2015年2月15日日曜日

ソニー NW-ZX1を長期間使ってみた レビュー

ソニーの高級ポータブルDAP、NW-ZX1を発売当時からほぼ毎日使っています。


純正保護フィルムを買いそびれてしまい、iPhone用のやつを切って使ってます


使い始めてそろそろ3ヶ月になるので、色々と感じたことをまとめようと思います。
2015年2月に上位モデルのNW-ZX2も発売されたのですが、手軽に使うにはNW-ZX1も十分優れたDAPだと思います。





好きなポイント:
・軽い・頑丈
・内蔵128GB
・DSD・DSF再生可能
・DSEEが良い
・ユーザーインターフェースが使いやすい
・物理ボタンが使いやすい
・音質そこそこ

嫌いなポイント:
・出力のパワー不足
・軽くて薄い音質
・内蔵スピーカーいらない
・BluetoothとNFCあるのにApt-Xが無い
・専用のウォークマンUSBケーブル必須
・ロック画面が質素
・リモコン使えない

などです。

Fiio X5も持っていて、じつは音質はそっちのほうが自分好みなのですが、Fiioは色々と使い勝手が悪くて重いので、ついついZX1を使ってしまいます。

ZX1のレビューは色々あると思うので、あまり基本的なことは省きます。

Walkmanアプリのインターフェースは直感的で使いやすいと思います。左上のブラウズボダンが小さいので押しにくいです。ちなみにDSFファイル再生中ですが、画面上ではハイレゾ「HR」表記になります。

まず音質についてですが、これは各自好みもわかれると思うので、優劣は付け難いと思いますが、ZX1の傾向としては、クリアであまり雑味やパンチの無い、言い換えれば力強さの無い音質だと思います。良い方向にとらえれば、「リニアでフラット」。あまり癖やジャンルの上手下手が無いので、いわゆるソニーのプッシュしている「ハイレゾ」っぽい音質で新規ユーザーを掴むには的確な音作りだと思います。


Fiio X5と比べると、中低域(男性ボーカルなど)の押し出し感が希薄なため、存在感やエネルギーが不足しているように思います。たぶん付帯している低域が薄いからかもしれません。私は外出先ではゼンハイザーのIE80など、中低域の強いイヤホンを多用しているので、そういった場合ZX1のような軽めの音質のほうがマッチングしていると思います。高分解能でドライなBA型のIEMとかだと、逆に退屈で音楽性の薄い感じになってしまうかもしれません。たとえばWestone UM Pro30だとそう感じました。


据置型のヘッドホンアンプと比較すると、ZX1はやはり中域の余裕が足りないように感じます。どうしても「がんばって鳴らしている」感があるので、能率の悪いヘッドホンだと音量もパワー感も不足しています。具体的には、低域のメリハリが無い、躍動感の無い音色です。

ネットでZX1のレビューを読んでいると、よく目にするのが低い駆動力への不満です。最近のポップスなどでは問題ないですが、平均レベルの低い、80年台のクラシック録音などを聴く場合に、ボリュームをMAXにしてもまだ音量が足りないことがあります。低能率の600Ωヘッドホンや、MDR-EX1000などではそれが顕著です。


楽曲によっては、600ΩのBeyerdynamic DT880などでは音量不足です。

不思議に思うのは、そもそもソニー自身がZX1は高音質ハイエンドDAPと言っていながら、でも大型ヘッドホン用にはPHA-3などの別売アンプを使ってください、というのは矛盾しています。

しかも、ZX1に搭載されているソニーの誇るS-Master DACをバイパスして、デジタル出力を介してPHA-3内蔵のありきたりなESS9018 DACを使えというのは、一体何を考えているのでしょうか・・・。コンセプトの迷走を思わせます。

ソニーぐらいの技量があれば、電池技術とチャージポンプとか昇圧回路でもっと高出力を狙えたでしょうし、少なくとも同時展開しているMDR-Z7くらいはS-Masterで余裕を持って駆動できるくらいを頑張ってもらいたかったです。

実は、この駆動力についてですが、ソニーとしてはZX1のソフトウェア上の音量上限は「可能な限り、どんな条件でも、歪み率などが破綻しないレベルにおさめる」、という保守的な設定をしています。

ZX1は、たとえ高負荷(低インピーダンスのIEMなど)でもボリュームMAXで歪み率が規定内に収まる程度までしかボリュームが上がらないように設計されてます。

反対に、たとえば高出力で有名なFiio X5は、「High Gain」モードがあるのですが、あるボリューム位置からは倍音歪みがとんでもなく発生します。でもユーザーが気が付かなければ「高出力」と捉えます。実際に出力インピーダンスを見ても、X5の1Ωに対してZX1の2Ωと、どちらも十分低いです。

ではソニーの保守的なアプローチのほうが正解か、というと、私はそうは思えません。多少歪み率が上がってでもオーバードライブ気味に平均音量がとれたほうがユーザーは嬉しいと思いますし、「ZX1はパワー不足」のレッテルを貼られなくて済むと思います。

自社内でフルスケール正弦波の歪み率を測定しているのなら、スペック厳守は大事だと思いますが、実際の音楽データでは、ヘビーメタルでも聴いていない限り、9割の信号はクリッピングレベルに達しないわけですから、多少のクリッピング潰れは犠牲にしてでも音量を稼げる設計にしてほしいです。その辺は、ハッタリの上手な中華メーカーと、大企業体質のソニーの差なのかもしれません。


余談ですが、NW-ZX1が出た当初Head-Fiなどの掲示板で話題になったのが、日本国内版とヨーロッパ版の違いです。実際にヨーロッパ版を使ったことは無いので確証は持てませんが、ヨーロッパ版では、青少年の聴力を守るための法律があるとかで、ボリュームの上限が制限されているらしいです。過去のWalkmanではそのようなことがあったので、ヨーロッパ版を購入したユーザーは、ファームウェアで書き換えなどで音量解除していたそうです。


個人的にZX1で非常に気に入っているのは、DSEEという機能です。Walkmanソフト上でON/OFFが切り替えられるのですが、いわゆる44.1kHz・16bitのCD音源を「ハイレゾ級」にアップスケールするアルゴリズムのようです。

大抵この手の高音質化アルゴリズムは、原音に付帯音などの悪影響を与えるためOFFにしているのですが、このZX1のDSEEは聴感上非常に良い効果が感じられると思ったので、常時ONにしていても気になりません。ただし電池の消費量は倍になるということなので、その辺は残念です。

DSEEが具体的に何をやっているのかよくわかりませんが、パイオニアのレガートリンクや、デンオンのAL32などと似たような補完技術だと思います。DSEEをON/OFFで比較試聴してみると、高域をわざとらしく持ち上げたり、過度なクロスフィードを付加したりするわけではなく、なんというか楽器にツヤのようなものが増すので、とくにピアノなどには効果大です。音場の空気感などよりも、楽器そのものの瑞々しさや色気が増すような、不思議な効果があります。

ちなみにZX1のもう一つの高音質化技術ではるClear Audioの方は、あまりにも過度なエフェクトが派手な演出なので、OFFにしています。


ZX1のユーザーインターフェースは古いAndroid 4.1なので、これといってコメントは無いですが、できればロック画面に現在の楽曲情報くらいは表示できるようにしてほしかったです。この曲なんだろう、って思った時に毎回画面をアンロックするのは面倒です。

地味なロック画面


内蔵のWalkmanアプリはXperiaのものと同じかと思ったら、結構違います。ハイレゾALACなど、私のXperiaでは不具合が起こるものでも、ZX1だと問題なく再生できます。また、Xperiaのほうでは邪魔な「Listen Next」画面があるのですが、これもZX1では排除されているので好印象です。
XperiaのWalkmanアプリでは、意味不明なListen Next画面がデフォルトです。ちなみに上半分のListen Nextと書いてある部分はただの無駄な絵で、押しても何もおこりません・・・。


充電や、PCからの楽曲転送にはウォークマン専用ケーブルというのが必要なのですが、こういうのがソニーが嫌われる理由ですよね。私はeBayで出所不明の互換品を購入して使っていますが、今のところ問題は無いです。個人的に一番の不満は、SDカードではなく128GB内蔵メモリなのに、しかも専用ケーブルなのに、なぜUSB3転送レートに対応していないのでしょうか・・・。128GBの楽曲をiTunesからUSB2で転送すると、数時間かかります。フラッシュメモリの単価が安くなり、スマホなども大容量が当たり前になってきた時代なので、そろそろ全面的にUSB3対応を導入してほしいです。



全体的に見て、NW-ZX1は非常に良くまとまった商品だと思いますし、ハイレゾ入門機として(今ではAシリーズがありますが)、PCオーディオオタク以外の一般ユーザーに高音質を布教することができた、有意義な商品だと思います。NW-ZX1に不満のあるようなコアなユーザーはきっとAK120IIやHifiManなどのマニア向けDAPを使うことでしょうし、ソニーとしては多少の不満点は気にしなくても良いくらい、大成功した商品だと思います。

このままハイレゾブームを牽引して、もっと色々な良い商品を作ってもらいたいです。