Acoustune HS1697TI / HS1677SS / HS1657CU イヤホンを試聴してみたので、感想を書いておきます。
Acoustune HS1677SS・HS1697TI・HS1657CU |
2020年6月発売、今作で第四世代モデルだということです。最近では珍しいシングルダイナミックドライバー型、そしてモデル名の通りチタン・ステンレス・ブラスの三種類の金属ボディから選べて、それぞれ音が違うという、オーディマニア泣かせの商品展開です。
過去モデルは聴いたことがありませんが、個人的にダイナミック型は好きですし、結構評判が良いようなので試聴してみました。
Acoustune
Acoustuneは香港のメーカーということですが、このイヤホンは日本製と書いてあり、公式サイトを見ても開発には日本の部品や線材メーカーと交流があるなど、そのあたりの事情はあまりよくわかりません。
旧作はもっと派手でした |
実は私自身Acoustuneの名前と見た目くらいは知っていたものの、よく雑誌やネット記事とかで紹介されていても、いかにもメカメカしい奇抜なデザインや、旧作は赤や青の派手なアノダイズド色だったりで、なんかのアニメコラボとかかな、という程度で無視していました。
外側のネジを引っ張ると変形するとか、そういうギミック系の変なメーカーだろう、みたいなイメージです。
最近になって、そこそこ高価なわりにレビューが好評で、実は結構真面目に作られているイヤホンだという話を聞いたので、とくに選択肢の少ないシングルダイナミック型という事もあり、興味を持ちました。
HS1697TI・HS1677SS・HS1657CU |
どれを買うべきか |
個人的に、今作のような「三種類の金属から選べる」という売り方は実はあまり好きではありません。
値段は7~11万円と、他社のハイエンドイヤホンと比べてもそんなに高くないので、そこまで人気なら買ってみようかなと思ったのですが、では三種類から選ぶとなると、どれを買うべきか決めかねてしまいます。
それこそモデルごとに値段が倍くらい違うなら、予算の都合で決められますが、今回はブラス、ステンレス、チタンでそれぞれ72,000円、83,000円、110,000円と、そこまで大きな価格差が無いというか、頑張ればなんとかなりそうなギリギリの価格設定なのが、さらに判断を鈍らせます。
普通なら、とりあえず一番高いやつを買えば良いのですが(あとで疑念が湧いても「でも一番高いやつだし」と考えれば心が落ち着きますし)、しかし、こういった金属の場合、素材の原価や加工の難しさなど製造コストの差が反映されがちで、必ずしも高価な方が高音質とは言い切れません。
開発陣もサウンド面でどれか一つに絞れなかった、と言われれば納得できますが、それをユーザー側に委ねるのも困ります。きっと世の中には三種類揃えるような熱烈なファンもいるのでしょうけど、やっぱりコロナの影響でなかなか店頭試聴が難しい状況では、オンラインで悩まずに買える「間違いない」モデルの方が売れそうです。
今回試聴しながらAcoustuneのサイトを見たら、かなりマニアックな技術集団みたいなメーカーのようなので、開発者たちが自分なりに納得できるモデルを作りたいという感じは伝わってきます。(高利の売れ筋を狙っているならシングルダイナミックなんて今どき作らないですし)。
金属というとJVC HA-FD01を思い出します |
金属部品によって音が変わる、というのは、以前JVC HA-FD01で同じようなアイデアがありました。そちらは三機種ではなく、一つのイヤホンに三種類の金属ノズルが付属していて自由に交換できるというギミックですから、悩まずに買えます。さらに限定版で追加金属モジュールが出たりしてました。
このJVCで、ほんの小さな部品を変えるだけで音が想像以上に変化することを実感しているので、今回Acoustuneも同じだとすれば、購入には慎重になってしまいます。
そんなわけで、今回三種類を同時に聴き比べできたのはとてもラッキーでした。
ガンプラの関節部品みたいなデザインです |
加工が綺麗ですね |
本体デザイン自体は三種類とも同じで、しかも外側のパーツはどれもアルミだそうです。ブラスモデルで一番よくわかるように、内側(ブラスだと金色)の部分がそれぞれチタン・ステンレス・ブラスなのだそうです。
チタンとステンレスは見分けがつきにくいですが、外側のアルミ部分が銀色なのがステンレス(写真左)、青っぽいグレーなのがチタン(写真右)です。本体側面にモデル名が刻印されているので、間違えるということはありません。
本来ならHS1697TI・HS1677SS・HS1657CUと呼ぶべきですが、めんどくさいので今回はそれぞれチタン、ステンレス、ブラスと呼ぶことにします。
どれも10mmダイナミックドライバーを搭載しており、振動板素材にミリンクスというポリマーを使っていると書いてありますが、実際ポリカーボネートやPMPなど一般的な硬いポリマーと比べてどういった利点があるのかは不明です。
さらに、ステンレスとブラスは素のままの振動板で、チタンモデルのみチタン薄膜を加えてあると書いてあります。そのためチタンだけ特別な鳴り方をすると予想できます。余計な手間がかかっているので、値段も三機種の中で一番高価です。
振動板のレスポンス向上のために金属コーティングを施すのは、多くのメーカーで使われている手法ですが、やりすぎるとサウンドに金属っぽい「鳴り」のクセがついてしまいがちなので、実際に音を聴いて比べてみるまでは、必ずしも優れているとは言い切れません。
公式サイトより、第三世代HS1650CU・HS1670SS |
ちなみに今作で同社イヤホンシリーズは第四世代だそうですが、前世代のモデルHS1650CU・HS1670SSなどはほぼ同じデザインなので、相当なマニアでもない限り見分けがつきません。
唯一わかりやすい点では、後述するようにケーブルコネクターが変更され、付属ケーブルも銀色から黒になった事で判別できます。
限定モデルHS1695TI |
また、前世代の通常モデルはブラスとステンレスのみで、その後、特別な限定500台モデルとしてHS1695TIというチタンモデルが登場しています。
ただし、この限定チタンモデルは金ピカの派手なデザインで、人を選ぶというか、不動産王とかでもないと恥ずかしくて敬遠すると思うので、今回正式に通常モデルとしてチタンが出て、しかもガンメタルの地味目な色になったのは嬉しいです。
二重構造のボディ |
チタンも同様です |
ところで、近年のイヤホンデザインのトレンドとして、中と外で異なるボディを組み合わせた二重構造の設計が増えてきました。
製造に余計な手間がかかりますが、ドライバーを格納する内側部品は音響設計のみに専念して、外側部品は耳へのフィット感に専念できるので、従来のような適当なシェルにドライバーを詰め込んだだけのデザインと比べると、柔軟な設計が可能になります。
また、こうすることで、部品ごとにモデル間で転用できるので、開発や製造のリスクも回避できます。
やはりメーカーとして「メーカーの音」を持っている事が大事で、モデルごとに基礎設計がバラバラで見当違いの音だと固定ファンを生み出すのは難しいと思います。
裏面は意外と普通です |
Acoustuneの内部ボディは、出音ノズルから外側まで一直線の長い筒状になっているのがわかります。写真で見た時は、外側に突き出したネジみたいな部品が脱落しないかと心配だったのですが、実は一体型で外せないようです。
ドライバー振動板がこの筒の中間にあるとすれば、長いバッフルのようなもので背圧を処理して反射を抑える設計なのでしょうか(B&Wのノーチラスツイーターみたいに)。それともダンパーみたいなもので内圧を前後対象に調整しているのでしょうか。ただの奇抜なデザイン要素だけではないという感じはします。
その一方で、裏面だけを見ると意外と普通な形で、耳に接触する部分はちゃんと角張ったエッジが無いようスムーズに加工されています。イヤピースを装着するノズルも綺麗で丁寧に作られていますね。
やはり高価なイヤホンなだけあって、切削加工や表面の質感(光沢やマットの使い分け)、面取りや組付けなど、かなり高水準に作られています。ケーブル端子とハウジングに統一感があるのも良い感じです。大量生産には向いてなさそうな、小規模メーカーならではのデザインです。
Campfire Audio Andromedaと比較 |
アルミハウジングというとCampfire Audioが代表的ですが、こうやって並べて比べてみるとCampfireはゴロッと角張った塊のようなデザインなのに対して、Acoustuneは曲面を多用した流線型なのがわかります。
サイズもAcoustune単体で見ると巨大なように思えますが、実際はかなりコンパクトに耳に収まるサイズ感です。
ベイヤーダイナミックAK T8iEと比較 |
Dita Dreamと比較 |
他にも、同じシングルダイナミック型のベイヤーAK T8iEやDita Dreamと比べてみると、だいたいのサイズ感が掴めると思います。やはり、ゴツい見た目と比べて、意外と小さい、という印象です。
T8iE、Dreamのどちらも個人的に大好きなイヤホンなので、新たにシングルダイナミックのライバルが増えたのは嬉しいです。
パッケージ
三機種それぞれ外箱の色が違うだけで、パッケージの中身は同じです。シンプルでわかりやすい、良いデザインだと思います。
外箱 |
アルミケース |
蓋を開けると |
ようやく本体 |
スリップケースの中に黒い厚紙ボックス、さらにその中にアルミケース、さらに厚紙の蓋、そしてイヤホンとソフトケース、といった具合に、やりすぎなほど高級感のあるパッケージです。
アルミケースはカッコいいですが、正直使い所が思い浮かばないので、単なる過剰包装とも言えます。友人宅に持っていって自慢するには最高かもしれません。自作で仕切りを作ればDAPとかを入れても良いですね。
何十万円もするような高級機ならわかりますが、三機種の中でも最安のブラスモデルなら7万円程度と、そこそこ中堅価格と言えるので、それにしては気合が入りすぎたパッケージのようにも感じます。
イヤピースとか |
イヤピースはサイズが書いてあるトレイに小分けしてあるのは嬉しいです。シリコンはAcoutune AET07・AET08という単品でも販売している物なので、品質は良さそうです。
これら二種類のシリコンイヤピースは外側のサイズは同じなのですが、イヤホンノズルを装着する芯の部分の硬さが違います。AET07は一般的な柔らかいタイプで、AET08はAzla Sednaとかみたいに芯が硬い素材になっています。
装着感や音質に関しては個人差が大きいので、どちらが良いというよりも、二種類から選べるというのが大事です。店頭試聴とかでも、自分に合わないイヤピースだったせいで、フィット感が悪いとか、低音が出ないなんて悪印象を受ける人も案外多いと思います。(私はマニアなので試聴の際には常に四種類くらい持参していますが・・・)。
今回も、私の耳では硬いAET08の方がフィットが安定しましたが、AET07と比べると高音が若干強調される感じがしました。逆にDita DreamとかだとAET07の方が耳にフィットするので、どちらが自分に合うかはイヤホンごとに試してみるまでわかりません。
今まで見たことが無いコネクターです |
個人的に、今回実機を触ってみるまで購入をためらった理由の一つに、ケーブルに特殊コネクターを採用している、という点があります。
ケーブルの品質や扱いやすさは写真で見ただけではわかりませんし、万が一、針金みたいにカチカチのケーブルで使いづらかったり、断線しやすいなど不具合があった場合、特殊コネクターだと手持ちのスペアも無く、社外品の選択肢が限られるのが困ります。
これまでのAcoustuneは一般的なMMCXタイプだったのですが、今回から「Pentaconn Ear」と呼ばれるコネクターに変更されています。Pentaconnといえば4.4mmバランス端子の名前ですが、それと同じメーカーが作ったからだそうで、4.4mmバランスとは直接関係無いので紛らわしいです。
一見MMCXと似ていますが、こちらのほうが若干大きく、MMCXとは逆に、センターピンはイヤホン側、カップはケーブル側にあります。接続時は明確なクリック感は無く、イヤホン側のバネリングでギュッと圧着される感じです。MMCXのように勝手にクルクル回ることもなく、2ピンよりも曲げ剛性は明らかに高いので、コネクターとしての素質は良好です。イヤホンとケーブルの両方に青と赤で左右色分けされているのも気が利いていて嬉しいです。
デザイン的にはMMCXよりもオーテクのA2DCに近い感じでしょうか。ただし互換性は無く、A2DCの方がコネクターが断然長く、パチンと接続します。
MMCX・2PINのどちらも優れた規格とは言い難いので、次世代のコネクターを提唱するのは歓迎しますが、普及してくれないと困ります。以前買ったUltimate Earsもまた別の新コネクターになってましたし、多くのイヤホンメーカーがMMCX・2PINの不具合や故障の多さに困り果てて新コネクター採用に積極的なのは理解できますが、足並みが揃っていないのはユーザー側としては不便です。
付属ケーブルは、実際手にとって使ってみると、かなり良い感じなので一安心しました。見た目以上に柔軟性があり、マットな質感でタッチノイズも少ないです。耳周りにループが無いというのは意外ですが、クセがつきにくいので耳から外れにくく、しっかり安定してくれます。
感覚的には高級アップグレードケーブルブランドのものや、JH Audioのやつなどと同じような感じです。ちょっと太めですがポータブルでも使いやすいと思います。
公式スペックによると「1.2m ARC51 8Wire シルバーコートOFC&極細OFC」と書いてあるので、ケーブル品質にこだわっていることが伝わってきます。インピーダンスを測ってみたら全域1Ω以下でクロストークも無視できるレベルだったので問題ありません。(イヤホン自体が24Ωと比較的高めですし)。
ただし、イヤホン本体が金属っぽい鳴り方をすると予想できるので、できれば銀メッキ無しのシンプルな高純度銅ケーブルだったらどんな音がするのかは気になります。
装着感
装着感はかなり良い部類だと思います。簡単に言うと、Campfireとかと似たような感じです。
ハウジング形状やケーブルの突き出し角度、ノズル挿入角度など、これといって不都合が無く、他社の定番イヤホンデザインをしっかり研究して作っているなという感触があります。
こう見ると、意外と普通なイヤホンです |
写真で見ると、重く巨大でゴツゴツしていて、明らかに装着感が悪いだろう、というイメージだったのですが、実際に使ってみると至極普通です。
Campfire Andromedaとかよりも重いですが、ハウジング自体はコンパクトで耳のくぼみに収まってくれますし、ケーブルが太いロープみたいな質感なので、イヤホン本体とケーブルの自重でうまく釣り合って安定していて外れにくいです。
強いて言えば、外側に張り出したネジみたいな部品のせいで、横になって耳をクッションに当てたりできません。その場合、突起物の無いT8iEとかWestoneみたいなのの方が「寝る時のイヤホン」として断然有利です。
ただし、このネジ部品のおかげで、装着時にこれを指で押す事で正確なフィット感が得られるので、一長一短といった感じです。
もう一つは、Campfireなどと同様に、イヤピースを接続するノズルが結構短いので、耳の奥までグッと挿入する感じではなく、遮音性はあまり高くないです。もちろんコンプライや三段キノコを使えば密閉感は向上しますが、そういうのは音質面でもこのイヤホンのコンセプトからはちょっと離れてしまうと思います。
カスタムIEMっぽい長いノズルを持ったイヤホンに慣れている人にとっては、耳栓っぽさはちょっと物足りないかもしれません。遮音性を重視するなら別のイヤホンの方が良いです(個人的には遮音性優先の時にはUltimate Earsを使っています)。
大通り沿いとかを歩いている時は、もうちょっと遮音性があったほうが良いなと思えてしまいますが、自宅でじっくり聴き込むときはむしろ快適さが嬉しいので、自分でもどちらを求めているのか悩みます。
カスタム化もできるそうです |
AcoustuneはイヤホンをカスタムIEM化するアップグレードパーツとかも売っているらしいので、そういうのを使うと遮音性も良くなるのかもしれません。
イヤピース選びも、ノズルが浅いので普段よりも若干大きめでないと密着してくれないかもしれません。大きすぎても小さすぎても隙間ができて低音が出なくなるので、そのあたりは色々実験してみる価値があります。
なんにせよ、奇抜なデザインとは裏腹に、意外と普通に良い装着感だったので満足しています。
インピーダンス
公式スペックによるとインピーダンスはどれも24Ωだそうです。実際に測ってみたところ、大体それくらいで合っています。
インピーダンス |
位相 |
800Hz付近まで横一直線なところは、やはりダイナミックドライバーらしいメリットです。それより上では、2kHz付近で結構急なインピーダンスのピークがあり、さらにもうちょっと上の8kHzくらいに細かな山がいくつかあります。
2kHz付近の山はステンレスとブラスがほぼ同じでチタンだけ違い、8kHz付近の山はステンレスとチタンが似ていてブラスだけ違う、という点は面白いです。
グラフではアップダウンが激しいように見えますが、縦軸を見ると、ほんの3Ω程度の変動なので、マルチBA型なんかと比べると圧倒的に安定しています。これは位相グラフを見ると納得できると思います。
グラフの実線はイヤホンを装着せずにイヤピースもつけていない状態で測ったものですが、破線の方は付属イヤピースで耳に装着した状態です。そうすることで、どれも高い周波数に山が移動しているのが伺えます。この度合いはイヤピースの長さや密閉具合で変わってくるので、音質面でも影響を与えるだろうと思います。
実は今回わざわざこのようなグラフにした理由は、イヤピースを変えるとサウンドの印象が実際ずいぶん変わったので、測定でも違いが出るのか気になったからでした。
出音の違いをチェック |
矩形波テスト信号を再生しながらマイクで出音を確認してみたグラフですが、先程のインピーダンスグラフと同じように、全体的な傾向はステンレスとブラスが似ておりチタンだけ違いますね。チタンのみ振動板にチタンコーティングされているためでしょうか。
だから音楽がどう聴こえるか、という予測はできませんが、こうやって簡単に比べてみるのも面白いです。
音質とか
今回の試聴では、普段から使い慣れているHiby R6PRO DAPと、Chord M-Scaler + Hugo TT 2を使ってみました。
Hiby R6PRO |
Chord M-Scaler + Hugo TT 2 |
三機種とも110dB/mWということで鳴らしやすい部類ですので、DAPでもパワー不足に感じることは無く、全然問題ありません。
実際に聴き比べてみても音量の差は全く無いので、交互に比較試聴するのがとても楽でした。
また、インピーダンスが実測で23Ωを下回る事が無いので、アンプのヒスノイズなども目立ちませんし、インピーダンスが極端に低くなるマルチBA型などと比べると、音質面でのアンプへの依存性も少ないと思います。上流機器が優秀であることに越したことはないですが、今回の試聴でもDAPで十分良い音で鳴ってくれたので、あえてChordの据え置きを使う必要性は感じませんでした。
こういった、本当の意味で「鳴らしやすい」タイプのイヤホンだという点も、Acoustuneに限らずダイナミックドライバー型の大きなメリットだと思います。
音質について、三機種の細かな違いは後述しますが、まず全てに共通している点は、明るくスムーズなクリア感、クッキリとした音像の輪郭、遠くへ抜けていく見通しの良さ、そして丁寧に前方にまとまる空間定位といった感じです。
第一印象としては、昔ながらの開放型ヘッドホンのサウンドに近いイヤホンだと感じました。遮音性がそこまで高くないことも理由の一つですが、それ以上に音が一歩離れた距離感で鳴っていて、鼓膜に直接飛び込んで来ないので、やはりK702とかそういった開放型ヘッドホンサウンドを連想します。
他の多くのイヤホンでは音楽が脳内で浮かび上がるような感触ですが、Acoustuneは前方から浴びるとか、鑑賞するといった感触が強いです。
高音の質感を除いては、三機種のサウンドはかなりよく似ています。旧モデルは聴いたことが無いので、今回どれくらい変わったのか比較できませんが、他社のダイナミック型イヤホンと比べてもかなり異色で独自の魅力を持ったサウンドだと思います。
帯域バランスは高域寄りでスカッとした鳴り方です。アタックは金属っぽさがありますが、響きはスッキリしています。低音は控えめで、そこまで過度に盛られてはいないので、いわゆる典型的なV字ドンシャリ系イヤホンではありません。低音から高音まで一直線の傾斜で登っていくような感触です。
MDR-EX1000 |
まず第一印象でサウンドが一番よく似ているなと思ったのはソニーMDR-EX1000でした。こちらも大口径ダイナミックドライバーの単発で、耳栓っぽさが少なく、切れ味のあるスッキリとしたサウンドの名機です。
ソニーのイヤホンはEX1000以降はマルチドライバーの方向に進んでいってしまいましたが(それはそれで良い作品ばかりですが)、もしEX1000がそのまま順当に進化していったら、多分こうなっていたのかも、なんて想像させてくれます。
クリア感だけならEX1000も負けてはいませんが、全帯域で比べると、とくに中低域のいくつかのポイントで音抜けが悪く、詰まるような制限がある事に古さを感じさせます。高音の質感はAcoutuneが金属で魅力を引き出しているのに対して、EX1000は陶磁器のようにツルッとした硬い質感なので、キラキラ感や美音っぽさが出せないのも、音楽鑑賞には向いていません。そもそもEX1000はプロ用モニターとして開発されたイヤホンだったので、これはこれで正解なのでしょう。最初は性能の高さに圧倒されるものの、使い続けるともうちょっと面白さや味わいが欲しくなり、物足りなくなってきます。
他にもたとえばDita DreamもEX1000の名残りを感じさせますが、Acoustuneとは性格が根本的に違います。Dreamは圧倒的なディテールの再現性で、楽器の構成音を余すことなく全部聴かせる点が凄いと思いますが、下手な楽曲に対してはとてもシビアなので、万人受けしません。そんなDreamと比べてAcoustuneは棘が少なく、絶妙なスムーズさがあり、解像感を犠牲にせずに聴きやすいサウンドに仕上げてあるのが優秀です。
個人的にDreamは傑作イヤホンだと思いますが、あくまで愛好家だけが密かに楽しむようなもので、他人に勧める気は全く起こりません。一方Acoustuneはむしろ積極的に多くの人に色々なジャンルで聴いてもらって反応を見たい、と自信を持てるようなサウンドです。
個人的にもう一つ愛用しているダイナミック型イヤホンでベイヤーAK T8iE(Xelento・T9iE)がありますが、こちらはAcoustuneとは真逆の対極にあるような存在です。個人的にT8iEが好きな理由は小さなサイズの割に濃厚で力強い中低音が発揮できることで、録音品質に対して寛容さがあり、太くノリの良い音が味わえることです。とくに古いロックとかだと、他のイヤホンでは厳しくてもT8iEであれば乗り切ってしまう、という使い方をよくします。(初代T8iEが一番その傾向があり、後継モデルになるにつれて、もっと普通で常識的になっていきます)。
それはそれで優秀なT8iEですが、Acoustuneの方が霧が晴れたような透明感があり、それまで厚い音色の連続を聴いていたのが、「無音と出音の差」を意識するような、スカッとしたダイナミックなサウンドが楽しめます。
個人的にIE800Sはあまり好みのサウンドではないのですが、値段が近いダイナミック型ということで比較してみたところ、やはり相変わらず好きになれません。フラットさや真面目なところは良いと思うのですが、Acoustuneで出せるような音量の強弱のダイナミックさや実在感が表現できません。端的に言えば盛り上がりに欠けて面白さが足りないです。
Acoustuneは「実在感」というのがキーワードだと思います。同じ周波数が出ていたとしても、歌手や楽器のイメージや輪郭がリアルに描かれるという事です。
たとえばハイハットがシャンシャン鳴っているとして、ハイハットそのものから出た音と、スタジオの壁などから三次元的に反射した音があり、それぞれの周波数特性や時間差で、人間の脳が自動的にハイハットそのもののイメージと、その周辺空間を想像してくれます。
一方、それが雑だったり、イヤホンハウジングに反響した余計な音が被ってしまうと、音の芯は聴こえるけど輪郭がぼやけてイメージが曖昧になります。
言葉で表現するのが難しいのですが、Acoustuneは余計な響きが邪魔をしない事で、一音一音の輪郭と実在感がクッキリしていて、さらに、遠くの背景へと抜けていく残響が明確に聴き取れるので、立体的な音場を表現するのがとても上手です。
とくに、このAcoustuneの強みは、圧縮音源・FLAC・ハイレゾリマスターの違いを体感するのに大いに威力を発揮します。音色そのものは同じように聴こえるのに、輪郭や空間が違う事がわかります。
Eratoから新譜で、Sabine Devieilhe「Chanson d'amour」を聴いてみました。ソロでも大人気のAlexandre Tharaudによるピアノ伴奏なので期待できます。前作Roth & Les Sieclesとやったオケ伴奏のオペラアリア集も非常に良かったですが、今回はタイトル通り有名どころのフランス歌曲を集めてます。フォーレ、ドビュッシー、ラヴェル、プーランクを上手に混ぜているので飽きません。特にラヴェルの「ギリシャ民謡」は素敵です。
私が好きなAlphaレーベルのPiauとかと比べると高音寄りで刺激的な歌い方のDevieilheですが、おかげでAcoustune三機種の金属による違いの聴き比べが容易です。声とピアノというシンプルな構成であることも、バランス配分の評価がしやすいです。(あまり複雑な大編成だと、聴きどころが掴めず、何が正解かわからなくなってしまうので)。
三機種を混同しないように箇条書きのようになってしまいますが、まず一番高価なチタンは他二機種と比べても特殊で、音像の線が細く、丁寧で、奥行きと深みが出ます。金属っぽさはソプラノ歌手よりも若干上のプレゼンス帯域にあるので、目立った響きが無く、とても澄んでいて透明感や浮遊感があります。
歌手が最高音の大音量を出す場面でも、刺さるか心配になるギリギリのところで、結果問題無し、という危ういサウンドチューニングです。
一番の魅力は、一音一音の無音への引き際がアッサリしている事なので、つまり余計な響きが少ないという証拠です。そのため、キラキラ感はあっても厚いコードの分解が上手です。
おかげで歌手の残響が後方に抜けている感じや、ピアノがキラキラ輝いていてもしっかり歌手の後ろの位置から離れない関係性が体感できます。他社イヤホンはもちろんのこと、ステンレスやブラスと比べても、「左右に狭く、奥に向かって正しく深い配置」という独特の空間展開を持っています。
チタンの弱点だと思うのは、低音が遠く、どっしりと迫るような土台が無いので、どうしても地に足がついていない危うい印象があることです。そのため、ゆったり優雅にBGMとして楽しむというよりは、凄いクリアサウンドに圧倒されて目を奪われる、というような、集中力を求められるサウンドです。
他のクラシック楽曲を聴いてみても、やはりとても高解像で空間奥行きが凄いけれど、ハイテンション気味で圧倒される事もあります。音色自体はとてもスムーズで、ノイズなども意外と目立たないので、颯爽とした演奏の勢いみたいなものが伝わってきます。つまり強弱のダイナミクス描写が上手く、響きで塗りつぶされていないということです。
次にステンレスモデルですが、こちらはチタンと比べると金属っぽい響きが下の帯域に降りているので、ソプラノやピアノの中高域にガッツリ被ります。
そのため、歌手とピアノの両方が派手に前に迫ってきて、チタンのような線の細さや奥行きは出せません。演奏している帯域や強弱によって、歌手よりもピアノの方が前に出てきたり、交互のインタープレイみたいな白熱したセッションっぽくなります。
音のサイズが大きく、鮮やかで、ソプラノ歌手の滑舌よりも肝心の発声の方が目立つという点が特に良いと思いました。よく金属っぽいサウンドというと呼吸や滑舌ばかりが耳について音色が楽しめないという事が多いのですが、ちゃんとそのあたりをチューニングで調整してあるのが優秀です。
ステンレスの弱点は、中高域に音がまとまりすぎていて、レンジが狭く感じる事です。具体的には目前のプレゼンテーションが、横に広く、縦に狭く、中高域ばかり鳴っているように感じます。丁寧で余計な乱れが無いのでむしろ良いと感じる人もいると思いますし、弱点というよりは個性と言うべきでしょうか。
今作はソプラノでしたが、他にバリトンとピアノみたいな作品を聴くと、ステンレスではバリトンの厚みが出せておらず、薄くなりがちで、歌詞よりもピアノの方が魅力に聴こえてしまいます。そういった意味でもステンレスは女性ボーカルあたりに特化したチューニングだと思います。
最後にブラスモデルですが、こちらはピアノの中低域に豊かな響きが乗り、空間展開もチタンやステンレスと違い、自分の目線より上に歌手がいて、下にピアノが広がる、みたいに上下に広く分離しています。
これは単なる錯覚なので、感じ方に個人差はあると思います。ちょっと面白いと思ったのは、歌手がいないピアノソロの場面では、目線よりも上に音が無い、不思議な空間展開になります。
ピアノが厚く鳴るので、タッチのキラキラした粒立ち感はあまり目立たず、伴奏らしくゆったりと包み込む存在になります。逆にピアノ筐体の箱鳴り感が出せるので、中低音までリニアに鳴っているという事でしょう。
ソプラノ歌手は濃厚で太い、自然な歌声です。ただし、声を張り上げた頂点でのみ金属的に刺さり派手に響くのが気になります。ピンポイントな帯域で急に大音量に響く事で、楽曲によってはうるさく感じるのがブラスの弱点です。このあたりはあえてチタンやステンレスほど制御せずに、むしろブラスらしい響かせ方をわざと残しているようにも思えます。
古い作品ですし、新たなリマスターが出たわけでもありませんが、ビリー・ホリデイの「Songs for Distingué Lovers」を聴いてみました。
個人的に、音楽鑑賞用イヤホン・ヘッドホンにおいては「ビリー・ホリデイが良い音で鳴らせる事」が重要な評価点だと思っています。単なるモニターとしての粗探しに留まらないポテンシャルを見せる、という意味です。
特にこのアルバムは最初期のステレオ録音で、ホリディの歌声はもちろんの事、ピアノ、ベース、ドラムのリズムセクションに、さらにトランペット、サックス、ギターと、それぞれソロも優秀に録音されているため、オーディオ機器の評価に便利です。
過去に何度もリマスターされており、理想的にはAnalogue Productions SACDが最高だと思いますが、Verve Master Edition CD(デジパックのやつ)や、ノイズは多めですが96kHzハイレゾリマスターも悪くはないです。
こちらでも三機種のサウンドを比較してみました。まず、このアルバムは1957年という古いステレオ録音で、左右の分離が強すぎるのですが、三機種のどれで聴いても、それが気にならないので驚きました。
クロスフィードのように音像が前方に移動し、左右両端にあるトランペットやピアノが耳穴から直線的に鼓膜に届くのではなく、こめかみのあたりに音像がある感じになります。つまり耳穴がザワザワする不快感がありません。こういう古い録音がちゃんと楽しめるというのは大事ですが、それができるのはハイエンドイヤホンでも意外と珍しいです。
まずチタンですが、このアルバムとの相性の良さ、ポテンシャルの高さは、今まで聴いたイヤホンの中でも圧倒的です。とくにホリディの声が凄く、スリムで明確、先程のソプラノ歌手同様、刺さって破綻するギリギリのところで、実は大丈夫、というスリルがあります。
滑舌や空間響きが明朗なのはもちろんのこと、それ以上に、音色がスムーズでしっかり出ている、つまり声の帯域に捻じれが無い、位相が安定している証拠です。口先の歌詞だけでなく、腹、喉、鼻までしっかり「正しく」表現できているのが凄いです。
また、空間定位も正確で、歌手がいて、その背後に声の残響が抜けていき、バンドメンバーはソロパートになるとマイクに近づき、最後のフレーズとともに一歩離れていく、みたいな描写が手にとるようにわかります。
トランペットやサックスソロも、一点から空間に音が広がっていく感じが気持ち良いです。どの角度と距離に音源があって、どっちの方向に音が発せられているか想像できるので、歌手と重ならいということが心理的にわかります。このポイントソース感がチタン独自の魅力だと思います。
同じく古い50年代のクラシックなんかを聴いても、チタンは高解像なわりにノイズがちゃんと空間的に分離しているのであまり気にならず、ヴァイオリンとかも質感が綺麗に出る、精密な描写をしてくれます。
次にステンレスですが、こちらは先程のクラシックとは対象的に、ホリディとの相性はあまり良くないようです。
チタンよりもテープノイズが目立ち、結構気になるレベルです。また、中高域が強調されるので、歌手、ドラム、ピアノ、ギターなどが同じ空間と帯域にあり、声が埋もれてしまいます。狭くまとまりすぎている感じがあります。
歌手が単身だとスッキリしていて綺麗だけど、そこにトランペットやサックスが入ってくると、そっちに主役を奪われてしまう感じです。同じように、ピアノとテープノイズがかぶり、ギターとハイハットがかぶって聴こえにくい、などがあります。
ステンレスは古い録音との相性が全然ダメというわけでもなく、良さが感じられる部分もあります。女性歌手やトランペット、クラシックのヴァイオリンなど、録音品質が悪い、もしくは打ち込み音源などで、原音に質感が足りていない場合、ステンレスの中高域の響き成分が上手にそれらをコーティングしてくれて、普段よりも鮮やかで魅力的な音色に仕上げてくれます。金属っぽさが突出して刺さるのではなく、音色を補う方に貢献しているのが良いです。そのため、好きな歌手をステンレスで聴いてみると普段以上の美音が堪能できるかもしれません。
最後にブラスです。こちらは歌手が明らかにリーダーで、ピアノやギターなどは遠くに追いやられています。ステンレスだとバンドの雰囲気は高音楽器が主体だったところ、ブラスはベースなど中低音に包まれている感じで、特にベースやキックドラムの重さが良い感じに出せています。
ただし、クラシックでも感じたように、ピアノなどの高音は特定の帯域だけ急に飛び出してくる感じで、ギターやトランペットソロもリアルだけれど硬く刺さって響く事があります。良くも悪くも目立つポイントがハッキリ決まっているので、ジャズのように各楽器が順番にソロをとる演奏だと、トランペット=派手、歌手=薄い、ギタ=硬い、みたいにそれぞれ印象が異なります。テープノイズもステンレスと同じくらい聴こえるものの、歌手とは被らないです。
絶妙なエッジ、幅が広く太い甘い音色、スッと引く潔さ、バンドとの分離と、すべての点においてウェブスターらしさが出せており、ソロをずっと聴いていたくなる、この一点だけでもブラスは特別なイヤホンです。
彼の他作「Soulville」や「Ben Webster Meets Oscar Peterson」なども同じく楽しめましたし、もちろんウェブスターのみでなく、ソウルフルなサックスとの相性が良いです。チタンとは根本的に聴かせ方が違い、チタンは一点から放射状に周囲の壁に広がっていくスケール感があり、ブラスは楽器自体が大きく太い輪郭を持っていて、それ自体が暖かく鳴っている感じです。
おわりに
Acoustune HS1697TI / HS1677SS / HS1657CUの三機種は、数ある高級イヤホンの中でもかなり珍しい独自の地位にあると思います。
凡庸な平均点を目指したというよりは、これでしか体験できない特別なサウンドを余計な横槍で潰さないように配慮したデザインだと思います。そのため、金属っぽさをギリギリ限界まで残していたり、低音が音場を崩さない量に留めたり、といった、聴いていて「上手いな」と思えるポイントを要所で感じる点がマニア向けだと思いました。
潔い立体感のチタン、鮮やかな中高域で端正なステンレス、奔放で中低域の味わい深いブラスと、それぞれに独自の魅力があります。逆にそれぞれ特有の弱点もあるので、完璧とは言い難いですが、魅力の方が上回っています。
総じてスムーズでダイナミックなクリア感重視のサウンドなので、粗探しの解像感や重低音の太さを求めているなら他のイヤホンを選んだ方が良いと思います。
三機種の中から私が購入するなら、たぶんチタンを選ぶと思います。線が細くて使いどころが難しいですが、上手くはまれば他のイヤホンでは味わえない空間表現が味わえるので、特別感があります。ステンレス・ブラスもそれぞれ魅力があり、楽曲次第で相性がガラッと変わるので、試聴する際には第一印象のみで済まさず、色々なジャンルの音楽を試してみるべきです。
一つだけ懸念があるとすれば、モデルチェンジのペースが速いようなので、買ってすぐに型落ちで陳腐化というのは心配です。そのあたりは大手メーカーは中期のテコ入れを含めて上手くライフサイクルを踏まえて計画しているのですが、こういう小さなメーカーはアイデアをひらめくとすぐに実践したくなってしまうのでしょう。このままのペースでファンがついていけるか心配です。
ところで、近頃は似たりよったりなマルチドライバー型イヤホンに市場が飽和気味で、改めてシングルダイナミックの利点や魅力が再評価されるようになり、さらに昔のようにドライバー数が少ないから下に見られるというような偏見も無くなってきました。
しかし、あいかわらずダイナミックドライバーを自社設計できるメーカーというのは世界中でも数が少なく、スタートアップの参入も困難です。既成部品を組み付けるだけのブランドが多い中で、振動板から製造開発するとなると、化学や材料工学の領域に踏み込んでしまうので、難易度が高く、他社のコピーでは済まされません。
近頃はダイナミック型ブームに便乗して、以前のマルチBA型でそうだったように、適当なダイナミックドライバーを買い付けてシェルに接着剤で組み込んだだけのような雑なイヤホンも増えてきたのですが(とくにハイブリッド型の低音ドライバーで多く見られます)、それらは総じて周波数特性はフラットでも響きが雑で、透明感のある音響設計ができていません。Acoustuneはそういった部分で他社の手本になるような卓越した手腕を披露しています。
優秀なダイナミック型イヤホンはAcoustune以外にも色々重い浮かびますが、あれこれ汎用性の高さを追求しすぎると、むしろマルチBAやハイブリッド型を買ったほうが良い、という方向に行ってしまいます。たとえば私も最近愛用しているUltimate Ears RRは優秀なマルチBA型ですし、最近試聴したものだと64Audio Nioは万能感やバランス感覚が絶妙に良いハイブリッド型でした。
そういう万能系の定番モデルをすでに持っているなら、似たようなものを買い足しても無意味です。Acoustuneのイヤホンは、週末にガレージから出すスポーツカー、みたいな特別感を楽しむもので、とくに最近はイヤホン市場も成熟し、コストパフォーマンスや汎用性よりも、そういうマニアの心に刺さる、固定概念を超えた魅力的なサウンドを作り込めるメーカー、というのが高く評価される時代になってきていると思います。