2019年4月9日火曜日

オーディオテクニカ ATH-AP2000Ti ATH-CK2000Ti ATH-CM2000Ti の試聴レビュー

発売から時間が経ってしまいましたが、オーディオテクニカの「2000Ti」シリーズヘッドホン・イヤホンを一気にまとめて試聴してみました。

ATH-CK2000Ti・ATH-CM2000Ti・ATH-AP2000Ti

2018年10月発売で、大型ヘッドホンATH-AP2000Ti、カナル型イヤホンATH-CK2000Ti、そして近頃珍しい古典的イヤホンATH-CM2000Tiの三兄弟です。

どれも2000番ということはオーディオテクニカの上級モデルで「Ti」はチタンハウジングを意味しています。


2000Tiシリーズ

これらのモデルは昨年10月に発売してから個別に何度か試聴する機会があったのですが、今回ようやくまとめて一挙に聴ける機会があり、さらにATH-A2000Z・ATH-CKR100などとも聴き比べる事ができたので、この際に感想を書いておこうと思いました。

ATH-AP2000Ti

ATH-CK2000TiとATH-CM2000Ti

今回は2000番ということでラインナップの中でもかなり上位クラスです。

密閉型ヘッドホンのATH-AP2000Tiは発売価格が約14万円、デュアルダイナミックドライバー搭載カナル型イヤホンATH-CK2000Tiは86,000円、ダイナミックドライバー搭載イヤホンATH-CM2000Tiは54,000円くらいです。

どれもオーディオテクニカA2DCコネクターの着脱式ケーブルを採用しており、4.4mmバランスケーブルも付属しているのが嬉しいです。

ATH-AP2000TiのA2DCコネクター

ATH-AP2000Tiは2015年に登場したチタンハウジング密閉型ヘッドホンATH-A2000Zと似ていますが、9万円と14万円で大きな差があります。

ATH-CK2000Tiも2016年にデュアルダイナミックドライバーでチタンハウジングのATH-CKR100というのがありましたが、そっちは約5万円で今回は8万円です。

つまり、どちらも似たような従来のモデルと比べてワンランク上の価格帯になっています。それぞれ同ジャンルの中ではかなり高価な部類です。

ところで、近頃のオーディオテクニカは商品が多すぎて、ネーミングやモデルナンバーがかなり突発的なので、なかなか相対関係が分かりづらいです。公式サイトも乱雑で、たとえばATH-A2000Zは「インドア」、ATH-AP2000Tiは「アウトドア」シリーズのページに入っています。買う側としては、毎回個別の「シリーズ特別サイト」とかではなく、もうちょっとモデルごとの関係や価格ランクの違いなどを分かりやすく解説してもらいたいです。


これら2000Tiシリーズの三モデルに共通しているのは、どれもチタン製ハウジングで、ダイナミックドライバーの振動板にDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)を蒸着しています。

振動板は硬く軽い事が理想なのですが、どの素材も完璧ではありません。ベリリウムやマグネシウムなどの薄い金属板、絹やケブラー、紙やセルロース繊維、プラスチックなど、メーカーごとに千差万別で、どれも独特のクセや製造技術ノウハウがあります。金属っぽくキンキン響くとか、撓みすぎて大音量では歪むとか、小音量では動いてくれないとか、サウンドに与える影響は大きいです。

オーディオテクニカはこれまでずっと振動板にはコンビニの惣菜パックのような薄い透明プラスチックフィルムを使う事が多かったのですが、そんな振動板にダイヤのような硬い膜をコーティングすることで、より歪みにくく、金属っぽい響きも少ない、優れた振動板に進化しました。

2017年の限定モデルATH-MSR7SEでDLCが導入され、それ以前のATH-MSR7と比べて飛躍的に音が良くなったと関心した記憶があるので、今回も期待が大きいです。ちなみに最近発売された最上級開放型ヘッドホンATH-ADX5000はDLCではなくタングステンコーティング振動板だったので、なんでもDLCというわけではなく、サウンドチューニングで使い分けているようです。

チタンハウジング

チタンハウジングは写真で見てわかるように圧倒的な高級感があります。チタンは加工が難しいので、こういう複雑な形状を正確に切削するのはかなり高度な設備が必要です。チタンそのものが高価なだけでなく、工作に時間がかかり、切削器具もすぐに消耗してしまうので製造コスト全体が高くなります。高級感があるだけでなく、振動が速く減衰し、響きが長引かず、アルミやステンレスなどよりも音がクリアになるというメリットがあるので、製造技術さえあればぜひチタンを使いたいと思うメーカーは多いです。

パッケージ

近頃のオーディオテクニカは洗練されたカッコいいパッケージで、今回も個人的にかなり好みのデザインです。

CK2000Tiを例に挙げますが、ヘッドホンAP2000Tiも箱の大きさが違うだけでパッケージデザインは共通しています。

白いスリップケース

黒い内箱

5万円以下くらいのモデルだと実物が店頭に陳列されていて、その場で見て選んで買う人が多いので、実物写真やスペック情報などで注意を引くパッケージが好まれますが、これら2000Tiシリーズは事前に熟考の上で心に決めて購入するような高級モデルなので、パッケージに余計な情報はいらず、むしろ購入後の所有感を満たすようなパッケージなのが良いです。

4.4mmバランスケーブルも付属

ケーブルはオーディオテクニカ独自のA2DC着脱端子仕様です。どのモデルも1.2m 3.5mmケーブルとは別に、1.2m 4.4mmバランスケーブルも付属しています。大型ヘッドホンのATH-AP2000Tiのみ、さらに3m 3.5mmケーブルも付いています。

付属ケースとケーブル

付属ケース

さらにケーブル用の小さなケースが

イヤホンにはウォレットタイプの収納ケースが、ヘッドホンにはハードケースが付属しています。

イヤホンのケースは左右個別に収納できるポケットがあるので、ハウジングがぶつかって傷がつかないのはありがたいです。Campfireとかはケースに入れて持ち歩くとボコボコに傷がついたので、こういう気配りが嬉しいイヤホンマニアは結構多いと思います。

ヘッドホンのケースはケーブルを外す必要があり、内部にケーブル用の小さなハードケースがあります。これもケーブルが潰れたり本体に傷がつかないので長期収納には安心感がありますが、頻繁に出し入れするならちょっと面倒です。

ATH-CK2000Tiのデザイン

どのモデルも切削精度が高く、とてもスムーズな黒い光沢が美しいです。とくにCK2000Tiはずっしりとした重さがいかにも高級感があります。12gだそうですから、大型IEMとかと比べるとそこまで重いわけではありません。A2DC端子が大きいので大柄に見えます。

ケーブルの両端部分もちゃんとチタンの色が合っているのが凄いです。他社だったら大抵ケーブルは別の工場で作っていて、色を似せようとしてもマッチしないものです。

ATH-CK2000Ti

CKR100はチタンハウジングに13mmダイナミックドライバーをデュアルで搭載していましたが、このCK2000Tiは同じくチタンハウジングに9.8mm & 8.8mmのドライバーを搭載しており、ドライバーにDLCコーティングを施している点が新しいです。前後のドライバーサイズが違うのは、以前CKR90というモデルで13mm & 10.4mmという前例があります。

二つのドライバーを向かい合わせに配置して押し引きする事で、ドライバーの前後方向の特性差を打ち消すというデュアルフェーズ・プッシュプルはかなり個性的なアイデアなのですが、そのせいで音に変な違和感があるという風には感じられず、知らなければ高性能シングルダイナミックドライバーと思えてしまいます。

CK2000Tiはハウジングが重く長いため、装着感がちょっと異質です。フィットが悪いというわけではありませんし、一旦装着すれば安定してくれるのですが、あまりアクティブに動き回るためのイヤホンではありません。CKR100が比較的コンパクトにまとまったデザインだったのに対してCK2000Tiは装着するとハウジングが自重で垂れ下がるような感覚です。A2DCコネクターが太いので耳掛けは難しいです。

音導管は一般的なサイズなので、自分好みのイヤピースを選べばフィットに不満は出ないと思います。私はFinalやAzlaイヤピースで問題ありませんでした。耳掛けタイプではないのでSpinFitだとグラグラしました。

A2DC端子

MMCXとA2DC

オーディオテクニカ独自のA2DC端子です。MMCXと似ていますが、写真で見てわかるように、こちらのほうが端子部分が長く互換性はありません。

A2DCは着脱の感触が良く、MMCXほどグラグラ回転せず、IEM2ピンほど曲げに弱いわけでもないので、ケーブルの着脱端子としてはかなり優秀です。イヤホンのみでなくヘッドホン用としても信頼性が高く優れたコネクターだと思うので、もっと広く普及してくれると嬉しいのですが、その意図はあるのでしょうか。オスメス各400円程度で大量に購入できて太い線材に対応できればガレージメーカーコミュニティに流行ると思うのですが。

ATH-ADX5000用A2DCバランスケーブル

A2DCネタとしてCK2000TiにATH-ADX5000用のXLRバランスケーブルを装着してみました。ケーブルが重すぎてまともに耳に装着できませんが、音は問題なく鳴ります。音質差を判断できるほど正確には装着できませんでした。

ATH-CM2000Tiのデザイン

今回のラインナップで唯一風変わりなモデルはATH-CM2000Tiで、特に5万円クラスでは最近なかなか見ないような古典的イヤホンデザインです。カナル型が嫌いで、こういった古風なイヤホンが欲しい人もいると思うので、意外とニッチ商品としてヒットするかもしれません。近頃中国の無名ガレージメーカーでこのような古典的イヤホンの高級品が流行っているので、需要はあるみたいです。

ATH-CM2000Ti

スポンジ装着

値段相応以上にチタンの高級感にあふれています。このフォルムでここまで高品質な商品は見たことがありません。背面のオーテクロゴも綺麗です。

DLCコーティングされた15.4mmという大きなダイナミックドライバーを搭載しています。CK2000Tiと違いデュアルドライバーではありません。

L/R表記は出音グリルに印刷してあるのが珍しいです。スポンジカバーが付属しているのですが、これをつけるとL/Rが見えません。(ケーブルには書いてあります)。実際左右ユニットに違いがあるのかどうかは不明です。

スポンジカバーをつけると装着感が若干ソフトになるのですが、音への影響を避けるためか、かなり薄手のスポンジなので、何度か着脱していると破れてしまいそうです。20年前ならどの家電店でもイヤホンスポンジを売ってましたが、最近は手に入りにくいと思うので、10個くらい付属してくれたら良かったです。

A2DC端子

A2DC端子で、ケーブル自体はCK2000Tiのものと同じようです。ドライバー面以外はCK2000Tiとほとんど同じデザインなので、これといって付け加える事はありません。

ATH-AP2000Tiのデザイン

ATH-AP2000Tiはハウジングがものすごい鏡面仕上げなので、指紋やホコリがとても目立ちます。写真を撮る時は汚れや映り込みが大変でした。

凄い反射です

公式サイトの紹介写真を見ると、まるでCGのようにグレーに塗りつぶしてあります。もしかして公式でもまともな生写真が撮れなくて誤魔化したのでしょうか、あるいは凄い高度な撮影技術です。

Made in Japan

53mmドライバー


高価なだけあって日本製だそうです。イヤーパッドを外してみると53mmダイナミックドライバーが見えます。

これまでのオーディオテクニカヘッドホンはモデルごとにドライバー配置が平行と傾斜を使い分けていましたが、今回は平行配置です。つまり擬似的な前方立体定位ではなく、レファレンスモニター的な正確さを重視しているのかもしれません。もちろん周囲のバッフル材やハウジング反射との複雑な関係があるので、見ただけでどんな音がするか想像することは不可能です。

このAP2000Tiは、単純に53mmドライバーにDLCコーティングをしたというだけではなく、新たにコアマウントテクノロジーというのを導入している点がセールスポイントになっています。開放型ヘッドホンATH-ADX5000でも採用されたアイデアで、チタンハウジングと耳穴のちょうど中間点にドライバーコイルを配置することで、ドライバーが理想的に駆動できるというような手法だそうです。

ドライバーの前方と後方にある空間をほぼ同じにすることで、振動板の前後運動が均一になるのでしょうか。そう考えると、CK2000Tiのデュアルフェーズ・プッシュプルと理念が似ている気がします。密閉型ヘッドホンは単純に見れば太鼓のようなものなので、内部空間の設計が重要な事はなんとなく理解できます。

前回ブログ記事で、ヘッドホンのイヤーパッドを社外品に変えたらずいぶん音が変わることを体験したので、ハウジング空間だけでなく、ドライバーから鼓膜までの空間容積や密閉具合なども無視できない大事な設計要素のようです。

高級イヤーパッド

AP2000Tiのイヤーパッドですが、これはとても良いです。これまでどおりビニール合皮っぽいのかと思っていたら、実はシープスキン本革で、低反発素材、3D立体縫製とかなり金がかかっています。

このイヤーパッドのせいでAP2000Tiが高価になったのだとしても納得できそうなくらい装着感に違いが出ます。革手袋のようにスッと肌に沿って密着するので、遮音性が非常に高く、しかもビニール合皮のような圧迫感がありません。見た目では分かりづらいですが、実際に体験してみると説得力があります。

前回は合皮パッドの劣化に悩まされたことを書いたので、他社も10万円を超えるようなヘッドホンであればこれくらいの高級素材を期待したいです。

ヘッドバンド

個人的にかなり衝撃的だったのが、オーディオテクニカ伝統の3Dウイングサポート式ヘッドバンドの廃止です。

ATH-A2000Zはウイングサポートでしたが、以降ATH-ADX5000では使われていなかったので、そろそろ全廃する考えなのかもしれません。

ヘッドバンド調整不要で、バネの力で正しい位置にハウジングが降りるというウイングサポートのアイデア自体は悪くなかったのですが、現実としては問題がありました。私みたいな日本人には快適でも、アメリカ人とか「どう頑張ってもまともに装着できない」と文句を言う人が多く、海外ヘッドホンイベントとかでは笑いのネタでした。

欧米人は顔の中心に対して日本人よりも耳穴の位置が高いので、日本人の耳の想定位置にハウジングが降りてくると、耳を通り越してしまいます。逆にフィリップスやAKGなどのように、欧州人の耳の位置を想定して作ったら、アジア人ではヘッドバンド長さが足りず、頭頂部が痛くなるという問題も起こります。

余談になりますが、映画やゲームなどのCGモデリングでも、日本人が欧米人っぽいキャラクターを作っても、欧米人から見ると日本人に見えてしまうというのはこういった違いから生まれます。体も同様に、胴体に対する腕の長さやヘソの位置など人種ごとに全然違います。

話を戻しますが、AP2000Tiのヘッドバンドはほとんどのメーカーが採用しているようなカチカチとスライダーを上下に調整するタイプです。調整範囲に余裕があり、パッドも柔らかい素材でできているので、5時間ほど装着しても全く痛くなりませんでした。

総合的に見てAP2000Tiはこれまでのオーディオテクニカヘッドホンらしい独自性と決別して、誰が使っても不満が起きないような最高級の装着感を目指して作られたようです。

ATH-CM2000Tiの音質

今回の試聴では主にCowon Plenue S DAPとiFi Audio Pro iDSDを使いましたが、オーディオテクニカらしく、どのモデルも格別鳴らしにくいとか感度が高すぎるいった問題はありませんでした。

まず古典的イヤホンタイプの「ATH-CM2000Ti」について先に片付けておこうと思います。かなり特殊なモデルなので、サウンドも非常に独特です。インピーダンスは16Ωだそうです。

古典的なサウンドのATH-CM2000Ti

私みたいにスマホ以前からポータブルオーディオを楽しんでいた世代には、このタイプの古典的なイヤホンというのはかなり馴染みが深いです。最初はこういったイヤホンが主流で、iPodやMP3プレイヤー到来と同時期くらいからシリコンイヤピースのカナル型イヤホンが徐々にシェアを伸ばしてきました。そのため今回のCM2000Tiでも、フォルムを一目見ただけで「だいたいこんな音だろうな」と想像がつきました。

実際にCM2000Tiの音を聴いてみても、その期待を裏切りません。「古典的イヤホンフォルムでありながらカナル型に匹敵するサウンドを実現する」イヤホンではありません。あくまで「古典的イヤホンとしての良さを追求した」イヤホンです。つまり、同価格帯のカナル型・IEMイヤホンとは根本が違いすぎて、全く比較になりません。

CM2000Tiの特徴は、遮音性や耳栓感覚がゼロで、音漏れが大きい、完全なオープン設計です。使い方が一番近いと思えたのは、Audeze iSINEシリーズや、スタックスのイヤホンタイプSR-003などです。

サウンドの性格自体はカナル型のCK2000Tiとよく似ています。しかしそれと比べてCM2000Tiはハウジングが全く密閉されないため、低音の力強さはほとんど感じられません。

小音量で聴いている時は比較的ニュートラルな鳴り方なのですが、ボリュームを上げていくとどんどん高音寄りになり、普段私がIEMイヤホンを聴くような音量になると、かなり高音の刺激が強くなります。

エージングで高音の刺さりが低減すると言われていますが、20時間程度では変化は感じられませんでした。音量を上げても低音は増強されないので、どちらにせよ音色が音量に左右されやすいです。

ではこのCM2000Tiはどんなシナリオで使うべきなのかと考えたのですが、私が今回使ってみて一番しっくりきたのが、静かな環境で、他の事をやりながらのBGM用途でした。音量が低ければ高音の刺さりはありませんし、遮音性が無いので、周りの人と普通に会話しながら音楽が聴けます。

たとえば家族がいる中で、ちょっとパソコンで仕事しながら音楽を聴き流すといった使い方には最適です。ヘッドホンでは仰々しいですし、IEMイヤホンでは遮音性のせいで隔離されすぎてしまいます。そんな時にCM2000Tiであればパッと手軽に装着できて、サウンドも上質です。Audeze iSINEも良いですが装着に手間取ります。

音質面では、近頃のイヤホン・ヘッドホンと比べると低音は出ませんが、さすが15.4mmダイナミックドライバーだけあって中高域の立体感があり、BA型のような圧縮されたシュワシュワした音ではありません。音色がクリアで活き活きとしています。

ドライバーが耳穴の外で鳴っているので、空間配置も一歩離れた浮遊感があり、イメージとして一番近いのは、ゼンハイザーPX100やPortaProみたいな開放型コンパクトオンイヤーヘッドホンです。ただし、それらのヘッドホンと比べるとCM2000Tiはドライバーが小さいせいか、中低音の重さが足りません。「硬くレスポンスの速い小型ドライバーが俊敏に鳴っている」という印象で、もうちょっとスペックを落としてでも膨らみや緩さみたいなものが欲しいです。

CM2000Tiに決定的な弱点があるとすれば、この古典的なイヤホン形状です。最近の人はこのような旧式イヤホンを未経験か、もしくは、なぜ世間はカナルIEMタイプに乗り換えたのか忘れてしまったと思います。

このような旧式イヤホンはドライバーを大きくできるというメリットはあるのですが、それを耳のくぼみにはめ込む事に問題があります。このくぼみスペースの形状は千差万別で、大きい人、小さい人がいますし、さらにほとんどの人は、左右でくぼみの大きさや角度が違います。つまり私が聴いたCM2000Tiの音と、他の人が聴いた音ではかなり印象が変わってしまいます。カナルIEMタイプならシリコンイヤピースのサイズを選べますし、耳穴奥に挿入することで出音角度や反射面のばらつきが抑えられます。

今回CM2000Tiを数人で試してみたのですが、人それぞれ「大きすぎて痛い」「すぐポロッと外れてしまう」など意見がありましたが、全員が共通して挙げたのが、「左右のバランスがとれない」という問題です。出音面と耳のくぼみのフィットで周波数特性や出音角度が決まるので、左側が軽く聴こえる、音像が右寄りになる、など、聴いている間ずっとイヤホンを手で押したり角度を変えたり微調整に悩まされていました。スポンジをつけると脱落しにくくなりましたが、音像の安定感の悪さは相変わらずです。

私を含めて多くのイヤホンマニアは、IEMイヤホンの安定感に慣れてしまっているので、装着の不正確さに強い違和感を感じてしまうのだと思います。大昔の安価なイヤホンではそこまで気にしなかったのに、CM2000Tiのドライバーが高性能なため、空間定位の乱れなどを意識しやすくなってしまいました。たとえば私が昔から傑作だと思っているAKG K12Pイヤホンを聴いてみたところ、そもそもイヤホンの性能が限定的なので、フィットの多少の乱れは一切気になりません。

ようするに、CM2000Tiは、なにか画期的な進化系というわけではなく、古典的なイヤホンタイプの究極を追求したい人の、ニッチなニーズに答える特殊なモデルです。ユニークさは特出しているのでツボにハマる人もいると思いますが、私のようにIEMと比較するのではなく、まずは固定概念を捨てて試聴することをオススメします。

ATH-CK2000Tiの音質

つぎにCK2000Tiのサウンドですが、こちらはCM2000Tiと違って、デザインを見てもわかるようにカナル型イヤホンの王道を行くようなモデルです。

最近オーディオテクニカが頑張っているデュアルフェーズ・プッシュプル型ダイナミックドライバーを搭載しているので、サウンドも他社とは一味違った独自の魅力があります。デュアルドライバーのせいなのか、インピーダンスは10Ωと低めです。

同じドライバー技術で数年前に登場したATH-CKR100というイヤホンを個人的に結構気に入っていたので、今回のCK2000Tiはそれの上位モデルとして楽しみにしていました。

Plenue Sで試聴

ATH-CK2000TiとATH-CKR100

重厚なメタルハウジングのおかげで遮音性が非常に高いです。フィットするイヤピースさえ選べば外部の騒音をしっかり遮断してくれるので、音楽の世界に没頭できます。似たような形状のイヤホンでも、ハウジングが薄くて軽いデザインだと意外と騒音が通り抜けやすいです。

そんなわけでCK2000Tiはじっくりと音楽を聴くためのイヤホンなのですが、そのサウンドは、簡単に言えばパワフルで抑揚がハッキリとしている、ダイナミックドライバーの良さを象徴するような仕上がりです。

10mmくらいの大型ダイナミックドライバーを搭載するイヤホンというと、「低音が豊かで厚みがあるけれどカチッとした高域が出しにくい」という先入観があると思いますが、CK2000Tiの場合はチタンハウジングとDLCコーティングのおかげで高域まで鮮やかに出ています。

どちらも出音が刺激的になるイメージがある技術ですが、どちらか一方だけに頼ると尖ったクセが生まれやすいところ、ハウジングとドライバーの両方をバランスよく合わせることで上手く調整できているのだと思います。デュアルドライバーというのもレスポンスの良さが売りなので、たとえばレスポンスの悪い大型ドライバーに金属ハウジングでキンキンの響きを加えるのとは一味違います。パーカッションなどの打撃音でもドライバーがしっかり制動している事が感じられます。

DLCコーティングというと、Campfire AudioのVegaがありましたが、あれに近い印象もあります。Vegaほどホットで押しが強い感じではなく、もうちょっと広帯域をバランス良く鳴らすタイプです。ワイルドなロックを聴くならVegaのほうが楽しいです。

CK2000Tiは空間展開も優秀で、これもダイナミックドライバーの良さが感じられます。典型的なマルチBAのようにぎっしりと埋め尽くされた「音の壁」ではなく、音の分離が良く、しかもチタンハウジングのおかげだと思いますが、低音の距離感もあります。これといってクセの無い、無難な鳴り方だと思います。耳栓感覚は強いので、ゼンハイザーIE800・IE80シリーズなどのような通気性の良いリラックス感とはちょっと違います。

CK2000Tiはダイナミック型イヤホンとしては比較的高価な部類だと思うのですが、たとえば似たような技術を搭載するCKR100と聴き比べてみると、確かに進化している部分が大きいと感じました。

CKR100が従来のオーディオテクニカらしいサウンドだとすると、CK2000TiはATH-ADX5000などでも感じたような「近頃のオーディオテクニカが目指す」サウンドに変化していると思います。

従来のオーディオテクニカというと、M50xやA1000などに代表されるような、低音の歯切れ良さと、高域の若干持ち上がったピークによる高解像感が典型だったと思います。いわゆる圧縮感のあるドンシャリで派手なサウンドは、生ぬるいスムーズさとは対称的でした。

CK2000Tiなど近頃のオーディオテクニカを聴いてみると、私の印象では、低音のピークは従来より低い周波数へ、高音のピークはより高い周波数へ移動していると思います。つまりロールオフされず、ドンシャリではあるものの、その谷間の帯域が広くなっているようなイメージです。

クラシックとポップスを聴き比べてみると違いがわかりやすいです。生楽器の自然な音を高性能マイクでハイレゾ録音したような作品では、CK2000Tiは帯域特性がとてもフラットで不自然な癖がありません。ヴァイオリンなど高音楽器も上の方まで伸びやかですし、ピアノの低音や、打楽器、コントラバスなども、実際の生楽器以上に膨らんだりしません。全体的に自然で無難な、よくできたサウンドだと思います。

一方、シンセサイザーや派手なEQを通したサンプルなどを重ねたポピュラー音楽の場合、CK2000Tiはかなりのドンシャリ気味に聴こえます。自然な生楽器ではありえないような重低音や超高音が収録されているので、CK2000Tiはそういった帯域をかなりブーストするようです。

たとえば生のグランドピアノは5kHzくらいでほとんどの音が減衰しており、それ以上の帯域には微小な倍音成分が入っているのみです。一方シンセのリード音とかでは10kHz以上までカリカリに鳴っているサウンドが多いですし、音圧も自然減衰が無く目一杯に圧縮しています。そういったサウンドではCK2000Tiが牙を剥き、派手に鳴ります。低音もティンパニやコントラバス以下のいわゆるサブベースブーストが使われているとCK2000Tiがズンズン鳴り響きます。

ようするにCK2000Tiは、自分が好んで聴く音楽ジャンルによって、サウンドの印象がガラッと変わるイヤホンです。しかも生楽器ファンなら自然な感じに、生成音ファンならエキサイティングな感じに鳴ってくれるところが上手だと思いました。

CKR100も似たようなサウンドなのですが、低音は中域まで広く盛ってありピアノとかでも重さを意識させ、高音も中高域からヴァイオリンとかでもギラッとした感じです。それが持ち味なので悪くはないのですが一辺倒になりがちでした。そのあたりがCK2000Tiとの大きな違いです。

ATH-AP2000Tiの音質

最後に大型ヘッドホンAP2000Tiを聴いてみました。44Ω・100dB/mWと無難で鳴らしやすい部類です。

チタンハウジングの密閉型ということで、コンセプトは2015年モデルのATH-A2000Zと似ています。3年分の進化と、9万円から14万円への値上がりの価値があるか気になりますし、10万円を超えるとなると、たとえばソニーMDR-Z1Rなど高級機のライバルが視野に入ってきます。

iFi Audio Pro iDSDを使いました

ATH-A2000ZとATH-AP2000Ti

デザインも一見A2000Zと似ていますが、並べて見るとずいぶん違う事がわかります。装着感は大幅に改善しているので、これまでの薄いパッドやウィング型ヘッドバンドが合わなかった人でも、これなら問題ありません。むしろMDR-Z1RやZ7M2などソニーのヘッドホンデザインに近いと思います。

まずA2000Zと聴き比べてみたところ、先ほどCKR100からCK2000Tiで感じたように、オーディオテクニカらしさを尊重しながら、これまで指摘されてきた独自のクセを払拭して、より普遍的な完成度を高めたような印象を受けました。密閉型にありがちな一辺倒な悪いクセがありません。

A2000Zよりも中低音の盛り上がりがもっと低い帯域に、派手で硬質だった高音がもっと高い帯域に移動しています。CK2000Tiと同じく、ドンシャリでありながら、中間の帯域が非常に広くなっています。

とくに高音で大きな違いが感じられます。A2000Zではハイハットやパーカッションなどの刺激が強かったです。チタンハウジングはこういうものなのかと割り切っていました。

AP2000Tiでは、楽器音はかなり上の方までフラットになり、その代わりに録音のバックグラウンドノイズが強調されやすくなりました。古いアナログ録音ではシューッというテープノイズが目立ちます。演奏が始まれば気にならなくなるので、A2000Zのようにアタックが刺さるよりは、むしろこっちのほうが聴きやすいです。

近頃は各社から優れた密閉型ヘッドホンが続々登場していますが、その中でもAP2000Tiが特に優れていると思った点が二つあります。

まず、ハウジング反響を意識させず、開放感があることです。開放型ヘッドホンに近い音抜けの良さがあり、とくに低音のコントロールが上手です。キックドラムやコントラバスなどが深く重く、フォーカスが効いていて、よく言う「沈み込むような」低音表現がとても優秀です。単にハウジングが響いているような低音ではありません。楽器ごとに、低音のどの帯域で鳴っているか区別できます。空間がスッキリしていて、低音楽器が響きに埋もれません。

もう一つの優れた点は、音色の出音がとても繊細なことです。「まるで羽毛に触れるような」なんて表現を使いたいです。アタックが細かくシャープで、いわゆる甘く丸めた感じではなく、金属っぽく響かせる感じでもなく、レスポンスが絶妙に良いです。音が貧弱で細いというわけではありません。

これら二つのメリットがあることで、AP2000Tiは他の密閉型ヘッドホンよりも「録音の奥まで」聴こえているような感じがあります。フィット感が良く、遮音性がとても高いということも貢献しているのかもしれません。場合によっては開放型ヘッドホンで聴くよりも、録音の遠く奥深くまで聴き取れます。

音数が多い音楽でも、シンプルなアコースティックソロでも、AP2000Tiでは楽器の極小なニュアンスや、背後のざわめき、テープノイズなどが聴き取りやすいです。常に意識させられるというよりは、メインの演奏に埋もれず、圧倒されず、ちょっと注意をずらすことで、聴きたい部分にフォーカスできるような感覚です。つまり集中して音楽を聴きたいときに、ヘッドホンによる解像限界を感じさせるようなもどかしさがありません。

音抜けが良いので密閉型っぽい閉鎖感は少ないですが、楽器音の空間配置は限定的です。T5p 2ndなどのようにドライバーを遠く傾斜配置しているわけではないので、前方の立体音像というよりは、実直なモニターヘッドホンらしいイメージです。

色々聴いてみて、AP2000Tiは密閉型ヘッドホンの中でもかなり優秀で、とりわけ弱点らしいものも思い当たりませんでした。弱点があるとすれば、CK2000Tiと同様に、高域があるポイントでロールオフされるのではなく、グイッと持ち上がるので、その境界線を超えると聴きづらくなります。また、意図的にハウジングで響かせるデザインではないので、音色そのものに質感の深みが無いと退屈に聴こえます。たとえば生ドラムとドラムマシーン、生ギターとシンセのギター音など、違いが一目瞭然でバレてしまいます。

CK2000Tiと同じように、シンセなどで自然な生楽器ではありえないような高周波や重低音を鳴らしているのであれば、かなり派手に暴れるので、私にはちょっと刺激的すぎました。生演奏メインでじっくり奥まで音楽のニュアンスを楽しみたいという人にオススメできると思うので、そんな部分もATH-ADX5000と似ているかと思います。

ベイヤーT5p 2nd Genでは刺激的すぎるとか、ソニーMDR-Z1Rではレスポンスが重く刺激が足りないとか、HD820では空間が異質すぎるとか、どんなに優秀なヘッドホンであっても、密閉型であることで、かならず音響の癖があり、好き嫌いに個人差があります。AP2000Tiはそれらに引けを取らない高水準なヘッドホンなので、新たな候補として試聴してみるべきです。

また、密閉型で安いハウジング素材などを使うと響きでバレてしまうので、良いものは必然的にコストが高くなってしまいます。AP2000Tiはもっと安い価格帯のヘッドホンのような素材の響きは感じられないので、れっきとしたハイエンドなサウンドの域にあると思います。これよりも響きが汚い高級ヘッドホンはたくさんあります。

おわりに

2000Tiシリーズはどれも実物を手にとってみると写真で見ただけではわからない高級感があり、工芸品としての入念な完成度の高さが感じられます。

とくに大型ヘッドホンATH-AP2000Tiは2000番でも従来のA2000やAD2000シリーズと比べて飛躍的に品質が高くなっており、実物を見れば、むしろATH-ADX5000などと同じクオリティだという印象を受けると思います。

ヘッドホン・イヤホンともに、肝心の中身も、オーディオテクニカは第一線のヘッドホンメーカーとして、DLC、チタンやデュアルドライバーなど常に先進的で高度な技術を導入している事が魅力的です。どんな音がするのだろうと気になってしまいます。

個人的に現在のオーディオテクニカに不満があるとすれば、モデル展開が突発的で、将来のロードマップが見えにくく「もうちょっと待てば、もっと別の良いシリーズが出るかも」と思わせてしまう事が足を引っ張っていると思います。たとえば私自身もW1000Z、A2000Z、CKR100など、どれもそんな気がして購入に踏み切れませんでした。値段が下がってきた頃には全く別のシリーズが出ているのが悩ましいです。

ともかく、新作として従来のモデルを凌駕しているかと考えると、確実に進化していると感じました。「前のモデルの方が良かった」と思えてしまうメーカーは結構多いのですが、これはそうではありません。

個人的にイヤホンタイプのCM2000Tiはそこまで気に入りませんでした。需要はあると思うのですが、特殊すぎて値段を考えるとちょっと気が引けます。

カナル型CK2000TiとヘッドホンAP2000Tiは、どちらも共通点として、従来のオーディオテクニカらしいサウンドから脱皮して一歩先に進化していると思えました。しかも進化の方向性に一貫性があり、生楽器はよりリニアで繊細に、ポピュラー音楽はより派手でワイドレンジに鳴ってくれるので、これは他社とは一味違う、新しいオーディオテクニカの魅力だと思います。

CK2000TiはIE800S、Xelento、Vega、Atlasなどを考えているなら試してみる価値があるモデルですし、AP2000TiはT5p 2nd、MDR-Z1R、Elegia、AH-D7200などと合わせて視野に入れても十分すぎるほど健闘しています。

変な言い方ですが、どちらも値段設定が微妙に悪いと思います。従来のATH-CKR100やATH-A2000Zなどを想定している人にとってはずいぶん割高に感じますし、かといって各社フラッグシップヘッドホンなどと同じ仲間に入れるにはちょっと安くてためらう人もいると思います。

オーディオテクニカだからこの値段で作れたのであって、もし小規模メーカーが30万円で売り出したらもっと話題性が高かっただろうと思ったりします。ATH-ADX5000も個人的にトップクラスに好きな開放型ヘッドホンなのですが、きっと昔聴いたAD2000Xの延長だろうと視野に入っていない人も多いと思います。

値段や他社との勝ち負けとかは気にせず、じっくりと一聴してみる価値があるシリーズだと思いました。