2024年5月20日月曜日

Beyerdynamic DT 770 PRO X Limited Editionヘッドホンのレビュー

Beyerdynamic DT 770 PRO X Limited Editionを購入したので感想を書いておきます。

DT770 PRO X

ベイヤーダイナミック創業100周年を記念して、2024年4月に35,000円で登場した新作ヘッドホンです。単なる外観だけの記念モデルというわけでなく、歴史的名機「DT770 PRO」と最新鋭機「DT700 PRO X」を融合させた、見た目以上に手の込んだアイデアです。

DT770 & DT700

ドイツのベイヤーダイナミック社は100年の歴史があるメーカーだけあって、似たようなモデル名が多くてややこしいです。私自身もこれを書いていて混同してしまいそうになります。

まず1980年代から続く密閉型ヘッドホン名機DT770 PROがあり、2021年に次世代のSTELLAR.45ドライバーを搭載したDT700 PRO Xがラインナップに加わりました。

DT770 PROは世界各地のプロが仕事道具として現役で活用しているモデルなので、DT700 PRO Xの登場後も廃番にはならず、現在でも両方が並行して販売しつづけています。

今回の新作DT770 PRO Xは、そんなDT770 PROの現代版解釈をDT700 PRO Xの最新技術を活用して作ってみようというコンセプトなのだと思います。

DT770 PRO・DT770 PRO X・DT700 PRO X・DT1770 PRO

価格はDT770 PROが二万円弱でDT700 PRO Xが三万円ということですが、単純に高いほうが高音質というわけではなく、両者のサウンドはあまり似ておらず、想定用途も違います。

どちらにせよ、この値段で、現在でもドイツの本社工場で製造しているというのは凄いです。今回の新作DT770 PRO Xは35,000円で同じくドイツ製です。

さらに、2015年にはシリーズ最上位でテスラテクノロジードライバーを搭載するDT1770 PROが登場しており、こちらは7万円と高価ですが、私も発売当時から長年愛用している傑作で、上の写真で見てもわかるとおり、いまだに壊れる気配がない堅牢さが素晴らしいです。

パッケージ

そんなわけで、DT770 PRO Xは創業100周年を記念しての特別モデルとして、パッケージにも「Limited Edition」と書いてあります。実際どのくらいの数を製造するのかは不明ですが、100周年の期間中は製造ラインを稼働させるのでしょうか。

100周年というのも凄いのですが、1920年代といえば公共ラジオ放送が世界的に広まった時代ですから、その歴史の最初期から関わってきたメーカーというのはなお凄いです。公式Youtubeにもあるように、1937年に世界初のダイナミック型ヘッドホンを発売したのもベイヤーダイナミックだそうです。

パッケージ

付属品

パッケージにも100周年の小冊子がはいっており、ちょっとした歴史が学べます。

ところで、〇〇周年記念というと、多くのメーカーは桐箱に入った金箔漆塗りの超高級モデルとかを出したがるわけですが、ベイヤーダイナミックはあえて一番売れ筋な現行モデルにおける新旧を融合させることで、多くの人に手が届くような価格帯で、長い伝統と高い技術力を表現するモデルを作ってくれた事を評価したいです。

3mストレートケーブル

着脱可能です

DT770 PROはケーブル着脱不可なのですが、今回DT770 PRO Xでは最新モデルらしくケーブルが3pinミニXLRで着脱可能になったのは嬉しいです。

これまでDT770 PROは着脱不可のストレートとコイルケーブル版のどちらを買うべきかも悩むポイントでした。今回は3mのストレートケーブルのみ付属していますが、DT700 PRO X用のコイルケーブル(728489)など別途購入できるので選択肢が増えます。私も自作で1mの短いケーブルを作ってそれを使ったりしています。

DT770 PRO・DT770 PRO X

デザイン比較

ヘッドバンド

DT770 PROと並べて比較してみると、ハウジングの横一直線のエンブレムなど、一目でわかるオマージュを感じさせながら、浮き彫りのロゴに光沢のある金属塗装を施すなど、全体的なクオリティアップを実践しており、まさに現代的な再アレンジというイメージが伝わってきます。

さらに、DT770 PROの特徴でもあるボタン留めのヘッドバンドカバーも継承しています。ただ同じ部品を流用するのではなく、クッションが厚くなり、中央に凹みを持たせることで頭頂部が痛くならないよう改良しているあたりも嬉しいです。

装着感はDT770 PROよりも側圧が若干強いくらいで、密閉型ヘッドホンとして一般的な感じです。快適なベロアパッドで遮音性も保証されているあたりはプロ用としてもしっかり考えられています。

DT700 PRO X・DT770 PRO X

パッドが違います

現行DT700 PRO XのハウジングデザインをDT770っぽく変更しただけかと思いきや、こうやって並べてみると結構違う事がわかります。

とくにイヤーパッドはDT700 PRO Xのタイプではなく、DT770 PROのような昔ながらの形状に戻っています。

DT700 PRO Xのパッドは新設計だけあって、ひねるとロックが外れて簡単に着脱交換できる便利なデザインだとは思うのですが、社外品を含めた互換品の多さでは、今回のようなクラシックなパッドの方が有利です。

このタイプはパッド交換の際に周囲のスカートを引っ張ってフレームに被せる作業が面倒なのですが、今作はDT1770 PROと同じように外周に切り欠きがあり、そこに引っ掛けて一回転させれば簡単に装着できるようになっています。

ドライバー

ハウジング中身

ドライバーはDT700 PRO Xと同世代のSTELLAR.45というタイプを採用しています。このドライバーはハウジングに基板ソケットで接続されており、簡単に取りはずしできるので、組み立てや交換も容易になり、プロ用としてよく考えられています。

中央のダイナミックドライバーは傾斜無しで、周囲に白いコーヒーフィルターのような紙のバッフルで音響調整を行っています。あいかわらず、よくこんなシンプルな設計でここまで良い音が出せるなとつくづく関心します。

インピーダンス

再生周波数に対するインピーダンスの変動を測ってみました。

せっかくなので、ベイヤーダイナミックの密閉型モデル各種と比較してみました。どれも装着していない状態での数値なので、とくに低音側の山は耳まわりの密着具合で結構変わってくると思います。

DT770 PRO Xは公式スペックで48Ωということで、DT700 PRO Xとほぼピッタリ重なっており、低音のみ若干上昇しています。つまり同世代のSTELLAR.45ドライバー技術を搭載しており、チューニングを調整したのでしょう。

それらと比べると、DT770PRO-250やDT1770PROのように、これまでのモニターヘッドホンは総じてインピーダンスが高いものが好まれる傾向にありました。本格的なプロの現場でミキシングコンソールに接続するなら、インピーダンスがこれくらい高い方が良いと思いますが、実際は自宅のUSBバスパワーのオーディオインターフェースとかに接続して鳴らす人が大多数だと思いますから、そのような用途に向けてPRO XのSTELLAR.45ドライバーを開発したのでしょう。T5pのような音楽鑑賞向けの高級機となると、出力インピーダンスがゼロに極めて近い優れたヘッドホンアンプで鳴らすことを想定して、インピーダンスもかなり低く設定されています。

他にも手元にあったモニター系の密閉型ヘッドホンと比較してみました。ソニーMDR-CD900STとADAM SP-5がよく似ているのは面白いですね。Austrian Audio Hi-X60のみ結構低めだったり、モニターヘッドホンといっても結構違うことがわかります。

音質

モニターヘッドホンということで、プロ用のオーディオインターフェースで鳴らすのが最善だとは思いますが、能率は高いので、カジュアルに使うならDAPでも十分です。

Hiby RS6

ひとまず普段から聴き慣れているHiby RS6 DAPで鳴らしてみました。

まず第一印象として、DT770 PROとDT700 PRO Xの融合というコンセプトは確実に成功していると思います。まぎれもなくベイヤーダイナミックらしいサウンドがすぐに体感できたので、それだけも買ってよかったと確信しました。

単純に言うと、DT770らしいシャープな高音と、DT700のメリハリのある低音が共存できており、両方の良いところだけを合わせたような完成度の高い音作りです。

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私なりに「ベイヤーダイナミックらしい」サウンドを実感できるアルバムということで、SignumレーベルからPeter Donohoe & Scacconi Quartetによるタネーエフとシューマンのピアノ五重奏を選んでみました。

ジャケットが地味なので復刻廉価版かと思ったら、れっきとした2024年新譜で、音質も極上に良いです。Donohoeはもう70歳で気の良さそうな白髪の爺さんなのに、相変わらずガシガシとパワフルに弾いており、1980年代のEMIでの激しいリストやバルトークでの活躍を思い出します。SacconiQも伴奏に収まらず積極的に対抗してくるので、スリルのある演奏が楽しめます。

ベイヤーダイナミックのサウンドというと、よく高音がシャープだと言われたりしますが、今作DT770 PRO Xもたしかにそれが当てはまります。

ただし、シャープといっても刺さるような不快感というよりも、まるで研ぎ澄ませたナイフのように切れ味がよく、ピアノやヴァイオリンのアタックが見事に再現されており、高音質な生楽器録音を聴くことで、その瑞々しさや勢いの良さを存分に発揮してくれます。

高音が目立つヘッドホンといっても色々あり、たとえばどの楽曲でもキンキンと同じような金属の響きが加わったり長引いたりで耳障りに感じるモデルもありますが、DT770 PRO Xはそうではなく、単純にレスポンスが高速で、鳴るべきところで勢いよく鳴って、引き際も速いため、高音が常にうるさいという感じではありません。

また、AKG・Austrian Audioを筆頭とする、弦楽器の美音を引き立てるような優雅なプレゼンテーションとも違います。あちらは佇まいや空気感にうっとりするような淡い美しさが魅力的ですが、DT770 PRO Xはもっと音の強弱や激しさの表現が目立ちます。

さらに、ゼンハイザーのような、質感の粗さや不具合を強調するような、いわゆるニアフィールドモニター的なシビアさもそこまでありません。もうちょっと遠くにあるスピーカーから音が飛び出してくるような余裕があります。

このように、DT770 PRO Xは分析的なモニターヘッドホンというよりも、どちらかというと音楽鑑賞に向いているサウンドのように思います。平面駆動型とは一味違い、ダイナミック型らしく、一歩離れたドライバーから自分に向かって音が飛び出してくる距離感があり、スピーカーっぽい感覚を与えてくれます。

オリジナルのDT770 PROと聴き比べても大きな違いがあります。高音の鋭いレスポンスや音源の遠さは共通しているものの、DT770 PROは設計が古いこともあり、中低音以下があまり出ておらず、迫力が足りません。個別パートのモニターヘッドホンとしては優秀かもしれませんが、音楽鑑賞で全体を楽しむには不十分だと思います。

中低音が足りないというのはイコライザーでどうにかなる話ではありません。フラットに補正したとしても、そもそもドライバー自体に力強く押し引きする能力が足りていないので、肝心のダイナミクスが不足しています。つまり、低音を持ち上げてもレスポンスに乏しいモコモコしたサウンドです。一方DT770 PRO Xは最新設計のSTELLAR.45ドライバーのおかげで低音の方までしっかり振動板を動かすことが可能になったようで、ベイヤーというと薄味というイメージがだいぶ払拭されました。

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中低域まで充実して鳴るようになったおかげで、重厚なオーケストラ録音も十分に楽しめるサウンドに進化しました。AccentusからJakub Hrusa指揮Bamberger Symphonikerのブルックナー9番も余裕を持って堪能できます。

前作の4番は版違いも含めた長尺なリリースでしたが、今回は9番のみのシンプルなアルバムです。とりわけ奇抜な解釈はしていませんが、数ある9番の中でも極めて美しい音色に特化しており、彼らが得意とするドヴォルザークを彷彿とさせるような演奏です。もうちょっと硬派で機械的なブルックナーを求めている人も多いと思いますが、こういう甘美な演奏も良いです。

DT770 PRO Xの最大の利点は、密閉型ヘッドホンでありながら音像が遠く、耳周りに余裕があるため聴き疲れしにくいというあたりです。ただし、開放型のように残響が遠方へと広がっていくのとは違い、ある程度離れた場所から音がこちらにやって来る感じです。

とりわけDT700 PRO Xから継承している点として、低音側の充実感が挙げられます。これは単純に量が多いというだけでなく、音源からこちらに発せられるエネルギー、迫力といった方が良いかもしれません。常になにか重い音が耳元で鳴っているのではなく、必要な時だけ遠方からズシンと向かって来るので、交響曲のようなスケールの大きな演奏で効果を発揮してくれます。耳から20cmほど離れた位置から全ての音が均一に鳴っているような空間表現なので、フルオーケストラでも音場感がしっかりと出せており、やはりDT700 PRO Xの最新技術をベースにしていることを実感できます。

ではDT7000 PRO XとDT770 PRO Xでどちらが良いのかとなると、それぞれ方向性が根本的に違うので、評価が難しいです。

DT700 PRO Xの方は、たとえばポッドキャストや宅録でも柔軟に活用できるよう、中域の声あたりの分析力に注目しており、音楽鑑賞でいうと歌詞やメロディを重視した聴き方で、ダイナミクスが潰れたような楽曲でも満足に楽しめるような、いわゆる最近のクリエイター向けのヘッドホンに求められているチューニングです。そのため、フルオーケストラのような、大きなホールで大人数が演奏するざわめきや空気感を捉えた録音では、DT770 PRO Xの方が迫力や聴きごたえがあり、DT700 PRO Xでは主旋律の流れを追うような聴き方に留まり、退屈に感じます。

ではDT770 PRO Xはモニターヘッドホンとして使えるのかとなると、私の感想としては、DT700 PRO Xと、上位モデルDT1770 PROの二機種と比べると、得意な分野が違うように思います。

DT770 PRO X特有の鋭さや迫力は、たとえばEDM打ち込みのトラックで威力を発揮してくれます。新譜を色々と聴いてみたところ、ダイナミクスの作り込み具合といった部分が顕になり、安易なソフトシンセを並べただけのような、マスタリングが素人なトラックはすぐにバレてしまいます。

また、ゲーム用途でも、高音のレスポンスが速いため、サウンドエフェクトがプレイに直接影響するような状況ではとても有効です。一方ボイスチャットがメインならDT700 PRO Xの方が良いです。

ようするに、DT770 PRO XはこれまでもDT770 PROが得意としていたような分野において、上位互換として、さらに充実した使い方ができるという感じです。

それでも、私が長らく使ってきたDT1770 PROとは、純粋なモニターヘッドホンとして明らかな格差を実感します。DT770 PRO Xは鋭さや迫力といった部分で「勢いで押している」感じがあり、いざ音源の細部までじっくりと観察しようとすると、その勢いに押し負けて解像しきれていない感覚があります。写真に例えるなら、コントラストの強い、迫力がある画が撮れるのと、レンズの分解能が高いのは別問題という感じです。

DT1770 PROは、押し出しや迫力はそこまで目立たないものの、音源が一定距離に整列しており、それらに注目してみると、しっかり最小単位の細部まで聴き取れるため、モニターヘッドホンとしての性能は一枚上手です。やはりテスラテクノロジードライバーは価格差なりに凄いと実感します。

SPL Phonitor X

今回DT770 PRO Xを聴いていて、これはありきたりなモニターヘッドホンというよりも、むしろヘッドホンマニアこそ喜ぶようなモデルだなと思えた点が二つあります。

まずは、アンプによる鳴り方の変化が明確に感じ取れるあたりです。比較的安いヘッドホンでありながら、アンプをアップグレードするたびに音質向上や表現力の違いが実感できます。そのため、オーディオファイル入門ヘッドホンとしても最適なモデルだと思います。低価格ヘッドホンにありがちな、ドライバーやハウジングの響きのクセが先行して音楽信号を忠実に届けてくれないという限界を感じさせません。

具体的な例を挙げると、RS6 DAPから据え置きアンプのSPL Phonitor Xに切り替えてみたところ、同じ楽曲でも音源の発生距離がピタッと定まる感覚があります。頭から20cmほど離れた楽器の音が発せられている場所までの霧が晴れて、複雑に入り組んだ演奏でも乱れず安定して、ピアノとチェロなど同じ帯域で複数の楽器が鳴っていても分離が良さが実感できます。

もうひとつ、ヘッドホンマニア的だと思える点は、ケーブル交換による鳴り方の変化です。

古くからのヘッドホンコレクターであれば、ベイヤーやAKG用にミニXLRケーブルは沢山持っているだろうと思います。私も十年以上前に買ったケーブルがいまだに流用できるので、息の長い端子はありがたいです。近年ケーブル素材の性能が飛躍的に向上しているというわけでもなさそうですし、むしろ最近は価格高騰で、昔1万円以下で買えたケーブルが今では2-3万円ということもよくあります。

DT770 PRO Xの付属ケーブルは粗悪だからすぐに変えた方が良い、というわけでもありません。高価なケーブルは必ずしも音が良いとは限らず、高音にうねるような響きが加わりダメだったものもありました。全体的に、付属ケーブルは中低域が奥まりドンシャリが強調される傾向があるので、自作で普通に良いOFCマイクケーブルとかでも音の太さが増して良い感じになるようです。

アンプとケーブルで音が変わるのは、どちらも業務用モニターヘッドホンとしては困る要素なのですが、オーディオマニア的には、ヘッドホン購入後もアップグレードの効果が実感できる、つまりポテンシャルの高いモデルとして末永く活用できます。DT770 PRO Xを中心に、ひとまず低予算でシステムを組んで、半年くらいじっくり鳴らし込んだあとに、オーディオショップにヘッドホンを持参して超高級アンプで鳴らしてみると、その違いに愕然すると思います。

ではアンプによる音質差が大きい方が優れたヘッドホンなのかというと、そうとも言えないのが難しいところです。

一例を挙げると、先ほどインピーダンスグラフで見たように、DT770 PRO Xは50~150Ωくらいですが、最近でもプロ用USBオーディオインターフェースなどはヘッドホン出力インピーダンスが50Ω以上というのが意外と多いです。

そうなると、DT770 PRO-250やDT1770 PROのような250Ω以上のモデルでないとダンピングファクターの比率で周波数特性が狂ってしまいます。RMEなどを筆頭に、近頃のヘッドホンはインピーダンスが低いということを想定して、出力インピーダンスを1Ω以下に設計しているメーカーもありますが、Focusriteの最新作Scarlett Solo 4th Genが未だに50Ωだったり、知らずに買って後悔するということがよくあります。

とくに「600Ωのヘッドホンも鳴らせる」というような高出力を宣伝している場合、出力インピーダンスが犠牲になっていることが多く、USBバスパワー駆動で両立するのは無理があります。

もちろんアンプの性能は出力インピーダンス以外にもノイズやクロストークなど色々な要素がありますが、やはり本格的なモニターヘッドホンとなると、DT1770 PROのような250Ωくらいの高インピーダンスのほうが、環境に左右されにくい安心感が持てます。逆にDT770 PRO Xは再生環境による違いを楽しむオーディオファイル的な使い方に向いています。

おわりに

100周年ということで、T1やXelentoなど10万円台の高級機のカラーバリエーションでも出すのかと想像していたところ、このように意義のあるモデルを出してくれたのは喜ばしいです。

そこそこ手が出しやすい値段ですし、「ベイヤーダイナミックらしい」ヘッドホンの代表として、たとえメインで使う予定はなくとも一台持っておくのも良いかと思います。

また、個人的にベイヤーのヘッドホンが好きな理由として、変な回転ヒンジなどのギミックが無いため、形崩れせずに手にとってパッと装着できる利便性と、そこそこ手荒に扱える堅牢さが挙げられます。

そんなわけで、限定品なのが惜しいと思えるくらい、デザイン・装着感・サウンドの全てにおいて、100周年記念モデルとしてメーカーを象徴するにふさわしいモデルに仕上がっています。

しかし逆に、往年のサウンドを彷彿とさせるチューニングとも言えるので、もし現在の開発陣がもっと別の路線を歩みたいと考えているのであれば、今作が本筋とは離れた復刻限定モデルというのも納得できます。

私の意見としては、全てのヘッドホンメーカーが同じ測定カーブに忠実である必要は無いと思っており、むしろ逆にベイヤーのような、伝統的なチューニングの特色があるメーカーの方に存在意義を感じます。しかし、このあたりはネットレビューでの評価など最近の風潮とは反りが合わない部分だと思うので、実際に数が売れる製品開発との折り合いも難しいとは思います。

本格的な高解像モニターヘッドホンを探しているなら、同じベイヤーでもDT1770PROなど、予算次第でもっと上を目指す価値は十分あると思いますが、今作DT770 PRO Xは密閉型でありながら空間が広く疲労感が少なく、音楽鑑賞はもちろんのこと、ゲームや動画などでも迫力とキレのあるダイナミックなサウンドを体験できる、汎用性の高いヘッドホンとしておすすめできます。


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