2016年11月29日火曜日

B&W P7 WirelessとP9 Signatureヘッドホンの試聴レビュー

B&Wのヘッドホン「P7 Wireless」と「P9 Signature」を試聴してみましたので、感想とかを簡単にまとめておきます。

なぜ二つまとめて紹介するのかというと、どっちもそこまで書くことが思い当たらなかったからです。

B&W P7 Wireless & P7
B&W P9 Signature

P7 Wirelessというのは、これまでのB&Wトップモデル「P7」がBluetoothワイヤレス化したものですが、P9 Signatureの方はそのP7をさらに上回るハイエンドモデルとして登場しました。これを書いている時点での市場価格は、P7が約4万円台、P7 Wirelessは5万円台、そしてP9 Signatureは11万円くらいです。

私自身B&Wのヘッドホンは結構好きで、すでにB&W P3、P5 Series 2、P7を持っているため、このまま順当にP9 Signatureに乗り換えるべきなのか気になって試聴してきました。


B&W

イギリスのスピーカー専門メーカーB&W(Bowers & Wilkins)社は、P9 Signatureヘッドホンの設計開発にあたり、同社ハイエンドスピーカー部門のノウハウやスタッフを惜しみなく投入したそうです。

B&Wというと、ユーザー普及率や知名度、長年に渡る普遍的な評価の高さなどを考えると、実質的に世界でナンバーワンのスピーカーブランドだと思います。

B&W 800「D3」シリーズ

幅広いラインナップの中でも、フラッグシップのB&W 800シリーズは、数々のモデルチェンジを重ねた現在でも、世界中のオーディオマニアの最終着地点として常に鎮座していますし、アビー・ロード・スタジオなど一流レコーディングスタジオのレファレンスモニターとしても採用されています。

さらに、オーディオ雑誌評論家の試聴レファレンスとして、もしくはオーディオアンプメーカーのテスト用スピーカーとして、800シリーズの存在感は尋常ではありません。世界中のアンプメーカーにとって「B&W800シリーズをちゃんと鳴らしきれるか」というのが最終関門だという話もよく聞きます。

そんな800シリーズも最近メジャーアップデートの「D3」バージョンに更新され、各方面で絶賛の嵐が続いています。これを書いている2016年11月に発表された最上位モデル800D3の価格は459万円だそうです。より小型で現実的なサイズの804D3ですら146万円、そして最下位でブックシェルフ型の805D3が88万円(+スタンドが14万円)といった感じです。

そんな高級スピーカーが好調に売れているB&Wですが、ヘッドホンというジャンルにおいては比較的新参者で、あまり高価なモデルは出しておらず、これまでの最上位ヘッドホンP7が5万円程度でした。今回のP9で初めての10万円超えモデルになります。

この話の流れは、前回紹介したFocal Utopiaと同じですね。実際、英国のB&WとフランスのFocalは高級スピーカーというジャンルにおいてライバル的な存在です。より迫力のある音楽体験を重視するFocalと比べて、B&Wというと(とくに800シリーズにおいては)技術的な完璧を追求する説得力みたいな雰囲気があります。開発陣も、ただ単に良い音がするスピーカーというだけでは済まされず、名実ともに「業界のレファレンス」という存在意義を死守するという自負があると思います。

ヘッドホンにおいては、Utopia・Elearで一気に家庭用開放型ヘッドホンを投入してきたFocalとは対照的に、B&WはP9においてもこれまでと同様にポータブル密閉型ヘッドホンというポリシーを守っています。

P7 Wireless

まずP7 Wirelessの方を聴いてみました。

すでに私は通常版のP7を所有していますし、あえてBluetoothワイヤレス版を買うまでも無いかな、なんて思ってスルーしていたのですが、今回P9を聴くついでに、せっかくなのでこのP7 Wirelessも試聴してみたところ、これが意外と面白いヘッドホンでした。

P7 Wirelessの一番魅力的な点は、本体サイズや質感などがP7と全くと言って良いほど変わらないことです。双方を手にとっても比べてみても、どっちがワイヤレス版なのか違いが分からないほどです。最近はBluetoothデバイスの小型化が進んでいますが、それにしてもよくハウジング内部に回路を詰め込んだなと思います。

イヤーパッドを外すと一気にガジェット的になります

側面に操作ボタンがあります

最近Bluetoothヘッドホンで流行っているタッチセンサー操作とかではなく、古典的なボタン操作を採用しています。

私自身はあのタッチセンサー式が大嫌いで、使うたびに誤動作を起こしてイライラさせられるので(ソニーMDR-1000Xを試聴して一番悩まされたのがコレでした)、P7 Wirelessのシンプルなボタン式インターフェースはありがたいです。

ソニーのNW-A35でも問題なくペアリングできました

P7 Wirelessを使うにあたって、ちょっと悩まされたことが二つありました。どっちも説明書をちゃんと読まない私が悪いのですが、Bluetoothヘッドホンを使い慣れたユーザーでも意表を突かれる仕様があります。

まず、有線用のケーブルがついている状態だと、ワイヤレスモードになりません。これは他社でもよくある仕様なのですが、P7 Wirelessの場合はP5やP7と同様に、まずイヤーパッドを外して、ハウジング内部の溝みたいな部分からケーブルを外さないといけません。

イヤーパッドを外すとケーブルが外せます

イヤーパッドはマグネット式で、グッと引っ張れば簡単に外せるのですが、頻繁に着脱すると、せっかくの豪華なレザーパッドが破れそうで心配になります。まあワイヤレスのみに限定して使うのであれば気にするほどのことでもないですね。

ワイヤレス電源スイッチと、充電用マイクロUSB

もう一つ悩まされたのが、Bluetoothの電源ON/OFFが、よくあるバネのついたスライドスイッチなのですが、大抵他社のヘッドホンではスライドスイッチを数秒間長押しするとライトが点滅してペアリング待機モードになるのですが、このP7 Wirelessの場合、実はこのスイッチをスライドすると電源ON/OFF、そして「ボタンのように奥に押し込む」ことでペアリング待機モードに入るという仕組みです。一見ボタンを押すことができるなんて思わなかったので、ちょっと混乱しました。

Shanling M1ともペアリングできました

とりあえずペアリングが成功したら、あとは一般的なBluetoothヘッドホンと一緒です。今回は手持ちのXperia Z3 CompactやShanling M1 DAPでペアリングしてみましたが、電波の距離も安定具合も極めて優秀でした。どちらもAPTX接続です。

P7 Wirelessの音質

せっかくのワイヤレスモデルなので、ワイヤレスモードでの音質が大事なのは重々承知なのですが、意外にも有線接続での音質が良かったです。

理由はわからないのですが、P7 Wirelessを有線で使ってみると、通常のP7よりも音が良いように聴こえます。具体的には、P7 WirelessのほうがP7よりも空間が広く、中域の抜けが良く、P7の密閉型ハウジング特有の変な響きが低減されています。

P7は優秀なヘッドホンなのですが、あえて弱点を挙げると、たとえばピアノなどの中高域の打撃音がハウジング内で複雑に反響するような違和感があります。ボヤけるのではなく、むしろ音に余計な響きが付帯するようなもどかしさがあります。

高音も低音もわりとコントロールが効いていて、コンパクト密閉型ヘッドホンとしては上々の出来栄えですが、この中域の響き過剰のせいで、なにかしら騒がしい、ホットなサウンドに仕上がっています。また、そのせいで空間の距離感が不正確で狭く感じてしまうようです。そういった部分がP7 Wirelessで若干改善されたように思います。

両者の違いは些細なもので、マイナーチェンジ程度なのですが、確実に聴き分けられます。もちろんP7のホットなエネルギーみたいなものを好き好んでいる人にとっては、このP7 Wirelessでの変化はむしろ退屈で地味に感じるかもしれません。

ちなみに、私の持っているP7は、2013年の発売当初に購入した初期モデルなので、もしかしたらP7 Wirelessに限らず通常版P7もなんらかのマイナーチェンジでも行われたのかと思い、新品のP7も聴いてみたのですが、こちらは私の初期P7とほぼ同じサウンドでした。つまり、P7 Wirelessだけ音色が特別だということです。

私の古いP7(左)と、現行P7・P7 Wireless(右)

もしかしてイヤーパッドに秘密があるかと思って両者を比較してみたところ、よけいに混乱する事態になりました。私の初期P7だけイヤーパッドの穴が楕円で、現行型P7とP7 Wirelessはどちらも穴の下半分が「カマボコ」っぽい形に塞がれています。

ただ、残念ながら、これらのパッドを交互に交換してみても、サウンドの変化は一切感じられませんでした。そもそもこの塞がれている部分は、ハウジング側を見ると音が出ていない部分なので、結局どうでもいいみたいですね。(低音の空気の流れとかは若干変わるかもしれませんが)。そもそもP7とP7 Wirelessのサウンドの違いついての説明にはならないです。

Wireless(左)はハウジングがプラスチック?

結局、音の違いの具体的な理由らしき理由として考えられるのは、P7 Wirelessはハウジングが金属ではなくプラスチックで作られているみたいです。多分Bluetooth電波を送受信するため、金属製だとダメなのでしょう。

イヤーパッドを外してみると一目瞭然ですが、P7とP7 Wirelessの簡単な見分け方として、ハウジングとイヤーパッドの間にクロムメッキパーツが見えるのがP7で、黒いのがP7 Wirelessです。また、P7 Wirelessはハウジング内部に電子回路やバッテリーが埋め込まれているのも、サウンドに影響を与えそうです。

P7 Wireless(右)はクロムではなく黒です

そんなわけで、有線接続でのサウンドが思いのほか良かったP7 Wirelessですが、Bluetooth(スマホからAPTX)で使ってみたら、案の定有線よりも音が良くないです。

せっかく高音質ワイヤレスヘッドホンとして売っているので申し訳無いのですが、やはり有線の方が良い音のように聴こえます。ワイヤレスだと、なんだかヒョロっとした不安定な線の細さ、立体感の乏しさ、そして乾燥したような潤い不足が気になります。

べつに耐え難いほど悪いサウンドというわけではなく、ちゃんとP7らしく鳴っているので、たとえば外出先とかであまりこだわらずに使う分には十分素晴らしいサウンドです。

最近はBluetoothワイヤレスヘッドホンが星の数ほど登場しているのですが、現実問題として、どのメーカーも公然と主張している「ワイヤレスなのに高音質」という宣伝文句は、まだまだ100%鵜呑みにするには時期尚早だと思います。

もちろん数年前のBluetoothよりは格段に良くなっているとは思いますし、最近ではAPTXやソニーのLDACなど、データ圧縮技術も向上して低遅延・高音質の進歩は目覚ましいのですが、そうなると、残る問題はそこではなく、アンプ回路にあります。

まずデジタル音楽データをAPTXなりLDACなりでヘッドホンに送り届けたら、そこで終わりではなく、そのデータをアナログ信号に変換して、ヘッドホンのドライバをパワフルに駆動するためのアンプは、全部ヘッドホン側の役目です。

ようするに「ポータブルDACアンプ」相当の回路がヘッドホンのハウジング内部に収納されているわけで、それがコンパクトで、しかも省エネな回路であれば、それこそ音質面でのボトルネックです。

メーカーとしては、Bluetoothヘッドホンというと、より軽量で、10時間・20時間といった長時間再生目指しています(P7 Wirelessは17時間再生だそうです)。その一方で、我々ヘッドホンマニアは、巨大で燃費の悪いDAPやポタアンなんかを日々喜んで使っています。

たとえば今回P7 Wirelessを有線で試聴した際にはChord Mojoを使いましたが、もしMojoではなく、もっとチープな豆粒程度の省エネアンプを使って鳴らしていたら、さすがに同じ音質は得られません。

試しにP7 Wirelessをスマホ直挿しで使ってみたところ、立体感に乏しいスカスカなサウンドで、満足に駆動できているように思えませんでしたので、これならワイヤレスで使う方が良いかな、という気持ちになりました。

ようするに、普段外出先でDAPやアンプなどを持ち歩かずに、スマホでスマートに音楽を聴く人であれば、P7 Wirelessをワイヤレスモードで使っても十分な満足感が得られると思います。

そして、いざ自宅に帰ったらP7 Wirelessにケーブルを接続して、卓上の高音質ヘッドホンアンプなんかで駆動すれば、さらにワンランク上の優れたサウンドが楽しめる、という一石二鳥なヘッドホンと考えれば、P7 Wirelessも案外悪くない提案です。結局このP7 Wirelessが素晴らしいのは、ワイヤレス機能を搭載しながら、P7そのものの魅力や本質を失っていないことだと思います。

P9 Signature

今回の試聴で気になっていたのは、やはり、B&W最上位モデルとして堂々デビューしたP9 Signatureなのですが、実際手にとってみると、あまりそのありがたみが感じ取れません。

とくに、最近FocalのUtopiaやソニーのMDR-Z1Rなど全く新しい超高価なヘッドホンが立て続けに登場したせいで、せっかくのB&W渾身のP9 Signatureも注目を得られず不憫です。

P7とP9 Signature

B&Wは、P9においても頑なに「折りたたみ式・ケーブル片出し・ポータブル・密閉型」という路線をキープしており、基本的にP7と同じコンセプトの延長線です。もしこれが「P7 Series 2」みたいな名前で発売されたら、それで納得してしまうくらい類似性があります。

そろそろ本命の室内リスニング向け開放型ヘッドホンなんかでB&Wの底力を見せつけて欲しいのですが、最近そういうのは市場に溢れかえっていますし、B&Wの本心としては、「そんな余裕があるならB&Wスピーカーを買え」と怒られてしまいそうですね。

40mmドライバが傾斜しています

なにはともあれ、P9はP7で培った技術をベースに、正統進化でさらなる高みを目指した意欲作です。目立った変更点としては、ドライバが新開発のものになり、配置もP7のような左右並行ではなく傾斜したスタイルになっています。

ベイヤーダイナミックT1やゼンハイザーHD800とかを皮切りに、ここ数年でこの傾斜配置を採用するヘッドホンが続々と増えましたが、ドライバからの出音が直接鼓膜にぶつかるのではなく、外耳というワンクッションを置くことで自然な音響が体験できるというメリットがあります。

極端な話、傾斜することでステレオスピーカーの配置を模倣しているわけですから、スピーカーメーカーとして多大なノウハウを持っているB&Wにとっては、この辺りのチューニングはまさに「お手の物」といった感じでしょう。

搭載しているドライバは新開発ということですが、メッシュに隠れてよく見えません。P9のスペックを見ても、40mmドライバで22Ω・111dB/Vということで、数字上ではP7と全く同じです。

全体的にデブ化しています

折りたたんだ状態

P9の重量は413gなので、大型ヘッドホンの中でもかなり重い部類です(ベイヤーダイナミックT90とかと同じくらいです)。P7が290gでしたから、相当な増量ですね。

私がなぜB&Wに家庭用ヘッドホンを開発して欲しいと思っているのかというと、このP9を手にとって見る限り、もはや「ポータブル」という主張には無理があるように思います。

他社でも、たとえばAudeze EL-8やゼンハイザーHD630VBとかもデカイなと思いますが、さすがにラグビーボールみたいなP9をバッグに入れて持ち歩いたり、外出先で使ったりするには重くて大きすぎて躊躇してしまいます。

P7と比べて寸法が大きくなったというわけではないのですが、ひとつひとつのパーツが肥大化しており、たとえばもしP7がビジネスマンだったとしたら、P9は相撲取りみたいなシルエットです。ヘッドバンド、イヤーパッド、ハウジング、全てのパーツが「太く」なっています。

身長が2メートルもあるような欧米男性が使っている広報写真を見たら「カッコいい」と思えるのですが、実際に小柄な日本人とかが装着してみると、P7ですら大きめだったのが、P9ではさらに不釣り合いなほど巨大に感じます。

折りたたみヒンジと、ヘッドバンドを最長に伸ばした状態

欧米人といえば、欧米のヘッドホンによくありがちな問題点として、案の定P9もヘッドバンドの最大伸張がちょっと短いです。

普段ゼンハイザーやベイヤーなどのヘッドバンド調整は中間くらいでちょうどよい私でも、P9の場合は、「まず最大まで伸ばしてから、ほんのちょっと戻す」くらいです。つまり、装着が無理な人もきっといるだろうなと思えるくらいのサイズ感だったので、購入を検討しているのであれば、まず試着してみることをおすすめします。

いかにも高級そうな、ザラザラしたレザーです

ヘッドバンドも同様で、なんだか果物の皮みたいです

P9のデザインは、デビュー時の写真を見たときには、なんだか地味でパッとしないな、なんて思っていたのですが、実際に手にとって眺めてみると、まあまあ悪くない気もします。

一番の注目点はレザーです。ヘッドバンドやハウジングの外側にゴツゴツした分厚いレザーが張ってあり、手触りは高級感に溢れています。

P7の黒いレザーは、革靴やスーツケースを彷彿させる、ビジネスマンに合うイメージがあったのですが、P9は旅行カバンとか、女性のハンドバッグなんかを連想させます。どちらも質感は極上ですが、好みは分かれるとおもいます。変なたとえですが、P7が「バリバリ働くキャリアビジネスマン」だとすれば、P9は「クルージングと海外旅行が趣味の、引退したご隠居」みたいなイメージが頭に浮かびます。

ヘッドバンドの内側はこんな感じです

イヤーパッドもP7のやつが分厚くなったみたいです

外側はザラザラしていますが、ヘッドバンドやイヤーパッドなど肌に当たるパーツはどれも柔らかくクッション性が高いデザインです。とくにP5やP7の場合、ヘッドバンドが細くて硬かったので、長時間装着していると頭頂部が痛くなってきたのですが、P9はフカフカでとても快適です。イヤーパッドを含めて全体的に肉厚なので、装着感もピッタリ包み込まれるような感じで、2-3時間の試聴でも快適でした。

イヤーパッドはP7のものより地味になりました

ところでP9のイヤーパッドなのですが、なんだかP7のやつと比べて設計が地味に見えるのが面白いです。

P7のイヤーパッドには、実は通気口が搭載されています

というのも、たしかP7のイヤーパッドは、クッションとハウジングの間に特殊な通気口みたいなグリルを設けて、それで音響チューニングを行っている、みたいなことが紹介されていたのですが、今回P9においては通気口らしきものが見えません。

P9の公式サイト情報では「デュアルキャビティイヤークッション」と書いてあるので、たぶん同様の技術はなにかしら搭載されているのでしょう。

それにしても、どうでもいい話ですが、B&Wの日本公式サイトって、なんかオーディオに精通していない翻訳業者が自動翻訳ソフトを使ったみたいな違和感があって、いつも気になってます。もうちょっと代理店の人とかがチェックしたほうが良いと思うのですが。たとえば今回のP9サイトでも、アンバランス3.5mmのことを「3ポール不安定ステレオ」とか、External large pole magnetを「外部の大極磁石」とか、なんか意味不明な単語が並んでいました。

ケーブルはイヤーパッドを外すと着脱できます

P7と同様に、イヤーパッドを外すことでケーブルが着脱できます。2.5mmステレオ端子の片出しケーブルで、P5 Series 2と同じ形状だそうです。高価な割に、地味なケーブルですね。ポータブルなのに仰々しい極太ケーブルとかだったら逆に困りますが。

アーム部分は地味で無駄に太いと思います

個人的に、ヘッドバンドのアーム部分がゴツい金属板になったのはあまり好きではありません。これまでのB&Wヘッドホンはクローム調の針金のような細いアームが独自の魅力を放っていたと思うのですが、今回の四角い板は表面もブラスト加工みたいなザラザラした質感で、とにかく地味です。ただでさえ重いヘッドホンなので、もう少し積極的な軽量化の努力も見せて欲しいです。

ところで、P9のデザインは全体的にラグジュアリーというか百貨店で売ってそうな感じの地味系なのですが、唯一面白いと思ったパーツがあります。ヘッドバンドとハウジングを連結している、グリルっぽい櫛のようなデザインのパーツなのですが、これがどういう素材なのかいまいちよくわからないのですが、ハウジングを動かすと、かなり広範囲にグニャグニャと曲がります。

ハウジングを指で押してみると・・

グリルのようなパーツが、これくらいグニャっと変形します

上記写真のように、一般的な回転ヒンジ機構の代わりに、このグリルっぽいパーツがねじ曲がることでハウジングが顔の輪郭にピッタリとフィットするような仕組みです。(借り物なので、B&Wのロゴ部分に保護シールが張ってあります)。

公式サイトによると、この部分でハウジング振動がヘッドバンドに伝わるのを防ぐことができるそうです、余計な回転メカニズムとかよりも無駄が無いスマートなデザインですね。

P9の音質

P9の試聴には、ポータブルヘッドホンということで、Cowon Plenue Sを使いましたが、せっかくの高級ヘッドホンということで、よりパワフルなアンプを使ったらどうだろうと思い、Chord MojoとSimaudio Moon 230HADも使ってみました。

結論から言うと、それぞれのアンプで多少なりとも音色の差はあれど、P9自体は鳴らしやすい部類のヘッドホンなので、どのアンプで使っても十分な性能が引き出せます。パワー不足のような感じはしませんでした。

P9の音質は、そのルックスやデザインのイメージとなんだか共通しているような気がします。第一印象では拍子抜けするくらい地味で面白味のない感じだったのですが、時間をかけて味わい、細部を観察することで、徐々にユニークな魅力に共感できるようになりました。

まず、P9はエージングによる影響が格別強いのかもしれませんが、試聴機を開封直後に初めて聴いた時は、とても不自然なサウンドに驚き失望してしまいました。低音がボコボコと響いて、音抜けが悪く、チープなストリート系ヘッドホンを聴いているかのような感覚でした。

値段が高いわりに、音はあまり良くないな、なんて思いながら、一週間後、二週間後、と定期的に試聴を続けた結果、段々と不自然さが消えていったように思います。この試聴機は私以外にも多くの人たちが使っていたので、エージング時間はかなり蓄積したと思います。自分の耳が慣れただけ、という事もあるかもしれませんが、それだけでは説明できないレベルの改善を体験しました。

三週間経った今、改めてもう一度聴き直してみたのですが、だいぶ良い印象になりました。P9というヘッドホンは、オールマイティな万能モニターヘッドホンというよりは、B&Wの主張を色濃く体現した、独自性の強いヘッドホンだと思います。

P9を聴いていると、なんだかFocalがUtopia・Elearで目指したサウンドと類似性があるというか、(密閉型と開放型という違いはありますが)、これまでの高解像ヘッドホン勢とは別路線の、スピーカー的な音色のブレンドや、質感の奥深さ、みたいなものを大切にしている印象を受けます。

もちろんFocalと同じ音という意味ではないのですが、どちらのメーカーも、チューニングのポリシーに何らかの明確な狙いが感じられる、というのが共通点だと思います。

P9のサウンドは、一言で表すと「濃い存在感」というイメージが浮かびます。P7と同様に、中域重視で決してシャリシャリしない、コンシューマリスニングに向けて調整されたサウンドと言えるのですが、P9はP7よりも音像がグッと存在を主張するため、音楽と背景の分離が明確で、メリハリが強調されています。P9を聴いてからP7を聴くと、なんだか淡白でサラッとした味気無さすら感じてしまいます。

音像のイメージも、P7ではいわゆる典型的な密閉型らしい間近な定位だったのですが、P9ではリスナー前方の数メートル先くらいに音楽が集約されており、たとえばテーブルの上に置いてあるミニチュアを眺めているような感じです。これはドライバが傾斜していることによる効果かもしれません。

ドッシリと表現力が深い中域を誇るサウンドや、密閉型ながらイメージしやすい音場表現など、たとえばフォステクスTH610に似ている部分があるかもしれません。また、Focal Elearもそれに近いスタイルでした。ただし、音像に限って言えば、フォステクスもElearも、P9と比べると左右にも広がるサラウンド的な空間を持っており、一方P9はもっとリスナー前方に全部の音響イメージをまとめるような演出です。

開放型ヘッドホンのように四方に広がっていく無限の空気が感じられるタイプの音場ではなく、もっとプライベートな、円形の観客席からエキサイティングなサーカスのステージを観覧しているかのような、一種の超然とした隔離感もあります。

音像がセンターに集約されるというと、なんだかステレオの分離が悪いような印象を与えてしまいますが、そこがP9の優れた部分で、決して音像同士が混じって濁ってしまうような悪影響は感じません。むしろ無駄に発散しないので、音楽全体を把握しやすく、リスニング中に注意散漫にならず、フォーカスしやすくなるというメリットがあります。

なんにせよ、密閉型としてはユニークな立体表現です。脳内でガヤガヤするようことが無く、常に一歩退いたような余裕があるので、たとえばAudeze EL-8やOPPO PM-3など平面駆動ドライバの密閉型ヘッドホンなどとは真逆のプレゼンテーションです。

P9を試聴していて気になったのが、低音の表現です。量感はP7よりもしっかりとしており、しかもその鳴り方がユニークです。

常に低音がモコモコしているというわけではないのですが、普段聴き慣れている曲をいくつか試聴に使ってみたところ、その中でも低音が普段通りに聴こえる曲と、過剰にボンボン鳴り響く曲と、二通りの結果になり、なんだか予測不能な感じでした。特定の周波数帯にピークがあって、そこに楽曲の低音楽器(キックドラムとか)がぴったり重なると過度なブーストが生じるのかもしれません。

たとえば、とあるクラシック音楽を聴いてみたら、そのような低音膨らみも感じられず、いわゆる平均的な周波数特性で、美しく大満足な鳴り方だったのですが、次に別のジャズのアルバムを聴いた際には、ウッドベース奏者の演奏がズシンドカンと大爆音を発して、普段とはまったく違う表情を見せました。

結局のところ、容積の少ない密閉型ハウジングなので、ドライバからの反射音を完全に排除することは不可能なのですが、それがP7の時はピアノ打鍵など中音域に過剰な響きを与える帯域が強調されているのですが、P9の場合は中域は良好な代わりに、今度は重低音の特定帯域がピンポイントで膨らむような感じです。

P9の新品を試聴した際には、この低音の響きがもっと不明瞭な、ボコボコと箱鳴りする感じだったのですが、エージングを経た後には、たしかに低音の量感は依然あるものの、鳴り方がもっとシャープで、パンチのある感じになりました。

このままエージングを重ねていくことで、さらにコントロールが効いた鳴り方に鳴るのかどうかは不明ですが、一番肝心なのは、試聴時には出来るだけ幅広いジャンルで、多くの楽曲をテストしてみることをおすすめします。


ケーブルとか

そういえば、P7 Wirelessの件で言い忘れていたのですが、B&Wヘッドホンに付属している純正ケーブルは総じてあんまりパッとしません。

私のP7で常用している、オヤイデが出していたPEC/P7という赤色のアップグレードケーブルはけっこう良いです。P5 Series 2用のPEC/P5S2というのもあるそうです。

自分のP7と、借り物のP7・P7 Wireless

P7のケーブル端子は2.5mm片出しなのですが、ハウジング内で溝に収める形状なので、コネクタのスリーブ部分がこれにピッタリ入る大きさじゃないと装着できません。そのため、P7用と称しているアップグレードケーブルはこのPEC/P7以外に見たことがありません。

PEC/P7ケーブルをP7 Wirelessに装着したところ

たしかP7発売時にB&Wとタイアップしてバンドルセットとかも販売していたと思ったので、自分の周りのP7オーナーを見ると、この赤いケーブルを半ば純正ケーブルかのごとく使っている人が多いです。価格も5,000円くらいでまあまあ手が出しやすいです。

このPEC/P7は純正ケーブルよりも柔らかく細いので、取り回しは楽ですし、サウンドも純正ケーブルを尊重しながら、若干息苦しく不足がちだった高域を補う役目を果たしてくれます。高域のヌケの良さや、輝く感じがかなり向上するので、P7の新たな一面を見るという意味で交換する価値があります。

そういえば話はそれますが、ソニーのMDR-Z7やMDR-Z1Rも、何度聴いても純正ケーブルがあまりパッとしない感じがして、そのせいでヘッドホンそのもののインプレッションの足を引っ張っているような印象を受けます。ケーブルを交換するとグッとポテンシャルが上がるヘッドホンの例として、B&W以外でソニーがまず頭に浮かびました。あとHD600・HD650とか、AKG全般とか、思い起こせば色々ありますね。

残念ながらP9にPEC/P7ケーブルは装着できませんでした

今回P7 Wirelessでこのケーブルを装着してみて、P7同様に高域のクリア感が増して良い傾向になったので、P9でも試してみたかったのですが、残念ながら装着できませんでした。

P9は実はP7と共通ではなく、P5 Series 2と同じ形状みたいです。どちらも2.5mm片出しなのですが、P5 Series 2の方がコネクタのねじ曲がる場所が短いため、P7用ケーブルではピッタリ入りません。PEC/P7ケーブルをかなり無理に曲げてもスロットに収まりませんでした。PEC/P5S2ケーブルなら大丈夫そうですが、残念ながら持っていません。

というか、P9のような高級ヘッドホンが登場したからには、さすがにケーブルメーカーから専用アップグレードケーブルもおいおい出てくることでしょう。

P9のサウンド傾向からして、私にとってはちょっと低重心すぎる印象があるので、純正ケーブルよりももうちょっとクリアでサラッとしたキラキラ感を付加するようなケーブルと合わせてみたら面白そうです。(勝手な憶測ですが)。

まとめ

B&W P7 WirelessとP9 Signatureという二つのヘッドホンを試聴してみましたが、どちらもB&W社のスピーカーメーカーとしての感覚や主義みたいなものが伝わってくる上質な仕上がりでした。決して他社の見よう見まねで適当に作ったような無難な商品ではなく、むしろ白紙の状態から築き上げた芸術作品のようです。

P9の場合、やはり気になるのは価格です。私自身は11万円というのはちょっと高いので、もうちょっと安くなってから考えてもいいかな、といった煮え切らない結論に至ってしまいました。

値段相応の音がしない、という意味ではないのですが、なんというか、公式サイト情報などで、あまりにもフィーリング的な感性や、外観のゴージャスさについて主張しすぎていて、我々オーディオマニアとしては逆にコスパが悪いような印象を受けてしまいます。

P7・P7 Wirelessも、同様にゴージャスなデザインなのですが、それらの5万円台という値段は、いわゆるアップルストアや百貨店の家電ギフトコーナーとかで販売していても不思議ではない価格帯だと思います。一方でP9の11万円というのは、ヘッドホンの相場として結構本気モードの価格で、カジュアル路線のラグジュアリーとしては高価な部類です。

私の個人的な感想として、B&W P9は、UltrasoneのEditionシリーズみたいに「一体どの部分にカネがかかってるんだ?」と疑問に思ってしまうような、微妙な境界線に立っているかのようです。そこがちょっと浮世離れした印象があります。

もちろん母国のイギリスやヨーロッパなどでは、日本よりももっと盛んな技術情報交換なんかが行われているのかもしれませんが、海外の雑誌レビュー記事なんかを見る限りでは、やはりB&Wヘッドホンというのは、旧体制的な、フルサイズオーディオの片手間みたいな扱いを受けている気がします。対照的に、Focal UtopiaとElearのほうは、発売と同時にまたたく間にヘッドホンマニア勢で完売したのと比べると、この「口コミレベルでの話題性の差」は一体どこで生じたのか、とつくづく不思議に思います。

話題性はさておき、P9そのものは究極の密閉型ポータブルヘッドホンを求めている人はぜひ検討すべきモデルだと思います。音質に関しては、密閉型ヘッドホンですから開放型よりも個性が強い傾向があるからこそ、自分に合った唯一無二の存在になりうる可能性があります。

私が最近購入した密閉型ヘッドホンを振り返ってみると、たとえばフォステクスTH610やベイヤーダイナミックDT1770 PROなんか、どちらも7万円前後の値段に見合っているとは思えないほど簡素で古典的なデザインなのですが、サウンドに限っては、密閉型という枠組みを超越した、P9に引けを取らない高い音質を誇っています。P9もこれらくらいシンプルなデザインで、価格も10万円を切るくらいだったら説得力のあるモデルだと思うのが率直な意見です。

一方で、P9はB&W特有の音色や音像の巧みなプレゼンテーションという、TH610やDT1770 PROでは味わえない強みがあるので、結局何度か試聴を繰り返していくうちに、最終的には根負けして買ってしまうかもしれません。私にとってP7もP5 Series 2もそんな流れだったので、B&Wというのはたぶんそういう長く付き合うタイプのメーカーなのでしょう。