2019年12月19日木曜日

Dan Clark Audio Aeon 2 ヘッドホンの試聴レビュー

米国MrSpeakers改めDan Clark Audioから平面駆動型ヘッドホンAeon 2を試聴してみたので、簡単に感想とかを書いておきます。

Aeon 2 Closed & Open

2017年末に登場した初代Aeonの後継機で、今回も同様に開放型と密閉型の二種類から選べます。上位モデルEther 2の弟分といった感じで、価格もUS$899と半額程度に設定しているため、意外と見落としがちなダークホースかもしれません。


AEON 2

MrSpeakersはハイエンドヘッドホン界隈ではそれなりに知名度があるブランドなので、このAeon 2からいきなりの「Dan Clark Audio」へ社名変更というのは驚きました。ありふれた人名なので「Dan・・・誰だっけ・・・」と、覚えて浸透するまでは結構時間がかかると思います。

今後どのようにブランドを展開していくのかは不明ですが、商売が軌道に乗ってきたので名前を変えるなら今が最後の機会という考えもあったのでしょう。実際、スピーカーを作ってもいないのにMrSpeakersとはどういうことだ、という指摘もありました。

名前が変わりました

社名が変わっても商品自体への影響は少なく、ヘッドバンドのレザー刻印が変わったくらいです。

今回発売された「Aeon 2」は、ちょうど二年前の2017年末に登場したヘッドホン「Aeon」のアップデートモデルです。ハウジングが青から赤に変わりましたが、価格はほぼ据え置きで、デザインもほとんど変わっていません。

初代Aeonは日本でも約11万円で販売されていて、そこそこ好評を得ています。アメリカンなサウンド設計と、自社製平面駆動ドライバーの高度な技術、そして大企業の大量生産とは一味違うワークショップ的な手作り感、といったところに魅力を感じる人も多いと思います。

Ether 2と初代Ether Flow

MrSpeakersというと、20万円超の上級モデル「Ether」の方が有名で、最近そちらも「Ether 2」に世代交代して、このブログでも紹介しました。

ちなみにEtherの方はアップデートごとにハウジングが赤→青→黒と変わったのに、今回Aeonは青→赤になったのが紛らわしいです。

Etherシリーズは、典型的な大型ヘッドホンサイズの円形ハウジングで、HifimanやAudezeなど、他社のフラッグシップヘッドホンと正面勝負するようなモデルですが、一方Aeonは若干小さめの平面ドライバーに、耳に沿う楕円形アラウンドイヤーパッドで、手軽さを意識したモデルです。しかしヘッドバンドの構造や、左右両出しの太いケーブルなど、Etherと同じ部品を多用しているので、安易な廉価版といった妥協は一切ありません。

平面駆動型というと、やはり上級者向けというイメージがあり、巨大な据え置きヘッドホンシステム向けが多いので、そんな中でAeon 2はオーディオルームではなくてリビングなどでDAPで気軽に使うにはちょうどよいモデルかもしれません。

OPPO PMシリーズがまだ存在していればライバルになったかもしれません。もうちょっと安い価格帯だと、フォステクスT60RPとかが思い浮かびますが、Audezeも最近似たようなサイズのLCD-1というモデルを出しましたので、どんなものか気になります(残念ながらまだ未聴です)。Audezeは以前SINEやEL-8といったポータブル向けモデルを出していましたが、どれも廃番になってしまいました。

Aeon 2

初代AeonからAeon 2になって、色以外は一見なにも変わっていないように見えますが、内部のドライバー周辺構造は大幅な設計変更があったそうです。

公式サイトによると、内部の主な変更点は二つあり、まずは振動板の音波を整流するための窓サッシのような「Flowパネル」という部品が、これまでは別パーツだったのが、フレームと一体型になったそうです。これはEther 2でも同様の変更がありました。このおかげで振動板と整流パネルがより密接して機能するそうです。

ドライバー周辺のバッフル材料も初代は鋳造アルミだったところ、Aeon 2では切削アルミとカーボンファイバーを使っているそうです。

もうひとつ面白い点として、ドライバーユニットの表裏を今までとは逆に180°回転させて組み込んだそうです。初代Aeonでは平面振動板の前に駆動回路部品があったのですが、それを振動板の背面に持ってくる事で、出音面から耳まで妨げが無くなり、直接的に聴こえるそうです。

言うほど簡単にできるなら初めからそうしていたはずですし、技術的には相当の困難があっただろうと想像します。

ヘッドバンドのヒンジが変わりました

折りたたみできます

もう一つ、Aeon 2で決定的に変わったのはヘッドバンドのアーム部品です。中間に回転ヒンジが追加されたことで、ヘッドホンを丸くボールのように畳んで収納することができるようになりました。

初代Aeonではこれができなかったため、いくら小型モデルと言っても携帯するのが面倒だったので、この改良はありがたいです。ただコンパクトになるというだけでなく、丸く畳むことで外力に対して壊れにくくなると思うので、布袋に放り込んで持ち出せそうです。

密閉型と開放型

初代Aeonと同様に、ハウジングが密閉と開放型の二種類から選べます。購入時に決めたら、あとで変更交換することは不可能なので、結構悩ましいです。

密閉型はカーボンファイバー板で、開放型は六角形グリルの下にスポンジが見えます。ちなみにÆONロゴパネルがあるのは開放型のみのようです。

イヤーパッド

チューニングフェルトでサウンドを調整できます

ハウジングのサイズはEtherなどと比べてコンパクトですが、イヤーパッドは耳の形に近い楕円形で、アラウンドイヤーとして十分な余裕があるサイズです。パッドには結構な厚みがあるので、装着感も良好です。ただしハウジングの厚さと合わせて、装着すると左右にかなり張り出すので、モバイル用途で使うにはちょっと目立ちますし、本体重量321gということもあり、動くとグラグラしがちです。(密閉型は340g)。

イヤーパッドは両面テープ接着なので、使い捨てでスペアに交換するのは容易ですが、気軽に何度も取り外せません。ドライバーの写真を撮りたかったのですが無理でした。

追記:両面テープは丁寧に剥がせば何度か貼り直せるという情報を頂きました。


フェルトのインサートもあり、これを任意でドライバー前に入れる事で高域の刺激を抑えるフィルターのような役目を果たします。私が使った試聴機には同梱されていましたが、Aeon Flow Tuning Kitといって数千円で別売もしているようなので、ヘッドホン本体に付属しているかどうかは不明です。

専用コネクター

付属ケーブル

ケーブルに関しては、上位モデルEther 2と同様に、米国公式オンラインショップや大手ネットショップなどでは本体購入時にタイプを選べるようになっています。不要なケーブルが何本も付属して単価が上がるのと比べて合理性があるので、少量生産だから可能なメリットですね。

$899の本体価格では2mで3.5mm(6.35mmねじ込みアダプター)アンバランスか4ピンXLRバランスケーブルから選べて、さらに$200追加でEther 2と同じ新規開発のVIVOというケーブルが選べます。$899の本体に対してアップグレードケーブルに$200というのは結構大きいです。

VIVOケーブルはポータブル向けに短い1.1mタイプで2.5mm 3.5mm 4.4mmがあり、据え置き用の2mタイプは6.35mmと4ピンXLRがあります。さらに$250の3mバージョンも選べます。

付属ケーブル

今回の試聴機にはVIVOではなく安い方の3.5mmケーブルが付属していましたが、デザインや質感は初代Aeonと同じ物のようです。

個人的な感想ですが、この標準付属ケーブルは太くで扱いづらいので、あまり好きではありません。上の写真でもわかるように、編み込みスリーブの中の線材が固く捻ってあるので、長く使っているうちにクセがついてきて、うまくまとまらなくなってきます。

新しいVIVOケーブルの方はEther 2に標準付属していましたが、かなり柔軟で使いやすい印象でしたので、できればAeon 2もそっちを標準にしてもらいたかったです。価格的に難しいのなら、VIVOほど高級線材でなくても良いので、そろそろ古い標準ケーブルは廃止して、なにか別の柔らかく使いやすいケーブルを開発してもらいたいです。

ちなみに着脱コネクターは汎用品で、公式ショップでもバラ売りしているので、自作できる人なら他のケーブルの流用は容易です。

インピーダンス

Aeon 2の公式スペックは13Ωということで、一応インピーダンスを測ってみましたが、さすが平面駆動型だけあって、再生周波数に対するインピーダンス変動がほぼ無い、優秀な特性です。

インピーダンス

密閉型バージョンもハウジングによる変な捻じれが無く、開放型と同じ特性なのが良いですね。インピーダンスと位相特性が一直線だからといって、周波数特性がフラットというわけではありませんが、アンプから見てどの帯域も純抵抗のように振る舞うのが平面駆動型のメリットです。

音質とか

今回の試聴では、いつもどおりQuestyle CMA Twelveヘッドホンアンプを使いました。

Aeon 2のインピーダンスグラフが横一直線なのは結構ですが、公式スペックによると密閉型は92dB/mW・開放型は94dB/mWということで、家庭用のフルサイズヘッドホン並みに能率が低いため、アンプ選びには注意が必要です。

とくに、インピーダンスが13Ωと、ヘッドホンとしてはずいぶん低いので、貧弱なヘッドホンアンプではボリュームノブが最大に到達する前に歪み始めてコンプレッション気味になるかもしれません。とくに一部のDAPなどでは低音のメリハリが弱くなりがちなので、試聴する際にはそこそこ強力なコンセント電源の据え置きアンプを使ってみることをおすすめします。

ポータブルで使うなら、最近の上級DAPや、iFi Audio micro iDSD、Chord Hugo 2くらいであれば十分なパワーが発揮できると思います。


アダムフィッシャー指揮シュトゥットガルトのマーラー交響曲シリーズで、8番が登場しました。巨大編成オケに独唱歌手あり大小コーラスありと、交響曲の限界を超えた意欲作として有名な作品です。

準備にコストがかかりすぎて、あまり演奏録音の機会が少ないため、新譜が出るたびに注目を集める演目ですが、今回のフィッシャーはこれまでのリリースと同様に、リリカルで内声を重視する柔らかい演奏で、従来の豪華絢爛な概念を覆します。とくに出だしは拍子抜けなほど軽いけれど、終盤にむけてどんどんパワーが増していく構成力はさすがフィッシャーです。

余談ですが兄イヴァン・フィッシャーの方はインタビューで、マーラー8番は嫌いだから録音する気は無いというようなことを言っていたので、弟アダムの方が全集完成に近いようです。


Harmonia MundiからJavier Perianesピアノ、Josep Pons指揮Orchestre de Parisのラヴェル集を聴いてみました。

ラヴェルは同じ曲のピアノ版と管弦楽版を書くことがあったので、このアルバムはそれを上手くプログラムに活かして、「道化師の朝(オケ)」「クープランの墓(ピアノ)」「ピアノ協奏曲」「クープランの墓(オケ)」「道化師の朝(ピアノ)」といった具合に、協奏曲を中心に鏡対照に並べています。本場パリのオケが上手いのは当然として、ピアノもベテランPerianesで、オケ曲に負けないよう抑揚豊かに弾いているので、普段全集で聴くような演奏とは一味違った体験ができるアルバムです。



まず開放型Aeon 2の方から聴いてみたのですが、初代Aeonと比べてかなり印象が変わったので驚きました。クラシックのアルバムを二枚紹介したのも、実はAeon 2がクラシックととても相性が良いと思えたからです。もちろん他のジャンルと相性が悪いわけではありませんが、クラシックのオーケストラ、とくにマーラー8番のような巨大な作品でも存分に楽しめるヘッドホンというのは優秀な証です。

広大なコンサートホールの音響、重なり合う楽器の解像、声や自然楽器の音色、といった複雑な要素をAeon 2はそつなく再現してくれます。平面駆動型らしく、録音がダイレクトに振動板を動かしているといった感覚があり、とくに合唱の厚みが正確に処理しきれています。

初代Aeonはもっと響きが奔放で乱暴なイメージがあったのですが、Aeon 2では帯域ごとの音響特性が均一になり、よりスムーズで落ち着いたサウンドになりました。平面駆動型ドライバーの利点が存分に体感できる、クセの無い鳴り方で、とくに男性・女性ボーカルをカバーする中域の広い帯域が安定していて、刺々しさや不明瞭な穴がありません。

ピアノソロも、音像がしっかりまとまって、音源が四方に分散しません。ちゃんと一つの楽器として成立していますし、音色のタッチもあまり細く神経質にならずに、ちょうどよいくらいの太さがあります。

他社のヘッドホンと比べると、高音にはちょっと意外性があります。同じ平面振動板でもHifimanやFostexなどと比べると高音楽器の鋭さや硬さは控えめで、スカッと爽快というよりは丸くロールオフされているように聴こえます。一見バッサリとカットされているように思えるのですが、実はかなり高いプレゼンス帯までしっかり伸びているようで、下手な録音を聴くと、意外なところで高音の刺さりが飛び出して驚きます。たとえばEDMのようなコンプレッションがかかったパーカッションだったり、マイクの調整が下手な歌手の息継ぎや服の擦れ、ギターの指板で弦を擦る音などです。チューニング用フェルトシートは、音色全体をマイルドに仕上げるためにというよりも、むしろこういった突発的な高音の不具合が耳障りになりがちな録音で効果を発揮してくれました。

ピアノや歌手などの高音域は派手ではないので、もっときらめきや艶っぽさを出したいならAudezeやFocalなど他のヘッドホンの方が有利だと思いますが、とくにクラシックなどの優れた録音であれば、Aeon 2の方がマイク越しに無濾過で聴いている感覚で十分楽しめます。つまり主役の歌手などを最大限に演出したいか、全体の構成をバランス良く味わいたいかでヘッドホンの好みが分かれると思いますが、Aeon 2は後者に当たると思います。


初代AeonからAeon 2への進化は、先日EtherとEther 2を比較して感じたものとよく似ています。響き過多だった初代Etherと比べて、Ether 2は落ち着いて安定したサウンドを目指して、過度な演出や派手さとは無縁の大人びたヘッドホンでしたが、Aeon 2もそれに近いです。

Aeon 2が下位モデルだからといって、わざとカジュアル向けに変な味付けをするのではなく、メーカーが目指すサウンドに統一感があるのは良いです。これならば将来的にAeon 2からEther 2にアップグレードしたり、Ether 2のオーナーがサブ機としてAeon 2を買っても十分納得できると思います。

Aeon 2とEther 2は性格がよく似ていますが、交互に聴き比べてみると相違点はやはり価格差に直結している箇所が多いようです。たとえばAeon 2の方が最低域から最高域までの帯域幅が若干狭い、最弱音から最大音までのダイナミックレンジが若干狭い、音場の空間展開が若干狭い、音質の解像感が若干甘い、といったわかりやすい要素ばかりです。それらのなにか一点が極端に劣っているというわけではないので、商品として上手くまとまっていて完成度が高いと思うわけです。

Aeon 2を聴いてからEther 2を聴いてみると、圧倒的な差を感じるのではなく、どちらも同じ傾向だけど、どちらか選ぶならEther 2の方が良いな、と思えるような感じです。ピアノソロだとそこまで優劣の差はつけにくいですが、フルオーケストラや合唱など、100人規模になってくると、Ether 2の方が余裕を持っていて聴き応えがあります。このあたりはスピーカーなどでも同じブランドの中級と上級シリーズの違いと似ています。


ここまではAeon 2開放型の話で、次に密閉型との違いについてですが、初代Aeonと比べると、開放・密閉の差が狭まったようです。

とくに、初代Aeonでは、開放型バージョンは出音がかなり奔放で、刺さったり響いたりこもったり、コントロールが足りないワイルドなヘッドホンでした。意図的な味付けというよりも、ドライバーを作ったままに、そのまま鳴らしている、といった野性味がありました。一方初代Aeonの密閉型バージョンは、ハウジング内で相当ダンピングしているようで、音がシャープで乾いていて、枠からはみ出さないようにカッチリと詰まっているようなサウンドでした。そんな初代Aeonでは、私の場合、結局どちらもクセが強いのなら、遮音性が高い密閉型の方が良いだろうと思いました。

Aeon 2も同じような傾向なのですが、言われなければどちらが開放型か密閉型なのかわからない程度になっています。開放型の方が若干響きの広がりが自然で、音色がちょっとしたリバーブに包まれているような雰囲気があり、密閉型の方はそこがもうちょっと地味で淡々としています。

初代Aeonと比べて、とくに開放型Aeon 2がかなりコントロールが増して安心できる仕上がりに改良されたので、今回はもし買うなら開放型の方を選びたくなります。

もちろん密閉型も悪くないのですが、音質面では飛び抜けたメリットが無いので、なんとなく「開放型に対して80%くらいのサウンド」といった印象を持ってしまいます。

遮音性優先なら密閉型を選ぶことになりますが、自宅の静かな環境でじっくり聴くなら、密閉型だとどうしてもサウンドが物足りなく「やっぱり開放型の方を買っておけばよかったかも」と脳裏に浮かんでしまいそうです。

もしかすると、上位モデルのEtherも初代は開放型と密閉型があったのに、Ether 2では今のところ開放型だけなのも、同様の理由なのかもしれません。つまり性格が両極端だった初代と比べて、Ether 2・Aeon 2ともに開放型の性能が向上したせいで、密閉型でそれに追従できるようなメリットを生み出すのは困難です。もちろん今後Ether 2の密閉型が出るかもしれませんが、少なくともAeon 2では私は開放型の方が好みです。

おわりに

MrSpeakersあらためDan Clark Audioは、Ether 2につづいて今回Aeon 2が第2世代へ移行しました。外観だけ見てもEther 2ほどの大きな変化はありませんが、サウンドの完成度が高まり、方向性もEther 2に近づいているようだと思いました。

とくに、初代Aeonでは密閉と開放型で極端に音質が違っていたのが、Aeon 2では随分近くなったので、試聴してもどちらを買うべきか決めるのが難しくなったと思います。私自身は音質面では開放型が良いと思いましたが、今回新たにヘッドバンドに折りたたみヒンジが採用されたこともあり、密閉型を選ぶメリットも大きいです。

MrSpeakersに限らず、平面駆動型でポータブルできるヘッドホンというと、これまで何度もガッカリさせられた経験があるのですが、Aeon 2は普段のリスニングにも十分通用する優秀なヘッドホンです。他社のハイエンドヘッドホン勢と比べても遜色ありません。

もちろん最終的には上位モデルのEther 2の方が欲しくなってしまいますが、二倍以上の価格差を考えると、Aeon 2は満足度と完成度のわりにずいぶんコストパフォーマンスが高いヘッドホンだと思えてしまいます。やはり最大の問題は、密閉型と開放型のどちらを買うかで悩むということでしょう。