Simphonio VR1という珍しいイヤホンを試聴する機会があったので、感想とかを書いておきます。
Simphonio VR1 |
独自の14.2mmセラミック振動板を搭載するダイナミック型イヤホンです。2020年に発売したモデルなので、最新というわけでもありませんし、普段はこういうニッチなメーカーは敬遠しているのですが、多方面で良い話を聞いていたので、いつか試聴してみたいと思っていました。
Simphonio
毎度のことながら、私は高級イヤホン市場にはそこまで興味が無く、ネット掲示板とかで盛り上がっているようなニッチな工房ブランドについても詳しくありません。
普段はショップや友人のツテで大手メーカーの店頭試聴機を聴く程度ですし、イベント会場などでちょっと聴いた程度で感想を書くのも申し訳ないです。また、こういうブランドはモデルチェンジが頻繁だったり、仕様変更があったり、いつまで手に入るかわからないので、感想ブログなんて読んでいる頃にはもう入手困難という心配もあります。その点前回のゼンハイザーなんかは大手だけあって数年後でもきっと容易に手に入るという安心感があります。
VR1 |
今回試聴してみたVR1というイヤホンも、リリース時の発表くらいは読んだかもしれませんが、最近まで存在すら忘れていました。現時点で日本で正規代理店があるのかすら不明です。シンプルなダイナミック型で、デザインもそこまで奇抜というわけでもないので、「どうせ外面がゴージャスなだけで中身は大したことないだろう」なんて思ってスルーしていたわけです。
そんなわけで、気にも留めていなかったVR1なのですが、ちょっと前に当ブログを読んでくださったクラシック愛好家の方から、クラシック好きならぜひVR1を聴くべきだというアドバイスを頂きまして、それ以来ずっと脳裏に残っていたものの、身近に試聴できるところもありませんでした。
数ヶ月経ってから、とある著名なオーディオレビュアーの方と合う機会があり、その時に彼が個人的に凄いと思っているイヤホンをいくつか持ってきてくれたのですが、奇遇にも、その中に件のVR1がありました。その場でちょっと聴かせてもらったところ、これはかなり特殊で奥が深いイヤホンだと感じたので、後日、数週間ほどVR1を貸してもらえるようお願いして、今回じっくり聴いてみる事になったわけです。
こういうのは普段ならとりあえず自腹で買って聴いてみるのですが、日本での代理店が見つからず、海外のオンラインショップを見ても、値段は相当高く、しかもショップごとの価格差が広すぎて(30~40万円くらい?)流石に購入する勇気も無かったので、今回偶然借りることができたのは嬉しいです。
こういうイヤホンを作っているメーカーです |
Simphonioは中国の中小メーカーで、イヤホンマニアにとっては、上の写真左にあるような古典的なイヤホン(いわゆるear buds)を作っている事で一目置かれているそうです。
1990年代まではイヤホンといえばこのスタイルしか無かったのですが、シリコンイヤピースを使うカナル型イヤホンが主流になってから、こういう耳穴の外に置くタイプのイヤホンは時代遅れとなり、一気に廃れてしまいました。
この手のイヤホンは遮音性という点では最悪で、昔のカセットウォークマンやMDプレーヤーとかの時代は、大音量で聴くとシャカシャカと凄い音漏れをするのが当然でした。シリコンイヤピースのように耳穴に合わせてサイズを変える事ができないのも難点です。
それでも根強いファンがいるようで、特に中国からは結構な高級モデルを作るメーカーが出ています。写真のSimphonio Dragon 2+というモデルは一見百均で売ってそうなくらいのチープな外見なのに、値段は約3万円、その上のDragon 3は5万円もするそうです。
そういえばオーテクもちょっと前に同様のコンセプトでCM2000Tiというイヤホンを出しましたが、少なくともあちらは高級そうなデザインでした。私も昨年MoondropのChaconneというモデルを紹介しましたが、それも似たようなコンセプトです。
とこかく、こういうイヤホンはサウンドのクセが強いので、今回あえてレビューはしませんが、そういうニッチなジャンルで活躍しているSimphonioというメーカーが近代的なIEMデザインのVR1イヤホンを作ったというのが面白いです。大口径ダイナミックドライバーを搭載しているというくらいしか共通点が思い浮かびません。
VR1
今回借りたVR1はグレーのシェルで、ショップを見るとゴールドも選べるようです。写真で見てもわかるとおり、スムーズな曲線や表面処理の質感など、実に綺麗に作られています。何十万円もする高級イヤホンともなれば他のメーカーもこれくらい美しい工作精度を目指してもらいたいです。
高級感が凄いです |
広報写真みたいな綺麗な写真が撮れました |
ハウジング本体はアルミで、内側と側面に通気孔があります。外側のオパール柄はステッカーではなく本物だそうです。それにしても写真映えする美しいフォルムです。
他社のイヤホンで金属製ハウジングを採用しているものを見ると、工作工程の制限から、円と直線のみの組み合わせのような(つまり人間の耳穴の複雑な形状にそぐわない)デザインになってしまいがちですが、VR1はプラスチックのIEMイヤホンと同じくらい複雑な曲線形状で作られているのが凄いです。
特に耳穴に触れる部分は個人的に昔から愛着があるUnique Melodyの形状とよく似ており、フィット感も同じくらい良好です。シリコンイヤピースをつけて耳に押し込むと、ハウジング側面が耳穴周辺のくぼみにピッタリと密着するのがわかり、極めて安定しています。
VR1の最大のセールスポイントは、14.2mmという大口径のセラミック振動板を搭載していることです。一般的なダイナミック型イヤホンは12mm以下が多いですし、しかもセラミック振動板というのはなかなかありません。
ダイナミックドライバーの振動板は「軽くて硬くて響かない」のが理想的なので、近頃のイヤホンでは、金属ならマグネシウムやベリリウム、それ以外ならプラスチックに金属やセラミックを蒸着させたものを使うメーカーが多いようです。そこからさらに一歩進んでセラミックで薄い振動板を作るというのはとても難しい技術だろうと思います。
最近は金属の表面にセラミックの薄膜をコーティングして耐摩耗性を高めるなどの技術が一般的になってきましたが、それと同様にCVDなどを使って薄膜を積層するとしても、振動板として使えるくらいの厚さにするには相当手間がかかりますから、大手メーカーの大量生産では困難でしょう。こういった技術を積極的に採用できるのが小規模メーカーの強みです。
2PINコネクター |
付属ケーブル |
ケーブルは一般的な2PINタイプです。ハウジングの2PINコネクター部分を見ても、丁寧に作られているのに関心します。本体の2ピン端子が剥き出しなのが強度的にちょっと不安になりますが、ここまで高価なイヤホンを手荒に扱う人はいないでしょう。
今回借りたものには布巻きツイストされている4.4mmバランスケーブルが付属していました。海外のショップサイトを見ると、これが純正ケーブル(CS10 銀合金ケーブル)だそうですが、ショップによっては付属していたり別売だったり(つまりケーブル無しで販売)など売り方がバラバラなので、このあたりもニッチな小規模メーカーをオンラインで買う場合の怖いところです。
インピーダンス
いつもどおりインピーダンス特性を測ってみました。参考までに同メーカーのイヤホン(Dragon 2+)と、先日試聴したゼンハイザーIE900も比べてみます。
インピーダンス |
位相 |
どれもダイナミック型なので、マルチBA型と比べるとインピーダンス特性はかなり落ち着いています。VR1の公式スペックは64Ωとの事でしたが、実測では42Ωくらいでした。
VR1のみ2kHz付近にちょっとした盛り上がりがあるのが特徴的です。ドライバーの共振点でしょうか。どのみちこれくらい高インピーダンスで安定していればアンプへの影響は少ないでしょう。
音質とか
今回の試聴では、普段どおりHiby RS6 DAPやiFi Audio micro iDSD Signatureを使って、4.4mmバランス接続で聴いてみました。
イヤピースは今回借りたものに付属していなかったので、普段から使っているAzlaのCrystalを使いました。
Hiby RS6 |
MyriosレーベルからRoth指揮ケルンのブルックナー7番を聴いてみました。すでに巨匠の名演が山ほどある演目なので、わざわざ新譜を買い足すまでもないのですが、今作の演奏はロトらしい精密さで機械仕掛けのようにカッチリしていながら、余計な小細工をせずに全体像を見渡すような解釈が好印象です。
VR1はクラシックが得意なイヤホンということらしいので、あえて「ハイレゾのブルックナー」という、明らかに鳴らしにくそうな作品を選んでみたわけですが、いざ聴いてみると、第一印象からして確かにそう言われる理由が実感できます。
VR1のサウンドの特徴は、端的に言うとスムーズで重厚、ゆったりと奥行きのある鳴り方です。音場の距離感は比較的遠く、前方に広く展開しているため、空間全体の雰囲気を描くのが得意です。
部品が組み上がったままに自由奔放に鳴っている、というよりは、ハウジング内部の音響設計など入念な微調整を繰り返す事で、不快感や角が立って飛び出すような部分を徹底的に対策した、かなり手の込んだチューニングを行ったように感じます。人によっては、ちょっと手が込みすぎて、若干ふわふわ、ぼやけたサウンドだと感じるかもしれません。
耳元に音が飛び交うような、ギラギラした解像感や、特定の音色に艶っぽい輝きを加えるようなスタイルではなく、大規模な演奏の全体像を余すこと無く演じきるという点において非常に優れています。
さらに、VR1の鳴り方が他のイヤホンと比べて特別ユニークだと思えた点があり、それはダイナミクスの抑揚が音量の強弱ではなく、むしろ音のレイヤーの厚みによる迫力のような形で表現してくれる事です。特にブルックナー交響曲にて弦セクションが小音量から大音量にせり上がって来るような場面では、他のイヤホンなら、ただ音量が大きくなるだけなので、頻繁にボリュームを調整しないといけなかったりするのですが、VR1では音の厚い層が奥から手前へと徐々に重なり合っていくような感覚があります。つまり、音量はそこまで大きくなっていく感じはしないのに、押し寄せる物量によって凄みを出せているような、不思議な迫力です。
また、他にも空間描写が得意なイヤホン・ヘッドホンはいくつか思い浮かぶものの、それらは一般的には線が細く軽い音色である事が多いのに対して、VR1はむしろ逆に、中低域がしっかり出ていて、低音が重なりあった時の厚みの出し方、つまり立体的な表現が上手だという点が極めて珍しいです。
個人的に聴き慣れているイヤホンというと、たとえばモニター的に全ての要素を俯瞰で細かく観察できるスタイルか、それとも濃厚な音色の美しさを強調するスタイルという、どちらか二択だったので、そこへ来てVR1は、これまでのイヤホンではなかなか体感したことがない、第三のスタイルだと思います。ブルックナーにありがちな弦のトレモロのざわめきも、ホルンの咆哮も、分析的でも美音系でもなく、観客席にいる自分に向かってステージ上から音の波が迫りくるような勢いがあります。この鳴り方の魅力に気づいてしまうと、他に似たようなサウンドのイヤホン候補が思い浮かばないため、VR1は唯一無二の存在になりそうです。
HyperionレーベルからNicky Spenceの歌とJulius Drakeのピアノ伴奏によるヴォーン・ウィリアムズ歌曲集を聴いてみました。ピアノのみでなく、冒頭はヴィオラ独奏、終盤は弦楽四重奏も加えた歌曲作品になっているので、全編通して飽きません。
Hyperionなので録音品質が素晴らしいのは当然ですが、Spenceのテノールとしてはかなり重みのある歌声と、Drakeの神秘的なピアノの組み合わせは絶妙で、フランスやドイツとも一味違ったイギリス歌曲とはこう歌うべきだという説得力があります。
VR1はクラシックが得意というのは、大編成の交響曲だけではなく、今作のように歌手とピアノ伴奏だけのシンプルな歌曲集でも威力を発揮してくれました。
まずメインの歌手の方ですが、やはり人間の耳というのは人間の声に対して敏感に作られていて、ちょっとでも不自然な点があればすぐに気がついてしまうものです。その点VR1は歌手の音域範囲全体が一つの音源として違和感無くまとまっており、発声はクリアで、男性の声の力強さや迫力をしっかりと出しながら、滑舌の尖りがは耳を刺激せず、上品な仕上がりです。
ピアノも同様に、前方にある音像を客観的に鑑賞しているという感覚で、楽器とその周辺の響き全体に統一感があります。ダイナミック型によくありがちな、低音はハウジング、高音はドライバー振動板といったような帯域別のクセが感じられず、とても自然です。
先程の交響曲でも体感したように、VR1は前後の厚みの出し方が上手なので、ピアノが一番遠くで艷やかに演奏しており、その前に歌手が居て、双方の音像の位置関係が崩れることなく、それぞれ大音量の場面では、その音像からこちらに向かって音が迫ってくるような聴こえ方です。
ここまでクラシックを聴いてきて、VR1の表現力に関心したわけですが、では他のジャンルはどうかと試してみたところ、結構アタリハズレがあり、なかなか万能とは言い難いです。
相性が良いジャンルとしては、たとえばメインの歌手を丁寧に録っているような作品であれば、女性でも男性でも、刺激やこもりなどの不快感無く、丁寧に描いてくれると思います。
しかし、たとえば歌手の帯域を絞ってバッサリと切り貼りしているような一般的なポップス手法だと、VR1では失われた倍音などの不足した帯域を補ってくれないため、あまりうまく行きません。それならJVCのウッド系とかを使うべきです。ポップスをメインで聴いている人にVR1を聴かせてみても、決して悪くないものの、「スムーズでソフトなサウンドだね」という程度の好印象で終わってしまい、それ以上の魅力は引き出せません。
打ち込みのEDMを聴いてみると、VR1の周波数特性はカマボコ型すぎて派手さがありません。超高音も重低音も、意識して聴けば出ていないわけではないのですが、やはりマイルドな厚み重視の特徴が目立ってしまい、くっきりとしたリズムのメリハリを引き出せません。こういうのは、もっとアグレッシブなドンシャリチューニングが欲しいので、VR1は相性が悪いです。
生楽器ということでジャズも相性が良いかと思ったところ、こちらも打ち込みと同じ問題を感じるので、やはりジャズの根底はダンスミュージックで、ドラムとベースが肝心なのだと実感します。VR1では軽快に小気味よくスウィングするといった雰囲気が出せず、中域のサックスのソロとかがかなり厚く堂々と鳴るため、まるでスムーズなラウンジジャズみたいな雰囲気になってしまいます。それはそれで悪くはないかもしれませんが、私がジャズに求めているスリルがありません。ようするにVR1はスピーカーに例えるなら、タンノイであって、JBLにはなれない、というような感じでしょうか。
このタンノイの例のように、私の感覚としては、VR1は生楽器のライブ感というよりは、むしろ上手にセットアップされた落ち着いた家庭用大型フロアスピーカーの鳴り方に近いように思います。特に中低音が豊かであっても膨れず濁らず、厚さと奥行きが出ているあたりは、大きめのリビングルームで3~4m程度の間隔で調整された、大きなキャビネットを持ったスピーカーを連想します。
では、そもそもフロアスピーカーでの音楽鑑賞は生演奏とは違うのか、という話になると、そこは録音制作側の意図が絡んでくるわけで、ライブの体験をそのまま作品として再現しようとする場合もあれば、録音技術を駆使してライブを超えるような音楽体験を作り込むような作品もあります。そういった要素を含めて、VR1はドライなスタジオ録音にライブっぽい響きを加えてくれるわけではなく、あくまでスピーカー越しの音楽体験に近いと感じたわけです。
つまり優れたフロアスピーカーでの音楽鑑賞に慣れている人なら、このVR1くらいの広がりが丁度よいと感じるのですが、イヤホンに特化した人だと、もっとシャープで派手な方が好ましいと思うかもしれません。
AK SP1000 |
今回の試聴では、Hiby RS6を使ってVR1を鳴らしていて、その凄さに関心したのですが、ちょっと考えてみると、VR1の凄いところは交響曲などの圧倒的なスケール感であって、私自身がこれまでスケール感が一番凄いと思ったDAPはAK SP1000 SSなので、それでVR1を鳴らすとどうなるのか気になってテストしてみました。
結果はまさに期待どおりに素晴らしい組み合わせです。RS6で聴くよりも繊細さが増し、オーケストラの脇役も分け隔てなくしっかり表現してくれて、空間が一気に広がります。先程のスピーカーの例に戻ると、まるでタンノイとエソテリックの組み合わせのように、VR1とSP1000も双方の長所が引き立ち、上手くバランスがとれるようです。
Hiby RS6の方は、独自のFPGA式D/A変換のせいか、近ごろのDAPの中でも音が太めでゆったりした鳴り方なので、同じくゆったりしたVR1との組み合わせでは、ちょっとコッテリしすぎたのかもしれません。レガートが強調されて、良い意味でも悪い意味でも、まるですべての演奏がカラヤンっぽく仕上がってしまうため、好みが分かれると思います。その点SP1000で聴いた方が録音に含まれる音響を細部まで描いてくれるため、とくに優れたハイレゾ音源とかのメリットが引き出せます。そこまでではない音源ではむしろRS6の方が楽しめます。
iFi Audio micro iDSD Signatureを使ってみたところ、VR1はインピーダンスが高めで感度もそこまで高くないので、IEMatchやEcoモードを使わずに済むのが嬉しいです。(それらはNormalモードと比べて音痩せするように感じるので)。SP1000と比べると、micro iDSD Signatureの方が中高域がカッチリと出てくれるので、たとえばピアノとかのライブ感は増します。しかし鳴り方がダイレクトすぎて、VR1特有の厚みのある音場が活かしきれていないような感じがするので、その点においてはSP1000との相性が一番良かったです。逆に言うと、VR1をもうちょっと硬く鳴らしたい場合はmicro iDSD Signatureを使うほうが良さそうです。
ケーブル交換 |
ここまで付属ケーブルを使っていたので、ケーブルによる影響はどの程度あるのか確認するために、社外品ケーブルに交換してみました。
色々と試してみた結果、VR1らしいサウンドを引き出すには付属ケーブルを使うのが一番良いという結論に至りました。他社の高級ケーブルと比べて付属ケーブルが安っぽいとか限界が低いというような感じはしません。
付属ケーブルは銀合金製と書いてあったので、Effect Audioの同じく銀合金タイプを試してみたところ、確かにサウンドの印象は変わるのですが、個人的に良い変化だとは思えませんでした。
低音や高音のレンジや雰囲気はあまり変わらないのに、なぜか中域の特定の帯域だけきっちりとしたドライなモニター調の鳴り方になってしまい、解像感は確かに良くなっているのだと思いますが、それ以外の帯域との整合性が悪くなり、VR1特有の雰囲気が崩れてしまいます。付属ケーブルに戻すと、この帯域が元に戻り全体のバランスが保たれるので、やはり何かしら不具合でも無い限り、むやみにケーブルを変えるものではないということです。
つまりVR1はケーブルやアンプとの組み合わせによる影響がかなり敏感に現れるようです。VR1の特性自体は素直なので、相性についてもランダムではなく経験をもとに予想することができます。
アダプターは嫌なのでケーブル交換 |
たとえば、今回VR1とSP1000の相性が良かったのですが、SP1000は2.5mmでVR1付属ケーブルは4.4mmなので、変換アダプターを通して使ってみたところ、ddHiFiやPW Audioなどのアダプターを変える事でも音が若干変わってしまうようで、さらに悩まされました。
だからといって、手元にあった別のEffect Audioの2.5mm端子のケーブルに交換して聴いてみると、今度はそちらのケーブルの個性が強く出過ぎてしまい、上手くいきません。
他のイヤホンではケーブルに関して普段そこまで気にしないのに、今回VR1がやたらケーブルやアンプとの相性による影響が顕著だったので、色々と試せば試すほど、ますます気になってしまいます。もし私がVR1を購入したとしても、そこからアンプやケーブルの試行錯誤の沼にはまってしまいそうで、そういった意味でも、ハイエンドらしく、マニアにとっては危険なイヤホンだと思います。
おわりに
Simphonio VR1は確かに多くの人に言われたように凄いイヤホンです。特に私みたいなクラシックファンにとっては特別な存在だと思います。こういうサウンドのイヤホンは他に思い浮かびません。決して汎用性が高いとは思いませんが、イヤホン音響設計における新たな可能性を垣間見たような傑作です。
凄いイヤホンです |
今回VR1を借りて使ってみて、個人的にとても気に入ったので、思い切って購入しようかとも考えたのですが、さすがに高価すぎてなかなか手が出せません。天然オパールとかはいらないので、もうちょっと安くならないか、とも思うのですが、こういう職人系中小メーカーの場合、同様の技術を量産向けにアレンジした廉価版とかを出すと、必ずと言っていいほど音が変わって特別感が失われてしまいがちです。
また、かなり個性の強いイヤホンですので、全然趣味に合わないという人も多いと思います。とりわけポップスや打ち込み系を主に聴く人にはあまりオススメできません。しかもアンプなど上流機器との相性も、他のイヤホンと比べて敏感なようなので、組み合わせによっては上手くいかないかもしれません。そんなところも、こういうニッチなイヤホンにありがちな難点です。
それにしても、昨今のハイエンドイヤホン業界は奥が深いです。今回VR1のことを知ったのも、たまたま私がクラシックが好きだからで、それまではクラシックファンの間で密かに支持されている事すら知りませんでした。
つまり他のジャンルでも同じくらい推奨されるイヤホンが存在していても、縁がないと知るよしもありません。(もしカントリー音楽に向いているイヤホンはと聞かれても、さっぱりわかりません)。
レビュー雑誌なども、たまにはコアな音楽ジャンルのマニアが推奨するモデルとかも調査してもらいたいですし、メーカーも売れ筋のポップスに向けてサウンドをチューニングするのは当然とはいえ、たまにはニッチなジャンルに特化した、クリエイターの趣味全開のモデルを作ってもらいたいです。その方が意外な傑作が生まれそうです。