2018年9月27日木曜日

Audeze LCD2 Closed-Back ヘッドホンの試聴レビュー

Audezeの平面駆動型・密閉型ヘッドホン「LCD2 Closed-Back」を試聴してみたので、感想とかを書いておきます。

LCD2 Closed-BackとLCD2 Classic


前回Audeze Mobiusを買ったので、そのついでに、同じ時期に米国で発売したもう一つの密閉型ヘッドホンということで試聴してみました。ちなみにこちらは購入していません。米国での定価は$899なので10万円程度でしょうか。


LCD2 Closed-Back

Audeze LCDシリーズは平面駆動ドライバーをハイエンド市場へもたらした代表的なヘッドホンで、日本での知名度はあまり高くありませんが、米国では絶大な支持を得ています。


基本的にどのモデルも同じようなフォルムで、最低価格$799の「LCD2 Classic」から、最上位$3,995の「LCD-4」まで、現時点で9モデルのラインナップになっています。

それらのほとんどが開放型ヘッドホンなので、密閉型となると、今回登場した$899のLCD2 Closed-Backと、$1,799のLCD-XCの二機種に限ります。

写真で見ただけで想像できると思いますが、なんと500gを超える重量級ヘッドホンなので、家庭でゆったりと音楽鑑賞を楽しむといった使い方に限定されますから、開放型モデルが多いのも当然のことです。

LCDシリーズよりも下の価格帯では、もうちょっとコンパクトなEL-8やSINE、そしてイヤホンのiSINEシリーズがあり、さらに先日ゲーミングヘッドホンのMobiusが登場しました。

低価格モデルに至るまで、どのモデルも平面駆動ドライバーというのがAudezeの魅力です。それでもやっぱりAudezeといえばLCDシリーズが代表的ヘッドホンになっています。

LCDシリーズの成功をきっかけに、「巨大ハウジングに平面振動板を搭載した、超高級ヘッドホン」といったスタイルのヘッドホンを作るガレージメーカーが米国や中国を中心に続々登場し、それまで日本やヨーロッパで主流だったダイナミックドライバー型ヘッドホンを駆逐する勢いで、一大ジャンルに成長しました。

このタイプのヘッドホンは駆動能率が低く、非常に鳴らしにくいため、高出力ハイエンドヘッドホンアンプの購入需要をも高めることになり、現在の高級ヘッドホンブームを支えている重要な立役者になっています。


そんなLCDシリーズの中でも、これまで唯一の密閉型だった「LCD-XC」というモデルはは、ポータブルアンプでも鳴らしやすい効能率ドライバーを搭載した「LCD-X」というモデルの密閉型バージョンという扱いだったので、あえて密閉型をリリースする正当な理由がありました。(とはいえ、どちらもポータブルできそうにない巨大なヘッドホンなのですが)。

LCD-XCは$1,799(約20万円)と高価なため、なかなか手が出しにくいモデルだったのですが、今回登場したLCD2 Closed Backは、ちょうど半額の$899という価格設定で登場しました。それでも安いとは言えませんが、現状で他社の優れた密閉型ヘッドホンがだいたいこれくらいの価格帯に集まっているので、多くの人にとって検討の視野に入る値段だと思います。

LCD2 Closed-BackとLCD2 Classic

並べて比べてみるとわかるように、LCD2 Closed-Backは、数ヶ月前に発売したLCD2 Classicをベースとしたモデルのようです。Classicが$799・Closed-Backが$899という価格差も、上記のLCD-X・LCD-XCの関係性と似ています。

ちなみに、LCD2 Classicの方が「LCD2C」と略される事が多いので、LCD2 Closed-Backと混乱されやすいです。また、上位モデルは「LCD-2」とハイフンが入るのですが、なぜかLCD2 ClassicとLCD2 Closed-Backのみ公式でハイフンが入らないようです。

以前紹介した時にもちょっと触れたのですが、このClassicというモデルは、最新バージョンの「LCD-2」($995)よりも低価格なエントリーモデルとして登場しました。数年前の初代LCD-2と同等の旧ドライバー技術を搭載する復刻モデルということで「Classic」という名前になっています。

LCDの構成とFazor板の位置

現行LCD-2とLCD2 Classicの決定的な違いは、ハウジングが木材かプラスチックかという事もありますが、それよりも、振動板の前に「Fazor」という音波整流板が搭載されているかどうか、という差です。

そして今回のLCD2 Closed-BackもFazorが搭載されていないようなので、LCD-2ではなく、LCD2 Classicの密閉型という事になります。(つまり、本来ならLCD2 Classic Closed-Backと呼ぶべきですね)。

モデル名がなんであれ、ドライバーやハウジング部品などが告知無しで頻繁に仕様変更されるのがAudezeというメーカーの特色です。

たとえば、LCD-2は2018年にヘッドバンドやケーブルなどに大幅な改良が行われました。LCD2 ClassicやLCD2 Closed-Backも同等の最新ヘッドバンドとケーブルを装備しているため、実は2017年以前のLCD-2よりも優れている部分もあるなど、同じモデル名でも年式ごとのバリエーションが多く、レビューや比較が難しいブランドです。ようするに「最新バージョンが常に最善である」というアプローチです。

ヘッドバンド調整

ヘッドバンド

ヘッドバンドは金属棒でカチカチと上下に調整する古典的なタイプで、自由に回転するので、装着時は結構ぐにゃぐにゃします。そのため大型ヘッドホンにしては耳形状や顔の輪郭にフィットしやすいです。

ヘッドバンドはアーチ状の鉄板と、薄いハンモックの組み合わせです。上位モデルのLCD-4などでは、このアーチがカーボンファイバー製になります。(オプションパーツとしても購入できるようです)。

Audeze以外にも、Mr SpeakersやHIFIMANなど、平面駆動ヘッドホンのメーカーというと大抵このような金属アーチ&ハンモックといったデザインが定番になっていますね。

ドーム状の密閉キャップ

LCD2 Classicと見比べると、単純にハウジングのカバーが開放グリルからドーム状の密閉カバーに交換されただけのようにも見えます。それ以外のヘッドバンドやアーム部分などは全く一緒です。

ドーム状のカバーはプラスチックでザラザラした手触りです。逆V字のアクセントは、くぼみに白い塗料を埋め込んだだけの、単なるデザイン要素で、Audezeの「A」をイメージしたもののようです。

ドームの組み付けには厚いフェルト素材のような物が挟んであるのが見えます。内部の吸音処理もこのフェルトなのかどうかは不明です。

イヤーパッドの厚み

かなり厚いことがわかります

もうひとつ、LCD2 Classicと異なる点は、イヤーパッドの厚みがかなり増して、前後傾斜も強調されています。実際に手にとってみても、ヘッドホンというよりは巨大なイヤーパッドの存在感が強烈で、装着感もまるで高級ソファーのようにふっくらと重厚です。

密閉型なので、イヤーパッドの遮音性を高めたかったという事もあると思いますが、さらに、ドライバーから耳までの傾斜角や距離を遠ざけることで、音響調整のメリットも考えているのだと思います。密閉型といっても、単純に開放型のグリルを板で塞いだだけでは、反響による音の濁りが問題になるので、それをドーム状カバーやイヤーパッド内の余裕のある空間を駆使して、色々と試行錯誤で音響調整したのだろうと想像します。

重量は560gということで、装着してみると、イメージ通りに「巨大で重い」です。両手で持ってみると、ヘッドホンというよりは、バイクのヘルメットとか、ボウリングの球を持っているような感触です。実際に装着してみると、柔らかいヘッドバンドやイヤーパッドのおかげで、どこか痛くなるようなことはありませんでしたが、さすがに常に重さを感じます。これだけ重厚なおかげで、遮音性はとても良いのはありがたいです。

LCDシリーズのことを書くたびに毎回言っていると思うのですが、世界中の全ての人が巨漢の北米人ではないので、今後は音質向上よりもむしろ、同じサウンドを維持したまま、重量を300g台に落としたモデルを開発するほうが需要があると思います。なんだか、トランプ大統領が、アメリカの車が日本で売れない理由がわからない、と言っているのと似ています。たとえばオーテクATH-ADX5000のような驚異的に軽いハイエンドヘッドホンを作っても、アメリカのファンにとっては軽すぎて商品価値が低く見られてしまうのかもしれません。

付属ケーブル

ケーブルは1.9m・6.35mm端子で、LCD2 Classicなどに付属しているものと同じです。

LCDシリーズは昨年までSTAXのような並行フラットケーブルだったのですが、最近のモデルからは編み込みタイプのものに変更されました。音質面ではこっちのほうがちょっと硬めで引き締まった印象で、これといった脚色の無い、良いケーブルだと思います。

ケーブル接続

ミニXLR

4ピンです

ケーブルは着脱式で、これまでのLCDシリーズと同じミニXLRを採用しています。ミニXLRといえばAKGやベイヤーのものが有名ですが、あちらは3ピン片出しなのに対して、Audezeは4ピン左右両出しなので、互換性は全くありません。

LCDシリーズが米国で大人気のヘッドホンになったおかげで、海外ケーブルメーカーの多くが互換ケーブルを販売しています。

ミニXLRは、安価に手に入りやすく、堅牢で、ハンダ処理しやすいという事で、自作マニアにも人気です。そのため、米国では他社のヘッドホンを着脱式ケーブルに改造する際など(AKG K701など)、とりわけこのコネクターが人気のようです。最近ではMr SpeakersやZMFなど米国の新興ガレージメーカーの多くがこのコネクターを採用しています。

音質とか

LCD2 Closed-Backは70Ω・97dB/mWということで、電圧・電流ともに要求が高く、そこそこ鳴らしにくいヘッドホンです。

公式サイトでも、ヘッドホンアンプは最小100mW・推奨1~4Wと書いてあります。そうなると、ポータブルならChord Mojo・iFi Audio micro iDSDくらいの高出力が必要で、基本的に据え置き型のコンセント電源アンプに頼る事になります。

DAPだとちょっと厳しいです

もちろん音源やジャンルにもよりますが、私はそこまで大音量では聴かないので(しかも密閉型ですし)、Questyle QP2RやCowon Plenue SなどのポータブルDAPでもそこそこ鳴らせました。ただし、今回の試聴では余裕をもってiFi Audio Pro iCANを主に使いました。

まず第一印象として、このヘッドホンは個人的に結構好みのサウンドです。刺激も少なめで、ずいぶんリラックスした、バランスがとれた音作りだったので驚きました。平面駆動ドライバーで、しかも密閉型となると、これまでの経験上、もっと低音がボンボン響くような荒削りなサウンドを想像していたのですが、良い意味で予想を裏切られました。

このあいだAudeze Mobiusを聴いた時もそうでしたが、Audezeとしては意外はほどに中低域のコントロールが効いています。なにか開発チームに心境の変化でもあったのかと勘ぐってしまうくらいです。

巨大な106mm平面振動板ドライバーを搭載しているだけあって、音色の線が細いとか、軽くてスカスカといった事は一切無く、これまでのLCDシリーズらしく、中域の音色に厚みと立体感があり、輪郭がしっかりとした、聴き応えのあるサウンドです。

私が思う「LCDらしい」サウンドというのは、録音全体の空間音響ではなく、音楽だけに集中するように浮かび上がらせるタイプのヘッドホンだと思います。

LCD2 Closed-Backではその傾向がちゃんと低域まで維持されており、たとえばEDMのようにキックドラムが連続するような音楽であっても、重低音の残響に埋め尽くされるような問題も無く、ちゃんと楽器の音として、立ち上がりも引き際も定位置からブレず、膨らまず、歯切れよく鳴ってくれるのが、とても優秀だと思いました。

たとえば、LCD-XCの場合はもっと響きが長引きますし、EL-8やSINEも密閉型バージョンは、とくに低音楽器のアタック部分で、タイミングや過渡特性が甘くなってしまうのが難点でした。他社のヘッドホンだと、たとえばMr Speakers Etherの密閉型も、ハウジングの響きを利用することで、長めに鳴り響くサウンドに仕上げていましたが、LCD2 Closed-Backの場合は、そうではなく、よりモニターっぽく、むしろ地味すぎるくらい上品に仕上がっています。

簡単に言えば、破綻が少なく、不満が起こりにくい、大人なチューニングです。何時間も聴き続けたのですが、これといって悪いクセなども見当たらず、バランス感に長けた優秀なヘッドホンだなと、かえって書く内容が思い浮かばないくらいでした。

LCD2 Classicと聴き比べてみると、どちらも同じくらい鳴らしにくいので、高出力アンプは必須ですが、Classicは開放型なので、周囲の騒音に邪魔されやすく、もうちょっとボリュームを上げる事が多かったです。

また、両者の音色の特性はよく似ているものの、音場のプレゼンテーションはかなり違います。歌手や楽器の距離感は同じくらいですが、その背後の空間はやはり開放型Classicの方が遠くへ広がっています。ただし開放型だと、ちゃんと遠くの残響まで聴き取るには、自分の周囲には騒音が無い環境でないといけないのがもどかしくも感じます。

Closed-Backでは、残響も含めてもっと間近な、自分専用のドーム状の空間の中に収まっているような響きがするので、一音ごとにフェードアウトするまでしっかり聞き取れます。それでも演奏自体は頭外で一歩離れた距離を維持できているので、不快に感じることはありません。開放型は大きなコンサートホール、密閉型は小さなリサイタルホール、という違いのようなものです。


LCDシリーズの上位モデルや、他社の密閉型ヘッドホンと聴き比べてみると、音色の傾向としてはやはりLCD2 Classicと一番よく似ています似ていて、実直なツヤ消しサウンドといった感じです。

ここからLCD-2→LCD-3→LCD-4と高価なモデルになるにつれ、楽器の音色がどんどん「美しく」なり、より響き豊かに、より色艶が濃くなります。全く個人的な感想になりますが、私にとって、普段使いではLCD-2くらいが味付けとしてちょうどよいバランスかもしれません。

LCD-4になると、厚みや響きがあまりにも濃厚すぎて、特殊性が強いと思います。たとえばロックをよく聴くような人なら、録音の聴き辛さや荒っぽさを極上な響きに仕上げてくれる、魔法のヘッドホンを通した音を楽しむような感じです。つまり、高価なホーンスピーカーなどと同じ魅力があると思うので、ハイエンド嗜好品としては正しい方向性かもしれません。

そんなLCD-4と比べると、LCD2 Closed-Backはより地味で淡々としているため、LCDシリーズのファンにとっては、中域の味わいが不十分で、退屈に思えるかもしれません。逆に私はもうちょっと地味めな、たとえばフォステクスTH610のような密閉型ヘッドホンが好きなので、好みに感じるのだと思います。

そんなTH610と聴き比べてみると、LCD2 Closed-Backも音色が淡々として過剰に響かないことは共通していますが、音場の展開はずいぶん異なります。TH610は情報がコンパクトにまとまっていて、そのエリアに意識を集中することで、楽曲全体の構成を俯瞰で把握できるような感覚です。

一方LCD2 Closed-Backの方は、あいかわらずLCDシリーズらしく、巨大なハウジングと、耳よりも大きな平面振動板の効果で、耳の後ろ側からも音が鳴り響いているような、ヘルメット的な音響空間に、大きく拡大された音源が広く分散しているような感覚です。

ベイヤーダイナミックDT1770 PROも良いライバルだと思います。LCD2 Closed-Backで得られる、広く分散した音像配置と比べると、DT1770は地平線のように横一直線に整列して、上下に狭く、前後の奥行きがあり、時間軸方向で音の列が続々と現れるような印象です。さらにDT1770は高音の鳴り方がシャープで、とくにピアノなどがキラキラと綺麗に鳴ってくれるのは大きな魅力ですが、LCD2 Closed-Backと比べると低音の表現は若干甘く、膨らみやすいです。

やはり密閉型ヘッドホンというのは、(ワイヤレスNCとかでもなければ)5万円を超えたあたりから、そうそう悪いヘッドホンも無くなり、優劣というよりは、一長一短で音作りの好みで選ぶことになりそうです。

おわりに

普段Audeze LCDシリーズの新作が出て、ショップや友人などに薦められても、「またか、どうせ買わないし」と気が乗らないのですが、今回LCD2 Closed-Backを聴いてみて、これまでとは一味違った実直なサウンドにちょっと驚き、好感が持てました。

いざ買うかとなると、やはり巨体と重量のせいで断念しましたが、そこを許容できる人であれば、自宅のリクライニングチェアで、喧騒から逃れるために活用するプライベートスペースのようなヘッドホンとしては最適だと思います。装着感・音作りともに、外界を遮断して、音楽の世界に包み込まれるような気分に浸れます。

ただし、この10万円弱付近の価格帯では、すでに優秀な密閉型ヘッドホンが沢山あるので、なかなかベストを選ぶのも難しいです。そんな中でもLCD2 Closed-Backは完成度が高く、他社に引けを取らないものの、なにか特出した決定打に欠ける無難なヘッドホンとも言えます。

たとえば逆の立場で、Campfire Audio Cascadeなんかは、グイグイ来るエネルギーが圧倒的で、低音が破綻するほど鳴り響くので、万能ではないものの、そういうのが好きな人には絶大な支持を得ています。ベイヤーT5pなんかも同様に高音の切れ味が魅力になっているので、好きな人にとっては「もはや、これしかない」と愛着が湧くヘッドホンです。LCD2 Closed-Backは、そういうのではなく、変にカッコつけない玄人好みのサウンドです。

LCDシリーズのエントリーモデルなのだから、なにか欠点や弱点があるかといえば、むしろ逆に考えることもできます。Audeze LCDシリーズというのは高級ブランドなので、まずエントリーモデルを基準点として、そこから上のラインナップは、むしろ過剰なほどのプレミアム感を演出するという考えのようです。たとえば高級チョコレート店だとすれば、華やかな贈答品もありますが、一番安い板チョコであっても決してクオリティを妥協しておらず、むしろメーカーの本質が率直に伝わってくるものです。

これは、一般家電メーカーのように、まずフラッグシップモデルを作り、そこから徐々にコストダウンした下位モデルを展開していくようなアプローチとは真逆の考え方だと思います。日本の家電メーカーの考え方に慣れていると、どうしても「最上位モデルじゃないと心配だ」という心境になりがちですが、Audezeや他の高級ヘッドホンメーカーのモデルラインナップを聴いていると、エントリーモデルも悪くない、むしろ一番無難で良いかも、という気にさせてくれます。


ところで、最後に余談になりますが、このLCD2 Closed-Backが米国で発売されるちょっと前に、先行ネットレビューでは、どうもチューニングが変で、ドンシャリの中域スカスカで、全くひどいヘッドホンだ、なんて酷評を多く見ました。大勢の人がそう思ったのか、一部のレビューが拡散されたのかは不明ですが、そういう雰囲気があったことは確かです。

ただし、それは先行試聴用の試作機だったらしく、Audezeは正式版では内部のバッフル材再調整などでチューニングを大幅に変更したという話でした。サウンドがどの程度変わったのかは知りませんが、少なくとも私が聴いた販売版は、ドンシャリ・スカスカなどではなく、中域もしっかり出ている優秀な特性だと思いました。

日本やドイツとくらべて、とくに米国・中国のメーカーに多いと思うのですが、発売前の試作機やサンプル品をレビュアーに提供したり、掲示板などの内輪で使いまわすようなコミュニティが多いです。メーカーとしては、発売前に確かに有用なフィードバックが得られるかもしれませんが、諸刃の剣だと思います。一度ネットに書かれた酷評は消えることがありませんし、とくに米国・中国の場合、日本のように身近にヘッドホンショップがあるわけではないので、掲示板の影響力は絶大です。

こういう口コミの弊害というのはどんな分野でもあると思いますが、特に今回LCD2 Closed-Backを試聴する前に、「レビューだと音が悪いらしいよ」と結構多くの人から口添えされたのに、実際に聴いたらずいぶん気に入ったので、やっぱりネットレビューなんかよりも実際に聴いてみないと、何を好きになるか全然わからないものだなと、改めて感じました。