Quloos MUB5を試聴してみたので感想を書いておきます。最近流行りの自社製ディスクリートR2R D/A変換を採用しているポータブルDACアンプで、2025年9月にUS$1,300で登場しました。
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| Quloos MUB5 |
少し前にMUB1というコンパクトなモデルを試聴して気に入ったので、今回その上位機種のMUB5がどれくらい進化しているのか興味があります。
Quloos
Quloosは日本では並行輸入のみで正式に流通していないようなのですが、中華系ブランドの中ではそこそこ知名度があるらしく、私の身の回りのマニア界隈でも今作MUB5を別々に二人が購入しており、ぜひ聴いてみろということで私に貸してくれました。
| 真面目さが伝わってくるホームページ |
Quloosというのは深セン乾龍盛電子というメーカーの読みから命名しているようで、QLS Audioという別名もあるようです。英語公式ホームページはレイアウトから製品画像まで20年前にタイムスリップしたような懐かしい感覚に浸ることができます。他の中華系メーカーの令和最新版みたいなギラギラした稲妻が飛び交う広報CG画像と比べると、なんだかこちらの方が「古き良きオーディオメーカー」といった安心感が持てます。
| 以前試聴したMUB1 |
少し前にMUB1という安価なポータブルDACアンプを試聴しましたが、他にもQA390据え置きアンプやQA361 DAPなど、デザインやUIは地味ながら音質への熱いこだわりが伝わってくるメーカーという印象です。
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| いわゆるポータブルDACアンプです |
今回試聴したMUB5は定番ポータブルDACアンプらしいスペックとサイズ感で、USBやS/PDIF以外にも最近のモデルらしくBluetoothでも接続できます。ところで、ジャンルの先駆者iFi Audio micro iDSDやChord Hugoが出たのが2014年なので、この手のフォームファクターも十年以上の歴史があるというのは感慨深いです。
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| 別カラー |
冒頭で身近に二人の友人が購入したと言いましたが、奇遇にもそれぞれ別の色を選んでいたので、両方の写真を撮ることができました。グレーのシャーシがメインで、右側面のみ銅のような赤っぽい配色が選べます。
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| 付属レザーケース |
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| 裏面 |
どちらの色を選んでも派手な青色のレザーケースが付属しています。背面のメタルグリルや側面を折り込む形状などは最近のトレンドに沿っています。
レザーケースの窓で気がついたと思いますが、前面のガラスはまるでフルスクリーンDAPのように見えて、液晶画面は上の小さな部分のみです。
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| AK SP3000と比較 |
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| Questyle Sigma Proと比較 |
DAPっぽい見た目だけあって、サイズ的にはAK SP3000 DAPと同じくらいです。ポータブルDACアンプで比較すると、先日私が購入したQuestyle Sigma Proの方がフロントバンパーやボリュームノブ分だけ若干大きいくらいです。
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| ボリュームノブ |
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| 側面のボタンと謎のメッセージ |
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| 出力端子 |
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| 入力端子 |
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| 太いケーブルは入りません |
どうしてもDAPに見えてしまうのはなぜなのかと考えてみたところ、側面にトランスポートボタンがあるせいです。Bluetoothだけでなく、USB DACとして使う場合でも、対応しているスマホなどであればプレーヤーアプリと連動して操作することができます。
ボリュームノブはシャーシに綺麗に収まっているため誤動作やぶつけて壊す心配もなく、隣に3.5mmと4.4mmヘッドホン出力があります。この上面だけ見てもデザインと製造品質の高さが伝わってくると思います。異なる素材の質感やネジを見せない嵌め合わせ、そしてボリュームノブと反対側の角にも同じ斜めのファセットを入れることで光のコントラストを演出するなど、かなり良くできていると思います。なんとなく昔のAK240とかを思い出します。
下面には同軸と光S/PDIF、USB Cはオーディオと充電用に分けてあり、さらに別途12VDC電源ジャックもあります。
同軸S/PDIF端子のみ外枠が狭いため、取っ手が太いRCAケーブルは入らないので要注意です。光入力は3.5mmでアナログライン入力も兼用です。
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| ホーム画面 |
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| 各種モード設定 |
ボリューム以外の設定はタッチスクリーンで行うのですが、これが慣れるまでだいぶ使いづらく、個人的にあまり好きではありません。
まずホーム画面では各種設定の現在値がアイコンで一覧表示されており、画面中央下にある丸いアイコンをタッチすることで設定画面に移行することができます。それ以外の部分をタッチしても無反応なので、知らないと戸惑います。誤動作防止としては良いアイデアかもしれません。
設定画面に入ったら、左右ボタンでページを巡回して任意のモードボタンを押して切り替えるという感じです。設定画面のタイムアウトですぐホーム画面に戻ってしまうため、たとえばデジタルフィルターM1とM2を交互に聴き比べたい時など、いちいち画面中央下を押して設定ページを巡回してというステップを踏むのが面倒です。どちらにせよ、そこまで頻繁に触るものではないので実用上は問題ありません。
フィルター設定以外では、アンプのゲイン、入出力切り替え、画面の回転やボリュームノブの方向などの実用的な設定項目があります。こういうのを使い慣れている人なら戸惑うこともなさそうです。
| 中国語版サイトの方が充実しています |
肝心のオーディオ回路については、簡素な箇条書きの英語版サイトではなくて本家中国語版サイトの方が情報が充実しています。
上の写真にもあるように、MUB5の特徴としてまずディスクリートR-2R D/A変換回路が紹介されています。それ自体は中華系メーカーの中ではもはや一般的になっていますが、MUB5では24bitを19+5というセグメント化とバイアス付加でR-2Rの弱点であるゼロクロス歪みに対策していることをユニークな試みとして取り上げています。
D/A変換モードはM1とM2の二種類が用意されており、M1はネイティブフォーマットなのに対してM2ではオーバーサンプリングしてからR-2Rに送られるようです。DXD×2と書いてあるので705.6/768 kHzでしょうか。
さらにR-2R用の抵抗は0.01%級で温度係数10ppmという高品質なものを選定しており、LTC6655高精度電圧レファレンスや独自のカスタムクロックを採用するなど、中身にこだわっている事をアピールしています。
それだけで音が良い保証にはなりませんが、データシートの参考回路をコピペしただけの安直なメーカーが多い中で、Quloosは設計と実装の両方でしっかり熟考していることが伝わってきます。
ボリュームはデジタル制御アナログ抵抗ボリュームICを採用しており、120ステップで調整可能です。最近はこういった抵抗ボリュームICが広く普及してきたのは嬉しいです。一昔前は玄人気質のメーカーほど古臭いアナログポットに固執する傾向がありましたが、ステレオクロストークや小音量時のギャングエラーなどポット特有の問題を踏まえると抵抗ボリュームICの方が明らかに有利です。
肝心のヘッドホンアンプ回路はバイポーラトランジスタのディスクリート構成のようですが、DACからの受け渡しにOPA627を採用しているという気合の入れようです。最近ではあまり耳にしなくなりましたが、OPA627というとポタアンDIYでオペアンプ交換が流行ってい他時代には花形の存在でした。そういったあたりも古参マニアの注目を集めそうです。
私の勝手な感想ですが、OPA627というのはJFET受けですし、普通のNE5534とかを挿し替えても個性が強すぎてアンプ全体が「OPA627っぽい音」になってしまうため、高価だからといって既存のオペアンプを交換するためにそこまで積極的に使いたくない部類です。どちらかというと周辺回路も含めてここぞというポイントで設計に組み込むことで活かせるタイプなので、今回MUB5のような用途こそ正しい使い方だと思います。
ちなみにシステムファームウェアについては公式ダウンロードページではV2.6H1やV3.3N7A、V3.3N7Eといった異なるファームウェアヴァージョンが用意されており、いくつかバグ修正や機能更新が導入されているのですが、友人からの借り物なので勝手にアップデートするのも悪いですし、それぞれ音質が結構変わるという意見もあるため、今回はデフォルトV1.02C2のままで使いました。
出力
USB接続で0dBFS 1kHzサイン波を再生しながら負荷を与えて歪みはじめる最大出力電圧を測ってみました。
MUB5の出力測定について事前に注意点があります。最大出力を測るためには波形が歪みはじめるまでボリュームを上げていく必要があるわけですが、電流限界に差し掛かるあたりでMUB5本体の電源が落ちる設計になっているようです。
友人からの借り物なので、急に電源が落ちてヒヤヒヤしました。ちょっと待ってから電源を入れ直せば無事復帰するのですが心臓に悪いです。
赤がバランス、青がシングルエンド接続で、それぞれ三段階のゲイン設定が選べます。薄色の線はライン出力で、しっかり高インピーダンスのライン信号なのが確認できます。
公式スペックによるとバッテリー駆動では最大1.5W、12V電源を接続することで2.5Wまでパワーアップできるそうです。
上のグラフで破線が12V電源モードです。バランス接続のハイゲインモードでのみ60Ω以下くらいから出力がブーストされて、公式の2.5Wを超えて3W近くまで発揮しています。ハイゲイン以外ではバッテリー駆動と全く同じ数値になったので効果は無いようです。シングルエンド接続ではハイゲインモードでもブーストされていないようです。
実際のところ、バッテリー駆動でも2W以上出せているので、12V電源がどうしても必要という場面は稀だと思います。個人的には鳴らしにくい大型ヘッドホンこそシングルエンドケーブルが多いので、むしろそちらがパワーアップしてくれたほうが良かったです。
同じ1kHz波形で無負荷時1Vppにボリュームを下げて負荷を与えていったグラフです。破線の12V電源モードでも出力特性は変わらないようです。バランス接続の最大ゲインモードのみで似たようなポータブルDACアンプと比較してみました。とくに低インピーダンス領域ではMUB5のパワフルさが目立ちますし、MUB1と比べても大幅にパワーアップしています。
ドングルDACの一例としてiBasso DC07PROも掲載しましたが、USBバスパワー電源供給の上限がこれくらいなので、それ以上パワフルなアンプが欲しければバッテリー搭載は必須のようです。私自身はQuestyle Sigma Proの音が好きなのですが、グラフを見るとだいぶ非力なので、必ずしもパワフルなモデルを選べばよいというわけでもなさそうです。
音質
いつもどおりMadoo Typ821やゼンハイザーIE900など普段から使い慣れているイヤホンで聴いてみました。
MUB5はさすがマニアに人気のモデルだけあって、感度の高いIEMイヤホンでもアンプのノイズが気になるような事もなく安心して使えます。
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| Madoo Typ821 |
まず第一印象から・・・というかMUB5は第一印象のインパクトが強すぎて、他社のポタアンとは明らかに違う個性が感じられます。
簡単に言うと、広帯域ながら中域が極めて濃く厚いサウンドなのですが、それだけでは言い表せないマッタリ感というか、甘く粘り付くような質感があります。立ち上がりが遅いとか見通しが悪いといった悪い印象ではなく、むしろ意図的にそのように仕上げているようです。
私はこういった明確な音作りの意図が感じられるオーディオメーカーが好きです。音楽ジャンルとの相性もあるので全員が共感できるかは別として、単純に高性能パーツを組み合わせただけではこのような特別な音にはなりません。新興メーカーの多くは見かけ上のスペックは良好でも、コメントすら思いつかない凡庸なサウンドのモデルが多い中で、MUB5はひときわ輝いており、古参マニアに人気な理由がなんとなく理解できます。
測定スペックが破綻しない程度の正確さを担保しながら、ギリギリのところで独自の世界観を作り上げるのは、まさにオーディオの醍醐味といった感じで、これが実現できるメーカーは多くありません。
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近頃はどのレーベルも96kHz/24bitが標準かと思いきや、ワーナーのリマスターなど未だに44.1kHz/16bitで提供されているアルバムも残っています。
最近出たワーナーのカラヤン全集から1977年EMIサロメなんかも44.1kHz/16bitなので、既存CD音源の使いまわしかと思ったらサウンドが全く違うので驚かされました。しかも旧CD盤よりもだいぶ音質が良くなっており、歌手とオケ演奏の完成度の高さと合わせて個人的な決定版になっています(同世代でエレクトラをやっていないのが惜しまれます)。
ハイレゾPCMと比べて44.1kHz/16bitは音が悪いというわけではありませんが、アップスケーリングやデジタルフィルターによって聴こえ方がそこそこ変わるということは、補完すべき欠落部分があることを示しています。
そんなわけで、私の場合、心理的にハイレゾPCMよりも44.1kHz音源を聴く時の方がどのDACで鳴らすべきか迷ってしまいます。JVC K2やAKのDARといった独自のアップスケーリング処理や、最近多くのメーカーが導入している真空管プリなどが効果を発揮してくれるわけですが、MUB5はそれらとは一味違う、古き良きオーディオ的な魅力を感じます。
フィルター設定のM1とM2については、個人的にはM1の方が好みに合う感じがします。このオペラ音源だとM2ではちょっとザラザラするというか、余計なノイズ成分が目立ってしまい音楽に集中しづらくなります。微々たる差なので、なんとなく今回はこっちの方が良いかなという程度で切り替えるのがよいです。
ちなみにBluetooth接続も音が良いということで試してみたところ、LDAC・AACともに良い感じですが、USB接続とは多少印象が変わるので、今回の試聴ではUSB接続に専念しました。BluetoothだとフィルターM2の方向性に傾いて、輪郭のエッジやアタックの主張が強くなる感じです。サンプルレート変換のせいでしょうか。屋外など騒音下で使うならBluetoothの方が良いかもしれません。
あらためてUSB接続に戻して聴いてみると、MUB5は歌手の輪郭を強調して実在感を高め、オケの背景から浮き上がらせる効果があり、聴くべきポイントを再構築してくれます。
音色の良いオーディオというと、もっと高音がキラキラ艶っぽいサウンドでありがちですし、ピアノやヴァイオリンのソロとかならそれでも良いのですが、シュトラウスオペラのように複数の歌手が同時進行で入り乱れている楽曲ではアンバランスでうるさくなってしまいます。一方MUB5はサロメのソプラノからヨカナーンのバリトンまで声の帯域をしっかりカバーできているため、スリルや緊迫感といったドラマチックなストーリー展開を描くのが上手く、イヤホンの足を引っ張っている感じもありません。
せっかく高価な高解像イヤホンを買ったのに、古い音源を聴くとシビアすぎて素直に音楽に入り込めないと感じている人は、MUB5を使うことでイヤホンのポテンシャルを損なうことなく歌手や楽器の音色を引き立て、音楽の進行に没頭できるようになります。
自作アンプを作ったことがある人ならわかると思いますが、オペアンプやコンデンサーなど部品を変えることで、たとえばヴァイオリンの金属弦の美しさなど特定の要素をピンポイントで強調するのは難しくありませんが、それを音楽全体で実現しようとなると気が遠くなる作業ですし、安易に高価な部品を詰め込むだけでは喧嘩して濁ってしまいがちです。このあたりの追い込みのセンスがオーディオ機器メーカーに求められるものです。
DACとアンプを別々で購入する場合は、その組み合わせのセンスはユーザー任せになりますが、MUB5のようなDACアンプ複合機であれば入口から出口まで一貫して設計できるため、メーカーとしてもやりがいがあることがMUB5から伝わってきます。
特にR-2R DACはアナログドメインでのローパスフィルターが重要になるわけですが、MUB5は後続プリをしっかりと作り込むことでR-2R DACらしい魅力を引き出せていると思います。OPA627が効いているのでしょうか。サロメの音源に話を戻すと、シュトラウスならではのオーケストレーションの厚さ、しかもカラヤンとウィーンフィルという最高の組み合わせを鮮やかに描きながら、当時のアナログ録音の限界の狭さを意識させないように少し脚色を加えて仕上げてくれます。
これが逆にMUB5の弱点にもなっており、たとえば最先端DXDオーケストラ録音などの場合、高音の空気感や低音のホール音響の立体感といった音楽を超えた広帯域の情報を活かすサウンド設計が求められ、その点ではMUB5は音楽の質感を前に持ってくる感じが強すぎて、一歩退いた奥行きや空間の余裕を演出するのはあまり得意ではありません。入力データがなんであれ、R-2R DACやアナログアンプ回路の特徴が強いため、どれを聴いてもMUB5っぽいサウンドになるようです。
DSD音源に関しても、ノイズやグリッチが発生するといった不具合はないものの、やはりMUB5っぽさの方が強すぎて、そちらに意識が集中してしまう感じです。良い意味でデータフォーマットの差を気にせず楽しめるので、古い音源も積極的に聴きたい人に向いています。
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ギターのGoodrickはECM初期のサイドマンとしてしか知らなかったので懐かしいなと思ったら、残念ながら2022年に亡くなっており、今作は1988年の未発表セッションだそうです。当時同じく駆け出しだったピアノのHerschとの純粋なデュオセッションで、まさにECMのジャケットから想像するような親密な対話が楽しめます。今では大御所となったHerschがOKを出すくらいですから内容は一級品で、このまま埋もれることなく今になってリリースしてくれたのは嬉しいです。
先ほどの大迫力なオペラとはうって変わって、今作のようにシンプルなデュオ演奏もMUB5の得意とするところです。オーケストラの厚い音の渦の中から歌手を浮かび上がらせるのと同じように、ギターとピアノそれぞれ個性的な音色を描き分けながら、全体を統一する空気感を作り出すことで、二人が同じ空間に存在する居心地の良さを生み出してくれます。
とくに二曲目「Falling Grace」や七曲目「Soul Eyes」など綺麗な旋律を奏でる曲では、ピアノとギターどちらも丸く温厚なトーンが混同されてしまいがちなところ、MUB5はそれぞれの自然な質感を上手く表現してくれて、しばし別々の方向に離れたり密接に交錯したりといった展開を存分に楽しめます。
MUB5は今作のように主役が明確に存在するタイプの楽曲に向いているので、ここにドラムやベースなどバンドメンバーが増えると、もうちょっとクリアにアンサンブル全体のバランスを活かすようなタイプのサウンド、たとえばQuestyle Sigma Proとかの方が向いていそうです。
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| DCA Aeon Core |
続いてヘッドホンの例としてDan Clark Audioの新作Aeon Coreを使ってみたところ、MUB5が非常にパワフルなおかげか、下手な据え置きアンプを使うよりも良い音で鳴ってくれます。色々と試してみると、他にもFostex T60RPやAbyssなど平面駆動型ヘッドホンとの相性が良いようです。
平面駆動型の特徴というと繊細で広帯域な素直さが挙げられますが、その反面ダイナミック型ヘッドホンと比べて主役を意図的に引き立てるのが苦手です。つまりMUB5とは正反対の性格なので、その二つを組み合わせることでバランスの取れた相乗効果が得られるわけです。
クロスフィードほどではないにしろ、左右に広く発散しがちなサウンドをMUB5が統一感のある音像としてまとめてくれて、とくにエレキギターでは、スタジオで作り込まれたハイファイサウンドというよりも、ギターアンプのスピーカーからの音を直接聴いているような勢いの良さを体感できます。
アンプの駆動力に十分な余裕があるおかげかヘッドホンを鳴らしても低音のタイミングが正確で、中高域に遅れを取ることもありません。R-2R DACらしい骨太なサウンドが重苦しくならないスピード感がありリズムのフィールも絶妙に良いです。
こちらも先程のIEMイヤホンの例と同じように、高解像ヘッドホンを所有している人が、メインの真面目なシステムとは一味違う感性重視の体験を求める使い方に向いています。とりあえずMUB5を買っておけば何でもできるという感じではなく、他に色々なシステムを熟知している人が、普段用にこれくらいの音色がちょうどよいと納得して導入するような感じです。
今回MUB5を聴いてきて、なんだか懐かしい感覚が脳裏に浮かんだのですが、その理由を考えてみると、なんとなく往年のハイエンドCDプレーヤーと似ている気がします。
CDプレーヤーの頃はまだIEMイヤホンを使っていなかったせいでしょうか、大型ヘッドホンで聴くことで懐かしい記憶が一気に蘇ってきました。90年代末期のDENONとかエソTEACなどのCDプレーヤーにヘッドホンアンプを接続してAKGやベイヤーのヘッドホンを聴いていた、あの頃の感じです。
当時はヘッドホンアンプの選択肢も少なく、自作アンプをあれこれ改造して鳴り方の変化を楽しんでおり、まだUSB DACやハイレゾオーディオも無かったので、CDからどれだけ良い音を引き出すかが最大の課題でした。現在のようにハイレゾデータをどれだけ純度を下げずに届けるかという消極的な考え方ではなく、CDの限界を超える凄いサウンドをどうやって引き出すかという積極的な創造力があったような気がします。
その頃のシステムは現在と比べるとだいぶ個性が強く限界が低く感じるかもしれませんが、メーカーごとにD/A変換やアナログ回路の工夫に一家言あり、自分の好みにピタッとはまる特別なサウンドが見つけやすかったようにも思います。
MUB5はまさしくそんな時代を思い出させてくれます。R-2R DACやOPA627オペアンプなど、どれかひとつの要素が決定づけているのではなく、全体的にそのような設計思想が根底にあるのでしょう。とくにギターの温厚な丸みとこちらに向かって飛び出してくる勢いは、まさに高級CDオーディオっぽさがあり、最近多くのオーディオ機器が超ハイレゾ対応によって失ってしまったなにかがMUB5にはまだ残っているようです。
おわりに
私の周りのポータブルオーディオマニア界隈でQuloos MUB5が人気な理由がわかります。ハイスペックなわりに退屈な製品が多い中で、MUB5は独自のサウンドを生み出し異彩を放っています。
気に入ったら他では代用が効かないサウンドですし、一度聴いただけでも印象に残るので、忘れられずに購入する人が多そうです。私も後で買いたくならないよう用心しないといけません。
とりわけ音源の品質にそこまでこだわらずに往年の名盤などを最高の環境で聴きたい人、優れたイヤホンやヘッドホンをすでに所有しており、有名どころのDAPやアンプはひととおり経験した上で、さらなる高みを目指したいと思っている人はMUB5を気に入ると思います。
逆にもっと幅広く対応できる無難なモデルを求めているのならMUB5ではなく他のモデルの方が良いと思いますし、その点では下位モデルMUB1は上手くできています。MUB1からのアップグレードとしても、機能性やスペック以上に音質に明らかな差が感じられると思います。
もうひとつ有意義な使用例として、MUB5を購入した友人の一人は、iPhoneからのBluetooth接続で一番音が良かったからMUB5を選んだそうです。誰もがUSB OTG接続で完璧な再生環境を目指しているとは限らず、ハイエンドな機器も色々と経験してきた末に、やはりスマホアプリからBluetoothで使いたいというライフスタイルに行き着いて、そのためのオーディオ機器に予算を惜しまないという人もいるわけです。たしかに音源の良し悪しに関わらず、DACとアンプの音作りの上手さで良い音を生み出してくれるMUB5の魅力はBluetoothと相性が良いのも納得できます。
MUB5のようなポタアンはDAPと比べてシステム面で陳腐化しにくいので、最新機種が最善というわけではなく、音楽的な感性で気に入っている古いモデルを手放せずにずっと使っている人も多いです。私の友人でも2014年の初代Chord Hugoを度々バッテリー換装して使い続けている人もいますし、私自身もたとえばVenturecraft Soundroid Vantam、JVC SU-AX01、iFi micro iDSD Signatureなど、音が良すぎて手放せない往年の名機が思い浮かび、Quloos MUB5もそのような特別感のあるモデルのひとつになりそうです。
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