2018年8月9日木曜日

ゼンハイザー HD820 ヘッドホンの試聴レビュー

ゼンハイザーの新作密閉型ヘッドホン「HD820」を試聴してみたので、感想とかを書いておきます。

ゼンハイザーHD820

2018年7月発売で、価格は約30万円、ゼンハイザー最上級の開放型ヘッドホンHD800・HD800Sをベースに作られた密閉型ヘッドホンということで注目を集めています。


HD820

このHD820というヘッドホンは、デザインや機能的にはHD800とほぼ同じなので、実はあまり書くことがありません。

HD800はヘッドホンマニアなら誰でも聴いたことがある定番中の定番ヘッドホンなので、あえて紹介は不要でしょう。2009年に発売された当初は、未来感あふれる奇抜なデザインと、約16万円という当時としては非常に高価な発売価格に驚かされましたが、それ以降も最高峰ヘッドホンとして常に頂点に君臨してきたモデルです。2016年には、新たに黒いボディと音響チューニングが微調整された実質後継機の「HD800S」が発売され、これも好調に売れています。

HD800の発売以降、さらに高価格な富裕層向けヘッドホンが続々現れていますが、それでもHD800が存在意義を保っているのは、まず音質の良さがここまで世界中で多くの人に認められたヘッドホンという事自体が稀ですが、さらに、未だに類を見ないほど高度な設計により、軽量で頭の形状を選ばない快適な装着感、交換可能なケーブルなど、機能面でも限りなく完璧に近いです。

他社から新型ヘッドホンが出るたびに、「HD800と比べて・・・」とかならず言及されるような、まさに業界全体のレファレンス的存在です。また、奇抜なハウジングデザインも、素人でも一目でわかるような「只者ではない」高級感と、完全開放型であるという主張が強く印象に残ります。

そんなHD800の優秀なデザインをベースにした密閉型モデルを多くのマニアが欲しがるのは当然の事で、数年前からHD820の試作品はオーディオイベントなどで小出しにされていたのですが、完璧を目指すゼンハイザーの事なので、中身の音作りに関しては開発が続けられ、今回ようやく満足できる形に仕上がり発売に至ったようです。

そもそもゼンハイザーという会社自体が密閉型ヘッドホンにあまり乗り気でなく、HD25やMomentumなど、あくまでポータブル用として作っているのみです。それらが音が悪いというわけではありませんが、HD599・ HD600・ HD700・ HD800など、本格的なリスニング用の上位モデルは必ず開放型として設計しています。

そんなわけで、今回ゼンハイザーが密閉型で最上級ヘッドホンを発売したことは、単なるHD800のバリエーションというよりももっと重要な意味があり、ハイエンドヘッドホンにおける市場のニーズの高さを表しています。

ドライバーハウジング

側面

デザインはHD800Sと同じマットブラックで、基本的なフォルムは限りなく似せていますが、ドライバーの裏面にあたる部分にガラスを採用することで、密閉型であるということを明確にして、さらに肝心の大口径ドライバーを隠すことなく披露しています。HD800ではドライバーそのものがハウジングデザインの一部として大事なデザイン要素だったので、今回はガラスを使うことで同じイメージを継承しています。

公式スペックで本体重量はHD800Sの370gに対してHD820は360gと軽くなっています。ガラス部品がいかにも重そうなので、もっとズッシリするのかと思いきや、実際に手にとってみると拍子抜けするくらい軽いです。そもそもHD800は高級ヘッドホンの中では非常に軽い事が好評でしたが、HD820もそれと同じくらい軽快な装着感が得られます。

凸面ガラス

周辺の音響メッシュも密閉されました

HD820のデザインで一番注目されているのは、ドライバー背圧を受ける部分に凸面ガラスを採用している事です。これは他社では(たぶん)未だ前例のない奇抜なアイデアです。

ドライバー背面をただの板やカップで覆ってしまうと、ドライバーからの音がそのまま反射して(ちょっと遅れて)耳に届いてしまうので、クリア感が損なわれます。それを防ぐためドライバー周辺を完全密閉してしまうと、今度はドライバーが自由に前後運動できなくなってしまいます。

多くの密閉型ヘッドホンの場合、カップに木材を使うことで反響を「聴きやすい響き」に調整したり、大量のスポンジや綿を詰めることで背圧を吸収したり、小さな通気ポートで圧力を逃がすなど、密閉型ヘッドホンというのはいろいろと音響設計が難しいです。絶対に正しい回答というものが無く、各メーカーごとに試行錯誤が繰り広げられており、開放型と比べるとメーカーの個性が出やすく、面白いジャンルでもあります。

HD820は凸面ガラスを使うことで、ドライバー背圧をそのまま反射するのではなく、ドライバー周囲の広範囲に向けて拡散します。さらにそこから絶妙に配置された音響フィルターを通して耳側に戻すことで、反響音を吸収するのではなく、上手に分散させることで、ドライバーの動きを妨げずに駆動できるというアイデアのようです。

ハウジングを見ると、ガラスが平面ではなくレンズのように微妙に窪んでいるため、光の反射が綺麗です。ドライバー周辺の、HD800では銀色の音響メッシュだった部分が全て黒い硬い素材で埋め込まれています。

ヘッドバンド

ヘッドバンドのデザインはHD800・HD800Sと全く同じようです。シリアルナンバーは頂上の銀の部分に刻印されています。

ケーブルはHD800と同じです

HD800と同じ着脱コネクターです

この部品が特にカッコいいです

ケーブルはHD800・HD800Sと同じ質感の3mのものですが、6.35mmタイプ以外にも、4ピンXLRバランスと4.4mmバランスケーブルが付属しています。

4.4mmバランスは発表当時ソニー専用の独自規格かと嘲笑の対象になっていたところ、ゼンハイザーがHDV820、HD600S、IE800S、そして今回HD820と、新作はことごとく4.4mmに対応させたことで一気に市民権を得たような感じがします。普及さえしてくれれば、4.4mm自体は悪いものではないと思います。

HD800と同じ着脱式ケーブルなので、すでに社外品のアップグレードケーブルを持っている人も多いでしょう。このコネクターはHD800でしか使われていないような特殊形状なのですが(最近Campfire Cascadeが採用しましたが)、それでもほぼすべてのケーブルメーカーが互換品を販売していることからも、HD800の人気の高さがわかります。

個人的に、HD820のデザインで、特にこのケーブル着脱部分のゼンハイザーロゴがある部品がカッコいいと思います。ケーブルコネクターと対称になるように、上にも丸い銀色のパーツがあしらっており、高級ヘッドホンにふさわしく、美しく仕上げてあります。こういう高度な立体デザインは他社では真似できません。

HD820専用イヤーパッド

HD820のイヤーパッドはHD800とは異なる新設計になりました。密閉型ヘッドホンということで、遮音性を高めるために外周がレザー調の素材に変更されています。装着感はHD800とそこまで変わりませんが、若干厚みがあって、遮音性は明らかに良くなっています。

HD800のイヤーパッドは経年劣化でボロボロになりやすく、しかも純正交換品が約15,000円と非常に高価なため、長く愛用している人の中には安い模造品に交換した人も多いと思います。この新型イヤーパッドの長期耐久性はどんなものかとても気になります。

イヤーパッドを外した状態

保護メッシュにはベルクロがついてます

イヤーパッドにプラスチックのリングが埋め込まれており、それをハウジング内側の爪にパチパチとはめていくタイプなので、簡単に取りはずしできます。

ハウジング内の保護メッシュは今回ベルクロのようなバリバリで固定してあります。HD800では深いカップ状の保護メッシュでしたが、HD820はハウジング内部の奥行きが浅く、メッシュがほぼ平面なので、挟んだだけでは安定しないという理由でしょう。

ハウジング内部

HD800・HD800Sはこんなでした

密閉型になったことで、外観だけでなく、内側のデザインも大きく変更されています。HD800の写真と見比べてみると、まずHD800ではドライバー周辺が銀色の通気性メッシュで覆われていたところ、HD820ではガッチリと黒いゴムのようなプラスチック素材で覆われています。そこに音響を調整するため通気メッシュがいくつか配置されています。

凸面ガラスで反射した背圧がここから逃げるのでしょうから、数や形状などの設計がかなり難しい部分です。

注意して見比べてみると、HD800とHD820ではイヤーパッド面からドライバーまでの距離がずいぶん異なります。HD800では、できるだけ耳から遠ざけるようにドライバーはハウジングの外側に組み付けられていましたが、HD820では耳に近い位置で、その背面からハウジングのガラス板まで大きな距離を設けてあります。

他社では、開放型ヘッドホンにただ密閉カップをつけるだけで密閉型として売っているメーカーも多いですが、ゼンハイザーの場合は一見全く同じように見えるハウジングデザインも、開放型・密閉型で根本的に異なる音響設計に仕上げてあるようです。

駆動スペックは、HD800Sが300Ω・102dB/mW(?) でしたが、HD820も同じく300Ω・103dB/mWとなっています。よく他社でありがちな、密閉型だから「ポータブルでも鳴らしやすく」インピーダンスを下げるような余計なお世話ではなく、もしくはガチガチに密閉しすぎて能率が落ちるのではなく、あくまでHD800Sのドライバーやハウジング技術をそのまま継承したことを明確にするために、あえて同じ数字にこだわったのだと思います。

音質とか

今回の試聴では、大型ヘッドホンということで、SIMAUDIO MOON 430HADとChord Qutest + iFi Audio Pro iCANを使いました。そこまで鳴らしにくいヘッドホンではありませんが、せっかくの最上級モデルということで、アンプも最上級のものを選びました。もちろんDAPなどでも、最近の高出力モデルであれば十分駆動できると思います。

まず、遮音性と音漏れの少なさはとても優秀です。密閉型といっても結局開放型とそんなに変わらないような中途半端なヘッドホンも多いですが、HD820はちゃんと高い遮音性を念頭に置いて設計されたことが実感できます。イヤーパッドの肌触りはHD800と似ていますが、ハウジングをギュッと押し付けると、しっかりと空気が密閉している感じが伝わります。

ただし、ハウジング内部の空間が広く、ドライバー周辺に通気メッシュが設けられているため、そこまで耳が圧迫されるような閉鎖感はありません。つまり、鼓膜とドライバーが互いに押し合うような不快感はありません。例えるなら、ソニーMDR-Z1RやベイヤーT5pのようなリラックスした装着具合です。


Pentatoneレーベルから、Orozco-Estrada指揮・フランクフルトhr交響楽団によるシュトラウス「アルプス交響曲」を聴いてみました。派手で明快な作風からオーディオマニアに愛されている作品ですが、今回のリリースも期待通りに大迫力です。

余談ですが、そもそもシュトラウスが若い頃ツークシュピッツェ山に気軽なハイキングに行ったときの回想で作曲したのに、ジャケット写真が(有名なカラヤン盤とかも)いつもスイスの死の山マッターホルンなので、音楽の田園風景と雰囲気がズレてます。ちなみにPentatoneは普段DSDダイレクト録音ですが、今回はPCM48kHzマスターだそうです。


HD820のサウンドは、第一声からとにかく凄いです。凄いですが、特性が明確で、決して凡庸なヘッドホンではないので、かなり人を選ぶタイプだと思います。

まず、情報量が圧倒的に多く、全ての音がハッキリと聴き取れる、分析能力の高いサウンドです。立ち上がりが速く、響きが間延びせず、高レスポンス・高パフォーマンスといったイメージが浮かびます。

巨大なオーケストラサウンドを余すことなく演じきっており、低音パーカッションの雷鳴やウインドマシーンのうねりから、木管の細やかな小川のせせらぎまで、ヘッドホンに無理な負担をかけていると感じる部分がありません。クライマックスの夜明けや日没のシーンも、単なるやかましい音塊になるのではなく、オーケストラの楽器がそれぞれ個別に鳴っていて、その集合でハーモニーを形成していることが肌で感じられ、とても高揚感があります。

各楽器が正確に聴き分けられるということは、低音から高音まで穴が無く、密閉型にありがちなキンキン響く高域や、サブウーファーっぽい低音といった不具合もありません。とくにアルプス交響曲は、冒頭の部分など、聴こえるかどうかわからないような重低音楽器のせめぎあいがありますが、HD820であれば特定の低音だけハウジングから響いているような帯域のばらつきがありません。

密閉型でここまで帯域に破綻がなく全部フラットに聴こえるヘッドホンは前例が無いかもしれません。モニター用としてフラットに近づけているヘッドホンでも、大抵は低音付近など再生が難しい部分はあえて控えめにカットしているものです。つまり、たとえ耳障りではなくても、必要な音が聴こえないヘッドホンというのはけっこう多いです。


BISからEngegard Quartet演奏のシューマン弦楽四重奏全集を聴いてみました。

交響曲第四番を書き終えた円熟期に書かれた三曲の全集で、ベートーヴェンやシューベルトという巨大な影に隠れてしまいがちですが、シューマンらしい情熱とメランコリックな味わい深い作品です。演奏はノルウェー北極圏のロフォーテン諸島で結成されたEngegard Quartetということで、濃い音色と息を呑むスリリングなチームワークがシューマンと相性が良いです。BISとは以前グリーグのアルバムがありましたが、LAWOや2Lなどノルウェーのレーベルでもいくつかアルバムを出しています。


HD820の空間配置は近めで、まるで風呂敷を広げるかのように音楽の成分が前面広範囲に展開されるので、HD800のような奥行きのあるコンサートステージっぽさは感じられません。ドライバー配置の違いなどを見ても予想できましたが、つまりHD800と同じサウンドではありません。

弦楽四重奏というと、四人の奏者が一つの楽器になったようなシンプルな役割分担で聴かせるヘッドホンも多く、その方が全体の統一感が得られて聴きやすいのですが、HD820はその逆で、奏者ごとよりもさらに細かいレベルで、一音一音にまで細分化された音のマシンガンを浴びているようでした。情報量が多いのは良い事だと思いますが、ここまで緊張感が高いと、常に注意を引かれて、真剣に向き合わないと手に負えません。

シンプルなクラシック音楽演奏でどうしてここまで緊張感が高まるのかと不思議に思ったので、TH610やT5p 2ndなど他の密閉型ヘッドホンと入念に聴き比べてみたところ、HD820は音の聴かせ方がかなり独特だということに気づきました。

HD820で音楽を聴いていると、とくに中低域の楽器やボーカルなどのアタックは非常にクリアで、響きに埋もれたり潰れたりする事が全く感じられないのですが、そこから続く響きに必ず一瞬の息詰まりが感じられ、それが緊張感や分離の高さに繋がっているように思えました。

息詰まりというのは、最初のアタックから急に逆相になるような、前に出て急に後ろに下るような、そういった感触です。サイン波のように自然な状態でアタックが減衰するのではなく、一旦強調され、そこからグッと押し戻される間に次の音が発せられ、といった、一音一音が断絶した、不連続な音色です。そのため、音色が自然に空間奥へ抜けていくような感覚に乏しいです。

これはハウジングによる反響も大きく関わっていると思います。たとえば、リスニング中にハウジングを手で前後に傾けてみると、音色のアタック部分はほとんど影響を受けないのですが、空気感や残響みたいな成分がかなり大きく変わる事がわかります。大げさに言うと、まるでノイズキャンセリングヘッドホンと似たような位相成分の息の詰まるような緊張感があります。

このあたりの音作りは、正しいか間違いかという問題ではなく、密閉型スタジオモニターヘッドホンとしてベストを尽くした結果だと思います。密閉型でも、もっと自由に響かせた方がリスニングヘッドホンとしては正解ですが、それでは特定の帯域のみ響きが強調されやすいので、個性が強く、分析的に聴くには適していません。響きの自然さという点では、開放型HD800の優位性が明らかです。

HD800とHD820の立場的な違いを他のヘッドホンに例えると、かなり古いモデルなので知っている人も少ないかもしれませんが、AKG K240とK271の関係性に近いように思いました。同じデザインやドライバーを兼用しながら、リラックスした美音で、家庭での音楽鑑賞でも十分に使える開放型K240と、ガッチリと吸音する密閉型ハウジングで解像感と分離を高めたK271です。どちらが優れているというよりも、用途が全く異なります。それを最高レベルにまで発展させたのがHD800・HD820のように思えました。

それ以外の開放型・密閉型ペア、たとえばベイヤーダイナミックT1 2ndとT5p 2ndや、AKG K812とK872の関係性とはかなり異なります。それらは、まず開放型が音作りの基準であって、密閉型モデルといっても、遮音性や密閉感は犠牲にしてでも、開放型と同じような、自然な音抜けや響きの開放感を維持したいという作り方だと思います。つまり、あえて密閉型スタジオモニターっぽい音作りは避けています。どちらも、ハウジング反射音を意図的に利用して、前方に向けて上手に響かせることで、立体的な音響空間を実現しています。

モニターヘッドホンというと、もっと一般的には、DT770・DT1770のように、そもそも低域が出にくいドライバーを使い、ハウジング内に綿を詰めて高域の反射のみを吸収し、低域だけを戻すことで(綿は低域を素通りさせるので)、全体的なバランスを取る手法が一般的です。(つまり周波数グラフ上はフラットですが、時間軸で見ると低域は響きが長いです)。ハウジングを外してドライバーだけで聴くと、中低域の出ないスカスカな音になります。

HD820はそういうのではなく、あえてHD800で実証済みの広帯域ドライバーを、ガラス張りの反射しやすい密閉ハウジングですばやく広範囲に拡散させることで、響きがアタックの妨げにならないように作った事がユニークです。

おわりに

HD800はまるで家庭用スピーカーのような奥行きのある空間展開と開放感が魅力的でしたが、HD820は密閉型スタジオモニターヘッドホンとしての性能に特化しています。全く異なるサウンドなので、HD800の単なるバリエーションのような期待をしていると、意表を突かれると思います。

HD820のサウンドについて私が感じたのは、これはスタジオ用ニアフィールドアクティブモニターの音にとても良く似ています。たとえばジェネレック8040やADAM A7Xなど(それぞれ個性はありますが)、目前にシャープな音像がバシバシと現れるような、空気が張り詰めた、ものすごい情報量の多さです。

オーディオマニア的な、アンプやケーブルとの組み合わせでちょっとした雰囲気の違いを楽しむ、みたいな生ぬるい話ではなく、ドライバーとハウジング音響を最大限に活かして、録音中の全ての帯域を耳元に確実に届けるという目的を達成しています。

家庭用オーディオユーザーでも、「プロ用」のほうが優れていると期待して、そういったアクティブニアフィールドモニターを買ってみても、いざ使ってみると、性能は認めるものの疲労感があり長続きしません。HD820はまさにそんな感じです。

一方、普段からスタジオモニタースピーカーの高レスポンスなサウンドに慣れていて、それらの代用となるような高性能ヘッドホンを求めている人には、HD820が現状で最善のモデルだと思います。

ゼンハイザーとしては、HD800Sで開放型ヘッドホンサウンドの完成形を達成しており、絶大な支持を得ているので、これ以上どれだけ価格帯を引き上げても、より優れた開放型ヘッドホンを作ることは難しいです。50年を超える技術の粋を全て投入して作り上げたヘッドホンですから、思いつきで高価なヘッドホンを続々投入するメーカーとは考え方が違います。

つまり、今回あえてコスト度外視で最上級の密閉型ヘッドホンを開発したのは、ゼンハイザー自身がこれまでためらっていた新たなジャンルへ挑戦する意味合いが強いと思います。

リスニング用途でHD820を買うべきかどうか、私自身はもっと解像感は低くて眠くなるようなヘッドホンのほうが好きなので、あまり乗り気ではありません。しかし、たとえばすでに音色が豊かで厚みのある高級開放型ヘッドホン(Audeze LCDとか)を日々のメインヘッドホンとして愛用しているのでしたら、同じ音楽を全く正反対の正確を持ったHD820で聴くことはとても有意義だと思います。

高価なヘッドホンですが、もっと安いモデルで代用できるようなありきたりなサウンドではありませんし、これを実現するための技術開発や、デザインの完成度をあわせて考えれば、価格設定も十分納得できると思います。冒頭でも言いましたが、決して凡庸ではない、凄いヘッドホンです。