環境によって気になる人とならない人に分かれると思います。

そういえば、全く同じような問題を昔AKGのNCヘッドホンで体験しましたが、あれはちょっとした衝撃で「バスッ!バスッ!」とNCが過剰反応して音楽鑑賞すらままならない酷いものでした。このSPACE ONEの現象はそこまで酷くありません。ちなみにBOSEではこういった実用上の不具合というのが全く起こらないので、そのへんはさすがだなと感心してしまいます。

スマホでの駆動

SPACE ONEの出力感度はスペック上では32Ω 93dB(/mw?)と書いてありますが、BOSE QC35を有線モードで使った時とほぼ一緒でした。(双方を比較試聴したときにもボリュームを調整する必要がありませんでした)。どちらも、スマホで駆動するにはちょっと音量ゲインが低めなように思います。

QC35の場合Bluetoothで接続すればかなり高音量まで上げられるのですが、SPACE ONEは有線のみなのでそれができません。

スマホだと音量が足りないことがありました

ポピュラー音楽を聴くのであれは、自分のXperiaスマホのボリュームは50~70%くらいで適正でしたが、クラシック音楽などはそれらよりも-10dBくらい音量が低いので、ボリュームを最大まで上げても楽器の微細音が聴き取れず、十分とは言えませんでした。

アクティブNCという性質上、せっかくヘッドホン内にアンプが内蔵されているのに、「爆音から耳を守るため」なんて名目で最大音量が控えめに設定されているモデルが多いです(実際は電池寿命優先でショボい省エネアンプを入れているからでしょう)。普段から強力なDAPを携帯しているマニアならともかく、カジュアルに使いたいスマホユーザーにとっては音質以前に致命的な問題だと思います。

こういった高級ヘッドホンでも、やっぱり販売ターゲット層はポピュラー系ジャンルを前提に設計されてるんだなという印象を受けました。CDやハイレゾのダイナミックレンジを十分に活かしている優秀録音を聴きたくても、スマホでは満足な音量が得られないのが残念です。

音質とか

NCヘッドホンはNC ONの状態で使うことを前提にチューニングされているので、ひとまずNC ONで試聴してみました。真面目な試聴にはスマホではなく、Cowon Plenue Sを使いました。

KEF SPACE ONEの音質は、数あるNCヘッドホンの中でもひときわユニークな仕上がりだと思いました。欠点もあるので完璧とは言えませんが、設計者の意図がしっかりと伝わる、オーディオブランドらしい魅力を持った個性溢れるサウンドです。前作KEF MM500とは根本的に異なるサウンドだと思いました。

とくに特徴的なのは、中高域の音色が非常に美しいことです。NCヘッドホンでこういった中高域が出せるモデルは珍しいと思います。

コンパクト密閉型デザインなので、たとえば巨大な開放型ヘッドホン的な「どこまでも伸びるような高域」みたいなものは無理ですから、ある程度のところで高域がバッサリと切られる天井のような上限は感じられます。それでも、質感や立体感がとてもよく整えられており、ギターやヴァイオリンなどの弦楽器、女性ボーカルや金管楽器などの実在感が十分に引き立っています。出音のメリハリと、そこから生まれる響きの豊かさがきちんと両立しているため、不自然さや違和感を感じさせないことが良い結果につながっているのでしょう。

高域といってもギラギラした解像感重視ではなく、歌声や楽器から発せられる一音一音の倍音成分がちゃんと引き立っており、音楽の魅力を尊重した鳴り方なので、しみじみと、その仕上がりの良さに感心しました。また、空間イメージも優秀で、広さはあまり感じられないものの、主要楽器がしっかり前方にまとまって無駄に発散しないため、じっくりと腰を据えた音楽鑑賞向きの極上なチューニングだと思います。

せっかくのNCですが、屋外のやかましい喧騒下で活発に使うというよりは、オフィスなどでじっくりと音楽鑑賞をするための、たとえばエアコンやパソコンのファン、窓越しの道路の騒音なんかをカットするような補助的な使い方に適しています。いかにもNCしてますというようなデジタル臭さを感じさせないところが素晴らしいと思います。

中高域に魅力がある一方で、中域以下の低音はちょっとクセが強いように感じました。量感はかなり多めです。低音量が盛ってあるのは近年のヘッドホンでは珍しいことではないと思いますが、特にこのヘッドホンの低音は緩くソフトにリスナーを包み込むような鳴り方をします。過度にボワボワ反響するとか、中高域にかぶって邪魔をするほどでもないのですが、なんとなく量のわりに解像感が弱く、一応鳴っているものの、毛布にくるまったような暑苦しい曖昧さがあります。

想像ですが、チェロやベース、ドラムなどの低音楽器から発せられる音の、主音(基調音)と高域倍音成分の繋がりが悪く、アタック感や空間位置なんかの情報がリスナーに伝わっていないのだと思います。そのため、たしかに音が鳴っている事実はあるのに、それがなぜ、何のために鳴っている音なのかという情報が欠落しています。あくまで緩くソフトなので、ボンボンと弾けるような低音ではなく、圧迫感や不快感はあまり感じさせません。

中高域の美音と低域の緩さということで、なんとなく往年のDENONヘッドホンとかのイメージが近いかもしれません。DENONといえばAH-GC20という優秀なNCヘッドホンがありますが、あれよりも昔の家庭用密閉型に近いです。ちなみにAH-GC20は悪くないものの、どうもイヤーパッドの吸着のせいで閉鎖感が強すぎて、常用は断念しました。

SPACE ONEのサウンドは、類似しているヘッドホンを探すよりも、KEFのブックシェルフ型スピーカーと共通する個性があるように感じました。同じKEFというメーカーでも、このSPACE ONEヘッドホンと、同社スピーカー製品では技術設計が根本的に異なることは重々承知していますが、それでも、チューニングの賜物でしょうか、なんとなく親近感があります。

エントリークラススピーカーの旧ベストセラーKEF iQ/XQ

たとえば長年人気があったKEF iQ/XQシリーズなどは、中域振動板の中心に高域ツイーターを埋め込んだUniQドライバが特徴的ですが、これは高域と中域の軸と位相を同調させることで、高域だけがシャリシャリ主張する事を防ぎ、あくまで中域の音色の倍音を補うといった目的を最優先に考えており、なんとなくSPACE ONEヘッドホンのサウンドと共通しています。一方低域はハウジングや室内音響に依存する部分が大きく、他社のスピーカーと比べても、室内配置(壁との距離とか)やバスレフポートの調整(スポンジや布を詰めたり)なんかで低音の鳴り方を調整する作業が難しいブランドだという印象があります。

近年の傑作KEF LS50

ヘッドホンではそのような小細工で低音を調整するすべがないのが残念ですね。余談ですが、KEFでも新しめなデザインのLS50スピーカーでは、小容量のハウジングながら低音の遊びがそこそこ改善されており、コスパの高い傑作スピーカーです。アンプ内蔵のアクティブ版もあるので、デスクトップPC用途などでもオススメです。

同クラスのNCヘッドホンとして、BOSE QC35、ソニーMDR-1000Xと聴き比べてみました。SPACE ONEはBluetoothではないので、BOSE、ソニーともに3.5mmケーブルを使いました。この三機種を交互に聴いてみると、まさに三者三様という言葉がピッタリ当てはまるくらい個性が異なるので、やはりNCヘッドホンと言えど、NC性能のみでなく、音質の好みを優先して選ぶべきだと実感しました。

私自身が音楽鑑賞で一番楽しめたのはKEF SPACE ONEでした。低音の盛り具合はあまり好きではないですが、古めのシビアな録音でも美しくゆったりと鳴らしてくれる包容力と、その上でキラッと光る美音のおかげで、ちょっと仕事の合間に、愛聴盤でリラックスしたい、なんて用途では最適です。

BOSE QC35は圧倒的なNCの静寂感のおかげもあり、音楽空間にとても広い余裕があり、SPACE ONEよりもサラウンド映画っぽい効果が堪能できます。つまり動画鑑賞なんかで力を発揮する分離の良さが魅力です。

低音の鳴り方はSPACE ONEと根本的に異なり、ピーンと張った太鼓のような弾力とパンチがあります。ドライバそのものがゴムボールのように弾んで空気を押し出しているようで、SPACE ONEのように長く留まらない、ズシンと響く低音です。これもアクション映画などで効果を発揮してくれます。SPACE ONEと比べるとBOSEはやはり中高域に響きの魅力が無いのが弱点だと思います。ただ鳴っているだけで、立体感や空間位置、質感なんかがほとんど伝わりません。その淡々とした鳴り方だからこそ動画鑑賞でクリア感が得られるのですが、音楽用途では面白みがありません。そこがBOSEがどうしても乗り越えられない線引きだと思います。

ソニーMDR-1000XはNC性能、サウンドともにQC35に匹敵する傑作だと思いますが、これもなかなか評価が難しいというか、好き嫌いが分かれるタイプだと思います。

SPACE ONEと比べると、MDR-1000Xの方が高音の伸びや低音のクリア感は格段に優れており、その帯域特性の広さにはつくづく感心するのですが、逆にそのせいで肝心の中域の肉付きというか、音楽のコアの部分が負けてしまい、SPACE ONEほどリラックスして音楽に没頭出来ないようでした。MDR-1000Xは常にお祭り騒ぎというか、録音された情報を余すこと無くリスナーにぶつける事はできるのですが、ようするにNCヘッドホンを使うような状況で、そこまで必要か?という矛盾みたいなものを感じてしまいました。

MDR-1000Xは騒音下のNC状態であってもソニーMDR-1Aのようなキラキラサウンドを実現できるポテンシャルはとても素晴らしいのですが、このモデルのコンセプトとして「ハイレゾ感」(?)みたいなものがかなり強調されているため(MDR-100ABNほどでは無いにしろ)、かなりハイテンションな鳴り方です。ソニーの牽引するハイレゾ関連のサウンドを楽しむのであれば十二分に素晴らしいヘッドホンだと思いますが、古い録音とかだとドンシャリがシビアすぎて聴き疲れてしまいました。私自身がQC35から買い換えなかった理由も単純に、「これで機内とかで10時間以上音楽を聴くのは辛い」と思ったからです。

そんな三者三様の中でも、SPACE ONEは唯一の美音系リスニング向けサウンドだということが、独特の魅力になっています。

NC OFFの音質

SPACE ONEはNC OFFでも音が出るように設計されていますが、個人的な印象として、あくまで「音が出る」程度で、音楽鑑賞は不可能なほど酷いサウンドだと思いました。

具体的には、NC OFFにすると中低域に「コーッ」という派手な反響音が生じて、音楽が無駄なエコーの層で覆われてしまいます。とくにリスニング中にいきなりNC OFFにしてみると、まるで水中にダイブしたかのような感覚を受けます。バッテリーが切れた緊急事態でもかろうじてTV番組鑑賞に使える、といったレベルです。

SPACE ONE以外の、たとえばBOSE QC35やソニーMDR-1000Xでも、NCヘッドホンというのは「内蔵DSPありき」でチューニングを整えているため、総じてNC OFFの状態だとサウンドがあまり良くないです。NC回路やバッテリーなどを内蔵するため、一般的なヘッドホンと比べてハウジング空間の設計に制限があり、そこで生じる音響問題をNC回路のDSPで無理矢理相殺させているような感じでしょう。

ところで、最近色々なNCヘッドホンを聴いていていると、どのモデルも、NC ONで感じられる悪いクセや弱点は、実は「物理特性の悪さをDSPで潰している」事で生まれているように思えてなりません。

例えば今回のSPACE ONEの場合も、美しい中高域の質感はNC ON・OFFを問わず、ちゃんと発揮できています。リスニング中にNCスイッチをON・OFFしても、この部分の鳴り方だけは影響されません。つまり、「ノイズキャンセル」回路自体は、さほど音色に悪影響を与えていないのでしょう。

一方、SPACE ONEのフワフワした実体の無い中低音は、NC OFF時に聴き取れるハウジング由来の「コーッ」という響きをDSPで補正消去した上で、さらに盛った中低音だからこそ、音楽的に失敗しているように思えます。

BOSE QC35の場合は、高域で似たような現象が起こっています。QC35特有の弾力性のある低音はNC ON・OFFを問わず健在ですが、NC OFFで聴こえる高域のシュワシュワした響きが、NC ONだと綺麗に消去されています。しかし、その結果得られるのが、なんとも味気ない、実在感の薄い「ただ鳴っているだけ」の高域です。

つまり、結局はヘッドホンそのものの素の特性が悪ければ、そこから生まれるのはニセモノの音だということでしょう。

私がこれまで試してきたNCヘッドホンの中で、NC ON・OFF時の音質差が一番少なかったモデルは、オーディオテクニカ「ATH-MSR7NC」でしたが、あれはそもそもコンパクトハウジングで優秀な音質性能を誇るATH-MSR7をベースにしているだけあって、素の特性が良く、また、NCの効果はお世辞にも良いとは言えない、「なんだかちょっと効いてるかも」程度のノイズキャンセルだったので、音質差が生じないのも納得がいきます。

NC以外でも、最近流行りのBluetoothヘッドホンなど、DSPアンプを内蔵しているタイプでは、ハウジングのクセや弱点をDSPで潰せるというメリットはあるのかもしれませんが、結局は素のヘッドホンの物理特性を完全に消すことはできず、根本的に優れた設計のヘッドホンを上回ることはまだ実現できていないようです。

これは最近よく一部マニアの間で流行っている、「安いヘッドホンでもパソコンのイコライザーを駆使することで特性をフラットにできる」といった試みと同じように思います。遠目で見た周波数グラフはフラットにできたとしても、ハウジング反響などで生じた時間のズレた余計な音を選別してピンポイントで削除することは不可能なので、音色の質感や立体的な空気感は劣化してしまいます。一度作ったカレーの中から、生のニンジンを蘇らせようというのと同じ事です。よくオーディオマニアが言うところの「音の鮮度を保つ」ことの重要性とは、こういったことを表しているのかもしれません。

おわりに

KEF SPACE ONEヘッドホンは、最近流行りの高級ノイズキャンセルヘッドホンの中でも、かなり優秀な仕上がりの作品だと思いました。中高域の綺麗な音色が魅力的で、これまでのNCヘッドホン勢とは一線を画する、リラックスした美音系の音楽鑑賞向きのチューニングだと思います。低音の量感が太く緩いので、その部分だけはリスナーや音楽ジャンル次第で長所とも短所ともとれます。なんだかんだで、一日の終りにボーっと音楽を聴いて疲れを癒やすには、こんなヘッドホンが最善なのかもしれません。

ポルシェ・デザインが似合う人

高級感溢れるポルシェ・デザインのハウジングは装着感も上等で、長時間の使用でもそこそこ快適でした。ただし、金属を多用しているだけあって、けっこうな重量があるので、ジョギングや出先でアクティブに使うというよりは、むしろ自宅やオフィスなどの落ち着いた環境において、ノイズキャンセルの恩恵で手軽に「プライベート空間」を作り上げるような使い方が適していると思います。

「家庭の喧騒からちょっとの間だけ離れて、静かな書斎に引きこもり、真空管アンプとKEFスピーカーのサウンドをしみじみと味わう」、といったプライベートな音楽鑑賞を半世紀前に提示してくれた英国オーディオの精神が、このSPACE ONEヘッドホンにも継承されている、なんて勝手に想像したりします。

NCヘッドホンというと、最近ではやはりBluetoothは必要かどうかで悩ましいかと思いますが、私自身は旅行や出張でBOSE QC35を何度か使ってみた上で、「Bluetoothはまだ未熟で面倒くさい」という結論に至りました。

Bluetoothの音質はかなり良くなってきたと思いますが、それでも実用面では、再生デバイスとのペアリング不調でプチプチノイズが出たり、うるさいボイスガイダンス機能が止まらなかったり、電源投入時にペアリングがなぜか失敗したり、買ったばかりのXperia XZとのNFCが成功しなかったり、飛行機内のエンターテイメント画面はBluetooth非対応だから結局ケーブルが必要だったり、なんだかんだで、有線の安心感を捨て去る気はまだ起きませんでした。

つまり、多機能を詰め込みすぎたガジェットマニアのヘッドホンではなく、純粋に「音を聴くヘッドホン」という存在意義としては、KEF SPACE ONEの「ケーブル接続、NCスイッチオン」といったシンプルさが、むしろありがたいと実感しました。

KEFというブランドはスピーカー業界では大御所であっても、ヘッドホンから入ったオーディオマニアには知名度は低いかもしれませんが、同業者B&WやFocalなどと並んで、サウンドチューニングの技術は一流の実績と実力があるメーカーなので、機会があればぜひ試聴してもらいたい逸品です。