Campfire Audio Cascade |
2018年発売の新作ヘッドホンです。米国での公式価格は$799ということで、日本円だと9万円くらいでしょうか。
IEMイヤホンにおいては文句無しの実力を見せているCampfire Audioですが、今回は初の大型ヘッドホンということで、興味をもって試聴してみたら結構良かったので、買ってしまいました。
決して完璧とは言えませんが、とても魅力的なサウンドなので、その辺についての感想を書いておこうと思います。
Cascade
Campfire Audioといえば、IEMイヤホンの世界ではダイナミックドライバーのみならずマルチBAやハイブリッドモデルの設計でも定評があり、多くのノウハウを蓄積しているメーカーです。Campfire Audio Andromeda 凄いイヤホンです |
私自身もBA型イヤホン「Andromeda」を気に入って購入しており、このメーカーの技術力の高さ、音作りのセンス、そして新しい事に挑戦する精神に感心しています。個人的な感想としては、大企業のような平均点を狙う商品開発ではなく、個人的な閃きで生まれたコンセプトをそのまま商品化する力に長けていることが、魅力の秘訣だと思います。
イヤホンではすでに幅広いラインナップを展開しているため、これ以上新作が増えても逆にユーザーを混乱させるだけでしょうし(私も買い足す気が起きません)、そういった意味では、全く新たなジャンルとしてヘッドホンに挑戦するのは面白い決断だと思います。
また、近頃のCampfire Audioは、これまでの手作り感溢れる小規模なガレージメーカーっぽさから、大量生産体制の世界的な大手メーカーになりつつあり、今後の方向性を示す意味でも興味深いモデルです。
そんなわけで、今回は同社初のヘッドホンということで、なにか奇抜な物を期待する気持ちもあったのですが、あえてシングルダイナミック型という王道路線を選んできたことに驚きました。
意外と普通のヘッドホンです |
Cascadeヘッドホンはアルミ削り出しの密閉ハウジングに42mm PVDベリリウム振動板を登載した、古典的な密閉型ダイナミックドライバーヘッドホンです。
ベリリウムはマグネシウムと同族の軽金属で、さらに軽く硬い(つまり振動板として理想的な)薄膜が作れるのですが、脆くて扱いが難しいため、旧来の(アルミホイルを作るような)引き延ばしロール成形では十分な大きさと薄さが両立できず、使いづらい素材でした。数年前までは、超高級スピーカーのツイーターなどにのみ採用されていた高級素材です。
世間一般のヘッドホンではプラスチックや繊維素材の振動板が主流になっていますが、最近になってガス蒸着(PVD)で金属薄膜を作る技術が身近になったことで、多くのメーカーが金属振動板を再検討するようになってきたようです。Campfire Audioの場合、Lyra、Lyra IIイヤホンですでにベリリウム振動板を採用しているので、そこでのノウハウが(振動板のみでなく、磁気回路やハウジングの音響設計なども含めて)今回のヘッドホンに活かされていると想像できます。
パッケージ
せっかく購入したのでパッケージの写真も撮っておきました。Campfire Audioのイヤホンはパッケージデザインが格好良く、店頭ディスプレイでも目立つ存在ですが、今回Cascadeではイヤホンと全く同じ紙箱を巨大化することで、一目見てCampfireだとわかる存在感を演出しています。ちなみに私が買ったのは米国仕様なので、日本では内容が異なるかもしれません。
AndromedaイヤホンとCascadeヘッドホンのパッケージ |
収納ケース |
Andromedaイヤホンのケースと比較 |
ケースの内側 |
Campfire Audioのイヤホンといえば高級感溢れるレザーケースが好評ですが、Cascadeでは同じデザインをヘッドホンサイズに拡大した物が付属しています。イヤホン用のレザーケースと並べてみると、その大きさに圧倒されます。
内側はシープスキンではなくモコモコしたタオルケットのような素材です。ヘッドホン用に大型化したことと、そもそもCascadeヘッドホン自体がAndromedaやVegaなど上位イヤホンよりも低価格なので、ケースの質感は一歩劣ると思いますが、他社と比べれば十分すぎるほど豪華です。
パッケージを見ると、これまでCampfireといえば米国製造のモデルが多かったのですが、このCascadeは中国製と書いてあります。$799ということで、Jupiterイヤホンと同じ公式価格なので、大型ヘッドホンとしては意外と安めの設定だなと思ったのですが、中国製ということでコストを下げることができたのでしょう。
ヘッドホンを収納した状態 |
付属品 |
同梱されている付属品類は簡素なものです。小さな紙袋にケーブルと説明書各種、そして交換フィルターが4枚付属しています。これについては後で紹介します。メーカーロゴのピンバッジもオマケで付属しているのは嬉しいです。
デザイン
カッチリしたメカっぽいデザインです |
左右の幅は結構広いです |
長方形ハウジングが印象的です |
ハウジングはアルミ削り出しで頑丈に作られています。角ばったCampfireのイヤホンデザインを引き継いでいるので、ちゃんとメーカーの個性が現れていると思います。
イヤホンラインナップでは多種多様なメタリックカラーが用意されていますが、このような大型ヘッドホンではさすがに派手な発色は目立つので、マットブラックでちょうど良いと思います。側面で銀色に輝くメーカーロゴはインパクトがあります。
今回発売したのはマットブラックのみでしたが、Campfireのことですからカラーバリエーションとかも出しそうですね。個人的にはLyraイヤホンの紫っぽい色とかはマッチすると思います。
B&W P7とちょっと似ています |
ヘッドバンドとハウジングをつなげるハンガーは片側のみのアームなので、構造的にはB&W P7と似ています。このハンガーは左右に結構張り出しているので、ポータブル向けとしてはもうちょっと横幅がスリムな方が好みです。
本体重量は383gということで、ポータブルとしてはかなり重い部類で、個人的にもギリギリ許容範囲というくらい重さが気になりました。
かなり厚手で柔らかいイヤーパッド |
パッドの厚さは前後非対称です |
イヤーパッドを外すとハウジングの薄さが目立ちます |
イヤーパッドはアラウンドイヤーで長方形の箱型で、マグネットでパカっと外せるようになっているので、この辺もB&W P7と似ています。
ただしレザーの質感はP7よりもこちらのほうが優れており、B&Wは自動車のシートや革鞄のような厚めの素材で、Cascadeはまるで女王陛下が使う手袋かのように柔らかくしっとりとした軽い質感です。
さらに、B&Wの場合はP7・P9ともに中にスポンジがパツパツに入っているところ、Cascadeのクッション性はソニーMDR-Z7やZ1Rに近く、低反発枕みたいなフカフカの余裕があるので、装着するとグニャッと深く沈み込んで、素晴らしい肌触りと密着感が得られます。
このパッドの密着具合が良好ですし、金属ハウジングの密閉型だけあって、遮音性は優秀です。とくに音漏れが少なく、そこそこ大音量で聴いていても周囲の人にはほんど聴こえませんでした。
イヤーパッドを外した状態 |
イヤーパッドを外してみると、ハウジングに黒いメッシュが接着剤で固定されています。その後ろに見えるドライバーは若干の角度がついており、保護キャップのデザインや、振動板の渦模様など、オーディオテクニカのCCAWドライバーによく似ています。
オーテクも先日ATH-MSR7のSpecial Editionにて振動板にDLC蒸着を行っているので、ダイナミックドライバーにおいて硬い振動板素材というのは各メーカーごとに独自の研究が進んでいるようで、面白い時代になってきました。
黒いメッシュは、雑に裁断したものを接着剤でベタッと貼ってあるだけなので、カッコ悪いですし、剥がれてきそうで心配です。見えない部分ですが、もうちょっと丁寧であってほしかったです。その辺は同じ密閉型プレミアムのB&W P9なんかのほうがクオリティが高いです。
ヘッドバンド |
無骨なメタル部品です |
ハウジング回転部分 |
ヘッドバンドはクッションの入ったレザー張りで、スライダーは軽くカチカチするタイプです。ヒンジ部分で回転も折りたたみもできるので、この辺はATH-M50xなどDJヘッドホンの構造に近いです。
金属パーツは気合が入っており、普段使いで壊れることは無いと思いますし、回転部分にちゃんとナイロン板が挿入されているのも良い感じです。
唯一気になったのは、ヘッドバンドのレザー終端処理がナイフで切りっぱなしのような雑な感じなので、他社のように金属キャップなどを付けるべきだと思いました。
付属1.2mケーブル |
ケーブルは1.2mの布巻きタイプです。両出しで着脱可能なので、リケーブルの楽しみがあるのは嬉しいです。最近ではポータブル機でもこの辺を気にかけているメーカーが増えてきましたね。高級ヘッドホン購入を躊躇する大きな理由のひとつがケーブル断線なので、着脱可能なのは嬉しいです。
このケーブルの中身は銀メッキ銅のCampfire Litz Cableということなので、現在同社のIEMイヤホンで使われているものと同じ線材のようです。3.5mm以外にも、できればバランスケーブルを付属してくれればさらに注目を集めたかもしれませんが、現状では2.5mmや4.4mmなど、どれを選んでも角が立つ状態なので、今後オプションで(安く)販売してくれると嬉しいです。
付属ケーブルの使い勝手は優秀で、全くクセがつかないので、ケーブルというよりはパーカーのフードとか登山リュックの柔らかい紐みたいな感じです。とくにタッチノイズが全く無いことは素晴らしいです。
ただし、Cascadeのようなゴツいヘッドホンと合わせるにしてはちょっと貧弱な感じもあり、断線は心配です。外出時に使ってみたところ、布巻きがベルクロなどに引っかかり、バリバリと剥がすとほつれやすかったので、バッグ収納などには注意が必要です。
H800のような丸型2ピン端子 |
ケーブル端子はゼンハイザーHD800と互換性があるタイプを採用しています。HD800とそれぞれ差し替えてみたところ、どちらもしっかりフィットして、ちゃんと音が出ました。
ゼンハイザーHD800ケーブル |
フルテックADLのHD800用ケーブル |
HD800を持っている人は多いですし、すでに各社からアップグレードケーブルが豊富に出ているので、かなり利口な選択だと思います。フルテックのHD800用ケーブルもちゃんと使えました。デザイン的にはこっちの方がマッチしています。
LEMO FGG.00はそのままでは入りません |
この端子はいわゆるLEMO FGG.00の2ピンタイプなのですが、HD800はLEMO純正品からスプリングロック機構を排除した「LEMOっぽい」独自端子を採用しているのでややこしい事態になりました。CascadeもこのHD800互換タイプなので、自作ケーブルなどで純正LEMO端子を使いたい場合はロッキング爪が邪魔になって入らないため、若干の改造が必要になります。ちなみにAKG K812 PROやFocal UtopiaなどはLEMO社純正コネクターを採用しています。
なんにせよ、HD800用交換ケーブルというと総じて高価なものですし、Campfire・ALOといえばアップグレードケーブルの音質に定評があるので、HD800互換ケーブルというのはちょっと嬉しいです。
たとえばHD800をDAPで手軽に鳴らす時に重宝するから一石二鳥、なんて考えたらCascadeの購入欲が増してしまいました。さらにCascadeを自宅の据置きシステムで聴きたい場合にはHD800用の3mケーブルやバランスケーブルがそのまま使えるので、どっちから見てもヘッドホンマニアが喜びそうな、良い判断だと思います。
折りたたんだ状態 |
そんなわけで、Cascadeのデザインは近代的なヘッドホンメーカーとして設計を頑張った事は伝わってきますが、実際に使ってみるとポータブルとしては複雑でゴツいので、なんとなく「収まりが悪い」という言葉も当てはまる感じでした。回転ヒンジ機構とアルミ削り出しの重量バランスが悪いので、気軽にサッと掴んで装着するというわけにはいかないのが難点です。
ポータブルということで、収納のための回転折りたたみギミックの意図はわかるのですが、それよりも個人的には移動中でも手軽に(乱暴に)扱えるようなガッチリした構造がの方が重要だと思います。そういった意味で、ベイヤーT51pやUltrasone Edition 8など、折りたたみできなくても安心して扱えるデザインの方がポータブル用としては好みです。とくにベイヤーT51pは収納ケースを含めてポータブルヘッドホンとして秀逸だと思います。
もちろん自宅でじっくり聴く用途では、Cascadeもそこまで問題のあるデザインではないのですが、それでもやはりCampfire初のヘッドホンですし、いくつかデザイン上の不満点はありました。
ヘッドバンドは改善の余地があります |
まずひとつ目の不満点はヘッドバンドです。一見すると頭の形に沿ったアーチ状なのですが、実際に装着してみると、センター部分が優先的にたわんでしまい、頭頂部を圧迫します。極端な例として、上の写真を見るとわかると思いますが、ヘッドバンドを広げると横一直線になり、これでは全荷重が頭頂部に来るので、まるで重い板を頭に乗せているような感じです。
この問題はCascadeヘッドホンに限った話ではなく、たとえばオーテクのMSRやESWシリーズなんかも同様の弱点を抱えています。それ以外の多くのベテランヘッドホンメーカーの場合、ヘッドバンドは単なる一枚板ではなく、素材や厚さで剛性を調整することで、左右に広げてもちゃんとセンターはたわまずにアーチを保ち、頭に点接触ではなく面接触になるような工夫がされています(たとえばベイヤーやゼンハイザーは良い例です)。たかがヘッドバンドですが、快適な装着感を得るにはもうちょっとデザインの配慮が必要だと思いました。
ケーブル端子位置も見直してほしいです |
もう一つの問題点はケーブルです。着脱端子を設ける場所を再検討したほうが良さそうです。ヘッドホンをテーブルに置く向きに気をつけないと、上の写真のようにケーブル端子の一番弱い部分に荷重がかかってしまいます。実際、店頭試聴機ではすでにここが潰れて断線しかかっていました。私も置くたびに毎回間違いそうでドキッとさせられます。
これはヘッドホンを設計する時にかなり大事なところで、普段は気づかないかもしれませんが、どのメーカーを見てもケーブルや端子が圧迫されないように考慮されており、Cascadeのみ違和感がありました。
こうなるか、ケーブル同士がぶつかります |
さらに、せっかく本体をフラットに回転できるのに、ケーブル端子同士が接触して、ハウジングをガリガリと傷つけるか、ケーブル同士が潰されます。収納ケースを使う時もケーブルは外さないと圧迫されます。
これでは断線しろと言っているようなものなので、長期的な保証修理コストを考えると、こういったケーブル周りのトラブルはできるだけ排除するようなデザインであってほしいです。
全体的に見て、3D-CADモデルで設計したモックをそのまま商品化してしまったような荒削りな印象が強いので、もうちょっと思慮深くなってもらいたい部分もあります。しかし、ユーザーが注意すれば実用上で困るほどの不具合も無いですし、とにかく音質に関しては凄いので、何度か試聴してみて、購入を思い留まるほどの原因にはなりませんでした。
インピーダンス
公式スペックでは38Ω、100dB/mWという事ですが、実際に使ってみても、かなり鳴らしやすい部類のヘッドホンだと思いました。近くにあったベイヤーダイナミックT51pやゼンハイザーHD25などとほぼ同じボリューム設定で使えたので、DAPなどでも十分な大音量が得られます。私が普段使っているPlenue S、Questyle QP2Rではボリューム50%くらいで十分です。
インピーダンスと位相 |
借り物ではなく購入したので、簡単にインピーダンスと位相を測ってみました。(傾向のみで、絶対値はあてにしないでください)。中低域で若干の盛り上がりがある以外では、スペックより若干高い42Ω程度を可聴帯域全体でキープしており、ダイナミック密閉型としてはかなり優秀な特性だと思います。この低音に合わせて位相が若干遅れていますが、派手な反転などは無いので、音像定位がしっかりフォーカスすることが期待できます。
ちなみに実際に耳に装着した状態と、フィルター挿入時も測ってみましたが、誤差程度でした。つまりイヤーパッドの密閉具合にあまり頼らない、ヘッドホン単体で確立した設計なので、装着感で音が変わりにくいという事でしょう。
フィルター
このヘッドホンの面白いギミックとして、交換可能な四種類の音響フィルターが付属していて、リスナーの好みに合ったサウンドに微調整できるようになっています。判断はあくまでユーザーに委ねられているので、どれが正解というわけではなさそうです。交換フィルター各種 |
フィルターを置く場所 |
フィルター自体は薄いフィルムのようなペラペラの素材を型抜きしただけのものです。イヤーパッドを外すと、ドライバーの上下に穴が空いており、下側はすでに白いフィルターフィルムが接着されており、上側の穴に任意のフィルターを置いてイヤーパッドのマグネットで挟み込むことで音が変わるということです。
たぶんハウジングにドライバーの排気圧を逃がすポートが設けられており、そこの抜け具合を変えることで、低音や高音の反響を調整するのでしょう。
説明書によるとフィルター1T・2T・3T・4Tという名前で、7, 10, 12, 15ミクロンと書いてあるので、開口率でしょうか。説明書によると、数字が低いほうが中低域の量感が増えるそうです。イラストのとおり、フィルターの左右の切り込みの形状で識別できるのはわかりやすい工夫だと思います。
このフィルターはただイヤーパッドのマグネットで挟むだけなので、イヤーパッドを外せばポロッと剥がれてしまいます。知らないと紛失する可能性が高いので、店頭試聴機などでは扱いが面倒そうです。そこまで高価ではないでしょうし、いくつかスペアを入れてくれても良かったと思います。
音質の変化についてですが、楽曲や音量によって効果の度合いが結構違うので、なかなかハッキリと好みを決められませんでした。少なくとも1Tと4Tという両極端では違いが感じられるくらいです。
フィルター無しの状態だと、無濾過で鼓膜にギラギラと音圧が届くので、空間が暴れやすくなり、低音も体幹(特に喉のあたり)にザクザク、ズシンと響き、長時間聴くには刺激が強すぎました。
フィルターは周波数だけでなく音場や音像のフォーカスを引き締める効果があるようなので、いろいろ試してみた結果、一番低音が出やすいはずの1Tフィルターでさえも、装着することで低音のフォーカスがセンター寄りに安定してくれて、前方の奥行きが増しました。
新品購入時は1Tフィルターでは高音も低音もまだ乱れる感じがあったので、4Tフィルターを好んで使っていました。しかしある程度エージングが済むと(50時間くらい?)今度は4Tでは高域の抜けが悪い事が気になりだしたので、1Tに戻しましたが、楽曲によってはまだ乱れる感じがあります。
たとえば1Tでちょうどヴァイオリンがヴァイオリンっぽく聴こえて、4Tではヴィオラみたいな丸く暗いサウンドになってしまいます。ハウスやテクノなど、ドンシャンうるさい楽曲では4Tフィルターが丁度良く、クラシックだと1Tフィルターが丁度良いくらいで、なかなか判断が難しいです。
今回の試聴では主に1Tを使いましたが、将来的にエージングでサウンドが変わってきたりしたら、また別のフィルターを選ぶかもしれません。そんな成長過程での微調整という意味でも意義のあるギミックだと思いました。試聴する際はかならずどのフィルターが入っているか確認すべきです。
音質とか
今回の試聴では、いつもどおりポータブルDAPのPlenue SとQuestyle QP2R、据え置きアンプのiFi Audio Pro iCANなどを使いました。Cascadeヘッドホンの第一印象としては、とにかく派手でパワフルなサウンドです。楽器の立体感や臨場感が尋常ではありません。全てのサウンドがドーピングを受けたかのように、ドライブ感というか、音楽に勢いがあります。響きが強調されるので、アンプの鳴り方に左右されやすいタイプのサウンドだとも思いました。
とくに低音の量感はかなり多いです。新品開封時から50時間ほどエージングして、ずいぶん丸くなりましたが、それでもドスンと体に響く低音は健在です。
私自身は普段はこういった低音には否定的なのですが、なぜCascadeではそれが許容できるのかというと、音像定位がしっかり前方に集中しているからです。つまり密閉型ヘッドホンでありがちな、左右のハウジングの変な位置から低音がボンボン反響しているような整合性の悪さがありません。しっかり前方センターでドスンドスンと鳴ってくれるので、それなら音楽の一部として納得できます。
そうは言っても、個人的には中低域から低域にかけてはもうちょっと控えめな方が好みです。交換フィルターで厚手のもの(4Tなど)を装着すると低音が若干おとなしくなるのですが、それでは高音も息苦しく感じるので、なかなか良いバランスを見極めるのが難しいです。
ECMレーベルから、Shinya Fukumori Trio「For 2 Akis」を聴いてみました。ECMらしい、神秘的な雰囲気のアコースティック・ジャズです。
このアルバムは日本人ドラマー福盛進也がリーダーで、テナーサックスとピアノを加えたベースレストリオです。収録曲の半数を福盛さんが作曲・アレンジしており、日本人の耳に馴染むメロディと繊細なジャズが融合した、ECMらしい大人の魅力に溢れたアルバムです。
福盛さんのドラムは、単なるリズムキープではなく、メロディ楽器の自由な流れの上で、曲全体の構成を牽引していき、情景に変化を与えていく力があるので、ドラムがリーダーである事が音楽的にしっかりと伝わってきます。
Cascadeヘッドホンは、特にECMレーベルのようなクリーンな空間を作り込んだスタジオ録音との相性が良いようです。
楽器のサウンドはクリアでパワフルなのですが、顔面に迫ってくるような不快感・圧迫感は無く、音場はリスナー前方にそこそこ広い球状の音場空間が形成されているような感じです。とくに前後左右だけでなく、上下にも上手に広がってくれるので、個々の楽器の音色が濃厚なわりに、立体感があるので、混雑するような感じはありません。
このジャズアルバムでも、まず楽器の響き成分が強いことが印象的です。これは金属ハウジングということもあり、Campfire Audioらしいキャラクターと言えるかもしれません。VegaやAndromedaなどのサウンドを思い浮かべました。
そして、音色がクッキリして派手な割に、なぜかアタックが柔らかいという、不思議な感覚です。サックスのブロー、ピアノの打鍵、そして鮮烈なドラムさばきなど、どれも派手なヘッドホンなら耳障りに聴こえてしまうのですが、Cascadeはそれぞれが柔らかく、鈍い輝きを感じます。
アタックの最初のピークに集中して聴くと、それが単なるシャープな刺激音ではなく、よく分解された響きの重なり合いで構成されていることが聴き取れます。それでいて、ドラムの多彩な金属音が連続しても、それらが全てクリアに聴こえるので、響きの間延び感に埋もれておらず、絶妙な塩梅に仕上がっています。これが他社が真似出来ない音作りの技術なのでしょう。
ドラムやピアノなど、それぞれの楽器に集中して聴くと、空間配置やタイミングなど、縦方向がピッタリ揃っており、たとえばキックドラムが明後日の方向から鳴るとか、ピアノの左手と右手が違う空間にあるとか、そういった違和感がありません。つまりバンドの音像が前方にはっきりと現れ、その時にフィーチャーされているソロ楽器が明確に出てくるところが優秀です。
とくに密閉型でありがちな中低域の息苦しさがあまり感じられず、楽器の音色が太く充実している事が印象的です。
ただし、高域だけは限定的で、ピアノやドラムの空気を突き刺すような爽快感はあまり出せていません。中高域に派手さがあるため、なおさらその上が聴こえにくくなっています。技術的な限界なのか、キンキンさせないためにわざとそうしているのかは不明です。
また、中低域から低域にかけて主張が強いです。キックドラムやピアノの左手がズシンと響くのですが、空間位置は正しいので、違和感は無いものの、音量は多すぎると思います。
個人的に大好きなEdition 8とSignature Pro |
今回Cascadeを購入する前に、比較試聴のためにUltrasone Edition 8とSignature Proを持ち込みました。どちらも個人的にポータブルヘッドホンで特に気に入っているモデルです。
Cascadeを聴いたあとだと、Edition 8は「蚊が飛んでいる」くらいに軽く感じてしまうので、あまり参考になりません。Edition 8はS-LOGICシステム独自の世界観で、凛とした空気の臨場感や氷の結晶みたいな儚いサウンドを味わうものなので、Cascadeの充実した迫力とは真逆の方向性です。
Signature Proの方は、とくに中高域の充実感はよく似ています。ただしCascadeの方が空間の臨場感が上下左右に広く展開しており、空間の中からシャーンと鳴るシンバルなんかはとても美しいです。さらに低音もCascadeの方がかなり多めにドスドスと鳴るので、Signature Proよりも演出過剰、もしくは演出の幅が広いサウンドです。
Ultrasoneの話が続いて、興味の無い人には意味不明なので申し訳ないのですが、個人的に、Signature ProやEdition 8を超えるかもしれない密閉型ポータブルヘッドホンに出会えるというのは本当に珍しいことなので、嬉しくなってしまいました。
OPPO PM-3とはサイズが似ています |
他にも、同類の密閉型ポータブルヘッドホンだと、Audeze SINE、OPPO PM-3や、Mr Speaker Aeon、B&W P9なんかを聴き比べてみると、Cascadeの凄さがわかります。
Audeze SINEやOPPO PM-3はこの中ではモニター調に近く、古くからある密閉型モニターっぽく、吸音材でしっかりと響きを吸収することで、密閉型特有のクセを隠す方向で作られています。そのためドライバーからの音はドライで実直に鳴りますが、響きが抑制されているため音がカクカクしており、楽器音像がリアルに浮かび上がらず、淡々として面白味に欠けます。
B&W P9も高級密閉型の有力候補です |
一方B&W P9やMr Speaker AEONは高解像ドライバーにハウジングによる低音サブウーファー効果を上乗せしたような(言ってみればハイブリッド的な)サウンドで、それらの繋がりの悪さが気になります。AEONではオプションのフィルターパッドを挿入することでドライバーの直接音を滲ませて、繋がりの悪さを隠しますが、それではボヤケてしまいます。P9は高域の伸びやかさや繊細さは開放型ヘッドホンに匹敵するのですが、それとは全く別の位置から低音がボンボンとやってくるので、楽器の音像がまとまらず、何を聴いているのか混乱してしまいます。
そんなコンパクト密閉型特有の個性やトラブルを、新機種が出るたびに体験しては落胆してきたので、その中でCascadeの鳴り方は、決して完璧ではないものの、ずいぶん上手に仕上げている好例だと思いました。
そんなわけで、Cascadeのメリットやデメリットをいくつか考えてみたのですが、色々な音楽ジャンルを聴いてみると、やはり得意不得意があるようでした。
とくに不得意だったのは、一部のフルオーケストラやオペラなどのライブ演奏です。すでに音響が混雑している録音では、響きを助長するCascadeの特性がマイナスに働く事がありました。
音場の展開なんかは優秀なヘッドホンなので、コンサートホールの臨場感は十分に楽しめます。低音も、ティンパニとかは迫力があって概ね好印象なのですが、コントラバスやバスーンのような伸ばす低音は常に最前列に陣取ってしまい、バランスが悪いです。
また、バリトン歌手の長いアリアでは、ずっと背後に定在波のような響き(悪いホール残響?)が強調されてしまい気が散ることもあり、さらにソプラノは中高域にドスが効いており、その上の帯域まで抜けるような空気感が乏しいので、天使的な透明感というよりもマリア・カラスっぽくヒステリックになってしまうとか、そういった要所で気になる部分がありました。まるで、聴きたくない部分も派手に強調してしまうかのようです。
もう一つ、Cascadeで気になった悪い点は、ボリュームノブを上げすぎると鳴り方が劣化することです。だんだんと響き成分が支配的になり、耳にまとわりつくような感触が出てきます。先ほどのバリトン歌手の余計な響きなんかも、あるボリュームを超えるとワンワンと響き出すので、気にしだすと音楽に集中できなくなります。
自宅でじっくりと音楽を味わうようなボリュームでは、そういった響きはあまり気にならないのですが、たとえば屋外の雑踏の中などでプレイヤーのボリュームを上げてしまうと、ずいぶんと無駄が多いやかましいヘッドホンだと思えてしまいます。
そこまで弱点が多いヘッドホンならば、なぜ買う気になったのかということですが、不得意分野以上に得意分野があり、そういった場面では特に素晴らしいサウンドが体験できたからです。
冒頭で試聴したECMのジャズも相性が良かったですが、さらに際立っているのが、ピアノなどのソロ演奏での鳴り方です。つまり時間や空間に余白があるような音楽では絶大な効果を発揮してくれます。
ハルモニア・ムンディからアレクサンドル・メルニコフの新譜「Four Pianos, Four Pieces」を聴いてみました。超絶技巧ピアニストというだけでなく、ビンテージピアノオタクとして名を馳せているメルニコフですが、毎回アルバムを出すたびに使用したピアノについて入念に解説したがったり、オーディオマニアに通じるマニア気質に好感が持てます。
今回のアルバムではさらにそれが極地に至り、シューベルトをグラーフで、ショパンはエラール、リストはベーゼンドルファー、そしてストラヴィンスキーは最新のスタインウェイDと、それぞれコース料理に合わせるワインのごとく、当時を印象付けるピアノを選んでいます。ただ乗り換えれば良いというわけではなく、演奏方法もそれらに合わせて変幻自在に操ることが要求されるので、そういった楽器を手懐ける技量も彼のピアニズムに趣きを与えてくれるのでしょう。
最新のピアノソロアルバムなんて、普通にどんなヘッドホンで聴いてもそこそこ高音質だと思うのですが、実際のところ、綺麗なピアノの音色を聴いたところで、何とも思わない、感情が生まれない、という事は、誰でも結構多いと思います。
もちろんそれはピアニストが悪いという場合もあるかもしれませんが、むしろ録音を通して、演奏に込められた意志や感情(喜怒哀楽よりももっと深い物)をしっかりと伝える事ができるオーディオ装置こそが本物だと思います。(クセが強いだけでは、一本調子のやかましいサウンドになってしまいます)。
クラシックやジャズのようなシンプルな楽器演奏ほど高級オーディオと密接な関係にあるのも、そういった理由もあると思います。
高尚な精神論みたいな話になってしまいましたが、ようするに、たとえBGMとして聞き流していても、ちょっと作業を止めてじっくり聴いてみようと思わせるような、心に響く音色が生まれるか、ということです。
ピアノソロのように、同じ楽器音が一時間も続くようなアルバムだと、たとえどんなに優れたヘッドホンでも退屈になってしまいがちですが、Cascadeで聴くと、まるで表現力が倍増したかのように心に響いてきます。厚みを持ったアタックに、豊かな艶と響きが乗って、強弱に合わせて多彩な表情を見せてくれるので、作中の展開や情景が伝わりやすいという事だと思います。楽器そのものの音色を助長して、演奏解釈に関してはノータッチなので、悪いことではありません。
古くから言われているような、アナログレコードと真空管アンプとビンテージスピーカーで聴くと音楽が充実するというのは、ハイレゾDAP世代の人にとっては懐古主義と思われるかもしれませんが、そもそも録音自体がドライでスタジオ臭い場合には、それを実直に再生するよりも、オーディオ機材の助けを借りて生演奏に近づけるのも、ひとつの手段だと思います。
続く4番、5番の怒涛のような高速演奏でも、一音一音がアタックの硬さや響きのヴェールに埋もれたりせず、しっかり粒立ちとタイミングが力強く、音色が重みを持っている(つまり一音に含まれる高音と低音の帯域がちゃんと同調している)ことで、音響に翻弄されずにスリリングな展開を味わえます。
前方に描かれる定位が正しく、コンサートホールに置いてあるピアノの音像をちゃんと実現できており、ピアノというひとつの楽器としての音像が、88鍵全域で破綻していないのが凄いところです。
アタックが丸く、響きが豊かなのですが、その響きが、指が鍵盤に触れる環境音と、金属弦の打鍵と、木材の響板と、ホールによるものと、そんな複雑な要素の重ね合わせであることが伝わってくるのが凄いことであり、後付けエフェクトなどでは到底真似出来ないオーガニックな表現力を持っていると思います。
それが他のヘッドホンとは違うところで、B&W P9やUltrasone Signature Proなどと比べても、それらでは「ピアノが鳴って、その背後に響きがある」という印象しか感じません。
最新録音のみでなく、古い録音でもCascadeの効果は存分に楽しめました。たとえば1960年代のヴィルヘルム・ケンプのシューベルトソナタ集は、当時のDGGのサラッとした録音のせいか、過去に何度か聴いて、これといって感想も浮かばずにお蔵入りになっていたのですが、今回改めてCascadeで聴いてみたら、フレーズの一つ一つに奥深い意味を持っているような感じがして、グッと惹きつけられ、のめり込む事が出来ました。長い後期三大ソナタでも、音色の情景が素晴らしすぎて、まだ終わらないでくれと思えてしまうほどです。(普段なら途中で寝ています)。
Cascadeはソロピアノのみが得意というのではなく、無機質っぽいスタジオ録音に心を入れるのが得意なのだと思います。たとえば大好きな歌手のアルバムが、スタジオミックスで編集臭くて人間性が伝わってこない、という場合には、このCascadeで聴くと、そこに機械的ではないエッセンスみたいなものが加わり、グッと心に響いてきます。
また、テクノやハウスなど、サンプラー音源とデジタルエフェクト主体の音楽でも、凡庸でありきたりなキックやハイハットが延々と続く中、Cascadeではまるで生演奏のようなスリルのある響き成分が加わります。単純にリバーブエフェクトやイコライザーでは実現出来ない、本物の響きなので、普段以上に音楽が楽しめてしまいます。
HD800用ケーブルも相性が良かったです |
最後に、ケーブルについてですが、とりあえずCascade純正とHD800のものを交互に入れ替えて聴き比べてみたところ、楽曲によってはHD800用ケーブルの方が良いと思える事も多かったです。
とくに、Cascadeで感じた不満点の、高音の伸びの限界(ソプラノより上の天井)と、中低音がパワフル過ぎる、という二つのポイントは、HD800ケーブルにすることで、ずいぶん改善されます。
そもそもHD800ケーブル自体が地味で音が細すぎる傾向があったので、それがCascadeの派手さと打ち消しあっているのかもしれません。なんとなく帯域レンジが広くなり、平坦でサラッとしたモニターぽい鳴り方になります。その代わり、Cascade本来の派手さは薄くなります。
逆にHD800は薄味なヘッドホンなので、中域の密度や充実感を求めてアップグレードケーブルに手を出すユーザーが多いのですが、このCascade付属ケーブルは良い候補になると思いました。HD800ケーブルとは真逆で、たとえばボーカル域の発声とかがクッキリ出るようになります。このあたりの印象は、Campfireイヤホンに付属しているLitzケーブルとほぼ同じ感想です。
もしHD800用の社外品ケーブルをすでに持っているなら、それらをCascadeで色々と試してみたくなります。ALO Audioの上位ケーブル「SXC 8」「Reference 16」などは、すでにHD800用として販売しているので、それらと組み合わせるとどうなるのか気になるところです(高価すぎて買えませんが)。
おわりに
Campfire Audio Cascadeを購入したので感想を書いてみましたが、それでもやはり「納得出来ないのに、好きになってしまった」というもどかしさが脳裏にあります。それだけ特異な魅力に満ちた、他社では真似出来ないユニークなヘッドホンであることは確かです。完璧なレファレンスヘッドホンとは言えませんし、特定のジャンルで光るタイプなので、汎用性があるとも言えません。響きや空間はとても豊かですし、低音も必要以上に多めに出ています。ヘッドホンが積極的に音作りや環境作りに貢献するタイプのサウンドだと思います。
特にピアノソロなどのシンプルな楽曲ほど、Cascadeのポテンシャルが発揮されるようです。さらに、ドライな電子音楽やスタジオポップスに、生演奏っぽい自然な響きを添える事もできるので、まるで演奏を引き立てる魔法のスパイスのようです。
期待して試聴してみたら「何だこりゃ」と思う人もいるかもしれません。それでも他社の密閉型ポータブルヘッドホン勢と交互に聴き比べたり、様々な楽曲を試聴してみることで、そのうちCascadeの魔法の虜になってしまうというか、他のヘッドホンでは味わえない、複雑でオーガニックな音色に心を奪われてしまいます。
しかし、そんな魔法のような効果を全ての楽曲で味わおうとすると、急に破綻して落胆することもあり、なんとも手懐けがたいヘッドホンです。使い所が難しい反面、一度ハマってしまえば良い巡り合わせになると思います。無難な万能さを求めている人には理解し難いという点では、UltrasoneやB&Wのようなニッチな高級ヘッドホンと同類なのかもしれません。
交換可能な音響フィルターについては、確かな効果があるので、もし店頭で試聴する際は、どのフィルターが登載されているか確認する必要があります。フィルターを装着することで、奔放な響きをどれくらい押さえ込むか、その具合を決めるのが難しいと思いました。
少量生産で発生モデルが得意なCampfire Audioの事ですから、今後このCascadeをベースに様々なモデルが展開されるのかもしれません。単純なカラーバリエーションとかもありがちですが、ドライバー技術の発展も考えられます。たとえば今回Cascadeに搭載されたベリリウムドライバーは、イヤホンラインナップではLyra II相当ですが、イヤホンではその上に炭素素材ドライバーのVegaがあります。また、BAとダイナミックのハイブリッド型に積極的なメーカーで、DoradoやPolarisイヤホンでその技術力の高さを見せてくれたので、まだ多くのメーカーがチャレンジしていないハイブリッドヘッドホンなんていうのも、もし誰かがやるとしたらCampfireにチャレンジしてもらいたいです。
そんな想像を膨らませると、ヘッドホン第一号機であるCascadeを購入するのはいささか時期尚早でリスクが高いとは自分でも思っているのですが、それでもやはり密閉コンパクトでここまでの実力を体験できたことは素直に驚きましたし、現在持っている同類ヘッドホンと比べても、購入する価値があると思えたモデルでした。
IEMイヤホンや、家庭用の大型ヘッドホンなんかは、すでに今持っている物で十分満足しており、それ以外のモデルも、価格帯ごとにどれを買っても失敗がないと言えるくらい成熟した市場だと思います。つまり、私にとって新製品を聴いてもあまり「アップグレード感」を感じることがありません。
しかし高能率な密閉型コンパクトヘッドホンとなると(Cascadeをコンパクトと言ってよいかは疑問ですが)、これまで個人的に長らく探し求めていて、様々なモデルを試聴しても満足できずにいた、まだまだ発展途上のジャンルだと思うので、そんな中でCampfire Audio Cascadeはひときわ輝く存在だと思います。