2018年5月26日土曜日

iBasso DX150 DAPの試聴レビュー

iBasso DX150 DAPを試聴してみたので、感想を書いておきます。

2018年発売の新作DAPで、昨年登場したフラッグシップモデルDX200のデザインを踏襲した廉価版のような位置付けです。

iBasso DX150

Android OSを搭載したタッチスクリーンDAPで、本体下部にあるDX200と共用の「アンプカード」モジュールを着脱交換することで様々なサウンドが実現できるのが魅力です。DX200のUS$1,199に対してDX150は$499程度なので、どんなものか気になって聴いてみました。

DX150

iBassoは中国の大手ポータブルオーディオメーカーで、初代DAPの「DX100」を発売したのが2012年です。それまで「MP3プレーヤー、メモリーウォークマン」なんて呼ばれていたところに、Fiio X5やAstell&Kern AK100などと並んで「高音質DAP」という一大ジャンルを築き上げた先駆者の一人です。

DX100、DX90、DX80

日本では、続けて発売された「DX90j」や「DX80」など5万円台のDAPが好評を得て、そこそこの知名度を獲得しました。2014年くらいまでは、同じく中国のFiioとライバル関係というイメージが強かったですが、近頃は国内ではあまり名前を聞かなくなりました。

$1,199のDX200と、$499のDX150

2017年には、10万円でAndroid OS搭載の渾身のフラッグシップ「DX200」が登場したのですが、日本の輸入代理店が正式に国内販売を行っていないため、現状では中国からの並行輸入品のみに頼っています。

今回登場したDX150も、これを書いている時点では日本で発売されておらず、アマゾンなどの並行輸入品しか購入するすべがありません。Bluetoothを搭載しているため、輸入販売に関しては技適マークの問題もあります。

D14、P5 Falcon、IT03

iBassoはDAP以外にもバッテリー駆動のポータブルヘッドホンアンプなどでも評価が高く、シンプルなデザインのD14 Bushmasterは定番ですし、母国の中国では後継機と言えるP5 Falconや、IEMイヤホンのIT01・IT03、さらに高品質アップグレードケーブルなど、iBassoだけでポータブルオーディオのすべてが揃うような充実したラインアップを展開しています。

どのモデルもマットブラックを基調とした地味なデザインで、店頭でも人目につかないのですが、音質設計はとてもしっかりしており、個人的に興味のあるメーカーです。

フラッグシップDAPのDX200は、D/AチップにES9028PROをデュアルで搭載した贅沢な構成でしたが、今回発売されたDX150も負けじと劣らず、旭化成AK4490EQをデュアルで搭載しており、PCM 384kHz/32bit、DSD256までの再生に対応しています。

本体サイズや4.2インチタッチスクリーンなど、基本的なスペックはほぼ共通しており、さらに双方でアンプカード交換の互換性もあるということで、DX150が廉価版だからといって明らかに劣っているとは思いません。また、どちらもAndroid 6.0を搭載しているので、対応アプリをインストールすればBluetooth 4.1や無線を使って色々と遊べます。

細かい点では、内蔵ストレージが64GBから32GBに縮小されたり、どちらも2.5mmバランス出力対応ですが、DX200の標準アンプカード「AMP1」の3 Vrmsと比べると、DX150の「AMP6」は最大出力電圧が2.4 Vrms(バランス出力では6 Vrms対4.8 Vrms)と若干低いなど、いくつかの点ではダウングレードされています。

ちなみにアンプカードですが、別売で3.5mmのAMP5と、2.5mmバランスのAMP3というものもあるそうで、どちらも標準版と比べると音が違うということですが、残念ながら現物が手元に無く、試聴できませんでした。

バッテリー持続時間はDX200よりもDX150の方が優れており、チップがESSから旭化成になったせいか、アンプのゲインが下がったせいか知りませんが、DX200の8~10時間というスペックから、DX150では10.5時間になっています。もちろん再生時間といっても画面の点灯頻度とか、再生ファイル形式とか、色々な要素に影響されるので、あくまで目安のみです。

シンプルなデザインです

本体アルミシャーシの質感などはDX200の方が明らかに優れていますが、DX150は価格を抑えながらも出来るだけ同じようなイメージに近づけています。

DX200のワンポイントだったボリュームノブ周辺の黒いガード部品がDX150では簡略化され、シンプルな長方形フォルムに、ザラザラしたアノダイズド処理になっています。実物を手にすると、手触りはどうしてもチープな印象があり、そのあたりで価格差を強調しているようなので、DX150が登場したからといって、DX200の地位を奪うようなことは無さそうです。

側面のトランスポートボタンとボリュームノブ
背面

本体背面はシンプルなマットブラックで、黒い窓のような部分があります(無線LANアンテナでしょうか)。

DX150、Plenue R、AK70 MKII

同価格帯のDAPと並べて比べてみると、DX150は一回り大きいので、ポケットサイズというわけにはいかないようです。画面は4.2インチですが、下側にアンプカードモジュールがあるので、128.5×69×19.5mmで245gという巨体です。スマホでいうと5インチ弱の機種に近い感じです。

Fiio X7-IIと比較

画面サイズは結構違います

端子配置も異なります

Fiio X7-IIと比較

Fiioと互換性はありません

アンプモジュール交換というと、Fiio X7も同じようなギミックがありますが、もちろん互換性はありません。Fiioの場合、廉価版X5-IIIではモジュール交換不可能になってしまいましたので、その点iBassoは低価格でもよく頑張ったと思います。

Fiio X7-IIはトルクスネジで、写真で見える余計なアルミパーツがあります。DX150はマイナスのイモネジです。どちらも万が一ネジを紛失したらグラグラなので、もうちょっと手軽にカチャッと交換できるようにしてもらいたかったです。

DX150はFiioと違ってフロント面は分割されないおかげで画面の面積が広いです。また、FiioではUSB端子がアンプモジュールにあったのですが、DX150では本体上側にあります。

USBケーブルが上で、イヤホンジャックは下です

ところで、DAPのイヤホン端子が本体上と下のどちらにあるかというのは、使い方によって結構悩ましいです。私はDAPをバッグのポケットの中に入れる事が多いので、その場合DX150では上下逆さまになるのでいちいち取り出さないとボリュームノブに手が届かないという難点があります。そういえばPlenue 2もそのせいで購入を断念しました。手で持って使う場合はイヤホン端子が下のほうが良いですね。

USBコネクターはUSB Cタイプなので、最近のスマホ充電器が流用できるのは嬉しいです。PD2.0、QC2.0急速充電にも対応しているそうです。

Line Out、Phone、BAL

DX150のデザインで唯一問題だと思うのは、3.5mmイヤホン出力とライン出力端子が横並びに配置してあることです。初心者はもちろんのこと、使い慣れた人でも誤ってイヤホンをライン出力の方に接続してしまう心配があり(私も何度かやってしまいました)、最悪の場合、大音量で耳を痛めるか、イヤホンを壊してしまう可能性があります。

インターフェース

上位機種DX200の廉価版といった位置付けなので、システムも同じAndroidタッチスクリーンを採用しています。私が使ったものはAndroidバージョンが6.0.1でした。

Androidシステム

ホーム画面

DX150にはiBasso製の音楽再生アプリがインストールされているので、今回はあえてAndroidということは忘れて、このアプリで試聴してみました。FiioのようにPure MusicとAndroidモードで切り替える必要はありません。

私の前に使ったユーザーはNeutronをインストールして、イコライザーとかでカスタマイズしたりしてましたが、私としてはiBasso製アプリの出来具合に興味があります。もしどうしても気に入らなければ他の再生ソフトをインストールできるという点では、Androidというのは有利かもしれませんね。

数年前だと、Android DAPに自分好みのアプリを色々インストールしたいなんていう人も多かったのですが、今振り返ってみると意外と流行は長続きしなかったというか、AndroidはOSバージョンやアプリ互換性問題などで色々悩まされるので、多機能を求めている人はスマホを使った方が確実だと思います。

再生アプリのホーム画面

ボタンは画面一杯使っています

このiBasso製再生アプリは結構しっかり作られており、過去のDX80などと同様に、大きなタイルアイコンでタッチスクリーン全体の面積を有効に使っており、視認性や押しやすさは良好です。なんとなく今は亡きWindows Phoneを連想させます。

チマチマしたスクロールメニューなどと違って、タイルアイコンだと画面上でどのアイコンがどの位置にあるか一度覚えてしまえば、あとは無意識にスイスイ押せるのが便利です。高解像大画面だからといってむやみに細かい操作を詰め込まないのは良いです。

再生画面

再生トランスポート画面はごく一般的なデザインで、これといって特徴的な事はありません。DSD256やDXD(PCM 352.8kHz)も問題なく再生できましたし、バグっぽいものは確認できませんでした。知らないと分かりづらいのですが、ここから左にフリックでライブラリ、右にフリックで設定画面に移動できます。

実はDX150の上位機種であるDX200は、昨年のリリース当時にちょっと使ってみたのですが、その頃はフリーズや不具合に遭遇して、まだ評価するには早いかと思っていて、忘れてしまいました。それ以降iBassoは精力的にファームウェア更新を行なっており(発売からすでに12回も更新がありました)、最近はずいぶん安定してきていますが、私としては第一印象が悪かったです。DX150はその恩恵を受けており、発売の時点ですでにそこそこ安定しています。(今回使ったのはVer. 2.9.250という現時点で最新ファームウェアでした)。

Settings画面

Advanced設定メニュー

イコライザー

iBassoアプリのユニークな点として、設定画面もフルスクリーンのタイルアイコン表示で、各メニューを見つけやすくて便利です。歩行中とかに操作するなら、ボタンはこれくらい大きい方が押しやすくて良いです。

スワイプメニュー

さらに、画面上からスワイプすることでショートカットメニューも現れます。ギャップレスON/OFF、ゲインHIGH/LOW、5つのデジタルフィルター、サンプルレート変換ON/OFF、L/Rバランスといった機能がここから手軽に切り替えられます。

本来なら画面の上からスワイプだとAndroid OSのメニューが現れてしまうのですが、DX150ではそれを防ぐために、まず画面下からスワイプするとAndroidホームボタンが現れて、その状態からは通常のAndroidスマホのような挙動になるという仕組みです。

ボリューム表示

ボリュームノブを回すと、画面に現在のボリューム値が表示され、ボリュームを上げるごとに周囲のドットが螺旋状に増えていくという凝ったビジュアル演出があります。しかしこれをFiioやAKのようにタッチ操作で調整したりすることはできませんでした。

ライブラリ表示

このiBasso再生アプリはシンプルで良く作られていると思うのですが、使っていて唯一の不満点は、アプリがバッファーやキャッシュをしていないようで、ファイルアクセスがワンテンポ遅いという事です。

一番分かりやすい例としては、上の写真を見るとわかるように、アルバムジャケットのリストを観覧したいのですが、実は画面上にあるジャケット絵のみがロードされて表示されており、スクロールしても何も絵が表示されず、指を離してちょっと待つとようやくその時点で画面にあるジャケット絵が読み込まれます。

つまり、本来の使い方である、指でフリックスクロールしながらジャケット絵を観覧して、目当てのアルバムを素早く見つけるといった使い方が全く出来ず、毎回ちょっとスクロールしては指を離して待って、ジャケット絵が表示されて、というのの繰り返しはかなりイライラさせられます。

AKなどであれば、一回スクロールすれば、画像はメモリにキャッシュされるので以降は消えること無くスイスイ観覧できます。DX150の場合は、画面外の物はキャッシュされないので、ちょっとスクロールを戻っても絵は消えており、毎回読み込みが発生します。

これは単なる一例ですが、他にも、たとえば聴きたい曲を選ぶと、そこでようやくSDカードから曲を読み込んで、数秒のロード画面があり、ちょっと待つと再生が始まります。

本来こういったUIアプリでは、ユーザーの見えないところで必要なデータをメモリーにキャッシュしておくことで、スイスイとスクロールしてジャケット絵を探したり、即座に音楽再生が始まったりなどといった工夫が行われているのですが、DX150の場合は「このボタンを押したらこうなる」といったプログラムだけのようなので、ユーザビリティの快適さはまだまだAKやPlenueなどに敵いません。

出力

DX150の出力電圧を測ってみました。いつもどおり、0dBFSの1kHzサイン波信号を再生して、イヤホンのインピーダンスに対して音割れが発生するまでボリュームを上げた時のPeak to Peak電圧です。



アンバランス3.5mmでは6.7Vppが得られたので、スペックの2.4Vrmsに合いますし、2.5mmバランス出力もピッタリ二倍の電圧が得られました。ソフト上でLOWゲインモードも選べるので、それも一応測ってみました。

比較のために、同価格帯の優秀なDAPとしてAK70 MKIIを並べてみましたが、DX150の方がずいぶん高ゲイン、高出力ということがわかります。低インピーダンスイヤホンでもしっかり鳴らしきる事ができそうですし、能率の低いヘッドホンなどでは積極的にバランス出力を使うメリットがありそうです。



ボリュームを1Vppに合わせて電流出力を測ってみましたが、最近はどのDAPも出力インピーダンスがほぼゼロに近い横一直線です。その中でもDX150は特に優秀な特性だと思います。



iBassoのアンプ設計チームが優秀だと思える理由の一つとして、ライン出力端子はちゃんと高インピーダンス出しになるように作られています。

他社のDAPだと、単純にイヤホン出力のボリュームを最大に固定しただけのものをライン出力と呼んでいる事が多いですが、iBassoは真面目にライン出力に適した専用回路を設けています。

音質とか

今回の試聴では、Dita Dream、UM Mavis IIなどのIEMや、フォステクスTH610ヘッドホンを使いました。どれも普段から愛用しているものです。

DSD256も再生できました

Campfire Andromeda

ノイズに敏感なCampfire Audio Andromedaも試してみましたが、アンプが高出力なわりにアンバランス、バランスともにバックグラウンドノイズはうっすら聴こえる程度でほぼ気になりませんでした。ちなみにバランスではNobunaga Labsのハイブリッド型というケーブルを使いました。線が細いAndromedaにしっかりした中低域を与えてくれるので、結構気に入っています。

それと、Dita Dreamのケーブルはバランスとアンバランス端子が付け替えられるので、交互に聴き比べてみましたが、アンプの音量が結構異なるので、なかなか対等な評価が難しいです。どちらも音作りはよく似ていて、バランス接続で格別有利・不利になる点などは感じられなかったので、パワーが必要であればバランスを選ぶ、というくらいの安直な考えで大丈夫だと思います。


Savantレーベルからのジャズ新譜で Jim Snidero & Jeremy Pelt 「Jubilation!」を聴いてみました。SavantはHigh Noteのサブレーベルで、メインストリームではないラテンとかグルーブっぽいサウンドを担当しているのですが、実力派スナイデロとペルトのコンビで、キャノンボール・アダレイへのトリビュート・アルバムです。

キャノンボールにちなんだオマージュで、たとえばコルトレーンとのシカゴアルバムでやったWabash、Mercy, Mercy, Mercy!のSack O' Woe、そして弟ナットの名曲Work Songなど、充実したソロとファンキーでスイング溢れる楽しいアルバムです。Stars Fell on Alabamaのストレートなバラードも感動的で、とても良いアルバムでした。


DX150のサウンドの第一印象ですが、聴いてみてすぐに「これはiBassoの音だ」と感じたので、なんだか嬉しくなってしまいました。

以前iBasso DX80やD14ポタアンを使っていた頃の事を思い出して懐かしいです。AndroidになったDX150でもそれを継承しているということは、メーカーとして揺るぎのないアンプ設計のポリシーとチューニング技術を持っているということでしょう。こういう例があるので、世代を超えても特定のメーカーを買い続けるファンというのが成り立つのだと思います。

iBassoらしいサウンドというのは、ふわっとした低音の鳴り方に尽きると思います。十分な量感があるのに、派手ではなく、スケールが大きい、ゆったりした低音です。パンチを効かせてドスドス響くというのではなく、あまりフォーカスを定めずに空気感たっぷりに立体的に鳴るので、バーチャルに音場の雰囲気を作り上げることが上手です。

この低音の鳴り方は、極めてアナログ的というか、昔ながらのアナログポタアンのサウンドに近いと思うので、そこがiBassoらしいと思える部分で、他のDAPとは一味違った個性を感じられます。

もう一つDX150のユニークな点として、低音の豊かな雰囲気とは一変して、それより上の周波数帯が素朴で淡々と実直に鳴ります。つまり、サウンド全体がふわふわなだけの一辺倒ではありません。

いわゆる美音と言われるような、金属的な響きとか甘い味付けみたいな仕上がりではなく、もしくはギラギラ刺々しいというのでもなく、実直なサウンドとしか言いようがありません。イメージとしては、業務用CDプレイヤーとか、初期のDTMオーディオインターフェースみたいな、全部聴こえるけど、演出や派手さとは無縁の、今どき珍しいタイプのサウンドです。これと、空気豊かな低音とが組み合わさることでiBassoらしい世界観を作り上げています。

古典的オーソドックスなサウンドで、どんな音楽を聴いても悪くないのですが、楽器の輪郭や存在感が薄いことが弱点かもしれません。たとえばドラムのハイハットはカンカンキンキンではなく、シャンシャンと薄味に鳴り、サックスの熱いソロも、耳を刺すような熱量ではなく、アンサンブルの後ろの方で控えめに鳴っています。

もちろん最新の高性能DAPだけあって、特定の帯域が聴こえないとか篭っているというわけではありません。情報量や分離は十分なのですが、プレゼンテーションが独特です。


Pentatoneレーベルから、ビゼーのオペラ「真珠採り」をDSDで聴いてみました。ビゼーといえばカルメンということで、その影に隠れてなかなか演奏される機会が少ないオペラですが、鮮烈なカルメンとは真逆の夢見心地なファンタジーオペラで、フワフワした綺麗な歌で溢れています。ヒロインの女性を巡る青年親友同士の葛藤といったストーリーなので、テノールとバリトンのデュオという珍しい歌唱も有名です。

DX150は、たとえばAK70 MKIIやX7-IIなどと比べると、こういった壮大なオーケストラ曲や、とくにDSDとの相性が良いと思いました。

立体的で空間展開が大きく広いサウンドで、ふわっとした音響に包み込まれるような、オペラの演目にピッタリな雰囲気が味わえました。

他のDAPと比べると、たとえばFiio X7-II(付属AM3Aモジュール)はシャキッとしすぎていて、楽器の周りの空気が上手に引き出せていません。解像感が圧倒的に高く演奏はハッキリ聴こえるのですが、DX150を聴いた後だと、X7-IIではなにか録音された大事な要素が抜け落ちているように思えてしまいます。

AK70 MKIIはもっと楽器や声の味わいや音色が得意で、テノールからソプラノくらいの歌手が美音を奏でてくれて、低音もズシンとパンチがあるので、小さなリサイタル室で自分のために演奏してくれているような直覚的な楽しさがあります。ただし臨場感や空間の広がりはDX150ほど上手ではないようで、音源が特定の位置に全部まとまっているようなコンパクトな印象です。

DX150はこれらのライバルDAPとは対照的にスケールの大きいサウンドなので、押しが強く派手な音楽を聴いている場合は、それらの刺激を取り除いてくれて有利なのですが、逆に違和感があることも何度かありました。

グランドピアノを例に挙げると、中低域が特に目立ち、広範囲に立体的に展開されます。そんな中低域が音場のセンター大部分を占拠して、キラキラした高音は左右の余った隙間に置かれているような感じです。つまり本来の楽器の音色と比べるとバランスが悪いです。

ポピュラー楽曲だと、リズムとグルーブ感を出す中低音がセンターに来て、派手になりがちなドラムやパーカッションの金属音がダイレクトに来ないで左右に分散されるので、聴きやすいように仕上がるのですが、オーケストラやオペラでは常に低音が鳴っているわけではないので、ヴァイオリンなどセクションが左右で鳴って、歌手が無音のセンターで歌っているようで不自然に聴こえる事があります。AK70 MKIIなどでは、音色が全部センター付近に集約するので、混雑しますがバランスが悪くはなりませんので、それぞれ表現方法が大きく異なります。

勝手な想像ですが、iBassoの場合、 あくまで素朴なDAPのコアに、個性的なアナログアンプモジュールを組み合わせることで独特なサウンドを構成しているようで、そのせいで二つの要素が競い合い、全体的なバランスや統一感をまとめるのが難しいのかもしれません。(そのへんはFiio X7-IIの方が意外と上手くやっているように思いました)。これはDX200でも同じように感じた部分で、DX150と比べると解像感や楽器のクリア感は増すのですが、そのスッキリした音色にふわっとした(空間定位が曖昧な)中低音が組み合わさる点はDX150とよく似ています。

とくに最近は、ハイエンドヘッドホンの空間再現性がどんどん向上していることに対応するかのように、D/A変換からイヤホン出力までの経路をトータルで見据えた高度な設計を行っているメーカーが多いので、それらと比べると、iBassoのアプローチは古典的で、なんだかアナログポタアンっぽいと冒頭で感じたことを思い出します。

SP1000やPlenue Sなど、さらに上のクラスのDAPでは、そんなスケール感と、帯域を跨いだ音色や楽器音の正しさを両立できているので、それらと比べるとDX150は完璧とは言えないようです。

そんな風に、この価格帯のDAPでは各モデルごとに独特の個性が際立っているようで、機能面よりもむしろサウンドの個性をしっかり聴き比べた上で購入すべきだと思いました。

おわりに

今回の試聴では、付属の「AMP6」アンプモジュールしか試すことが出来なかったので、音質の感想は限定的になりましたが、DX150は新世代の最新作であってもiBassoらしいサウンドを継承しているようで安心しました。アナログ感溢れる個性的な音作りですが、この価格帯のDAPとしては十分勝負できる良質な仕上がりです。

Android搭載機としては、ちょうどオンキヨーDP-X1AやFiio X7-IIと競合する価格帯ですし、もしAndroidが不要であれば、Cowon Plenue R、ソニーNW-ZX300、AK70 Mk IIなどの優れたライバルが多数存在します。

その中であえてマイナーなDX150を選ぶだけのメリットがあるか、というところですが、近頃のDAPは機能的にはどれも横並び感があり、DX150もこれと言って特出したものが無い、無難な選択肢です。逆に言うと、致命的な不具合や失敗の無い堅実な設計ですので、音質面で気に入ったら選んで損は無い優秀なDAPだと思います。

Android上にインストールされているiBasso音楽再生アプリは簡素な仕上がりですが、単純明快で使いやすいです。ただし、ソニーやAK、Cowonなどと比べるとユーザーインターフェースのレスポンスなど体感的な部分ではまだ改善の余地があると思いました。

ところで、余談になりますが、最近のDAPの傾向を見ていると、これまでのようなスペック競争よりも、むしろユーザビリティの改善というのが一つの大きな課題となっているようです。

たとえばソニーはNW-WM1Aにて大幅なシステム改善を行い、低価格なNW-ZX300にも反映されましたし、FiioはX7・X5の次に、ユーザビリティを向上させた「M7」という新型DAPを投入してきました。AKもAK200・AK300シリーズは一旦終了で、「SP1000」「SE100」「SR15」といった新型機にて新たなユーザーインターフェースを導入しています。

ユーザビリティというのは、多機能だとか設定項目が多いという事ではなく、たとえばスクロールした時にテキストや画像がスムーズに表示されるとか、手で持って押しやすいボタン配置、ボリュームノブの挙動といった点で、ユーザーが聴きたい曲に辿り着く時間や、行いたい動作をストレスを感じさせず最短でサクサク行えるか、という事です。

Fiioなどのように、従来は詰め込みすぎて使いづらくバグが多かったメーカーは、よりスマートで洗練されたデザインに向かっていますし、逆にソニーのように上から目線で不可思議な使い道を強要していたメーカーも、よりユーザー目線で柔軟な使い勝手に近づいているようで、両方向から収束しているようです。

社会的には、定額ストリーミングサービスやBluetoothオーディオなどのトレンドもあるので「機能優先、音質は二の次」といったライトユーザー層がDAPへの興味が薄れてスマホに戻った事も大きな理由の一つだと思います。

DAPに奇抜な多機能性を要求せず、純粋にアナログオーディオアンプとしての能力を最優先で考える時代になって、ベテラン実力者iBassoの時代が戻ってきたのかもしれません。

DX150は価格を考えると悪くないDAPですし、正式な国内販売を期待したいです。また、オプションのアンプカードも、せっかくiBassoの得意分野なので、単なる出力や端子別のみではなく、サウンドチューニングが異なるバリエーションがもっと増えて(試聴できる環境が増えて)くれることを期待しています。

一眼レフやミラーレスカメラでは、カメラ本体は買い替え前提だけれど、レンズは財産、なんて言われているくらいですし、DAPでも、アンプカードもそんなふうに使い回しができるようになり、このカードはどんな味わいで、どういったシーンに合うかなどで話題が盛り上がるようになったら面白いと思います。