2018年5月31日木曜日

64 Audio tia Trio イヤホンの試聴レビュー

64 AudioのIEMイヤホン「tia Trio」を聴いてみたので感想を書いておきます。

2017年に登場した最上級イヤホン「Fourte」からtiaシステムを継承し、さらにFXCというダイナミックドライバー技術を投入した意欲作です。

64 Audio Trio

値段はtia Fourteの44万円からちょっと下がって30万円と、それでも呆れるほど強気な価格設定で、色々と高級オーディオに散財している私ですら、さすがに手が出せませんが、どんな音なのか気になってしまいました。

tia Trio

64 Audio公式サイトを見ると、正式名称はoにアクセント記号がついて「Trió」なのですが、辞書のトリオという単語にアクセントは付かないので、かっこいいから付けた造語のようです。Fourtéもそうでした。ブログでは文字化けすると嫌なのでアクセント無しでTrioと書きます。

ハウジングにも書いてある「tia」とは、64 Audio独自の「tubeless in-ear audio」の略称で、公式サイトによると、二つの異なる技術をそれぞれtiaと呼んでいるようです。

公式サイトによるtiaシステムの説明

まずtia driverという開口率の大きいBAドライバーを使う事で、従来のBAドライバーのような細いノズルから音を出すという設計上の問題を解消しています。

さらにtia single bore designといって、公式サイトのCGを見るとわかりやすいのですが、音導管に小さなBAドライバーを詰め込んでいます。特に高音は音導管を通ると反射して乱れてしまうので、こうすることで音を鼓膜に最短で届けるというアイデアです。その後ろにBAドライバーを配置し、さらにハウジング内に別チャンバーを設けて、それらに大きなドライバー各種を配置するといった高度な技術です。

上位モデルFourteでは、円盤型のパッシブラジエーターを配置していましたが、Trioではダイナミックドライバーを搭載してあると書いてあります。これが両モデルの大きな違いでしょうか。素人考えだとダイナミックドライバーの方がパッシブラジエーターよりも値段が高くなりそうだと思うのですが、なぜTrioの方が安いのでしょうね。

ちなみにダイナミックドライバーの音響チャンバーや排圧も入念に設計されているそうで、それをFXC(Frequency eXtension Chamber)と呼んでいます。

カスタムIEM

ユニバーサルタイプの旧Uシリーズ

64 AudioのIEMイヤホンというと、自分の耳型を送って作ってもらうカスタム品がメインで、あちらは多種多様な配色や模様が選べますが、ユニバーサルのUシリーズは地味な黒色でした。

重厚なメタルの質感です

しかしこのTrioを含む最近の上位モデル(tia搭載機)からアルミに変わっており、質感もカラーリングも個性的になっています。その中でもTrioは地味な方ですが、ガンメタルっぽい鈍い輝きはかっこいいと思います。

U12と比較

このTrioと、海外では同時期に発売したマルチBA型のU12tも、同じカラーリングで揃えてあります。デザインはそっくりですが、U12tにはAPEXモジュールの筒状部品があります。

どちらもサイズ感はよく似ていて、ケーブルなども同じなので、装着感はほとんど変わりませんでした。

ちなみにこのU12tは、これまでの12ドライバーモデルU12からのモデルチェンジで、低域4基、中域6基、そして音導管部分にtiaシステムの2基を搭載した構成になっています。さらに上位のU18では低域8、中域8、tia2の18ドライバーです。

Fourteと比較

Trioの直接的な上位モデルはオレンジ色のFourteで、こちらは昨年紹介しましたが、Trioの30万円よりも更に高い44万円という圧倒的な超高級イヤホンです。ハウジングデザインは同じように見えますが、希少石みたいなデザインパネルがユニークです。

よく見ると通気口が二つあります

Trioのハウジングデザインは完全密閉型のように見えるのですが、実は下側と、耳に接触する付近に、小さな穴が確認できます。APEXモジュールの代わりに、この通気口で圧力を逃しているようです。

音導管にはメッシュが貼られてます

音導管は一般的なソニーサイズなので、社外品イヤピースも色々選んで装着できます。中を覗いてみると金属メッシュが見えます。

SpinFitと相性が良かったです

個人的に、TrioはSpinFitとの相性が良かったです。本体の音導管が短いので、たとえばFinalなどの短いイヤピースだと耳の奥までグッと固定してくれませんでした。また、tiaシステムの高域BAドライバーが音導管にあるせいか、イヤピースの長さでずいぶん音が変わります。私の聴いた感じでは、Finalだと近すぎて音が過激になりすぎて、SpinFitくらい遠ざけた方が刺激が抑えらたので、試聴ではこれを使いました。

ともかく装着感は良好なのですが、一般的なIEMイヤホンよりも装着方法によって音の鳴り方が変わりやすいので、試聴の際にはいくつか異なる長さのイヤピースを試してみた方が良いと思います。

ケーブルについて

64 Audioは一般的な2ピン端子を採用しているので、ケーブル交換や社外品へのアップグレードは容易です。

ところで、Trioに付属しているケーブルは、昨年までのモデルとは異なる新型に変更されています。どんな物なのか気になっていたのですが、実際に使ってみたところ、音質、使用感ともに、これだけはあまり気に入りませんでした。

ケーブルの2ピンコネクタカバーが左右とも壊れました

編み込みの黒いケーブルなのですが、まず明らかに問題だったのは、Trioの新品開封時から、2ピン端子のプラスチックカバーがグラグラして怪しかったのですが、数日間使っているうちに、左右ともにパカっと剥がれて脱落してしまいました。断線はしていないので、紛失していなければそのまま接着剤で元通りに直せますが、高級イヤホンでこういうのは困ります。

Fourteのケーブルと比較

実は昨年モデルのFourte・U18のケーブルは、上の写真にあるように2ピンコネクターの部品が違います、ここが弱くて断線しやすいようだったので、それの対策品なのだと思いますが、どちらにせよ駄目ですね。私の友人のU18は断線して返品したら、Trioと同じ新型ケーブルが帰ってきました。

写真ではちょっと見えにくいですが、ケーブルY分岐部分がこれまではスミチューブに透明ビニールチューブのスライダーだったところ、新型では64 Audioロゴ入りの特注品になっています。3.5mm端子はこれまでノイトリック製L字タイプだったのが、新型は別のデザインになっています。

この新型ケーブルの3.5mm端子と、パカっと割れてしまった2ピン端子は、どちらも中国とかのネットオークションでよく見るDIY用汎用部品なので、せっかくならもうちょっと品質にこだわった物を使ってもらいたかったです。

線材もゴワゴワと絡みやすいですし(上の写真は、綺麗にグルグルまとめようと10分くらい四苦八苦して、諦めた結果です)、サウンド面でも、新旧ケーブルともにアタックが派手に出て音色が弱いタイプなので、初心者が聴けば高解像っぽく思うかもしれませんが、長年色々聴いてこの価格帯に行き着いた人ならば、もうちょっと自然な空気感とかを求めると思います(勝手な想像です)。

64 Audioに限らず、NobleやUMとかも付属の黒いケーブルはショボいやつだったので、こういうのはアップグレード前提でオマケ程度のものなのでしょうか。

実際この上のFourteは44万円という凄まじい価格でしたが、「金に糸目を付けないで、とにかく一番高いイヤホンが欲しい」という客層に結構売れてるとショップの人も驚いていたので、そういう人は多分付属ケーブルはゴミ箱に捨てて、翡翠と純金で鳳凰の刺繍がしてあるようなケーブルを買うのでしょう。(そんなケーブルはありませんが、あれば売れると思います)。

Dita Dreamのケーブル

Dreamに付属していたケーブルを試しに装着してみたところ、音質は自分好みになりました。空気の抜け具合がかなり良くなるので、立体感が向上します。ところでこのDreamのケーブルも固くて取り回しが悪く、断線トラブルも多いということなので、やはり手軽で扱いやすい高信頼・高音質ケーブルというのは実現できないのでしょうかね。

音質とか

今回の試聴では、普段から使い慣れているQuestyle QP2RとCowon Plenue Sを使いました。Trioはイヤホンの中でも鳴らしやすい部類で、同社のマルチBAタイプと同じくらいの音量が得られました。

Questyle QP2R

実は数ヶ月前にTrioが米国で発売された時にちょっと試聴してみた事があるのですが、その当時はどうにも納得が行かず残念だった経験があります。今回じっくり試聴する機会を得て、ようやくその性格に慣れてきました。高音質ではあるものの、他社のイヤホンと比べてかなり個性的で主張の強いサウンドなので、最初の試聴曲で違和感があっても、そこで諦めずに色々な曲を聴いてみることをお勧めします。

Trioのサウンドは、まず第一印象として圧倒的にクリアで派手です。しかも情報量が多いので、音数の多さというか、音の津波に圧倒されてしまいます。

高音域はなんの妨げも無く爽快に伸びていきますし、低音は強烈なパンチと力強さを持っています。音のメリハリが強く、明らかにエキサイティングなサウンドなのですが、それでも中域の音色成分がスカスカにならず、何かが不足しているようには思わせないのはさすがです。これは相当なハイエンドイヤホンでないと実現できないレベルだと思いますし、64 Audio以外の他社では真似できないです。高価な値段もハッタリではないという事は実感できます。

Trioの突き抜けるようなクリアサウンドは、tiaシステムによって搭載ドライバー数を最小限に抑え、ハウジング内音響を見つめ直した結果得られたのだと思います。同社のU12tやU18などを含めて、複数のBAドライバーを搭載したイヤホンでは、Trioと同じくらい広帯域・高解像な「情報量が多い」サウンドが得られますが、まるで何層にも重ね合わせたかのように厚いヴェールのような音響を創り上げます。一方Trioはそんな厚い音の壁に囲まれているような閉鎖感が無く、風通しの良い空間からバシバシと音が飛び出して来るような感覚です。

そういった派手な爽快感や、音抜けの良さとなると、ダイナミックドライバーやシングルBA型イヤホンの得意分野ですが、たった一つのドライバーで可聴帯域の全てをフラットにカバーすることは不可能なので、それらはチューニングに癖があったり、チャンバー(ハウジング)内で反響させることでマイルドに空間の広さを演出するような方向性になってしまいがちです。

ところがTrioの場合、そんなマルチBAとシングルドライバーの両方の特徴を合わせ持っているようで、空間のプレゼンテーションは間近で迫力がありながら、ヴェールのようなもどかしさやフワフワした曖昧さが無く、低音から高音まで強烈に鳴ります。まさにハイブリッドですが、音を聴いても、どの部分がBAで、どれがダイナミックなのかといった区別が付けられず、高度な音響ハウジングで全体が上手にまとめられているというイメージです。


個人的に、プレスティッジやブルーノートの古いジャズアルバムを試聴に使う事が多いです。高音質だからというよりは、当時特有の確立されたサウンドがあるので、それらを上手く再生できるかどうかが明確な指標になります。Analogue ProductionsからArnett Cobb 「Party Time」が最近リマスターされたので、それを聴いてみました。1959年のありふれたワンホーンセッションで、コブのテナーにピアノがレイ・ブライアントなのが嬉しいです。

Trioでジャズを聴くと、テナーやピアノのサウンドは、まるでアナログ・レコードのように鮮烈に浮かび上がりますし、ウッドベースも歯切れよく弾力を持ってボンボン鳴ってくれます。デジタルなのにレコードのような押し出しがあり、しかも歪みっぽくないという、とても良い鳴り方です。そもそもスタジオミックスなのでライブ会場のようなリアリズムとは無縁ですから、Trioくらい勢いをもって、大きなスピーカーで聴いているような迫力とメリハリを出してくれると、スイング感が充実して音楽に没頭できます。「ノリが良い」というと陳腐な表現のように取られてしまいがちですが、それが最高水準で実現できています。

ハイハットのシャンシャンは激しく刺さるので結構辛いです。だからTrioは音が悪いというわけではなく、古い録音の問題が露見してしまうとも解釈できます。これを無難に丸く鳴らすイヤホンが優れているのか、もしくは録音通りにザクザク刺々しく鳴らすのが正解なのかというのは、オーディオにおける永遠の問題だと思います。


Capriccioレーベルから、ベルトラン・ド・ビリー指揮ウィーン放送交響楽団で、プッチーニ「外套」を聴いてみました。マイナーな一幕オペラですが、ラ・ボエームや蝶々夫人よりも後の作品なので、プッチーニの真髄が凝縮されているとマニアに人気の作品です。不倫妻を持つ旦那が間男に復讐するという陳腐なストーリーですが、主役がJohan Botha、Elza van den Heever、Wolfgang Kochと力強い三人で、歌唱と演奏ともに上出来です。CD一枚の短い作品なので、長いオペラは嫌だという人は是非聴いてみてください。

冒頭で、Trioは扱いづらいというような事を言いましたが、こういった高音質なクラシック録音が不得意なようです。上位モデルのFourteと比べると特に違いが感じられる条件なので、クラシックを聴くなら個人的には(値段は考えないとすれば)Fourteの方を選びたいです。

Fourte

FourteとTrioの違いは、Trioの方が高域と低域の強調される帯域がもっと中域寄りだという点です。(超高域・超低域ではなく、中高域・中低域が目立ちます)。たとえば、先程のジャズでも気になったハイハットやシンバルの刺々しさは、Fourteで聴けば、もうちょっと上の空気感やテープノイズ、プレゼンスっぽい帯域が強調されて、テンションは依然高いものの、刺さる不快感は少ないです。

クラシックでも、Fourteではコンサートホールの空気感がピンと背筋を張るようなテンションを生み出しますが、Trioではヴァイオリンやトランペット、もしくは女性歌手の高域がグッと強調されます。

さらに気になるのが低域の方で、Fourteではチューバやバスーンの地鳴りのような重低音や、ティンパニの打撃音に迫力がありますが、Trioではチェロからバス・バリトンの男性歌手付近まで、結構広い帯域で太く強調されます。

つまり、Trioの方がボーカル帯域付近のコアな部分が強調されるので、音楽の主役を派手に引き立てる効果があります。ポピュラー音楽あれば、歌手やバンドの主役にスポットが当たるのは良いことなのですが、クラシックやオペラに向いていないと思った理由は、自然な楽器音や音響バランスからは明らかに逸脱していて、現実の楽器が絶対に鳴らせないような音を出してしまうからです。

歌手や管弦楽器などは、マイク越しで巨大なスピーカーから発せられているようで、本来マイクを使わない生演奏の等身大の存在とは質感が大幅に異なります。低音も、コントラバスやティンパニなのに、まるでクラブのサブウーファー並にズッシンドッシンと鳴るので、それらの楽器が現実でそこまで過激な鳴り方をしていることは聴いたことがありません。

Trioと比べると、Dream、Xelento(T8iE)、IE800Sなどのダイナミック型イヤホンは、やはりオペラなどコンサート録音が上手です。それぞれ音色にクセや個性があるものの、ダイナミック型として共通しているのは、楽器音や歌声だけが飛び出して来るのではなく、もっと輪郭が曖昧で、その周辺の空気を一緒に連れてきてくれるという感覚です。そういった付帯する空間情報があるとドラマ性や現場のリアリズムがグッと向上すると思うので、録音がシンプルであるほど、その差が明確になります。

U18

64 Audioのラインナップの中では、こういったクラシック録音ではマルチBA型のU12tやU18と相性が良いと思いました。U12tではまだちょっと高域の刺激が強いですが、U18では概ね不満はありません。このあたりはTrioとFourteの関係性によく似ていると思います。

ただしU12tやU18は、TrioやFourteのような、他のイヤホンメーカーと一線を画する特徴や個性は薄く、上手く仕上げられたマルチBA型イヤホンのお手本という域を超えません。

APEXモジュールのおかげで音圧が緩和されている事は感じられますが、NobleやJH、Campfireなど、最近の優れたマルチBA型IEMでも、昔のイヤホンほど音圧や音抜けの不満があるわけではありません。U18は、たとえばAndromedaやKaiser 10、JH16v2などのBA型らしいサラッとしたサウンドの平均点をとって不満が出ないように仕上げた、まさにお手本のようなイヤホンなので、それでここまでの価格になるのかと躊躇してしまいます。

ではTrioはというと、確かにオリジナリティに溢れており、一聴して「これだ、これしか無い」と惚れてしまう人は多いと思うので、これくらい強烈であれば30万円という途方もない価格でも十分な説得力がある気がします。


新生インパルスレーベルからの新譜で、イギリスのジャズ・バンドSons of Kemetの「Your Queen is a Reptile」を聴いてみました。ジャケットの雰囲気からしてインパルス全盛期のような泥臭さを期待させてくれます。今作はジャズというよりもドラミングやパーカッションを重視して効果音やボーカルを混ぜたアフリカン・ファンクやダブっぽい作風で、20年前くらいのコールドカットとかのニュージャズコンピみたいな雰囲気があるのがイギリスっぽいです。

これまでの試聴曲ではTrioのサウンドが上手くいくケースと、そうでないケースがありましたが、こういったグルーブ感の強いモダンなハイレゾアルバムはTrioとの相性がピッタリです。

最近の音楽に多い、限られた帯域の中に色々な音を詰め込んで、音数が非常に多いタイプのプロダクションでは、Trioの真髄が引き出せます。実際これまで聴いてきたような古いアナログジャズのアバウトなテープ録音や、クラシックの広大なホール天井釣りマイク録音などよりは、こういった近代的なミックスの音楽を聴く人の方が多いと思います。

これをマルチBAや、ベイヤーやゼンハイザーなどのスタジオモニターっぽいイヤホン・ヘッドホンで聴くと、確かに細かいディテールまで拾って分析できますが、なんかゴチャゴチャ色々やってるな、と受動的に一歩離れた立場に置かれてしまいます。そこをTrioであれば、浴びせるようなリズムの渦に飛び込むような一体感が味わえます。

サックスのメロディラインの下でずっと鳴り続けているチューバのドローンが、遠くでバフバフと吹いているだけではなく、Trioのパワフルな低音のおかげでグッとハーモニー的な意味合いを持ちますし、ドラムやパーカッションのスリリングな展開はただリズムキープしているだけではなく、刻一刻と表情を変えているのが手に取るようにわかります。Trioは主役の存在感が強く出るので、冒頭と最終曲のみに入るラップボーカルも、サックスやチューバと同等に、ステージ上でセンターソロが入れ替わる時の盛り上がを彷彿とさせます。

ジャズとファンクの間に明確な境界線が無いように、Trioに合う音楽かどうかという線引きは難しいです。ただし私の勝手な感想としては、自分が好きな音楽を実際のコンサートで聴くとしたら、もしそれがスピーカーを通して鳴る音楽ならば、Trioと相性が良いと思います。

おわりに

Trioのサウンドは力強く圧倒的で、イヤホンというよりは、ある種のスピーカーオーディオの醍醐味に寄せた印象を強く感じました。

よくハイエンドオーディオショウやショップのデモブースで聴いて圧倒される、自分では到底手が出せないような、あのサウンドです。もし幸いにも、そういったシステムを普段から愛用しているようなオーディオマニアであれば、他の有象無象のイヤホンは所詮取るに足らない存在だと思いますが、Trioのサウンドには親近感を覚えると思います。

以前CampfireやAudeze、Audioquestなどでも同じような感想を書いたと思うのですが、やはりメーカーの国柄が出るのか、アメリカのオーディオメーカーは、ある種の共通した指標を持っているように感じます。もちろんそれに当てはまらないメーカーも沢山あることは承知ですが、レファレンスはこうあるべきと期待される本流というのもがあるようです。

クラシックファンならわかってくれると思いますが、たとえば正しい鳴り方の指標がChandosやHyperionではなくLiving Stereoなのかもしれません。もしくはPentatoneのライブ録音ではなくベラフォンテのオケかもしれません。そんな心構えを持っていれば、Trioで聴く音楽は圧倒的に気持ち良い体験ができます。

この国柄というのは、日本のオーディオメーカーや評論家などがいつまで経ってもビル・エヴァンスやオスカー・ピーターソンと言っているのと同じような感じで、各国オーディオショウやショップのデモが、リスナー評論のレファレンスになり、その感想がフィードバックとしてメーカーのレファレンスに影響を及ぼすような社会効果です。

TrioやFourteの価格帯だと、汎用性の高い凡庸なモデルなどではなく、なにかプラスワンを期待している人が多いでしょうし、それに見事に答えてくれるハイエンドにふさわしいイヤホンだと思います。

また、64 Audioが優れたメーカーだと思えるのは、Trio、Fourteと同じ価格帯に、U12t、U18といった全く異なるモデルを出している事です。つまり、単にクセの強いメーカーオーナーの独りよがりではなく(そういったオーディオブランドは無数ありますが)、ちゃんと市場を理解して、求められている物をしっかりと形にする能力を持っていると思います。

なぜ二つもフラッグシップ級があるのかと疑問に思うかもしれませんが、きっとそれは、ユーザーの好きなジャンルや愛聴盤などに極限まで迫るためには、全員が満足するような汎用イヤホン設計では実現不可能というレベルにまで到達しているからだと思います。

TrioとU12tのどちらが優れていると思うかで、その人の音楽的感性が見透かされるような、そんなまさにハイレベルなイヤホンだと思いました。