2020年2月27日木曜日

iFi Audio hip-dac ポータブルヘッドホンアンプの試聴レビュー

iFi Audioの新作ヘッドホンアンプ「hip-dac」を試聴してみたので、感想を書いておきます。

iFi Audio hip-dac

2020年2月発売、価格は約2万円です。USB入力のみ・4.4mmバランス出力対応、バッテリー搭載の薄型ポータブルDAC・ヘッドホンアンプです。


hip-dac

近頃はサブスクリプションストリーミングなどで音楽を聴く人が増えてきたので、このhip-dacのように手軽にスマホと連結して高音質が得られるデバイスは需要があるようです。とくにロスレス・ハイレゾストリーミングの登場によって、Bluetoothワイヤレスヘッドホンでは物足りないという人も多いでしょう。

iFi Audio hip-dac

このhip-dacは125gという軽さでありながらバッテリーを内蔵しているので、USBバスパワー給電されるタイプと比べてスマホの電源を無駄に消費しないというメリットもあります。

スマホ以外でも、たとえば普段イヤホンではウォークマンAシリーズなどのコンパクトDAPを使っていて、鳴らしにくい大型ヘッドホンを使いたい時だけhip-dacを連結するというような用途にも便利です。

ウォークマンとUSB接続

昨年末に同じく2万円で発売したZEN DACがデスクトップ据え置きタイプで、このhip-dacはバッテリー搭載のポータブルタイプという兄弟機みたいな感じです。色は今のところ写真の青色っぽいやつのみのようです。

ZEN DACとhip-dac

iFi AudioのポータブルDACヘッドホンアンプといえば、これまで3万円の「nano iDSD BL」、6万円の「xDSD」、8万円弱の「micro iDSD BL」というラインナップでしたが、今回そこにさらに安価な薄型ベーシックモデルとして2万円のhip-dacが追加されたわけです。

そういえばnano iDSDの廉価版nano iDSD LEというのもありましたが、値段がhip-dacとかぶるので、そろそろお役御免でしょうか。

hip-dac ・ xDSD ・ nano iDSD BL ・ micro iDSD BL

背面

並べて比べてみると、最上位micro iDSD BLのみ特出して大きく、それ以外はほぼ同じ縦横幅ですが、新しいモデルほど薄くなっていき、hip-dacは厚さ14mmです。

低価格エントリーモデルということで、上位機種にあるライン入出力やフィルター切り替えスイッチなどの機能は削除され、純粋にUSB入力→ヘッドホン出力というシンプルなデザインになりましたが、DACやアンプ回路など音質スペックでは妥協せず、さらにこれまで上位モデルには無かった4.4mmバランス出力を搭載するなど、侮れません。

むしろ上級機を買ったものの余計な機能は全然使っていないという人も多いと思うので、単純に「挿せば動く」という用途には、これくらいシンプルな方がちょうどよいです。

ちなみに名前のhip-dacですが、ファッショナブルで新しい物好きという意味での「ヒップ」と、ウィスキーなど酒を携帯するときに使うスキットル(英語ではhip flask)とデザインが似ていることを掛けたネーミングのようです。

フロントパネル

フロントパネル中央に電源スイッチを兼ねたボリュームノブ(最小まで絞るとカチッと電源が切れるタイプ)、4.4mmバランスと3.5mmシングルエンドヘッドホン出力があります。

左端のスイッチはゲインのハイ・ロー切り替えで、その隣は低音ブーストスイッチです。どちらも隣の白色LEDで状態がわかります。

ボリュームノブはエンコーダーではなくアナログタイプですが、ガリノイズや小音量時の左右ギャングエラーは感じませんでした。

感度が高いIEMイヤホンなどで、無音時ボリュームノブを上げてみてサーッというバックグラウンドノイズが気になるようでしたら、ゲインスイッチをローゲインにすればノイズも聴こえないレベルに低減されます。

実際に使ってみて一つ不満があるとすれば、ゲインスイッチが端にあって押しやすいため、携帯時に不注意で間違えて押してしまう事がありました。とくにイヤホンをローゲインで使っているときにいきなり爆音になると困るので、もうちょっと押しにくい設計にしてもらいたかったです。



背面はシンプルに、オーディオ用のUSB Aと充電用のUSB C端子があります。とってつけたようにハイレゾステッカーが貼ってあるのが面白いですね。

USB C端子の下のLEDはバッテリー残量によって「白→緑→赤→赤点滅」と変化するので気が利いてます。

これまでのモデルと同様に、hip-dacの電源を入れてからソースに接続するとバッテリー駆動になり、ソースに接続してからhip-dacの電源を入れるとバスパワー駆動になります。

つまり、スマホと接続する場合はまずhip-dacの電源を入れてからでないと、スマホの電池を消費してしまいます。逆にデスクトップパソコンに常時接続したい場合はまず接続してからhip-dacの電源を入れればhip-dacのバッテリーが減る心配はありません。

これはmicro/nano iDSDシリーズの頃からそういう設計になっているのですが、意外と説明書を読んでいなくて知らない人も多いと思います。

hip-dacではさらに過去モデルには無かった充電用のUSB C端子があるのが嬉しいです。つまり音楽を聴きながらモバイルバッテリーなどで追加充電することが可能です。


裏面はラベルのみでスイッチ類などは一切ありません。

全部使えました

Audioquestが一番好きです

スマホ接続用のUSBケーブルは色々ありますが、アップルの白いやつはもちろんのこと、iFi Audioの別売り高級タイプや、Audioquest DragonTail USB Cも問題無く挿入でき音が鳴りました。DragonTailが一番コネクターが太いため、穴にピッタリ入ってグラグラしないので安心できます。

オーディオ設計

hip-dacの内部基板写真をネットで探しても見つからなかったのですが、価格やリリース時期から考えても、回路構成はZEN DACと似ているだろうと想像します。

USBインターフェースとメインプロセッサーはこれまでのモデルと共通しているので、ASIOドライバーやファームウェアは同じものが使えます。

ZEN DACの回でも触れましたが、公式サイトでダウンロードできるファームウェアは全モデル共通なので(Pro iDSDを除く)、低価格モデルだからといって取り残されることはありません。

さらに、同じファームウェアバージョンでもサブバージョンというのがリリースされることもあり、たとえば今回はVer. 5.3がインストールされていましたが、サイトにてVer. 5.3cというのをダウンロードしてインストールすることで、異なるデジタルフィルター演算が搭載されるので、音色が変わります。他にも、Mac OSのCore AudioにてDSD256を再生するために使えるVer 5.2aというのもあるなど、色々と奥が深いです。

D/A変換にはiFi Audioの定番のバーブラウンDSD1793チップを搭載しており、上位モデルと同様に独自のコントローラーを駆使してDSD256・PCM384kHz対応の高性能を引き出しています。ヘッドホンアンプ回路にも、iFi Audioが特注した高音質カスタムオペアンプOV4627Aを採用するなど、音質面では妥協が無く、iFi Audioらしいサウンドが得られることが期待できます。

出力

いつもどおり0dBFSの1kHzサイン波FLACファイルを再生しながらボリュームを上げて、歪み始める(THD <1%)最大電圧(Vpp)を測ってみました。



公式スペックによると600Ω負荷でバランス6.3V、シングルエンド3.2Vと書いてあります。実測でも17.5Vpp(= 6.2Vrms)、8.7Vpp(= 3.1Vrms)だったので、ほぼスペック通りです。

さらにパワーのスペックでは32Ω負荷でバランス400mW、シングルエンド280mWと書いてあります。こちらは実測で8.2Vpp(= 248mW)、6.2Vpp(= 141mW)と若干低い数値になりましたが、私の場合はTHD < 1%の条件なので、つまり理想的なサイン派での最大パワーですので、もうちょっと歪みが許容できるならスペック通りの出力は得られるはずです。


同じテスト波形で、無負荷時にボリュームノブを1Vppにあわせて負荷を与えていったグラフです。

見事に横一直線なので、6Ω以上なら出力インピーダンスはほぼゼロに近いです。Zen DAC同様、この値段でここまで優秀なヘッドホンアンプが手に入るとは、素晴らしい時代になりました。


Zen DACと最大出力電圧を比較してみました。バランス・シングルエンドともに、ほんの測定誤差程度の違いしか無いので、アンプのデザインが共通していると想像できます。



hip-dacはポータブル機ですので、iFi Audio xDSDとChord Mojoとも最大出力電圧を比較してみました。

50Ω以上の高インピーダンスヘッドホンを鳴らすならhip-dacのバランス出力が一番高い電圧が得られます。シングルエンドの場合、もしくは低インピーダンスのイヤホンなどを鳴らす場合はMojoやxDSDの方が一枚上手です。

もちろんこれらは単純に音量のみの比較ですので、音質面での優劣には参考になりません。

音質とか

今回の試聴ではHiby R6 DAPをソースにして、主にDita Dreamイヤホンを使いました。Dreamは4.4mmと3.5mmコネクターを容易に交換できるので、こういう聴き比べでは非常に便利です。他にもCampfire Audio AndromedaやWestone UM-PRO50も試聴に使いました。

Hiby R6 PRO & Dita Dream

まずhip-dacのサウンドの印象ですが、全体の傾向はZEN DACと似ていると予想していたのですが、意外と違います。ZEN DACは全帯域がマイルドで波風を立てない傾向なので、長時間のリスニングやカジュアルなBGM用途に適しているのですが、一方hip-dacはもうちょっとインパクトのあるドンシャリ傾向に仕上げてあるようで、低域は太く盛り上がり、高域はザクッと激しさが出る印象です。

ようするにhip-dacのサウンドは騒音下でもしっかり充実した聴き応えがあるため、ポータブル用途としては理に適っています。ZEN DACとの音質差は意図的なチューニングによるものなのか、それともバッテリー駆動や基板コンパクト化による副作用なのかは不明ですが、結果的に上手に差別化できており、両方買っても持て余すことは無いと思います。


低音ブーストスイッチについては、押さなくても十分豊かに鳴っており、さらにブーストONにすると過剰気味にズシンと響きます。再生ソフトのイコライザーでブーストするよりも自然で圧迫感が少ないので、打ち込み系には効果的なエフェクトだと思います。

ゲインスイッチについては、以前のnano/micro iDSDシリーズではローゲインモード(IEMatch・ECO)にすると音痩せするというか、淡々として面白みが無くなる印象だったのですが、hip-dacではそういった感じがしないのでIEMイヤホンなどでも使いやすいと思いました。

とくにCampfire Audio Andromedaなど感度が高いイヤホンだと、以前はハイゲインモードでアンプのバックグラウンドノイズやボリュームノブのギャングエラーに悩まされるか、それともローゲインモードで音が退屈になってしまうかの二択で悩まされたのですが、hip-dacではそのような心配は要らずゲイン切り替えができるのが嬉しいです。


2万円という価格帯としては申し分無いサウンド、ということで話が終わっても良いのですが、やはりマニアとしては、上位モデルと比べて音質面で不満点はいくつか挙げられます。

まず空間展開が平面的で、あまり奥行きが出ません。これはnano iDSD BLやxDSD、もしくは他社の同クラスポータブル機でも同様の傾向があるので、hip-dacのみに限った不満ではありません。

ZEN DACの場合はバランス接続にすることで前後の距離感がそこそこ出せたのですが、hip-dacではもともと空間表現のポテンシャルが低いせいか、バランスでもZEN DACほどの違いは出ません。もちろんパワーアップの手段としてバランスは大いに有効です。

hip-dac特有の、一番気になる弱点は、高・中・低音のそれぞれで鳴り方がかなり違うように聴こえる事です。まるで帯域ごとに異なる方法でチューニングしているかのような不思議な感覚です。

低音は緩く重く、出音がモコッと山なりに出る感じで、これはこれで上質です。EDMのキックドラムなども音圧で圧迫されずに豊かな重量感が得られます。高音はキンキン響くというわけではありませんが、アタックのエッジが明確に出るので、派手な印象です。ロックやメタルを聴く人なら、この方がドライブ力というか勢いがあって良いかもしれません。もっと上位のアンプみたいにサラッと遠くへ抜けるような感じは出せません。

一番気になるのは中域で、低音と高音それぞれの鳴り方が半分づつ混じったような、ちょっと特殊な質感です。抽象的に言えば、たとえばマルチウェイスピーカーやマルチBA型イヤホンのクロスオーバーみたいな、音が複雑に重なって滲むような感覚です。特にボーカル曲などで肝心の声の部分の音抜けがイマイチで、ミックスの中に埋もれるような聴こえ方です。ほんのわずかなレベルですが、サウンドを印象付ける重要なポイントになっています。この点のみnano iDSD BL・xDSDの方がもうちょっと自然で優れていると思います。

同じくポータブルDACアンプのChord Mojoと比べてみると、Mojoはそこまでワイドレンジではなく、高音も低音もそこまで派手ではないため、むしろ音が丸すぎるという批判もありますが、肝心の声や楽器の音色がとても質感豊かで、なめらかな艶や潤いなどといったイメージが湧きます。たとえば特定の歌手のファンで、声質だけを存分に堪能したいという場合はMojoは素晴らしいです。

iFi Audioはこの艶っぽさを出すのが不得意なので、上位モデルmicro iDSD BLでもMojoほどの艶や質感は出ませんが、その代わりに最低音から最高音までスッキリと一直線にワイドレンジに鳴ってくれるため、複雑なオーケストラや電子音楽などでも余すこと無く鳴らしている感じがします。低・中・高のどの帯域も一貫性のある鳴り方をしてくれると思えることが、hip-dacとの大きな違いです。

このように、同じポータブルDACアンプといっても、2万円のhip-dacと比べると10万円近いモデルにはそれなりの音質メリットがあります。しかもMojo・micro iDSD BLのどちらもバランス出力は無くても、それが音質面で不利に感じることは一切ありません。(逆にもしそれらがバランス対応になったら、アンプ回路が複雑化して値段がさらに上昇するでしょう)。

ではhip-dacはダメなのかというと、そういう事ではなく、スマホのイヤホンアダプターやパソコンのイヤホンジャック直差しから次のステップに進む人にとって、まず最優先したい「低ノイズ・高出力」というポイントをしっかり実現できています。

同じ2万円で他に何が買えるかと想像してみれば、安易なアナログポタアンで上流ノイズをそのまま増幅してしまったり、ゲーミングサウンドカードでDSPエフェクトがかかったりといった変な方向に進むよりは、よっぽど安心できる選択肢です。

Sennheiser HD800S

一応確認のため、4.4mmバランスケーブルでゼンハイザーHD800Sも使ってみたところ、そこそこ満足に鳴らせました。

ハイゲインモード・ボリュームノブ50%くらいで適正音量が得られるので実用範囲だと思います。それ以上回しても音量はあまり変わりません。多くのDAPでは満足な音量すら得られないのと比べれば、十分優秀と言えるでしょう。

音質については、ノイズが少ないせいか解像感は十分に優秀ですので、パソコン直差しと比べて大幅なアップグレード感があります。とくに下手なアンプにありがちな「音がスカスカ・キンキン」になる傾向が無く、中低音に厚みのある鳴り方なのが好印象です。

ただし、やはり普段大型アンプで聴き慣れたHD800Sの音と比べると今ひとつ物足りないことは確かです。アンプによる音質への影響はイヤホンよりもこういったヘッドホンの方が顕著に現れるようです。

具体的には、先ほどイヤホンで感じたように、音の奥行きが平面的になり、全ての音が同じレイヤー上に固まっているような印象です。高中低の周波数帯域ごとの鳴り方の違いというのも、HD800Sの方がわかりやすく聴き取れます。空間が広く、広帯域というHD800Sだからこそhip-dacの特徴が目立ちましたが、逆に密閉型ヘッドホンでガンガン鳴らしたいという人ならそこまで不満は出ないかもしれません。

「所詮2万円だから、もっと高価なDACアンプを買えば良い」というだけなら話は簡単なのですが、実際hip-dacの魅力は値段よりも軽量コンパクトなサイズにあると思います。

このサイズでさらに高音質を要求するのは無理難題なので、欲を出しすぎると結局使いづらい重く大きなモデルになってしまいます。

しっかりした電源と基板レイアウトを持った据え置き型システムと比べて、これはポータブル機の宿命なので仕方がありません。たとえばChord Hugo 2やiFi Audio micro iDSD BLくらいの価格とサイズになって、ようやく最上級の据え置きシステムに迫るサウンドが得られると思いますが、ポータブルと言うには厳しいです。

それなら思いきって、自宅ではしっかりした据え置きアンプを導入して、ポータブルはhip-dacくらいで妥協するのが丁度良いのかもしれません。

おわりに

iFi Audio hip-dacは2万円で買えるポータブルDACアンプとしてはトップクラスに優秀なモデルです。

強力なバランス出力で大型ヘッドホンもしっかり鳴らせますし、出力インピーダンスが低くノイズも少ないためイヤホンとの相性も良いです。

音質面ではやはり上位モデルに譲る部分もありますが、バッテリー搭載タイプとしては非常に薄く軽いため、「これくらいなら持ち歩けるかな」と思えるサイズ感だと思います。下手なコンパクトDAPを買うよりも、使い慣れたスマホとアプリをそのまま使えるというメリットは大きいです。


音楽を趣味にしたいので、そろそろBluetoothワイヤレスを卒業したいけれど、あまりにもマニアっぽいシステムは嫌だという人にはピッタリのモデルです。

もしくは学生やビジネスマンでノートパソコンを常に持ち歩いている人なら、14mmの薄さならモバイルバッテリー感覚でさり気なくスーツケースに入れておけます。(nano iDSD BLは25.5mmなので、ちょっと収まりが悪いです)。

hip-dacよりもうちょっと音質面で上を目指したいと思うのなら、価格も本体サイズも一気に大きくなってしまうことは必須なので、それなりの覚悟が求められます。

たとえばカメラとかでも、ネットでスペックを散々比較した結果、最高級の一眼レフを買ったけど、重すぎて結局持ち歩かないようでは本末転倒です。

高級ハイエンド機を買わない理由としては、値段が高くて買えないからというよりも、大きく重い物を買っても不便だから、という人は多いと思います。

値段が安く、扱いやすく、直差しと比べて高音質がちゃんと実感できる、オーディオに興味を持った人が初めて購入するアイテムとして、もしくは誰かに聞かれたときに安心して薦められる、よくできた商品だと思います。