2019年7月3日水曜日

Campfire Audio IO Polaris 2019 Andromeda 2019の試聴レビュー

米国Campfire Audioから新作イヤホンがいくつか登場したので、まとめて試聴してみました。

Campfire Audio IO・Polaris 2019・Andromeda 2019

新たなエントリーモデルの「IO」、そして既存モデル「Polaris」「Andromeda」の2019年版という三種類です。

最近はAtlasなど奇抜な新作が多かったCampfire Audioですが、今回はどれも見慣れたアルミ切削ハウジングです。ケーブルも新しくなったらしいので、それも合わせてどんな音なのか気になります。


Campfire Audio

IOはデュアルBA型で4万円弱、Polarisは7万円弱で「シングルBA+9.2mmダイナミックドライバー」のハイブリッド型、そしてAndromedaは14万円で「2×高・1×中・2×低音」の5BA型という事です。

他にもカタログにはSolarisやAtlasなど昨年から継続して売っているモデルもあるので、今回のリリースはそろそろ古くなってきたスタンダードモデルのブラッシュアップといった考えだと思います。

Campfire Audioはロット生産なので、当初から予定していた数量を作り切ったら一旦終了して、唐突のモデルチェンジというのも珍しくありません。生産ラインが無限にあるわけではないですから、一時期に同時に作れるモデル数というのも限られているのでしょう。

Campfire Audioの面白いところは、モデルの明確な上下関係が無く、あえて独自の個性を強調するような音作りを目指している事です。必ずしも無難で万能とは言えませんが、全部試聴してみれば、必ずなにか自分のツボにハマるモデルが見つかるというメーカーです。

2014年頃に発足された比較的新しいイヤホンメーカーなので、初代JupiterやLyraなどのイヤホンが出た頃はまだ駆け出しのマイナーブランドといった印象だったのですが、2016年のAndromedaが大ヒットしたくらいから雑誌や店頭でもハイエンドイヤホンのメジャーな存在になり、その後も続々と新作を投入しています。私もAndromedaを発売当時に衝動買いして以来、今でも飽きずに愛用しています。

メジャーな存在になったおかげで、すでに今回の新作イヤホンもたくさんのネットレビューが出ているので、このブログで取り上げる必要も無いと思いますが、せっかく全部じっくり聴いてみたので、忘れる前に感想を書いておこうと思いました。

Campfire Audio IO

まず最低価格のIOは4万円弱でデュアルBA型なので、これまでのエントリーモデル「Orion」の後継機といった位置付けだと思います。実際に米国公式サイトではOrionがラインナップから消えています。

シングルBAのOrionと比べて、同じ価格帯でドライバー数が増えたので、お買い得感が増しましたし、デュアルBAで4万円弱というのは他社と比べても健闘している価格設定だと思います。

豊富な付属品

とくにCampfire Audioは本体以外でも付属ケーブル、豊富なイヤピース、高級ケースなどパッケージの充実具合も含めて、かなりコストパフォーマンスが高いと思います。

他社の安価なイヤホンだと、付属ケーブルがショボくて結局アップグレードケーブルに散財してしまう事がよくあるので、それを考えるとIOはずいぶん魅力的です。

OrionとIO

音導管グリル

OrionはシングルBAだったためか音導管の穴が一つだけでしたが、IOはグリルのような形状になっています。昨年のComet・Atlasと同じようなデザインなので、今後はこれに統一されるのでしょうか。

新型ケーブルはグレーです

付属ケーブルはグレーの「Silver Plated Copper Litz Wire」というタイプで、上位のPolarisやAndromedaと同じものなのが嬉しいです。

これまでの同名ケーブルはカギ編みでしたが、今回はツイストにすることで扱いやすくなったそうです。それと外皮がグレーになったというだけで、中身の線材は従来のものと同じだそうです。

従来のケーブルは柔軟性は高かったのですが、癖が付きやすく絡まりやすかったので、確かに新作ケーブルの方が使い勝手は良いです。

とりあえずケーブルの音質差があるか確認してみたところ、Polarisなどで聴くと旧ケーブルの方が若干高音に派手なピークがあり、新ケーブルの方がおとなしめにコントロールされているように思えましたが、全体の傾向や性格はよく似ているので、ケーブルのためだけに買い換えるというほどの違いはありませんでした。

ケーブルについて余談になりますが、私はこのSilver Plated Copper Litz Wireというケーブルをかなり気に入っており、Andromedaもアップグレードせずにずっとこのケーブルを使い続けています。一般的なハイエンドケーブルと比べて腰が柔らかく、フワッとした艶っぽい鳴り方が良いです。正確な解像感やカチッとした硬さは出ないので、物足りないこともありますが、普段使いでは十分満足しています。

Campfire Audio Reference 8

Campfire Audioは高価なアップグレードケーブルもいくつか販売しているので、試しにReference 8という3万円台の上位ケーブルを使ってみたところ、IOやPolarisでは高音が硬くなって刺激が強すぎ、中域も味気なくドライになってしまいました。

ようするに、必ずしも高級ケーブルを装着するだけで音質が望む方向に向上するとは限らないという事です。個人的な印象では、Andromedaくらいでようやく、モニター調に仕上げたいならReference 8も良いかなと思えました。それまでは付属ケーブルで十分です。

Campfire Audio Polaris 2019

Polarisの初代は2017年に登場して、その時はハウジングが黒と青のツートンでしたが、今回は青単色です。それ以外は外観に目立った違いはありません。大型ダイナミックドライバーを搭載しているので、ハウジング外側に通気孔のようなものが見えます。

音導管グリル

ちなみに旧バージョンのPolarisと混同されないように、日本ではPolaris IIと書いてあるショップが多いですが、米国公式サイトでは新旧ともにPolarisという名前になっています。

初代PolarisでCampfire AudioはPolarity Tuned Chamber (PTC)という技術を導入して、これが良い効果をもたらしたのですが、この第二世代ではさらにそのあたりの内部音響が進化したそうです。

PTCというのは具体的にはアルミハウジングの中にもう一つ複雑な三次元立体構造のチャンバーを設けて、そこにダイナミックドライバーを配置する手法です。さらにPolarisではBAドライバーはTuned Acoustic Expansion Chamberという別のチャンバーに組み込んでおり、双方の音響や耳への到達タイミングを計算して組み付けるという仕組みです。

近頃は特に低価格メーカーを中心にハイブリッド型IEMが続々登場しており、たとえば「高級メーカー製ダイナミックドライバー採用」といった売り方をしているところが増えてきました。しかしそれらを実際に試聴してみると、低音の位相が明らかにずれていて、空間表現が狂い、リズムのタイミングが遅れているというイヤホンが多々あります。

どんなに高級なドライバーを搭載しても、ハウジングの音響設計が正しくなければ宝の持ち腐れなので、そういう悪いイヤホンを聴くと、「商品は作れても、きっとまともに音楽を聴いていないんだな」と残念に思えてしまいます。その点Campfire Audioは音楽ファン目線での評価をしっかりやっていると納得できる設計です。

左が2019年版です

Andromedaはあくまでケーブル変更と製造技術のマイナーチェンジのみで、中身や音質は変わらないという事です。

私が持っている2016年の初代Andromedaから、塗装の剥げやすさが改善された2017年のAndromeda (CK)、そして今回2019年版で第3世代ということになります。栄枯盛衰の激しいイヤホン市場の中で稀に見るロングセラーです。

左が2019年版です

音導管部品が違います

初代と横に並べて比較してみると、まず音導管の部品が違いますが、これは初代からCKになったときに変わったので、2019年版での変更ではありません。

CKと2019年で外観が変わったところといえば、本体表面の切削跡がスムーズになっているのと、MMCXコネクターが変更されて、円形で周囲に黒いリングがあるタイプになっていますね。あと緑色もかなり濃くなっていますが、私のが経年劣化で色褪せたのでしょうか。

AndromedaはCK発売以降も白や青など多数の限定カラーバリエーションが登場していますが、それらはどれも初代と同じMMCXコネクターだったので、2019年版を見分けるのに一番わかりやすいのがこの部分の形状だと思います。

音質とか

今回の試聴ではHiby R6 PROとQuestyle QP2R DAPを使いました。

イヤピースは主に付属のFinalのものを使いましたが、場合によってはAZLAも使いました。こればかりは個人差があるので、いろいろ試してみることをおすすめします。

Hiby R6 PRO

IOは「26Ω・109dB/mW」、Polarisは「17Ω・105dB/mW」、Andromedaは「12.8Ω・112.8dB/mW」だそうです。

あいかわらずAndromedaだけが異常なほどに能率が高いので、ほとんどのアンプでボリュームをちょっと上げただけで大音量になっていまいます。つまりアンプの設計次第では左右のギャングエラーやバックグラウンドノイズに悩まされる事になります。Andromedaは個人的に大好きなイヤホンですが、これだけが唯一の難点です。

もし今後Andromedaの後継機が出るのであれば、全く同じ音質で、もっとインピーダンスを上げて能率を下げた(つまり鳴らしにくい)、DAPで使いやすいモデルを作ってもらいたいです。


試聴のレファレンスとして主に使ったのは、先日ハイレゾリマスター版が発売されたSonny Rollins 「Alfie」です。

1966年のオーソドックスなジャズで、Impulseレーベルでヴァン・ゲルダー録音ということで、まさにジャズの王道サウンドです。映画サウンドトラックとして作られたアルバムなのでカジュアルでイージーな作風ですが、そのおかげかメンバーが丁寧に味わい深く演奏しているのが良いです。ロリンズのサックスがすごいのはもちろんのこと、ネルソン指揮の大編成アレンジが心地良いですし、とくにケニー・バレルのギターが随所で光るのが最高です。


PentatoneからDSD録音の新譜でDenis Kozhukhinのピアノ・ソロでグリーグとメンデルスゾーン作品集を聴いてみました。そろそろベテランの域に達してきたKozhukhinですが、初期のOnyxから最近はPentatoneに移籍して、どちらも屈指の高音質録音レーベルで彼のキャリアを追えるのは幸いです。ロシア人なのでロシア物が強いのは当然の事ながら、ずっとスペインなど南欧で活動してきた人だけあって、今回のような情緒ある作風も上手いです。


Hyperionレーベルから新譜で、Thomas Dausgaard指揮BBCスコットランドのシベリウス「クレルヴォ」です。

すでにBISやOndineなどで優れた録音が多い作品ですが、まるで映画のような迫力があるカッコいい音楽なので、新譜が出るたびに毎回買ってしまいます。BBCスコットランドというとHyperionではウォルトンやブリテンなどが印象的だったので、この手の壮大なエピソードを演じるのが得意なようです。Dausgaardの指揮でスケールの大きな演奏を披露してくれます。Hyperionなので音質はもちろん最高です。

Campfire Audio IO

まずIOの音質ですが、このイヤホンはOrionとよく似ていると思います。シングルドライバーのOrionと、2BAのIOでは、本来なら全然鳴り方が違うはずなのに、それでも似ているということは、それは意図的なチューニングによるものでしょう。

この価格帯の購入層ならこういったサウンドを求めているだろうというCampfireなりの解釈で作り込んでいるのだと思います。具体的には、安価な量販店イヤホンから次のステップに、はじめての高級イヤホンとして十分な高音質が体感できるように仕上げています。

OrionのようなシングルBAなら帯域の狭いカマボコ型、IOのような2BAなら低音と高音ドライバーの繋がりが悪くV字のドンシャリというのが定説ですが、どちらもそういった傾向はありません。

IOのサウンドは、高音に向かって空間が派手に広がっていくような扇状のイメージです。低音用BAドライバーを搭載しているという割には意外と低音は控えめで、しっかりと聴き取れるけれどそこまで主張しません。

主張するのはむしろ高音のアタックで、ジャズのドラムならハイハットやシンバルに金属っぽさが強調されます。刺激が強いとか刺さるというよりはむしろ、どのアタックにも同じような金属質感が乗るので、まるでメッキされるような感覚です。これはいわゆるシャカシャカして無機質な低価格イヤホンと比べると、音のメリハリが向上して高級感があります。響きはそこまで間延びせず、テンポが良いので、この価格帯のイヤホンとしては優秀だと思います。

もう一つ、IOでジャズを聴いていて良かったのは、ギターの太い音色がしっかり輪郭を持って鳴ってくれるのに、それよりも上の中高域は控えめな事です。つまりギターやボーカル中心の音楽であれば、滑舌の刺さりなどをあまり気にせずに、しっかりと音色の本筋が楽しめます。

中高域の、女性ボーカルよりもちょっと高い帯域ではIOに弱点があると思いました。特にピアノ・ソロ演奏では、鍵盤の上の方にあたる部分でフォーカスがかなり甘いです。音像が滲むような、左右の音源が上手く結像してくれない感覚があり、ある特定の帯域だけボヤけるようです。ピアノだけでなく、アコースティック・ギターやヴァイオリン・ソナタなど、ソロ楽器の録音全般では、演奏者の音像に統一感が無く、帯域ごとに空間プレゼンテーションや音像のフォーカスに差があるのが、IOの弱点です。

これは逆手に取れば、高域のシャリシャリした刺さりが上手に分散して緩和されるので、そういった刺激の強い録音ではむしろメリットになります。またオーケストラの高音も広く分散するため、録音されている以上に左右のサラウンド感が得られる楽しさもあります。この価格帯で完璧なレファレンスサウンドを実現するのは不可能に近いですから、こういったところの妥協点が上手に設計されていると思いました。

IOとOrionの違いですが、主にジャズのギターやサックスで感じとれました。Orionの方はシングルドライバーだからでしょうか、この中低域の楽器がまるで拡声器のように鳴ります。ちょっと繊細さが足りず下品なところもあったので、聴くジャンルによってはやかましいと思いました。IOもギターやサックスはかなり力強く鳴るのですが、しっかり制御されていて、必要以上に耳を刺激しません。

つまりIOはOrionの正当進化として、弱点を克服するために必要性があったからこそ2BAにアップグレードされたという風に感じました。

Campfire Audio Polaris 2019

次にPolarisです。このイヤホンは以前のPolarisと比べてずいぶん印象が変わりました。

大型ダイナミックドライバーを搭載しているため、Campfire Audioの中でもとりわけ低音が強いイヤホンという位置づけです。実際に聴いてみても、重低音が尋常ではありません。明らかにニュートラルではなく、低音がグッと盛り上がっています。

無難で無個性なイヤホンが多い中で、「低音が一番凄いイヤホンはどれだ」と聞かれたら真っ先にPolarisの名前を挙げられるのは、それはそれで有意義です。

重低音を売りにしているイヤホンは多いですが、その中でもPolarisのインパクトは特出しています。多くの場合、低音を強調していると言っても、ハウジング内で反響させているだけでモコモコした不明瞭な鳴り方であったり、とくにハイブリッド型だとBAドライバーとのタイミングが合わずリズム感が悪いモデルが多いですが、Polarisは音響設計が優秀です。低音がしっかりとフォーカスして、タイミングもピッタリ、ズシンと胸に響くので、ライブイベントのPAスピーカーやサブウーファーの快感を実現してくれます。

低音が強いというのは旧タイプPolarisと同じなのですが、2019年モデルでは、それ以外の部分が大幅に変化したように思います。

私が今回Polarisで驚いたのは、中高域の音色がとても綺麗だという事です。スムーズで艶っぽく、「滑らか」というイメージです。ハウジングに見える通気孔も貢献しているのでしょうか、低音さえ無視すれば、まるで開放型ヘッドホンのような音抜けの良さと、美しい高音が印象的です。IOであったようなアタックの金属質感は一切無く、どちらかというとAndromeda寄りです。

旧タイプPolarisは、もっと中域がグッと迫ってくるような、インパクト重視で押しの強いサウンドでした。BAドライバーとダイナミックドライバーがどちらもズンズンとリズムに乗って押し切るような、激しい音楽に適したイヤホンで、たとえばハードロックとかで熱気を感じる聴き方に合っています。一方で新Polarisは低音以外はしっとりと美音を堪能できる、珍しいスタイルです。

そんなわけで、使い所が難しいイヤホンです。ソロピアノ演奏では、高音のタッチが綺麗ですが、低音の量感が明らかにグランドピアノのイメージを壊してしまいます。フルオーケストラの演奏でも、ポップスと違いホルンやバスーンなど低音楽器がゆったりと常に鳴っている事が多いので、それがPolarisではあまりにも厚すぎて、現実のコンサートとかけ離れています。

ジャズはそこそこ上手くいきました、そもそも録音自体にそこまで重低音は入っていませんし、低音はキックドラムやウッドベースなど、リズムを歯切れよく刻む楽器のみですから、Polarisのタイミングの良さが好印象です。音抜けが良いため、古い録音でもアタックが尖らず、トランペットやピアノが爽やかにメロディを奏でるので、心地良いです。

Polarisの目立った弱点としては、やはり帯域バランスがニュートラルではないので、特定の楽器が聴き取りにくいことがあります。たとえばジャズのギターは聴き取れないほど静かでした。ドライバー間のクロスオーバーの谷間に入ってしまったのでしょうか。IOでははっきりと聴こえていたギターがPolarisでは全然上手く鳴らないので、こうまでも違うのかと驚きました。




古いアルバムですが、よくダンス系の試聴で愛用しているのが上の二枚です。プログハウスとDnBのベテランDJコンピレーションで、2000年代クラブ全盛期よりもちょっと後のアルバムですが、これより古いとアナログ盤起こしソースが多くて音質が悪いので、ちょうど良い時代の作品です。

個人的に新Polarisの魅力が一番引き出せたのが、このような綺麗なダンス系ジャンルでした。とりわけアナログシンセが味わい深く、パッドもリズムも広範囲の空間展開で鳴るので、美しい音の世界に没入できます。

Polarisが凄いのは、いわゆるダンス・クラブ系イヤホンでありがちなドンシャリではない事です。低音は恐ろしく強いのですが、それより上は刺激的にならないので、コンプレッションが強い音楽でも耳障りに感じません。

こういうアルバムをスタジオモニターヘッドホンで聴いても、ドラムがチキチキとうるさいだけで楽しめません。一方たとえばAKGのような開放型ヘッドホンで聴くと、メロディはとても綺麗なのですが、低音がスカスカで物足りないですし、イコライザーで低音を持ち上げると広帯域に共振して不快になってしまいます。そんな風に、意外と満足に鳴らすのが難しいジャンルなので、新Polarisはヘッドホン・イヤホンを問わず、特定の需要を満たす、ユニークで珍しい魅力のあるサウンドだと思いました。

左がFinal、右がAZLA

自分にはAZLAが最善でした

Polarisを試聴する際には、イヤピース選びに注意が必要です。IOやAndromedaなどと比べても、Polarisはイヤピース次第で極端にサウンドが変わってしまいます。

ダイナミックドライバーのチャンバーのせいでしょうか、イヤピースの長さや穴の大きさが大きな影響を与えるようです。たとえば付属のFinalイヤピースは短く、穴は小さいのですが、これで聴くと低音が脳内に直接響くような、刺激の強い鳴り方でした。

いろいろ試した結果、AZLAイヤピースが個人的に一番良かったです。Finalよりも長く硬く、穴も大きいです。このイヤピースを使うと、低音が前方の一歩離れた位置に移動して、音色の位置が左右に広がり、全体的に余裕を持った鳴り方に変わりました。

どれが良いかというのは個人差があると思いますが、試聴する際にはいくつか異なるイヤピースを試してみることをおすすめします。

Campfire Audio Andromeda 2019

最後にAndromedaを聴いてみました。やはりこのイヤホンは素晴らしいです。IOとPolarisの良いところだけを合わせたような、圧倒的な完成度の高さが感じられ、大人気な理由がよくわかりますし、IO、Polarisと比較しての価格設定も納得できます。

ピアノ・ソロ演奏を聴いてみると、どの帯域でもしっかりと音像が描かれており、楽器としてのリアリズムがあり、IOで感じられたような結像の滲みは一切ありません。Polaris以上に音色がキラキラと艷やかに輝きます。

Polarisで問題だったジャズギターの音色は、Andromedaでは太く立体的に再現されます。メリハリは控えめなので、押しが強いサウンドではありませんが、音色の色艶の、いわゆるテクスチャ表現が豊かです。マルチBAでありながら、楽器の基調音とそれに伴う倍音・プレゼンスが上手くブレンドして一体感があるため、楽器音が際立ち、埋もれる事が無いのがAndromedaの魅力です。

さらにAndromedaが本領を発揮するのはフルオーケストラのライブ演奏です。個々の楽器が耳元に飛び交うのではなく、広大な音場空間が展開され、俯瞰で遠くから複雑な無数の音色を味わえるような余裕があります。とくにマルチBA型イヤホンでここまで「綺麗に、余裕を持って」大編成作品を再現できるのは珍しいです。たいていはドライバーの重なり合いで音が潰れてメリハリが無くなるか、もしくは硬質すぎてリアルな演奏が楽しめないかのどちらかが多いです。

初代Andromedaの音は未だに大好評なので、この2019年版はあえて音を変えていないと言われていますが、いざ交互に聴き比べてみると、わずかに音が違うように思えます。初代がCKに変わった時にはそこまで違いが感じられなかったので、どうにも不思議です。

2019年版の方が、低音のパンチが強く出るようになっており、メリハリがはっきりします。初代Andromedaはサラッと軽めでインパクトが足りないという指摘もあったので、それに対して良い方向に改善されていると思いました。どちらが良いかと聞かれたら、私なら断然2019年版の方を選びます。

ケーブルのせいかもと思い、双方入れ替えてみましたが、ケーブルの音質差以上に、本体の違いが大きく感じ取れました。それと比べるとケーブルによる違いは微々たるものです。

もし本当に中身の変更が無いのに音が違うとなると、考えられるのは:
  • 私の個体の経年劣化・エージング
  • 製造ロットによるばらつき、製造技術の向上

などが思い浮かびます。低音が強くなったといっても、かなり低い周波数帯域のみなので、ジャズのウッドベースとかでは違いは感じられないかもしれません。もっとデジタルなキックドラムとかの重低音で、2019年版の方がズンと響く感触がありました。

ちなみにAndromedaは数ヶ月前にステンレスハウジングの限定モデルがあり、それも低音が増強されていましたが、この2019年モデルとは傾向が違います。

ステンレス版は中域から低域にかけてなだらかな盛り上がる傾斜がある感じで、中低域が太く温かみがある鳴り方です。とても良い音ですが、Andromedaに求めている音とはちょっと違う、別物のイヤホンという印象でした。

その他のカラーバリエーションモデル(Pacific Blue、Iceberg、Snow White)はCKと同じ素材の色違いなので、ステンレスのような音質差はありませんでした。

一方今回の2019年版Andromedaは初代とほとんど同じでありながら、ほんの少しだけ最低域の低音だけがグッと持ち上がるというアクセントが追加されたようなものです。つまりAndromedaに求めている音を崩すような事は一切ありません。

おわりに

Campfire Audioの2019年新作を試聴してみましたが、IO、Polaris、AndromedaのどれもCampfireらしい個性の強いサウンドの世界を繰り広げています。

4→7→14万円と、モデルごとに約二倍の価格差がありますが、安いモデルは半分の音質だというわけではなく、それぞれの価格帯にて求められているチューニングをCampfireなりに考えてプロデュースしたという印象が強いです。

一方、音質の進化という意味では、むしろ新旧モデルの差が目立ちました。たとえばIOのチューニングは旧モデルOrionと同じ路線で、さらに進化したサウンドです。目新しさは感じませんでしたが、確実に問題点を解消してきています。

Polarisも同様に旧モデルからの進化が目立ちますし、意図したものかはわかりませんが、2019年版Andromedaも、初代と比べての音質差が感じられました。低音が引き締まって、Andromedaの素晴らしさがさらに際立つような仕上がりなので、私はこの新型の音が大好きです。

なんにせよ、この2019年版が出たことで、Andromedaを買う決心がつかなかった人には良いきっかけになるかもしれません。2016年の発売当時は「派手なハウジングの高価なラグジュアリーイヤホン」というイメージが強かったAndromedaですが、ハイエンドイヤホン価格の高騰化が止まらない今となっては、かなりお買い得なイヤホンのように思えてしまいます。私にとってマルチBA型イヤホンの中では五本の指に入る完成度を誇るイヤホンであることに揺るぎなく、他社の最新・最高級モデルと比べても劣っていると感じたことはありません。付属ケーブルが良いのも、お買い得感があります。

個人的に今回の新作で一番意表を突かれたのはPolarisです。低音がキツイのは予測していましたが、それを一旦忘れて、他の部分に集中すると、実に綺麗な美音イヤホンです。

イヤピースなどで低音の好みを調整さえすれば、力強いビートの中で飛び交うシンセの音色など、トリップ感が強烈なので、そういうのを求めている人にとってはPolarisが至高のイヤホンになるかもしれません。旧Polarisの販売終了があまりにも早かったので不思議に思っていたのですが、この新タイプPolarisを聴いてみて、その変貌に魅了されてしまいました。

あいかわらずチャレンジ精神旺盛なCampfire Audioですが、混沌としたイヤホン業界の中で、意外と音楽鑑賞の本質を見据えているメーカーです。その上で、商品としてのクオリティの高さは随一だと思います。近頃は何十万円もするようなイヤホンでも、実物を手にとって見るとあまりにもクオリティが低いメーカーが多いので、Campfire Audioの良さがとくに際立ちます。

本体の製造技術はもちろんのこと、ケーブル、収納ケース、そしてパッケージに至るまで、プレミアムイヤホンにふさわしい自己主張の強さを一貫して提供できているところが、大きな魅力です。これは簡単に真似できるような事ではなく、デザインと技術水準の高さがつくづく感じ取れます。