2017年10月11日水曜日

Campfire Audio Polaris イヤホンの試聴レビュー

Campfire Audioの新作イヤホン「Polaris」を聴いてみました。

Campfire Audio Polaris

2017年9月発売の新作イヤホンで、価格は75,000円くらいです。アルミ削り出しのハウジングはこれまでのOrion、Jupiter、Andromedaと似ていますが、今回はダイナミックドライバーとBAドライバーをそれぞれ一基ずつ搭載したハイブリッドデザインです。

ハイブリッドということを意識してか、グレーとメタリックブルーのツートンカラーが印象的ですが、サウンドも強烈でした。


Campfire Audio

米国オレゴン州に本社を構えるCampfire Audioは、アップグレードケーブルやポタアンなどで古くから人気のあるALO Audioから発生したイヤホンブランドです。ALOを通して多くのイヤホンマニアからのフィードバックを得て、自分達なりに最高のイヤホンサウンドを実現したいということで生まれました。

ALOといえばポタアンやアップグレードケーブルで有名です

少量バッチ生産をポリシーとしているので、本来であれば「知る人ぞ知る」ニッチブランドである予定だったのですが、その高音質ぶりが想像以上に話題となり、一部モデルでは生産が間に合わず在庫希少の状態が続くことも多いメーカーです。

とくに昨年登場した5BAドライバー「Andromeda」は即完売で時期入荷待ち数ヶ月という状態が繰り返されていました。それでもあえて安易な大量生産に踏み切らなかったのが、プライベートブランドとしてのプライドを感じさせます。

また、バッチ生産らしく、商品発売後であっても仕様変更やマイナーチェンジが多いメーカーなので、たとえば初期モデルのダイナミック型イヤホン「Lyra」では、作ってみてから実はセラミックハウジング製造コストが割に合わないということで製造中止になったり(現在は素材を変えた後継機Lyra IIが出ています)、なにかと体当たりで実験的な部分も面白いです。その辺も「作った分だけ売る」「買える時に買え」というスーパーカーのような体制なのも、買う側としてはリスクもありますが、個人的に好きなところでもあります。

そんなCampfire Audioの現行ラインナップはどれもIEMイヤホンなのですが(最近オーディオショウなどで試作大型ヘッドホンなんかも展示してます)、設計の主軸が二つあり、それぞれハウジング形状で判別できるようになっています。

BA型のOrion、Jupiter、Andromeda

まず、アルミ削り出しでカクカクしたデザインのものはBAドライバー機で、Orion・Nova・Jupiter・Andromedaと、それぞれ1・2・4・5ドライバーを搭載しています。

初期バージョンはツルツルのアノダイズド処理だったので、メタリックカラーが美しいものの剥げやすいということで、2016年からはそれぞれ「CK」と呼ばれるザラザラしたセラミックコートが施されたモデルに仕様変更されました。表面処理が変わることで、音も若干変わっているかもしれません。(私が聴いた範囲ではそこまで違いは感じませんでした)。

ちなみに2ドライバーのNovaは現在公式サイトのラインナップから消えて、店頭在庫のみとなっています。

アルミハウジングはカラーバリエーションを展開するのが容易なので、本来のグレーからスカイブルーになったOrion Skyや、Andromedaのホワイトバージョンなど、限定モデルもいくつか登場しています。

ダイナミック型のLyra IIとVega

そして、丸くてツルッとしたデザインのものはダイナミックドライバー機で、Lyra II・Vegaの二種類があります。どちらも8.5mmシングルドライバーですが、Lyra IIはベリリウム振動板、Vegaはダイヤモンド(DLC)振動板を搭載しています。

ハウジングもBAタイプのようなアルミ削り出しではなくLiquid Metal Alloyという低温度成形ができる金属ガラスを採用しており、ダイナミックドライバーならではのハウジング共振問題に対処するなど、最先端の材料を積極的に使っているのも少量生産ならではの面白さです。

Campfire Audio初のハイブリッド型「Dorado」

ダイナミックとBAの両方を搭載するハイブリッド型イヤホンは今回のPolarisが最初ではなく、すでにDoradoというモデルがあり、Lyra IIと同様の8.5mmベリリウムドライバーと、BAドライバーを二基搭載しており、値段も約13万円ということで、75,000円のPolarisと比べるとかなり高価なモデルです。

Polaris、Orion、Andromeda

PolarisとDoradoはどちらもハイブリッド型なのですが、ハウジングを見るかぎりでは、PolarisはBAシリーズ、Doradoはダイナミックシリーズ寄りの設計であることが想像できます。

意図的にそうやって区別しているのか、それともPolarisの価格ではDoradoのような金属ガラスハウジングは無理だったのか、理由は不明です。ひとつだけ言えるのは、Polaris登場と同時期に、2BAモデルのNovaがラインナップから消えています。

Novaのコンセプトは、ツインBAドライバーのメリットを活かし「最低音から最高音まで」というワイドレンジを主張するモデルだったので、つまりPolarisは、そんなツインドライバーの狙いをさらに推し進めた、実質的な後継機なのかもしれません。

Polaris

公式サイトに3DCGによる分解動画が載っているので、Polarisの中身がよくわかるのですが、それを見ると、よく他社でありがちな「ただドライバーを詰め込んだ」だけの安直なデザインではないことがわかります。

公式サイトにとてもわかりやすい分解図と動画があります

通気口が見えます

Polarisはラインナップの中でも唯一、ハウジング外側に小さな通気口があるのが見えます。

CG展開図を見ると、ダイナミックドライバーは専用の流線型ケースのようなものに入っており、その排気ダクトがハウジングの通気口につながるデザインになっています。CampfireはこれをPolarity Tuned Chamberと呼んでいます。言うなれば、ダイナミックドライバーをBAドライバーのように自己完結した一つのユニットモジュールとして搭載しているわけです。

ちなみに、このダイナミックドライバーは公式サイトに8.5mmと書いてありますが、ベリリウム振動板なのかどうかは不明です。

さらにBAドライバーの方も、一般的にはドライバー先端に長いゴムホースや金属管を取り付けて音導管まで繋げるのですが、PolarisではTuned Acoustic Expansion Chamber™ (TAEC)という名前で、3Dプリンター製の小さな音響ノズルを接続し、それをそのまま音導管にピッタリはめ込むことで無駄な音響経路を省き、高音に癖がついたりするのを防いています。

音導管の穴が二つあります

イヤピースを接続する音導管も二つの穴に別れており、それぞれBAとダイナミックドライバーにつながっているのがわかります。ダイナミックドライバーというと、ハウジング内部全体を使って自由に響かせるデザインが一般的なのですが、Polarisの場合、BAとは全く別のチャンバー空間で鳴っており、耳孔に届くまで別経路を使うデザインのようです。

ハイブリッド型イヤホンの欠点として、各ドライバーの音が干渉しあって、音響のつながりが悪い、ということがよく指摘されるので、このデザインであれば少なくともハウジング内で両者が混じり合うことは無い、潔いアイデアだと思います。

パクリCampfire

余談になりますが、中国のメーカーが作った某イヤホンはご存知でしょうか。わずか5,000円でハイエンドイヤホンに迫るサウンドということで、ネットオークションなどで人気の完全オリジナルデザイン(?)イヤホンです。アマゾンなどでCampfireと検索するとこれが出てくるので、隠すつもりも無いのでしょう。

かなりアレなデザインです

実はこれ、メタリックブルーとグレーの二色バージョンがあるので、二つ買って組み合わせればPolarisカラーにできるので、Polaris登場時にネット掲示板などで「あれ?お前もう持ってるじゃん」なんてジョークのネタにされてました。

ところで、さすがにここまで似ていると意匠権でアウトなのでは、と思うかもしれませんが、流通の人に聞いてみると、いくら製造国で裁判を起こしても判決が出るまで5年も引き伸ばされ、しかもそれで得るのは販売差止めのみなので、結局無駄足だと言ってました。

ネットで拾った中身の写真を見ると、BAやダイナミックドライバーが接着剤で無造作に貼ってあります。つまり、音響設計というよりは外観最優先ですが、5000円では文句も言えません。友人が持っていたので聴かせてもらいましたが、なんというかUE900やEX90というか昔懐かしいサウンドだったので、これはこれでコスパ最優先のベーシックイヤホンとしてアリだと思いましたが、さすがに本家Polarisとは比較になりませんでした。

Polarisのデザイン

本物のPolarisの話に戻りますが、実機を眺めてみると、ほぼOrionやAndromedaと同じ手触りなのですが、音導管の形状が若干異なります。

Polarisは音導管が若干長いです

角度は大体同じくらいです

これまでのようなアルミ削り出しではなく、黒いプラスチックのような素材で、ダイナミックとBAそれぞれのために大きな穴があり、若干長めです。とはいっても耳に装着してみるとそこまでの違いや違和感はありません。

SpinFitを使いました

あいかわらず挿入角度は絶妙に良いので、どのようなイヤーチップでもフィット感は良好です。今回の試聴では、私が普段Andromedaで使っているSpinFitのMサイズを使いましたが、装着感はAndromedaとほぼ同じ感触でした。

よく、このカクカクしたハウジングデザインは耳に当たって痛いかもと心配している人がいますが、私の場合、日常的にAndromedaを使っている分にはそういうことはありません。ただし枕で横になったりなど、外から圧力がかかると、たしかに尖った部分が痛くなります。

派手なメタリックブルーが目立ちます

ハウジングがグレーとメタリックブルーの二色というのがユニークですが、グレーの上蓋部分にザラザラのセラミックコーティングが施されているようで、まるでセラミックコートのフライパンみたいな質感です。一方ブルーの部分はCampfireらしく発色が綺麗ですね。実際インパクトのあるカラーリングなので、カッコいいと思います。

CKありと無し(私のやつ)の違い

私のAndromedaはセラミックコート以前のモデルですが、使い始めてすぐにアノダイズド処理の傷が目立つようになってきたので、そういうのが気になる人にとっては大事な進化です。

付属アクセサリー類

付属品に関しては、今回は試聴のみだったので実際に確認できなかったのですが、Campfire Audio伝統の高級ジッパーケースが付属しているそうです。硬いメガネケースみたいな素材で、使い勝手も良さそうですが、私の場合Andromedaのやつはあまりにも高級っぽすぎて、傷がつくのが嫌で一度も使ったことがありません。

ケーブル

Campfire Audioといえば、兄弟ブランドALO Audioがオーディオケーブルのメーカーということもあり、イヤホンの同梱ケーブルもそこそこ高品質なものが付属していることも人気の理由の一つです。

普段イヤホンを買ったら真っ先に社外品ケーブルに交換する、という人でも、Campfireだけは純製ケーブルを使い続けている人が多いと思います。

どれもMMCXケーブルですが、2015年の初期モデルはTinsel Wire、最近ではLitz Wireという銀色のケーブルを標準で付属していました。

特に私はLitz Wireをとても気に入っており、Andromedaでは今までに何度も社外品ケーブルにアップグレードしようと試みましたが、結局は付属のLitz Wireに戻ってしまいました。さらに、フニャフニャの編み込みタイプなので取り回しが良く、タッチノイズも少なく、使い勝手が良いケーブルです。単品では2万円程度というのも他のケーブルメーカーと比べても納得のいく値段で、別売で2.5mmや4.4mmバランス版も手に入るのがうれしいです。

黒いのがPolaris付属のLitz Copper Wire

MMCX端子部分などはほとんど同じです

ところが今回Polarisでは、これまでの銀色のLitz Wireではなく、黒いLitz Copper Wireというのが付属しています。線材が銀メッキ銅から普通の銅線に変わったらしいですが、構造も編み込みではなくツイストタイプに変更されています。

編み込みのLitz Wireケーブルは鎖のように柔軟性があったのですが、今回はツイストなので若干テンションがあります。といっても、一般的なIEM付属ケーブルと同じような感触なので、普段使いでこれといって不便というわけではありません。

ちなみにこのLitz Copper Wireケーブルは今のところ単品では発売していません。

左右表示がわかりやすいです

3.5mmコネクタも使いやすい形状です

銀メッキではなくなるというのは、単純にコストダウンのためかと思うかもしれませんが、Polarisよりもさらに安い4万円台のOrionでも銀メッキLitz Wireケーブルが付属しているので、コストだけが理由ではなさそうです。(実際ブランド品でなければ銀メッキケーブルなんて2,000円程度で買えます)。

高価なイヤホンでも、ユーザーの好みによってあえて銀メッキしない純銅ケーブルを選ぶことも多いので、Polarisの場合も、全体的な音作りを踏まえてLitz Copper Wireと合わせた、というふうに考えるべきでしょう。

音質とか

今回の試聴では、普段から聴き慣れているCowon Plenue Sを使いました。

Cowon Plenue S

まずPolarisのスペックが16.8Ω・97.5dB/mWということで、一般的なイヤホンとしてはちょっと能率が低い部類ですが、スマホなどでも十分な音量が得られます。

ちなみにハイブリッド型のDoradoは15Ω・107dB/mWなのでPolarisよりも能率が高いです。さらにAndromedaは12.8Ω・115dB/mWです。個人的にAndromedaほど高能率すぎると弊害も多いので、Polarisでちょうど良いくらいだと思います。

具体的には、Plenue SでAndromedaはボリューム40%でもうるさすぎるところ、Polarisでは70%くらいでちょうどよく、Doradoはそれらの中間くらいでした。

イヤホンのインピーダンスが低すぎると、アンプの出力インピーダンスの影響を受けやすくなりますし、感度が高すぎると、アンプの潜在ノイズを拾いやすいく、さらにアナログボリュームノブでは左右のばらつき(ギャングエラー)も問題になります。

つまり、Campfire Audioのラインナップを見ると、AndromedaやDoradoなど高価なモデルになるほど、「高出力」なアンプというよりも「高性能」なアンプを要求する設計と言えます。


Polarisのサウンドですが、まず新品開封直後にちょっと聴いてみたところ、あまりにも高音と低音のドンシャリがキツすぎて、これはちょっとダメかも、と思ってしまいました。とにかく「やかましい」鳴り方でした。

その後2週間ほど、試聴機が色々な人に使い回されて馴染んできた頃合いで、あらためて聴いてみたところ、そこそこ落ち着いて満足に楽しめるレベルになっていました。

BAドライバーのJupiterやAndromedaではそこまでエージングでの音質差は感じなかったので、やはりPolarisはダイナミックドライバー搭載機だからでしょうか。

そんなわけで、その後も何度かに分けて試聴を繰り返してみたのですが、エージング後でもPolarisのおおまかな印象は「かなり派手にワイドレンジ」という感じです。

よく伸びる派手な高音と低音で、目が覚めるドンシャリ系なので、「こういうサウンドを求めていた」という人は多いと思います。Polarisを聴いた直後だと、そこそこ派手だと思われるAndromedaですら、なんだかマイルドでソフトな「突き抜けてない」サウンドのように聴こえてしまいました。

ハイブリッド型でドンシャリ系というと、たとえばソニーXBA-H3やZ5などのシリーズを連想しますが、PolarisはこれまでのCampfire Audioイヤホンと比べると、そんなソニーとかに寄せたチューニングだと思います。扱いやすく万人受けするサウンドなので、ポピュラー系ジャンルの最新ハイレゾ録音などとは相性が抜群に良いです。

ソニーと多少異なるのは、Campfire Audioらしく高音に響きの艶が実感でき、音楽に躍動感があるので、乾いた硬さや刺々しさは目立ちません。あえてハウジングをガチガチに拘束せず響きを上手に活用しているようなので、そのへんは一枚上手だと思います。AKG K3003も似たような系統ですが、さすがPolarisの方が設計が新しいだけあって、K3003ほど派手に高音ピークを作らず、比較的素直に伸びていくので、そこまで楽曲との相性を選ぶような個性やクセのようなものはありません。

高音が派手でありながら不快に感じさせず、幅広いジャンルで楽しく音楽を堪能できる一方で、録音の全貌を余すこと無く引き出せているので、いわゆるリスニング向けイヤホンと、ShureやJHなどプロIEMの中間を絶妙に渡り歩いている、といった感じがしました。

ちなみにOrion(1BA)やNova(2BA)も聴いてみましたが、個人的に、それらと比べるとPolarisは圧倒的に良いと思います。

Orionは単独BAドライバーで可聴帯域をカバーしようと努力しているため、中域メインの山なりの特性で、低音、高音ともに出し切れていないもどかしさがあります。それで必要十分と納得できれば良いのですが、一度でもPolarisを聴いてしまうと、大窓のカーテンをパーッと開けたように、音の幅が一気に広がるので、Orionには戻れなくなってしまいます。Novaは高音はそこそこ出るのですが、低音はBAっぽさが拭いきれず、いまいちツインドライバーの効果が伝わってきません。Polarisを後継機と考えれば、あえてNovaに戻るメリットは無いと思います。

とくにPolarisの低音はずいぶんインパクトがあります。Polarisだけを聴いている時はあまり意識しないのですが、AndromedaやJupiter、NovaなどマルチBA機のあとでPolarisを聴くと、その格差に「ここまで違うのか」と驚かされます。低音に限って言えばAndromedaですらフニャフニャしていて全然ダメでした。

BAだけではどうしても表現しきれない空気の張りや力強さみたいなものがあり、Polarisではそれがちゃんと音楽に貢献できています。量が多いというよりも、ダイナミックっぽく聴こえるという意味で、ダイナミック型ヘッドホンの音と似ているので、普段からイヤホンよりもヘッドホンを使う事が多い人であればAndromedaなどよりもPolarisの方がしっくり来ると思います。

この高音と低音のコンビネーションは、なんとなくUltrasoneヘッドホン(Edition 8、Signature Pro、Performanceなど密閉型タイプ)を連想させるところもあり、オーディオテクニカの大型ヘッドホン(A2000Z)や、ソニーで言えばMDR-1Aや1000Xなんかもそれっぽいです。同じ音というよりも、方向性や聴かせ方が似ている気がします。

2WAYハイブリットといえばAZLAがあります

BA+ダイナミックのツインドライバーイヤホンと言えば、最近ではAZLAが人気です。値段もPolarisよりも安い45,000円ということで気になる存在です。

AZLAは以前購入したのが手元にあるのでじっくり聴き比べてみたのですが、両者のサウンドは大幅に異なります。簡単に聴いてみると、Polarisは高音寄り、AZLAは低音寄りと言えるのですが、実はもうちょっと複雑です。

AZLAはユニークなハウジング設計のおかげで低音がかなりズシンとくる「体感的」な鳴り方なので、たとえばベースギターなんかは鼓膜よりも喉や胸のあたりをドスンと殴られるような快感があります。一方Polarisの低音はあくまでダイナミック型イヤホンっぽさを丁寧に再現することを心掛けているようで、たとえばIE80などに近い、我々が慣れ親しんだ鳴り方です。

また、AZLAの方が空間の使い方が上手で、イヤホンという枠組みを超えるような宙を漂う立体音響を形成しているのですが、Polarisの方がオーソドックスなイヤホンらしい無難なステレオ感で、過度な演出も破綻も少ないです。

低音の量で言うとAZLAの方が強調されているのですが、それでいて音楽は耳で聴いて、低音は体で感じるといった具合に、お互いにあまり邪魔をしないというメリットもあります。一方Polarisの低音は量が控え目ですが、ドライバーがしっかり鳴るので、低音も音楽の一部としてブレンドされているというメリットがあります。

装着感はPolarisの方が圧倒的に優れていると思うので、その点はAZLAの残念な部分です。個人差はあると思いますが、装着感というのは快適さや外れにくさだけではなく、挿入やイヤピース選択による音色や音場バランスの変化がシビアかどうか、という意味もあります。

Campfire Audio Dorado

同じハイブリッド型ということで、Doradoとも聴き比べてみました。個人的にDoradoは結構気に入っているのですが、中低域を中心に丸くまとまっているサウンドなので、賛否両論あるみたいです。

たとえばJVC WOODシリーズなど温暖系イヤホンユーザーであればDoradoも気に入ると思いますが、AndromedaやVegaなど一連のCampfire Audioイヤホンから期待していると、ずいぶん「Campfireらしくない」サウンドだと落胆するかもしれません。

Doradoの弱点は、BA搭載のハイブリッド型でありながら、あくまで中低域重視で、あまり派手に広帯域っぽく聴かせないことだと思います。あの小さな硬いハウジングにドライバーを詰め込んでいるので、もしかすると自由に鳴らしきれていないのかもしれません。

その点Polarisは新規開発のハウジング構造のおかげでBA・ダイナミックドライバーともしっかり音抜けよく鳴らし切ることが実現できているように聴こえます。

ただし、DoradoやAndromedaなどと聴き比べてみると、Polarisの弱点みたいなものもいくつか思い浮かびました。まずPolarisの特徴的な派手さやドンシャリ傾向は、弱点ではないと思います。これはこれでしっかり完成した音作りですし、耳障りということも一切ありません。

個人的にPolarisの弱点として思い当たるのは、空間の展開が左右のみに広く平面的で、前後の奥行きや立体感に乏しいことです。これだけはOrionやNovaと共通しており、Jupiter・Andromeda・Doradoなど上位モデルに大きく差をつけられるポイントだと思います。それらと比較するとPolarisはどうしても音が目の前にベタッと貼り付いており、コンサートホール的な深みがありません。

もうひとつ気になったのは、ツインドライバーでありがちな弱点ですが、中域の実体感や主張が乏しく、とくにボーカルが弱いことです。Andromedaであれば高音から中高域の女性ボーカルまで綺麗にしっとりと鳴るので、美音に酔うような聴き方ができます。Polarisの場合、高音はしっかりしているのですが、中域付近はあえてダイナミックドライバーと干渉しないよう意図的に軽めに合流させているように思えます。

男性ボーカルに関しても、Doradoのように丸く厚みのあるサウンドではないので、ダイナミックドライバーはどちらかというと低音メインで、中低域の力強さにはあまり貢献していないようでした。楽曲によって低音の音作りはそれぞれ違うので、思ったほど低音が出ない事もありましたし、逆に、ダイナミックドライバーから発せられた低音楽器の響きが男性ボーカルに被って邪魔をするようで気になることもありました。

高音・低音のレンジを広げる事に専念し、その折り合いで中域がよくわからない合成状態になっているという点が、ソニーやオーテクなんかの典型的なチューニングと似ています。これは悪いことではなく、値段に関わらず、中域の味わいと帯域の広さを両立するのは難しいので(Andromedaでさえ無理です)、どちらのアプローチもそれぞれ需要があります。

Andromeda付属のLitz Wireと交換してみました

ここまではPolaris標準装備のLitz Copper Wireで聴いていたのですが、せっかくなので銀メッキLitz Wireを装着して聴き比べてみました。

二つのケーブルを交互に聴いてみると性格ずいぶん違います。線材の違いか、それ以外の要素があるのか不明ですが、かなりわかりやすく音が変わるので驚きました。結論として、Polarisは付属Litz Copper Wireとの組み合わせで正解だと思いました。

一般的に、銀線や銀メッキ線というと高音が派手に出るようになり、一方、銅線だと丸く暖かみがある、なんて言われていますが、これらのケーブルではもっと複雑な影響があるようです。

Polarisに銀メッキLitz Wireを装着してみると、高音は高音でも、刺さるのではなく、シャラシャラした空気感っぽいものが目立つようになり、地に足がついていないフワフワした印象です。細かな情報量が増えるとも言えるのですが、それが主旋律ではなく、それ以外の環境音ばかりなので、フォーカスがボケるというか、何を聴いているのかわかりにくくなる感じです。

Polaris付属のLitz Copper Wireに戻してみると、音色のアタックがバシッと硬派に決まってメリハリが付き、より刺激的でリズミカルになります。よくスピーカーケーブルなどでも、太い銅線を使うと、楽器の「芯」がハッキリとして、しっかりとした音圧が味わえるなんて言われていますが、このケーブルでは、たとえばドラムなどのアタックなどの高音でそれが体感できます。銅線といっても極太撚り線などではなく、名前の通りリッツ線(細いワイヤーの一本一本が絶縁されている、高周波用ケーブル)だからかもしれません。

さらに低音に関しても、Litz Copper Wireの方が歯切れよくしっかりするので、今回の試聴で感じたPolarisのサウンドは付属ケーブルもそれなりに貢献しているようです。

逆にもうちょっとPolarisをフワフワ・キラキラさせたい、というのであれば、銀メッキLitz Wireケーブルに交換する手もあります(Campfireファンなら、他のイヤホン付属でもう持っているかもしれません)。

Campfire Audio ALO Reference 8ケーブル

だたしPolarisで若干不足している中域の実在感や厚み(音色のボディ)をもっと引き出したいという場合は、どちらのLitzケーブルもあまり上手ではないので、別の社外品ケーブルを探すか、もしくはCampfire Audioだと、さらに上位の別売ケーブルALO Reference 8の方が良いです。

PolarisにてReference 8ケーブルを試したところ、Campfireイヤホン全般の特徴である中域が緩い感じが若干解消されるので、死角のない優秀なケーブルだと思いました。ただし4万円もする高級ケーブルなので常識的に考えると手が出しにくいです。バランスケーブルにアップグレードしたいなら検討すべきですが、試聴は必須です。

なんにせよ、Polaris自体がすごくワイドレンジなので、たとえばモコモコしたイヤホンをケーブルで派手に盛り上げるのではなく、すでにあるイヤホン本来のポテンシャルをケーブルでチューニングするような感覚なので、ケーブル選びも面白いと思います。


おわりに

Campfire Audio Polarisは、あくまでCampfireらしいサウンド設計の延長線上で、さらに低音と高音のワイドレンジ化に特化させた意欲作だと思います。

PolarisのサウンドはDoradoやAndromedaなどとは方向性が違い、派手に音楽を盛り上げてくれるエネルギーに溢れているので、上位モデルの劣化版という気持ちにさせない独自の魅力があります。また、外観はこれまでのCampfireを踏襲していますが、中身は新たにPolarity Tuned ChamberとTuned Acoustic Expansion Chamberという音響技術の効果が実証できたので、今後の進展に貢献する次世代モデルの第一号という意味でも大事なモデルです。

クラシックやジャズなどの生録音ではもうちょっと三次元的な奥行きが欲しいところですが、Polarisよりも高価なハイエンドモデルになると、Polarisほど音楽の隅から隅まで「しっかり鳴っている」充実感というのはむしろ影を潜めて、特定の音色の豊かさや空間の臨場感なんかに重点を置くような独自性の強い音作りが主流になります。Polarisが映画的として、それらはドキュメンタリー的とでも言えそうです。そうなると音楽ジャンルとの相性なんかも気を使うので、結果的に、味付けの異なるイヤホンを色々と買い集める事になってしまいがちなのが、高級イヤホンの怖いところです。

2-4万円台のソニーやオーテクなどから次のステップへとアップグレードを考えているのであれば、Polarisはクセが少なく安心して選べる選択肢だと思いますし、さらにその上を考えると、何か得るものと同時に失われるものも増えてくるので、普段使いの万能性を求めるなら、満足度の高い、ちょうどよい立ち位置のイヤホンだと思います。