2018年6月19日火曜日

Astell&Kern A&futura SE100・Cowon Plenue 2 MK II・Fiio M7

先日iBasso DX150を試聴したのですが、それから立て続けに三種類の新作ポータブルDAPを使う機会に恵まれました。Astell&Kern A&futura SE100・Cowon Plenue 2 MK II・Fiio M7です。

SE100・Plenue 2 MK II・M7

DAPのレビューなんて、どれもだいたい同じような内容になってしまうので、それなら一気にまとめて書いておこうと思いました。


2018年のDAP

今回試聴したDAPは同時発売というわけではなく、偶然同じタイミングで私の手元に集まったというだけです。Plenue 2 MK IIは2018年4月、AK SE100は6月、M7は日本ではまだ未発売ということでバラバラですし、価格もM7が多分3~4万円程度で、Plenue 2 MK IIとSE100はどちらも20万円前後だと思います。

共通点として、どれも2018年の新作DAPですので、相互の比較というよりも、DAP市場の近況がどんな感じなのか知るために良い機会でした。

ところで、私自身は現在3つのDAPを持っています。一番古いものは2014年のAK240(SS)で、数年前にこれを友人から中古で買い取って以来、まんまと高級DAPの沼にはまってしまいました。AK240は当時の最高級とはいえ、近頃の新型DAPと比べるとヘッドホン出力は貧弱で、バッテリーの持ちも悪いので、今となっては使う機会が少ないですが、音質が良い事と、デザインがカッコいいと思っているので、手放さず大事にしています。普段メインで使っているのは2016年発売のCowon Plenue Sで、これはインターフェースと音質ともに自分にとってほぼ理想的なDAPです。ただしチューニングはマイルドでフワッとした傾向なので、もうちょっと刺激的なサウンドを求めて、2017年末にQuestyle QP2Rを買いました。このDAPはインターフェースは最悪ですが、荒馬のような生々しいサウンドが気に入っています。

実際、三台DAPを持っていても無駄なので、なにか一つに絞りたいとは常々思っているのですが、音質、操作性、パワーなど総合的に考えると、なかなか良い物が見つかりません。そんなわけで新作DAPが出るたびに気になっているのですが、中途半端な物を新たに買い足してしまう事だけは避けたいと気をつけています。

今回試聴したDAPの基本情報を並べてみました。(間違いがあるかもしれないので、真面目に検討するなら必ず公式サイトを確認してください)。


このようにスペックや機能もバラバラです。もちろん音質が良いことが最重要なのですが、それ以外の機能面でも自分に合ったモデルを見つけやすい時代になってきました。

今回の三機種に共通点があるとすれば、どれも独自のタッチスクリーンインターフェースを搭載しており、トータルパッケージとしての使いやすさや完成度の高さを目指しています。これらと比べると、Fiio X5-III・X7-IIやiBasso DX150などはAndroid OS搭載機ということで、まるでスマホみたいな使用感でした。そのあたりは各自がDAPに何を求めているのか、実機を触ってテストしてみることは大事です。

Plenue 2 MK II

まずPlenue 2 MK IIを触ってみました。Cowon Plenueシリーズというと、SDカード内の音楽ファイル再生という一点に集中したストイックなDAPです。このPlenue 2 MK IIも例に漏れず、Bluetoothや無線LANなど余計な機能は非搭載です。

操作に余計な手間がかからず、電源を入れてすぐに音楽が聴けるので、例えば通勤通学で音楽ファイルを聴くというルーチンのためだけのDAPとしては、良きパートナーになると思います。

新発売とはいえ2017年のPlenue 2からのマイナーチェンジ版ということで、基本的なデザインに変化はありません。MK IIになってバランス出力がパワーアップしたということですが、それ以外では、内蔵ストレージが128GBから256GBに拡張され、バッテリー持続時間も長くなったようなので、全体的なスペック更新といった感じです。

Plenue 2の発売からちょうど一年後の登場なので、当時買った人はあまり良い気はしないと思うので、戦略としてはどうなんでしょう。

Plenue Sとの比較

私自身はPlenue Sという2016年のモデルを長らく愛用しているので、Plenue 2は気になる存在でした。位置付けとしてはPlenue Sの方が上なのですが、実売価格はほぼ同じですし、Plenue 2の方が新設計だけあってメリットも多いので、買い換えるべきか悩んでいました。とくにPlenue Sはバランス出力が3.5mm・4極というマイナーな端子でしたが、Plenue 2からはAKなどと互換性のある2.5mmになったのも魅力的です。

付属ケース

Plenue 2は無難な茶色いレザーケースでしたが、MK IIでは赤いDIGNIS製ケースが付属します。今回は本体のみを借りたので、残念ながらケースの現物を見れませんでした。

二つのノブ

電源・トランスポートボタンとマイクロSDカードスロット

MK IIのデザインはPlenue 2と全く同じですが、本体色がシルバーからゴールドになり差別化されています。二つのエンコーダーダイヤルが特徴的ですが、右側が音量ボリュームで、左側は設定次第でなんらかの機能が割り当てられます。たとえばEQプリセットやDACフィルター設定切り替えなどに使えます。

Plenue Sで唯一不満だったのが、ボリューム調整がボタン式なので時間がかかるという点だったのですが、Plenue 2ではボリュームノブになったのは嬉しいです。ただし、写真で見てもわかるように、テーブルに置いた状態でボリュームを調整するには回しづらく不便です。その点は第二・第三世代AKのような大きめのボリュームノブのほうが好みです。

ヘッドホン端子は下側です

ヘッドホン端子は本体下部にあります。手で持った状態だとケーブルが手元に来るので良いですが、バッグのポケットなどに入れる場合はボリュームノブが下になって操作しにくいので、実際に使ってみると不便だと思いました。

画面は旧モデルとほぼ同じです

インターフェースソフトは相変わらず素晴らしいと思います。全DAPの中で、このPlenueインターフェースの使用感が一番気に入っています。Plenue Sとほぼ同じなので目新しさはありませんし、最近は他社のソフトも負けじと進歩していますが、2014年のPlenue 1からこの完成度を誇っていることが凄いです。

とりわけユニークな点はありませんが、電源ON/OFFやSDカードの楽曲スキャンなど、普段使う機能の処理が圧倒的に速く、タッチスクリーン操作のレスポンスも快適です。ボタン配置も直感的でシンプルですし、ギクシャクしたラグや想定外の動作が皆無なので、Plenue Sを二年間毎日使っていても満足しています。

MK IIにてAI機能が追加されました

Plenue 2 MK IIでは新たにAIという機能がいくつか追加されましたが、今回の試聴では全部OFFにしました。AI Volume、AI JetEffectなど、自動的に音量やエフェクト効果を曲に合わせて選んでくれるというアイデアのようです。私の場合は頻繁に新譜を入れ替えて、イヤホン・ヘッドホンの試聴でのレファレンス的な使い方をしたいので、こういう機能はあまり役に立ちません。AI Shuffleというのも、私は主にクラシックを聴くのであまり使い所がありません。

DXDやDSD128は再生可能です

DXDはネイティブではなくPCM192kHzにダウンサンプルと書いてありますが、Plenue Sも同じですし、再生に対応してくれるだけありがたいです。もちろんネイティブであればなお良いですが、DSD⇒PCMなどと違って、そこまで音質劣化が気になるものでも無いと思います。

DSD256を再生できません

DSD64・DSD128はネイティブ再生できるものの、DSD256には未対応で再生できませんでした。個人的に結構な数のアルバムを持っていますし、買った曲をDAPで聴けないのはちょっと困ります。Plenue SはDSD256に対応しているので、あえて差別化のためにそうしているのでしたら、そういうのは止めてもらいたいです。

あと、機能面の不満として真っ先に思い当たるのは、USB OTGトランスポートとして使えないという点です。近頃のハイエンドDAPのトレンドから取り残されており、致命的な弱点だと思います。

一応ヘッドホンジャックが光S/PDIF出力兼用なのは嬉しいですが、それではDSDやDXDが送れないので、出先でUSB DACの試聴テストとかを行う場合に、Plenueを持っていっても結局OTGが優秀なAKとかを借りることになってしまいます。

それと、Plenue公式サイトを読んでも、このDAPはパソコンと接続してUSB DACとして使えるのかの情報が欠けていたので、実際に試してみたところ、USB Audio Class 1(96kHz 24bit)での簡易的な接続は可能でした。これはPlenue Sなども同じです。つまり専用ドライバーでのASIOやKernel Streamingが使えないようです(実際、公式サイトにドライバーは見当たりません)。ちょっとした手軽な用途ならUSB Audio Class 1でもあれば便利なので、無いよりはマシです。

全体的に見て、Plenue 2 MK IIはこれまでのPlenueシリーズと同様に、無駄な機能性は捨ててファイル再生に特化しているので、それに共感が持てるかどうかで評価が変わります。

それでいて、例えばQuestyleやLotoo、Hifimanなどと大きく異なるのは、Plenueはユーザーインターフェースの完成度が異常に高いという点です。写真で見ただけでは他社のDAPとの違いが分かりづらいですが、実際に使ってみると、そのレスポンスの速さに惚れてしまいます。

A&futura SE100

次に、AKの新作SE100です。AK300シリーズの後継として新たに登場した、A&norma SR15、A&futura SE100、A&ultima SP1000という三機種の中で、ちょうど中堅モデルということで、価格的にもAK320の後継のようです。ちなみエントリーモデルのSR15も気になっているのですが、残念ながらまだ試聴できていません。

SE100

新シリーズ最上位のSP1000は約40万円で2017年に先行発売され、その開発で得た最新技術をもとにコストダウンしたのがSE100のようです。SP1000はフラッグシップということで、ステンレスもしくは銅削り出しというプレミアムモデルだったのですが、SE100は一般的なアルミハウジングになり、20万円という値段からすると一見そこまでの高級感はありません。

AK300シリーズと比べて画面の占拠率が増えたことで、デザイン意匠が簡素になり、まるでスマホのような「長方形の板」イメージが強くなりました。

搭載D/Aチップは、SP1000が旭化成AK4497EQをデュアルだったのですが、SE100はESS ES9038PROをシングルという事で、どちらもハイエンドD/Aチップの代名詞です。

D/Aチップ変更ということは、単純にSP1000の基板を流用した廉価版というわけではなく、アンプや電源周りも作り直さないといけないので、わざわざ全く異なるサウンド設計を行ったようです。

SP1000とそっくりです

Plenue 2 MKIIと並べてみると巨大さがわかります

広報写真では一見コンパクトっぽいのですが、SP1000と同じ5インチ画面なので、実物はかなり巨大です。ただしアルミになった事で軽量化されたので、感覚的にはオンキヨーDP-X1Aとかに近いかもしれません。

トランスポートボタン

ボリュームノブ

電源ボタンとイヤホン端子

USB CとマイクロSDカードスロット

デザインはSP1000に寄せていますが、SP1000ではボリュームノブを押すと電源ボタンになっていたところ、SE100では従来のAK DAPのように本体上部に電源ボタンがあります。左側トランスポートボタンのデザインがやけにカッコいいです。

ところでボリュームノブですが、先ほどのPlenue 2 MK IIや、以前SP1000の時も思ったのですが、テーブルに置いた状態だと上から指が届かず回しにくいです。とくにSE100は平行四辺形みたいな形状なので、上から見ると余計ボリュームノブが隠れたようなデザインなのが困ります。デザイン的には、左手で持った状態で、裏側から指で回すような感じに作られています。

もうひとつ個人的にSE100のデザインで不満に思ったのは、写真で見ても分かる通り、シャーシの角が鋭く尖っている事です。レザーケースなどに入れれば気にならないと思いますが、素のままではポケットが破れてしまうと思えるくらい尖っています。

高解像画面のインターフェース

使いやすいトランスポート

上からスワイプで設定ショートカットが呼び出せます

SP1000とSE100は画面サイズを共有しているので(下位モデルSR15は違います)、そのためSP1000用に開発されたインターフェースを流用しており、完成度はとても高いです。Plenue同様、これだったら私も毎日使っても不満はありません。

過去のAKシリーズのインターフェースも使い勝手は良かったのですが、それらはAK380からAK70に至るまで全て480×800ドットに統一された設計でした。SP1000・SE100では720×1280の高解像画面のために心機一転で作り直されたので、情報量が多く、とくにクラシックなど長い曲名だと切れてしまうところをちゃんと表示できているので選曲が楽になります。未だに480×800を使っているPlenueやFiio M7と比べるとずいぶん余裕を感じます。

これまでのAKというと、システムやデザインの完成度は圧倒的に高いものの、意外と完璧なフルスペックを誇るモデルというのが少なく、なにかと中途半端に制約のあるモデルが多い印象でした。

そんな中で、SP1000にて個人的にほぼ不満ゼロの満点DAPが登場したと初めて思えましたが、SE100もほぼ同じ機能性を継承しているのは嬉しいです。

細かい点では、(意外と見落としがちですが)、SP1000にあった光S/PDIF出力がSE100では廃止されたようです。光もあれば便利ですが、USB OTG接続が優秀なので不満はありません。

また、SP1000では謎のドッキング用端子が本体下部にありますが、SE100ではそれがありません。AK300シリーズではブースターアンプモジュールを接続するための端子でしたが、実際SP1000やSE100はそれ単体で十分パワフルなので、アンプモジュールの必要性を感じません。つまりこのSP1000のドッキング端子の用途は謎のままです。

それらの細かい点を除いては、SE100は出し惜しみをせず、機能的にはSP1000とほぼ同じレベルに仕上げています。逆に言うと、SP1000はあくまで「ステートメント」とか「フラッグシップ」とか呼ばれるような、コスト度外視で、買える人だけが買うラグジュアリーモデル、という位置付けを一層強調させているように感じます。

Fiio M7

これまで長らくX1・X3・X5・X7というグレード分けを展開してきたFiioですが、ここで全く新しいジャンルとしてM7を投入してきました。価格的には、現行X3-IIIとX5-IIIの中間に位置するようです。

つまり、ホイール式だったX3-IIIがようやくタッチスクリーン化されたとも言えますし、もしくは、Androidフル機能にコストを割いたX5-IIIよりも音楽再生に特化したベーシックモデルとも言えます。

近頃のDAPといえば、各社が最高価格を続々と更新して、とにかく高ければ高いほど富裕層に売れる、という不毛な競争が行われていますが、一方Fiioは老舗でありながら常にコストパフォーマンスを最優先に置いているのが好感が持てます。

X1-II・X3-III・M7


Fiio X1-II、X3-IIIと並べてみると、だいたいのサイズ感が把握できると思います。

これまでは初代Apple iPodのようなホイール式インターフェースに固執しており、2018年としては古臭い印象でした。当初はiPodのパクリというか買い替え需要を意識していたのかもしれませんが、今となってはiPodを実際に触った事がある人というのも少数派でしょう。

それでもFiioがホイール式を使い続けていた理由として、当初からインターフェースソフトを外注委託で共同開発していたため、そこから自力で脱却できないというジレンマがあったようです。(同じ会社のインターフェースを使っているQuestyleとかも同様です)。今回M7でようやく新たなインターフェースに挑戦するというリスクも含めて、あえて後継機ではなく新シリーズのM7になったようです。

低価格ながらクオリティはとても高いです

ボリュームノブやボタン類

誰もが思う事だと思いますが、M7の外見はAK100II・AK120IIにそっくりです。見分けるポイントはボリュームノブの形状が違うという点です。基本スペックも、AK100IIが55 × 111 × 14.9mm 170g・3.3インチ液晶で、M7は52 × 109 × 13mm・116g・3.2インチ液晶と、若干小さく軽いですが、手で持った感じはよく似ています。画面解像度はどちらも480×800です。

AK100IIは2014年に登場したDAPですが、今使ってみても十分優れています。近頃の肥大化した高級DAPよりも、実はあれくらいのポケットサイズの方が良いということで、まだ愛用している人も多いです。そう考えると(中身は別として)、それと同じようなフォルムのDAPが3万円程度で買えるというのは魅力的かもしれません。

またAK100IIを含む第二世代AK DAPはバッテリー持続時間がとても短いので、M7の20時間再生というのも大きな進歩です。

付属クリアケース

M7は柔軟でツルツルしたクリアケースが付属しているのも嬉しいです。ケース付きでも胸ポケットに楽に入るサイズですし、本来ポータブルDAPというのはこれくらいがちょうど良いと思います。これ以上小さいと操作や画面の視認性に苦労します。

新設計のインターフェースソフト

ライブラリー観覧

ボリューム調整

イコライザー

そんなわけで、M7は全く新しいインターフェースを導入しており、確かに操作性は大幅に進化しています。Androidベースですが音楽再生アプリをメインにシンプルにまとめており、手にとってすぐに使い始めることができます。上位モデルX5-IIIやX7-IIのようなアプリインストールの柔軟性はあえて捨てることで簡素化しているのは嬉しいです。

実際に長時間触ってみると、音楽再生部分はかなり使いやすく、値段を考えるとずいぶん頑張っています。たとえば、ライブラリーでアーティストやアルバムを観覧している時、現在再生されている物がオレンジ色に表示されるとか、画面上でのボリューム操作やイコライザーが使いやすいとか、気の利いた配慮が目立ちます。

iPod nanoのようなホーム画面

新型インターフェースは確かに進歩が感じられますが、やはりFiioらしいと思えたのは、多機能性をギリギリ捨てきれず、いまだにホーム画面からアプリを選ぶという仕組みになっていることです。ここが、AKやPlenueのようなハイエンドDAPにはなりきれないFiioらしい弱さだと思います。

Fiio X3のホイール操作が初代iPodっぽいとすれば、M7のホーム画面は明らかに第3世代iPod nanoっぽいです。あれが登場したのが2012年なので、もう6年前ですね。

ホーム画面には音楽再生アプリ以外にも画像観覧アプリなんかもあり、さらに、なんとFMラジオチューナーを搭載しています。今時FMラジオが聴けるDAPというのも希少なので、密かな需要があるのかもしれません。

大昔に流行っていた高級FMチューナーでも、最近は障害電波が増えたせいで、よほど受信環境が良い家庭でないとクリアな音声は得るのが難しくなっています。その点M7は最新の高性能FMチューナーチップとES9018 DACのおかげで、今となっては珍しい高音質FMが楽しめるという事だそうです。

Bluetoothは充実しています

BluetoothはaptX HDとLDACに両方対応しているのは良いです。他社の高級DAPでもなかなかありません。

そういえば余談になりますが、Bluetoothと言えば、中国からHuawei主導で新たな高音質コーデック「HWA」が登場したというニュースがありました。aptX、LDACともにライセンス関係がめんどくさいので、中国メーカーとしては厄介な状態でしたから、今後の動向が気になります。

OTGトランスポートでDXD再生中

DoP DSDもいけました

さらにM7はUSB OTGトランスポートとしても使えるという点が魅力的です。

コンパクトでタッチスクリーン操作ができる安価なOTGトランスポートというと、これまでは選択肢が少なかったので、iFiやChordのようなポータブルDACアンプ派の人には喜ばれそうです。

M7単体では再生できないDSD128も、USB OTGトランスポートとしては送れるのは嬉しいです(DSD256は非対応)。試しにChord MojoにてDSDやDXDを再生してみましたが、音飛びも無く好調に使えました。

その一方で、これまでFiio DAPの伝統だった同軸S/PDIF出力は廃止されてしまったようなので残念です。

内蔵ストレージはたったの2GBです

内蔵ストレージは2GBしかないので、マイクロSDカードは必須です。DAPは低価格でも、カードの別売価格も合わせて考えないといけません。できればソニーAシリーズみたいに16GBくらい内蔵してほしかったです。

SDカードのスキャン

ちょっと困ったのが、SDカードのライブラリスキャンに時間がかかることです。256GBの高速カード(Samsung Evo+)で20分くらいかかりました。しかもそれがバックグラウンドで行われるのではなく、スキャン中は操作できません。

Questyleとかも同様でしたが、あちらは5分程度で済みます。AKやPlenueならば、使用中に勝手にバックグラウンドでスキャンしてくれます。

これも低価格DAPなりの妥協点でしょうか。日々頻繁にカードの楽曲を入れ替えている人にとっては苦痛です。

他のDAPでは無い文字化けが多数ありました

低価格ですし、ソフトの熟成もまだ浅いせいか、AKやPlenueと比べるといくつか不満点は残りました。多機能が売りのM7ですが、インターフェースの完成度や作り込みはまだまだ不十分なので、今後の進展が期待されます。(その点、日本ではまだ未発売というのも納得できます)。

いくつか例を挙げると、まずジャケット観覧はiBasso DX150と同じ不満がありました。画面に表示されている物以外はキャッシュされていないようで、スクロールするたびに表示ロード待ちになるので、AKやPlenueのようにスイスイとフリック観覧できないのは残念です。そのあたりは価格相応といった感じです。

また、上の写真でも見えるように、東欧アクセント記号などの文字が中国漢字に文字化けしたり、そのせいでブラウザーの階層がバグってしまうこともありました。もちろん他のDAPでは問題無く表示できています。中国国外のユーザーの事を考えれば修正してもらいたいです。

他にもバグは色々あり、OTGモードで再生できるDSD128ファイルが、OTG終了後にそのままプレイリストに残っていて、バグってソフトが強制終了でリブートとか、そういったわかりやすい動作検証不足に遭遇しました。今後ソフトウェアアップデートで修正可能と言われるかもしれませんが、そういうのを発売前にストップをかけるような品質管理を期待したいです。

再生アプリ内の「Settings」

ホーム画面の「Settings」

とくに、Androidだという事を上手に隠しきれておらず、そのせいで真面目なオーディオマニア向けDAPというよりは、iPod nanoの亜種みたいなイメージから離れていない点は残念だと思いました。

一番わかりやすい例としては、オーディオ関連の設定メニューが、音楽再生アプリ内の「Settings」と、ホーム画面のアイコンからの「Settings 」の二種類があり、たとえばレジュームやギャップレスならアプリ内Settings、Bluetoothやライン出力ならホーム画面Settingsといった感じに、どちらにどの機能設定があるのかユーザーを戸惑わせます。

これではまるでX5-IIIやX7-IIの二の舞です。多分それらを些細な事として、あまり問題視するような社風では無いのでしょう。PlenueやAK DAPのようにソフトとハードが強固に噛み合っているDAP勢と肩を並べるためには、もう一段階上の洗練された完成度が求められると思います。

なんにせよ、この価格でここまで頑張っているのは驚異的なので、今後の地道なソフトウェア最適化次第で、かなり良いDAPになる事が期待できます。

単純に松竹梅のグレード分けをするのではなく、シンプルな操作感にBluetoothやFMラジオなど、カジュアルユーザーやおじさん世代でも安心して使えるM7、Androidアプリであれこれ試行錯誤して自分好みの使い方を追求できるX5-III、そして音質や出力にこだわりのあるマニアのためアンプモジュール交換可能なX7-IIといった、モデルごとそれぞれ違った表情を持っているのがFiioの面白いところだと思います。

出力

いつもどおり、0dBFSの1kHzサイン波ファイルを再生して、負荷インピーダンスを変えながら、DAPが音割れをはじめる最大電圧(Peak to Peak)を測ってみました。

最大電圧

SE100とPlenue 2 MK IIはほぼ互角で、どちらも2.5mmバランス出力では約二倍のゲインが得られるのは嬉しいです。低能率ヘッドホンなどでは積極的にバランス出力を使いたいです。

グラフの曲線を見ることで、各メーカーごとの個性が見えてくるようです。低インピーダンスまでの粘り強さはPlenue 2 MK IIの方が一枚上手ですが、バランス接続で高インピーダンスヘッドホンでの最大音量はSE100の方が高いです。これらと比べると、Fiio M7は値段相応というか、最近のDAPとしては最大電圧がちょっと低めですが、低インピーダンスまでしっかり粘っている優秀な設計です。


SE100とSP1000

Plenue 2とMK II

X5-IIIとM7

それぞれ、同じメーカーのDAPと並べて比較してみると面白いです。SE100とSP1000は同じ曲線を描いているので、アンプ回路の設計が似ているということでしょう。(600Ωでの微妙な差は、ボリュームノブのステップによる誤差なので無視できます)。以前SP1000のレビューで、アンプの曲線が従来のAK240やAK380などと根本的に異なる事に驚きましたが、今回SE100がSP1000に近いということは、このアンプ設計がこれからのAKの主力になっていくのだろうと想像できます。

Plenue 2 MK IIは、メーカーの主張どおり、2.5mmバランス出力のみが大幅にパワーアップしています。Plenue 2やPlenue Sでは、アンバランスとバランス出力があえて同じ音量になるような設計だったのですが、それでは他社が主張するような「バランス=パワフル」というイメージと比べられて魅力が薄いということで、あえて高電圧設計に変更したようです。

Fiio M7は、残念ながらX3-IIIのグラフが無かったのですが、X5-IIIと比べるとかなり電圧が低いことがわかります。とは言ってもスマホなどと比べれば十分高い音量が出せます。

1Vppでの落ち込み

それぞれボリュームを1Vppに合わせて出力の落ち込みを測ってみましたが、最近のDAPらしく、どれも横一直線で、非常に優秀です。最低価格のFiio M7も互角に踏ん張っているので、単純に安いからといって侮れません。


ところで、余談になりますが、今回Plenue 2 MK IIで想定外のトラブルがありました。ショップの試聴機を測ってみたら、なぜか最大ボリュームが1.4Vppと非常に低く、一部のIEMやヘッドホンだと音量が全然足りないのです。もちろんソフトの設定は高ゲインモード(Headphone Mode)を選んであります。

よくよく調べてみると、初回起動時に言語と国を選べるのですが、それをヨーロッパ地域にしてしまうと、最大ボリュームにリミッターがかかる仕様でした。きっとEUのガイドラインなどがあるのでしょう。手元の試聴機がヨーロッパだったので、このような事になっていました。具体的には、画面上のボリューム表示が140までありますが、100以上は表示が上がっても音量が変わりません。

パソコンにUSB接続して、内蔵ドライブの設定ファイルを削除することで初回起動モードになり、そこでヨーロッパ以外を選ぶとスペック通りの大音量が得られるようになりました。

これが怖いのは、欧州では多くの人がリミッター有りの状態で試聴して、「Plenueはパワー不足で音がショボい」なんてネットレビューで書き込まれてしまう事です。

一応初期化で限定解除できるのはせめてもの救いです。以前ソニーハイレゾウォークマンでも同じような欧州リミッター問題が話題になり、英語圏のレビューは大荒れでした。海外輸出品は個体そのものが違うので、安易にリミッター解除ができませんでした。そのため日本でも、海外からの並行輸入や中古品は注意する必要があります。

そもそも音量なんて、どのイヤホンを使うかで大幅に変わるので、アンプにこのような電圧リミッターを設ける事自体が根本的に間違っているのですが、(というか、そこまでの理解が無い団体からの押し付けなのですが)、今後日本でもこのような非論理的な法的指導が行われる可能性も無いとは言えないのが心配です。

音質とか

今回じっくり試聴してみたかった理由の一つとして、自分が使っているPlenue Sももう2年以上前のモデルですし、もしかすると最新DAPの方が音は優れているのではないかと思ったからです。

こういうハイテクガジェットは進化のペースが速いので、グレードとか価格とかを気にせず、買い替える事も検討しながらの試聴でした。(結論から言うと、結局どれも買いませんでしたが、金銭的な理由が大きいです)。

Plenue Sから買い換えるべきか

Dita Dream

試聴には、普段から愛用しているイヤホンのDita DreamとUM Mavis IIを使いました。

まずFiio M7ですが、これはちょっと面白いサウンドで意表を突かれました。3万円のDAPというと、もっと味気無いスマホみたいなサウンドか、もしくは低価格ポタアンによくありがちな、音圧やパンチを強調したようなサウンドを想像していましたが、M7はどちらでもなく、かなり独創的です。

一番わかりやすい特徴は、空間を充満するような厚い響きです。低音だけでなく全帯域が柔らかい音響に包まれるような、フカフカした羽毛布団のような感覚です。それだけではただモコモコしたサウンドで終わってしまうのですが、M7の場合さらにユニークなのが、そんな柔らかさの中から、稀にアタックがキラッと飛び出して来る事です。

悪く言えば解像感が曖昧ですし、良く言えば低品質な音源でも不快に感じさせない余裕があります。そのおかげで、ミュージシャンの実体感は明確ではないものの、なんとなく音楽全体がフワッと三次元的に広がっているように感じられます。つまり凡庸で平面的な録音でも、まるで3Dのように立体的に聴こえるというメリットがあります。

そしてアタックですが、音楽の中でも金属的な質感が強調されます。たとえば女性ボーカルの息継ぎとか、ヴァイオリンのキュッという音、ギターの指がフレットを移動する音などです。ただ単にブーストされて耳に刺さるというのではなく、先程のフワッとした音響の中で、それらの存在感が意識的に目立つような感じです。

つまり全体の周波数特性としては違和感や不快感が無いくらいにフラットなのですが、その中でアナログ的なチューニングが意図的に行われているような、不思議なサウンドだと思いました。

とくに、最近のFiio X3-IIIやX5-IIIは、どうもパリッととしすぎていて、解像感は高いものの味気無い、まるでロボットのような音という印象があったのですが、M7はその真逆で、個性的な魅力を追い求めたように感じました。

私の勝手な解釈ですが、M7のサウンドは、高解像で切れ味の鋭いIEMイヤホンで、音圧の高いモダンな音楽を聴くようなシナリオに対応できるように作られているのだと思います。M7を使う事で、立体的な音響と、それでもハイレゾ感を損なわないようにアクセントとして金属感を足してくれることで、音楽が新鮮に生まれ変わったかのような効果が得られます。

つまりM7がサウンド全体をプロデュースするような感じなので、カジュアルな用途ならば、普段のスマホで聴くよりも音楽の魅力が大幅に向上します。その一方で、さらに高音質アルバムをじっくり鑑賞するオーディオマニアにとっては、M7では演出が一辺倒で力不足に感じるようになると思いますが、そうなったら上位モデルのX7-IIがまさにうってつけなので、そのへんはFiioも割り切って考えているように思えます。

・・・

次に、Plenue 2 MK IIを聴いてみました。Plenue 2は以前から何度も聴いているので、だいたいのサウンドは頭に残っているのですが、MK IIになっても印象はほぼ変わりませんでした。パワーアップしたバランス出力も、イヤホン程度の小音量では必要性を感じません。

ただし、平面振動板のフォステクスT60RPヘッドホンなんかでは、MK IIとバランス接続することでメリハリというかダイナミックさが大幅に強まったように感じるので、そのような能率の低いヘッドホンでは大きなメリットが実感できます。

Plenue 2 MK IIのサウンドは、あえて言えば、正統派すぎてあまり印象に残らない音です。高域が低域がといった安直な印象は頭に浮かばず、とにかくストレートで、デジタル音源そのままを無駄なく正確に再生してくれます。傾向としてはiFiのポタアンとかAK380なんかに近いかもしれません。つまりDAPそのもののクセが少なく、どんな楽曲でも正しく対応してくれる、論理的に失敗の無いサウンドとも言えるので、DAPに何を求めているのかで意見が分かれると思います。

とくに先程のFiio M7を聴いた後だと、Plenue 2 MK IIが価格相応にハイエンドであることを実感させてくれるのが、空間表現の奥深さです。あくまでクリアに全ての楽器が鳴ってくれるのですが、その一音一音の先に、遠く奥の方まで展開していく空間が感じ取れます。上下左右に幅広く分散展開するわけではなく、音像は近めで正しい位置でありながら、そのさらに奥まで見通せる鳴り方というのが、さすがハイエンドだと感じさせてくれる実力だと思います。

ただし、この明確さのせいで、音源が悪いと、クオリティの低いカラオケエコーみたいなリバーブエフェクトとかではあからさまにバレてしまうので、今回聴いたDAPの中でも一番シビアで妥協を許さないタイプだと思いました。同時に、イヤホン・ヘッドホンの弱点もすぐに見抜いてしまいます。

個人的には、Plenue Sの方が「アナログっぽさ」と俗に呼ばれるような中域の暖かい質感みたいなものが味わえるので、楽器の音色そのものは好みなのですが(だから愛用しているのですが)、その一方で、Plenue 2 MK IIの方が明らかにスッキリしていて正しいようにも思えるので、そこで悩んでしまいます。

とくにDSD再生はPlenue 2 MK IIの方が解像感が高く、Plenue Sでは持ち前の丸い音のせいでDSDがモコモコと歯切れの悪い感じになってしまうのが不満です。

そんな感じに、Plenue 2 MK IIのサウンドは正しく律儀で、DSDもハッキリしていて、非の打ち所が無いDAPなのですが、もうちょっと余裕や遊び心があっても良いのではという、あくまで主観的なところで、いまひとつ心に響きませんでした。

そのあたりは、Plenue Sが古くてPlenue 2 MK IIが新しいモデルだから、というわけではなく、Plenue Sはリスニング向けのスペシャルモデルとして、あえて聴きやすいチューニングに調整しているのかも、なんて想像してしまいます。

・・・

最後に、AK SE100を聴いてみましたが、これはかなり独創的です。とくにPlenue 2 MK IIと同価格帯ということを踏まえて、両極端で好みがはっきり分かれると思います。

SE100は簡単に言うと繊細な美音系というか、これまでのAK300シリーズとは一味違う前衛的なサウンドで、むしろSP1000と同じシリーズということに納得できます。

まず、高音の清々しさや空間の開放感はSP1000と非常によく似ていると思いました。この特徴だけでも、SE100は他社のDAPを圧倒していると思いますし、たとえばPlenue 2 MK IIと聴き比べると、SE100は上下方向の視野が一気に広がるように感じます。SP1000同様、比較的コンパクトでフォーカスの効いた低音から、高音に向かって空間がどんどん広がっていく感じがあり、とくに高音質でダイナミックレンジの広いハイレゾ録音を聴くと、この爽快感は凄まじいです。

SP1000は、安定した音像定位のモニターらしさと、スケール大きい開放的な立体感が両立できている、ちょっと誇大表現っぽいところに魅力を感じました。とくに旧フラッグシップのAK380から大きく進歩したと思える点でした。

ではSE100はSP1000とどう違うのかというと、奥行きは控えめになり、開放感がもっと身近な楽器の音抜けの良さや爽快感といった部分に貢献しています。SP1000ほど音像展開の土台がしっかりしておらず、より生演奏っぽい儚さ、危うさみたいな、リアルタイム性のある感触です。言葉で表現するのは難しいのですが、音色を取り巻く響きは豊かなのに、それらがスッと退いてしまうため、全体の構成よりも一音一音の表情やニュアンスの変化が強調されます。

たとえばコンサートホールの大編成オーケストラとかはSP1000が有利で、全体をまとめ上げるホール音響を圧倒的な表現力で形成してくれるのですが、一方SE100では、各楽器が独立したソリストのように鳴ってしまう感じです。逆にシンプルな室内楽やソロ楽器など、リサイタルルーム規模の演奏であればSE100の方が生っぽいスリルと魅力があります。

Plenue 2 MK IIと比較すると、SE100はたとえば背後の録音ノイズとか、スタジオエフェクトの違和感とか、そういったモニター的な細部の情報分析は得意ではないものの、歌手や楽器の周辺に付随する空気感があり、リスナーと演奏の間に空間の隔たりがあり(間近ではなく、別の空間での演奏を鑑賞している感覚)、そのためニュアンスや雰囲気みたいなものを掴みやすいです。

SE100がとくに面白いのは、余韻の引き際がとても短く、音質そのものはクリアでシャープだという点です。響きが間延びせず、目まぐるしく変化しているので、気が置けないというか、常に演奏を耳で追いたくなり、普段以上に音楽に意識を集中できます。上手な歌手の歌声に惹き込まれてしまうみたいなものでしょうか。

Plenue 2 MK IIのような分析的なはっきりしたサウンドも素晴らしいと思いますが、SE100のように音楽を「聴かせる」サウンドというのも、ある種のハイエンド・オーディオの魅力の一つだと思います。(逆に、音楽がBGM化されてしまったらオーディオとして失格です)。

AKの場合、鋭利なモニターっぽさは既にAK320・AK380などで実証済みで、そこから次のレベルの音作りとなると、単純にそれの延長線上でも良かったはずですが、(たとえばAK380相当の音をAK320の価格に持ってくるとか)、しかしそうではなく、あえて別の次世代を提示してくれた事が面白いです。

個性的ですが、SE100は良い音か、悪い音か、と聞かれれば、「すごく良い音」だと言い切れるのは、いわゆる悪いアンプにありがちな、余計な付帯音が追加されたわけでもなく、もしくは特定の帯域が薄いとか、前に出てこないといったもどかしさも感じさせず、安易に真似できるサウンドではないからです。なぜこのように仕上げたのか、その意図に興味が湧いてくる、そんな面白い音です。

ただし全てが完璧というわけではなく、個人的に、SE100の不満点みたいな物もいくつか思い当たりました。

まず、身も蓋も無いですが、SP1000の存在があります。個人的にSP1000は大好きなのに、高くて買えないという身分なので、どうしてもその差を意識してしまいます。価格差なりの優劣というよりは、自分が普段よく聴く交響曲やオペラなどでは、SP1000特有のメリットが凄い威力を発揮してくれます。好みの音楽ジャンルが違えば、SE100の方がむしろ良いと思うかもしれません。

もうひとつは、SE100は音色が色っぽく整いすぎていて、ちょっと荒っぽさが足りないという点です。とくにQuestyle QP2Rのわざとらしいほど豊かな倍音成分や派手な音響効果を体験すると、SE100はまるでそよ風で蝶が舞うような繊細さがもどかしく感じます。自宅の静寂でじっくり美音を聴き込むなら良いですが、ポータブルでガンガン聴くには勢いが欲しいです。(その点AK70 MK IIは良かったので、SR15が気になります)。

広帯域という目的には忠実でありながら、回路的なチューニングを徹底することで、音色がキレイに整いすぎているという感じは、なんとなく往年のソニーを連想しました。最近のハイレゾウォークマンとかではなくて、90年代の高級システムとかを作っていた時代のソニーです。個人的にその時代のソニーが大好きで、自称コレクターを名乗れるほど色々持っているのですが、当時の20~30万円クラスのCDプレイヤー&アンプの組み合わせは、大体こんな感じの音でした。(そう考えるとSE100の価格帯は見合ってるのかもしれません)。当時から広帯域を掲げていた反面、ギラギラしたわざとらしさは嫌ってさらっと美音を奏でるのがソニーのスタイルでした。

しかし最近のヘッドホンオーディオの現状を見ると、NOS DACや真空管を筆頭に空間表現は犠牲にしてもゴリッとした厚みや彫りの深さを求めるか、もしくはD/Aチップの銘柄だけで競い合うスカスカの音か、といった、まるで家庭用オーディオが一度は通った80年代にタイムスリップしたような状態に停滞している現状に不満を感じていました。そのため、SE100のサウンドはそれらとは一味違う次世代として歓迎したいです。また、そう考えると、今後もDAPの進化というのはまだまだ伸びしろがあるような予感がします。

おわりに

今回は三つの最新DAPを使ってみましたが、三者三様で個性が異なります。機能性でもそれぞれ違いがあるので、DAPを選ぶ時には、あれもこれもと使いもしない多機能を追い求めるのではなく、自分の日常的な使用目的において一番ストレス無く使えるモデルを選ぶべきです。

近頃のDAPは、アンプのパワースペックは実用上不自由無いくらい横並びですし、さらにESSや旭化成など、D/Aチップによる音質差も昔ほど短絡的に語る人も少なくなってきました。それでもやはり各DAPの音はかなり違うので、自分の愛聴しているイヤホンや音楽ジャンルとの相性をないがしろにはできません。ただし、あまりこだわりすぎると、イヤホンを新調したらDAPも買い替えたくなってしまうとか、このジャンルにはこのDAPとか、そんな無限ループに陥りがちなのが怖いです。

考えてみれば、据え置きのハイエンド・オーディオでは、CDプレーヤーやプリアンプ、パワーアンプ、そしてケーブル・電源コンセントから収納ラックに至るまで、なにか一つ買い換えただけで、まるで天地異変が起きたかのごとく音質変化をあれこれ語りたがるわけですが、DAPというのは、それらを一気に全部入れ替えるような行為です。

いつも言うことですが、単純にスペック比較やネットレビューを読んで選ぶのではなく、やはり実際に聴き比べる事が肝心です。


私自身の今回の目的としては、2018年の最新DAPは、2014年のAK240や2016年のPlenue Sを凌駕しているかという点では、好みの差はあるにしろ、どのメーカーも停滞しておらず、次世代に向けて着々と進化しているという事は感じとれました。

安易に派手でハイレゾっぽいデジタルサウンドはもう見向きもされず、メーカーごとに、次なるサウンドの方向性を決める時期に来ているのだと思います。

たとえ三万円台であっても、アナログ的な暖かさや、光る魅力を引き出す事ができることをFiio M7が見せてくれました。その一方で、約20万円の高級DAPは、安価では実現できないワンランク上のサウンドを実現している事も十分な説得力がありました。PlenueとAKのどちらも正解でありながら、優劣は主観に頼るという点がハイエンドオーディオらしいところです。

よく、どんなアンプやヘッドホンでも、イコライザーさえあれば自在に調整できる、なんて短絡的に言う人もいますが、Plenue 2 MK IIやSE100が見せてくれたような空間や時間の絶妙な表現というのは、そこまで単純な物ではありません。むしろ、そういった雰囲気やニュアンスが上手に伝わってくれる優れたDAPであれば、低音が高音がといった些細な事は議論するまでもなく音楽が楽しめます。

唯一の難点は、やはり買い換えるとなると、上を見ればキリがなく、値段が高いですね。