2016年10月8日土曜日

Grado GS2000e の試聴レビュー

Gradoの2016年最新ヘッドホン「GS2000e」を試聴してきました。伝統的な開放型デザインに上位モデルの証である大型イヤーパッドとウッドハウジングを採用しています。

Grado GS2000e

発売価格が16万円(XLRバランス端子バージョンは19万円)ということで、現行モデルGS1000eとPS1000eの中間に位置付けられます。いかんせん高価なので、さすがに買いませんでしたが、かなり良い感じのサウンドだったので、忘れないうちに簡単に感想を書いておこうと思いました。

今回は、GS1000eとPS1000e、そして私物のPS500とGH-1を持ち寄って比較してみました。現行のグラド上位ヘッドホンが全員集合するという珍しい期会です。

そもそもGradoという民芸品工房が、一体どこからこんな高価なヘッドホンを作れる自信が生まれるのか、そもそもどうやって16万円という値段を決めているのか、つくづく不思議に思います。


GS2000e

GS2000eを手にとって眺めてみると、手触り、重量ともに、まったくもってGS1000eと瓜二つです。ハウジング側面の「GS2000e」ロゴを見て確認しないと間違えてしまいます。

私自身も今回写真を撮っていて何度か間違えました。GS1000eが13万円で、このGS2000eが16万円なのですが、見た目だけでは3万円相当のアップグレード感は一切感じられません。というか、たかが3万円アップなら、もはやあえてGS1000eと並行して販売するメリットはあるのでしょうか。ちなみにバランス端子版はそれぞれ3万円アップになります。

どちらも他のGradoヘッドホンと同様、米国ニューヨーク・ブルックリンの本社工場でせっせと手作業で作られています。

GS2000e

GS1000e

Gradoという会社は日々一体どうやって技術開発をしているのか謎に包まれているのですが、とりあえず見た目だけで確認できるGS1000eからGS2000eへの変更点は:

  • ハウジングの木材がマホガニーとメープルの二層構造になった (GS1000eはマホガニーのみ)
  • ドライバの色が赤から青になった

以上のみです。

本当にたったこれだけの差しか見分けがつかないのに、実際にサウンドを聴き比べてみると、両者はかなり違います。たとえばゼンハイザーHD800からHD800Sになったとか、その程度の些細なマイナーアップデートなどではなく、これまでのGS1000eサウンドを根本的に覆すようなレベルで異なっています。

木材はこの部分でシームレスにつながっています

ところで、GS2000eはハウジングが二層構造ということで、同じく二層構造を採用しているPS500eとPS1000eなんかを連想します。あちらはマホガニー材と金属の二層構造です。

しかし、PSシリーズはマホガニー材の小型ハウジングの上から金属の蓋をかぶせている仕組みなのですが、このGS2000eの場合は、上記写真のように二種類の木材をぴったりと接着してから削り出したような、分け目の無い、完全な一体のハウジングになっています。ちょうどヘッドバンドのアームがある部分で材料が別れています。

ドライバと二層構造のウッドハウジング

搭載しているドライバは、Grado現行「e」シリーズ共通の50mm 32Ωというやつで、デザイン的にはRS1eやGS1000eなどと基本的に一緒です。

「e」シリーズ以前の、初代無印GS1000や、GS1000iなどの「i」シリーズはドライバ口径が40mmでした。そのため、「e」シリーズの50mmドライバでGradoのサウンドが大きく変わったと言われています。

ちなみに、各モデルでカタログスペックの周波数特性とかが異なるのは、単純に「そこまで保証します」という意味であって、実際は明確な意味の無い数字だと思います。

本当かどうか知りませんが、よく言われているのは、Gradoはとりあえず大量にドライバを作ってから、一つ一つを測定して、性能が良いものを選定して、丁寧に左右をマッチングさせたものを高価格モデルに搭載して、ばらつきのある低ランク品を低価格モデルに搭載する、なんて噂されています。

というか、見た感じではどのモデルの中身も本当にソックリなので、それくらいしかモデルごとにサウンドが異なる根拠が思い当たらない、というのが一番の謎かもしれません。

ドライバが青色に塗装されています

実際、今回のGS2000eは、ドライバの色がこれまでの「e」シリーズで使われていたメタリックレッドから、メタリックブルーに変更されています。

単純に色を塗り替えただけのか、なにか新しい技術を投入しているのかは不明ですが、Grado愛好家というのは、そういうのはあまり気にせずに、「ブルーのやつは凄いドライバだ」という程度の認識で十分でしょう。実際、「Gradoヘッドホン最初期のピンク色ドライバのモデルは音が良い」、なんていう逸話が広まっており、今では中古品がプレミアになってますので、結局世の中はそんなものです。

Gradoヘッドホン大集合です

Gradoのヘッドホンというと、値段が安いものは小型ハウジングで、より高価なモデルはイヤーパッドどハウジングが大型化、といったふうに分けられています。上記写真のように、大型ハウジングのモデルは現在ウッドのGS2000eとGS1000e、そしてメタルのPS1000eで、三機種あります。

ところで、私はGradoというと小型ハウジングのモデルしか所有していないので、今回は私物でPS500とGH-1を持ち寄りました。

PS500は、以前から欲しかったものを、ちょっと前に新古品で購入しました。素晴らしいヘッドホンなので、いつか紹介しようと思っているのですが、もう型落ちモデル(現行はPS500e)ですし、あまり需要も無いでしょう。

Grado GH-1

GH-1は、ヘリテージ・シリーズという名前で2015年に登場したモデルです。ハウジングの木材が本社工場間近の公園で伐採されたメープル材ということで、一回限りのバッチ生産らしいです。Gradoらしさに溢れたフレッシュなサウンドが魅力的で、小型モデルの中ではRS1eやRS2eを凌いでトップクラスに優れたヘッドホンだと思います。

GS2000eのメープル材部分はGH-1と同系色です

ちなみに、今回GS2000eは、ハウジングの外側がマホガニーで、内側がメープルです。これまでのGrado製品は、GH-1を除いて、すべてマホガニーなので、もしかするとこのGS2000eに使われているメープル材というのはGH-1のと同じやつなのかもしれません。見た感じは色も質感も非常に近いです。

勝手な憶測ですが、「ちょっと仕上げミスの廃材が余ったから流用した」とか、Gradoならやりかねません・・。

XLRバランスと、6.35mmのオプションが選べます

ケーブルはGS1000eなどと同じ太いタイプです。ちなみに今回試聴で使ったやつはXLRバランス接続バージョンでした。

GS2000eだけバランスで、他は6.35mmなのは不公平というか、正当な試聴比較ができないのじゃないか、と心配だったので、わざわざGradoケーブルで自作したXLR→6.35mm変換アダプタも持参しました。結局色々と聴いてみた結果、バランス・アンバランスの音質差よりも、各ヘッドホンごとの音質差の方が圧倒的に大きかったので、余計な心配だったようです。

ちなみにバランス接続は4ピンXLRコネクタで、ごく一般的なノイトリックの古いタイプ(NC4MX)なので、これだけで3万円プラスというのもちょっと疑問に思います。

純正6.35mmコネクタは一体型ゴムモールドなので、オーナーが勝手に切断してXLRに改造したら保証が効かなくなりそうなのが嫌な感じです。せめて6.35mmとバランスXLR版は同じ価格で販売してほしいですね。

それか、もうこのご時世、ある程度高額なモデルはわざわざ二種類売らなくても、全部4ピンXLRにして、6.35mm用変換アダプタを付属すれば良いかもしれません。

サウンド

Gradoのフラッグシップモデルというと、現在PS1000eが約20万円で君臨しています。ピカピカの金属ハウジングは圧倒的な威圧感と重量感を演出しています。

これまでは、ウッド系のフラッグシップGS1000eが13万円、金属系PS1000eが20万円で価格の大幅な隔たりがあったのですが、今回ウッド系のGS2000eが16万円という微妙な価格設定で参入したことで、どれを買うべきか、かなり悩ましくなりましたね。

Simaudio Moon 430HADを使いました

今回の試聴には、個人的に素晴らしいヘッドホンアンプだと思うSimaudio Moon 430HADを使いました。スマホからのOTGでUSB DAC入力です。

もちろんGS2000eはGradoヘッドホンの例に漏れず、駆動能率はかなり高いため、一般的なDAPやポタアンなどでも十分な音量が発揮できます。6.35mm接続で各モデル比較の際にはボリューム位置を変える必要はありませんでした。

まずGS2000eの特徴をいくつか挙げると、音像はGradoらしく距離感が近いですが、輪郭がしっかりとしており、奥行きがはっきりと感じられます。

空間や音場の「奥行き」があると言っても、たとえばゼンハイザーHD800などのように演奏者そのものの距離が遠いのと、Gradoのように演奏者は間近で、その奥に広がる空間が感じられるのでは、どちらも「奥行き」があると言えますが、意味合いは異なります。たとえばライブ会場での自分の立ち位置みたいなものなので、単純にステージが遠いほうが良いというものでもありません。そのためGradoのヘッドホンを「音像が近い」からHD800に負ける、なんて言うのは見当違いだと思います。

GS2000eの場合、とくに前方にいるソロ奏者や歌手が「そこにいる」感覚というか、ボーっと空間に立体像が浮き出るようなイメージは、他のGradoヘッドホンよりも格段に優秀です。高域の空気感がよく解像しているおかけで、音の輪郭と、その周辺の空気が虚像を描いてくれている印象です。

音色そのものでは、Gradoらしい中域の実在感はもちろんありますが、意外にも低音がかなり強くパンチがあるのに驚きました。これまでのモデルよりも全体的に幾分か音圧が上がったような、派手さや、メリハリの強さを感じます。若干強引ではありますが、切れ味やダイナミック具合が増して、より音楽の中に飛び込むような一体感があります。そもそもそういった「音楽の中」に没入する感覚がGradoの醍醐味だと思うので、それがより強調された方向性です。

大型Grado勢揃い

GS1000eとPS1000eと比較してみて、それぞれの違いをメモしておきました。

GS1000e

まずGS1000eですが、このヘッドホンの魅力は絶妙なトータルバランスの良さだと思います。GS2000eと比較すると、よりマイルドで丁寧、一音一音が前に攻め出してこないため、音色の繋がりが良い、Gradoヘッドホンの中では一番リスニングが心地よいモデルだと思います。

50mmドライバの「e」モデルになってから、よりそのような心地よさが増したように感じます。逆に、旧来のGradoっぽい切れ味が欲しい人には若干退屈かもしれません。

GS1000eの中高域の表現は直系のRS1eなんかとソックリですが、さらに空間に余裕ができており、中低音が充実しています。たとえば歌手の後ろで伴奏しているピアノの音色、とくに左手の中低音域とかは、GS1000eを使うと、一音一音が流れるように、音同士が繋がって、緩やかな音色の空間で包み込んでくれます。

一方、GS2000eで同じ楽曲を聴くと、ピアノ伴奏の打鍵がより強調され、粒立ちが目立つようになり、歌手とピアノが同じレベルの存在感を得ます。

空間的にも、GS2000eが主音成分と背景(空気)でメリハリをつけるところ、GS1000eは全てのサウンドの空間が一定で、距離が前にも奥にもいかない、リスナーとの距離感を大事にした仕上がりです。

PS1000e

次にPS1000eですが、実は私自身はこのヘッドホンをあまり好きではありません。仮にもGradoの最上位ヘッドホンですし、人気のあるモデルなので、私が魅力に気づいていないだけだと思いますが、今回の比較試聴でも、PS1000eよりもGS2000e・GS1000eのほうが好みでした。

PS1000eは金属製のハウジングカバーが特徴的ですが、これは音質に一長一短の効果があると思います。

PS1000eの特徴的な部分は、高域がとてもクリアで繊細、解像感が非常に高いことです。ちょっと響きが強い印象があり、それが他のGradoと聴き比べると、違和感のように感じます。GS2000eよりも線が細く、立体感のリアリズムよりも、一音一音を整然と聴き取る性能に特化しています。

金属的にキンキンするというわけではなく、若干持ち上がったような鳴り方なので、なんとなく音楽全体の空気が冷ややかで張りつめたような印象を与えます。つまり、たとえばGS1000eとくらべると、リラックス出来ない、常に集中を絶やさず聴かせるタイプだと思います。

PS1000eは「プロフェッショナル」シリーズということで、この「リスナーの気持ちを集中させる」効果はとても重要だと思いますが、Gradoと言われて連想するサウンドとはちょっと違う気がします。

私がPS1000eの問題点だと思ったのは、低音です。この張りつめた高音と反比例するように、広がってフォーカスが甘い低音表現のように感じます。PS1000eの金属ハウジングは低音をブーストさせる効果があるようなのですが、そのような演出がわかり易すぎるというか、一種の効果音として聴こえてしまいます。

大柄な形状のため、イヤーパッドや金属ハウジングが耳から離れており、そのせいか、低音の音像がぼやけて、ピタッとフォーカスが定まりません。繊細な中高域と張り合えるほどメリハリのある音像ではなく、一歩距離を置いた位置でボワッと鳴っています。

一方GS2000eは低音の量こそ多いのですが、このPS1000eと比べると、鳴り方そのものがかなり異なります。PS1000eの低音がハウジングの音響で鳴っているように感じるのに対して、GS2000eではドライバそのものが強烈な和太鼓のように、張りのある低音を鳴らしています。ハウジングの影響もわずかに感じ取れますが、PS1000eほど長く留まらず、ドライバと連動するようにスピード感を持っています。

なんというか、PS1000eというのは、上半身はスリムなのに、下半身デブというか、ブカブカのスカートを履いているようなミスマッチを感じさせます。

価格的にはGS2000eよりもPS1000eの方が上なのですが、個人的なイメージとしてGS2000eはそれまでのGrado的サウンド(RS1eやGS1000e)とかの延長線上で、よりダイナミックに進化したのに対して、PS1000eはまた別路線のサウンドなので、Gradoらしさとしての評価は低くなってしまいます。変な言い方ですが、PS1000eの目指しているサウンドを突きつめると、Grado以外でも他に良いヘッドホンが見つかりそうな気がします。(TH900とか、HIFIMANとか)。

PS500

PS1000eはあまり好みではないのですが、一方で下位モデルのPS500は大好きです。PS1000eが小型化したかのようなコンパクトハウジングですが、実はこのおかげで大きなメリットがあると思います。

PS1000e特有の中高域の張り詰めた繊細さはさすがにPS500では色を薄めて素朴になるのですが、PS500では金属ハウジングが間近なためか、中低音のメリハリが強く、音像が近いため、サウンド全体に統一感や豊かさが溢れています。太い音が直接的、ダイレクトに耳に届くイメージです。

単純にイヤーパッドのサイズが違うからかと思ったのですが、たとえPS500にPS1000eの大型イヤーパッドを装着しても、全体像がぼやっとなってしまうだけで、PS500はPS1000eにはなりませんでした。

GS2000eの話題のはずが、話がそれてしまいましたが、実はPS500を聴いてみると、Gradoの小型モデルも捨てたもんじゃないな、と再認識しました。

価格差が脳裏にあると、GS2000eやPS1000eなどの「上位機種」を交互に試聴を繰り返した後にPS500を聴く時には「どうせ安いモデルなんだから、きっとショボいサウンドに落胆するだろうな」なんて先入観があり、あまり期待していませんでした。しかし、いざ音楽が流れ出すと、その疑いが一気に晴れて、「これぞGradoにもとめていたサウンドだ」と感動しました。

PS1000eとPS500はどちらも金属ハウジングだからか、同じくらい低音の量感が増えているものの、PS500の場合は締りがよく、打撃感がある音圧につながっている一方で、PS1000eの場合は空間の余裕があるせいか、この低音が膨らみを持ちすぎています。広いというよりは、同じ物量のサウンドが、より広範囲に拡散している感じで違和感があります。

ジャズの生演奏で、ウッドベースやドラムの強烈なリズム感に没頭したい場合は、PS500とGS2000eが最善の選択肢だと思いました。PS500はハウジング由来の低音、GS2000eはドライバそのものの低音のように聴こえますが、どちらもスピード感があり、重苦しく感じさせないノリの良さが味わえます。

GH-1

GH-1ですが、今回あえてRS1eではなくGH-1を紹介したのは、このモデルはGS2000eと共通する部分があると思ったからです。

冒頭で、GS2000eは歌手がボーっと空間に浮き出るようなイメージ効果があると言いましたが、これはGS2000eの特徴的なポイントで、RS1eやGS1000e、PS1000eなどではあまり感じられないのですが、唯一GH-1で同様の効果が体感できます。

GH-1は高域の瑞々しさやクリア感、ヴァイオリンなどの音像がRS1e以上に前に出てきて、実体感があり、ちょっと生々しすぎて耳障りなこともあります。この高域特性はGS1000eには無く、GS2000eにはあるので、短絡的に考えると、メープル材の効果なのかもしれません。

ただ、GH-1は小型ハウジングのためか、空間余裕は狭いですし、また低音もRS1やSRシリーズ程度の量感しか出ません。それくらいのほうがGradoらしいとも言えますが、ボリュームを上げていくと高域の派手さが強調されるので、GS2000e以上に音源のクオリティに影響を受けやすいヘッドホンだと思います。

GS2000eは、GH-1ゆずりの中高域のクリア感や奥行きを継承しながら、さらに力強く低重心な中低域も兼ね備えることに成功した進化型とも言えそうです。

気になったポイントとか

ダイナミックなサウンドが印象的なGS2000eですが、メリットだけではなく、いくつか不満点も浮かびました。

まず、これは好みの問題ですが、サウンドが必要以上にエキサイティングでメリハリを演出するので、押しが強いです。これまで中高域のみが刺激的だったGradoが、さらに低音を含む全帯域でそうなってきたといった感じです。

立体的でキレのある音像は、最新ハイレゾ音源などの魅力を十分に引き出すことができるポテンシャルがありますが、逆に音質があまり良くない録音では、そのハイテンション具合が聴き疲れにつながります。ここが、よりリラックス傾向なGS1000eと対称的な部分なので、私自身はどっちが実用性が高いか決めかねました。GS2000eは、GS1000eをベースに、より正統進化させたという説得力はあるのですが、そこに無理も感じます。

とくにGS1000eとの違いで気になったポイントは、低音です。GS2000eの低音は、GS1000e以上に縦横無尽に飛び跳ねて、PS1000eほどハウジングが響くこともなく、音抜けは最高に良いのですが、なんだかドライバそのものが太鼓のように振動しているかのような違和感や余裕の無さがあります。

耳元でドライバの振動板が限界までブンブンと前後に動いているのが聴き取れて、録音に忠実というよりは、ライブ会場でPAスピーカーの目の前に立っているような、空気の振動が耳を刺激します。これは過剰というか、本来の限界を超えて過激に鳴っている気がします。

これと較べると、たとえば先日紹介したベイヤーダイナミックDT1990 PROやフォステクスTH610などは、低域のメリハリや量感はGS2000eと互角のレベルにあるものの、そこにドライバ振動板の限界を感じさせず、録音された情報がそのままリニアに鳴っている印象を受けます。もちろんサウンド全体の仕上がりはそれぞれ個性的なので、GS2000eが他のヘッドホンより劣っているというわけではありません。

勝手な想像ですが、GS2000eのサウンドに到達するにあたって、もはや現行ドライバそのものの性能限界に達してしまっているような印象すらあります。ここからさらに中低音パワーのリニア感や、ドライバの存在を忘れさせるようなレベルにステップアップするためには、なにか別の技術革新が必要なのでしょうか。もちろん、そうなってくると今度はGradoサウンドではなくなってしまう心配があるかもしれません。

もうひとつ気になったポイントは、中低域の余分な厚みです。たとえば男性ボーカルや、ピアノの左手、中音からちょっと下辺りの音域で、出音が二重に聴こえる帯域があります。

時間差のエコーというよりは、一音のアタックが二度出ているようなダブりです。エレキギターやエレピなんかをやっている人ならわかると思いますが、なんだかコーラスエフェクトみたいな効果を感じます。

GS1000eではそのような二重効果は聴こえませんでした。GS2000eのほうがピアノ伴奏などの音が太くパワフルに聴こえる理由はなぜだろうと疑問に思って、そのあたりに集中して聴き比べてみたところ、ピアノそのものの音色が明らかに違って聴こえました。このダブり感がGS2000e特有の個性に繋がっているのかもしれません。

気になりはじめると意識してしまうのですが、サウンドのメリハリや力強さ、輪郭の太さはなどは、GS1000eよりも向上しているため、欠点と言って良いのかどうかはわかりません。他のGradoヘッドホンには無いGS2000e特有の個性と言えると思います。

おわりに

今回GS2000eをじっくりと聴いてみたところ、価格に見合った進化、という印象がまず頭に浮かびました。すべてのポイントにおいて、GS1000eよりも高いレベルを目指して作られたヘッドホンだと感じますし、一旦GS2000eを聴いてしまうと、それ以下のモデルは全てなんらかの「妥協点」のようにすら思えてしまいます。

大型モデルの中では、金属ハウジングのPS1000eは自分の好みのサウンドではなかったためダメでしたが、逆にそれだけ個性的なサウンドなので、独特の魅力を感じる人も多いでしょう。ただし単純にPS1000eが一番高価だから一番高音質だ、とまでは断言できませんでした。

一方、木製ハウジングのGS1000eとGS2000eでは、絶対性能というか、目標とするポテンシャルの高さはGS2000eが圧倒的です。しかし、GS1000eはすでに端正なサウンドの完成度が非常に高いため、あえてGS2000eに冒険せずGS1000eで落ち着くのも悪くない選択肢です。

もう一つ再確認できたのは、Grado小型モデルの有能さです。私はこれまで過去にGS1000やPS1000を何十回と試聴してきたのですが、結局未だ購入するに至っていません。それなりに買わない理由があったということでしょう。

大型モデルは決して悪くないのですが、たとえばPS500とPS1000の違いのように、Gradoの魅力である濃縮された音色のせめぎあいみたいなのが、ハウジングが大きくなることで失われてしまう感じが欠点のように思います。

そういった意味では、これまで小型Gradoのエキサイティングな生々しさが好きで、あえて大型モデルに手を出していなかった人達であればこそ、このGS2000eならばようやく満足できるかもしれません。

Gradoのヘッドホンは、モデルの上下関係や価格相応の性能差だけではなく、モデルごとの魅力や個性が感じられるのが面白いところです。

良い例として、たとえば4万円のSR325なんかは必ずしもハイエンドモデルではないものの、その強烈なサウンドは人々を魅了して止みません。

全てのモデルのデザインがほとんど同じなので、ルックスでごまかしが効かないというのも、純粋にサウンドのみに夢中になれる理由かもしれません。「このモデルがダメでも、こっちなら」という選択肢があるので、一旦Gradoヘッドホンにはまってしまうと、もはや一生抜け出せずに、ニューモデルが出るたびに「今回はどんなサウンドに仕上げてるんだ」という興味がわいてきます。

また、私にとってのPS500のように、他人がどう思おうとも、自分だけが満足できればそれで良い、他のモデルとは違った特別なサウンドだと感じるのも、一期一会というか、少量生産ゆえの「買い逃したらあとで後悔する」といった職人芸の魅力もあるかもしれません。

ちなみに今回Gradoヘッドホンのみの比較で、HD800など他社の有能ヘッドホンとあえて比べなかった理由は、単純に「Gradoだけは別腹」だと思うからです。どんなに素晴らしい高性能ヘッドホンを堪能しているマニアであっても、Gradoだけは根本的に別次元として楽しまないと、人生で損をしていると思います。(あとStaxとかもそれと近いのかもしれません)。

結局このGS2000eというヘッドホンは、見た目からは単なるGS1000eに毛が生えた程度のマイナーチェンジを想像していたのを、良い意味で見事に裏切られました。Gradoらしさが一層強調された派手なサウンドなので、気にいるかどうかは保証できませんが、近年のGradoが目指している最先端を体感するためにも、ぜひ試聴してみることをおすすめします。