2018年12月14日金曜日

Grado GH3 GH4 GW100 ヘッドホンのレビュー

アメリカのGradoからGH3・GH4ヘッドホンを買ったので、感想とかを書いておきます。RSシリーズをベースに、ハウジングに特殊な木材を使った「Grado Heritage」シリーズの新作で、今回はパイン(松)材だそうです。

2018年新作のGW100・GH3・GH4

ついでに、BluetoothワイヤレスヘッドホンGW100も聴いてみました。こっちは購入していません。


GW100

まずワイヤレスヘッドホンGW100について書いておきます。

米国では2018年10月頃に発売したのですが、技適の問題があるのか、日本では今のところ未発売のようです。私は買っていないので、簡単に使った感想のみです。値段はUS$365です。

Grado GW100

あのGradoがBluetoothワイヤレス、というので驚きましたが、同じくレトロなKOSS PortaProとかも最近ワイヤレスバージョンが出たので、やはりヘッドホンメーカーとして近年のトレンドは無視できないということでしょう。

ところが、たとえばPortaProの場合は、既存モデルにBluetoothケーブルをつけただけの「やっつけ」仕事だったのに対して(それもKOSSっぽくて良いのですが)、一方このGrado GW100は、一見普段見慣れたGradoのようでも、じっくり観察してみると、全くの新規設計だということに更に驚きました。かなり気合が入ったモデルのようです。

新設計ハウジング

SR80eとGW100

デザインはSRシリーズの下位モデルSR80eなどに似せてあります。つまり、シンプルな黒いプラスチックハウジングに、オンイヤー型の平らなスポンジイヤーパッドです。

ヘッドバンドにケーブルを通しています

円形ハウジングに、上下にスライドする調整ロッド、そしてシンプルなレザー調ヘッドバンドと、Gradoらしさを演出する要素はすべて揃っていますが、すべてのパーツがちょっとだけモダンに作り直されています。

Gradoドライバーです

イヤーパッドを外してみると、搭載ドライバーそのものはSRシリーズと同じようなので安心しました。新規設計でワイヤレスということで、もしかしたらドライバーを含めてOEMで全く別の会社に作らせているのかと心配したのですが、ドライバーを無造作に埋め込んであるところなどを見ると、ちゃんとGrado製だとなんとなくわかります。

電源と音量ボタン

充電はマイクロUSBです

Bluetooth機能自体はごく一般的なもので、電源ボタン長押しでペアリングできます。マイクロUSB充電で、15時間再生だそうです。

驚いたのは、Bluetooth 4.2とaptXに対応していることです。最近のヘッドホンならaptXくらい当たり前だろうと思うかもしれませんが、あのGradoのことだからSBCコーデックのみの古い通信チップを搭載しているだろうと甘く見ていたので、aptX対応は意外でした。

公式スペックには「開放型」と書いてありますが、回路基板やバッテリーなど色々と詰め込んでいるため、グリルからドライバーの裏側が覗けるようなシンプルな構造ではありません。

つまりセミオープンっぽい感じになったわけですが、そのおかげもあって、公式サイトによると、音漏れを同社比で最大60%抑えたということです。

たしかにポータブル用としては、遮音性が皆無の完全開放型ヘッドホンは相性が悪そうです。Gradoがワイヤレスヘッドホンを出したと聞いた時、一体どのようなシーンで使えるのか困惑してしまいました。

しかし、すべての人が音漏れを気にしているわけではなく、米国などに行くと、バスの中とかでも、開放型ヘッドホンでシャカシャカ音楽を鳴らしている人が結構います。パーソナルスペースに余裕があるからでしょうか。SR80eやPortaProとかもモバイル用ヘッドホンとしてオススメされているくらいですし、開放型の方が周囲の音が聴こえるから安全だと推奨されていたりします。

さらに、近頃はiPhoneのヘッドホン端子廃止をはじめとして、家庭でもワイヤレススピーカーやワイヤレスヘッドホンを使うことが一般的になってきたので、こういったカジュアルに使える開放型ワイヤレスヘッドホンの需要が生まれてきたのかもしれません。自宅で使う場合も、音漏れが低減されたというのは嬉しい改善点だと思います。

現状で開放型ワイヤレスとなると、このGW100と、KOSS PortaPro Wirelessくらいしか思い当たらないですし、どちらもアメリカのメーカーというのも面白いです。ワイヤレス=密閉型という固定概念を崩す先見性があります。


GW100の音質ですが、スマホからaptXで接続してみたところ、意外にも良い音で、しかもGradoらしからぬチューニングだったので驚きました。

外観から予想していたのは、スカスカでピーキーなアグレッシブサウンドだったのですが、実際は全くの真逆で、中低域重視のまったりした音色です。

さすがGradoドライバーを搭載しているおかげで、音色は歯切れよく、モコモコしておらず、高音も低音も目立った限界は感じられません。残響が耳の周りでこもらずに、スッと遠くに抜けていくので、とくに低音は圧迫感が無く、Gradoらしい余裕を感じます。

高音は派手なエッジが無いので、そのあたりはGradoよりもむしろB&Oなど近頃人気のヘッドホンサウンドに近づいています。(ベイヤーとかも最近その傾向に寄っています)。高音がシャリシャリしないことも、音漏れが少ないという事に貢献していると思います。

つまり、Gradoファンからは「Gradoっぽくないけど、悪くないね」と言われて、Gradoが嫌いな人からも「Gradoっぽくないから、結構良いね」と言われるような、角の立たない上手なチューニングに仕上げたと思います。

家庭やオフィスでちょっとヘッドホンを使いたくても、密閉型だと家族の声や電話・ドアベルが聴こえないから困るという理由で、開放型を好んでいる人も結構多いです。GW100はそんな開放型ヘッドホンに、さらにワイヤレスの手軽さが加わり、よく考えてみると意外と良いアイデアなのかもしれません。

GHシリーズ

Grado GH3・GH4は米国では2018年10月に発売しました。私はその当時購入してから、ずっとエージングというか慣らし運転をしていたのですが、日本では12月中旬発売というニュースを読んだので、そろそろ感想とかを書いておこうかと思い立ちました。

マホガニー材のRS1eと、パイン材のGH4

GH1・GH2・GH3・GH4

Gradoのウッドハウジングといえば、ラインナップの上位モデルRS2e・RS1e・GS1000eなどに使われている濃い茶色のマホガニー材が代表的です。

一方GHシリーズはGrado Heritageといって、ハウジングを別の希少な木材に変更した限定モデルです。ハウジングの形状も木材の特性に合わせて微妙に変えており、それぞれ見た目だけでなく鳴り方が大幅に違うのが面白いです。

GH1はGrado本社近くの公園で伐採されたメープル(カエデ)材、GH2はアフリカのココボロ材というローズウッドっぽい木材でしたが、GH3・GH4はノルウェーのパイン(松)材です。

ところで、上の写真を見るとわかると思いますが、GH1・GH2では現行Gradoに使われている赤いドライバー(いわゆるeシリーズドライバー)が搭載されているのですが、GH3・GH4では黒いドライバーになっています。これは今回が初見なので、どう変わったのか気になります。Gradoのことですから、単純に赤い塗料が無くなったからといった理由かもしれません。

GH3とGH4

GH3とGH4

GH4はこれまでのGH1・GH2と同じようなデザインで、日本での値段は7万円くらいです。

GH3は薄手のハウジングにオンイヤースポンジパッドで、4万円くらいの価格設定です。

どちらも同じ木材を使用しているのですが、木目の縞模様が綺麗ですね。公式サイトによるとパイン材をクォーター・ソウン・カットと書いてありますが、ようするに材木の一番良い部分を柾目方向で切り出したものです。

同じ名前の木材であっても、切り出し方によってピンからキリまであり、ヘッドホンみたいな小物には、適当な廃材や端材を寄せ集めて使ったりすることが多いのですが(そのため、左右がミスマッチだったり、ザラザラした木口面や節があったりするのですが)、今回はちゃんと良い素材を選んで使った事をアピールしています。

パッケージ

最近のGradoヘッドホンはライトブルーの紙箱に統一されていましたが、今回GH3・GH4ともに白い紙箱になりました。ずいぶん質素です。

パッケージ

スペックとか

パッケージ自体は共通しており、オレンジ色のシールでモデル名やスペック表などを区別しています。ずいぶん合理的というか、セコいというか、あえて昨今の成金ラグジュアリーヘッドホンの流れに逆らっているような潔さです。

インピーダンスと位相

インピーダンスはどちらも32Ωということですが、私が測ってみたら最低40Ω程度でした。GH3・GH4のグラフはほぼ一致するので、ドライバーは同じ物のようです。

どちらも90Hz付近でいきなりインピーダンスが上がり(つまり電流をほぼ消費しない)、ここで位相がぐるっと回ります。ここまで際立っていると、やはりGradoはハウジングとのちょっとした相性で音質が大きく変わってしまう事になんとなく納得してしまいます。

開封後

ヘッドホン

オレンジのシールをカッターで切って箱を開けると、このヘッドホンについての解説パンフレットが入っており、その下にヘッドホンがスポンジに収まっています。ちなみに「'53」というのは1953年創業ということで、上蓋の裏にも、60年以上ブルックリンで家族経営している旨が書いてあります。

こういった、大手メーカーとは一味違ったガレージメーカー風の演出が、個人的に結構気に入っています。

GH4

GH3よりも先に、まず上位モデルGH4の方について感想を書いておきます。

こちらのほうが、これまでのRSシリーズやGH1・GH2と同じクラスなので、音質差とかを書きやすいです。

GH4

Gradoヘッドホンは能率が高いので、DAPなどでも十分鳴らせますが、以前GH2ではアンプとの相性に結構悩まされたので、今回の試聴では、自宅のViolectric V281と、友人のChord Hugo TT2・iFi Audio Pro iDSDなど、いろいろと使ってみました。

GH4は、たしかにアンプで音が変わりやすいのですが、相性についてはまだちょっと試行錯誤している最中です。不思議なのは、たとえばGH2ではQuestyle QP2R DAPとの相性があまり良くなかったのですが、GH4だとかなり良い感じです。つまりGrado一括りとして考えられないのが困ります。


まず第一に、これらGHシリーズのベースになっているのはRS2eだと思います。価格的にも同じくらいですし、ウッドハウジングで寸法も近いので、装着感や音質も似ています。

サイズ的にはRS2eに近いです

RS1eはハウジングがもっと長いです

私自身は、旧世代Grado(2014年以前)のiシリーズではRS1iが好きで所有しているのですが、現行の赤いドライバーになったeシリーズでは、RS1eよりも下位モデルにあたるRS2eの方が音は好みです。

RS1eのハウジングはRS2eよりも長いので、鳴り方がずいぶん違います。RS2eと比べて、RS1eはどちらかというと高音と低音のレンジが拡大され、中域の線が細く、ドンシャリでシビアな音質だと思います。


そんなわけで、RS2eを基準として、各GHシリーズの傾向を比べてみようと思うのですが、まずRS2e自体は、Gradoヘッドホンの中でもとくに中域の楽器音が鮮やかに出るヘッドホンです。前後の展開は平面的ですが、楽器のイメージが太く、柔らかく充実しているので、じっくりと歌手やギター・ピアノなど自然な音色を味わって聴くのに適しています。Grado特有の圧倒的な音抜けの爽快感と合わせて、とにかくリスニングの満足感が高いヘッドホンです。ボーカルバンドとの相性は格別に良いと思います。

RS2eの弱点は、ステレオ音像のフォーカスが甘いことです。音像が縦にビシッと決まるのではなく、左右に引き伸ばされたように聴こえるので(そのため、アタックが柔らかく感じるのですが)、歌手の口が左右3mに広がったかのようで、現実の生演奏と比べると、ゆるすぎて不自然に感じる事もあります。(ちなみに、RS1eでは逆に、音像のフォーカスを強めた結果、聴き疲れするサウンドになってしまい、そこを大型イヤーパッドで空間の距離を空けて余裕をもたせたのがGS1000e、といった流れのように感じます)。


GH1は、空間が平面的なのはあいかわらずですが、高音や低音のレンジが拡大され、音像のフォーカスの甘さも改善され、よりクリアなサウンドになったので、まるでRS2eとRS1eの良いところを合わせたような、現行Gradoでは最高峰の仕上がりだと思います。また、GSシリーズ用大型イヤーパッド(Gパッド)を装着してもそこそこ良い音で鳴るのもGH1の強みです。私が期待するGradoらしいサウンドというのはGH1に凝縮されています。


GH2は、前方に空間の広がりが感じられ、立体的な音場はRS1eに近いのですが、音色はRS1eほどシビアなドンシャリではなく、むしろ地味で淡々としており、中低域もそこそこ出るようになっています。どちらかというと、他社の一般的な開放型モニターヘッドホンに一番近いのがGH2だと思います。地味な音色ですが、アンプで色付けしようとしても変な感じになってしまうため、これはこれで、こういうサウンドだと割り切って楽しむと、余裕を持った、落ち着いた深みのある音楽が味わえます。ギターをやっている人なら、GH1はメープル、GH2はローズウッドっぽい音といえば、なんとなく想像できるかと思います。


今回の新作GH4は、これまたサウンドが大きく異なります。毎回のことですが、木材や形状がちょっと変わるだけで鳴り方が変わってしまう、ヘッドホンチューニングの奥深さを痛感します。

GH4はとくに高音が多めに出る、明るい仕上がりです。音量だけでなく空間展開も逆三角形というか、高域が空間に大きく広がり、中低域はコンパクトにまとまっているイメージです。

高域が多いといっても、耳を突き刺すような刺激ではなく、空間を多めに使った新鮮で「明るい」サウンドという表現を使いたいです。

ドラムの打撃音などのアタックだけではなく、ピアノやギター、ヴァイオンなど高音寄り楽器の音色が綺麗に出てくれて、しかも帯域が上に向かうにつれて広がりが増すので、耳障りな刺激音は四方に分散されてしまいます。

とても特徴的なサウンドですが、ちょっと使い所が難しいタイプのヘッドホンだと思いました。アンプ選びはもちろんですが、とくに音源との相性に結構気を使います。GH4は高音質録音にて本領を発揮する、とりわけ高音の品質が優れている録音でのみ凄いサウンドが引き出せます。

高音の質が良いアルバムであれば、「これ以上ボリュームを上げたら刺々しいだろう」と思えるポイントよりもさらに上げても、鮮やかで綺麗に鳴ってくれます。しかも、あるレベルを超えると、中低域の楽器が急に活気づいて立体的に浮き上がって、ようやくGH4の凄さを実感できるようになります。

高音の質が悪い録音、たとえば過剰なコンプレッションをかけたようなアルバムでは、それが耳障りにならない程度にボリュームを下げてしまうと、相対的に中低域が静かでスカスカになってしまいます。


今回とくにGH4の個性を体験できたアルバムが三つありました。


まず、GH4のポテンシャルが最大限に発揮できたと感じたのが、Harmonia Mundiレーベルからロトのドビュッシーです。これは凄まじいサウンドで、圧倒されました。このアルバム一枚だけでも、GH4を買った意味があったと言えるくらいです。

昨年のラヴェルが絶賛されているロトですが、同じメンバーでドビュッシー「牧神の午後」「遊戯」「夜想曲」の新録です。そもそも録音自体が優れているという事もありますが、GH4がドビュッシー特有のフワッと漂うような音色の層を見事に再現してくれて、キラキラと輝く、美しい音響の虜になってしまいました。Gradoというと、もっと荒っぽいワイルドなジャンルを聴くべきだと思っていたのに、GH4はハイレゾ高音質盤と相性が良いというのは意外でした。歪みっぽさが一切無く、上の方までスッキリと伸びてくれます。


GH4の高音の素晴らしさは最新ハイレゾ録音に限った話ではなく、今月DSD配信が登場したベーム指揮ベルリンフィルのシューベルト交響曲集でも威力を発揮してくれました。

1963~1971年の期間に録音された全集ですが、とくに63年録音の第九番をGH4で聴いてみたところ、録音の古臭さやリマスター特有のノイズリダクションの息苦しさなどは一切感じさせず、鮮やかな弦楽セクションが堪能できました。

想像ですが、GH4はドライバーにある程度の振幅を与えないとダメなようで、たとえば交響曲のティンパニは、ボリュームが足りないと、トン・トンとおもちゃの太鼓のように軽く聴こえてしまいます。

この録音はボリュームを上げてもギラギラせず、むしろ高音の美しさが一層引き立てられます。そのおかげで、大音量で中低音の力強さも出てくるので、とても迫力のある演奏が体験できました。ステージ間近の座席で聴いているような音場展開から、遠く奥へ上へと広がっていく高音の響きが、絶妙な演出効果を発揮します。

とくにベーム指揮ベルリンというのは、下手なオーディオシステムで聴くと、教科書的で退屈な演奏だと思われがちですが、このように優れたサウンドであれば、堅実なテンポのとり方の中で繰り広げられる絶妙な音響世界が味わえます。


SavantレーベルからJD Allen「Love Stone」です。テナーのJD Allenによるピアノレストリオに、何曲かギターが入ります。最近主流のサックス奏法とは趣向が異なり、スタンダードをじっくり掘り下げて、続々と展開していくストイックな演奏です。ギターもいることで、ロリンズのThe Bridgeとかを連想させる感じでした。

このアルバムでは、GH4のクセがかなり明確に現れました。ドラムのハイハット、シンバル、スネアなど、そしてギターの金属っぽい高音域までは、非常に綺麗に展開してくれますが、そのちょっと下に位置するテナーサックスはあまり空間に拡散されず淡々と鳴ります。「地味」というほどではないですが、低音側に行くほど細くなるので、テナーの図太さが無く、アルトっぽい軽さです。音域に穴があるのではなく、音量バランスに緩やかな傾斜があるような感じです。

ここまでいろいろと聴いてみて、GH4はもしかするとSR325eと似ているかも、と思いました。SR325eはグラドファンなら必ず知っている「定番中の定番」モデルで、メタルボディで高音の切れ味が凄いヘッドホンとして有名です。

GH4とSR325eを聴き比べてみたところ、たしかに周波数特性が高音寄りの傾斜具合は非常によく似ています。しかし、両者で大きく異なるのは、SR325eはボリュームを上げていくと高音楽器に「プラスチック臭い」響きがしてきます。つまり、録音以外に別の素材が響いているようで、どの楽器も音が軽く均一に聴こえます。一方GH4は空間に広がる楽器の響きに一辺倒ではない複雑な倍音成分があり、演奏全体が自然で豊かな質感で溢れます。

Gradoの中でSR325eが最高だと思っている人は、多分GH4も気に入ると思うので、ぜひ聴いてみるべきです。SR325eはハードロックやメタルと相性が良いヘッドホンというのが定説ですが、私はあまり聴かないジャンルなのでよくわかりませんが、もしかするとGH4も合うのかもしれません。


ところで、せっかくなのでGH4にGサイズイヤーパッドを装着してみましたが、この組み合わせは相性が悪いようでした。

GSシリーズのGパッドを装着

Gパッドは耳とドライバーの距離を遠ざけて、音響空間を作り、直接音の刺激を低減して立体感を出す傾向なのですが、そもそもGH4自体が高音は空間の広がりを持っており、低音も少なめなので、Gパッドを使うと、全体がさらにフワフワして漂うような曖昧なサウンドになってしまいました。Gパッドはもっと直接音が刺激的なヘッドホンに合うようです。

GH3

GH3は、GH4の弟分といった感じなのですが、実はこれまでのGradoヘッドホンから考えると、かなり珍しい製品です。

ラインナップ全体を見ても、GH3のような「薄型ハウジングにオンイヤー・スポンジパッド」というデザインは、低価格なSR60e・SR80e・SR125e(13,000円~20,000円)といったプラスチックハウジングモデルのみで、そこからアップグレードするとなると、厚手なハウジングとドーナツ型イヤーパッドに移行せざるをえませんでした。

厚みはかなり違います

GH3とGH4を前方から比べると一目瞭然ですが、実はハウジングとイヤーパッドの厚みは、装着感や実用性に大きな差があります。

さらに、スポンジの質感もかなり違います。上位モデルのドーナツ型イヤーパッドはゴワゴワした硬い肌触りなので、それが嫌いだから、あえてフカフカしたオンイヤースポンジを好んで使っている人もいるくらいです。

中身のドライバーは同じようです

ハウジングへの埋め込みも同じです

ケーブルが違います

もうひとつGH3とGH4の大きな違いは、ケーブルです。上の写真を見るとわかりますが、GH3はSRシリーズの細いタイプで、GH4はRSシリーズの太いタイプです。3.5mmコネクターの太さも全然違います。

GradoはSR・RSシリーズともに同じOFC線材を使っているのですが、下位モデルではプラス・マイナスで各一本づつ、左右合計四本のケーブルが入っており、RSシリーズなど上位モデルになると、各二本づつで、合計八本のケーブルになります。素材を変えるのではなく、単純に導体数を二倍に増やすというわかりやすい考え方です。ハウジングから中身を覗いてみると、たしかにGH3は一本、GH4では二本が束になってハンダ付けされています。

上位モデルの太いケーブルは結構重く太く、取り回しが面倒です。GH4の重いケーブルに慣れてからGH3を装着してみると、ケーブルが軽いおかげでヘッドホンの手軽さや扱いやすさに大きく貢献しているように感じました。これ以上細いケーブルだと、かえって捻れて絡まったり、断線が心配になるので、GH3のケーブルは一番使いやすいサイズだと思います。


GH3の音質は、GH4と同じような高音寄りの明るいプレゼンテーションですが、高音の立体的な広がりが狭まったような感じです。音像が耳元に近寄り、響きも短いです。GH4と共通して、高音の音色そのものがクリーンで綺麗なので、歪みっぽさや刺さりが無く、爽快感と聴きやすさが両立しているヘッドホンです。

オンイヤーのスポンジパッドがドライバー面全体を覆っているので、これが若干全体にヴェールをかけて、派手さを抑える効果があります。GH4と同じドーナツ型パッドを装着することも可能で、確かにヴェールっぽさは改善されるものの、空間の広がりはGH3のままなので、そこまで目立った利点はありませんでした。つまりGH3とGH4は同じパッドにしても音は別物ということです。

やはりGH3はスポンジパッドで整えられた音を手軽に楽しむのが良いようです。オンイヤーということで耳が痛くなる心配もありますが、Gradoのヘッドバンドは金属板で、手で曲げることで側圧や頭頂部の形状を自在に調整できるので、実は慣れればかなりフィット感をカスタマイズしやすいヘッドホンです。

おわりに

今回Grado GH3・GH4を試聴せずに思い切って購入したのは、コレクター的な興味本位というか、「今度はどんな音に仕上げたのだろう」というファンとしての好奇心からでした。

もし新作がGH3 & GH3 Compactなどといった名前だったら、わざわざ両方を買わなかったかもしれませんが、すでにGH1・GH2を持っているので、GH3を飛ばしてGH4だけ買うのもなんだかもどかしく、結局両方買ってしまいました。

今後もっととんでもなく高価なGH5とかが登場したらどうするんだ、と心配する人もいるかもしれませんが、こういうのは何かきっかけがあると急に興味が薄れてしまうものです。


GH3とGH4を両方買ってみて、たしかにGH4は高音がすごく良い優秀なヘッドホンですが、個人的にとくにオススメしたいのはGH3の方です。結果的に、両方買って正解でした。

開放型、軽量コンパクトで、手軽に使えて、音抜けがよく、そこそこ高音質で、しかもウッドハウジングの上質感という要素をまとめると、Gradoだけでなく、他のメーカーを含めて珍しいタイプのヘッドホンだと思います。

4万円という値段も、GradoならSR325eとRS2eの中間になり、HD650やSRH1840など大型アラウンドイヤー開放型ヘッドホンに近づく価格帯なのですが、あえてそっちに行かずに軽快なGH3を選ぶというのもマニアックで悪くないです。もしくは、すでに大型開放型ヘッドホンを持っていて、もっと手軽なコンパクトヘッドホンが欲しいけれど、安物で妥協したくないという人にも良いです。

私の場合は、ノートパソコンやタブレットなどでとっさに使う「雑用」ヘッドホンはコンパクト開放型が好きなので、古くはPortaProやAKG K24p、最近ではKOSS KPH30iという4,000円くらいのヘッドホンを好んで使っていて、もうちょっと高価でも良いから、同じくらい手軽なヘッドホンが欲しいと常々思っていたので、そこに思いがけずGH3がスッと入ってきました。もちろんSR80eとかでも良かったのですが、すでに上位Gradoを持っていたので、あえて買うまでもないと侮っていたところ、GH3でようやく軽量Gradoの良さを再認識できたというわけです。

ワイヤレスモデルGW100も初挑戦とは思えないほど完成度が高いので、今後も多方面で頑張ってほしいですが、GH3・GH4の方も、20年以上変わらないデザインでありながら、現代のハイエンドヘッドホンとして十分通用するというのが凄いです。