2020年9月12日土曜日

Shure Aonic 50 ワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホンの試聴レビュー

 Shure Aonic 50というヘッドホンを試聴してみたので、感想を書いておきます。

Shure Aonic 50

2020年5月発売のBluetoothワイヤレスヘッドホンで、アクティブノイズキャンセリングを搭載しています。価格は約5万円ということで、ソニーWH-1000XM4など最近売れ筋なスタイルの新たなライバルになりそうです。

Shure

Shureは言わずと知れたアメリカの超ベテランオーディオ機器メーカーで、主にマイクロフォンの製造を中心に、レコードカートリッジやイヤホン・ヘッドホンなど、いわゆる音の出入り口、「音を電気に変え、電気を音に変える」技術に特化したメーカーです。

マイクといって想像する形はきっとShure SM58の事です

1925年創業ということなので、ラジオやテレビ放送、イベントコンサートやレコーディングセッションなど、「電気で音を伝える」という人類の歴史そのものの最初期から貢献してきたメーカーといえます。

IEMイヤホンといえばShureです

ヘッドホンオーディオにおけるShureといえば、ユニバーサル型IEMイヤホンを世間に広めた立役者です。今では一般的になった、イヤホンケーブルを耳にクルッと掛ける装着方法も、ほんの五年くらい前まではまだ定着しておらず、「シュア掛け」なんて呼ばれていたくらいです。

とくに2010年に登場したIEMイヤホンシリーズは、SE215・535・846など、それぞれの価格帯を代表する名機で、今でも好評に売れつづけています。

大型アラウンドイヤーヘッドホンSRH1840(開放型)とSRH1540(密閉型)もこの頃に発売しており、こちらも現役で販売しているロングセラーです。

私みたいなヘッドホンマニアから見て、Shureに弱点があるとすれば、あくまでプロ業務用を前提に製品開発を行っているので、十年変わらず愛用されるようなしっかりしたモデルばかりなのですが、そのせいで、半年ごとに新作が出るような現在のハイペースなヘッドホンブームについていけてないイメージがありました。

そんな事情もあってか、2020年にShureは新たにAonicというコンシューマー向けブランドを立ち上げ、プロ用の定番モデルとは別に、もうちょっと柔軟に色々なコンセプトを展開していく路線に変更したようです。

IEMイヤホンの方はまた別の機会に紹介しようと思いますが、今回はAonicシリーズで今のところ唯一の大型ヘッドホンであるAonic 50を聴いてみました。

Aonic 50は完全新設計のアラウンドイヤー型ヘッドホンで、アクティブノイズキャンセリング、Bluetooth 5.0、スマホアプリ制御、aptX HD、aptX Low Latency、LDAC対応といった具合に、近頃のトレンドをしっかり詰め込んだ最先端モデルになっています。バッテリーは20時間再生だそうです。

まさにカジュアルなコンシューマー向け売れ筋ど真ん中のスペックなので、ライバルの数も多いです。現時点では、やはりソニーWM-1000Xシリーズが一番のライバルだと思いますが、他にも同価格帯だとB&Oやゼンハイザーなどが人気のようです。

現在のコンシューマー市場を見ると、AirPodsなど完全ワイヤレス型イヤホンが新たなスタンダードにになっていますが、それらは高価なものでは3万円くらいするので、大型ヘッドホンとなると、多くのメーカーが4万円以上のプレミアム層をターゲットに設定しているようです。

最近街中を歩いていると、本当に多くの人がこういったワイヤレスNCイヤホン・ヘッドホンを使っているので、オーディオマニアでもない人達が何万円もする製品を気軽に買っているという事実に驚きます。それだけスマホを中心とした生活にとっての必需品になったのでしょう。

Aonic 50の約5万円弱という価格も、一見高そうに思えますが、アップルやソニーの定番モデルですら3万円するのなら、もうちょっと高くても人とは違う高級感のあるモデルが欲しい、という人も多いようです。近々出るB&Oの新作ヘッドホンは10万円近くするらしいですし、もはや高価なヘッドホンは酔狂なオーディオマニアだけの範疇ではなくなってしまったようです。そうなると、近頃オーディオマニア向けのイヤホン・ヘッドホンが20、30万円と高騰しているのも納得できます。

Aonic 50

ところで、Aonic 50の発売は2020年5月だったのに、現在9月になってようやくこれを書いています。

実は、発売直後に試聴する機会があったのですが、その時は「LDAC接続をすると、ものすごく音が悪い」というバグというか不具合に見舞われて、これは最悪だと、すぐに諦めてしまいました。

そのまま長い間忘れていたのですが、最近になって「ファームウェアアップデートで治る」という話を聞いたので、アップデートしてみたところ、たしかにLDAC接続の問題が治っており、今一度しっかり試聴する気になりました。(今回使ったファームウェアは0.4.9.0というやつです)。

巨大な円盤パッケージ

Aonic 50本体を見る前に、パッケージにはちょっと驚かされます。寿司桶みたいな巨大円盤で、直立できるように、わざわざゴム足までつけてあります。奇抜で人目につくデザインだとは思いますが、収納に困る形状とサイズです。店頭在庫が大量に届いたとき「どうすんだ、これ・・・」みたいなパニックになってました。

収納ケース
十分な余裕があります

さらに、中を開けてみると、このパッケージがそのまま付属収納ケースの形なので、これはかなりのアメリカンサイズです。通勤通学はもちろんのこと、手荷物だけで出張旅行に行くときとか(今はコロナのせいでそんな事も言ってられないですが)、ソニーWH-1000の収納ケースですらギリギリ許容範囲なのに、流石にこれは大きすぎて使うのをためらいます。

こういったところも、電車や徒歩での軽快なポータブル機というよりは、自宅と職場を巨大な4WDトラックで移動するようなアメリカンスタイルを想定しているのかもしれません。ケース自体はかなりしっかりと作られています。

ヒンジで回転します

Aonic 50のデザインは、今どきのアラウンドイヤー密閉型ヘッドホンらしいスタイルです。ソニーやBoseなどよりも一回り大きく、メタルパーツを多用しており、本体重量は334gと結構ずっしりします(ソニーWH-1000は254gです)。ソニー同様、ヘッドバンドのヒンジが回転してフラットに畳めるので、ケースを使わずともバッグへの収納は楽そうです。

「ブラック」と「ブラウン」の二種類が選べて、今回試聴で使ったのは「ブラウン」の方です。デザインは無難で、これといって目立った特徴はありませんが、実物を持ってみると値段相応にガッシリと作られています。安っぽいペラペラ感は一切無く、ヘッドバンド調整機構や回転ヒンジもギシギシせず絶妙な抵抗感で動かせます。軽量化よりも質感の高さを重視したような印象です。

厚手のヘッドバンド
信頼できそうな金属ハンガー

とくにハンガー部品は剛性が高そうなメタルで、回転ヒンジは太いナットで固定されています。この部分がバキッと折れてしまうヘッドホンがとても多いので、これくらい強固に作ってくれると嬉しいです(実際に壊れにくいのかは不明ですが)。

ホログラムみたいで綺麗です

Shureのロゴもよく見ると綺麗な虹色に輝いており、写真で見るよりも実物を手にとってみると品質の高さに惚れてしまうようなヘッドホンです。

操作ボタンなど

右側面には操作ボタン類が並んでおり、左側には3.5mm有線接続用ジャックがあります。

私はソニーのタッチセンサー操作は個人的に嫌いなので、Aonic 50のような物理ボタンが好みです。再生停止ボタンに突起があり、その上下にボリュームボタンがあるので、手探りでもカチカチと操作しやすいです。充電はUSB C、電源ボタンON時に長押しでペアリングモード、といった具合に、Bluetoothヘッドホンとしてごく一般的な仕様です。

この一番上のスライドスイッチが嫌いです

アクティブNC操作スイッチだけは、唯一不満に感じました。「ON・OFF・外音取り込み」のモードをスライドスイッチで切り替えるのですが、これを中間(つまりOFF)に入れるのが難しく、結構気を使います。ソニーだとボタンを押すごとにモードを巡回する方法ですね。

公式スマホアプリ
アプリ内のイコライザー

最新機種だけあってBluetoothペアリングや音楽再生は難なく行えました。Shure公式アプリをインストールすると、NCの効き具合や、イコライザーなんかも設定できるようになります。イコライザーの種類はDe-essとか、さすがShureらしくプロっぽいですね。

ファームウェアアップデート
アップデート後

ファームウェアアップデートもこのアプリで行いました。それにしても、Shureに限らずワイヤレスヘッドホンのファームウェアアップデートというのはかなり時間がかかるので(約20分)、行うにはそれなりのヒマと覚悟が必要です。

Momentum Wirelessと比較
ソニーと比較
ソニーと比較

ソニーWH-X1000XM4と並べて比べてみると、Aonic 50の方が一回り大きいのがわかります。Shureはアメリカのメーカーということもあり、大柄な人を想定しているのでしょうか。小柄な女性とかだと、Aonic 50は出先で使うにはちょっと大きいかもしれません。イヤーパッドの厚さも二倍くらいありますね。

SRH1540と比較
SRH1540と比較

同じShureのSRH1540と並べてみると、大体同じくらいのサイズ感のようです。

装着感とアクティブNC

本体の装着感とアクティブNCの効き具合というのは、どちらも快適さを左右する大事な要素なので、両方合わせてチェックしてみました。

ここでもやはり、誰でも知っているであろうソニーWH-X1000XM4と比べてみることにします。

まずAonic 50の装着感に関しては、ズッシリ重厚だけど、意外とゆったりしていて、かなり良い感じで気に入りました。今回使ったのは二時間程度でしたが、それ以上装着していても全く問題は無さそうです。

ソニーと比較

イヤーパッドの断面を見るとわかりますが、ソニーは細いリング状の接触面でカップのようにピッタリと密閉する感じで、Aonic 50は厚手のふかふかしたソファークッションを当てるような感触です。

軽量化と遮音性を両立するにはソニーのようなデザインが有利ですが、Aonic 50の方がゆったりとしています。パッド素材が柔らかく、側圧もそこまで強くないので、似たようなデザインのB&WやCampfire Cascadeほどの閉鎖感は無く、どちらかというとFostexやDenonのような家庭用密閉型ヘッドホンに近いです。合皮パッドなのですが、肌に当たる部分があまりベタベタ貼り付かないので、まるでベロアかマイクロファイバーかと思ってしまうくらいでした。同じShureのSRH1540とも装着感は似ています。

アクティブNCも「期待以上に良い」です。絶対的な静粛性というよりは、不快感が起こらないよう入念に調整したキャンセリングといった感触です。とくに低音の定在ノイズの除去が優秀で、その効果が自然なので、アクティブNCが苦手という人にもかなりオススメできます。

ソニーの方が、騒音下では最高峰のNC消音効果が得られるのですが、やはり試聴する人によっては、NCが効きすぎて息苦しいとか、違和感がある、と感じる人も多いようです。そのあたりは過去のNCモデルと比べると断然良くなっていますし、アプリで効き具合を調整するなどもできるのですが、やはり何も装着していない状態から、いきなりNCヘッドホンを装着したときに感じる「空気が詰まるような」感覚が嫌だという人は案外多いです。飛行機や通勤電車などでは威力を発揮できても、自宅でカジュアルに使いたいという人には「効きすぎ」というふうにも思えます。

その点Aonic 50が上手なのは、NC効果が自然で、サーッというホワイトノイズも少なく、多くの人がNCを苦手としている原因にちゃんと配慮しているように感じる点が好印象です。

NCが効いている事に気がつかない、なんて言うと語弊がありますが、実際Aonic 50のNC効果はそこそこ強力なのに、装着時は「ずいぶん外部の音をカットしてくれる、普通の密閉型ヘッドホン」みたいに思えてしまいます。本当にNCがONになっているのか心配で、スイッチをOFFにしてみたら実は騒音が凄まじく、ONに戻して、やっぱりNC効果はずいぶん効いてるんだな・・・なんて再確認するような感じです。

もうひとつ、Aonic 50が優秀だと思えたのは、NCで除去されていない音、つまり会話であったり、車のクラクションなどが、ごく自然に遮音されただけのように聞こえる事です。ソニーもそのあたりは優秀ですが、他社の下手なNCヘッドホンだと、自分がまるで水中にいるかのように外音が「うねる」のが気持ち悪い、と感じる人が結構多いところ、Aonic 50は上手に対策できています。

Bluetooth接続と、音質とか

今回はスマホやHiby R6PRO DAPを使って、Bluetooth LDACで接続して聴いてみました。Aonic 50はaptX HD/Low Latencyにも対応しているので、対応デバイスがあるならそちらも試してみるのが良いと思いますが、個人的に音楽鑑賞メインで使うならLDACが一番良いと思っています。

DAPとペアリング

冒頭でも言ったように、以前試聴した際はLDACだと変な音になってしまったのですが、ファームウェアアップデートしてからは好調です。

変な音というのは、MP3圧縮されたファイルみたいに、高音成分がキュルキュルと歪みっぽくなる感じです。アップデート後も、電波の状況が悪いと同じような音になるので、たぶん通信関係の不具合があったのでしょう。

ところで、余談になりますが、このような「電波状況による音質劣化」というのが、個人的にBluetoothヘッドホンを使いたくない最大の理由です。昔のSBCでは接続が怪しくなると「CDの音飛び」みたいに明らかにプツプツと音が途切れていたのですが、LDACだと一時的に高圧縮モードみたいなものに切り替わって障害を乗り切るような感じになっており、真面目な音楽鑑賞ではこれが結構気になります。

つまり、LDACは音飛びはしにくいものの、たまに「あれ、なんか今、高音が一瞬歪んだぞ」みたいな場面が多発します。ためしにデバイスから徐々に離れて、音楽が切れないギリギリの距離で聴いてみると、この歪みっぽい音というのが頻発するので理解できると思います。

Bluetoothは単純にデバイスとの距離だけでなく、周囲にどれだけ競合電波があるかで影響を受けるので、自宅だと良好な音質が維持できるのに、オフィスやカフェでは音が途切れたり変な歪みが発生する、なんてこともあります。つまり出先で音楽を聴くならむしろ有線の方が良いという本末転倒な話になってしまいます。

Bluetooth接続の安定感に関しては、やはりソニーWH-1000XM4が圧倒的に優秀です。スマホやDAPなどでペアリングして、かなり乱暴に扱ったりデバイスとの距離が離れても、なかなか音が途切れません。

Aonic 50は定位置でじっとしていれば問題ありませんが、ソニーの半分くらいの距離からノイズが目立ってきますし、歩行中は結構途切れました。このあたりはペアリングしたデバイスの性能によっても変わるので一様には言えませんが、出先でアクティブに使うならソニーの方が良いようです。Aonic 50は格別悪いというわけでなく、ソニー以外のBluetoothヘッドホンはどれも同じようなものです。自宅のパソコンやiPadで使う程度なら全然問題ありません。

Shureらしい音です

Aonic 50のサウンドは、SE535やSRH1540などとも共通点がある、しっかりとShureらしさを感じさせてくれる仕上がりです。

とくにコンシューマー向けワイヤレスモデルとしては珍しい音作りです。もうちょっと演出を盛った派手目なサウンドに仕上げるのかと思いきや、ShureはやっぱりShureということでしょう。

そのあたり、私みたいなオーディオマニアなら、きっとサウンドを気に入ると思いますが、ライバルと比較しても異色な存在で、コンシューマーっぽさに完全に乗り切れていないとも言えるので、ちゃんとカジュアルユーザーへの人気が出るのか心配になってしまいます。

実直なチューニングで、目立った山谷も無く、全体の傾向としては高音がカチッとしたフラットな仕上がりです。

ソニーWH-1000XM4なんかを見ると、典型的なV字ドンシャリで、低音が心臓の鼓動のようにドスドス体感できるのですが、Aonic 50はそれの真逆で、低音は比較的自然で正確に鳴っています。楽器の輪郭や空間位置がちゃんと把握できるようなリアルな低音です。量感はイコライザーで調整できても、鳴り方の質感を変える事はできません。

そんなふうに交互に比較していると、やっぱりソニーは一般受けするテクニックが上手いな、と納得してしまい、Shureは真面目だけど影が薄いように思えてしまいます。ソニーは全モデルがこういう音なのではなく、高価なオーディオマニア向けモデル(MDR-Z1R・IER-Z1Rとか)は全然違うマニア向けのサウンドで、カジュアル層向けのワイヤレスヘッドホンではあえて派手目なサウンドに仕上げているのですが、Shureという会社はその切り替えができない性格なのでしょう。

Aonic 50の優秀な点は、ステレオ感が広いわりに、音像の展開が安定していて、ちゃんと録音通りのステレオ配置が再現できる事です。これはワイヤレスヘッドホンでは結構珍しい事だと思います。内蔵DSPで周波数レスポンスを派手に仕上げることができたとしても、その弊害で、本来意図していない空間展開や響きになってしまうヘッドホンが多々あります。とくに中低域が響き過多で濁ってしまったり、ボーカルが前に出過ぎて暑苦しく感じるなどで、全体的に自然さが損なわれ、音抜けが悪く感じます。その点Aonic 50は上手く仕上がっており、左右両端までしっかりと広がり、個々の音像位置もブレないため、不満なく聴いていられます。

もう一つAonic 50が優秀だと思えるのは、音楽の微小音とアクティブNCの干渉があまり気にならない点です。これもソニーを比較に挙げますが、MomentumやH9も同様の傾向があります。自宅など比較的静かな環境でアクティブNCをONにして、とても小音量で音楽を聴いてみると、音楽の小さな信号がアクティブNCと喧嘩しているというか、アクティブNCのノイズフロアから飛び出してくるような、変な違和感があります。実際の録音のノイズフロアではなく、それよりもちょっと上で喧嘩している、といった感じでしょうか。その点Aonic 50はNCが比較的自然で、小音量の音楽でも、普通のヘッドホンを静かな部屋で聴いているのとさほど変わりがありません。こういったところが、店頭試聴などで大音量で聴いている時よりも、実際に自宅で使っているときに結構気になってくるものです。

色々聴いてみて、不満点も思い浮かびます。とくに、Shureの密閉型ヘッドホンSRH1540などと比べると弱点も感じられるので、個人的には、まだ同じ価格なら有線ヘッドホンの方に音質の優位性があると思います。

もちろんその場合は別途ヘッドホンアンプなども揃えないといけませんし、利便性やアクティブNCのメリットも踏まえると不公平な比較です。

個人的にはやっぱりこちらを選びます

Aonic 50の不満点は、一音一音のアタックが目立つわりに、その後の音色の質感が弱い、というものです。

アタックといっても単純に高音寄りというわけではなく、声や楽器の出音の先端部分のみが強調されている、波形で言うと、先端がオーバーシュートしてエネルギー切れになるようなイメージです。

個人的に、これはAonic 50だけでなく、ワイヤレスヘッドホンにありがちなクセのように思います。今回もWH-1000XM4、Momentum Wireless、H9-3などを聴いていて、どれもそれぞれ個性があるのですが、このアタック部分の鳴り方に関しては、メーカーが違っても、音の性質が非常によく似ている、というか、ほとんど同じです。

まるで、スナック菓子やインスタント麺で、たくさんの味の種類が店頭に並んでいても、最初の口当たりはどれも同じ、といった感じです。

これはBluetoothによる劣化とか、コーデックの違いなどではなく、たぶんヘッドホンハウジング内のアンプ回路でドライバーを駆動していることによる限界なのだと思います。

つまり、今後どれだけ高価なモデルが出たとしても、結局ヘッドホン内部にバッテリーやDSPアンプ回路を詰め込んでいる以上、アンプの駆動能力や、ハウジング内の音響設計にとって不利になり、その壁を乗り越えるのは難しいと思います。

SRH1540をヘッドホンアンプを使って鳴らしたほうが、アタックの立ち上がりから音色の繋がりがスムーズで、複雑な音色が余裕を持って伸びてくれます。

では実際これが重要なのか、となると、やはり音楽のメロディや展開に注目する人や、動画など多目的に使いたい人なら、たいした問題ではなく、あまり気にならないと思います。もっとじっくり音楽鑑賞にこだわって、音色そのものの質感を楽しむといった場面では、まだワイヤレスと比べて有線ヘッドホンの優位性があるようです。

なんにせよ、ワイヤレスと有線ヘッドホンを比較しても無意味なので、あくまでワイヤレスモデルとして、Aonic 50はかなり高水準に仕上がっていると思います。

とくに、ゼンハイザーやソニーは、プロ用オーディオ機器の実績がありながら、コンシューマー向けは大きく方向性を変えており、Momentumのボーカルが荒っぽく前に出てくるロックな感じ、WH-1000XM4のハリウッド映画さながらの迫力はさすがの芸当と言えます。一方B&Oみたいに、ラグジュアリーコンシューマーに寄り添って、オーディオマニアとは毛色の違う客層をも引き込むために、まったりゆったりと、決して角が立たないよう徹底的に改良と進化を続けているメーカーもあります。Boseもそれに近いかもしれません。

Shureは、Shureのマイクで録音した音を、Shureのイヤホン・ヘッドホンで聴けば、原音が復元される、というポリシーを絶対に踏み外さないような、正統派な仕上がりに好感が持てました。

USB DACヘッドホン

Aonic 50のもう一つの利点は、USB C端子が充電用だけでなく、パソコンやスマホなどでUSB DACとして認識する事です。

Windowsに接続

つまり、USBケーブルをヘッドホンケーブルに見立てて、有線ヘッドホンとしても活用できます。しかも、USB Audio Class 2ハイレゾ対応で、PCM384kHz/32bitまで再生できます。

これは結構便利です。たとえば、外出時はBluetoothワイヤレスで使っていて、自宅のパソコンでは、充電も兼ねて、USBヘッドホンとして常用できます。

音質面では、最近のLDACコーデックとかは極めて優秀なので、Bluetooth接続とそこまで大きく変わりませんが、個人的にはUSB接続のほうが、とくに高音の圧縮感が少なく、好印象です。

そこまでオーディオマニアの沼に足を踏み入れたくなくて、高価なUSB DACやヘッドホンアンプを揃えたくないなら、これならハイレゾUSB DACとヘッドホンアンプを一式内蔵している優秀な有線ヘッドホンに変身してくれます。

スマホのHF PlayerでDXD再生

スマホに接続しても、ちゃんとハイレゾDACとして認識してくれるので、このようにHF PlayerからDXDファイルを再生しても音が鳴ります。ただしDSDは対応していないようなので、DoPを送ってもダメでした。

おわりに

現時点で、とりえあずアクティブNCワイヤレスヘッドホンが欲しいなら、まずソニーWH-1000シリーズを買っておけば間違いない、という事に異論は無いと思います。私もよく友人から「何を買ったらいい?」と尋ねられたら、とりあえずソニーを勧めています。

そんな中で、今あえてソニー以外を買う意味があるのか、という話になるわけですが、その点Aonic 50は一味違う独自のメリットが十分に感じられました。

ソニーは電車内などの騒音下でも充実した迫力を得ることを目指した設計ですが、Aonic 50は低音の音圧が控えめな音質、ピッタリ吸い付かないモコモコとした装着感、自然な遮音性の延長線のようなNC効果、そしてメタルのしっかりしたデザイン、といった具合に、自宅やオフィスで長時間ゆったり使うためにお勧めできます。

通勤や旅行で携帯するにはちょっと重厚すぎるかもしれません。そのへんはやはりソニーのほうが良いです。しかし現在コロナの影響で、アクティブNCヘッドホンも在宅勤務など家庭の中で自分だけの静かなスペースを作るための需要が生まれています。

子供のいる自宅環境とかでは、耳栓のようなイヤホンや、ピッタリ密閉して自分だけの世界に没頭するようなヘッドホンは使いづらいです(呼ばれているのに聞こえていなくて、急に肩を叩かれるなんてのも嫌です)。そういった場面なら、Aonic 50のほうが気兼ねなく使えます。アクティブNCが自然で、騒音はスッと取り除いてくれますが、人の声とかは過度に遮断しません。

AonicシリーズはShureの中でもコンシューマー向けの新ブランドという事ですが、今回Aonic 50を使ってみても、Shureらしい実直な真面目さと、最新ガジェットとしての機能デザインが見事に融合しているように感じました。カジュアルに見せかけて、実にShureらしいというところも、オーディオマニアでも注目に値するヘッドホンだと思います。