2015年に登場して大好評を博している「HA-2」のマイナーチェンジ版だそうです。
ロゴが違うだけしか見分けがつかないHA-2SE |
初代HA-2がD/AチップにESS 9018K2Mを搭載していたところ、今回HA-2SEでは後継チップの9028Q2Mに世代交代したことが、大きな目玉です。また、アンプ回路についても若干変更があったようです。
私自身、初代HA-2は発売当時からかなり絶賛していて、相当使い倒した思い出があるので、この新型が実際どんなものか比較してみました。
HA-2
初代OPPO HA-2は、本当に素晴らしいポータブルDACアンプだと思います。2015年3月発売なので、すでに一年半前の商品なのですが、その当時ですでに384kHz PCMや11.2MHz DSDなどに対応、さらに高性能D/A変換に高出力アンプと、そして忘れがちですが、驚異的な高速充電と、もはや完璧と言えるスペックを誇っていました。
その当時、384kHz PCMなんて、そんな音源を聴くことは無いだろうなんて思っていたのに、それからたった一年ほどで、数十枚の384kHzアルバムを買ってしまいました。音質云々については懐疑的ですが、再生できる環境があれば試してみたくなるのがオーディオマニアです。
今となっては懐かしい、iPhone 4っぽいデザイン |
HA-2は、iPhoneを意識したアルミボディに、レザー巻きというユニークなデザインで、ガジェットというよりは、むしろ高級腕時計や万年筆なんかのエリートっぽい嗜好品を彷彿させますし、操作性においても、初心者でも混乱しないような上手な設計でした。
2016年10月現在でも、ここまでの高性能を、HA-2ほどのコンパクトでエレガントな筐体に収めた商品は未だ現れていません。
私の場合、HA-2を半年ほど使っていた頃に、例のChord Mojoという爆弾が堂々登場してしまったため、そっちに目移りしてしまい、HA-2を使う頻度が少なくなってしまいました。
どちらも約4〜5万円台ということで良きライバルですし、サウンドはもとより、ルックスのデザインにおいても、ファンの意見が大きく別れます。
HA-2はマイクロUSBケーブル一本で充電しながらUSB DACとして使えたり、ボリュームノブがアナログだったり、スマホと付属ケーブル一本で接続できたり、といった手軽さの利点がありますし、一方Mojoは、HA-2には無い光・同軸S/PDIFデジタル入力があったり、より大音量を出せる高出力だったりなど、独特のメリットがありました。
そんな感じで、現時点で「オススメのポータブルDACアンプは?」と聞かれたら、私だったら、「とりあえずOPPO HA-2か、Chord Mojoを買っておけば間違いない」と即答できるくらい、どちらも素晴らしい製品だと思います。
HA-2SE
そんなわけで、今回登場したHA-2SEですが、値段はほぼ据置きで、発表と同時にいきなりHA-2と入れ替えで販売が開始されたので、意表を突かれました。見た目もロゴ以外は全く一緒なので、知らなければ絶対気が付きません。
見分けはつきません |
あまりにもHA-2と同じなので、今回、試聴中にわざわざ写真を撮る気にもなりませんでした。
実際何が変わったのか、ということですが、まずD/A変換チップがこれまでのESS 9018K2Mから、新世代のESS 9028Q2Mに変更されたそうです。
それと、アンプのノイズが低減され、さらにローゲイン側の出力が調整されたそうです。これは、初代HA-2で超敏感なIEMイヤホンなどを使うとホワイトノイズが聴こえる、ボリューム調整が敏感すぎる、といたユーザーの意見をもとに改良したそうです。アンプの出力そのものは変更されていません。
ところで、ESSのチップについてですが、これまで多くのオーディオメーカーがES9018Sと、その廉価版の9018K2Mを「新世代の超高音質チップ」として神格化していたため、一時期はハイレゾDACにESSは必須、それ意外はゴミ、といった盲信者すら散見するほどでした。
最近では、超高級ポータブルプレイヤーのAstell & Kern AK380に旭化成のAKM4490チップが採用されたりなど、ESSの天下が徐々に崩されていった気配もありますが、それでも未だにブランドとしてのネームバリューが凄いです。
思い起こせば私自身も、ESSの9018チップがデビューしたてのころ、関連していたResonessence社のInvictaというDACヘッドホンアンプを聴いて、その凄まじい音質に驚かされました。そして、それと時を同じくして、OPPOも、9018系をいちはやく製品に投入して高音質を実現していました。
ヘッドホンとかしか使わない人にはあまり縁が無いかもしれませんが、オーディオマニアにとって「OPPO」というと、DVDやブルーレイプレイヤーのメーカーとして有名です。それまで基本的に「映像家電」として扱われてきたBDプレイヤーを、OPPO社が高性能D/A変換や電源回路、アナログアンプ回路など、徹底的に「オーディオ再生装置」としてのポテンシャルを引き出した製品を定着させました。
とくに、それまで必需品だったCDプレイヤーの後継として、欧米の富裕層ホームシアターや、オペラ・クラシック鑑賞のためSACD・BDハイレゾ・サラウンド再生の中核となるプレイヤーとしての地位を確立しました。「わざわざ高価なハイエンドCDプレイヤーを後生大事に使わなくても、OPPOのBDプレイヤーでそこそこいけるじゃん」という驚きを体験した人は多いと思います。
当時からOPPO社のノウハウが凄まじいため、意外と多くの一流オーディオブランドのBDプレイヤーが、実は中身がOPPO社製のOEMだった、なんてこともあります。そもそも、元々OPPO社はそういうOEMメーカーとしての成り立ちで、最近やっと表舞台で脚光を浴びるようになってきたという歴史があります。
そんなわけでESSのD/Aチップと縁が深いOPPOですが、今回も最先端の9028Q2Mを搭載するに至りました。
9028系になったからと言ってそのまま音質が向上する保証は無いわけで、実際チップ単体では9018と9028のスペックはさほど変わりません。チップのダイナミックレンジが127dBから129dBになったらしいですが(THDは据置きで120dB)、そういう数値はよくある「当社比」みたいなやつで、そもそも後続するヘッドホンアンプ回路がそこまでのスペックではないのは、世界中どのDACアンプを見ても一緒です。(極論を言ったら、ヘッドホンやスピーカーのドライバ自体が数倍ダイナミックレンジが狭いです)。それでも、他にも色々な細かい部分で改善があったことでしょう。実際音が変わるのだから、不思議なものです。
HA-2とHA-2SEの音質差とか
今回HA-2SEが登場した際に、ちょっとおかしな事態になってました。Phile-webなど日本でのリリース発表では、「アンプ大幅刷新」なんて、いかにも凄い音質向上が図られたニューモデルかのような触れ込みだったので、既存のHA-2オーナー勢からも大きな期待が寄せられました。
一方、本国の掲示板のOPPO公式書き込みなどでは、D/Aチップを交換したのと、IEMノイズを減らしただけだから、音は変わってないよ。実際に聴き比べたけど違いは分からないくらいだよ、みたいなことをOPPOの中の人が書いてました。
やはり気になるのは、既存のHA-2オーナーでも買い換える価値があるのか、という疑問ですが、私自身が聴き比べてみた印象は、たしかに音は若干変わっているみたいで、良くなっているっぽいけど、そこまでの変化は無いので、よほどのHA-2マニアでなければ、あえて買い換えるほどではないかも、といった程度でした。
DT1990 PROでも鳴らせました |
まずアンプの出力に関してですが、最大音量は初代HA-2と全く一緒でした。今回、非常に鳴らしにくいヘッドホンの一例として、最近発売されたベイヤーダイナミックDT1990 PROを使ってみました。こいつはほとんどのDAPでボリュームが頭打ちになるくらい音量が取りにくいヘッドホンなのですが、OPPO HA-2では、「ハイゲイン」モードでボリューム70〜80%くらいで十分なリスニング音量が得られました。ダイナミックな力強さやパンチもあり、余裕をもって駆動できているようです。DT1990 PROは250Ω 102dB/mWですから、小型バッテリー駆動アンプでここまでのパワーを発揮できるのは素晴らしいです。
Unique Melody Mavisを4極接続で使いました |
さらにHA-2SEでは、IEMイヤホンの駆動が低ノイズ化されて、より良くなったということなので、Campfire Andromedaと、Unique Melody Mavisを使ってみました。Andromedaは付属3.5mmステレオケーブルでしたが、Mavisは、普段Cowon Plenue Sで使っている、3.5mm 4極バランス端子でした。OPPO HA-2はバランス駆動では無いものの、4極のいわゆる「グラウンド分離」接続に対応しているということで、せっかくなので試してみたところ、問題なく使えました。
Andromeda、Mavisともに、初代HA-2とHA-2SEを使い比べてみると、ボリュームノブの位置そのものは、そこまで違いがわかるほど変わっているとは思えませんでした。しかし、たしかにHA-2SEのほうが、ホワイトノイズが少なく、背景の「黒さ」が向上しています。これまで初代HA-2を使っていた時には、そこまで気になる程ではなかったのですが、いざHA-2SEに切り替えてみると、意外な程に差を感じます。
「そんなホワイトノイズなんて、気にしなければいいじゃないか」、なんて思う人もいるかもしれませんが、実はこれが音楽そのものに結構効いてきます。ノイズが聴こえるか聴こえないかというよりも、常に存在するノイズが消え去ることで、無意識的に、音楽中の「音と無音」つまり「オンとオフ」の差がより明確になるので、HA-2SEのほうが音楽のメリハリが向上して、鮮やかさが増すような効果が感じられました。言われなければ気がつかない程度かもしれませんが、それでも確かな実感があります。
もう一つ、HA-2とHA-2SEの音質差で気がついたことがありました。これはIEMイヤホンだけではなく、先程のDT1990 PROや、他のヘッドホン(Audeze SINE)を使ってみた時も気になったのですが、HA-2SEの方がより高域が整っており、重心が下がったような印象を受けます。
具体的には、HA-2SEと比べると、初代HA-2の方が、中高域に金属的なほんの僅かな響きのようなクセが感じられて、それが音楽全体を若干「腰が高く」感じさせる効果があります。HA-2SEでは、その部分がより素直でクリーンになっており、そのせいなのか、先程のバックグラウンドノイズ低減のせいなのかわかりませんが、中低域の再現性がより明確に聴き取れます。音楽の鮮度が増して、ハイレゾ音源なんかの高音質録音を、より「楽しく」明快に味わえるようになった、と思いました。
初代HA-2がそこまで悪いというわけではないので、あくまでHA-2SEと比較して、という程度です。微妙な差なので、あまりこれ以上深く書くことも無いです。
ただ、私自身も、初代HA-2はたしかに高性能なものの、リスニングにおいて「魅力が薄い」タイプの優等生サウンドだな、と感じていた部分もあったため、今回HA-2SEにて改善されたポイントは、より音楽を楽しむ上での満足感が得られました。
そういえば、黒のみで、初代のような赤と青は無いですね |
ようするに、今回HA-2SEへのマイナーチェンジは、若干古くなってきた初代HA-2への「テコ入れ」としては十分な進化であり、これまでHA-2の購入を躊躇していた人にとっては、良いきっかけになるだろうと思います。
既存のHA-2オーナーは買い換える程のものでは無いと思いましたが、もしたとえば中古の初代HA-2か、新品のHA-2SEか、どっちを買うか悩んでいるのだとすれば、ちょっと割高でも、HA-2SEを買ったほうが良いだろう、と勧めたいです。
あと、今回は本体のみだったので残念ながら写真を撮れませんでしたが、付属品のUSBケーブル類も、これまでのストレートタイプから、HA-2SEではL字タイプに変更されたということで、iPhoneなどと積み重ねるユーザーにとっては嬉しい変更点です。
ショップに聞いてみたら、初代HA-2に付属していたストレートタイプのUSBケーブルは、使用中に負荷がかかる事が多いのか、不良品の返品が多かったと言ってました。そういった意味でもL字型は歓迎できます。
HA-2SEになることで当面は安泰かと思われますが、大型の据え置き型DACアンプHA-1も、そこそこ古くなってきたので、そろそろESS 9028系を搭載した新型なんかも登場するのかもしれません。
あと、そろそろHA-1とHA-2の中間に当たるような、もうちょっとハイエンドなポータブルDACアンプなんかも出して欲しいです。技術力はあるものの、これまでにHA-1、HA-2とヘッドホンPM-1、PM-2、PM-3と、本当に堅実で地味な商品展開を行なっていますね。もうちょっと奔放に冒険してくれても良いと思うのですが。