2017年7月14日金曜日

64 Audio tia Fourté & U18 tzar イヤホンの試聴レビュー

64 Audioの新型イヤホンを二つ試聴してきました。あいかわらず買えもしないくせに、懲りずに聴きまくっています。

64 Audio U18 tzar & tia Fourté

これら二つのイヤホンは、パッと見ただけではただのカラーバリエーションっぽいですが、実際は全く異なるモデルです。ボディが黒い方は4ドライバー登載の「Fourté」で、赤い方は18ドライバーの「U18 tzar」です。ちなみにU18にのみ64Audio独自のAPEXモジュール(グレーの丸い部品)が見えますね。

どちらも2017年6月発売で、Fourtéの価格はおよそ44万円、U18は37万円と、一般人には縁のない挑発的な価格設定になっています。つい最近Astell & Kernの50万円DAP 「SP1000」を試聴したばかりなのですが、こういう高級機は怖いもの見たさでつい聴きたくなってしまいます。


tiaシステム

Fourtéは黒緑、U18は赤いデザインで、どちらも右側のハウジングには「64」ブランドロゴ、そして左側には「tia」と書いてあります。

どちらも「tia」ロゴが目立ちます

tiaというのは「Tubeless In-ear Audio」の略称で、64 Audioが新たに開発した音響システムだそうです。

具体的には、いくつかの斬新なアイデアを総括して「tiaシステム」と呼んでいるそうで、その中核となる「tiaドライバー」というバランスド・アーマチュア(BA)ドライバーユニットを新開発したそうです。

公式サイトより、tiaドライバーと配置イラスト

これまでの一般的なBAドライバーというと、上のイラストで本体中央にあるような、長方形の一方の丸いチューブから音が出るような形状が主流でした。ボトルの飲み口の部分から音が出るようなイメージですね。

一方新開発のtiaドライバーは写真右側で見られるように、丸いチューブが無く、平面から音が出るデザインになっています。チューブレスにすることで、開放感のある鳴り方になるそうです。

さらにtiaシステムでは、イヤピースを取り付けるダクト部分にドライバーを詰め込むという奇抜なアイデアを採用しています。そうすることで、サウンドが至近距離からダイレクトに鼓膜まで伝わるため、歪みや乱れが抑えられるようです。

これまでの一般的なイヤホンでは、ダクト部分(音導管)はただのチューブなので、素材や寸法によってドライバーからの音色にクセがついてしまうという問題があります。そのため、ハウジング内にどれだけ高性能なドライバーを搭載したとしても、結局は音導管のせいで音が概ね決まってしまいます。感覚としては、一流歌手が長い筒を口に当てて歌っているようなものです。

もちろんダクトを太く短くすればクセは低減できますが、それでもハウジングから鼓膜までの距離は変わらず、イヤーチップや耳孔そのものがダクトの役割を果たすため、人それぞれ、耳孔のサイズ、形状、肌質なんかで音色が変わってしまいます。一方、ShureやEtymoticなどのように奥深く入り込む細く長いダクトにすれば鼓膜まで直接音を届けられますが、ダクト特有の音色のクセもついてしまいます。

そう考えると、これまでのように大量のドライバを安易な巨大ハウジングに詰め込むよりも、むしろドライバを鼓膜に近づけることで、より濁りの少ないダイレクトなサウンドが実現できるという考えです。

画期的だったヤマハEPH-100

ダクトの内部に小型ドライバーを搭載するというアイデア自体は、これまでにもヤマハEPH-100や、JVC HA-FXD80などのイヤホンで実証されています。どちらも小型ダイナミックドライバをダクト内部に詰め込むことで、ものすごくクリアでパリッとしたサウンドを実現していました。しかしどちらもダイナミックドライバーということでダクトが必然的に太くなってしまい、私の場合、長時間の着用では耳孔が痛くなってしまいました。

ではダイナミック型よりもコンパクトにできるBAドライバではどうかというと、そもそもBAドライバ単発では十分な周波数帯域が再現できないため、鼓膜間近で鳴らしてしまうとシャリシャリした不自然なサウンドになってしまいます。(いわゆる補聴器の音です)。一般的なシングルBA型イヤホンでは、それを補うためにハウジング空間を広くして、反響を駆使して低音の量感を盛っています。

今回64 Audioが導入したtiaシステムでは、特定の周波数帯のみに特化した超小型ドライバのみをダクト内に搭載し、その後ろで通常のイヤホンのようなマルチドライバーで広帯域を補う、という二段構えのコンセプトです。

tiaシステムのアイデア自体が非常にユニークなのですが、その上で、今回64 Audioがデビュー作としてあえて二つのモデルを発売したことが、さらに面白いです。

U-Series ユニバーサルIEM

まず、APEXモジュールを搭載した主力「U-Series」イヤホンの流れを受け継いで、そこにtiaシステムを搭載した18ドライバー(8 低BA+8 中BA+2 高BA)モデルが「U18 tzar」です。つまりこれまでの最上位モデル「U12」でも飽き足らないような64 Audioファンのための、正統進化モデルと言えます。

その一方で、「1 ダイナミック+3 BA」による、たった4ドライバー構成の「tia Fourté」を同時リリースしています。しかも面白いことに、この4ドライバーモデルの方が、18ドライバーのU18よりも高価という、意表を突いた売り方です。

デザイン

U18とFourtéはどちらもハウジング形状がほとんど同じですし、いわゆるIEMイヤホンとしても極めて「普通」な形なので、デザイン面でこれといって書くことが思い当たりません。

これまでの64 Audio U-Seriesイヤホンとよく似たフォルムですし、プラスチックがアルミ製に変わったものの、重量はそこまで重く感じないので、装着感も驚くほど「普通」です。

普通のイヤピースが使えました

イヤピースも一般的なソニーサイズなので、いつもどおり使い慣れたSpin Fitチップを使ってみました。写真で見ても、なんてことない普段通りのIEMイヤホンっぽいです。

ダクト内にtiaドライバーが見えます

こっちはあまりよく見えません

音導管ダクトの金属メッシュを覗いてみると、自慢のtiaドライバーが見えます。たしかにこれくらい小さいドライバーであれば、周辺に十分な隙間がありますね。

ちなみに今回試聴したのはショップの店頭デモ機だったので、ハウジング内側に「DEMO NOT FOR SALE」と書いてありました。ショップにて数日間エージングした個体だそうです。

U18は赤い模様が印象的です

Fourtéはオレンジとグリーンっぽい模様です

各モデルのサイドパネルは綺麗な装飾模様が施されており、一体どんな手法で仕上げたのかは不明ですが、調度品のような美しさを放っています。博物館で展示されている鉱物資料みたいな色合いです。

ただし、そんな模様の上に白いロゴが印刷されているため、そのせいで装飾模様全体が、ステッカーをペタッと貼ったかのような感じもしました。メーカーロゴは確かに大事ですが、ここはせっかくの高級モデルですし、もうちょっと格調高い刻印とかエッチングなんかのほうが良かったと思いました。

U18を側面から見ると、APEXモジュールが飛び出しています

Fourtéは厚さがU18とは若干違いますね

U18にのみ付いているAPEXモジュールについては後述しますが、モジュールが見えないFourtéの方にも内部に同様のシステムが搭載されているということで、そのおかげか装着時の遮音性や閉鎖感なんかはU-Seriesと大差無い感じでした。

これまでのU-Seriesイヤホンでは、APEXモジュールのおかげで鼓膜の圧迫感が低減され、不快になりにくいということがセールスポイントだったわけですが、今回のU18・Fourtéともにその部分はあいかわらず優秀です。

逆にEtymoticのようなピッタリ密閉する「耳栓感覚」が好きな人にとっては、64 Audioは開放的すぎて「着けた感じがしない」違和感があるかもしれません。

U18のケーブル

Fourtéのケーブル

U18の2ピンコネクタ

Fourtéの2ピンコネクタ

U18・Fourtéともに、ごく一般的なIEM用2ピン端子ケーブルを採用しているので、社外品ケーブルとの交換も容易です。

付属ケーブルはIEMイヤホンでありがちな黒くて細いタイプのやつなので、高価なイヤホンにしてはかなり地味です。たとえハッタリでも、もうちょっと派手なケーブルの方がせっかくのハウジングデザインが引き立つと思いました。しかも3.5mmコネクターにノイトリック社のゴツい金属タイプを使っているのが面白いです。

意外と真面目なパッケージ

パッケージはU18のみ確認しましたが、長方形の薄い紙箱は、なんだか一昔前のパソコンソフトとかのボックスを思い出します。こういうのは宝石や腕時計っぽい箱よりも収納が楽なので好きです。

中身は本体とイヤピース数個のシンプルなレイアウトですが、付属のキャリーボックスがかなりしっかりしており好印象です。無駄な高級感はあえて演出せず、常用に耐えうるプラスチック製ハードケースで、中にスペアAPEXモジュール格納スペースや、乾燥剤まで入っている真面目な設計です。

なんというか全体的に、どんなに高価であろうとも、安易な高級路線に走らないところがストイックで好感が持てます。

tia Fourté

そもそも、たった4ドライバーの「Fourté」イヤホンが、なぜここまで高価なのか、しかも18ドライバーのU18よりも高いとは一体どういうことか、と不思議に思えますが、個人的にはむしろ画期的なコンセプトだと思いました。

公式サイトから、Fourtéの内部構造

というのも、内部イラストを見るとわかるのですが、このFourtéというモデルは、tiaシステムの一環としてハウジング内部の音響設計に結構力を入れているみたいで、各ドライバごとにずいぶん広い音響空間や意図的な距離が設けられています。つまり、これ以上ドライバーを詰め込んでしまっては、Fourtéの目指している音響メリットが失われてしまいそうです。

アルミ削り出しのハウジング内部には、まずダクト付近にある2基のBAドライバーと、その後ろの大きな低音ドライバーが印象的ですが、さらにその上には、大型BAドライバが専用のチャンバーに収められています。

各ドライバーが、それぞれ最善の空間余裕と空気の流れ、さらに時間軸・位相調整(アラインメント)に合わせた絶妙な位置関係で配置されているのでしょう。

Fourtéのみ、変な穴が空いています

公式サイトによると、APEXモジュール相当のパッシブラジエーターを搭載していると書いてありますが、それがどの部分を指しているのかよくわかりません。もしかすると、低音ドライバーの真下にある通気口のようなものがそれかもしれません。(この穴はU18には存在しません)。

ハウジング内部の音響設計に特化するというアイデアは説得力があるので、ではこれまでイヤホンメーカー各社はなぜ同様の事をあまり積極的にやっていなかったのか、と不思議に思えるかもしれませんが、よく考えてみるとなかなか難しいことです。

大量のBAドライバーを寿司詰めにするためのハウジングを3D図面で設計するのは、比較的容易な作業です。その場合、どれだけ多くのドライバー数をどれだけ小さなスペースに詰め込むかという、パズルみたいなものです。

一方、Fourtéのように、4基のドライバーそれぞれの音響特性を引き出すハウジング設計となると、単純なCAD図面だけでは見当もつかないため、様々な音響シミュレーションや、実機のプロトタイプを何通りも作って試聴・修正・微調整を繰り返すしかありません。しかも、ハウジング材料や塗装などが微妙に変わるだけで音色も変わってしまう恐れがありますし、各ドライバーごとの特性も熟考しなければいけません。ここを変えると、音がこう変わる、という判断はまさにベテランの成せる技です。

つまり、最終的な量産コストは安上がりかもしれませんが、技術開発の労力とノウハウには多大なコストが要求されます。しかも「4ドライバー」と言ってしまうと、マーケティング的には不利ですし、メーカーも積極的になれないでしょう。そこをにあえて64 Audioが踏み込んでくれたことが面白いです。しかも44万円とあっては、これで音が悪かったら言い訳の余地が無い真剣勝負です。

オーディオ開発の原点に戻ったような設計です

ところで、このFourtéのコンセプトは、オーディオ用スピーカーの進化を追従している、という事にも意義があると思います。

たとえばB&W 800シリーズやFocal Utopiaシリーズなど、世界中で現在主流の超高級スピーカーを見ると、10ドライバーや18ドライバーなどではなく、どれも4ドライバー程度を、ものすごく高性能な音響ハウジングに収めたモデルが一般的です。それらは、単純に高性能ドライバーを長方形の木箱に詰め込んだだけの安直なものではなく、ハウジング内部の複雑な音響設計に多大な労力を費やしています。一流スピーカーブランドともなると、5年、10年といった歳月をかけて新型機の開発にあたっています。

そういえば家庭用スピーカーの市場でも、たった10年ほど前までは、いわゆるエントリーモデルというと「ただのハコに綿を詰めてドライバーをネジ止めした」ようなスピーカーばかりでした。それが最近になって製造技術やコンピューターを駆使したシミュレーションが確立されてきたことで、ようやく低価格帯のスピーカーでも、低音はこもらず、高音はヌケの良い、ハイエンドモデルに迫る高性能ハウジング設計が実現できるようになってきました。

イヤホンにおいては、このFourtéにて、ようやくそんな高性能ハウジング設計の意義が問われることになった、と言えるかもしれません。低価格帯で小細工をしているメーカーはすでに沢山ありますが、コスト度外視で最上級のサウンドを目指すために、従来の「高音質=多重ドライバー構成」という図式から、よりハウジングを含めた理想に近づいていく、イヤホン設計の転換期かもしれません。

U18 tzar

Fourtéが画期的なアイデアだからといって、もう一方のU18は地味で退屈なモデルというわけでもありません。

ちなみに「tzar」という相性がついており、本体のラベルも「U18t」と書いてありますが、tzarはロシア語で王様とか皇帝の意味なので、その名の通り同社ラインナップの中でトップモデルという意味を込めているのでしょう。Noble Audio Kaiserとのライバル心もあるかもしれません。日本のメーカーも「将軍」とか作ったほうが良いかもしれません。

この中にどうやって18基のドライバーを・・・

意外と忘れがちですが、tiaシステムを含めて合計18基のBAドライバーを、ここまでコンパクトなハウジングに収めているというのは驚異的です。以前Noble Audioが10ドライバーの新型K10を発表したときも、その小ささに驚きましたが、今回は18ドライバーです。しかもその上でAPEXモジュールが大きな面積を占拠しています。

Campfire Andromedaとほぼ同じサイズで驚きます

最近になって、ようやく補聴器用ではなくオーディオ専用に特化したBAドライバーが手に入るようになってきたことが貢献しています。つまり、明確な周波数帯域に絞ったピンポイント特性の小型ドライバーや、複数のドライバーを合体ユニット化したモジュールなど、技術力さえあれば柔軟な設計が実現できる時代になってきました。

そんなBAドライバーの進化だけを見ても、いわゆる出来合いのBAユニットを無理矢理まとめて押し込んだような旧世代のIEMイヤホンとは隔世の感があります。事実、最近のマルチBA型イヤホンは、初期のものと比べてどれも本当に音が良くなってきたと思います。

交換可能なAPEXモジュール

U18には64 Audio独自のAPEXモジュールが登載されています。これはイヤピースの真後ろに位置する部分(つまり音の流れの反対側)に、通気性のある特殊なフィルター部品を配置することで、音圧の逃し具合を微調整するシステムです。しかも別売でいくつか特性の異なるモジュールに交換できるため、低音の量感などを各自好みにあわせてチューニングできます。感覚的に言うと開放型〜密閉型のあいだのセミオープン具合をある程度自在に調整できるといった感じです。

ちなみにU2〜U12まである既存のU-Seriesイヤホンラインナップでは、一年ほど前に社内事情で旧ADELモジュールからAPEXモジュールに急遽変更になる事態があり、ユーザーはずいぶん困惑させられました。個人的には、当時ADELに慣れた耳だとAPEXモジュールは一味違ってどうもしっくりこなかったのですが、今回U18においては、そもそもAPEXモジュールを前提として作られているせいか、絶妙に良い効果を発揮してくれています。

U18のパッケージには、二種類のAPEXモジュールが付属しており、グレー色の濃さで判別できるようになっています。ゴムリングで圧入されているだけなので、工具などを必要とせず、爪で引っ張ればスポッと抜けます。

実際に交互に入れ替えて聴き比べてみたところ、それなりに効果はあるものの、U18そのもののアイデンティティーや性格をガラッと変えてしまうほどのものではありませんでした。具体的には低音の密閉具合と高音の音抜けが若干変わるような感じで、密かにすり替えられていても気が付かないかもしれません。

モジュール無しの状態ではスカスカなサウンドになってしまいますし、左右別々のモジュールを登載してみると、明らかに中低音側のステレオバランスが片方に寄ってしまうため、やはり効果があるんだなと納得できました。今回の試聴には、軽めのサウンドになる方のモジュールを主に使ってみました。

今回登場した二つのモデルを単純に見れば、U18が主力ラインナップのトップモデルに位置する役目を果たし、Fourtéは好き勝手にやってみたコンセプトモデルというイメージが浮かびます。

音質とか

今回の試聴には、相変わらず使い慣れたPlenue S DAPを主に使用しました。

ちょうどAstell & Kernの新型DAP 「A&ultima SP1000」も試聴していたので、それも使いましたが、それではSP1000のレビューになってしまうため、サウンドの印象はあくまで普段から慣れ親しんでいるPlenue Sでの感想です。

Plenue S

U18は9Ω・115dB/mW、Fourtéは10Ω・114dB/mWと、駆動能率はだいたい同じくらいで、大抵のDAPで十分鳴らしきれる程度なので、値段を知らなければごく普通のイヤホンだと思えてしまうような扱いやすさです。ようするに、U18とFourtéの違いは装着感や鳴らしやすさではなく、純粋に音質のみでの勝負になります。

二つのイヤホンを試聴した結果、「どちらも非常に高音質でした」なんて言うだけでは面白くないので、今回はジャンルの異なる4枚のアルバムを聴き比べてみて、それぞれでどっちのモデルと相性が良いか評価してみました。もちろん100%個人の主観によるものですので、あまりアテにしないでください。


Harmonia Mundiから、新鋭「Heath Quartet」によるバルトーク弦楽四重奏の全曲集を96kHzハイレゾダウンロード版で聴いてみました。

この四重奏団は2002年にイギリス・マンチェスターの音楽学校にて発足された若手グループなのですが、すでに数々の優秀賞や新人賞を獲得している注目株です。また、今アルバムの配給はHarmonia Mundiレーベルですが、録音は硬質なベルリンTeldex StudiosではなくロンドンのWigmore Hallで行っているため、同Wigmore Hallレーベルと同様の暖かみのあるリラックスした音響が味わえます。そういえばこの四重奏団のデビュー作はWigmore Hallレーベルで出してました(ティペットの四重奏全集)。

バルトークの四重奏全集というと、エマーソン、タカーチ、アルバン・ベルク、トーキョーと、錚々たる過去の名演が出揃っているので、最近の若手新人が(第5番単品のみとかならともかく)全集を試みるのは気負いすると思います。どうせ新しい解釈なんて期待できないだろう、なんて決めてかかるようなところを、Heath Quartetは見事に打開してくれました。いわゆるザクザクした幾何学的なバルトークを期待している人は拍子抜けするかもしれませんが、この録音は繊細で流れるような対話を重視した、スッキリ丁寧な演奏です。

このアルバムは、U18の圧勝でした。弦楽四重奏という一見シンプルでいて奥深い演奏の魅力を、U18が最大限まで引き出してくれました。

U18を聴いてまず気がついた特徴は、全帯域において音源の分離が凄まじく、一音一音の見通しの良さが半端なくすごいです。一緒に聴いていた友人は「分離しすぎて戸惑う」と言ってました。音色に乱れや滲みが一切感じられないという、いわゆるモニター調な傾向もありますが、それと同時に、空間の展開が圧倒的に正しいです。距離感も十分にあり、APEXモジュールのおかげで圧迫感の無い、開放的な音場が目の前に展開されます。

特に四重奏における四人の奏者の音像がハッキリと前後左右の位置関係で再現されており、ただ闇雲にフワッと空気感があるというようなレベルではなく、人間の空間配置そのものが綺麗に引き立っています。奥行きがあるとも言えますが、それが不自然な不安定要素になっていないところが優秀です。四重奏のような室内楽の場合、十分な奥行きや広さは欲しいものの、あまり過剰なエフェクト感を出してしまうと、今度は奏者のまとまりがなくなり音楽が右往左往と飛び回ってしまいます。そのところをU18はしっかり丁寧に再現できていることに感心します。

高音は圧倒的によく伸びるのですが、あくまで繊細でドライな鳴り方なので、輝く響きは無いものの、逆にそれが録音に込められた情報を最後の一絞りまで聴き取れるような感覚です。つまり楽器の音色本来の美しさは、イヤホンの音響で創作するのではなく、録音そのものが優秀であるべき、といったポリシーみたいなものを感じます。

勝手な憶測ですが、たぶんtiaシステムが良い仕事をしているのだと思います。高音域の立体感は、きっとダクト内の高音ドライバーと、その後ろの中高音ドライバー、そしてハウジング内で遠くに配置された残りのBAドライバー群といった三段階の距離関係によって生まれている感じがします。距離と言っても微々たる差なので、タイミングがズレるとかそういった大袈裟な話では無いと思いますが、それでも各音階が別々の空間軸から鳴っていることで、感覚的に分離や聴き取りやすさが向上しているのでしょう。

実は、これまでの64 Audio U-Seriesイヤホンにおいては、最上位の12ドライバーモデル「U12」はあまり好みのサウンドではありませんでした。どちらかというと5ドライバーくらいが気に入っていて、10ドライバーも悪くないものの、価格差に説得力を感じませんでした。というのも、ドライバー数が増えることで、帯域のカバー率は増えてフラットな鳴り方になるのでしょうけれど、それと同時に、空間表現が塗りつぶされたようにベターッと平面に張り付いたような感じがして、リアルな音楽というよりも、一枚の高解像写真を眺めているかのような退屈さがありました。とくにU12になると肉付きが太くなり、高音の伸びやかさもそこまで特別という風でもなかったです。そういったU12で気になったポイントが、U18で一気に解消されており驚いたわけです。これまで64 Audioの魅力であった圧迫感の少ないリラックスした鳴り方に、さらに音楽的に立体感や伸びやかさがプラスされたということは素晴らしいことです。

U18は低音側も十分クリアに聴き取れるのですが、いわゆるマルチBAらしい鳴り方というか、普通の淡々とした表情でした。量感が薄いとか、カットされているというわけではなく、あくまで他社と比較して人並みの無難なレベルだと思います。APEXモジュールを交換して低音を若干持ち上げる事も可能ですが、そうすると今度は中高域も狭苦しくなってしまうため、一長一短といった感じでした。この低音は、良い悪いというよりも、なんだかAKG K701やベイヤーダイナミックDT880、さらにはゼンハイザーHD800などのような、実直なモニターっぽい鳴り方に近い気がします。

U18のように高音域の伸びが良いイヤホンというと、私も愛用しているCampfire Audio Andromedaなんかが優秀候補に上がると思いますが、聴き比べてみたところ、U18とはかなり異なるサウンドでした。Andromedaは、持ち前のハウジング音響を活用して、非常に高い音域まで、音色の響きを艶っぽく美しく仕上げてくれるような魅力があります。一方U18はそんな艶が出ないため、サラサラした音そのものがどこまでも解像するような感じです。

Andromedaは、ハイレゾなどではない古いクラシック録音なんかでも音色の艶や輝きを演出してくれる効能があり満足に楽しめるところが好きなのですが、一方U18の方は、今回の最新録音のような優秀盤でないと、ポテンシャルの大部分を引き出せないように思いました。たとえば70年代のアルバムなどで、可聴帯域内で高音がバッサリとカットされている録音では、不思議と普段以上に不満を感じてしまいます。


ベテランジャズピアニスト、アーマッド・ジャマルの最新盤「Marseille」を96kHzハイレゾダウンロード版で聴いてみました。

ピアノトリオに数曲のみパーカッションやボーカルを交えたオーソドックスなバンドで、録音自体も最先端の超高音質なので、聴き応えがあります。

リーダーのジャマルは2017年で87歳という高齢ながら、若手メンバーとユニットを組んで精力的に活動しています。元々インテリ系アーティストといったイメージがあったように、今回も単なる老後の趣味でリバイバルに浸るのではなく、派手で複雑なアレンジが冴えており、発売前には本人のツイッターで進行状況を報告したりなど、何から何まで若々しく、まさに現役第一線で活躍しているピアニストです。

このアルバムはFourtéとの相性がものすごく良かったです。ベース奏者の演奏が始まった瞬間、Fourtéの驚異的な性能にショックを受けてしまいました。

聴いている自分自身ですら、にわか信じられず、そのまま無言でずっと何十分も聴き続けました。「一体どうやってこんな鳴り方ができるのか」と不思議に思えるほど異例の事態です。どう表現していいのか上手く伝わらないかもしれませんが、とにかく「低音の深さ」が凄いです。ただ量が多いというような陳腐な演出ではなく、実際の量感はあくまで普通なのですが、その肌触りや存在感、空間余裕や響きの奥行きなど、低音楽器を形成する全ての要素が非常に高い次元でリアルに再現されています。

簡単に言うと「破綻していない」「情報量が多い」ということなのだと思いますが、ベース奏者が放つ音色をじっくり聴いても、どこまでも限りなく解像して、何の妨げもなく、聴き取れないほど低い音までしっかり鳴り響いています。奥底の知れない井戸のように、この録音の最低音はどこなのか見極めようとしても絶対にたどり着けないような深い沈み込みを感じます。

他の一般的なイヤホンの低音というと、ある特定の周波数帯でボコボコと盛り上がってしまい、それより下はメリハリの無い音圧振動にになってしまうのですが、Fourtéではそんな破綻ポイントが感じられず、録音の一番下までストレートに再現できているようでした。イヤホンというと、よく高音の伸びや天井について論議されていますが、逆に低音の伸びに関しては良い例が少ないせいか、あまり言及されていることがありません。そんな中でFourtéは別格な「良い例」だと思います。

低音というのはウッドベースだけではなく、ピアノの左手やドラムなど、どんな楽器でも、響きが困惑せず一直線に鳴り響きます。これは特定の周波数だけ盛り上げているような「にわか低音重視」のイヤホンでは絶対に味わえない自然な体験です。

中低音以上の高音域では、持ち前のtiaドライバー効果でU18のようなクリア感を演出するのかと思っていたら、意外とシンプルで控えめに抑えられているようでした。伸びが悪いというほどでもなく、不満は無いのですが、あまり派手さの無いシンプルな高音です。個人的にはもうちょっと空気の広がりや瑞々しい感じが出てくれた方が好みです。この辺は、U18よりも従来のU-Seriesとよく似た素朴な鳴り方だと思いました。

双方ともtiaシステムを登載していると言っても、FourtéはU18のように高音が広々と展開するというよりは、むしろ中低域以下のリアルさを生み出すために、システム全体が一体感を持って連動しているといった感じがします。


クラフトワークの最新アルバム「3D The Catalogue」を聴いてみました。これまでの過去作品を最近ライブツアーで演奏したものをまとめた、いわゆる「ベストヒットライブ」アルバムです。ライブと言っても、観客の声援やノイズなどは全く無い、コンソール直出し録音なので、簡単に言うと70年台からの名曲の数々を近年風に若干アレンジや高音質化させたハイレゾ・リミックス・リマスター盤として楽しめます。

私はこのライブツアーにも行ったくらいの熱狂的なファンなので、ブルーレイ二枚+ハードカバー本のデラックスセットを買いました。このバージョンだと、全56曲で過去アルバムからほぼすべての曲が網羅されているので、アルバムコンプリートBOXとしての楽しみ方ができます。ダウンロード版も同様の内容なので、クラフトワーク初心者にとってお買い得感があります。

クラフトワークといえば、アナログシンセをギュンギュン鳴らす幻想的な音色の巧が魅力ですが、この場合Fourtéとの相性が良かったです。

エレクトロ・ポップといったジャンルでは、マイクロフォンによる生録ではなくDTMソフト出しの多重録音なので、リアルな正しさを求めるよりも、非リアルな合成音の美しさを最大限まで引き出せるイヤホンの方が適しているようです。

まずリズムはベースラインの音色とキックの迫力がしっかり伝わらなければいけませんので、その点、先程のジャズアルバム同様、Fourtéの低音再現性は圧倒的です。クラフトワークのようなベテランになると、たとえシーケンサードラムでも単純に909などのセットを組み合わせるのではなく、アナログ波形とサンプラーの合成で曲風に沿った個性的な音色を作り上げています。作曲構成のテクニックも圧倒的ですが、独創的な音色そのものを堪能できるという点では、ありふれたピアノやヴァイオリンといった生楽器とはまた一味違った楽しみ方ができるのがエレクトロの魅力です。

Fourtéで聴くクラフトワークは、いわゆるドスドス・ピコピコといったベタなEDMサウンドではなく、音の濃さと深さの相乗効果で、ものすごく濃厚な音色の渦の中に飛び込んだかのような体験ができます。よく、大型スピーカーのオーディオマニアに言わせると、「イヤホン・ヘッドホンでは本物の低音は体験できない」なんて自慢されますが、Fourtéを駆使すれば、少なくとも一部のアルバムでは、スピーカーオーディオに肉薄するリアルな中低音の厚みや没入感が味わえると思いました。

「一部のアルバム」とあえて言いたかったのは、Fourtéの凄さを最大限に引き出すには、それ相応の高音質アルバムが必須だと気づいたからです。先程のジャズ・ピアノやクラフトワークなど、「Fourté凄いぞ」と直感的に心に響くサウンドが得られるのは実は稀で、そこまでのポテンシャルは引き出せないアルバムも多かったです。そもそも録音に込められた情報量が不足しているのでしょう。

一番低いとろこまで広帯域にしっかりと録音されている優秀アルバムをFourtéで聴けば、音の重なりに負けず、何十層もの音色の重なり合いが目まぐるしく変化している様が手に取るように把握できます。とくに、アナログシンセパッドのように、ギューンと位相と音程がゆっくりと変化していくようなサウンドでは、位相管理がしっかりとできていないイヤホンでは、特定のタイミングで音量が変わったり、音像が前後に移動したりと、違和感が生まれてリズムの流れが止まってしまいますが、Fourtéではそれが起こりません。

たとえばクラフトワークの場合、多くの曲はスローテンポでドローンベースを何分もかけて徐々に変化させていくような演出が多いのですが、その辺りをFourtéはしっかりと一貫性を持って鳴らしきってくれます。これは軽快なジャズやポップスではあまり無い演出ですが、例えばオルガンや合唱など教会音楽では活用されているので、Fourtéはバッハや東欧ロシアのミサ曲などの混沌とした世界をも演じてくれます。

FourtéとU18の決定的な違いは、音像の距離感だと思います。U18は一歩下がった位置で空間を広く展開するような余裕があるのですが、一方Fourtéはもっとリスナーの目元間近で音色に包み込まれるような感覚です。どちらが良いかというのは音楽ジャンルによります。

たとえば冒頭の弦楽四重奏の場合はU18のような実際のコンサート会場っぽさが求められますが、クラフトワークの場合は遠くのステージ上で演奏しているよりも、Fourtéで音色に包み込まれて没頭したい、という欲求の方が強いです。

オルガンやミサ曲と言ったのも同様の理由で、クラシックのコンサート会場とは異なり、石造りの教会で聴くオルガンや合唱は、四方から規則的に反射することで幻想的なサウンドを創り上げています。誰もが初めて教会コンサートを聴いた際には「こんな凄い音響なのか」と圧倒されると思います。ただのエコーのような乱反射ではなく、音色が周囲から降り注ぐ感覚は、きっと当時の信心深い人達も神々しいと感じたことでしょう。Fourtéはそれとよく似た体験が味わえるのが凄いと思いました。


Lyn Stanleyのニューアルバム「The Moonlight Sessions Vol.1」をSACDで聴いてみました。最近オーディオマニア用デモディスク御用達アーティストとして一躍有名になったジャズシンガーの彼女ですが、よくありがちなカラオケ風名曲シンガーに成り下がらず、歌唱も選曲もバンドも上品にまとまっており、味わい深いアルバムを連発しています。

今回も選曲はベタなスタンダード集ですが、嫌味も不自然さもなく、7人編成のラージバンドにハープなどのアクセントも入れた粋なアレンジが楽しめました。音質は相変わらずデモ用ディスクにふさわしい素晴らしさです。Vol.1ということは、Vol.2もそのうち発売されるのを楽しみにしています。

ジャズボーカルアルバムということで、先程のピアノトリオアルバムのようにFourtéの方が適しているかと思いきや、今回はU18の方が格段に相性が良かったです。(もちろん主観です)。

このアルバムを聴いていて、Fourtéの弱点というか、相性の良し悪しがとくに強く感じられました。Fourtéは中低域の音色を濃く奥深く立体的に描いてくれるのですが、それがピアノやベース、ドラムなど、バンド全体の音楽に圧倒的な存在感を持たせてしまい、本命のリーダー格であるべき女性歌手が、その渦に飲まれて、あまりクリアに聴こえません。ステレオ音響も至近距離なので、伴奏楽器が目の前に迫っており、ボーカルはその隙間のちょと奥から聴こえるようです。とくにこのアルバムはオーディオファイル盤として各楽器の音色が厚く豊かに仕上げてあるため、Fourtéの奥深さとの相乗効果で、「聴かせすぎる」演出になってしまい、ボーカル盤としての魅力が薄れてしまったようです。

同じアルバムをU18で聴いてみると一気に薄味になるのですが、そのおかげで各奏者ごとの空間に余白が生まれ、楽器どうしの重なりあいが解消され、メインのボーカルがキリッとセンターで主張してくれます。音色そのものの質感も両者は異なり、とくにボーカル域に関しては男性・女性を問わず、Fourtéでは若干「滲む」ような響きの厚みを強調した鳴り方で、一方U18では原音そのものが素朴に鳴っている分だけクリアに聴こえます。どちらが良いかは録音との相性によるのが難しいところです。このアルバムの場合、U18の方が良かったです。

U18のtia効果はここでも存分に感じられ、ピアノやギターが奥行き方向でしっかりと別々に分離してくれるため、弦楽四重奏でもそうだったように、演奏者の対話や位置関係を意識しながらスリリングなインタープレイを味わえました。

ケーブル交換

付属の黒いケーブルは細くて貧弱なデザインなので、もしかしたらケーブルをアップグレードすることで、さらに凄いサウンドが実現できるかも、なんて期待を膨らませて、手持ちのバランスケーブルなどをいろいろと試してみました。

Plenue Sでバランス接続

AK用にはMoon Audioケーブル

たとえば普段からPlenue S用でよく使っているNobunaga Labsの3.5mmバランス用ケーブルや、最近気に入って多用しているMoon Audio Silver Dragonの2.5mmバランス用ケーブルなどです。どちらも若干キラッとするものの、音が細くならない優秀なケーブルだと思います。

そんなわけでU18、Fourtéとも試行錯誤してみたところ、結局「付属の純正ケーブルが一番良い」という結論に至ってしまいました。つまり付属ケーブルは見かけによらず悪くないようです。

不思議なのですが、どんなケーブルを使ってみても、U18とFourtéの魅力や個性が半減してしまい、なんだか普通のイヤホン寄りに向かってしまうようでした。U18であれば中低域の厚みがでて高域の空間がビシっと決まらなくなり、Fourtéであれば高音はキラキラ感が増すものの低音に限界を感じます。

もしサウンドの個性を控えめにしたいと狙っているのであれば、ケーブル交換は有効だと思いますが、それではわざわざこれらのイヤホンを買う意味はなくなってしまいますね。

もちろん世の中にはもっととんでもない素晴らしいケーブルとかも存在していると思うので、これくらいのイヤホンが買える人であれば、バランス化などで色々なケーブルを試してみる価値はあるかもしれません。

おわりに

値段が高すぎて、さすがに私ごときでは購入を検討するには至りませんでしたが、U18 tzar、Fourtéともに、さすがに世間一般の無難なマルチBAイヤホンとは別格の凄まじいサウンドを提供してくれました。

高音と空間分離が凄いU18

低音と質感の豊かさが凄いFourté

色々なアルバムを聴いてみた感想をまとめてみると、U18・Fourtéともに、通常のマルチBAイヤホンでは想像できない壮大な音響を実現しています。U18は高域のヌケの良さや空気感を強調しながら整理整頓されたBAらしい高解像サウンド、Fourtéは圧倒的な低域の奥行きと解像感で分厚い魅惑のサウンドと、両者が両極端で対照的なのが面白いです。

どちらもtiaシステムのおかげか、聴き慣れたマルチBA IEMとは一線を画する存在感があります。雑な例えですが、なんとなくU18はゼンハイザーHD800のようで、FourtéはFocal Utopiaみたいな、それぞれ独自の世界観を持っています。

どちらのイヤホンも、優れた録音でないと魅力や凄さが引き出せないと思うことが多々ありました。「どんな音楽でも楽しく味わえる」といった性格ではなく、むしろポテンシャルに相応しい高音質録音を探したくなるような魔力があります。つまり、イヤホンの限界を感じられる前に、録音の限界に到達してしまう、そんなところが高価なハイエンド・オーディオ機器としてのプライドを示しているかのようです。いわば街乗りが不便なサーキット仕様のスポーツカーのようなものです。

値段相応の値打ちがあるか?という話はするだけ無駄です。よくネット掲示板などで、コスパだとか適正価格とかで熱くなっている人がいますが、私を含めて、その程度の余裕が無い人達はそもそも購入対象外で、眼中に無いでしょう。

では懐に余裕がある人なら買うべきかとなると、現状でこれらのサウンドをもっと低価格で実現できる代用品が存在しないため、「オンリーワン」と言えるモデルです。その点では、個性に満ち溢れており、あえて無難なサウンドに仕上げなかった事で、より説得力が増していると思います。

悩ましいのは、実際のところ「オンリーワン」ではなく、U18・Fourtéという二つのモデルが存在するため、どっちを買うべきか決めなければならないことです。

そういえば、調子に乗って感覚が麻痺していたようで、U18の37万円とFourtéの44万円でそこまで大差は無い風に思えてしまいますが、改めて現実に戻ってみると、実はそれらの差額だけでも相当良いイヤホンが買えてしまいますね。

最近JH Layla IIやWestone W80、Noble K10 Encore、Shure KSE1500など、各メーカーの超高級イヤホンを(買う気も無いのに・・)試聴していますが、やはり10万円以上のイヤホンなんてものは、上下優劣の尺度では計り知れない、個性の塊ばかりです。

願わくば、U18・Fourté両者の長所を融合させたモデルがあれば最高なのですが、多分現時点の技術では到達不可能でしょうし、もし実現できたとしても、逆に派手派手すぎて手に余るサウンドになってしまうかもれません。

ところで、ショップにて発売と同時にFourtéを購入した人を知っていますが、この方も、両モデルを何度も試聴したあげく、どっちを買うべきか苦渋の選択を強いられたそうです。

いわく今回はFourtéを選んだけど、また後日U18も買う気がある、らしいです。この値段に手を出せるほどのマニアでさえも、結局は「使い分け」を強要されるなんて、オーディオ趣味というのはやはり泥沼です。