2023年12月1日金曜日

Dan Clark Audio CORINA 静電型ヘッドホンの試聴レビュー

 Dan Clark Audioの静電型ヘッドホンCORINAを試聴してみたので、感想を書いておきます。

Dan Clark Audio Corina

米国では2023年5月に発売したモデルで、価格はUS$4,500くらいだそうです。STAX用アンプ(ドライバーユニット)で駆動することを想定した静電型ヘッドホンです。

CORINA

Dan Clark AudioというとEtherやAeon、最近ではExpanseとStealthといった平面駆動型ヘッドホンが有名ですが、静電型にもたびたび挑戦しており、まだ社名がMr Speakersだった2018年にはVoceというモデルを出しているので、今作はそれの後継機という事になります。

平面駆動型のExpanseとStealth

CorinaとVoce

ハウジングやケーブルなどの見た目はVoceとよく似ており、一方ヘッドバンド部品はStealthやExpanseなど最新の平面駆動型モデルと同じスタイルに変更されています。

静電型です

STAXとの比較

肝心のドライバーには88mm静電振動膜を採用しているそうで、グリルを通して見ると、まるでティッシュペーパーのように薄い膜が確認できますが、これが振動膜でしょうか。同じ静電型のSTAX SR-X9000と並べて比べてみると、サイズ感はほぼ同じでも印象がずいぶん違います。

ちなみにDan Clark Audioは一般的なヘッドホンの通例どおり音が出てくる部分の事を「ドライバー」と呼んでいるのですが、静電型ヘッドホンにおいては、STAXが自社のヘッドホンアンプの事を「ドライバー」や「ドライバーユニット」と呼んでいるため、振動膜をドライバーと呼ぶのは静電型ファンには馴染めないかもしれません。

重い永久磁石を必要としない静電型ヘッドホンのメリットとして、例えばSTAX Lシリーズのように、ヘッドホン全体をとても軽量に作れる事が挙げられるのですが、CORINAは465gということで、一般的なヘッドホンの中でもそこそこ重い部類です。

これはCORINAに限った話ではなく、STAXでも上位モデルSR-009SやSR-X9000のレベルになると、薄い振動膜が歪まないように強固に固定するフレームが求められるため、どうしても重厚になってしまうようです。

メッシュの奥に見えるAMTS

さらに、今作CORINAがSTAXとは決定的に異なる点として、平面駆動型フラッグシップにも採用されているAMTSという特殊部品を搭載しており、これも重量に貢献しているのかもしれません。

AMTSというのは、イヤーパッドの内側、振動膜の前面に蜂の巣のような厚い板を置く事で音波を整える、いわゆるデフューザーのような部品です。これが導入された平面駆動型ヘッドホンStealthやExpanseでは、それ以外のモデルと比べて確かな効果が感じられました。

複雑な模様の開放グリル

外観デザインでは、やはりハウジングの開放グリルが目立ちます。複雑な幾何学模様で、開口率が非常に高いので、明らかに開放感のあるサウンドが想像できます。金属の質感もまるで中世の鋳造品を連想させるようなザラッとした荒削りな雰囲気が好印象です。

大型ヘッドホンというのは基本的にどれも似たようなフォルムになってしまいがちで、特に同じメーカーのモデル間では差別化が難しいのですが(そのために高級木材とかを使うわけですが)、今作CORINAは一目で認識できる優れたデザインだと思います。

ヘッドバンド
青いステッチ

ヘッドバンド内側に青いステッチでキルティングのような模様が描かれており、グレーのハウジングに対する差し色としてちょっとした派手さを加えています。

平面駆動型のフラッグシップ機では密閉型のStealthが赤、開放型のExpanseが青のステッチを採用しており、今作CORINAも青なのは開放型というつながりからでしょうか。

ロゴ

ヘッドバンド上面のレザーやロゴ刺繍は個人的にあまり好きではありません。高級品を目指すなら、もうちょっと質の良いレザーを選べたと思いますし、刺繍のフォントもY2K時代を彷彿させる古臭いサイバーなイメージです。

全体的に、ゲーミングとか改造車のシートみたいなエッジの効いたロゴデザインなので、エレガント嗜好なハウジングとのミスマッチが感じられます。もちろん実用上は問題があるわけではなく、フィット感はかなり良好です。

イヤーパッド

イヤーパッドも開口部はそこまで大きくなく、耳周りをコンパクトに包み込む感じなので、クッション性がとても良いです。

通気性や開放感という点ではパッド内部の開口は広い方が良いのですが、そうなると装着時に耳の位置がぴったり定まらず、左右のステレオ感が悪くなるなどの問題が発生します。ダイナミック型ドライバーと比べて平面駆動型や静電型のほうが耳との相対位置に余裕があるものの、それでもパッド内部の反射音との関係性などで、パッドに対する耳の位置というのは結構重要です。

全体的な装着感は、これまでのDan Clark Audioヘッドホンに慣れていれば大きな違いはありません。ヘッドバンドの二本の形状記憶ワイヤーのテンションで左右から押さえる力と、ハンモック式の頭部クッションで上から押さえる力がそれぞれ独立しているため、そこまで圧迫感が無く、良い感じに包み込んでくれるような安心感があります。他社の高級ヘッドホンにありがちな「重い物体を頭に乗せている」感覚が無いのが嬉しいです。

専用ケーブル

STAXアンプを想定したコネクター

静電型なのでケーブルも特殊なものが使われています。アンプ側は現行STAXと同じ5ピン端子で、ヘッドホン側もネジ止めで容易に分離できないようになっています。

バイアス電圧に関しては、公式サイトには書いてありませんが、現行STAXの580Vを想定しているのでしょう。あえて違う電圧で作る意味もありません。

ただし、熱心な静電型マニアになると、バイアス電圧を変更することでサウンドの変化を楽しむというような人もいるようなので、その点では公式に対応している電圧の範囲が知りたいです。

今回のようなSTAXタイプの5ピン端子は、そのうちの4ピンは通常のヘッドホンの4ピンXLRバランスと同じように左右の音楽信号を差動で扱っています。残りのバイアスピンで580VDC電圧をヘッドホンに送り、それで静電振動膜を帯電させることで、永久磁石を必要とせずに音楽信号に対して振動膜が震えるという仕組みです。

一般的なケーブル線材ではそこまでの高電圧に対応しておらず、絶縁被覆を飛び越えてショートしてしまう可能性がありますし、最悪、静電ヘッドホンではない一般的なのヘッドホンに静電アンプを接続すると壊れてしまうので、あえてユーザーが勝手にリケーブルしたりできないようになっています。

さらに、一般的なヘッドホンの場合は少電圧・大電流を扱うのに対して、静電型では大電圧・少電流なので、ケーブルが太いとむしろ静電容量が増して音に悪影響を与えるため、静電型ヘッドホン用のケーブルというのは、それ以外のヘッドホン用ケーブルとは設計思想が根本的に異なります。そのため、普通のヘッドホンと同じ感覚で太い高級線材とかを選んでも、そもそも電流がほとんど流れないため音質的には悪影響だったりしますし、線材の金属以上に絶縁体の性能が最重要なので、そのあたりのノウハウが求められます。

音質とか

普段なら再生周波数に対するインピーダンスを測ったりするのですが、静電型の場合は一般的なヘッドホンアンプで駆動するわけではないので、今回は行いませんでした。

Chord DAVE + STAX T8000

高価な静電ヘッドホンということで、試聴にはSTAXのT8000アンプを使いました。DAC兼プリアンプとしてChord DAVEを通しています。

ちなみにT8000はボリューム固定のダイレクトモードに設定して、Chord DAVEでボリューム調整をする方が好みに合います。T8000のボリュームノブを通した場合は音がソフトになって解像感が若干損なわれるような感じがします。

Cellar LiveレーベルからJalen Baker [Be Still」を聴いてみました。ジャケット写真どおりヴィブラフォンがリーダーで、ピアノトリオをバックに置いたバンドです。

スタンダードとオリジナルをいい感じにミックスして、広がりを持った柔らかい音色と、シャープなリズムセクションのスピード感が良いコントラストを生み出しています。とくにヴィブラフォンというのは金属的なアタックから残響が長く拡散していくので、ヘッドホンの響きの描き方の性能が肝心になってきます。


CORINAを鳴らしてみた第一印象ですが、私の中での「静電型らしい」サウンドというよりも、むしろDan Clark Audioの平面駆動型、たとえばExpanseの延長線上にある鳴り方に近い感じがします。

静電型といって想像するような高音寄りの細い鳴り方ではなく、中低音が豊かで、高音も過度に響かせず、全体的に制動力がしっかりしている印象です。アタックも尖っているわけではないので、中低域の豊かさと合わせて、若干丸みを帯びた、落ち着いた鳴り方です。ハードなジャズ演奏でも刺激的にならず、スネアやハイハットなどもカチッと捌いてくれるあたり、録音を選ばない音作りだと思います。

ただし、丸みを帯びたと言っても、録音本来の響き以上に倍音を盛って美化するような傾向ではないので、その点ではDan Clark Audioらしいポリシーを感じます。同社の平面駆動型モデルを聴いてみると、このCORINAと同じように、時間軸方向では無駄に響かせないモニター調のレスポンスでありながら、周波数特性としては中低域を豊かに出しているという組み合わせが人気の秘訣のようです。

個人的に、Dan Clark Audioといえば密閉型Aeon Noirというヘッドホンが一番好きなのですが、それら密閉型モデルを見ても、他社のように木材などの響きを加えるのではなく、カーボンや吸音材で反射音を排除する手法をとっており、やはり無駄に響かせないレスポンスの高さを目指しているのでしょう。

CORINAも開放型でありながら音はそこまで外向きに広がっていかないため、音像や音場プレゼンテーションは比較的コンパクトです。これまでのDan Clark Audioというと、密閉型モデルの完成度が非常に高い、そして開放型モデルは密閉型の感覚に近い、という傾向があったのですが、このCORINAもそれと共通した印象があります。

このようにDan Clark Audioらしい鳴り方のCORINAなわけですが、さすが静電型だけあって、耳穴に対してハウジングを上下前後に動かしても音の軸線がずれる感覚がなく、再生されている全ての音が均一に、大きな平面の振動膜から発せられていることが実感できます。

開放型で、イヤーパッドもそこまでピッタリ密着するタイプでもないおかげで、耳に何も装着していない自然な空間から音が発せられている感覚があります。たとえばハウジングを耳からちょっと離してみると、音が鳴っている距離は遠くなりますが、音色の周波数バランスはそこまで変わりません。

開放型でもイヤーパッドが厚く密着していることを前提に設計しているヘッドホンだと、メガネやマスクなどで隙間ができると音がスカスカになってしまい、左右がちょっとズレただけで周波数特性やステレオ感が損なわれるため、直立不動の状態で聴かないといけない、なんてモデルも結構あるのですが、このCORINAはそうではなく、フィットの正確さはあまり気にせずに、手軽に装着して楽しめるヘッドホンです。しかも平面駆動型のような重い永久磁石が無いので、ハウジングが自重でズレてくることもありません。

このあたりはSTAXがヘッドホンではなくイヤースピーカーと呼ばれているのと共通しており、静電型を選ぶメリットというのは単なる音質の優劣だけではなく、装着時の安定感や手軽さといった部分も検討に含めるべきです。

スピーカーに例えると、どれだけ高音質であっても、ニアフィールドモニターのように指向性が強すぎて、特定の着席位置から頭がちょっとでもずれると音が乱れてしまうタイプではリビングルームで気軽に使うには向いていないのと同じです。店頭試聴時にはそこまで意識していなくとも、いざ自宅で使うようになれば、静電型だとなぜか長時間聴いていられると思えるのも、このような理由が少なからずあります。

BISレーベルからWigmore Soloistsの新作を聴いてみました。

ファーガソン、ブリス、ホロウェイと、あまり馴染みのない英国作曲家を取り上げたアルバムですが(その中ではブリスが一番有名でしょうか)、どれも前衛的というよりは楽器の音色を活かした牧歌的な作風なので、静電型ヘッドホンでゆったりと楽しむのに最適です。


CORINAの音色は、同じDan Clark AudioのExpanseとよく似ていると言いましたが、これはやはりAMTSモジュールによる影響が大きいように思います。ドライバー前面にある蜂の巣状のフィルターの事ですが、これを初めて導入したStealthやExpanseを聴いた時も、それ以前のモデルとは音響の印象がだいぶ違うことに違和感がありました。慣れてしまえばそういうものだと思えるものの、改めてSTAXと交互に比較することで、AMTSっぽい鳴り方が目立ってしまうようです。

具体的には、楽器の出音と耳のあいだに録音由来ではない空気感のような響きが感じられる事です。極端な例でいうと、手のひらを耳に近づけると聴こえるシュワシュワした拡散音のような感じで、比較的クリーンな楽曲を聴いても、なんだか耳周りに漂う響きの存在が拭えません。このおかげで、帯域間のスムーズさやフラットさは向上していると思うのですが、まるで漆喰のように凹凸を取り除いてしまい、色艶の輝かしさや、無音と出音のコントラストなどがあまり出せないようです。逆に言うとスムーズで温厚、いわゆるリビングルーム的に聴きやすく調整されているので、そのあたりにSTAXとの大きな差を感じました。

ちなみにCORINAの外観デザインは前身となるVoceと似ているので、同じような鳴り方になるかと想像していたところ、こちらともずいぶん違う事に驚きました。

Voceは2018年にDan Clark Audio(当時はMr Speakers)の第二世代モデル(Ether 2など)と同時期に登場したモデルです。初代Etherのヒットから一大メーカーとしての地位を確立しはじめる頃で、通気孔にステッカーを貼る、パッドにインサートを入れるといった、チューニングに関してはユーザーに判断を委ねる自作系ガレージメーカーを離脱して、サウンドの方向性を模索している時期だったと思います。

そんな中で、Voceはかなり薄味で線が細く、空気感を出すのは得意でも、使いどころが難しいヘッドホンでした。古典的なSTAXやKOSS静電型を彷彿とさせるサウンドは静電型らしいと言えますが、他のヘッドホンが飛躍的に進化している時代において、あえてVoceを選ぶメリットも少ないと感じた記憶があります。

その点今回のCORINAは少なくとも同社の平面駆動型最新モデルExpanseと互角の存在であり、現行各社のハイエンドヘッドホンと同列に並べてもよいレベルに仕上がっています。

特にSTAXのラインナップと比較すると、価格帯としてはSR-009Sと同じくらいで、SR-L700MK2とSR-X9000の中間に位置するCORINAは、そう当てはめると案外妥当な価格設定だと思えてきます。

CORINA & SR-X9000

T8000アンプを使ってSTAX SR-X9000と聴き比べてみました。

CORINAと交互に聴き比べてみると両者の違いはあまりにも大きく、どちらも同じアンプで鳴らしている静電型ヘッドホンだとは思えないほどの差があります。

一見ハイテクなメカっぽいSR-X9000の方が艷やかで流麗な音色を奏でてくれ、CORINAと比べると外側に広がる雰囲気重視というか、旋律の美しさを引き立ててくれる感覚があります。CORINAは先程言ったとおりフラットな安定感や角の立たないバランス感を重視しており、どちらが正確かというならCORINAの方になりますが、面白さでいうとSR-X9000というふうに分かれます。

この二機種で優劣を決めるのは難しいです。私だったらSR-X9000を選ぶと思いますが、汎用性や普遍性を求めてCORINAを選ぶ人も多いでしょう。

私がSR-X9000を選ぶ理由としては、それまでのヘッドホンを超える音楽体験が期待できるからというのが大きいです。一方CORINAはDan Clark Audioが培ってきたヘッドホンチューニングの延長線にあるので、それらをすでに聴き慣れていると目新しい感じはありません。あえて静電型を選ぶのなら、SR-X9000の方が説得力があります。

では他のSTAXと比べるとどうかというと、私自身SR-009や007系の押しの強さがあまり好きではないため、どちらかというとL700・L500 MK2が好みなのですが、そうなってくるとCORINAの方が優れていると思えます。

SR‐L500・700MK2はSTAXらしい淡い空気感や雰囲気を体験するには最適のモデルだと思いますが、音色の実在感や勢いといった部分はやはり平凡で前時代的な(たとえばHD600やDT880のような)感じもするので、普段の主力ヘッドホンとして使うとなると物足りなさもあります。その当時HD600などと比べてSTAXを最高峰とする定説が生まれたのだと思いますが、今となっては頂点というよりも、すでに他のハイエンドヘッドホンをあれこれ持っている人が、あらたなフレーバーを求めて買い足すような存在だと思います。SR-L500MK2なら8万円くらいで買えますし、毎日のメインヘッドホンとして活用するというよりは、特別な楽しみとしてたびたび取り出すような感じで、私にとってはGradoとかと同じジャンルです。

上位モデルSR-007A・009Sはその点もっとモダンなサウンドに仕上がっており、静電型以外のヘッドホンに寄せている感じがあるあたりはCORINAと似ています。しかしCORINAは平面駆動型における現行トップクラスのレファレンスサウンドに近いのに対して、SR-007Aは温厚なDENONやFostexなど、SR-009Sは迫力や荒っぽさも引き出せるFocalやオーテクなどのダイナミック型ヘッドホンに近い感覚があります。合わせるアンプによって表情が大きく変わり、コントロールが難しいあたりは、生粋のマニアにとっては鳴らしがいがあると言えますが、普段使いでカジュアルに使うには悩ましいヘッドホンです。HeadAmpなどの高価なSTAX専用真空管アンプと合わせれば凄い音で鳴ってくれますが、レファレンスというよりは、機器やビンテージ真空管などをあれこれ入れ替えて味わいを楽しむような趣味の世界に向いているモデルです。

つまり、すでにSTAX SR-L700・500系を持っていて、さらに上のクラスを検討しているのなら、当然SR-007A・009Sを試聴すべきですが、どうも自分の求めている方向性と合わないと思ったらCORINAを試してみる価値があります。将来的にSR-X9000に行く人も、CORINAと性格がかぶる心配は無いので、無駄にはなりません。

しかし、もし現在すでに平面駆動型やダイナミック型ヘッドホンを愛用していて、今回初めての静電型ヘッドホンを買いたいというのであれば、CORINAではなく、素直にSTAX、たとえばSR-L700MK2なんかを選んだ方がいわゆる「静電型らしさ」を味わえると思います。

おわりに

古くから静電型ヘッドホンはSTAXの一強という状態が続いているわけですが、そのことがむしろCORINAの存在意義を際立たせているように感じました。

STAX SR-X9000やSR-009Sを手に入れてヘッドホンオーディオの終着点にたどり着いたマニアは多いですが、たまには別の鳴り方も楽しみたくなるものです。しかし、せっかく静電型システムを組んだのに、また新たにヘッドホンアンプから買い揃えるのも面倒です。

そうなると、STAXのサウンドとは全く異なる特性を持った静電型ヘッドホンとしてCORINAを持っておくのは十分有意義だと思います。STAXのライバルとしてではなく、むしろパートナーという形で、ベテランのSTAXユーザーこそCORINAの魅力を見出してもらえると思います。

CORINAの弱点として、チューニングが同社の平面駆動型ヘッドホンと似すぎているという点を挙げましたが、逆に言うと、静電型スピーカーが必ずしもQUAD ESLっぽいとは限らないのと同じように、静電型ヘッドホンらしいサウンドは必ずしもSTAXっぽい鳴り方である必要はないとうわけで、これはよく考えてみると面白い事実です。

つまり「静電型というのはSTAXのようなサウンド」という固定概念を払拭して、それ以外の方向性を追求できるジャンルであることを実感させてくれるのが、CORINAの最大の貢献のように感じます。

今回のCORINA以外でも、HIFIMANも以前Jadeという静電型ヘッドホンを発売したように、平面駆動型ヘッドホンを作っているメーカーは、薄膜の振動モードの知見など、静電型の設計製造に移行しやすいのでしょう。(ただ棒磁石を電磁石に変えるだけというほどシンプルではないとは思いますが)。

現状でレファレンス級のハイエンドヘッドホンを見ると、ほとんどが平面駆動型なわけですし、今後もしかすると、それらのメーカーが行き詰まった先には、ヘッドホン進化の次なるステップとして静電型の復権が期待できるのかもしれません。

アンプに関しては、STAXの580V 5pinコネクターはもはやデファクトスタンダードと呼べるほど普及しており、STAX純正でもバッテリー駆動のポータブルDACアンプD10から、今回試聴に使った最上位T8000まで幅広いラインナップが用意されているものの、それ以外の選択肢は少ないのが現状です。

今後もし平面駆動型メーカーが低価格な静電型に挑戦するようになり、STAX SR-L300などを脅かすようなモデルが出るようになれば、DAPやアンプメーカーも協賛して、静電型アンプの選択肢が増えてくれたら、なんて願っています。たとえばマイクのファンタム電源のように、高級DAPやアンプともなれば当然のごとく静電型駆動モードを常備しているなんて時代が来るかもしれません。