2019年1月1日火曜日

2018年 個人的に気に入った最新イヤホン・ヘッドホン・アンプとかのまとめ(前半)

年末年始は実家に帰省していてヒマなので、餅を食べている合間に2018年一年間のヘッドホンオーディオ新製品について適当に振り返ってみようと思いました。

2018年に買って良かったモデルとか

まず前半はイヤホン・ヘッドホンで、別項の後半はDAP、DAC・ヘッドホンアンプなどです。


2018年のヘッドホンオーディオ

ヘッドホン・イヤホンブームは2018年もまだまだ続いているようで、エントリーモデルから超ハイエンドまであいかわらず新作が豊富な一年でした。私のような消費者側としては、ブームがずいぶん長く続いている感じがするのですが、実際のところメーカーや小売店などは現状をどう見ているのか興味があります。

今回は各ジャンルごとに私の印象に残ったモデルを思い返してみますが、もちろんいくら私がヘッドホンマニアだからといって、今年発売された全てのモデルを聴いているわけではないので、あくまで個人的な一年の話です。

実際ブログで扱ったよりもかなり多くの商品を聴いているのですが、これといってコメントが思い浮かばなかったものや、写真が撮れなかったものなどはあえて紹介していませんし、逆にどうしても聴きたかったけれど、じっくり試聴する機会が無かったものも結構あります。

ヘッドホン

まず2018年のヘッドホンですが、私にとっては2017年12月に発売されたフォステクスT60RPが衝撃的でした。2018年に入ってから購入したので、今年一年はずっとそれと付き合ってきた印象が強いです。

3万円弱という低価格ながら、平面型ドライバーのリニア感、音抜けの良さ、木材ハウジングの響き、といった開放と密閉ヘッドホンの両方に求められる要素を上手くまとめたセンスの良いヘッドホンです。派手な奥行きや展開の広さはありませんが、普段のリスニングで十分使えています。



密閉型TH610も長らく気に入って使っているので、最近のフォステクスの音が私の好みに合っているようです。目立った癖が無く、飽きが来ません。どちらも私にとって優れたヘッドホンデザインの手本みたいな製品です。



10月に発売されたフォステクス最上位の開放型「TH909」も本当に凄い完成度です。密閉型TH900をベースにしていながら、さらに上の次元に到達したと思いました。今一番欲しいヘッドホンの一つなのですが、値段が20万円を超えるため試聴のみに留まりました。

TH909に限らず、高価なヘッドホンにそこまでの価値が無いという意味ではなく、私が趣味であれこれ色々と個性的なヘッドホンを買ってしまい、ここまで高いのを買っても日々使いこなせないので、予算的に勿体無いというだけです。

もし何か一台だけ凄いヘッドホンを買いたいという人なら、このTH909とか、あとはオーテクADX5000などは、現時点で最高峰に優れたヘッドホンだと思っています。



ソニーからは、2016年のMDR-Z1Rが未だにフラッグシップですが、そこで培ってきた技術をもとに、下位モデルの更新が一挙に行われた一年でした。2012年から続く主力モデルMDR-1シリーズは通算四代目の「MDR-1AM2」になりました。

すでに前作MDR-1Aの時点で優れたヘッドホンでしたが、AM2でも細かいリファインで進化しています。あいかわらず二万円台で幅広いジャンルに対応できるヘッドホンとして完璧です。



さらに2014年から長らくアップデートが期待されていた、5万円台のMDR-Z7も「MDR-Z7M2」に進化しました。こちらもZ7での不満をしっかり改善していくという手法で、前作よりも新鮮でクリアになった印象です。

毎回奇抜なモデルを出すのではなく、こうやって一つのデザインを着々と数年単位で進化させていく姿勢は良いと思います。もっといえば、最初から装着感などの基礎設計がしっかりしているということでもあります。



オーテクも2018年は似たような一年で、2017年登場のフラッグシップATH-ADX5000は未だに圧倒的な印象を残していますが、2018年はATH-MSR7の改良版「ATH-MSR7b」、ベストセラーATH-M50xのBluetooth版「ATH-M50xBT」、さらに海外ではM50xの上位モデル「ATH-M60x」など、3万円以下くらいの価格帯で大きな変化がありました。

中でもMSR7bは、昨年の限定モデルMSR7SEをベースにした新設計ドライバーや、新型イヤーパッド、そしてA2DCバランスケーブルなど、初代から全く別物になりました。M60xもM50xとは正反対の厚く温かい音作りなので、過去の「オーテクっぽい音」からずいぶん変わってきたように思います。



オーテクっぽいといえば、2018年はチタンハウジングにDLCドライバーを搭載した「ATH-AP2000Ti」という15万円のハイエンド密閉型ヘッドホンが登場しました。前作ATH-A2000zが結構良かったので気になっているのですが、残念ながらまだ試聴できていません。



DENONも、2016年のトップモデルAH-D7200をベースに、6万円の「AH-D5200」、17万円の「AH-D9200」とラインナップを三兄弟に拡張しました。

さらに2010年からのロングセラーだったAH-D1100の後継機「AH-D1200」がようやく登場したので、待望していたファンも多かったと思います。サウンドはどれもDENONらしく安心して聴けるリラックス系なので、こういったチューニングのイメージが確立しているブランドは安泰です。

 

11月にはJVCからもウッドハウジングの高級機「HA-WM90-B」が、なんといきなり38万円というとんでもない価格で登場しました。まだ聴けていませんが、コアなファンの多い2009年発売のHP-DX700と同様に、ウッドフレームにダイナミックドライバーを直付けしている点はJVCらしい伝統芸です。今回のドライバー振動板は透明なプラスチックですが、私としてはここはJVCしかできないウッドドライバー搭載機を期待したいです。

こうなってしまうと、どうしようもありません

JVCといえば、2016年に発売した2万円台のHA-MX100-Zは手軽で音も良く、けっこう気に入って多用していました。ところが1年ちょっとでイヤーパッドが加水分解かなにかでボロボロに朽ち果ててしまいました。他のメーカーでも、未だにそういう素材のヘッドホンが結構多いです。また最近は低反発ウレタンをギュッと詰めてあるイヤーパッドも多く、昔のスポンジと比べて内部の張力が大きいため、使っていると縫い目が破裂するのもいくつかありました。古いヘッドホンを何十台もコレクションで持っていると、久しぶりに使おうと思ったらかなりの確率で劣化しているのでショックです。高音質も大事ですが、各メーカーはゴムやビニールなどの素材寿命に関してはもうちょっと注力してもらいたいです。



イヤーパッドがボロいといえば、アメリカのGradoは10月にHeritage Seriesの新作「GH3」「GH4」を発売しました。数量限定で綺麗な木材をハウジングに使っているシリーズで、私もこれまでGH1・GH2と買っていたので、その惰性でGH3・GH4も買ってしまいました。

まるで楽器のように毎回チューニングが大幅に異なるので、自分好みのサウンドを見つけるのが楽しいです。とくにGH3はこれまでなかった薄型タイプのウッドハウジングなので、使い勝手が良いです。同時期に海外では、Grado初のBluetoothワイヤレスヘッドホンGW1も発売しました。ワイヤレスでオンイヤー開放型というのは使ってみると意外と良いアイデアだと思いました。

Gradoといえば、スポンジイヤーパッドが5年ほどで粉々になるので、私の古いコレクションがどれも悲惨な状態で困っています、伝統も大事ですが、そろそろ一念発起で根本的に材料選択の見直しを行ってもらいたいです。



さらにアメリカのメーカーつながりで、3月にはイヤホンメーカーCampfire Audioから初のヘッドホン「Cascade」が登場しました。10万円で、削り出しハウジングにベリリウム振動板と、Campfireイヤホンの特徴をちゃんと体現している密閉型ヘッドホンです。

かなり派手でワイルドな、とくに重低音が凄いヘッドホンなので、私も面白くて買ってしまいましたが、装着感が悪くて後日手放しました。数カ月後には別売で布製イヤーパッドを発売したのもCampfireらしいフットワークの軽さです。



6月にはベイヤーダイナミックからAmironのBluetooth版「Amiron Wireless」が登場しました。あのサイズの大型ヘッドホンでワイヤレスというのはこれまであまり無かったので、とくに家庭でしか音楽は聴かないけどワイヤレスが欲しいという人に意外と好評なようです。ワイヤレスでも、一辺倒にポータブルと想定した商品しか作らないよりは、こういうニッチの方が一定数は売れそうです。

8月には、2017年にワイヤレスで登場したAventho Wirelessの有線版「Aventho Wired」が登場しました。T1やAmironなど上級機に使われているテスラテクノロジードライバーを搭載したコンパクトオンイヤー型で、T51p・DT1350PROなどの後継機、ゼンハイザーHD25のライバル的存在です。私もワイヤレス版はしっくりきませんでしたが有線版は気に入って買いました。このサイズのポータブル機としては音が良く、T1やT5p 2ndと同じ左右両出し着脱ケーブル端子を採用しているのも便利です。



ベイヤーといえばそろそろトップモデルT1 2ndの後継機とかを期待したい時期ですが、年末には意外にもAKとのコラボが復活して、密閉型「AK T5p 2nd Generation」が登場しました。約15万円弱だそうです。

コラボはAK t8ie以降音沙汰が無かったので、縁が切れたかと思ったところに嬉しい知らせです。本家T5p 2ndからケーブルがアップグレードされている事は見てわかりますが、まだ未聴なのでどんな音か不明です。私自身はベイヤーT5p 2ndがとても好きで、前から欲しかったのですが、つい最近友人から中古で安く買う事ができました。そのせいでこのAKバージョンの存在は無視できません。

ところで、ベイヤーは私が以前からかなり贔屓にしているメーカーです。これまではストイックなモニターサウンドで有名でしたが、最近は経営方針が変わったのか、ずいぶん中低音が豊かな路線のモデルが増えてきました。2018年にはメーカーロゴも一新するなど、イメージチェンジを図っているようです。これからもDTシリーズなど堅実なドイツ製モデルでブランドのアイデンティティを守っていくのか、そのへんがちょっと気がかりです。



続いて7月には、ゼンハイザーから最上位モデルHD800Sの密閉型バージョン「HD820」が登場しました。発売価格は約30万円と、HD800Sと比べても非常に高価です。サウンドはHD800Sの密閉型というよりは、全く別物に仕上がっていますが、密閉型としては悪くないです。ただ、最近の高級イヤホンバブルに釣られてか、他社モデルと比べてもここまで高価である必要があったのか疑問に思います。



ベイヤー、ゼンハイザーに続いてドイツメーカーのUltrasoneからは、10月にEditionシリーズの新型「Edition Eleven」が登場しました。開放型ウッドハウジングに40mmバイオセルロースドライバーを搭載、UltrasoneらしくS-Logic Plusも導入されています。とくにこの新型ドライバーとS-Logicの相乗効果が上手く効いており、以前のUltrasoneからは考えられないほど温厚で耳当たりの心地良いサウンドです。私も気に入って購入しました。

Ultrasoneは新作のペースがゆっくりなので、以前ほど存在感が強くありませんが、それでもTribute 7やEdition Elevenなど良いモデルを連発しています。数万円のエントリーモデルも地道に改良を重ねているので、未だ侮れないメーカーです。



平面駆動型ヘッドホンメーカー勢の2018年はというと、まずHIFIMANからエントリーモデル「Sundara」が5万円台で、さらに中堅の「Ananda」が登場しました。Sundaraは好評だったHE-400シリーズの後継のようで、一方Anandaは上位モデルEdition X・HE1000と同じ楕円形大型ハウジングで価格は10万円程度に抑えてあります。どちらもヘッドバンド形状が変わったので新型だと見分けがつきます

さらに2018年は20万円の「HE6se」、100万円の「Shangri-La Jr」、45万円の「HE1000se」と、あいかわらず超高額なモデルも更新が早くてついていけません。私はHE-560という2014年の中堅モデルを長らくメインの開放型ヘッドホンとして使っていたのですが(現在は実売6万円くらいです)、それと比べると最近のモデルは明るさ・透明感が一層際立っています。

平面駆動型を2万円台から幅広い価格帯で揃えているのが魅力的ですが、上位モデルになるほど響きの厚みや艶やかさが増すのはAudezeなどと似ています。ちなみにHIFIMANは国内公式サイトとアマゾンなどの値段が大幅に異なる場合があるので、購入の際には色々調べる必要があります。



平面駆動型の大御所Audezeは、2018年は低価格ラインを拡張しました。販売台数はもはや大手メーカークラスですから、プレミアム演出で単価を上げるのではなく、量産効果で、品質を落とさずに価格を下げる事ができるのでしょう。

あいかわらず50万円のフラッグシップLCD4は健在ですが、今年は「LCD-XC Music Creator Special」、「LCD-2 Classic」、「LCD2 Closed Back」など、10-20万円くらいのモデルを連発しています。安易な廉価版ではなく、たとえばXC Music Creator Specialなら豪華トラベルケース無し、Classicなら旧世代ドライバーの復刻といった感じに、低価格である理由とラインナップ上下関係を明確にしているところがスマートです。



同じく平面駆動型で最近力をつけてきたMrSpeakersからは、2016年モデルEther Flowと密閉型Ether C Flowが「1.1」というタイプに更新されました。チューニング調整とケーブル変更だそうです。さらに上位モデルとしてEther 2というのも登場しています。

どれも20万円超の高級ヘッドホンですが、Audeze・HIFIMANとは一味違う重量感のあるサウンドなので気にいる人も多いと思います。



さらに2018年はMrSpeakersから初の静電型ヘッドホン「Voce」が印象に残ります。こちらも40万円超の高価なヘッドホンで、音を出すにはSTAX用のドライバーユニット(アンプ)が必要です。

開放的できめ細かいサウンドは静電型らしいですが、ダイナミックレンジは限定的で、高い音圧で潰れる感じがあるので、非常に静かなリスニング環境が必須です。そのへんは往年の初期STAXヘッドホンと似ています。それにしても、小さな会社でよくここまでマニアックなヘッドホンを作ったことに感心しました。



同時期に、STAXからも最上位ヘッドホンSR-009の後継機「SR-009S」が、同じく40万円台で登場したのが面白いです。こちらは流石に何十年にもわたる静電型のベテランメーカーなので、旧作をリファインした圧倒的なサウンドでした(イベントで試聴したのみですが)。

最近のSTAXは以前のような薄さや線の細さという弱点を克服して、低音までしっかり鳴るようになったので、逆に静電っぽさは薄れたかもしれません。ドライバーユニットを含めて100万円にもなるシステムですが、ヘッドホンで究極を目指すなら絶対に聴くべきです。

ゲーミング・映像鑑賞用ヘッドホン

ちょっと特殊なジャンルですが、私はPCやテレビでゲーム・映画・コンサートなどを鑑賞するためのサラウンドヘッドホンというのに興味があります。サラウンドエフェクトというよりは、5.1chなどマルチチャンネルデジタル入力に対応するヘッドホンという意味です。とくに最近のゲームはマルチチャンネル・サラウンド音声を体験できなければ魅力が半減すると思っています。



ご存知の方なら、長年このジャンルの定番はソニーMDR-HW700DSヘッドホンで異論は無いと思います。HDMIパススルー送信機からのワイヤレスヘッドホンで、5.1chや7.1ch PCMサラウンド音声をバーチャルサラウンドとしてヘッドホンに送ります。価格は5万円くらいでした。



そのHW700DSは2013年発売なので、そろそろ買い替え時というタイミングで、今年2月に発売されたのがソニー「WH-L600」でした。5年分の技術進歩は尋常でないだろうと思い、私もまっさきに購入したところ、確かにサラウンドプロセッサーの音響性能は向上しているのですが、2万円台という価格設定で明らかにチープに造られており、マニアとしては機能・音質ともに満足がいかない中途半端に使いづらいモデルでした。



それでも我慢して使っていたところ、9月にはAudezeからゲーミングヘッドホンとして「Mobius」というモデルが登場しました。

Audeze平面駆動ドライバー搭載で、ハイレゾ・7chサラウンドUSB DACを内蔵しており、ヘッドホンケーブルの代わりにパソコンからUSBケーブル直挿しで、サラウンドDACヘッドホンとして使います。もしくはBluetoothでワイヤレスステレオヘッドホンとしても使えるという多機能なモデルで、5万円台と値段も安いです。平面駆動ドライバーのおかげで音質が良く、さらにヘッドトラッキングジャイロ搭載で、疑似音響空間を形成してくれるため、ゲームでのサラウンド音響が今までに体験したことが無いくらいリアルです。

他にもバーチャルサラウンドヘッドホンというのは色々売っていますが、このMobiusほど音質が良く、トータルパッケージとして値段が安く完成度が高いものはありません。

Mobiusは2018年の全てのオーディオ製品の中で、個人的に一番衝撃的で印象に残った製品です。ただしピュアオーディオとかオーディオマニア向けというわけではないので、あえて別項扱いにしました。

ワイヤレス・NCなど

私は結構真面目にアルバム一枚を通して聴くような性格なので、外出時や片手間のBGMとして音楽を聴く事はあまりしません。そのため、最近流行りのワイヤレスヘッドホンなどは積極的にチェックしていないのですが、それでもショップに行けば売れ筋の主力商品が山程ありますから、一応聴いてみたりはします。

近頃のカジュアルユーザー向けイヤホン・ヘッドホンの売れ筋は、4万円くらいが上限のようです。これは数年前にBOSEやBEATSなどの前例をもとに自然とそうなったようです。人気ジャンルなので、大手メーカー同士の競争が激しく、価格帯ごとにギリギリで勝負している感じは、ボッタクリ臭いハイエンドオーディオと比べて健康的で良いです。

とくに2018年は左右独立でケーブルが無い「完全ワイヤレス」型イヤホンが爆発的に普及した一年でした。一年前はApple EarPodsがバカにされていたのに、みんな手のひらを返すように急に欲しがるようになったので、ショップでも売れ筋の在庫を確保して価格帯ごとのラインナップを増やすのに苦労した一年だったようです。



完全ワイヤレスでアクティブNC搭載機だと、まだ完璧とは言えないもののソニー「WF-1000X」が一人勝ち状態なので、やはりこの手の精密電子機器での技術力の高さは依然としてソニーが強いようです。



NC無しだと、私は2017年末のB&O E8とかが結構好きでしたが、「ATH−CKR7TW」とかもオーテクらしいサウンドで良かったです。2018年末はゼンハイザーの「Momentum True Wireless」が世界的に大ヒットしているようです。私もちょっと聴いてみましたが、確かに3万円台のイヤホンとしては、ケーブル有りのイヤホンと比べても十分高音質で、装着感もデザインも良いと思いました。 各社から一足遅れて、完成度の高いモデルをしれっと出すのがゼンハイザーらしいです。

完全ワイヤレスは今後もますます普及すると思いますが、私自身はまだ何も買ってません。バッテリー再生が2-3時間と短すぎるのと(これではオペラ一本も聴けません)、ペアリングが面倒というのが大きな理由です。それと、2-3万円くらいの有線イヤホンとならいい勝負ができますが、それ以上のハイエンドイヤホンに要求される音質性能をBluetoothで実現するのは無理だと思います。

あと、急に電波障害で音飛びするのも問題です。Bluetoothは今、想定以上に普及しすぎたせいで、街中での帯域やチャンネル数が全然足りなくなり、電波法があるので出力を上げるわけにも独自規格を作るわけにも行かず、行き詰まり状態なので、今後なにか規格自体に画期的な変化が無い限り、これ以上の高音質化はあまり期待できません。

圧縮されたデジタルデータを電波で送って、イヤホン内の超小型DAC・ヘッドホンアンプICチップでドライバーを駆動しているのだから、大型DAPからケーブルで鳴らすのと比べたら分が悪いのは当然です。音質面では、ちゃんとオーテクやゼンハイザーなど各社らしい音が出せているモデルが増えてきたのは良い傾向です。




一方、アクティブNCの方は順調に進化しているようで、特に10月に発売したソニー「WH-1000XM3」は凄いと思いました。私もBOSE QC35からようやく買い替えました。主に飛行機での長旅に使うのですが、昨年モデルXM2と比べてもNC性能が飛躍的に進化していて、残留ノイズの圧迫感や「うねる」感じがほとんど無くなって快適さが増しました。

2018年、なぜかBOSEは、ノイズが鳴ってリラックスできる安眠イヤホンとか、音が鳴るサングラスとか、ちょっと風変わりな路線に注力しており、QC35は安泰だと思っていたところをソニーが追い抜いてきた感じです。来年巻き返しはあるのでしょうか。

私が使うレベルでは、大型ヘッドホンでのアクティブNCヘッドホンは、もはや実用上不満が出ないくらい完璧に近づいています。将来的に、これと同じくらいの高性能を完全ワイヤレスイヤホンでも実現してくれる日を待ち望んでいます。

イヤホン

有線のオーディオファイル向けイヤホンのみに注目すると、2018年も新作の発売ラッシュが続きました。

全体的な値段高騰というよりは、特にこれまで数千円台のチープイヤホンばかり出していた中国工場系列から続々と2-5万円台のイヤホンが発売しだしたので、市場が明らかに過剰供給バブルです。特にアマゾンとかは無法地帯ですね。

私はあまり無名ブランド開拓に熱心ではないのですが、よくショップや友人の持ち込みでそれらを試聴することはあります。

実際に聴いてみて、とんでもなく酷いイヤホンというのはそうそう無くなってきたので、確かに値段相応の価値はあると思うのですが、飛び抜けてコスパが高いというわけでもありません。どれも「この値段なら、まあこれくらいの性能か」と、なんともコメントに困るものです。(持参した相手は「どうだ凄いだろう驚いただろう」と言いたげなのですが)。

ともかく、最近になって高音質イヤホンに興味を持った人は、いざ量販店に行っても、あまりに豊富な選択肢に目を回してしまうと思います。そんな時、やはり長年業界にて定評のある大手メーカーというのは、薦める側としても一定の安心感があります。



そんな中でも、とくに活発だったのが米国Campfire Audioで、過去のデザインラインナップと決別し、「Comet」「Atlas」「Solaris」とそれぞれBA、ダイナミック、ハイブリッドでの新作を発表しました。

今年の作品はどれもサウンドに勢いがあり太く押しが強い印象で、モデルごとに特定のユーザーのハートをグッと掴む逸品ぞろいです。最上位Solarisは19万円と高価ですが、シングルBAのCometがステンレス削り出しで3万円弱なのはお買い得感があります。



2月に中国DAP・ポタアンのベテランFiioから「FH1」「F9」「F9 PRO」といったIEMイヤホンが登場しました。Fiioらしくコストパフォーマンス重視で、どれも1万円台でありながら最近流行のBA+ダイナミックドライバーのハイブリッド型です。7月には4万円で3BA+1ダイナミックの「FH5」が登場し、これも豪華なアクセサリーやケーブルなど盛りだくさんで、ずいぶんお買い得感がありました。

中国ブランドというとプレミアム演出の高価なモデルが増えた中で、あいかわらず「どうやって、これだけの物量をこんなに安く作れるんだ」と毎回驚かせてくれるところがFiioらしいです。



3月には、AKGのIEMイヤホンN5005が登場しました。約9万円で、4BA+1ダイナミックのハイブリッド型です。AKGは2011年のK3003でハイブリッド型の凄さを知らしめた先駆者でしたが、以降そのクラスのイヤホンを出しておらず、N5005は待望の新作でした。K3003ほど尖っておらず、現代のニーズに合わせた優秀なイヤホンだと思ったので、今後もこの路線でどんどん新作を作ってほしいです。

それと、AKGが出しているアップグレードケーブル各種は比較的安価で、音も取り回しも良好なので、こちらも今後継続して頑張ってもらいたいです。



4月にはシンガポールDITAから、13万円の「Twins Fidelity・Fealty」というモデルが登場しました。同じ価格で、ドライバー振動板の仕様を若干変えた二つのモデルを同時発売し、リスナーの好みでどちらか選ぶ、という斬新なアイデアです。

私は昨年これの試作機のようなDita Dreamというイヤホンを買って、現在も愛用しています。ハウジングがDreamのチタンから、Twinsはアルミになったためか、サウンドはDreamほど硬質に研ぎ澄まされた感じはせず、もっと汎用性が高いイヤホンだと思いました。



同じく4月には、IEMイヤホンの最大手Shureがラインナップを一新するというニュースを聞いて、勝手にワクワクしていたのですが、結局イヤホン本体はそのままで、パッケージ構成が変わっただけでした。

MMCX端子でケーブル着脱可能というメリットを活かして、新たにBluetoothケーブルを同梱することで、ユーザーのニーズに答えています。定番のSE535LTDやSE846は、それぞれ2011・2013年のモデルですが、今でも好調に売れているので、あえて何も変える必要が無いということでしょう。

余談になりますが、MMCX端子といえば、ここ数年で粗悪な「アップグレード」ケーブルが増えてきたせいか、身の回りでユーザーのトラブルが例年より増えたように思います。Shureに限らず、相性の悪いMMCXケーブルを無理やり挿入すると、太いセンターピンがイヤホン側の接点端子を広げてしまい、以降純正ケーブルに戻してもセンターピンが接触しなくなってしまうトラブルが多いです。さらに今年見たので一番酷かったのは、アップグレードケーブルのセンターピンが太すぎて、SE846の端子を潰して、ボキッともぎ取ってしまったやつでした。ケーブルを外してみたら、イヤホン側の端子が折れて無くなっているのです。そういうトラブルがあるので、ケーブル交換には必ず多少のリスクが伴います。特に最近アマゾンなどで増えている出所不明な「一見ハイエンド」ケーブルは注意が必要です。(実際それで壊れました)。



iRiverとJH AudioのコラボAK The Siren Seriesは、有名な高級モデルAK Roxanne II、AK Layla IIなどはすでにカタログから消えてしまいましたが、2016年のMichelleに続き、2018年は3万円台の「Billie Jean」、9万円の「Diana」といった堅実なモデルが増えました。どれもJH Audioらしくパリッとタイミングが揃った高解像サウンドなので、AK DAPとのコラボ相性も良さそうです。装着感はとても軽快で良いですが、JH Audio特有の太く長い音導管が好き嫌いが分かれそうです。この路線でまたRoxanne、Layla相当のハイエンドモデルは出るのでしょうか。



4月に発売したFinal 「E4000」「E5000」は、個人的に今年一番好きになったイヤホンでした。それぞれ15,000円・30,000円と、そこまで高価ではありませんが、簡素なチューブハウジングに小型ダイナミックドライバー単発で、ここまで凄い立体音響を再現できるのかと驚かされました。私はちょっと高音が派手目なE5000を買いましたが、ボーカルなんかはE4000の方が良いという人も多いので、安いから劣っているというわけではありません。

たとえばEtymotic ER4Sのようにグッと耳穴奥に挿入するのではなく、普通のシリコンで気軽にパッと装着するだけで高音質が得られるのがなお凄いです。唯一の難点は、駆動が難しく、生半可なDAP程度のパワーではスカスカな音で全然真価が発揮できないので、「手軽なイヤホン」というコンセプトと相反するのが困ります。据え置きの強力なアンプと合わせて聴いてみると面白いです。



5月には、64Audioから新作tia TrioとU12tが登場しました。こちらも2017年の同じころフラッグシップモデルのtia FourtéとU18 Tzarが登場したので、その技術をベースにした下位モデルです。FourtéとTrioはハイブリッド構成でそれぞれ約44・30万円、U18 TzarとU12tはマルチBAで37・26万円くらいなので、下位モデルといえど、あまりにも高価すぎるイヤホンであることには変わりません。

64AudioはIEMでありながらセミオープンっぽく圧力を逃がす設計なので、過去モデルでは比較的マイルドでゆるい性格でしたが、最近のtiaドライバー(音導管ノズルに小さなBAドライバーが入っている)モデルは高音の刺激が強いです。私の好みとしてはtia無しのモデルもユニバーサルタイプに残してもらいたいです。(tia無しのN8カスタムの試聴機が結構好きです)。



7月にはHIFIMANから、2017年モデルRE2000・RE800の廉価版RE2000 Silver・RE800 Silverが登場しました。超弩級の平面駆動型ヘッドホンで有名なHIFIMANですが、イヤホンも地道に作っています。どちらもダイナミック型、2017年版がそれぞれ19・8万円くらいでしたが、Silver版で14・6万円くらいに下がって買いやすくなりました。音は良いメーカーなのですが、その後すぐに実売価格が8・3万円台に暴落するなど、売り方に難点があります。

HIFIMANに限らず、とくに中国系のメーカーはスマホやパソコン感覚のビジネスなのかもしれませんが、価格設定の信憑性が失われるので、ハイエンドオーディオを自負するなら値段の乱高下は良くないです。



2018年は日本のメーカーからも良さそうな新作イヤホンが続々登場したのですが、残念ながらどれも店頭の騒音下でちょっと聴いたのみで長時間試聴する機会に恵まれず、まだなんともコメントできません。

ソニーは9月にIER-M7・IER-M9でようやくプロフェッショナルIEMイヤホンに復帰しましたが、それと合わせて名機MDR-EX1000が廃番になったので、一時期そっちの在庫価格が高騰する事態になりました。ソニーのプロ機はコンシューマーと別物扱いで、古くからCD900STやEX1000などを筆頭に、モデルの息が長く、じわじわと口コミで売れ続ける傾向にあるので、新作IER-M7・M9も同じような期待があります。



オーテクも大型ヘッドホンATH-AP2000Tiと合わせて、新たにチタンボディにDLCドライバーのイヤホンATH-CM2000Ti・CK2000Tiが登場しました。どれもオーテクらしいソリッドな作品なので、もっとじっくり聴いてみたいです。中でもCM2000Tiにて古典的なイヤホンデザインが復活したので気になっているのですが、5万円近くおいそれと買えないです。



JVCからは、ウッドイヤホンの新作で最高級モデルHA-FW10000が登場しました。私はHA-FX1100・HA-FW01とアンプSU-AX01や公式バランスケーブルなどJVC WOODを一通り持っていて、かなり愛着があるシリーズなので、この新型も非常に気になるのですが、なんと19万円と一気に高額になったので、ちょっと手が出せません。まだ未聴なので一度じっくり聴いてみたいです。

雑談

あらためて2018年を振り返ってみると、なにか画期的な技術革新とかよりも、これまでのモデルの延長線上の進化系といった製品が多かったです。

まず、大型ヘッドホンは高価なフラッグシップ機が続々登場していますが、単純な密閉型・開放型という作風ではすでに限界にきており、セミオープンでハウジングを活かすデザインが主流になり、「響き良し、見た目良し」のウッドハウジングが増えたのも納得できます。世間のスピーカーがほぼ全てMDFキャビネットのバスレフ構造なのと同じ理屈です。

自社で複雑な軽合金鋳造などができるメーカーでもない限り、木材を削り出す方がよほど優れたハウジングが作れます。今はまだエキゾチックな木材で競い合っていますが、最終的にはスピーカー業界みたいに「無垢材だと音クセが強すぎるから、やっぱり繊維板に化粧ベニアが一番」なんていう結論に至るかもしれません。もしくはイヤホンのようにシミュレーションと3Dプリンターを駆使した複雑な内部音響形状が流行るかもしれません。


ドライバーの方は、平面振動板はあいかわらずレスポンスを上げるために薄型化とマグネット面の拡大均一化に苦心していますが、逆に言うと、世間一般のDAPやヘッドホンアンプが貧弱なのがネックになっていると思います。たかが100mW・10Vpp程度でやりくりしないといけないのは辛いです。バランス駆動などでもっと強力なアンプを要求するヘッドホンを作っても、ユーザーがしょぼいアンプに接続して歪んでしまい音が悪いと言いふらされる、なんてリスクもあるので、現状には逆らえません。世間のアンプは「音量が低い」よりも「音が歪む」ものばかりです。

ヘッドホンオーディオがこれ以上先鋭化されて、最高級システムでしか満足に楽しめないエリート主義に走るのか、それともフルシステム20万円以下(パソコンやミラーレスカメラなどを買うのと同じ感覚)の娯楽として定着するのかという瀬戸際です。

一方ダイナミックドライバーはというと、40-50mmで、金属膜蒸着のプラスチックか、ペーパーコーンの近代化とも言えるバイオセルロース、もしくはベリリウムなど軽金属ホイルといった三種類の振動板素材が現在の定番になっているようです。

やはりアンプのしがらみやドライバーサイズ・重量の限度があるので、これ以上コイルを重くしたりしてもメリットが薄いですし、HD800のリングドライバーやMDR-Z1Rの70mm蒸着などと比べると新たな驚きの少ない一年でした。逆にいうと、ハイエンド相当の高性能ドライバーが低価格モデルでも続々導入されているので、数年前と比べてラインナップの底上げはかなり進んでいると思います。

現実的に考えると、イヤホン・ヘッドホンともに、優れた高性能ドライバーを作れる工場設備を持つメーカーというのはほんの一握りで、あとは外注委託です。外枠に薄膜を接着剤で貼る「障子の張替え」で作れる平面型とは違い、均一な厚みのドーム状振動板を成形して髪よりも細いコイルのボビンを正確に組み付けなんて芸当はガレージメーカーではできません(ましてや10mm以下のイヤホンドライバーなど)。


とくに2018年で面白かったのが、フォステクス(フォスター電機)が新興ヘッドホンメーカーに対して「開発スターターキット」のような形で各種ヘッドホン・イヤホンドライバーユニットを無償提供するという試みです。

フォスター電機はイヤホン・ヘッドホンOEMの最大手なので、国内外の意外なヘッドホンの中を覗いてみたら実はフォスター製だったという事が非常に多いです。

正式なOEM契約であれば問題ないですし、音は別物に仕上げているのであえて掘り起こすメリットもないです。しかし最近各国の新興ブランドでたびたび見られるのが、オリジナルデザインと主張しながら、フォステクスの中堅イヤホン・ヘッドホンを大量購入して、それを分解してドライバーだけ取り出して、改造を加えて自社製の日曜大工ハウジングに組み込んで20万円超で売るという手法です。もとのドライバーが高音質なのだから音がまあまあ良いです。製作者の人件費だけは大量にかかっています。こういうのは意外と悪意は無く、自分は本当の音をわかっている、むしろ大手メーカーの悪行を正してやる、くらいの意気込みの正義マンだったりするのがめんどくさいですし、取り巻く信者も多いです。

ヘッドホンだけでなく、たとえばハイブリッド型IEMの低音ドライバーが欲しいから他のイヤホンを買って移植するなど、色々な場面で「なんか見たことある」に遭遇します。ありがちなパターンとしては、趣味が高じて自作カスタムIEMやウッドヘッドホンを作ろうとドライバーを流用して、友人に腕前自慢したら、じゃあ俺のも作ってくれと言われて自信を持って、量産してeBay Taobaoで売ることになり・・・そんな経緯の人にはイベントなどで結構頻繁に会います。もちろん音作りは個性的で、ノウハウも測定機器も無いので位相は狂いまくり、歪みまくりといったモデルも少なくないです。

オーディオというのは誰もが同じ良い音を求めているわけではなく、かなり濃い味付けの方が魅力的だという人は多いです。高調波でボーカルが20%も歪んでいるようなやつです。私も完璧主義よりは、そういう個性的な味付けはネタ的に結構好きです。

例えるなら、そこそこの寿司屋の出前をとって、それをバラバラに分解してガスバーナーで炙ってマヨネーズを大量にあえて、一流シェフ秘伝の職人技として高級レストランで出すようなものです。そして「寿司はやっぱり炙りマヨネーズだよね」という愛好家は世界中に沢山います。


IEMイヤホンでは、今年はとくにハイブリッド型の台頭が強く感じられました。優れたマルチBAやダイナミック型イヤホンを持っているマニアでも納得できるくらいハイブリッド型が成長したのだと思います。

ドライバーをたくさん搭載しているからといって高音質とは限らないというのは2016年頃から理解が広まったようですが、現在は12BAとかよりも、3BA+1ダイナミック程度が人気なようです。同じく2016年頃から、Xelentoなどのヒットのおかげで、シングルドライバーを軽んじる風潮もずいぶん減って、対等な立場に復権してきました。

ハイブリッド型に限らず、いくつか2018年最新設計のイヤホンを聴いてみて、過去の名作イヤホンと何が違うのかと考えてみると、やはりハウジング内空間設計に大きな進化が見られます。


以前はドライバーを詰め込むだけで、出音は先端ノズルで調整するのみでしたが、最先端のモデルでは、低価格なFiioとかもそうですが、ドライバーの前後に立体的な音響空間パーツを設けて、ドライバーごとに周辺空間の内径や長さ、配置角度などを微調整しています。密閉型ヘッドホンと同じように、イヤホンハウジングの響きは回避できないので、それを上手に調整するという事です。

2017年頃は、そのへんの調整がまだ上手くいかず、低音の響きがモコモコだったり、エッジや音圧が強すぎたりといった試行錯誤が多かったようですが、今年になって説得力のあるモデルが増えてきました。それがハイブリッド型の台頭と繋がっているようです。

Campfire Audioを例に挙げると、初期のAndromeda、Lyraなどはベタ付け、その後Dorado、Polarisで空間の試行錯誤、2018年のSolarisでようやく上手くまとまる、といった印象です。

では古いイヤホンは音が悪いのかというと、そうとも限りません。

たとえばAndromedaを例に挙げると、BAドライバーからの音がまずダイレクトに聴こえて、それとは全く違う空間からシャワシャワと金属ハウジング響きがやってくるので、つまり繊細な解像感と綺麗な響きという二段階の音作りに仕上がっていました。言ってみれば、古い設計のイヤホンは、サウンドを構成する各要素を聴き分けることができてしまう印象がありました。このドライバーからの音はここまでで、あとは響かせてるな、なんてわかる感じです。

一方、最新イヤホンの音響チャンバーで響きをブレンドする手法だと、アタック直後に音色を増強するような、一つのまとまった、ちょっと暑苦しい太い音といった印象のイヤホンが多くなりました。

とくに中域に集中して調整しているので、どれも音の輪郭がハッキリと、朗々としているように聴こえます。高域や低域の両極端ではそれが同じようには上手くいかないので、チャンバー設計のちょっとした違いで、派手に響くとか、音圧が高まるといた弊害もあるようで、そのあたりの作り込みが困難なようです。

現時点では、そんな次世代ハイブリッド型が面白くなってきたという時期であって、マルチBAのサラサラした音色や、シングルダイナミックの空間展開といったメリットは依然健在です。


ハイブリッドに押されてマルチBA型が廃れたわけではなく、ソニーが満を持してプロ用IEMを出したように、自社製の高性能BAドライバーを開発製造できるメーカーはまだポテンシャルがありますが、Knowles、Sonionなどのユニットを買っているメーカーは、それ自体に動きが無いので、新作はおあずけ状態が続いています。そんな中であの手この手でブランドの新鮮さを保つのに苦労しているようです。

大手がそんな状況なのとは対象的に、中国系ブランドの増殖は凄いです。それと同じくらいのペースで中国のオーディオファイル人口が増えているという事でしょう。Fiioが自社IEMイヤホンにてKnowles BAドライバーを搭載している事を大きく主張しているのは、今の中国市場の状況を物語っています。

というのも、数年前にBAドライバーの特許が切れてから、2016年頃から中国でKnowlesソックリ(というか寸法が全く同じ)BAドライバーを作る工場がいくつか発足され、深センBellsingや深センEstron(ケーブルのEstronとは無関係)といった会社のBAドライバーがネットショップで数十円単位で買えるようになりました。その直後に続々登場したのが、数千円で買える中華イヤホンブランドです。

そうなると、数万円で8BAや10BAイヤホンなんかが簡単に作れてしまうので、ユニット数が多ければ高級という安直な図式も崩壊していしまいました。

これら低価格BAドライバーは「アタリ」をひけば測定スペックは十分凄いのですが、ユニットごとのバラつきが大きく、マッチングを気にせずに組み込むと左右で数dBずれているなんてこともあります。自社で測定マッチングするか、すでにマッチングされたペアを割高で買って、それを搭載したイヤホンは上位モデルとして売る、といった感じです。

どちらにせよ、低価格イヤホンだとドライバーを適当に接着剤でベタッと貼り付けているだけなので、マッチングとかを気にする次元ではありません。

今後さらにクオリティアップすることは必須ですが、現状で中国でも数万円台のハイエンドイヤホンを作りたいメーカーは、そんな低価格ユニットを使っていませんという保証のために、我が社はKnowlesを使っていますと公言する必要があります。

また、これら中華BAユニットがKnowlesとかの脅威になっていることは確かなので、シェアを奪われたくなければ今後何らかの動きがあるのかもしれません。


そんな感じで、大きな動きは無いものの、主に中国市場に牽引されて、業界全体が非常に活発だった2018年でした。

最後に、2018年の一年間、私がよく使ったモデルをまとめると

開放型ヘッドホン:Fostex T60RP・HIFIMAN HE-560
密閉型ヘッドホン:Fostex TH610
ダイナミック型イヤホン:Dita Dream・Final E5000
BA型イヤホン:Campfire Audio Andromeda
ハイブリッド型イヤホン:Unique Melody Mavis II
特別賞:Audeze Mobius

・・・といった感じで一年を過ごしました。

中でも2018年発売モデルで一番気に入って多用したのがFinal E5000です。軽量手軽なので、DreamやMavis IIなど仰々しいイヤホンよりも使う機会が自然に増えます。やはりシングルダイナミックのポテンシャルは侮れません。

また、同じ理由でFostex T60RPも本当によく使いました。一年使い込んでもどちらも堅牢頑丈なのは良いことです。Audeze Mobiusもほぼ毎日ゲームで使っていますが未だに満足です。

続いてDAPやアンプなどについてまとめます