2019年1月3日木曜日

2018年 個人的に気に入った最新イヤホン・ヘッドホン・アンプとかのまとめ(後半)

2018年の一年間で、個人的に記憶に残った製品を振り返ってみます。

安定して良いモデルが出た一年でした

前半のイヤホン・ヘッドホンに続き、後半はDAPとDAC・ヘッドホンアンプなどです。


DAP

2018年はとりわけDAPバブルというか、インフレが本格化を辿った一年だったと思います。背景には「なにか出せば売れる」巨大な市場があることが最大の理由でしょう。これまではスマホのように「買い替え」がメインだったところに、多くの個性的なメーカーが登場したことにより、二台目・三台目と「買い足す」人が増えたこともあると思います。

スマホやカメラなどなら、既存のフラッグシップモデルの後継機として「同価格で」性能アップした新製品に更新されるべきなのですが、DAPの現状は、多くのメーカーが「次は昨年よりももっと重く高価に」という方向に走っています。値段が高ければ高いほど注目度が上がるので、ライバル同士で価格をどんどん釣り上げるチキンレースは一体どこまで続くのでしょうか。

もちろんどれも音が悪いというわけではないですし、10万円以下でもそこそこ良いモデルが出ています。ただし、操作性に進歩はありませんし、なにか画期的な新技術が投入されたというほどでもありません。


一つだけ残念だったのが、絶妙なスペックと価格設定で健闘していたオンキヨー・パイオニアが、2018年は新作DAPが無かった事です。DP-X1Aも2016年9月発売なので、ずいぶん昔のように感じます。パイオニアの経営に色々あったので、再編が落ち着いた後も以前のような開発やパートナーシップが続くのか心配しています。せっかく好評だったので、舞台から脱落するのは惜しいです。



個人的に贔屓にしているCowonからは、4月に19万円のPlenue 2 Mark II、7月には3万円のPlenue V、そして12月には28万円の最上位モデルPlenue Lと、新作が続々登場しました。使いやすいタッチスクリーンインターフェースとファイル再生のみに特化したシステムはあいかわらず健在で、数あるDAPの中でもひときわオーディオファイル向けなブランドです。

私はPlenue Sというモデルを2016年から毎日飽きずに常用しており、そろそろ気分転換に買い替えようかと思ったりするのですが、2017年にPlenue 2が出たと思ったら一年足らずでMark IIが出て、さらにPlenue Lが出て、あまりにも最上位がコロコロ入れ替わり、音質もそれぞれ違うので、真面目に検討するタイミングを逃してしまいました。バランス出力が3.5mm、2.5mm、4.4mmと次々変わって無節操なのも困ります。それだけ市場が速いペースで動いているのでしょう。

どうでもいい話ですが、Plenue Sといえば、11月に久々のファームウェアアップデートがあって、ようやく「イヤホンを挿すとボリュームがデフォルト値に戻る」という余計な機能がOFFにできるようになり、個人的にとても嬉しかったです。



Fiioからは、主力シリーズのX1・X3・X5・X7は、2017年のX7 Mark IIを最後に一時休止で、そのかわりに2018年は全く新しい「M3K」「M7」「M9」というMシリーズが登場しました。近々M6も追加されるそうです。

M3Kのみ日本ではなぜか未発売ですが、M7・M9はそれぞれ約2万と4万円くらいです。イマイチXシリーズとの差別化がよくわかりませんが、低価格帯でありながら多機能なタッチスクリーンDAPだという点を主張したいようです。

インターフェースは旧iPod Touchを見習って、確かにXシリーズよりもモダンですが、低価格なため起動や操作レスポンスは遅さが目立ちますし、あいかわらずファームウェアの完成度も甘いです。M3K発表時には、音楽再生に特化したデザインを宣言していたのですが、結局は機能盛りだくさんで逆に使いづらくなっており、欲を出して初心を忘れている点が、なんだかFiioらしくて可笑しいです。



もう一つ、中国のメーカーで話題になったのが、HiByMusicの「R6」です。全くの無名ですが、以前からDAPインターフェース関係をOEM供給していた会社のようです。Fiioもそうでしたし、私が持っているQuestyle QP2Rも起動画面にPowered byHiByなんて書いてあります。

ともかく、このR6は値段とスペックが絶妙に良く、音も丁寧によくまとまっています。しかもデザインが中国メーカーとは思えないほどシンプルに洗練されており、Cayinとかも見習ってほしいです。なんだか、もしオンキヨー・パイオニアが真面目な新作を出したらこんな感じだろうなと思うような手触りです。ちょっと割高なステンレスバージョン「R6SS」も同時発売したのも良いアイデアです。

私も一台欲しいのですが、やはり買い替えというより「買い足し」になってしまう心配があったため躊躇していました。そんなところに、発売早々、音質改善と4.4mm端子採用のR6 PROが発表されました。DAPというのは何度もショップに出向いてじっくり聴いて決めるものなので、こんなに頻繁に新作発表されると真面目に試聴する暇がありません。



DAP最大手のAstell&Kernも活気がある一年でした。まず、4月に親会社iRiverブランドで出た「ACTIVO CT10」はかなり良いです。AK DAP由来のインターフェースとオーディオ回路設計を継承しながら、バランス出力廃止とプラスチックハウジングで3万円台に抑えたエントリーモデルです。機能と操作性がAK並に快適なので、カジュアルなDAPとしてだけでなく、USB OTGトランスポートとしても有用です。



続いてAKから、6月にはSR15、8月にSE100、9月にSP1000Mと順調に新作リリースが続きました、それぞれAK300・AK320・AK380の後継機に当たるような第四世代AK DAPです。2017年に登場したSP1000が45万円と非常に高価だったので、中堅ラインナップの更新を待ち望んでいた人も多かったと思います。私はSP1000の音が一番好きですが、下位モデルは単なるダウングレード版ではなく、それぞれ全く異なる設計コンセプトで、音も性格が違うというのが面白いです。やはり長年DAP市場を牽引しているだけあって、無視できない存在感があります。今どのDAPを買うか悩んでいるなら、とりあえずAKを買っておけば間違いないのは確かです。

とくに最近の中国系Android OS系DAPに押されてか、ACTIVO CT10や第四世代AK DAPは、APKファイルから一部アプリをインストールできる機能が追加されました。これでAK DAPで定額ストリーミングも聴けるようになって喜んでいる人も多いでしょう。



ソニーからは、2018年は目立った新作DAPはありませんでしたが、低価格のAシリーズ、中堅NW-ZX300、そしてハイエンドNW-WM1A・WM1Zまで、年を超えて好調に売れ続けているので、さすが基礎設計の良さと満足感の高さは尋常でないと思います。無駄にマイナーチェンジでオーナーを翻弄するよりは堅実で良いです。期待が大きいだけあって、新型を開発するのも大変でしょう。

ひとつだけ、DMP-Z1という95万円の超弩級DAPが登場しましたが、これはポータブルと呼んで良いのか判断に困ります。私はまだ聴く機会が無いのですが、聴いた人は凄いと言っています。ソニーは以前120万円のCDプレイヤーとかを作っていて、その当時から最上位モデルは無駄を削ぎ落として部品一つ一つを厳選するシンプルな回路構成でしたので、その頃を知っている人からすれば、驚きよりも納得のいく話題です。



DAPがインフレしていると言ったのは、そんな95万円のソニーの事ではなく、もっとありふれたポータブルDAPの事です。HIFIMAN R2R2000、L&P LP5 Ultra、Cayin N8、Lotoo Paw Gold Touchなど、今年は中国市場から30万円付近の高級DAPが溢れ出てきました。どれも音は悪くないとしても、価格設定がずいぶんアバウトになってきている感じがあります。

DAC・ヘッドホンアンプ

2018年は、高級DAPは元気がありましたが、DAC+ヘッドホンアンプの新作はポータブル・据え置き型ともに少なかったです。

たとえばベンチャークラフトやALOなど、数年前までかなり頑張っていたポタアン系メーカーが、めっきり音沙汰が無くなってしまったのはちょっと残念です。

技術的にも熟成されたジャンルなので、そこまで買い替えを迫られるものでもありませんし、その点はスピーカーオーディオのプリメインアンプが4~5年くらいの周期で新作が出ているのに近づいているような気がします。実際に今買うとしても、4年前のmicro iDSDやSounDroid Vantamとかでも十分素晴らしい音で、全く古さを感じません。

 

個人的に2018年で特に印象に残ったモデルを発売順に並べると、まず2017年末に登場したAstell&Kern 「ACRO L1000」はオールインワン卓上DACアンプとしてはかなり優秀で、私も一年を通してショップなどで結構多用しました。カジュアルな外見から甘く見られがちですが、音質もパワーも十分健闘しており、実際に使ってみると、パソコンデスクの傍らに置くなら、これくらいがベストだと思えてきます。

この価格帯だと、他にもQuestyle CMA400iとか優れたモデルの選択肢が多いです。

 

3月に発売したイギリスChordの「Qutest」は、Hugo 2からヘッドホンアンプやバッテリーを排除したシンプルな固定ライン出力USB DACです。これはかなり音が気に入ったので、購入して自宅のメインDACとして使ってます。フィルター切り替えで性格が変わるのも良いですし、常時電源を入れっぱなしでも安定しており、まだ不具合に遭遇していません。このご時世にRCA固定ライン出力のみのDACというのは意外と珍しいですが、多機能性を捨てた事が価格に反映していることも嬉しいです。



ドイツRMEからは「ADI-2 DAC」が登場しました。録音スタジオ用ADI-2 PROからA/D変換を排除し、D/A変換のみで価格を下げたモデルです。旧モデルFireface、Babyfaceシリーズが好評だったので、オーナーはそろそろ買い替え時期という意味でも人気があるようです。Chord Qutestとほぼ同額だったので色々悩みましたが、RMEは相変わらずちょっと硬く緻密すぎるサウンドなので、もっと艶っぽくて聴きやすいQutestを選びました。分析的な聴き方ならRMEの方が良いです。

 

4月には、iFi Audioから「xDSD」が登場しました。6万円弱のポータブルDACアンプです。すでにmicro iDSD BLという優れたしいモデルがあり、私もそちらを日々愛用していますが、xDSDは白紙に戻って作り上げた次世代シリーズということです。Bluetoothレシーバーとしても使えるなど、相変わらずiFi Audioらしくギミック満載で、サウンドも以前ほど尖っておらず、力強く厚みがある印象でした。スマホと組み合わせてパワフルなヘッドホンを駆動したいという人にはとくにおすすめです。アナログアンプのみのxCANも近々発売します。



5月にはFiioからもxDSDと似たポータブルDACアンプで「Q5」というのが出ました。値段はちょっと安く4万円くらいで、コアユニットにFiio X7 DAPと互換性のあるアンプモジュールを合体するという仕組みです。すでにX7用に高出力・低ノイズ・バランス出力など色々なタイプのモジュールが販売されているので、おもしろいアイデアだと思います。バランス端子も2.5mm・4.4mm用モジュールなど選べるのも嬉しいです。個人的にはQ5に標準で付属しているモジュールはあまり好きではなく、別売のAM2やAM5の方が音は好みです。

ベストセラーOPPO HA-2SEが無くなってしまった今、そのギャップを埋めるのがFiio Q5やiFi xDSDだと思います。



同じく5月には、米国Mytekのモデルラインナップが更新され、90万円の「Manhattan II DAC」、30万円の「Brooklyn DAC+」、15万円の「Liberty DAC」という三段階になりました。Manhattan IIは高価すぎて感想を書くのも恐れ多いですが、Brooklynはデスクトップ複合機としても、スピーカーシステムに組み込むDACプリとしても、汎用性の高い優れたモデルなので、往年のBenchmark DAC1シリーズのポジションを上手く引き継いだ印象です。サウンドは実直というか地味というか、存在感が消える感じで、あまり印象に残りませんでしたが、それがむしろ長所かもしれません。デザインもモダンでカッコいいです。

 

7月にはAKGから「K1500」という据え置きヘッドホンアンプが登場しました。RCA入力のアナログヘッドホンアンプというやけに古風なモデルなので、なぜ今発売されたのか不思議です。ベイヤーA20とかがライバルでしょうか。値段が6万円弱と意外と手頃なので、既存のDAPやDACと合わせるシンプルなアンプが欲しい人にはちょうどよいです。昨年から色々あったAKGなので、まだ将来のロードマップが見えてきません。AKGといえば、昨年懸念した通り、サムスンの新作スマホやタブレットの裏面に「Tuned by AKG」というロゴが大きく印刷されるようになりました。長年関わってきた人から見たらショックだと思います。



8月に発売した新作で、私もちょっと気になっているのがAROMA 「A100」です。約8万円で、久々に見るアナログポタアンの新作です。オペアンプ駆動の古典的な回路ですが、一般的なポタアンと比べて電源回路の強化にかなり注力しているので、こういったわかりやすくオーディオファイルな製品が私は好きです。残念ながら試聴できておらず、いまさらアナログポタアンを買ってどうするんだという自制心もありますが、マニアックさに魅力を感じています。



マニアックさといえば、10月発売のKorg 「Nu 1」は凄いです。新世代の真空管増幅素子Nutube搭載の据え置き型フォノアンプ・DACプリ・ヘッドホンアンプの複合機で約46万円です。Korgは楽器メーカーで、古くからPCオーディオの先駆者でもありますが、ここ二年ほど、Nutubeの開発と普及に励んでいました。自作キット界隈でも話題になっていますし、Nutube搭載ポタアンがOriolusからすでに登場して好評を得ています。昨年Pass LaboratoriesのNelson PassからもNutubeを採用した試作機が造られるなど、ネットニュースなどとは縁の無いハイエンドオーディオ社会の裏舞台で結構話題になっています。

Korg Nu 1はNutube以外にもかなり画期的な技術を多く搭載する、ハイエンドなユーザーに向けた総決算モデルなのですが、私が面白いと思ったのは、シャーシや基板、電源などの基礎設計は、かつての日本のオーディオメーカーが血気盛んに頑張っていた時代の再来だと思ったからです。もし今でも当時くらい経済に活気があったなら、マランツもDENONもソニーもケンウッドもきっとこれくらいのチャレンジ精神があっただろうと思えるような、「できることは全部やり遂げた」感をNu 1から感じます。



10月には、個性ではNu 1に勝るとも劣らない、iFi Audio 「Pro iDSD」が発売されました。約40万円の据え置き型DACプリ・ヘッドホンアンプです。ショップや友人宅で遭遇する機会が多かったため、今年の新作ヘッドホン試聴の多くはこれで行いました。

2017年のアナログヘッドホンアンプPro iCANの方がヘッドホンアンプのパワーは上ですが、このPro iDSDも十分すぎるくらい高出力なので、オールインワンの卓上機として優れた候補だと思います。とくにDACのフィルターやDSDアップサンプルモードが豊富で、さらに真空管とトランジスターアンプモードを瞬時に切り替える事ができるため、幅広いヘッドホンの種類や音楽ジャンルに対応できる最強の汎用機だと思います。何を買ってもあれこれ目移りしてしまう人は、このPro iDSDが終着点になるかもしれません。



2018年11月には面白いニュースがありました。米国HeadAmp社がようやく日本でも正式に販売が始まるとのことです。HeadAmpは真面目な据え置き型ヘッドホンアンプを作っているメーカーで、米国では10年以上の実績があります。当時まだヘッドホンアンプなんていう概念すら理解されなかった時代でしたから、とにかく最高峰のヘッドホンアンプが欲しいとなれば、HeadAmpがほぼ唯一の選択肢でした。HeadFi掲示板やCanJamイベントなど、米国では定番中の定番です。

今では優れたアンプを作るメーカーも増えてきましたが、HeadAmpは脇見もせずコツコツとアンプデザインの改良に励んでいるのは感心します。中でも100万円もするような「Blue Hawaii」というSTAX静電型用ドライバーアンプは、STAXオーナーにとって至高の存在であり、私も何度か聴いたことがありますが、STAXの性能を最大限に引き出せる素晴らしいアンプでした。



STAXといえば、6月に発売した「SRM-D10」はかなり凄い製品でした。9万円で、バッテリー駆動・USB DAC内蔵のSTAX静電ヘッドホン専用ポータブルアンプ(ドライバーユニット)という奇抜な商品です。これまでのレトロで代わり映えしないSTAXアンプシリーズとは全く異なる新規設計で、PCM384kHz・DSD5.6MHz対応というSTAXらしからぬ高スペック仕様です。

ブログでは紹介していませんが、とくにSR-L700とSRM-D10の組み合わせでは本当に良い音楽体験ができました。SRM-007tAよりもかなり新鮮・高解像で、個人的にはこっちの方が好きです。それを9万円のポータブルユニットで実現してしまうのだから凄いです。正直SR-009Sよりもこっちの組み合わせに興味を惹かれてしまいました。もうちょっとプロモーションが上手ければ、またハイエンドヘッドホン最高峰として再評価が捗ると思うので、そのへんは残念です。ショップなど騒音下で試聴が難しいのが最大の難点でしょうか。


とりあえずそんな感じで、2018年はもっと多くのヘッドホンアンプが登場したと思っていたのですが、意外と少なかったようです。実際に思い返してみると、確かにじっくり使ったのはiFi Audio Pro iDSDくらいでした。年末にはHugo 2の卓上バージョンHugo TT2が登場したので、それも最近使いはじめましたが、まだなんとも言えません。価格はなんと64万円だそうで、安易に感想とかを書くものでもないです。

長い雑談

イヤホン・ヘッドホンと比べて、2018年はDAC・ヘッドホンアンプの新作は少なかったですが、とりわけ目新しい変化もありませんでした。すでに何か持っている人なら、相当音が気に入ったとかでなければ、急いで買い換えるメリットもありません。では変化が無いというのはどういう意味で、個人的に何を期待しているのか、ちょっと考えてみます。


まずDACについてですが、数年前に旭化成(AKM)がAK4497EQを発売したことで、一気に業界全体が落ち着いたような感じがします。それまで高価なESS ES9018など、多種多様なメーカーで価格帯ごとに使い分けされていましたが、今では数万円のDAPから数百万円のハイエンドDACにまでAKMのシェアが圧倒的です。

ESSやバーブラウンと比べてAKMは周辺回路を含めて非常に安く手軽に導入できるのに、それでいて音質の評価が高く、しかも省エネと、文句のつけようがありません。

ちょっと前までは、D/Aチップ銘柄にこだわる熱心な信者が多かったですが、最近のリスナーは経験豊富で試聴も熱心に行っているので、単純にどのチップは高級だからという理由で選ぶ事は少なくなったと思います。(掲示板で討論している人とかは別ですが)。

今となって振り返ってみると、メーカーやユーザーが散々聴き比べて、良い音だと判断したからこそAKMが普及したのでしょう。そして低価格DACの音質性能底上げにも大きく貢献しました。

2018年末には上位チップであるAK4499EQが発表されたので、2019年以降は面白くなってくるかもしれません。AK4497EQの手軽な2ch電圧出力から、AK4499EQは4ch電流出力になったので、各メーカーがAK4497EQでひとまず安泰と思っていたところに、I/V変換などの技量次第で更に上が目指せる可能性が生まれてしまったという事です。

D/Aチップだけで音質が決まるわけではありませんが、とくに電流出力という事は柔軟な回路設計が可能になるので、同じチップでも教科書通りのお手軽回路と、ベテラン設計者の独創的な回路では全く仕上がりが異なる可能性もあります。

もちろん、ディスクリートR2RやChordのFPGAなど、独自のD/A変換を行い、既成チップに頼らないメーカーには、全く縁のない話です。

USB DACを構成する他の部品、つまりUSBインターフェースICや電源、クロックなどは、今のところ、あまり画期的な変化は期待できなさそうです。高精度TCXOクロックもDAPに搭載できるほど省電力・小型化されましたし、既存のXMOSでDXDなど最高録音フォーマットは完全に対応できています。互換性トラブルやバグなどは最近本当に聴かなくなり、とくにOTG接続におけるXMOSの貢献は非常に大きいです。


DACアンプ複合機を見ると、数年前の発売ラッシュ以降、大手メーカーに大きな動きは無く、逆に、無名メーカーが見よう見まねで手軽に低価格な類似品を作れるような時代になりました。そういうのは店頭ではなくeBay・Massdropやネット直販で売っており、スポンサーレビューなどの口コミで、大手以上に結構な数が売れています。

とくに最近は、友人とかから、ネットで売っている格安ヘッドホンアンプを「これどう思う?買うべき?」と尋ねられることが増えて困ります。実際に音を聴いてみないとわからないと言っても、「でもESS Sabreをツインで搭載してて、高級トロイダルトランスと日本製コンデンサで、伝説的マスターエンジニア(?)が設計して、著名レビューブログで五ツ星殿堂入りをとってて・・・」と反論されるのが定番です。

スペックに横並び感があるからこそ、レビューばかり読んでないで、自前のヘッドホンと音楽で、何度もじっくり比較試聴するという初心を思い返す一年だったと思います。




2018年、私の自宅では、PCからUSBでChord Qutest ⇒  Violectric V281という構成で音楽を聴いていました。

USB DACは、もっとハイエンドなスピーカーオーディオ製品が多数発売されているので、そういうのも視野に入れても良いのですが、ヘッドホンシステムは低価格コンパクトがメリットでもあるので、30kgもあるようなフルラックサイズのDACを買うのもバランスが悪いです。

実際Qutestが最高かというと、もうちょっと高くてもSoulnoteなど良いと思いましたし、200万くらいのエソとかも、聴けばやっぱり凄いと思ったりします。私は予算的にもヘッドホンでは10万円台のハーフラックサイズ機で十分満足できています。

では10万円と100万円で聴き比べてみて、そこまで音が違うのかというと、一つだけ経験上言えることは、QutestやRME ADI-2くらいの機種では、環境条件でサウンドが大きく変わってしまう事が多く、一方、定評のあるハイエンド機はそれ単体で完成されていて、外部要因への耐性が強いという事はあると思います。

たとえばQutestはACアダプターを変えることでサウンドがずいぶん変わってしまいます。純正ACアダプター、アップルのやつ、iFi Audio iPower 5V、さらにiFi Audio iPurifier DC2などの組み合わせで聴き比べてみたところ、iPowerだとシンプルでスッキリしすぎて、iPurifierを通すと音数が増えて倍音が強調されて、結局何が正しいのか判断がつかないのが困ります。電源フィルター系は害悪だと言う人もいますが、そもそもQutest内部でしっかりレギュレーションしているのに、5Vアダプターでそこまで大きく音が変わる事自体が不思議です。アース周りとかも関係しているのでしょうか。

Hi-Fi News 11月号でQutestの測定レビューがありましたが、そこでもライン出力で付属ACアダプター由来のノイズが観測されたから、別のアダプターを使った方が良い測定結果になったと言及されているので、少なくとも数値上でも変化があることは確かです。

DACに限ったことではありませんが、やはり電源は重要なようです。オーディオケーブルとかよりも重要かもしれません。内蔵電源なら安心とは言い切れず、同価格帯なら、ほぼACアダプターと同じものが内部に組み込まれているだけの物が多いです。Qutestのような外付けACアダプターであれば、自己責任でアップグレードが容易にできるのがメリットです。

10万円と100万円のDACで、たとえ同じD/Aチップが使われていたとしても、このあたりの作り込みの差が、安定感と値段にダイレクトに反映してくるのだと思います。逆に言えば、そこを自分で追求する意欲があるなら、10万円台のDACも遊び甲斐があるという事です。


DACやアンプ以外で最近見過ごせないのが、ネットワークやHDDトランスポートです。私も数年前から導入したいと思っていながら、未だに手を出していません。

先日も友人宅でMELCO DELAのデジタルライブラリーからUSB DACに送って聴いたのですが、とくに空間の表現がノートパソコンから送るよりもずいぶん優れていて驚きました。なんというか、音場が空間に浮かぶのではなく、楽器の下の床などの存在が明確になるのです。単純に私のPCがしょぼいという事もあるかもしれません。

ネットワークトランスポートは、数年前に試した時は、ライブラリーのファイル数が多すぎると挙動が遅くなり、アルバム観覧が飛び飛びになるなど、使い勝手に問題がありました。DELAやAurenderなどHDDトランスポートは、安いやつは3TBなど少なすぎるので買っていません。私は音楽を8TBのミラーリングNASで保存してあるのですが、結局ここ5年くらいはパソコン上のJRiver Media Centerが欠かせません。

それでも使いたいとなると、いくつか聴きたいアルバムだけNASからHDDトランスポートにコピーするのが良いのかもしれません。DAPを使うのと同じ感覚ですね。



2018年、私はポータブルDAPはCowon Plenue SとQuestyle QP2R、ポータブルDACアンプはiFi Audio micro iDSD BLとJVC SU-AX01を主に使いました。

とくにDAPは、音質は毎年良くなってきていると思うのですが、値段は高価になっているのに駆動性能や基本スペックは以前と大差無いのが困ります。

ようするに「バッテリーは10時間再生、内蔵ストレージは多くて256GB、電圧ゲインとパワーがいまひとつ弱い」といった図式が、2014年くらいで完成されて以来ほとんど進化していません。唯一毎年増えているのは、金属削り出しボディの重さくらいです。

根底にあるのは、どんなに高級感を演出しても、バッテリーも電源回路もスマホ工場で調達できるもので済ませて、それ以上オーディオファイルに特化したアンプ設計が出来ていない事です。

ほとんどのDAPが30Ω500mW程度で、最大電圧はシングルエンドで5Vpp、差動で10Vppくらいを目安にしているので、実用上ちょっと厳しいです。

私が持っているQuestyle QP2Rを例に挙げると、ちょうどよいイヤホンでは本当に素晴らしいサウンドを繰り広げるのですが、感度が高いCampfire Audio Andromedaではバックグラウンドノイズが目立ち、感度が低いFinal E5000では歪みが発生します。AKやPlenueなども少なからず同じような限界があるので、高価なくせに使い所が限定されるのがDAPの問題です。


シングルエンドで高電圧を得るのが難しいとなれば、バランス駆動も役に立ちますが、もちろん出力インピーダンスやノイズフロアの悪化など弊害もあるので、理屈だけではなく実際に音楽を聴いて使い分ける事が重要です。

バランス端子といえば、2018年は想像以上に4.4mmタイプが普及したので驚きました。発表当時はこんなの絶対流行らないなんて笑っていたのが懐かしいです。中国メーカーを中心に、正直私もここまで急速に導入されるとは思ってもいませんでした。

AKは2.5mmバランス出力端子の先導者だけあって、第四世代DAPも2.5mmを装備していますが、多くのメーカーに急に寝返られて危うい状況です。

実用上、2.5mmは接点間隔が非常に狭いため、ケーブル線材太さの制限や、半田パッドの狭さ、絶縁体クロストークの問題があるため、より高音質が実現しやすいのは4.4mmだと思います。

そういえばちょうど一年前に、中国メーカーは今後3.5mmバランスをスタンダードにするといったアライアンスが発表されましたけど、進展が無かったですね。



私にとって、DAPがこれ以上進化するためには、もうちょっと電源品質を上げて、アンプのゲインと出力アップ、ダイナミックレンジ拡大を望みたいです。Hugo 2並のパワーを持つDAPはなぜ出てこないのでしょうか。

DAPの電源強化というと、今年唯一思い当たるのがソニーDMP-Z1、という事実に笑ってしまいます。中身はほぼ巨大な電池とボリュームノブくらいしか入っていません。

ソニーの探究心には感服しますが、あそこまで高品質をやりすぎなくてもいいので、他のメーカーで、同じくらい強力・高スペックな(値段の安い)巨大DAPが登場することを期待しています。

たとえばAK KANNはコンセプトとしては良かったのですが、作り込みは甘かったので、あの系統をもっと突き進めて、L1000っぽいのを移植するとかできないでしょうか。FiioもせっかくAM5モジュールがあるのだから、もう多機能は止めて、高音質へ全てを注ぎ込めば凄いDAPができる技量はあります。QuestyleもQP2Rはむしろ小さすぎて使いづらいので、あれの二倍のサイズでも良いので、CMAシリーズに匹敵するパワーが欲しいです。他のDAPメーカーも同様に、来年以降はなにか一歩先へ踏み込んだモデルを作ってもらいたいと思います。


ところで、これだけポータブルではヘッドホンの駆動は難しいと言っていながら、皮肉なのは、STAXヘッドホンが実は静電板帯電のため580Vさえ作れれば駆動自体はそこまで苦労しないので、ポータブルアンプSRM-D10で十分満足に鳴っているという現状です。

永久磁石でそこまで駆動に苦労するのなら、開発次第ではポータブルもやっぱり静電式が一番良いという結論になったり、もしくは将来はエレクトレット式にファンタム電源を送るなんて事になるかもしれません。

他にも、ソニーも業績が良好な今だからこそ大出力次世代S-Masterモジュールを開発するとか、KORGはNutubeでKT150並のパワー管とか作れませんかね。あと電気自動車・自転車などの需要から小型で大電流が扱えるSiCなどのデバイスも増えてきましたし、あらためて退屈なパラレルSEPPではなくシンプルなワンチップクラスAとか、HypexやICEpowerなどのクラスDモジュールを活用したヘッドホンアンプとかはダメですかね。

ヘッドホンアンプにはまだまだ実験する可能性があると思うのですが、とくに2018年は目立った進化が見られなかったので、色々と想像を巡らせてみました。2019年はもっと凄い一年を期待しています。