2019年2月26日火曜日

Fiio M6 DAP の試聴レビュー

Fiioの低価格ポータブルDAP「M6」を試聴してみたので、感想とかを書いておきます。

Fiio M6

日本では2019年1月発売のDAPで、超小型ポケットサイズにタッチスクリーンAndroid OS、そして値段は25,000円弱と、かなり魅力的なDAPです。

これまですでにM3K・M7・M9と続いているFiio Mシリーズの最新モデルとしてラインナップに加わりました。


Fiio DAP

中国のオーディオメーカーFiioは、私がヘッドホンオーディオに興味を持ち始めた頃から常に切っても切れない存在です。

それまでは据え置き型のヘッドホンアンプを使っていたのですが、まず最初に買ったポータブルDAPは2013年の初代Fiio「X3」でしたし、そこから翌年に5万円の上位モデル「X5」にアップグレードしたときは、当時としてはかなり大きな出費だと思いました。

私がIEMイヤホンなどポータブルオーディオの高音質ぶりに衝撃を受けたのは、Fiio DAPがあったからと言っても過言ではありません。今聴いてもX5は凄いDAPだと思いますし、当時の衝撃は、以後どんなに高価なDAPを聴いても得がたい体験だったと思います。

その後は後継機X5 MKIIを買ったのを最後に、当時まだ珍しかった他社のタッチスクリーンDAPに目移りしてiBassoやAKと乗り換えてしまい、FiioがようやくタッチスクリーンのX7を発売した頃には、なんとなく気分が遠のいてしまいました。

私の感覚では、Fiio DAPのラインナップは、2015年にX7が登場したことで一段落ついたと思っています。それ以降はX7 MK2、X5 MK3、X3 MK3など続々と後継機が出ましたが、Android OSの多機能性をいかに低価格で提供できるかという方向に進んでいってしまったようで、その反面、シンプルなFLACファイル再生での使い勝手や音質面では、初期モデルと比べると個人的にあまり魅力を感じなくなってきました。逆に言うと、常にギリギリの価格設定で機能性の限界を追求してきたのがFiioだと思います。

M3K・M6・M7・M9・X3 MKIII

側面

2017年には、そんなXシリーズから一旦離れて、新たにMシリーズが始まり、M3KとM7の二段展開で新時代のFiioを予感させてくれました。そして今回第二弾として登場したのがM6とM9です。

後継機というわけではなくラインナップ拡大で、さらにXシリーズもまだ売っているので、価格順で「M3K・X1-II・M6・X3-III・M7・M9・X5-III・X7-II」という並びになっており、約1万円~8万円まで一万円ごとにモデルが存在している状態です。

つまりFiioの最上位クラスはXシリーズのX5-III・X7-IIというのは変わっておらず、それ以下の中堅モデルの種類が豊富すぎて、どれを買うべきか混乱してしまいます。

しかもDAPというのはスマホのように新機能やスペックがどんどん進化していくものなので、最新モデルの方が値段は安くてもスペックが優れていたりします。もちろん旧モデルを買っても全く使い物にならないというわけではありませんが、いわゆるガジェット的には、どうしても最新モデルに興味を惹かれてしまうものです。

M3K・M6・M7・M9

Mシリーズ各モデルのデザインを比較してみると、最下位のM3Kだけが明らかに異質で、タッチスクリーンですらありません。それ以外のモデルはすべてAndroidベースのタッチスクリーンOSで、操作性にはさほど大きな違いはありません。

しかも、よく見るとM6・M7・M9の画面サイズは同じ3.2インチ 480x800ピクセルなので、第二世代AK DAPと同じ解像度とサイズですから、操作性に支障が出るほど無理に小型化していないという点も魅力だと思います。

M3K・M6・M7・M9・X3-III

それぞれ下から見るとデザインが全く違うので、まるで別会社のDAPかのようです。ブランドイメージを象徴する統一デザインとかではなく、とりあえず売れそうなフォルムを惜しみなく採用するところがFiioらしくて面白いです。

ソニーっぽくイヤホンジャックに金色のリングがあるものや、旧世代AK DAPそっくりな物など、デザイナーは結構楽しんで作っていると思います。そんな中でも、M6はツルッと丸みを帯びたデザインで、過度なデザイン要素は入れないスマホっぽさが印象的です。USB端子はM3KのみマイクロUSBで、それ以降はUSB Cに統一されています。

デザインはシンプルで悪くないです

M6のオーディオ回路はESSのES9018Q2Cを使っています。ESSというとD/Aチップで有名なメーカーですが、このQ2Cというタイプは、D/A変換と一緒にヘッドホンアンプまでワンチップに収めた品番です。これ一枚に電源とデータを送るだけで、あとはヘッドホン端子まで全部任せる事ができるので、M6の小型化への最大の貢献者です。つまりM6はDAC性能のみでなくアンプ駆動特性もES9018Q2Cチップに依存しているということです。もちろん同じチップを使っていても、電源など周辺回路の作り込みで音質やパワーは変わってきます。

内蔵メモリーは2GB、マイクロSDカードスロット×1、バッテリー13時間といった、ごく一般的なスペックです。Fiio DAPらしく、スリープ時はバッテリーが26日間も持つという点は他社と比べて優秀です。

システム

Fiio M6の基本OSはAndroidで、M7・M9と共通しています。

タッチスクリーンDAPは各社色々ありますが、たとえばAKやPlenueなどは電源投入時から独自の音楽再生アプリのみが起動するようにカスタマイズされており、Androidであることを意識させない設計です。

一方Fiioの場合はスマホと同じようなホーム画面が立ち上がり、そこから「Fiio Music」という音楽再生アプリを起動する仕組みです。

Fiio Musicアプリ以外には、写真観覧アプリやファイルマネージャーなど、たいしたものはインストールされていません。

Google Play Storeは使えませんが、Fiioがホワイトリストしたアプリのみを任意でインストールできる仕組みになっています。公式サイトでリスト一覧が見れますが、たとえばTidalやSpotify、Roonなどがインストール可能のようです。この辺は個人的にあまり興味が無いので試しませんでした。

ようするに、FiioとしてはFiio Musicアプリで音楽ファイルを再生する事を想定していますが、機能拡張やカスタマイズを自己責任で試したい人のためにAndroidの一分機能を開放しているという感覚です。これについてはFiio X7の頃からコアなユーザーの試行錯誤が続いているので、ネット上でノウハウも蓄積されていると思います。

Fiio Musicアプリ

Fiio Musicアプリは、可もなく不可もなく、いわゆるAndroidスマホに標準で入っているメーカー製ミュージックアプリといった感じです。

とりわけ操作性に変な癖もなく、説明書を読まなくても感覚的に使えるので、大きな不満はありません。

ただし安定感やパフォーマンスにおいてはソニー・AK・Plenueなどにまだ差をつけられているようで、この部分だけはFiioはどうしてもハイエンドDAPメーカーに成り得ない弱点だと思います。

Fiio Musicトランスポート画面

DSDも再生可能です

ブラウザ画面

トランスポートは一般的なデザインなので、使い方に困ることは無いと思います。選曲ブラウザーもシンプルで、画面下端にミニトランスポートがあるのは便利だと思いました。

再生フォーマットはPCMが192kHz、DSDは5.6MHzまで対応しています。つまりPCM 384kHzのDXDファイルや、DSD256は再生できませんが(File Not Supportedとエラーがでます)、このレベルの低価格DAPでそこまで期待するものでもないと思います。

Audioセッティング

デジタルフィルター

画面上からスワイプ

オーディオ関係の設定はFiio Musicアプリ内から呼び出すことができ、たとえばデジタルフィルターモード切り替えなどはここから行います。

さらにAndroidらしく画面上端からスワイプすることで無線やBluetoothなどの切り替えが行えるショートカットが出てきます。

もう一つ便利機能として、画面左下からスワイプするとFiio Music内のブラウザに戻り、画面右下からスワイプするとAndroidホームに戻るという、気の利いた振り分けになっています。

ファームウェア

今回M6を試聴した時期に、ちょうどタイミングよくファームウェアアップデートが出たのでインストールしてみました。ホーム画面からサポート用アプリを開くことで、無線LAN経由でアップデートできます。

ファームウェアアップデート

Fiioのファームウェアアップデートというと、既存ユーザーが必ず苦笑いするのですが、実際に試してみてその理由に納得しました。

DAPの問題かFiioサーバー側の問題かわかりませんが、たった25MB程度のファームウェアをダウンロードするのに、なんと30分くらいかかりました(普通なら30秒で終わるはずです)。しかもダウンロード中に何度も失敗メッセージが出て、そこでOKを押すとちょっと戻ってレジュームするというのを10回以上繰り返して、ようやく終わりました。つまりダウンロード中は気が抜けません。これはM6だけでなく他のFiio DAPでも有名らしいので、あまりビビらずに気長に試す事が重要です。

インターフェース使用感

これまでのFiio DAPというと、低価格・高機能な反面、他社の高級DAPと比較すると操作性や安定性が一歩劣るという側面がありました。Mシリーズでは高速CPUとカスタムAndroid OSを採用することでそのあたりがずいぶん改善されてきたと思います。

単体DAPとして使うぶんにはそこそこ快適ですが、色々と試しているとやはりまだ作り込みの甘さやバグを多く発見したので、そのため今回M6の購入を断念することになりました。それが実に惜しいです。

Fiioがあとちょっと努力すればファームウェアアップデートでどうにかなる程度の事だと思うのですが、これまでもインターフェースの熟成よりも先に新型発売を急いでしまうループを繰り返しており、結局買い時を逃してしまいます。たぶんFiio自身に自覚が無いというか、他社のハイエンドDAPと比べて何が劣るのか理解していないのでは、なんて思います。

M6は高速プロセッサーのおかげでOS操作はかなり快適です。タッチスクリーンそのものの反応も良く、スマホを扱うのと同じ感覚でスイスイ使えます。そのあたりは一切不満がありません。

私が使ってみて感じた不満点は全てミュージックアプリ関係の、ソフトウェア開発の甘さです。ようするに、AKやソニーが出来てFiioが出来ない事や、ちょっとむずかしいことをするとアプリが落ちたり、予期せぬ動作を起こしたりするトラブルが多い事などです。

ある程度使い慣れれば、バグを誘発するような動作を意識的に回避できると思うので、まあ我慢できると思うのですが、たとえばOTGトランスポートとして高額なオーディオシステムと接続するにはリスクが高いです。

いくつか具体的な例が挙げられるのですが、たとえばアルバムブラウズがキャッシュされておらず、画面外のアイテムが必ず白紙に戻るのはかなり使いづらいです。他社の音楽アプリならジャケット絵を見ながらスクロールできますが、Fiioの場合はスクロール中は真っ白な画面で、止まってちょっと待たないと表示されません。つまり観覧中ちょっと動いては待ち、ちょっと動いては待ちを繰り返します。

それはほんの一例ですが、他にも垂直スクロールバーのアシストが無いとか、SDカードのライブラリースキャンが非常に遅く(200GBで10分)その間操作出来ないとか、曲飛ばしのためのバッファーを準備していないので、ボタンを押してから反応するまでラグが長い(そのため押したかどうか心配で二度押ししてしまう)とか、ようするにユーザーインターフェース授業で習うような、バックグラウンド処理での快適化が甘いです。

AKやPlenueは結構前からそのへんの作り込みが上手で、特にAKは現行モデルで画面拡大に伴い大幅なインターフェース改良を行いましたが、それもいくつかのアップデートを経て完成度が高まっています。Fiioにも同じくらいの熟成を期待したいです。

まだバグも結構あり、とくにファイルアクセスで異常が起こりやすいです。DSDやPCM 192kHzなど高レートのファイル再生中にブラウザをフリックスクロールすると、結構な頻度でFiio Musicアプリが落ちます。多重アクセスについていけないのでしょうか。

また、プレイリスト中で未対応ファイル(DXDなど)に遭遇すると混乱して見当違いの曲に飛ばされたり、OTGでサンプルレート切り替えがリセットされないので88.2kHzの後に44.1kHzを再生すると早回しになったり、プリフェードを挟まないので再生開始でバチッとノイズが乗ったり、そういったユーザー目線での心遣いや作り込みが甘いです。

Androidの多機能性が余計なトラブルを誘発しています

他にも、Fiio Music内にファイルブラウザーがありますが、Androidホーム画面にも見た目がそっくりの別のファイルマネージャーアプリがあり、そこから曲を選んでしまうとFiio Musicで見当違いの曲が再生されたり、最悪OS全体がフリーズして強制再起動するなど、なんだか昔のビデオゲームのバグを探すようで、しまいにはどうやってシステムを壊すか実験するのが楽しくなってしまいました。

M6のシステムはM7・M9と共通なので、ちゃんと真摯に向き合って完成度を高めてくれればかなり良いDAPになると思います。音質や機能面では満足しているので、バグが減ったら買いたいと言いたいところですが、それが実現する前にまた別の新型が出てしまう気がします。

Bluetooth

M6の大きな魅力の一つが、Bluetoothデバイスとしてかなり優秀だという点です。Bluetooth 4.2で送受信の両方に対応しています。

受信機としてはスマホからSBCとLDACを受信でき、送信機としてはさらにaptX HDにも対応しています。

無線LANもDLNAとAirPlayに対応しているので、無線圏内ならiPhoneやMacからM6にAirPlay経由で音楽を送れます。

他の大手メーカーだと、何らかの陣営へしがらみや肩入れがあったりしますが、Fiioの場合はそういう気兼ねもなくaptX HDとLDACの両方が送信できるというのが珍しいですし、しかもこのコンパクトさと低価格です。Bluetoothなんてスマホを使えばいいじゃないか、と言う人であっても、このM6の「全部入り」具合には恐れ入るだろうと思います。

たとえばiPhoneユーザーでaptX・LDACを使いたければM6をBluetooth専用で買うのも良いと思います。

フォーマット対応が充実しています

とくに最近はBluetoothヘッドホンもどんどん高額化していますし、今後1、2年先を考えても、オーディオマニア用途にてaptX HDとLDACの争いがどうなるのかわかりませんから、現状で死角の無いM6はトランスポートとしてかなり魅力的です。

aptX LL(ローレイテンシー)には対応していないようですが、あれはゲームや動画を見るときの音声遅延を改善するフォーマットなので、そもそも音楽再生用のM6では不必要です。

私はあまりBluetoothには詳しくないのですが、前回試聴したiFi Audio xCANとaptX接続してみたり、ソニー1000XM3とLDAC接続してみたりしましたが、信号強度も安定具合も良好でした。

USBトランスポート

M6は小型ながらAndroid OSでUSBトランスポート機能(いわゆるOTG接続)が使えるので、そのために興味を持っている人も多いと思います。私もこの機能のために買おうかどうか悩んでいるところです。

USB C端子なので、アップルの白いアダプターが使えますし、iFi AudioやAudioquestからもC端子アダプターケーブルが発売されています。また最近はAudioquestなどからUSB C→USB Bケーブルも出ているので、OTGアダプター無しで据え置きDAPに接続できたり、ようやくUSB C周りの環境が整ってきました。

DSD DoP 2.8MHzと5.6MHzに対応

OTGならDXDも使えました

ケーブルをDACと繋げると、M6は自動的にOTGトランスポートモードに切り替わるようです。

DSDはDoP送信で5.6MHzまで対応しています。さらにPCMはM6単体では再生できないDXDまでOTGで送れます。ちなみにDXDを最初に試したとき、再生している様子なのに全く音が聴こえないというトラブルがあったのですが、M6のファームウェアをVer.1.0.1にアップデートしてみたところ、以降ちゃんと音が鳴るようになりました。

OTG接続は送り先DACとの相性が結構重要なので、上手く成功するかどうかはテストするまでわかりません。相変わらずDXDなどはしょぼいケーブルだと音飛びが頻発しました。

出力

いつもどおりヘッドホン出力の最大電圧を調べてみました。

0dBFSの1kHzサイン波信号を再生しながら、ヘッドホン負荷に対する最大出力電圧(Vpp)を測ってみます。



せっかくなので、Mシリーズ総出で比較してみます。これを見るとM9が特出してゲインが高く、それ以外は他社のハイエンドDAPと比べて若干低めの設計です。M6は4.3Vppですが、AKやPlenueなど他社は大体5~7Vppくらいが多いです。

ただしグラフを見るとM9は20Ω以下のイヤホンだと急激にパワーダウンするので、必ずしも理想的ではありません。もちろん低インピーダンスまで高ゲインを維持する事は高級DAPであってもなかなか難しく、Hugo 2やmicro iDSDくらいでようやく実現できるレベルなので、これらMシリーズが格別貧弱というわけではありません。

M7よりも低価格なM6の方が出力電圧が高いのは面白いですね。どちらも同じES9018Q2Cヘッドホンアンプチップを採用しているので、出力の違いは意外でした。M3Kはかなり貧弱なのでパワー不足に悩まされますが、IEMイヤホンくらいならM6・M7のどちらでも問題ないレベルだと思います。



無負荷時にボリュームを1Vppに合わせて、負荷に対する電圧の落ち込みを測ってみました。面白いのは、M3KとM6が優秀な横一直線で、M7とM9は低インピーダンスの落ち込み具合がピッタリ一致しています。アンプ回路設計の差がここで現れています。IEMイヤホンなどだと、M7・M9はちょっと心許ないです。




ちなみに余談になりますが、せっかくなので2.5mmバランス端子搭載のM9のバランス・アンバランスを比べたグラフも載せておきます(M9はレビューをやってないので)。破線はローゲインモードです。

2.5mmバランス出力を使っても出力電圧はほんのちょっとしか上がらないようです。しかも1Vppでの出力特性を見るとバランス出力は出力インピーダンスが悪化して駆動力が落ちています。

だからといって音が悪いとは限りませんが、条件によっては駆動力が落ちる事は確かです。バランスだから高パワーであると盲信するのは注意が必要です。

音質とか

M6のパワー特性は上記のとおりなので、低インピーダンスのマルチBA型IEMなどと相性が良さそうです。

冒頭の写真にあるCampfire Audio Andromedaや、Final E5000など、私が普段カジュアルに外出時に使いたいイヤホンを鳴らしてみました。

Final E5000

ちなみに上の写真では付属クリアケースを装着しています。

今回の試聴ではM6以外にもM3K・M7・M9を同時に聴き比べることができたので、それぞれのモデルの性格がよく把握できました。

まず一番先に言いたいのは、これらFiio Mシリーズの中では、個人的にM6のサウンドが一番好きです。同じタイプのサウンドの中での優劣ではなく、モデルごとに音色の傾向がずいぶん違います。

オーディオマニアとして、まずM3Kは除外します。Final E5000を駆動するにはパワー不足ですし、Andromedaもバックグラウンドノイズが気になります。音質も硬質でシンプルなので、いわゆるスマホのヘッドホン出力のちょっと良い版みたいなものです。なにか特殊な用途でもないかぎり(ジョギングとか)、操作性も含めてM6との差は価格以上だと思いました。

M6・M7・M9はどれも性能面では優秀で、パワーもこれくらいであればFinal E5000もそこそこ鳴らせます。ただしバスや電車など環境騒音が大きい場面ではM6・M7ではボリュームが足りなくなりました。M9は高出力ですが、それでも他社のDAP並なので、大型ヘッドホン駆動などで過度な期待は禁物です。

ちなみにFiioの優秀な点として、ボリューム最大でも音割れする前にボリュームノブが頭打ちになるような、意外と安心志向のデザインなので、他社のDAPやポタアンと比べて音量による音質変化が少ないです。ちなみに他社(とくに新興メーカー)のDAPでは、結構ハッタリボリューム(パワフルに見せるために、ちょっとボリュームを上げると大音量になるけれど、すぐ歪みはじめる)が多いので、見かけ上のボリューム表示はあまり信用できません。

M6・M7・M9を比較すると、サウンドが一番無難で王道路線なのがM6で、一方M7・M9はそれぞれ別方向に個性というかクセが強いです。価格的にライバルのソニーA50シリーズと比べても、M6が一番健闘していると思います。

M6は軽めで線が細め、金属質感や残響などを誇張せず、とてもスッキリした鳴り方です。過度なドライブ感が無いので、どんな録音でも奥まで聴き込める素直な特性が好印象です。

スマホやパソコンで聴くよりもクッキリして気持ちいい鳴り方なので、多分ノイズフロアが低いとか、クロストークが少ないとか、そういったスペック的な部分が効いているのだと思います。決して意図的にアナログっぽく盛り上げるタイプではありません。

欲を出せばもうちょっと高音の派手さをとか、低音の力強さを欲しくなりますが、そういうのは高価なアナログ回路パーツを組み込んだりして実現するものです。M6の価格でそういう演出を求めると全体の完成度が犠牲になりがちなので、余計な手出しをしなかった事はむしろ良いと思いました。

DACがESSということで、もっとカッチリしたアタックが強めのサウンドかと想像していたのですが、以外と艶っぽく、音色はシンプルながら余計な角が立っていないので(つまりアタックを強調するような倍音を盛っていないので)、どのイヤホンでも相性が良いだろうと期待できるのがM6の大きな魅力です。

M6の弱いところは、たとえば響きや空間展開などになにか特別なポテンシャルを感じない事です。もうちょっと上のDAPでは明確な特徴みたいなものが作り込めるようになり、さらに上の高級DAPになって総合的なバランスがとれてくるような印象があります。M6は第一印象のインパクトに欠けるので、パッと聴いて惚れ込むという感じではありませんが、すでにそこそこ良い高級DAPを使っている人であれば、M6を聴いてそのシンプルな素直さに「これならサブ機としていけそうだ」と好感を覚えると思います。

例えばソニーA50は、M6とは正反対で、限られたスペックの中で結構「遊んでいる」サウンドだと思います。つまり絶対的な音質よりも、この価格帯で求められている(と想定した)中域のツルッとした鮮やかさやパンチの効いた低音、若干刺激的な高音など、アレンジが上手です。また多くのDSP処理で鳴り方の雰囲気を変える事もできるので、M6よりも多面的で遊びがいがある、使い込むほどに付き合い方が上手になる、製品としての魅力が強いです。ソニーの場合、A50に限らずDAPは全体的にそんな感じで、逆にPHA-2Aなどポタアンはかなり真っ当(というかレファレンス的)な音作りなので、意図的にサウンドの個性を使い分けている印象です。一方Fiio M6は素のままのサウンドにヘッドホンマニアを納得させる素朴な魅力があります。

M7とM9はそれぞれよくできたDAPですが、M6をスタート地点とすると、どちらも奇抜に感じます。まずM7はフカフカした空間プレゼンテーションの中に中高域にかなり強い存在感があり、一度気になりだすと常に意識してしまいます。アタックが派手に刺さるというよりも、なにか落ち着きがないギラッとした「うねり」のようなものがプレゼンス帯にあるので、まるでDSP空間エフェクトがONになっているかのような印象です。それがどんなアルバムやイヤホン・ヘッドホンでも感じるので、M7特有の個性なのだと思います。逆にこれを常にスリリングな臨場感として気に入る人もいると思います。たとえばロックやEDMでは没入感が増します。

M9はM7とは真逆で、中低域が太く、どっしり構えたサウンドです。Fiioとしてはかなり異例の音作りで、iBassoとかのアナログアンプを連想しました。重低音がドスドス振動するというのではなく、丸くマイルドに仕上げたノスタルジックなアナログアンプっぽい感じです。M6は軽すぎ、M7は派手すぎということなら、M9を気に入ると思います。3万円台の価格帯でここまで厚みを持ってじっくり聴かせるDAPはなかなか無いので、古い録音メインで聴く人、70~80年代ポップスとかをゆったり聴きたい人なんかには良さそうです。私は常用するにはちょっと退屈だと思いました。

おわりに

Fiio Mシリーズの中でも、M7・M9はそれぞれに個性的なサウンドの魅力があるわけですが、では日々色々な音楽を聴きたいとなると、一本調子の個性はだんだん欠点に変わっていきます。どちらもM6と比べて本体サイズはそこそこ大きいですし、値段的にもX5-IIIと近いですから、どれを選ぶべきか悩むことになります。(X5-IIIはもっとシャープなサウンドです)。

私だったら、たぶんこのくらいのDAPを使っていたら、次にZX300、X7-II、SR15と、5~10万円の上位モデルにすぐ目移りしてしまうと思います。機能スペックは同等もしくは劣るかもしれませんが、サウンドは結構な差が出てきます。単純に部品構成だけ見ても、3万円以下のDAPではワンチップ回路でギリギリの予算で、5万円以上でようやくある程度自由なアナログアンプの音作りが目指せているようです。それ以上高価なものは、具体的な部品コストというよりも、チューニング作り込み労力の差でしょう。

そう考えていくと、M6は意外と特殊な存在です。単純にMシリーズの低価格モデルというわけではなく、過去モデルの経験を活かした、Mシリーズの本質を追求した完成形モデルというふうに見えてきます。(もちろん今後何が出るかわかりませんが)。

低予算で初めてのDAPを買う人なら、M6よりも安くて優れたモデルは思い浮かびませんし、もし後日もっと上級DAPにアップグレードするとしても、M6ならサブ機として持ち続けるメリットがあります。同様の理由から、すでにマニアな人のサブ機としても理想的に近いです。一方M7・M9になると、後日アップグレードしたら持て余して手放すことになると思います。

OSの完成度に関しては、どのレベルまでを期待するかは個人差があるので、この値段ならこれで十分と思えるかもしれません。私としてはこれ以上デザインや多機能を詰め込むよりもまずバグ取りやインターフェース快適具合の改善に注力してもらいたいです。

その点ソニーのAシリーズを見ると、WM1Z・WM1Aと平行開発で2016年にデビューして以来A30・A40・A50と毎年着々と進化しており、クセはありますが、OSの完成度が非常に高いです。ソニー特有のDSPギミックなど賛否両論あるものの、メーカーとしてのポリシーがブレないので、この音を目当てでのファン囲い込みも成功している、よく出来たDAPシリーズです(私はいつも「ウォークマン端子が廃止されたら買う」と言っていますが)。

FiioもM6にてサウンド・機能・デザインのプラットフォームが完璧に近づいたと思います。あとはデザインポリシーを維持したまま着々とDAPとしてのユーザビリティを高めてくれれば、かなり実用的なロングセラーになると思います。