2017年1月2日月曜日

2016年 個人的に気に入った最新イヤホン・ヘッドホン・アンプとかのまとめ(後半)

前半からの続きです。

イヤホン・ヘッドホンに続いて、2016年のDAPとかアンプについて、いくつか気になったものをまとめてみました。


2016年のDAP

私自身のDAPは、主に「Astell & Kern AK240」と「Cowon Plenue S」という二機種を使った一年でした。

地味なデザインですが、音質が素晴らしいCowon Plenue S

2016年前半は、友人から中古で買い取ったAK240を使っていました。その友人は次世代モデルAK380を購入したので、その「お下がり」というわけです。AK240の操作性や音質にとても満足できたため、ちょっとしてから上位モデルのAK240SSにアップグレードする機会があったのですが、それを手に入れて早々に、SDカード認識の不具合で、修理に出すことになってしまいました。

結局、中古DAPではこういうことが起こるので、なにかちゃんとした新品のDAPを一つ買っておきたいな、と思い、散々試聴を繰り返した結果、6月頃にCowon Plenue Sを買いました。2016年2月に発売されたDAPで、その当時に試聴したときから高音質ぶりが気になっていたのですが、AK240SSが修理に出たことで、ようやく思い切りがついて、ショップで購入しました。

2016年後半は、ほぼPlenue Sとともに過ごしました。通勤中のIEMリスニング用として毎日必ず持ち歩いていましたし、ハイレゾ音源の新譜チェックにも、オーディオショップでの新作イヤホン試聴でも、大出力アンプが必要とされるシチュエーション以外では、かならずPlenue Sを使いました。購入から6ヶ月経った今でも、未だにPlenue Sのサウンドには感心しますし、インターフェースや使用感にも飽きが来ません。それくらい満足しています。

Plenue Sの詳細については以前何度かブログで紹介したとおりですが、高音質ということ以外でも、やはり一番のメリットは、Bluetoothや無線LANなどの無駄な機能は一切排除した、シンプルに「ストレージに音楽ファイルを入れて、それをイヤホンで聴く」という利用方法のみに専念した潔いデザインです。もちろんUSB DAC機能やトランスポート機能など、もうちょっと拡張性があっても良いかも、とも思うことはありますが、それを考慮した上でも、現状で十分に満足しています。

AK240を手放す前に撮った兄弟写真

故障したAK240SSは、ようやく修理が終わり手元に戻ってきたので(というか新品交換だったみたいですが)、現在はPlenue SをメインのDAPとして使い、AK240SSの方はデジタルトランスポートやライン出力など、様々な雑用で活用しています。とくに最近のAKファームウェアアップデートで実装されたUSBトランスポート機能は秀逸ですし、それ以外でも、スピーカーシステムなどに接続するアナログライン出力用としての音質はPlenue Sよりも好みなので、なかなか手放せないくらい重宝しています。

2016年の新作DAPを振り返ってみると、あいかわらずiRiver Astell & Kernが目立った一年でした。初代AKシリーズから4年が経過した今でも、第一線でDAP市場をリードしている技術力と、高価ながら魅力的な商品企画の充実具合は他社を圧倒しています。

2016年でとくに優れた商品だと思ったAK70

とくに、2016年で一番感心したDAPは、Astell & Kernラインナップの中でもエントリーモデルの「AK70」です。発売価格7万円(実売5万円くらい)という普及クラスながら、デザイン、操作インターフェース、音質、そしてAKらしく2.5mmバランス出力と、一切の妥協をせず、むしろ巨大化が進むDAP勢の中で、これくらいコンパクトなサイズのDAPが欲しかったユーザーは多いと思います。また、USBトランスポートしてChord Mojoなど様々な外部DACアンプとも接続できるため、エントリーモデルとしてだけではなく、マニアのサブ機としても「とりあえず買っちゃった」人が多い、大人気のDAPでした。

第三世代AKシリーズはあいかわらず大人気です

AK70以外では、2015年に登場した第三世代AK380から引き続き、2016年は下位モデルAK320・AK300が発売、第二世代から続々世代交代が行われ、AK380もボディが銅で作られた限定モデルAK380 COPPERが注目を集めました。

AKのDAPというと、高音質は疑いようがないのですが、他社のDAPと比べて出力があまり高くないことがネックだったのですが、第三世代モデルではAK AMPというドッキング式ブースターアンプがラインナップに追加され、16Ωなどの低インピーダンスIEMでも強力にドライブできる高出力が実現できるようになりました。12月に発表された最上位モデル「AK380SS」ではアンプがセットで同梱されることになり、もはやAKオーナー必須アイテムのような扱いになっているので、将来的に第四世代DAPではアンプ相当(むしろ、それ以上)の高出力を、DAP単体で実現して欲しいです。

私自身はAK240SSを使っているのですが、AK380など第三世代AKは画面サイズが大きくなり、DSD256対応など、そこそこメリットはあるものの、サウンドの傾向が大幅に変わってしまったようで、現時点での買い替えには踏み切れませんでした。

AK380は音が悪くなった、という意味ではなく、より原音忠実でクリアなモニター調の仕上がりだったため、AK240SSの分厚いクセのあるサウンドに魅力を感じていた自分としては、それを失ってまで買い換える意欲がわかなかった、というだけです。ようするにCDプレイヤーやプリメインアンプなどハイエンドオーディオ機器と同じで、古いモデルでも陳腐化せず、各モデルごとのサウンドに魅力や価値があるという意味で、Astell & Kern DAPというのは「毎年買い替えを迫られるトレンド系ガジェット」の枠組みを超越していると思います。

デザインをアップデートしたPlenue M2

一方、同じく韓国のライバルDAPメーカーCowonは、2016年初頭にフラッグシップDAPの「Plenue S」を発売し、これは私の主力DAPになりました。20万円という価格にしては機能面はとてもショボいのですが、音質が実に素晴らしく、説得力のあるフラッグシップ機でした。AKと比べると、より中域楽器重視で聴きやすく、高解像とは真逆のチューニングなのですが、それがあえて古い音源などでも不快感を抑えて、魅力を引き出してくれます。

8月には低価格モデルPlenue Mの後継機「Plenue M2」が登場し、Plenue Sを意識した筐体デザインやインターフェースを継承しながら、バランスアンプやDSDネイティブ再生を見送ることで7万円台という価格に抑えています。ただし、最近は7万円クラスでも他社からは無線LANやBluetoothなどを登載した「全部入り」のDAPが増えてきたので、私のように本当にPlenueの音質に惚れ込んだという人以外では、なかなかコスパが悪いDAPブランドだとも思います。

アンプ交換が楽しいFiio X7

そんな「全部入り」DAPの代名詞として、中国のFiioからは、2015年末に発売したフラッグシップDAP「X7」が好調にシェアを伸ばしています。

Android登載で、スマホっぽくネットワークストリーミングなど多様なアプリがインストールできるため、ハイテクユーザーには好評ですし、アンプ回路部分を着脱交換可能というメリットを存分に活かして、本体発売後も「AM2」「AM2A」「AM5」といった音色やパワーが異なるアンプモジュールや、「AM3」バランス出力、「AM0」アンプ無し(トランスポート用軽量省エネ)モジュールなど、想像以上に豊富なラインナップを続々と展開しました。

どれも無駄なプレミア感やオカルト的なアピールはせず、単純に「高出力なアンプ回路ならバッテリー寿命が落ちる」など、合理的で説得力のある売り方が好印象でした。結局、X7の本体購入価格から、さらに2万円台のアンプモジュールを買い足す出費を余儀なくされるのが悩ましいですが、アンプモジュール次第でどんな音にもなるというのは、各自好みのサウンドが見つかるので、良いアイデアだと思います。

X5シリーズの最新版X5 3rd Gen

2017年にはFiio X5シリーズの後継機で、X7の技術を応用したX5 3rd Generationが登場するそうです。発表時の広報資料を見る限り、Android OS登載でD/AチップはAK4490 x2、2.5mmバランス出力対応といった感じで、これまでのX5・X5 2ndとは全く異なる仕様になりそうなので、音質面ではどうなるのか気になります。とくに私自身はX5・X5 2ndのサウンドはハイエンドDAPをも凌ぐ高音質だと思っているので、その回路の系譜が終わってしまうのも、なんだか残念な気持ちもあります。

そういえばFiioは、外部DACアンプと連携するためのトランスポート機能に特化した「T3」というDAPを発売する予定だったのですが、開発が難航しているのか、2016年2月のアナウンス時から一向に進展の気配がないのが残念です。事前情報では、タッチスクリーン操作でUSB3.0対応、フルサイズSDカード二枚登載とか、マニアックで意欲的なモデルらしく、出たら買おうとは思っているのですが、待っている間にAK DAPがUSB出力対応になったりして、だんだんと購入意欲が薄れてきています。

そろそろ発売しそうなiBasso DX200

FiioのライバルiBassoからは、2015年末に登場した「DX80」が5万円台という低価格ながら、タッチスクリーン操作と、高出力アンプ回路、AK240を彷彿させるような高音質で、非常にコスパの良いDAPとして2016年も好調な人気を博していました。次世代の上位モデル「DX200」に関しては、2016年初頭からHead-Fi掲示板などで小出しのスペックが公開されていたのですが、12月末になってようやく製品版が形になってきた様子なので、2017年早々に試聴してみるのが楽しみです。

iBasso DX200やFiio T3みたいに、発売するかもわからない商品を、遥か前から情報公開して購入層の財布を掴んでおく、いわゆる「出る出る詐欺」は、「ベーパーウェア(Vaporware)」とも呼ばれるそうなのですが、最近熾烈なシェア争いをしている中華DAPメーカーでは、特によくある傾向ですね。その一方で、やはりソニーなど日本のメーカーは、昔ながらの「家電イベントで製品発表 → クリスマス商戦前に発売」といった流れを守っているのが面白いです。

金色のインパクトが強すぎるソニーNW-WM1Z・NW-WM1A

10月には、ソニーから待望のハイエンドDAP「NW-WM1Z」「NW-WM1A」が登場したのが記憶に新しいです。前評判の時点から話題性が高かったのですが、その期待を裏切らない高音質ぶりがマニアからも認められたようで、売上は好調なようです。

とくに黒いWM1Aは内容からすると相当コスパの高いDAPですし、金メッキ純銅仕上げの高級モデルWM1Zは、33万円という高価格ながら私の身の回りのベテランオーディオマニア勢でもちらほらと買っている人がいるので、嬉しい限りです。

金塊のような重量感は凄まじく、これを使った後だとAK240SSですら軽量に感じられました。こういうバカモデルに素直にワクワクできるか、侮蔑の目で見るかで、「オーディオマニア」か「ガジェットマニア」か、人間性が分かれる境界線ですね。

これまでのトップモデルNW-ZX2が基本的に2013年の初代ハイレゾウォークマンNW-ZX1の延長線だったところ、今回の新作DAPは、完全新設計の独自OSに、進化した高音質回路を登載し、AKなどのハイエンドDAPと真っ向勝負できる、死角のない完成度を誇っています。

私自身も、とくに金色のWM1ZとMDR-Z1Rヘッドホンのコンビネーションは長期間試聴できたのですが、世の中にすでに大量の好評レビューがあるので、あえてブログで紹介するまでも無いかなと思いました。サウンドは大変素晴らしいです。

音質に関して特に感じたのは、ソニーらしいS-MASTER HXのサウンドを継承しながら、ZX2ゆずりの響きの充実感が、さらに広帯域化しクセが少なくなっており、音色に爽快な艶と魅力溢れる仕上がりです。

試聴前は、もしかすると世間にありふれたDAPのような無難なサウンドになっているかと心配していたのですが、いざ聴いてみるとソニーらしさが存分に発揮されており一安心しました。また、結局このDAPを使っていて一番しっくりきたのがMDR-Z1Rヘッドホンとのバランスケーブル接続だったので、そういった意味でもソニーらしく抜かりなく考えられた商品でした。汎用DAPとしては、Astell &Kern同様、せっかくコスト度外視のハイエンド仕様なのだから、もうちょっとソニー以外の低能率ヘッドホンにも対応できるような高出力が欲しいと思いました。(それでも、ZX1・ZX2と比べるとずいぶん進歩しています)。

大人気のオンキヨーDP-X1AとパイオニアXDP-300R

2016年は、10万円超のハイエンドDAPだけでなく、5万円前後のDAPが高級モデルに迫る勢いがあり、色々と面白みのある一年でした。Astell & Kern AK70はもちろんのこと、オンキヨー「DP-X1A」・パイオイア「XDP-300R」の兄弟モデルはとくに日本国内でのシェアが絶大ですし、コストパフォーマンスが非常に高い名作DAPです。

2015年にDP-X1が登場した時点では、まだファームウェアの完成度が甘かったのですが、精力的なアップデートのおかげで最近では十分実用に耐えうるレベルに育っています。ただし、2015年のDP-X1・XDP-100Rから一年を待たずに、マイナーアップグレード版のDP-X1A・XDP-300Rが登場したのは、オーナー泣かせで、いかがなものかと思います。

とくにオンキヨーとパイオニアという両ブランドの位置関係というか、そういった社内事情でラインナップが企画されている感が強く、私自身はあまり共感が持てないアプローチです。コンシューマ目線からのイメージとしては、2015年はオンキヨーDP-X1がヒット商品になり、その廉価版のパイオニアXDP-100Rはアピール不足だったため、急遽XDP-100RをDP-X1相当のスペックに引き上げたXDP-300Rをリリースし、そうなると上位ブランドであるべきオンキヨーの体裁が悪いため、DP-X1も販売終了して、コンデンサ交換とかでお茶を濁したDP-X1Aをリリースする、みたいなモヤモヤした印象があります。

低価格DAPの現状を伝えるCayin i5

この5万円台という価格帯では、マイナーな中華ブランドも負けておらず、様々なハイエンド相当の低価格DAPを続々とリリースしています。とくに「Cayin i5」などをはじめとして、日本では代理店の関係であまり目にしないものの、中国オンラインショップを中心に、海外でそこそこの人気を博しているDAPが増えています。どのブランドも、FiioやAKなど先駆者による完成されたアイデアを模倣した「性能は似ているけど値段が安い」モデルに集中しており、先見性や独自性みたいなものは希薄です。まさにiPhoneとかの影で中華スマホが台頭してきたのと同じような図式です。

もちろん低価格DAPが続々と増えている現在でも、純粋な音質面ではAK380などの高級DAPを購入する意味はまだ十分にあるのですが、それ以外の機能的な部分では低価格DAPでも十分すぎるほど充実しているので、なんだか自動車業界のように「機能満載なファミリーカーが必要だけど、そこそこのドライブ性能も欲しい」という客層と、「コスト度外視で、とにかく感動が味わえるスポーツカーが欲しい」という客層に二分化しているようです。

異常に完成度が高いソニーNW-A35シリーズ

さらに「軽自動車並みの」低価格・高機能というと、10月発売のソニーの新作「NW-A35」シリーズは、2万円台という価格ながら、大型液晶タッチスクリーンにWM-1Z・WM-1Aと共通した独自OSを登載しており、価格以上にクオリティの高い製品で、中華DAP勢を一歩リードしています。音質は価格なりといった感じで、そこそこ満足できましたし、デジタルトランスポートとしても有意義だと思ったのですが、個人的には、いまだにマイクロUSBやUSB C端子ではなく、独自規格のウォークマンケーブルを使っているのが大きなマイナス点でした。

iPod NanoっぽいFiio X1 2nd Gen

FiioからはX1の後継機「X1 2nd Generation」が登場しましたが、そこそこ大きなボディに古臭いテキスト操作画面、デジタル出力は不可、と、なんだか大昔のiPod Nanoのような印象が強く、あまり購入意欲がわきませんでした。ただ、購入した友人によると、3.5mmアナログ出力でアナログポタアンと重ねると結構楽しめるそうです。

超小型なのに超多機能なShanling M1

一方で、11月にはShanlingから超小型DAP「M1」が発売され、Fiio X1-IIがiPod Nanoならば、こちらはiPod Shuffleかと思える超小型サイズに驚きました。一万円台という価格の安さに誘惑されて興味本位で買ってみたところ、単独のカジュアルDAPとしても、BluetoothやUSB OTGトランスポートとしても十分活用できる、スイスアーミーナイフ的なユニークな商品でした。

2016年、AK・Cowon・ソニーなどのベテランブランド勢は、DAP用途に特化した独自インターフェースOSを登載しており、その一方で、より幅広いユーザー層に向けた5~10万円のDAPでは、Fiio X7やオンキヨーのように、Google Playアプリ方式を利用したスマホ式インターフェースが人気です。さらに低コストなDAPや、この分野の開発力が弱いメーカーは、未だに簡素なテキスト画面を物理ボタンでスクロールする、いわゆるガラケータイプのインターフェースを登載しています。

個人的には、Androidアプリインストール機能を搭載した多機能DAPというのは、たしかにSpotifyなどストリーミング系サービスを使うユーザーにはありがたいかもしれませんが(と言っても、Fiio X7やオンキヨーDP-X1などではかなり不完全な実装でしたが)、純粋なDAPとして考えると無駄が多く、経験上、不可解なバグや動作不良を起こしやすいイメージがあります。もちろんAndroidに依存することで、ソフト開発はもちろんのこと、Bluetoothや無線LANなどの機能もまるごとスマホと同じ既存設計を流用できるため、DAP開発の敷居は下がります。

最上級ハイレゾDAC登載の ZTE Axon 7 と Vivo Xplay5 Elite

2016年は、中国の大手スマホメーカーを中心に、高品質DACチップやヘッドホンアンプ回路を登載したAndroidスマホも続々と登場しています。昔だったらこういうのは日本のXperiaとかの独擅場だったはずですが、今では中華スマホが一番過激な事をやっています。

日本ではあまりとりあげられないため、未だ中華スマホは粗悪な低価格モデルばかりだと思っている人が意外と多いです。

旭化成AKM 4490チップを登載したZTE Axon 7や、ESS Sabre 9028 DACにOPA1612高音質オペアンプ駆動を登載したVivo Xplay5 Eliteなど、さらには高精度クロックとか、まさにDAPさながらのスペック競争が行われています。

このまま軌道に乗れば、機能やスペック至上主義のAndroid系DAPと、高音質スマホとの境界線はだんだん狭くなるような気がします。外出先でストリーミングを使いたければ、4G LTE通信が必須になって、まさにスマホになってしまいます。

それでも、高品質デジカメが未だに売れ続けているように、DAPにおいても、しっかりと独自の開発力を持ったメーカーによる高音質DAPは、今後も活躍するような予感がします。

2016年のヘッドホンアンプとか

ポータブル、据置き型ともに、DAC+ヘッドホンアンプというのは意外と新作が出るペースが遅いです。そこまで買い増し・買い替え需要が無いことと、イヤホン・ヘッドホンなどと比べると、回路設計や電子部品などの分野での技術革新が少ないからかもしれません。

とくに最近注目されるハイレゾ音源再生でも、対応ファイル形式はPCM 352.8・384kHzとDSD256(11.2MHz)までサポートしていれば、もう現状それでプロ用録音機材の上限に達しているので、どれほどのスペック至上マニアであっても、もはや頭打ちの状態です。

2015年の時点でもう十分に実現できていたので、2016年はスペック数値的な進化はあまり主張されなくなりました。なんだか、デジカメの「○○メガピクセル」といった画素数競争が一段落したような感じですね。

つまり、カタログスペック的に見ると、主要各社が横並び状態になってしまったため、あとはもう音質や駆動力など、オーディオ機器として根本的な部分での勝負になっています。

逆に言うと、ハイエンド・オーディオと同じで、カタログスペックのみを頼りにしているだけでは計り知れないオーディオの感性的な部分が、ようやくポータブル・デジタルオーディオの分野でも重要視される時代が到来したのかもしれません。

ただし、2016年になっても、私が試聴してみた一部の新製品では、カタログスペック上では対応しているはずのDSD256などで、まだ完璧に再生できずプチプチとノイズが乗るような商品もあったので、興味がある人は、依然として注意が必要なようです。逆に、そういった問題はネットのレビューなどでも言及されていないことが多いため、世間一般としては、とりあえずDSD256などの紙面スペックを満たしていても、実際はそんなハイレゾ音源は持ってないし、聴くこともない、という人が多いのかもしれません。

実際DSD256などの音質メリットはあやふやですが、最近はオーディオマニアとして聴いてみる価値がある超ハイレゾ音源が続々と増えてきているので、前回ブログ記事で紹介したような2016年の最新高音質アルバムを、テストファイルとしてでも是非購入してみることをお勧めします。自分自身で色々な音源を聴いてみることで、なにか新たな視野が生まれるかもしれません。

2016年、私の自宅でのセットアップは、これまで長年愛用してきたApogee Rosetta 200 DACと、Grace Design m903ヘッドホンアンプを引退させて、新たなUSB DACのiFi Audio micro iDAC2と、ヘッドホンアンプViolectric V281に入れ替えました。色々と試聴した中で、音質を気に入った、というのはもちろんなのですが、どちらもあまり過剰な味付けではなく、音源やヘッドホンの特性を引き出す邪魔をしないことを最優先として選びました。

シンプルながら、なかなか音が良いiFi Audio micro iDAC2

micro iDAC2は、USBパスパワー駆動の安価でコンパクトなUSB DACなので、もうちょっと上位モデルに買い換えてもいいかなと思ってはいるのですが、色々とハイエンドDACを借りて試聴してみても、なかなかこのmicro iDAC2を凌駕するようなモデルに出会えていないため、今のところ、これで満足して活用しています。あと、ちょっとオカルトっぽいですが、iFi AudioのGeminiというUSBケーブルも、なんだか効果が実感できるので愛用しています。

自宅のメインヘッドホンアンプViolectric V281

Violectric V281というヘッドホンアンプは、以前使っていたLehmann Linearのようなオーソドックスなモニターアンプの系譜ながら、より高出力で、バランス・アンバランス問わず、どのような低能率ヘッドホンでも駆動できる無尽蔵のパワーが気に入りました。サウンドもスケールが大きく、圧迫感や限界を感じさせない余裕を持った鳴り方なので、自宅ではDAPやポータブルアンプなどよりも、このシステムを好んで使っています。一年を通して非常に長い時間リスニングに活用したアンプです。

大型ヘッドホンも軽々駆動するMOON 430HAD

2016年の最新モデルをいくつか試聴した中で、個人的に一番感心した据え置き型ヘッドホンアンプは、カナダのSIMAUDIO MOON 430HADでした。私自身は購入しなかったものの、色々と縁があって、ショップや友人宅などで新作ヘッドホンを試聴する際には、一番頻繁に使ったヘッドホンアンプになってしまいました。

MOON 430HADはUSB DAC登載の据え置き型アンプなので、OPPO HA-1やフォステクスHP-A8などと同類の、よくあるオールインワン複合機なのですが、そういった製品の中でもとりわけ優秀で、DACとアンプの双方面で性能、出力、音質という全てにおいて満足できた傑作です。

価格は50万円超と非常に高価なのですが、このレベルのサウンドが実現できるDACとアンプ(あとケーブルとか)を個別に購入したら、結局それくらいの値段になってしまいそうですから、あまり悩まずに、とりあえずパソコンにUSB接続するだけでトップクラスの高音質が得られるDACアンプが欲しい人にとっては、理想的な回答だと思います。

また、430HADよりも低価格(20万円くらい)でコンパクトな、デスクトップ仕様の230HADも、バランス接続はできないものの、430HADゆずりの完成度を誇っているため、意外とダークホース的な存在です。

真空管とトランジスタを切り替えて楽しめるiFi Pro iCAN

6月には、英国iFi Audioから待望の大型ヘッドホンアンプ「Pro iCAN」が登場しました。DACなどのデジタル回路は一切搭載していない純粋なアナログヘッドホンアンプで、価格は24万円くらいと、iFi Audioにしてはかなり高価です。

これまで好評を得ているmicro iCANとiTubeといったコンパクトモデルのエッセンス取り込んだ高性能アンプで、とくにプリアンプ部をトランジスタと真空管のどちらかにスイッチで切り替えられるため、音源やヘッドホンとの相性が合わせやすいのが魅力的です。そのため、サウンドの特徴というのも表現しがたいのですが、iFi Audioらしい刺激的でハイレゾ音源の可能性を十分に引き出せるスタイルでした。試聴時に筐体がとても熱くなっていて驚いたのですが、なんだか往年のクラスAアンプとかみたいに、マニア的にはこういった省エネやエコ度外視の過剰設計に喜んでしまうものです。

2017年には、同様に大型のUSB DAC「Pro iDSD」が登場するらしいので、それも面白そうですし、ポタフェスでは参考出展でPro iCANのSTAX専用アンプバージョンもあったので、STAXのヘッドホンで行き詰まりを感じている人は、チェックしてみる価値がありそうです。

バランス接続が手軽に楽しめるフォステクスHP-A4BL

7月には、フォステクスから名作HP-A8とHP-A4の後継機「HP-A8MK2」と「HP-A4BL」が登場しました。それぞれ10万円と4万円程度です。

HP-A8MK2の方は、そもそも初代HP-A8が十分すぎるほど高性能だったため、MK2ではDACチップ更新やDSD11.2MHz対応など、ブラッシュアップ的な更新に留まったのですが、HP-A4BLの方は名前のとおりバランス出力対応(しかも4ピンXLR)になり、2016年のフォステクス新作ヘッドホンと合わせてバランス駆動で活用できるようになりました。ただし、個人的には初代HP-A4のUSBバスパワー駆動から、HP-A4BLでは高出力化のためACアダプタ駆動に変わってしまったことが、ちょっと残念です。

そういえばフォステクスと言えば、2015年末にオール真空管のフラッグシップアンプHP-V8が登場したのですが、まだ一度も試聴できていません。販売価格88万円ということで、宝くじでも当たらない限り買うことは無いと思いますが、フォステクスTH900MK2やTH610ヘッドホンなどと合わせると、一体どんなサウンドなのか気になります。

ラックスサウンドの最短ルートDA-150

USB DACとの複合機では、ラックスマンからも、2015年で好評だった17万円のDA-250から、よりコンパクトサイズで価格を10万円に抑えたDA-150が登場しました。こちらはコンパクトなデスクトップサイズの見かけによらずトランスを含む高品質コンセント電源回路を内蔵しており、低価格ながらラックスマンらしい綺羅びやかなサウンドが好印象でした。写真ではわからないですが、奥行きがかなり長いのでデスクトップ用途では注意が必要です。

アジアで人気なQuestyle CMA800R

似たようなコンセプトで、8月には中国のQuestyleから33万円のCMA800iと、デラックス版で40万円のCMA800Rなどが登場し、アジア諸国を中心に上々の人気を得ています。とくに中国界隈ではFocalと同じ代理店が扱っているらしく、試聴デモやパンフレットなどでは話題のUtopiaヘッドホンとセットで展示してあることが多いため、その関係からも注目を集めています。

久々のソニーESシリーズTA-ZH1ES

10月にはソニーから新世代ウォークマンやZ1Rヘッドホンと合わせて、卓上DAC・ヘッドホンアンプのTA-ZH1ESが登場しました。こちらは残念ながらまだ真面目な試聴に恵まれていないため、サウンドに関してはなんとも言えません。

マットブラックの地味なデザインのせいで、黄金のウォークマンの影に隠れてしまいがちですが、中身はジェフローランドばりの分厚い削り出し筐体に、ソニー伝統のRコアトランス、膨大な数のカスタムICチップに高音質コンデンサ類など、往年のソニーハイエンド「ESシリーズ」の再来と言える設計思想を感じさせてくれ、なんだか懐かしい気分にさせてくれました。未だにソニー全盛期のSCD-XA9000ESなどのSACDプレイヤーを愛用している私にとっては、その当時TA-FA1200ESアンプなどで一旦開発が途切れてしまったESシリーズS-MASTER系のDACアンプが、また別の形で進化して復活してくれたことに、素直に喜んでいます。

2016年は、旭化成(AKM)の最新D/Aチップ「VERITA」シリーズが様々な高音質DACに登載されるようになり、とくに最上位のAK4490チップは、Astell & Kern AK380のようなポータブルDAPから、Fostex HP-A8MK2など据え置き型アンプまで、幅広いジャンルで好評を得ました。

また、旭化成に続いて、数年前のハイレゾDACの代表的な存在だったESS Sabreチップも、ES9018を超える次世代チップというES9028シリーズが登場したことで、これまたモデルチェンジ需要が生まれています。

ESS9028PROを登載するInvicta Pro

ESS社と関係が深いカナダのResonessence社は、数年前に当時無名だったES9018を世に広めたInvicta、Concero、Herusという3モデルが流行ってから、最近はあまり話題にのぼらなかったのですが、2016年後半には、InvictaがES9028PROに換装されたInvicta Proと、ヘッドホンアンプ未搭載でライン出力DACのみのVeritasが登場しました。Invicta ProはUS$6000(約70万円)、 Veritasは$2850(約33万円)と、非常に高価なので、まだ真面目に試聴していませんが、初代Invictaのサウンドは当時他社を寄せつけない圧倒的性能を見せていたので、今回も期待を裏切らない予感がします。

マイナーチェンジ後もあいかわらず素晴らしいOPPO HA-2SE

バッテリー駆動式のポータブルDACアンプでも、10月にはOPPO HA-2から、最新ES9028シリーズの低価格チップ「9028-Q2M」に更新された「HA-2SE」が登場しました。初代HA-2が2015年前半のベストセラーだったので、HA-2SEへのモデルチェンジでも、オリジナルの良さを尊重した、内部回路の更新のみとなりました。音質は僅かながら確実に良くなっていると感じたので、4万円台という価格帯で、スマホと連携できるポータブルDACアンプを求めている人には、このHA-2SEがベストな選択肢だと思います。

ポータブルDACアンプというジャンル全体では、2015年発売のChord 「Mojo」が売れ続けており、その人気の勢いは衰えを見せません。2016年には、Mojoや上位モデルHugoに対抗するような革新的なポータブルDACアンプは現れなかったように思います。

色違いだけでなく、中身も進化したmicro iDSD BL

また、Mojoと並んで、2014年のベストセラーだったiFi Audio micro iDSDも、とくに高インピーダンスヘッドホンの駆動において、依然ライバル不在の高音質・高出力ポータブルDACアンプです。2016年12月には、回路に若干のマイナーチェンジを施して筐体が黒くなった「micro iDSD Black Label」が登場しました。私も2014年はmicro iDSDを愛用していたのでBlack Labelは気になっているのですが、今のところ、まだ未聴です。

4.4mmバランス出力登載のSONY PHA-2A

ソニーは、同ジャンルのDACアンプ「PHA-3」は既存のままで、下位モデルPHA-2に4.4mmバランス端子などを追加した「PHA-2A」が6万円台で発売しました。より低価格のPHA-1は2015年にPHA-1Aにモデルチェンジしているので、残されたPHA-3はそのうちPHA-3Aとかになるんでしょうかね。

音は良いけどスペックが地味なTEAC HA-P5

3月にTEACが発売したポータブルDACアンプ「HA-P5」は、5万円台としてはデザインもサウンドも上等に仕上がっており、良い感じだと思います。

ただ、やはりモノは良いもののChord MojoやiFiなんかと比べると製品企画のパンチが足りなく無難すぎる印象もあるので、あまり話題に上がりません。写真で見られる、オプション販売の「木の板」が印象的でした。TEACというと、日本国内ではベイヤーダイナミックの輸入も行っているので、ここはT1やAMIRON HOMEのオーナー層が満足するような、バランス駆動でガンガン駆動できるハイエンドアンプを今後期待したいです。さすがにエソテリックブランドで100万円とかは勘弁ですが。

SU-AX7の上位モデルSU-AX01

11月に登場したJVCのポータブルDACアンプ「SU-AX01」は、発売前から非常に興味があったモデルなので、10万円という高価ながら、思いきって購入してしまいました。

好評だった2014年モデルSU-AX7の後継機として、PCM352.8kHzやDSD256などに完全対応しているだけでなく、新規設計のフルバランス・アナログアンプ回路はかなり凝った造りなので、他社のポタアンとは一線を画するクオリティに感心しました。サウンドも、ハイレゾだけでなくCD音源でも存分に音楽の魅力を引き出せるような、JVCならではの刺激を抑えて響き豊かな仕上がりに満足しています。

シンプルなのに何故か音が良いALOから新作V5

あと、年末の滑り込みで、アメリカのALO Audioからは、2015年の傑作Continental Dual Monoの簡易版「Continental V5」が登場したので、はやく試聴してみたいです。Continental Dual MonoはUSB DAC内蔵で2.5mmバランス出力対応のポータブル真空管アンプで、価格は20万円くらいと非常に高価だったのですが、そのサウンドは数あるポタアンの中でも特出して音楽性に溢れていました。ただ、アンプ部分と比べてDACとしてはショボい印象だったので、今回アナログポタアンとして簡略化されたV5が11万円で登場したのは、正直面白そうです(バランス出力ではなくなってしまいましたが)。

バランス出力とかケーブルとか

2016年はあいかわらず、ヘッドホンのバランス接続に関しての話題が絶えなかった一年でした。MMCXやリケーブルの普及で、ヘッドホンを買ったらとりあえず「バランスで試してみたい」と思わせる風潮と、中級クラスのDAPでもバランス出力が一般的になってきたことによる、相乗効果だと思います。

500円で買える定番NC4MXX

大型ヘッドホンではすでに「4ピンXLR」というのが定着しており、据え置き型アンプではほぼ定番になりましたし、ノイトリックNC4MXXという「安くて・どこでも売ってて・高品質で・ハンダ付けが容易で・太いケーブルでも対応する」という理想的なコネクタがあるので、ヘッドホンメーカーから自作DIYマニアまで、誰もが認める標準規格になりました。ただし、ベイヤーダイナミックやGradoなどの例を見る限り、ケーブルそのものは同じなのに、たかがコネクタを4ピンXLRに変えただけで、「バランス仕様」という名称でケーブルや本体の価格を吊り上げているのは、いかがなものかと思います。

ポータブル向けのイヤホン・ヘッドホンにおいては、Astell & Kernが後押ししている2.5mm・4極端子が、最近はFiioやオンキヨーなど、多くの中堅DAPブランドにも採用され、普及が加速しています。ただし、相当細いケーブルでないと配線が難しく、自作マニア泣かせというのが難点です。

私の使っているDAP「Plenue S」のバランス出力は「3.5mm・4極」という、ソニーやOPPOでいうところの「グラウンド分離タイプ」なので、2.5mmよりも自作は容易ですし、いくつかの一般的な(バランスではない)3.5mmヘッドホンジャックでもそのまま使えることもあるので、結構重宝しています。

新参者でどこにも売ってない4.4mm5極バランス端子

ソニーが2016年に提唱していた4.4mm・5極端子は、新作WM1Z・WM1AウォークマンとMDR-Z1Rヘッドホンなどにて採用されたものの、あいかわらずソニーだけの独自規格のようなイメージがあります。サイズ的にも、据え置き型はXLRで十分ですし、薄型DAPにはどうしても収まりそうにない太さなので、どうにもWM1Zウォークマンのデザインあっての規格のように見えます。

こういった新規格の場合、発表イベントにて、いくつか協賛ブランドと合同で、今後の展望やパートナーシップモデルを参考出展するのが一般的なのですが、今回は実質WM-1ZとMDR-Z1Rの専用ケーブルみたいな扱い方で、セットで使わせるための抱き合わせ商法みたいなイメージが先行してしまいました。

私が試聴した限りでは、NW-WM1ZウォークマンとMDR-Z1Rヘッドホンのコンビネーションは、4.4mmバランスケーブルを使うことでその真価を発揮し、絶対的な音質向上メリットが感じられました。コネクタ自体も使いやすくしっかりした構造なので、これが業界標準として普及してくれるのはむしろ大歓迎なので、今後どうなるのか気になる存在です。500円くらいでオスメス端子が容易に購入できないと、普及しないと思います。

ソニーといえば、以前PHA-3アンプで採用していた3.5mm左右別々タイプもありますが、あれではダメなのか?という疑問も残ります。とくにMR-Z1Rのヘッドホン側はMDR-Z7ヘッドホンと共通のコネクタなので、MDR-Z7とPHA-3でKimber Kableバランス化に投資していた人にとっては、新型ウォークマンに流用できず残念ですね。11月に発売されたJVCのポタアンSU-AX01ではこの3.5mm × 2タイプが採用されており、ちょっと驚かされました。ケーブル自作が安価で容易なので嬉しいですが、結局バランスコネクタの種類が多いと「変換アダプタ」みたいなものが増えてしまい、めんどくさい一年でした。

個人的な意見として、世間一般で「バランス出力 = 高音質」といったイメージが先行しており、実際の音質メリットに関しては、もうちょっと冷静になる必要があると思っています。かくいう私も、最近バランス接続ヘッドホンやアンプを使う機会が増えてきたので、反抗せずに、存分にバランス化のトレンドに流されています。

大型ヘッドホンと据え置き型アンプの場合は、アンバランス接続ではもう既存回路でできることの限界に達してしまった感があり、それ以上に財布が厚い客層のために、コスト度外視で高出力・低ノイズ化という方向で商品の付加価値を高めるには、もはやバランス(BTL)化しかない、という事情は、なんとなく理解できます。中身の内容が伴っているためボッタクリではないので、格別悪いことではありません。なんとなく、自動車にエンジンを二つ登載しているような過剰感がありますが、オーディオマニアなんていうのは、本来そんなものです。

一方、ポータブルDAPなどの場合、以前ブログで紹介したように、バランス化による音質向上効果よりも、イヤホン付属のショボい純正ケーブルをアップグレードすることによるクロストーク低減の方が、聴感上・測定上ともに甚大な効果があったり、「バランス化によるメリット」と、「ケーブルアップグレードによるメリット」の二つを混同しているユーザーが多い、という問題があります。また、バランス化によってアンプの出力インピーダンスが二倍になる問題に関しては、低インピーダンスのIEMなどでは結構重要だったりするのに、あえてあまり言及されていません。

バランス化せずとも、アンバランスで高品質ケーブルに交換することで、クロストーク低減というメリットはおよそ達成できるため、それによる音質向上は目覚ましいものがあります。さらに4極グラウンド分離にすることで、より一層のクロストーク低減が得られるので、実際アンプ回路はフルバランスでなくても、アンプ最終部分だけバランス化、もしくはグラウンド分離にするだけでも、十分なメリットを感じるケースもあります。

予算に制限がある中級クラスのDAPやアンプの場合、バランス化回路にコストをかけるよりも、アンバランスで高品位な回路にしたほうが高音質になると思うのですが、セールス的にはバランス出力対応は魅力的なので、なかなか難しい問題です。

似たような話題で、私の2016年を振り返ってみると、ヘッドホン用交換ケーブルを大量に作った一年だったとつくづく実感します。私自身はそこまでケーブルの線材とかに関してこだわりは無いですが、最近ではバランス駆動アンプや、ケーブル着脱式のヘッドホンが増えたおかげで、友人からケーブル改造やケーブル自作の依頼が結構増えてきました。ビジネスでやっているわけではないのですが、それでも一週間に1~2本というペースだったので、年間で50本以上のケーブルいじっていたことになります。とくにAKタイプの2.5mmバランスや、AKG K812、HD800のLEMO端子など、太いケーブルがなかなか容易に配線できず、自作泣かせの端子が多いです。さらにそれらに合わせるために、極細で貧弱な純銀やリッツ線なども増えており、なんだか昔のレコード用ターンテーブルのアーム配線作業の苦労を思い出します。

AKG K812の3極LEMO配線は本当に地獄です

結局、アンプ側の2.5mmや4.4mmバランス端子の規格なんかよりも、そろそろヘッドホン本体の方のコネクタをどうにか統一して欲しいです。とくに2016年は、IEMメーカーごとにMMCXが微妙に違っていたり、フォステクスがHD650のような2ピンタイプを採用したと思ったら、Focal UtopiaはHD800と同じLEMO FGG.00端子だと思いきや、一回り大きいFGG.0Bサイズで互換性が無いとか、オーディオテクニカはA2DC端子で我が道を行く、なんて、めんどくささが倍増しています。実際、各メーカーの純正ケーブルが全部まともであれば、わざわざ交換する必要は無いわけですが。

個人的に、Utopiaの大型LEMOコネクタや、Audeze LCDのミニXLRコネクタ、Mr SpeakersのSNコネクタなんかは、自作用途に便利で、太いケーブルにも対応しており、本体にカチッと接続できるため、どれも理想的だと思いましたが、やはり一番手軽に入手できるのは3.5mmだったりして、結局正解は無いので、今後ヘッドホン業界全体の自然な流れでどうにかして欲しいです。

アップグレードケーブルのメーカー側からすると、毎回新型コネクタへの対応を検討しなければならない苦労でほとほと困っているのか、むしろ逆に、新たなコネクタが出るたびに買い足し需要があるため売上がアップして喜んでいるのか、実際どっちなのかちょっと気になっています。

まとめ

私にとっての2016年ヘッドホンオーディオを振り返ってみると、とくにマルチBA型IEMイヤホンで飛躍的な進化が感じられた一年だったように思います。ANDROMEDAやKATANA、LAYLA IIなど、これまで以上に自然でリアルな音楽性を秘めたモデルが続々と登場しましたし、10万円超のハイエンドモデルのみならず、2~3万円の価格帯でも同様の進歩が実感できたように思います。

よく言われるような、値段だけが高騰するプレミア化が進んだというよりは、(たしかに高価なモデルも増えましたが)、先進的なメーカーの多くが熟成し、音作りのノウハウを掌握したことにより、価格を問わずラインナップ全体で性能の引き上げが実現できたような印象を受けます。

その一方で、大型ヘッドホンの場合、とくに開放型モデルは2009年のゼンハイザーHD800以降、これといって大幅な進化は見られませんでした。期待はずれというわけではないのですが、たとえば2016年の大本命だったHD800SやFocal Utopiaなども、たしかに素晴らしいサウンドなのですが、性能の優劣というよりは、各メーカーごとに「メーカーとしてイメージしているサウンドの実現」がより巧みになってきたようです。つまり、それだけ音響チューニングにおけるノウハウが蓄積されているのでしょう。

個人的には、開放型よりも、TH610やDT1770 PROなど密閉型ヘッドホンの方で驚くような名作ヘッドホンに出会えた一年でした。とくに低音の鳴り方において、これまでのようなハウジング共鳴を酷使したボンボンうるさいサブウーファー的表現から、より自然で開放型に近い、「距離感の正しい」鳴り方の密閉型ヘッドホンがようやく現れてきたように思います。音圧による疲労感が低減され、開放型ヘッドホンよりも、むしろこっちを使いたいかも、と思える密閉型ヘッドホンが増えてきました。

2017年はどのようなヘッドホンが登場するのか想像もつきませんが、大型ハイエンドヘッドホンというジャンルでは、これ以上「万人が認める」ような高音質レファレンスモデルが実現できる可能性は限りなく低いだろう、と思います。HD800が登場した当時は、そこまで多くの選択肢がありませんでしたが、今となっては、リスナーごとの選り好みに合わせて、様々なスタイルのハイエンドヘッドホンが手に入ります。

どのヘッドホンが最高音質かといった陳腐なランキングではなく、むしろ「ワインのソムリエ」みたいに、「このヘッドホンでこう感じたなら、ぜひこっちも試してもらいたい」といった推薦ができる経験とノウハウがあるアドバイスが最重要になってくるので、やはりショップでの試聴というのは絶対に欠かせない体験だと思います。自分の好き嫌いだけでなく、どういった趣味の人に合うヘッドホンなのかを考えるのも、面白いものです。

個人的に、現在のヘッドホン製品で一番大きな穴があると思うのは、家庭用ハイエンドヘッドホン相当の音質を持った、「密閉型コンパクトヘッドホン」だと思います。私自身が出張旅行などに行く時に、どのヘッドホンを持っていくかでいつも悩まされます。(数週間IEMだけでは物足りないですし)。たとえばゼンハイザーHD25やベイヤーダイナミックT51p、オーディオテクニカATH-ESW950など、そこそこ性能に満足できるポータブルヘッドホンはありますが、どれも家庭の大型ヘッドホンと比べると音質の落差が大きいです。たとえば今回、年末年始で実家に帰省した際にも、どのヘッドホンをスーツケースに詰めるかでかなり悩みました。

こういうののもっと良いやつが欲しいです

最近お気に入りのベイヤーダイナミックDT1770 PROは大きすぎて手荷物に入りませんでしたし、JVC HA-MX100-ZやゼンハイザーHD25 Aluminiumでは若干物足りず、結局色々悩んだ末に選んだのは、Ultrasone Signature Proでした。もう結構古いモデルですが、意外とこういうシチュエーションで重宝する「堅牢さ、携帯性、装着感、能率、高音質」のバランスがとれた傑作モデルだと思います。もうちょっとコンパクトなデザインで、このSignature Proを超越するようなモバイルヘッドホンを求めていますが、まだ見つかっていません。もうハイエンドな家庭用大型ヘッドホンは多くのブランドから出揃っているので、今後それらの技術を応用したコンパクトハイエンドモデルが現れることを期待しています。

あと、2016年はiPhone 7が3.5mmヘッドホンジャックを廃止したこともあり、Bluetoothイヤホン・ヘッドホンが今まで以上に話題になった一年でした。数年前のBeats by Dr. Dreなどの爆発的ヒットにより、数万円クラスの高価なBluetoothイヤホン・ヘッドホンを購入することに対する、一般スマホユーザーの抵抗が薄れた結果でもあると思います。

とくにメディアなどでは、「Bluetoothでも有線と同じくらい高音質」などというフレーズを多く目にしましたが、個人的な感想としては、オーディオマニア的なDAPとケーブル接続によるヘッドホンリスニングと比べると、まだまだBluetoothは最新モデルですら音質面で満足できないことが多かったです。もちろんスマホとBluetoothヘッドホンの組み合わせはカジュアル用途にて必要十分だと思いますが、本格的なリスニングに耐えうるBluetoothというものにはまだ遭遇できていません。

DAPやヘッドホンアンプは、2016年は業界全体であまり大きな技術革新が感じられなかったものの、第三世代AKやソニーWM1Zなど、商品としての完成度の高さに磨きがかかったことは確かです。

もう現時点でハイレゾ対応などはどのメーカーも完璧にこなしていると思うのですが、2017年に向けて、まだ進化や改善の余地があると思える部分は三つあります。

まず一つは、ポータブルアンプやDAPでは、低能率ヘッドホンを駆動するにはパワーが足りない製品がまだ多いので、もうちょっと高出力を目指してほしいです。とくに何十万円もするような高級DAPであれば、どんな困難なヘッドホンであっても満足に駆動できることを期待したいのですが、未だに据え置き型ヘッドホンアンプが必要なケースが多いです。これは低能率すぎるヘッドホン側にも落ち度があるのですが、どちらも歩み寄るような姿勢を見せていないのが困ります。

理想としては、すでに前例として好評を得ているiFi Audio micro iDSDやChord Mojoくらいの高出力、たとえば無負荷で12Vp-p程度、出力で1W程度出せれば十分だと思うのですが(例えばmicro iDSDは瞬間4W、定格1.5Wだそうです)。

もちろんパワーだけ強化して、音質やノイズが悪化したら元も子もないので、それがオーディオメーカーとしての腕の見せ所でしょう。音質面では据置きアンプの方が有利な部分はまだあるかもしれませんが、あくまで音量やスペック的な意味では、そろそろ、低能率な大型ヘッドホンは据え置き型アンプが必須、という風潮は終わりにしてもらいたいです。

次に、バッテリーの再生時間をもっと長くして欲しいです。いまだに高級DAPで連続再生10時間とかはさすがに短いです。DSD再生だと4時間とか劇的に悪化するのも多いです。世間では「純銅削り出し」とか、DAPは重いほど人気があるみたいですから、シャーシをちょっと薄くして、バッテリーの量を倍増させても、だれにも文句を言われないと思うのですが、いかがでしょうかね。

もうひとつ成長を見たいのは、DAPのユーザーインターフェースです。近頃どのDAPもOnkyo HF Playerアプリの二番煎じみたいなインターフェースで、結構致命的なバグがずっと放置されていたり、使い勝手が一向に進歩しなかったりといった問題が多いです。有能なプログラマーがメーカーに不足しているのが問題だと思うのですが、それにしても、最近どれだけDAPが進化したといっても、結局は、SDカードを読み込んで、「アーティスト」や「アルバム」を選択して、目当ての楽曲まで延々とスクロールする、という手順は変わっていません。

主要DAPも第三世代という時代なので、そろそろこのへんでベテランDAPユーザー目線に立った、次世代DAPインターフェースへの進化が見たいものです。たとえば、直感的な操作のスムーズさや、目当てのアルバムへ到達するまでの手間を極力短くするためのボタンやショートカット、ユーザーごとに使いやすくカスタマイズできる方法(スマートプレイリストとか)など、地味ながら重要なポイントです。他社との差別化という意味でも、たとえばJRiverやAudirvanaなどのPCオーディオユーザーでさえ「もうDAPをメインで使っても良いかな」と思えるくらいの、ユーザー目線に立った快適な進化を見てみたいものです。

おわりに

世の中いろいろありますが、2016年のポータブルオーディオは、例年以上に商品の選択肢が充実した結果、横並びのカタログスペックだけでは計り知れない個性や音楽性が求められることで、より趣味としての裾野が広がった一年だったと思います。

ようするに、値段やスペックは頼りにできず、今まで以上に「良いものは、聴いてみないと分からない」時代になってきたようです。

2017年は、一体どのような新製品が生まれるのかは想像もつきませんが、なんとなく現状で商品の飽和状態が続いているので、メーカー各社が今以上に過度な成長を期待しすぎると、自滅するような心配も感じます。

たとえば、アスキーやインプレスなどのネットニュース記事を毎日チェックしている人でも、「またバランス対応DAPか」とか「また20万円の高級イヤホンか」といった感じで、もうそれだけでは世間の興味を引くトピックスとしての話題性は薄れてきていると思います。

その一方で、近年のポータブルオーディオというのは、ユーザー同士の掲示板コミュニティのみならず、ポタフェスやヘッドホン祭、ポタ研などで見られるように、ユーザーとメーカー開発陣や代理店との密接なコミュニケーションが実現できており、安易なごまかしの効かない、とても刺激的な関係を築いていると思います。

この関係と対話を上手に活かせるメーカーであれば、今後もコミュニティ全体で盛り上げていくことができると思います。(Facebook告知とかで話題を煽るばかりでは困りますが)。

私自身の2016年を振り返ってみて、現時点のヘッドホンオーディオ類を並べてみると:

開放型ヘッドホン:AKG K812
密閉型ヘッドホン:ベイヤーダイナミックDT1770 PRO、フォステクスTH610
家庭用ヘッドホンアンプ:iFi Audio micro iDAC2 + Violectric V281
マルチBA型イヤホン:Campfire Audio ANDROMEDA
ハイブリッド型イヤホン:Unique Melody MAVIS
ダイナミック型イヤホン:ベイヤーダイナミックAK T8iE
DAP:Cowon Plenue S
ポタアン:JVC SU-AX01

といった感じで、偏っているものの、自分としては死角のない布陣が揃っているので、そうそう調子に乗って気軽に買い換えるようなものでもありません。(2015-16年はDACやDAP類をDSD対応にする買い替え需要がありましたが)。

2017年も続々とニューモデルが投入されると思いますが、これらを処分してまで買い換えるとなると、かなりの説得力が必要です。

もちろん例年通り、できるだけ多くの商品を試聴する機会を作りたい気持ちは変わりませんし、その都度、なにか良さげな商品を見つけたら、あいかわらずブログなどで紹介したいと思っています。

2017年もよろしくお願いいたします。