2021年1月20日水曜日

2020年によく聴いたクラシックの高音質新作アルバム

今回は、2020年の一年を通して気に入ったクラシックのアルバムや、とくにヘッドホンリスニングに適した高音質盤なんかをまとめて紹介します。

2020年も膨大な数の新作を聴きました

最近は特にダウンロードやストリーミングでレアなアルバムでも瞬時に聴ける便利な時代になったので、少しでも気になった作品があれば、ぜひ聴いてみてください。

2020年のクラシック

2020年はコロナでコンサートイベントなどもキャンセルになってしまい、ミュージシャンやコンサートホール運営も大変かと思いますが、新作アルバムリリースに関しては例年通り、もしくは、それ以上に豊富な一年でした。

クラシックのアルバムは一般的に録音セッションからリリースまで一年くらいの製作期間がかかるので、今のところ、コロナ以前の2019年に録音された作品が順当に発売されているようです。つまり影響が出るとしたら2021年以降でしょう。

ポップスと比べて録音セッション後の編集作業にあまり手がかからないという点も、リリースへの影響が少なかった理由だと思います。また、ポップスの場合はアルバムリリースに合わせてツアーコンサートを企画するため、あえてコロナ中はリリースを保留しているアーティストが多いらしいですが、クラシックの場合はそういう事情が無いという点も貢献しています。

さらに、フェスティバルイベントやコンサートホールなど契約上の事情や公的な補助金が絡んでいたりなどで安易にキャンセルできないため、赤字覚悟でも無観客のストリーミングコンサートを決行するところが多かったです。これらのコンサートから新たなアルバムが生まれる事も期待できます。

ただし、そういうのは世界的に名の知れた一握りのトップスターのみの話で、地方オケとか、キャリア半ばのアーティストにとっては厳しい一年だったと思います。そもそもコロナ以前から赤字経営で税金の無駄だなどと非難を浴びてきたクラシックオーケストラ業界ですから、2020年の結果次第で、業界全体に大きな変化が起こる可能性も大きいです。

レーベル

クラシックは優れた音響を備えたレコーディング設備が必須で、宅録とパソコンソフトだけでどうにかなる世界ではないため、経験豊かなレコーディングプロデューサーとエンジニアの力に頼る部分が多く、そのため現在でもレーベルの影響力が強いです。このあたりは、クラシックのアーティストが他のジャンルのようにBandcampなどでフリーランス活動をする事が少ない理由のひとつです。

現状では、クラシックの主要なレーベルは大きく四つのタイプに分類できると思います。

まず第一に、デッカ、EMI、DGG(ドイツグラモフォン)などの大手レーベルがあります。トップアーティストとの独占契約で話題性がありますが、もはやユニバーサルやワーナー傘下の一部門としてパブリッシャー的な立ち位置になっているので、レコーディングもフリーランスのプロデューサーに任せた外注作業が多いです。そのため、実は意外と音質の振れ幅が一番大きいタイプだったりします。

次に、Harmonia Mundi、Hyperion、Chandosなどの大手インディペンデント系です。Teldex Studios Berlinなどフルオーケストラが収容できるトップクラスのレコーディングスタジオを使ったり、各地の中小コンサートホールに提携プロダクションチームが機材持参で出向いてレコーディングを行います(BISのTake 5 Music Productionなんかが有名です)。社長がプロデューサーを兼任している事が多く、サウンドに統一感があるので、「レーベル買い」に一番適しているスタイルです。Channel Classicsなど録音のために世界中を飛び回っているキャラバン的な運営スタイルも多いため、コロナで一番打撃を受けたタイプかもしれません。

三つ目は、オーケストラの自主制作レーベルです。ロンドン交響楽団のLSO LiveやコンセルトヘボウのRCO Liveなど、本拠地ホールに録音機材を常設しておけるので、定期公演をそのまま録り溜めて商品化できるメリットがあります。ベルリンフィルのようにストリーミング後にパッケージ販売という手法もあります。また、バイエルン放送のBR Klassikや南西ドイツ放送のSWR Classicなど、テレビ・ラジオ放送局であれば収録技術も卓越していますし、過去の放送アーカイブを復刻できるなどのメリットもあります。

そして最後に、プロデューサーやエンジニアが独立して立ち上げた小規模なインディペンデントレーベルハウスというのも続々増えています。ある程度大手レーベルでのフリーランスで稼いだら、一念発起で理想のレコーディングスタジオを建設して、懇意にしているアーティストを録音する、というのがよくあるパターンです。ただしフルオーケストラが収容できずソロや室内楽ばかりだったり、友人のよしみでパッとしない新人を起用したりなど、演奏のクオリティはあたりはずれが大きいです。

そんなわけで、今回も様々なスタイルのクラシック音楽を堪能できた一年でしたので、その中から各ジャンルごとに何枚か、とりわけ記憶に残ったアルバムを紹介します。

リマスター復刻

デッカやDGGなどユニバーサルの公式ハイレゾリマスターは例年より数が少なかったように思います。まだまだネタ切れには程遠いはずですが、売れ筋のカラヤンとかが一通り出揃った事で、あまり積極的にリリースを企画する気にならないのでしょうか。

大手だと近頃はワーナー(EMI・Eratoなど)が積極的で、全集ボックスセットも単なる寄せ集めではなく、わざわざ最新リマスターを施している事が多いです。

特に2020年ワーナー最大のプロジェクトはEMIのバルビローリ集でしょう。CDボックスは全109枚という巨大なもので、6月に発売しました。追ってハイレゾダウンロード版が現れたのですが、これが姑息にも一枚ごとのバラ売りで、週二枚くらいのペースでの小出しになっており、年末にはようやく主要なアルバムが出揃いました。全部購入していたらとんでもない金額になります。

ワーナーでも以前クリュイタンスやフェラスのボックスなんかはハイレゾダウンロード版も安価なセット販売だったので、このバルビローリ・ボックスの新たな売り方にはちょっと困惑しています。買う側としては、現在のバラ売りが終わってから安価なセットが出たらと心配になります。

同時期にワーナーからリリースされたカンテッリやハイドシェックのCDボックスなどもハイレゾダウンロード版は単品バラ売りスタイルになって、かなり買いづらくなってしまいました。とくに古いアルバムは一枚30分とかでコストパフォーマンスが悪いです。

そんなバルビローリの109枚ボックスから名盤をかいつまんでみると、やはりハレ管とのシベリウスは定番ですし、同じくハレとのエルガーや、フィルハーモニアとのマーラー6番なんかも名盤です。さらにオペラではスコットとの蝶々夫人やマクラッケンのオテロがリマスターされたのは嬉しいです。蝶々夫人は2019年タワーSACDでも出ているので、聴き比べも面白いです。他にも色々入ってますが、バルビローリが得意とした軽音楽や1940年代のSPレコード復刻なんかはよっぽどのマニアでなければ手を出さなくてもよいでしょう。

バルビローリに限らず、ここ数年のワーナーEMI・Eratoハイレゾリマスターは音質がかなり良くなっていると思います。ノイズリダクションも自然で、息苦しさや詰まりを感じさせません。特にEMIは2000年頃のGreat Recordings of the CenturyシリーズのART処理があまり芳しくなかった物が多いため、改めて優れた音質でリマスターしてくれているのは嬉しいです。ハイレゾにこだわらないならCDボックスで買っても十分な音質メリットが感じられると思います。

ユニバーサル(DGG・デッカ・フィリップス)は、相変わらず本家よりもEloquenceによる公式リマスター復刻に勢いがあります。

Eloquenceというのはユニバーサルのオーストラリア支部が独自に始めた復刻レーベルで、そこにかなり熱心なクラシックマニアのスタッフがいるらしく、低価格でセンスの良い復刻を出し続けてきたことで、現在ではユニバーサルの復刻の中核を担っています。

2020年Eloquenceはボックスセットも豊富で、パウル・ファン・ケンペン、イダ・ヘンデル、シャルル・ミュンシュ、オイゲン・ヨッフムと、錚々たる顔ぶれです。ユニバーサルはDGG・デッカ・フィリップスの三強を傘下に収めているため、当時のレーベルをまたいだボックス全集を企画できるのが強みです。

特にフィリップスはCD時代にはバックカタログの売り込みにあまり積極的ではなかったので、日本のクラシックファンはDGGにばかり傾倒して意外とフィリップスは手つかずという人が多いです(ジャケットがダサいという理由もあったと思いますが)。今回ヨッフムとコンセルトヘボウの60年代ベートーヴェン交響曲集やブルックナー5番などがようやくまともなリマスターで日の目を見るのは嬉しいです。

Eloquenceのリマスターは総じて温厚で聴きやすいアナログっぽさが魅力なのですが、未だにハイレゾではなく44.1kHz・16bitのみなので、CDやストリーミングでは聴けても、ハイレゾダウンロードショップに掲載されないのは実に勿体ないです。

Berlin Classicsもリマスター復刻に活気がありました。こちらは旧東独エテルナの版権を引き継いでいるレーベルで、レコード時代の名盤の復刻にも力を入れています。数年前にオシャレなジャケットで多くの作品をハイレゾリマスターしたのが記憶に新しいですが、2020年はベートーヴェン250周年ということで良い作品が出てきました。

ズスケやレーゼルのソナタや、ヘルビヒの三番、アーベンドロートの九番、マズアの荘厳ミサ、ブロムシュテットのレオノーレ(フィデリオ初期版)など、単品リリースも良かったですし、とりわけブロムシュテットのドレスデン70年代ベートーヴェン交響曲集は圧巻です。ブロムシュテットといえば2015年Accentusからライプツィヒのベートーヴェン全集も凄かったですが、この70年代当時から本当に上手いです。

ベートーヴェン以外ではシュターツカペレ・ベルリンの450周年記念ボックスというビッグタイトルもありました。5時間半の大きなコンピで、70~80年代の極上の音質でヘルビヒの真夏の夜の夢やスイトナーのマーラー2番、ブルックナー7番などが入った凄いセットです。

これらのBerlin Classicsエテルナ復刻はどれも88.2や96kHzハイレゾリマスターで、そもそも当時の東独の録音技術が非常に優れていてマスターテープも大事に保管されていた事もあり、大変素晴らしい音質で楽しめます。

リマスターといえば日本のエソテリックSACDも例年通り好調な一年でした。近頃はなぜかDGGのデジタル録音をDSDリマスターした作品が増えており、2020年はデュメイとピリスのブラームス、カラヤンの英雄の生涯、アバドのシンフォニエッタ、そして年末にはブーレーズのマーラー6番などが出ました。

一通り聴いてみましたが、音質はオリジナルのCDと比べるとたしかに若干フワッと立体的になっていて悪くないものの、そもそもオリジナルCDの音質が優秀なので、もっとファンを驚かせるような古いアナログタイトルを選べばいいのに、なんて思います。一体どういった選定基準なのでしょう。

アナログ録音のリマスターでは、ベームの71年バイロイトのオランダ人を出してくれたのは、まさに私みたいなファンを驚かせるような嬉しい企画です。昨年のカラヤンのオテロもそうですが、やはりエソテリックの情景豊かなDSDリマスターはオペラのような大規模な作品でこそ本領発揮します。

また、ブレンデルとアバドのシューマン協奏曲も良かったです。カップリングに何故かルプーとプレヴィンのグリーグが入っているのが謎ですが(それならシューマンもルプーにすればいいのに)どちらにせよ演奏も音質も最高峰の名盤です。

あとはカール・リヒターのブランデンブルクもリマスターの良さが実感できました。アルヒーフの公式ハイレゾリマスターはちょっとフラットすぎて聴きづらい感じもあったので、このエソテリックでだいぶ良くなっています。受難曲とかもやって欲しいですが、高価になりそうですし、そこまで頻繁に聴くものでもありませんね。

リマスター復刻の横綱はやはりタワーレコードです。2020年も膨大な数のタワー限定SACDリマスターを出してくれたので、私も毎月なにかしら買ってしまいました。上のケーゲルのマーラーのように、どれも名演揃いなのですが、相変わらず「ベートーヴェン・ブラームス・ブルックナー・マーラー交響曲集」のおっさん臭いレパートリーが延々と続いているので、そろそろなにか新鮮な企画を期待したいです。

以前から続いているアンチェルなどSupraphon復刻と平行して、2020年は東欧エテルナレーベルやケンペの作品が多かったです。ケンペはEMI/HMVのブラームス、BASFのブラームスとブルックナーなど一応買ってみましたが、そもそも名盤が多い演目なので、これといって印象に残りませんでした。

一方ケンペのオペラの方はAngelの「ローエングリン」、エテルナの「ラインの黄金」(ハイライト)、そして年末にはエテルナの「ナクソス島のアリアドネ」と、どれも錚々たる歌手陣と素晴らしい音質です。ローエングリンはEMI CDの音の細さが改善されましたし、エテルナは東独らしく歌手陣の演技にクセや個性があって楽しいです。それにしても当時のエテルナは音が良いですね。つい最近の録音だと言われても信じてしまいます。(逆に、最近はこんな凄いセッションはありえない、と言われてしまいそうです)。

毎年言っているかもしれませんが、せっかくエテルナ音源のリマスターをやるのなら、個人的にはベームのエレクトラ、カラヤンのマイスタージンガー、あとスイトナーのサロメとかも、どうにかSACD復刻してくれることを願っています。歌手が絡んでくると版権問題とかあるのでしょうかね。

他にもタワーの珍しい企画として、Extonノイマンのマーラーを復刻したのは意外でした。既存のExton SACDも素晴らしい音質ですから、あえてリマスターする必要性は感じませんが、やはり人気盤なのでしょう。特に9番はExtonラボラトリーゴールドラインでもリマスターされているので、これで三度目です。さらに2020年はノイマンのSupraphonでのマーラーも復刻しているので、ちょっと飽食気味になってしまいました。個人的にはExton版はちょっと洗練しすぎて牧歌的なくどさが薄いので、Supraphon旧版の方が好みです。

タワーはCBSソニーの復刻も続けており、2020年はセルのドヴォルザークと、ゼルキン・セルのブラームス協奏曲などが出ました。2016年セルのベートーヴェンが圧倒的な高音質でヒットしたのが記憶に新しいですが、今回も同じくらい音が良く、セルは硬いという俗説を払拭してくれます。

2020年に色々出たタワー復刻の中でベストを選ぶのは難しいですが、個人的にはとくに二作品が印象に残りました。

まずはリヒテルとコンドラシンのリストです。演奏が凄いのはもちろんのこと、これはオリジナルLPレコード盤がとんでもなく高音質で、家宝のように大切にしているのですが、これまでデジタル化で良かったためしがありません。Philips 50シリーズのCDは散々でしたし、HDTTも悪くないものの荒っぽくて奥行きがありません。今回タワー復刻でようやくLPに迫るサウンドを実現できたと思います。ただし、このアルバムは他と比べてプレイヤーの性能に大きく左右されるようで、下手なDACだとフワフワして掴みどころがなく、優れたシステムでようやく満足に鳴らせます。逆に言うと、オーディオ機器のテスト版としても優秀です。

もうひとつ2020年のタワー優秀盤はクレツキとチェコフィルのベートーヴェン交響曲集です。本家Supraphonからも数年前に復刻CDボックスが出ており、そちらも十分良かったのですが、今回のタワーSACDは特に低音の自然さや奥行きがすごく改善されて、もう一段上のレベルに仕上がっています。

クレツキのベートーヴェンはマイナーですが個人的にかなり好きで、全集としてはトップ3に入れられるかもしれません。入門者に勧めるなら、やはりカラヤン60年代とかが爽快でカッコいいのでベートーヴェンの良さが伝わると思いますが、このクレツキはむしろベートーヴェンを聴き慣れた人ほど、その素朴な精巧さに関心するような演奏です。全体的にシンプルなので、BGMとしては聞き流してしまいそうですが、じっくり腰を据えて聴くと、全てがすんなり腑に落ちるような、凄い演奏です。

ダウンロードストアとストリーミング

サブスクリプションストリーミングの台頭で、ハイレゾダウンロードショップが窮地に立たされているという話を最近よく聞きます。数年前に、ダウンロードのせいでレコード店が廃業していると言われていたように、時代の流れなのでしょう。

クラシックはとくに圧縮音源だと空間音響がうねるような気持ち悪い鳴り方になってしまうので、もしストリーミングサービスを使うのであれば、ぜひハイレゾでとまでは言いませんが、少なくともロスレスで聴く事が肝心です。

私自身はタワーやエソテリックなどディスク限定作品を買う以外では、2020年もあいかわらずストリーミング契約はせず、ダウンロードショップで新譜を購入していました。

サブスクリプションストリーミングもTidalやアマゾンHDなど色々と試してみましたし、最近はクラシックに特化したPrimephonicや、Gramophone紙と提携しているQobuzなど、クラシックファンでも使いやすくなってきたと思いますが、やはり「すべての作品が聴ける」という錯覚に陥りがちでも、実際に使ってみるとかなりの穴があり、特定のレーベルなどがごっそり抜け落ちているのが致命的です。

それに慣れてしまうと、自分の意思で音楽を選ぶのではなく、そこで目に留まるよう配置された曲に誘導される事になんの疑問も抱かなくなってしまう、つまりそのサービス内にあるものが音楽世界のすべてだと錯覚してしまう、というリスクがあります。

そんな2020年を象徴するような、個人的に残念だった事がいくつかあります。まずアメリカのレコード店Acoustic Soundsが経営するダウンロードショップSuper Hirezが2020年12月31日を最後に閉鎖しました。CDやレコード通販は継続しており、ダウンロードのみの停止です。

このショップはAnalogue Productionsなど著名SACDリマスターレーベルの販売代理店なので、それらのDSDダウンロード版を独占販売するなど、Moraやe-Onkyoでは見られないユニークなラインナップが多く、DGGやデッカなどのDSDダウンロードも日本の半額以下で、かなり重宝していたので、閉鎖したのが非常に残念です。

日本のダウンロードショップにも共通する問題ですが、やはり版権まわりの自主規制でリージョン制限を設けているのが一番の問題だと思います。気に入った曲があってもアメリカ国内からのアクセスでないと弾かれてしまうので、VPNとかに詳しい人でないと気軽に買えません。つまり世界中の多くのクラシックファンが「買いたくても買えない」という状況だったわけで、閉店するのもしょうがないです。

日本も相変わらず国内アクセスのみ、国内発行クレジットカードのみ、Paypal不可、というショップばかりで、さらに外国のショップと比べて値段が倍くらい高い($15のダウンロードアルバムが日本だと3,300円とか)という変なシステムです。購買力が下がっている日本国内の日本人のみをターゲットに商売しているのだから、売上が芳しくないのは当然の結果と言えます。

もし適正価格で海外からも音楽を自由に購入できるようになれば市場は10倍以上に膨れ上がるわけですから、ショップのみでなく、日本のレコード業界全体にメリットがあると思うのですが、既得権益のしがらみが色々あるのでしょう。

とくにクラシックのように違法ダウンロードのリスクが少ないジャンルであっても、残念な事に、海外掲示板などを覗くと「どうしてもリージョン制限でショップから購入できないから違法ダウンロードするしかない」という話も多く見られるので、業界自体が自分の首を絞めているのは残念です。

もうひとつ、ダウンロードショップ関連で残念だったのは、多くのアルバムが「ストリーミング仕様」に再編成されて、これまで購入できた作品が忽然と姿を消してしまった事です。

とくにドイツグラモフォンはジャケット絵も無いストリーミング限定ベストヒット集みたいなものに集約されてしまうケースが増えてきました。


たとえば先日、エソテリックSACDでデュメイを聴いて、彼の他のアルバムをPrestoかQobuzとかで買おうかな、と思って検索してみたら、多くのアルバムが2020年からダウンロード購入不可になっており、その代わりに「The Art of Augustin Dumay」という合計13時間のストリーミング限定(ダウンロード不可)コンピレーションアルバムに編纂されていました。ジャケットも無地で、これはちょっと酷いです。

他にも、数年前からロシア・メロディヤが地道に出していたリマスター復刻シリーズが、結構音質も良かったのでコツコツ買い集めていたところ、ある日突然各国のダウンロードショップから一斉に消されてしまい、以降は数点がストリーミング用のコンピになって徐々に現れています。まだ買ってないアルバムがウィッシュリストに結構入っていたので、これはショックです。ストリーミングでは見つからず、ダウンロード購入もできなくなった事で、廃盤になっているものは中古CDを漁るしかありあません。

ロックやポップスでも、思い入れのあるバンドのアルバムがいきなり消されて「5時間ノンストップ・ベストヒット集」に変わっていたら落胆するでしょう。メンバーや録音スタジオなどの情報が欠落して(オーケストラや指揮者すらわからないものもあります)、ただ聴き流して消費するだけのBGMに変化しつつあります。

2020年はまだかろうじてGramophoneやレコ芸などのクラシック専門誌が独自に新譜レビューやコラムを書いているので、気になる新作を発掘することができましたが、今後これらのレビューメディアもストリーミング主導になって、ストリーミングで聴けないアルバムは掲載しない、という方向に進んでしまいそうで気がかりです。

ベートーヴェン250周年

2020年は生誕250周年という事もあって、ベートーヴェンの新譜がとても多かったです。毎週たくさん出すぎていて、有名なアーティストのでも「またベートーヴェンか・・・」とスルーしてしまいがちでした。また、こういうイベントでは旧盤のパッケージを変える商法も横行するので、どうしても疑り深くなってしまいます。

Harmonia Mundiはあいかわらずこういう企画が得意なので、共通デザインの新譜でFrançois-Xavier Rothの交響曲5番、Paul Lewisのバガテル集、Luganskyの後期ソナタ、Bezuidenhoutのフォルテピアノによる協奏曲5番など、続々とリリースが続きました。どれも定番を覆すような新鮮さ演奏なので、気にいるかどうかは別として、一度は聴いてみる価値があります。

ChandosからはJean-Efflam Bavouzet、HyperionからもSteven Houghとそれぞれピアノ協奏曲集が出て甲乙付けがたいですし、単品ではDGGはRudolf Buchbinder一番など、ピアノ協奏曲だけでもアルバムが豊富でした。

ヴァイオリンソナタは特に優れた録音が多すぎて困りましたが、個人的なベストを選ぶなら、BISからはFrank Peter ZimmermannとMartin Helmchen、OnyxからJames EhnesとAndrew ArmstrongのVol.3 & 4がどちらも素晴らしい演奏と音質を兼ね揃えています。

Zimmermannは数年前に自身のヴァイオリン(クライスラーのストラディバリウス)が貸付元のスポンサーが倒産して押収されてしまった事が話題になりましたが、ドイツ政府の配慮でまた使えるようになり、録音にも活気がでてきました。2020年はベートーヴェン以外でも同じくBISからマルティヌー協奏曲とバルトークソナタのアルバムが出ており、どちらもBISらしい広々とした情景でヴァイオリンの音色が際立ちます。

Ehnesはどのアルバムもその作品の決定版になってしまうような完璧超人ですが、ベートーヴェンのソナタは2017、2019年の二枚と、2020年に新たに二枚出たことで完結しました。

Ehnesが凄いのはもちろんですが、個人的にはAndrew Armstrongは現代における最高峰の伴奏家だと思います。2020年はプロコフィエフのヴァイオリン作品集も出しており、もはやこのコンビだけで著名なヴァイオリン・ソナタを網羅した大全集が作れそうです。

チェロソナタではAlphaレーベルからNicolas Altsaedtが一番楽しめました。Alexander Lonquichの伴奏はフォルテピアノなので、全体的に軽快で躍動感のある気持ちの良い演奏です。重厚で感傷的なチェロを楽しみたい人にはオススメできませんが、個人的にはこれくらいの方が好きです。

ピアノトリオは三枚の優れたアルバムをぜひ聴き比べてもらいたいです。EratoからはCapuçon兄弟とFrank Braleyのトリオ、La Dolce VoltaからはCassard/Gastinel/Grimal、SupraphonからはSmetana Trioです。どれもメジャーな「大公」「幽霊」が入っており、演奏解釈や楽器の音色などもそれぞれ個性溢れて大変素晴らしいので、聴き比べに最適です。

ピアノソナタも色々出ているものの、2018年のPerahia、2019年のIgor Levit全集の印象が強すぎて、2020年はそれらを凌駕するようなアルバムには出会えませんでした。DGGからBarenboimが新たに全集を出しましたが、個人的には彼の80年代のDVD全集が強烈に凄かったので、それと比べると今作はちょっと緩く年老いた感じがします。しかもハイレゾ版がバラ売りで高価なのもあり、強いてオススメできません。

唯一特筆するなら、OnClassicalから現在進行中のMaurizio Zaccariaのシリーズは良いと思います。これといって奇をてらった演奏ではありませんし、まだキャリア半ばといった堅実な演奏ですが、このレーベルの音質は独特の凄みがあるので、ぜひ体験してみてください。


ちょっと不満があったリリースもあります。コンセルトヘボウのレーベルRCO Liveから、異なる指揮者による交響曲をまとめた記念セットです。1番は2010年ジンマン、2番は78年バーンスタイン、3番は88年アーノンクールといった具合に錚々たるラインナップです。事前情報では7番は83年クライバーとなっており、ジャケットにもそう書かれていたのですが、いざ発売してみると、CD版のみクライバーで、ダウンロード版は版権問題のせいで62年クーベリックに差し替えられていました。

ジャケットを見比べても紛らわしいですし、さらに発売当初はクライバーと書いてあるダウンロードショップなどもあり混乱しました。別にクーベリックが悪いわけではありませんが、この83年コンセルトヘボウでのクライバーというのは結構有名な演奏で、今回リマスターがどうなっているのか気になっていたので、いざダウンロードしてみたら全然違う録音でガッカリしました。

そういえば数年前にルートヴィヒのボックスを買った時も、ダウンロード版のみバーンスタインと共演したディスクが諸事情で削除されていた事もありました。こういうのは買うときに気をつけないといけません。

最優秀レーベル

2020年に個人的に一番注目したレーベルはフランスの「La Dolce Volta」でした。意識せずに新譜を聴いていて「演奏も音質も最高だな」と思って、ふと見たらこのレーベルだった、という事が何度もありました。先程のPhilippe Cassard/Anne Gastinel/David Grimalのベートーヴェン・ピアノトリオもそんな一枚です。

数年前から名前は知っていたものの、ジャケットがどれも似ていて、そこまで気に留めてなかったので、今後はもっと積極的に意識するようにします。(物理CD版は豪華なデジパック仕様なので敬遠してました)。

単発やシリーズなど色々出ており、たとえば2019年から続いているGeoffroy Couteauのブラームス室内楽シリーズなども注目すべきです。(ジャケットが色違いで同じデザインなので、毎回すでに買ってないか心配になります)。どれも粒立ちがよく、明るくスカッと抜けるような録音なので、ベートーヴェンやブラームスでも決して重苦しく感じません。

さらに、このレーベルから出ている「Concours de Genève」というシリーズも面白いので、ぜひ聴いてみてください。2020年のDmitry Shishkinのメトネル・スクリャービン・ラフマニノフのリサイタルアルバムを気に入ったので調べてみたら、これはスイス・ジュネーブの国際コンクールの入賞者特権での録音シリーズだそうです。スイスらしくブレゲがスポンサーなので、いくつかのジャケット写真で腕時計をしているのが面白いですね。

過去作を追ってみたらどれも有意義なアルバムばかりで、音質も優秀です。コンクール後の新人デビューアルバムというと、ショパンとかの大衆向けのありきたりな物が多いと思いますが、このシリーズではどのアーティストもかなりこだわりの強い選曲なので、アーティスト個人の意向がしっかり反映されているようで、そういう面も楽しいです。

オーケストラ作品

ベートーヴェンイヤー以外でも、交響曲などのオーケストラ作品は例年通り好調な一年でした。

PentatoneはHerbert Blomstedt指揮ゲヴァントハウスのブラームス1番が印象に残りました。復刻アルバムの項でも言いましたが、Blomstedtは本当に良い指揮者ですね。自己主張せず、実直なのに凡庸にならず、なにか達観したようなセンスの良さを感じさせます。ライプツィヒ・ゲヴァントハウスの伝統的なサウンドをPentatoneの高音質で味わえるというのも、このアルバムの魅力です。

さらにPentatoneからはKirill Krabitsとロシア・ナショナル管弦楽団でショスタコーヴィチのバビ・ヤールが単発で出て、これも渋くて良かったです。歌唱のOleg Tsibulkoは新人とは思えない重く深い声で、雰囲気を上手く出しています。個人的にオケ作品の2020年ベストに選ぼうかとも思ったのですが、むしろジャンルは歌唱に入れるべきかと曖昧だったのでやめました。

Chandosからは、ここ数年John Wilson & Sinfonia of LondonがBBCやGramophoneなど英国メディアで絶賛されており、またいつもの愛国精神かと思っていたところ、2020年はEscalesというタイトルでイベールをはじめドビュッシーらラヴェルなども交えたフランス作品集をリリース、これが納得の出来栄えでした。

透明感がありスタイリッシュな演奏は近頃フランスや北欧オケでよく見られますがイギリスでは珍しいタイプです。選曲もビーチャムの演目をオマージュしたという事で、センスの良さが光ります。

ChandosのおなじみEdward Gardner&BBCはシェーンベルクでペレアスと浄夜の二枚が出ました。BBCのエネルギッシュな演奏のおかげで、淡々としがちな両作品も迫力と勢いがあって良かったです。

シェーンベルクは2020年は他にも良盤が多く、ProfilからはChristian Thielemannとドレスデンのグレの歌、Harmonia MundiからはIsabelle Faustのヴァイオリン協奏曲、Orchid ClassicsからもJack Liebeckのヴァイオリン協奏曲、Arco DivaというチェコのレーベルからはJan Mrácek率いる六重奏版の浄夜と、ファンにはたまらない一年でした。これだけあると聴き比べも楽しいです。

ちなみにシェーンベルクは2021年で死後70年になり多くの国でパブリックドメインになるので、今後もっとコンサートなどで演奏される機会が増えてくれると嬉しいです。

オーケストラの独自レーベルでは、個人的に好きなPhilippe Jordanが指揮するVSOのブラームス交響曲集は、彼らしい緩急を強調した立体的な演奏が印象的でした。

以前同じレーベルから出たベートーヴェンは単品CDでしたが、今回はセットだったので買いやすくて嬉しいです。VPOの影に隠れがちなVSOですが、Fabio Luisi、Philippe Jordanと監督が変わるごとにサウンドや雰囲気も激変する面白いオーケストラです。

近頃はレーベルやオケをまたいでの指揮者の活躍が多いので、新譜をチェックしていると意外な組み合わせに遭遇することもあるのが面白いです。

たとえば、Thomas Dausgaardは2019年にスウェーデン室内管弦楽団からシアトル交響楽団の監督に移籍したので、BISからはスゥエーデンでのブラームス4番(これで全集が完成です)、さらにベルゲンフィルとのブルックナー6番、そしてシアトルの独自レーベルからはニールセン交響曲1・2番とツァラトゥストラと、一年を通して目にする機会が多かったです。室内管弦楽団での経験のおかげか、シアトルでもコントロールの効いた見通しの良い演奏が楽しめます。

活気があった指揮者といえば、あいかわらずFrançois-Xavier Rothも引っ張りだこのようです。前述のベートーヴェン5番以外でも、同じくHarmonia Mundiから展覧会の絵、ケルンのMyriosというレーベルからはケルンオケでのシューマン交響曲1&4番、LSO Liveからはドビュッシー海と、手広くやっています。

個人的にはやはりHarmonia MundiでLes Sièclesオケとやっているのが一番しっくりきますが、それ以外でも世界中で大活躍の指揮者です。

Vasily Petrenkoもあいかわらず着々と良盤を出しています。ノルウェーLAWOレーベルからはオスロ・フィルハーモニーとのシェエラザード、プロコフィエフ5番など、OnyxからはリバプールとペトルーシュカやKathryn Rudgeとのエルガー海の絵と幅広くレコーディングしています。

あいかわらずOnyxの音質の良さは特出していますし、LAWOもDXDで録っているのでDACのテストなどに最適です。ただしハイレゾショップで96kHz版が発売して数ヶ月後にNative DSDショップにてDXDを出す流れなので、買い時にいつも悩まされます。

2020年の新譜ではありませんが、Oehmsレーベルがここ数年で出してきたSebastian Weigle指揮シュトラウス管弦楽集が今回ボックスセットになったので、改めて全部通して聴いてみたところ、その完成度の高さに驚きました。地味なジャケットのせいで無視していた人は、これを機会に是非聴いてみることをおすすめします。フランクフルト・ムゼウム管弦楽団というオケが想像以上に上手くて、とくにツァラトゥストラとかは壮大・緻密な圧巻です。フランクフルトだからと侮っていた自分が恥ずかしいです。

注意点として、同シリーズで出たシュトラウスオペラ二作(影のない女・アリアドネ)がボックスには入っておらず、どちらも非常に良いので、合わせてぜひ聴いてみてください。Weigleとフランクフルトというと、数年前にニーベルングの指環もやっており、そっちはちょっと腰が据わってなくてあまり印象に残らなかったのですが、今回シュトラウスが凄かったので、改めて聴き直してみたくなりました。

ボックスセットといえば、ミュンヘンフィル独自レーベルから小出しでリリースされていたゲルギエフのブルックナーが揃ったことで全集セットになりました。ゲルギエフとブルックナーはあまり縁がなさそうに思えますが、ミュンヘンフィルで、しかもブルックナーゆかりの聖フローリアンでの録音ということで、意外と真面目で満足な仕上がりです。ゲルギエフは世界一多忙な指揮者で、本番5分前に到着して一振りしたらすぐ飛行機に乗るなんてジョークもあるくらいですが、逆に変なこだわりやクセも無く素直に楽しめます。

他にも2020年はオーケストラ作品の新譜は毎週色々と聴いてみたのですが、やはり往年の名盤のインパクトや思い入れが強いジャンルなので(たとえば上記ミュンヘンフィルとブルックナーならやっぱりチェリビダッケとか)、新譜もとりわけ悪いところは見つからなくても、あえてこれを何度も聴く必要は無いかな、と思えてしまう佳作が多かったです。

たとえばマーラーだけ見ても、2020年はAlpha/Blochの7番、BIS/Vänskäの7番、DGG/Nézet-Séguinの8番、AVI/Adam Fischerの9番、そして大地の歌はAlpha/Reinbert de Leeuw、Pentatone/Jurowski、Channel/Ivan Fischerと、手に余るほどリリースが続きましたが、これだけ多いと逆にありがたみが薄まり、演奏の些細な事でもマイナス点に感じられていまいます。

それを象徴するような一枚が、AlphaからSanttu-Matias Rouvaliのシベリウス2番です。一年前に出た彼のシベリウス1番に感動を受け、この2番も期待していたのですが、いざ聴いてみると1番ほどのインパクトはありませんでした。もちろん決して悪い演奏というわけではなく、むしろ具体的に何が気に入らないのかも説明できないのですが、多分単純に2番の方が有名で、過去の名盤もたくさんあるため、それだけ無意識に比較してしまうのでしょう。

そんなわけで2020年でオケ作品のオススメを選ぶのはちょっと難しいのですが、あえて往年の名盤とあまり被らないような、異色なアルバムを二枚取り上げようと思います。

まずSignumレーベルから、Christopher Warren-Green指揮London Chamber OrchestraのLCO Liveというアルバムです。この指揮者はあまり名が知られていないと思いますが、80年代にフィルハーモニアのコンマスから指揮者に転向して、それから現在までずっとLCOの監督を担っている超ベテランです。

今作は弦楽オケで、ライブなのであまりカッチリした演奏ではなく、しかもかなり遠く残響豊かにフワフワ気味に録っているのですが、逆にそれがリアルなコンサートホールの臨場感を思い出させてくれます。ヴォーン・ウィリアムズのタリス幻想曲から、スークの弦楽セレナーデ、ドヴォルザークの弦楽セレナーデと、単なるBGMでは収まらない奥深い選曲なのも良いです。特にタリス幻想曲の宇宙的なサウンドはクラシック作品の中でも屈指の体験だと思うのですが、このアルバムではしっかりとそれが味わえます。

デッカからJakub Hrušaとチェコフィルのドヴォルザーク・レクイエムも一年を通してよく聴いたアルバムです。モーツァルトやヴェルディと比べて影が薄いものの、決して負けないくらい素晴らしい作品です。

同じくチェコフィルだと59年アンチェルや84年サヴァリッシュなど名盤がありますし、それ以外だと2014年Naxosのヴィトも良かったですが、このデッカ盤はサウンドのスケールが大きく力強いパフォーマンスです。

デッカはこれまでビエロフラーヴェクとチェコフィルでドヴォルザークやスメタナ、ヤナーチェク、スークなどチェコを代表する作品を続々リリースしており、残念ながら2017年にビエロフラーヴェクが亡くなってしまい、シリーズ半ばで終わったかと思っていた矢先に、現在大活躍中のチェコ指揮者フルサにバトンを渡して、レクイエムをリリースしてくれた事は実に嬉しいです。カップリングで「テ・デウム」と、さらにビエロフラーヴェクが振る「聖書の歌」も入っている事も、時代の橋渡しという感じがします。

このシリーズのこれまでのリリースと同様に、チェコフィル本拠地ルドルフィヌムでの音響が大変素晴らしく録れており、ターリヒ、アンチェル、ノイマン時代に匹敵するサウンドはビエロフラーヴェクだからこそ出せていたと思っていたところ、今回フルサにもそれが継承されていると感じられた事も嬉しかったです。

オペラや歌唱

オペラの新譜はあいかわらず数が少ないです。高価なDVDやブルーレイ版を買っても、そう何度も繰り返し見るものでもありませんし、プロダクションのビジュアルやカメラワークなどにあたりはずれが大きいので購入リスクが高いです。

こういうのこそNetflix的な動画ストリーミングサービスで過去作品の膨大なライブラリーを観覧できれば良いと思うのですが、大手レーベルOpus Arte、C Major、Arthaus、EuroArtsなどが未だにDVDディスク販売に固執しているので、さすがに時代錯誤に感じます。

映像無しのCDリリースでも、ライブ公演をそのままステージマイクで録ったようなアルバムが多く、豪華なスタジオ録音を実現できていた60-70年代の黄金期には音質が及ばない物ばかりです。最近の歌手陣は上手い人も多いと思うのですが、良い録音の機会に恵まれず、往年のスターと不当に比較されて可哀想です。

2020年オペラのメジャーリリースでは、Antonio Pappano指揮「オテロ」は期待を裏切らない素晴らしさでした。2018年にはソニーのブルーレイ版がありましたが、あちらはロイヤルオペラハウスで、今回はサンタ・チェチーリアです。どちらも主役はカウフマンなので紛らわしいですね。

同じ組み合わせの2015年のアイーダと同様に、やっぱりサンタ・チェチーリアの方がイタリアのケレン味というかヴェルディっぽさが出ます。カウフマンはイタリアンではないので歌い方が硬いなどと指摘されがちですが、逆にオテロの異邦人という役柄に合っていると思います。

OrfeoからChristian Thielemannの「影のない女」も優秀です。シュトラウス屈指の傑作ですが大作すぎて録音されることが少なく、今回しかもティーレマンで発売してくれたのは大変嬉しいです。全体の構成や歌唱は2015年OehmsのWeigle盤の方が好みですが、今作もダイナミックで迫力のあるパフォーマンスなので、どちらも聴いておくべきです。エレクトラやアリアドネなどと同様に序盤の混沌から終盤の解決に向かってどんどんメロディックで美しくなっていく作風なので、最初の30分でギブアップしないでください。

ところでThielemannといえばProfilから「マイスタージンガー」が出たのですが、なぜか物理CDのみでダウンロードショップに一向に登場しないので、CDで買うべきか、もうちょっと待つか悩んでいます。

Simon RattleはBR Klassikから「ワルキューレ」、LSO Liveから「利口な女狐」と、オペラを二本も出しました。どちらも真っ当な演奏ですが、ちょっと雰囲気がドライなコンサートっぽすぎて好みに合いませんでした。特に女狐は雑誌などでたくさんの賞を獲っていて期待していたのですが、歌唱のチェコっぽい田舎臭さや躍動感が足りないと思います。

ChandosからEdward Gardnerの「ピーター・グライムズ」は、これまでのGardnerのブリテン作品アルバムの素晴らしさから想像できるとおり、案の定、悪いはずがありません。

ベルゲンの緻密な演奏はブリテン独自の質感を引き出してくれますし、Skelton、Wallといった歌手陣も役柄にピッタリ合ってます。ブリテン入門としても最適な一枚です。できれば他のオペラも続けてほしいです。

新生NaïveからI Gemelliの「オルフェオ」も強烈な印象を残しました。歌唱も演奏もずいぶん派手で、聴き慣れないアレンジも多いので、数ある録音の中でも異色の存在です。モンテヴェルディの解釈の幅広さを改めて実感させてくれました。主役Emiliano Gonzalez Toroの声もよく通ってカッコいいです。

歌曲集やリサイタルアルバムも良作が多かったです。特にワーナーのEratoはこのあたりが強いですね。Diana Damrauが大御所の位置について、四月にはJansonsとの「四つの最後の歌」がまあまあ悪くないな、と思っていたら、10月のドニゼッティ・アリア集「Tudor Queens」はそれを上回る良作でした。Pappanoとサンタ・チェチーリアのサポートで、スリルと勢いは抜群です。

特にこのアルバムは最近のリリースとは一味違い、なんだかわざとサウンドを往年のデッカレコードっぽく仕上げているように感じました。パヴァロッティやサザーランドが大活躍していた時代に逆戻りしたような大時代的なサウンドや編集手法は、今となっては新鮮でカッコよく感じます。

他にもEratoはSabine Devieilheの「Chanson d'amour」やElsa Dreisigの「Morgen」など、優れた契約アーティストを重用していて、全体的にクオリティが高いです。

AlphaのVeronique Gensは毎年恒例で、悪かったためしがありません。2020年も「Nuits」という題名で夜にちなんだフランス歌曲を集めています。今作に限らず、どのアルバムも選曲のセンスが素晴らしく、有名な曲の合間にちょっと注意を惹くような変わった曲を入れてくるので、アルバムを通して飽きさせません。

ちょっと毛色の違うアルバムでは、Orchid ClassicsからDmytro Popovのオペラアリア集「Hymns of Love」も楽しめました。オケはMikhail SimonyanとDSOベルリンです。Popovはウクライナ出身2011年デビューという事で、若々しくも色気のある歌い方に惚れてしまいます。チャイコフスキーなどロシア物はもちろんのこと、プッチーニやグノーなど幅広いレパートリーで、最近珍しいタイプの持ち歌リサイタル盤です。

オラトリオをオペラに入れると怒られると思いますが、AlphaからはGiovanni Antonini指揮ハイドン「天地創造」、BISからは鈴木雅明の「ヨハネ」と「マタイ」が出て、どれも期待通りの仕上がりです。

Antoniniは一連のハイドンシリーズの一環でのリリースで、古典派の堅苦しさの片鱗もない、流れるような爽快な演奏です。鈴木のバッハは1999年に同じBISで録音して以来、壮大なカンタータプロジェクトを経て、20年後の再来になり、今まで通り正確で計算されつくした演奏の中で、より歌手を自由に歌わせているような余裕とストーリー性を感じさせます。

このようなオラトリオ作品というと、昔の荘厳な祝典のような演奏から、小編成でエッセンスを絞り出すような演奏が一時期流行り、そして今ようやく人間的なドラマや感情を巧みに表現するオペラ的な聴き応えのある作風に向かっているようです。

2020年のオペラCDの個人的ベストは、たくさんの賞を受賞しているので意外ではありませんが、EratoレーベルからMaxim Emelyanychev指揮ヘンデルの「アグリッピーナ」です。

歌唱、オケ、録音品質の全てにおいて本当に素晴らしい傑作です。冗長になりがちな(どれも一緒に聴こえる)ヘンデルオペラでも、バロックだからといってあまり高尚に考えずに、こうやって凄い歌手によるエンターテインメントショーとして楽しむ事ができます。優れたオーディオシステムで音楽鑑賞を楽しむというのは、そもそもこういう事だと思います。

室内楽や小編成

室内楽は小規模な録音スタジオでも収録しやすいため、様々なレーベルから面白いリリースがありました。そんな中でも気になったアルバムを数枚紹介します。

ベルギーのFuga Liberaレーベルから、6時間に渡る長大なセット「A Tribute to Ysaÿe」は特に素晴らしい企画です。19世紀末の音楽界に多大な影響を与えた伝説的なヴァイオリニストのイザイはベルギー出身なので、彼が設立したQueen Elisabeth Music Chapelとのプロジェクトで、2009~2019年までの録音でイザイと彼に関係する作品を網羅した大作です。

ソリストはMaria Milstein、Yossif Ivanov、Renaud Capuçonなど若手からベテランまで幅広いラインナップで、室内楽のみでなく協奏曲の指揮はKantorow、Roth、Denèveなどが振っています。イザイは小曲が多いのでアルバム一枚全部という機会も珍しいため、今回のように一堂にまとめてくれると新鮮な発見があります。ドビュッシー四重奏が収録されているので不思議に思ったら、1893年にイザイの四重奏団が初演したというのは知りませんでした。

Harmonia MundiからTrio Wanderer + 2によるショスタコーヴィチのピアノ五重奏と、Elaterina Semenchukを迎えたブロークによる7つの歌です。

昔からHarmonia Mundiの一軍選手として、どのアルバムに絶対失敗が無いTrio Wandererですが、今回も例外なく完璧です。五重奏Op.57は三重奏と比べると影が薄く、弦楽四重奏団が全集の穴埋めにやる事が多いのですが、個人的にかなり好きな作品です。Teldex Studio BerlinのMartin Sauer/Julian Schwenkner/Tobias Lehmannという、現代のクラシック録音の最高峰スタジオスタッフが手掛けているため、このサウンドはまさにレファレンス級と言えます。

IBS Artistsレーベルから、Marc PaquinとOrfilia Saiz Vegaによるヴァイオリンとチェロのデュオは強烈です。

タイトルにあるようにデュオの名曲コダーイとラヴェルを中心に、クセナキスとヴァスクスの小曲も入れて、最後はバルトークのルーマニア民俗舞曲の自己編曲版で締めている、充実した選曲です。

作品からはギスギスしたキツい演奏を想像しますが、スペイン・グラナダにある教会での録音ということで、溌剌とした演奏の響きが三次元的に豊かに広がり、とても美しく、聴きやすい仕上がりになっています。オーディオマニア的に見ても、まさに理想的な高音質盤だと思います。

最近よく見かけるようになったSteinway & Sonsレーベルから、Chloé Kiffer & Alexandre Moutouzkineのアルバムも素晴らしいです。ラヴェルのヴァイオリンソナタからストラヴィンスキー火の鳥とペトルーシュカ三楽章のヴァイオリン編曲です。

流石スタインウェイだけあってピアノは艶っぽく録れており、ヴァイオリンも負けじと骨太です。ヘッドホンで豊かな楽器の音色を堪能したいなら、このレーベルで色々聴いてみる事をオススメします。

このスタインウェイのレーベルは運営方針がちょっと特殊で面白いです。クラシックファンなら誰でも知っているArchivMusicサイトを設立したEric FeidnerとJohn Feidnerが10年ほど前にスタインウェイにスカウトされレーベルを設立、ニューヨークの本店にてレコーディングスタジオを設け、スタインウェイアーティストが訪れる際に録音する他、販促としてピアノ購入者にレコーディングサービスを提供したり、優れたアルバムが生まれればイベントやプロモーションに活用する、といった具合に、単なるピアノ製造販売だけに留まらない、スタインウェイというブランドそのものを提示するような、包括的なビジネスモデルを生み出しています。

MirareレーベルのLiya Petrova & Boris Kusnezowのベートーヴェン・ブリテン・バーバーのヴァイオリンソナタ集も演奏と録音のクオリティが非常に高いです。ベートーヴェンの項で紹介しようかと思いましたが、ブリテンとバーバーも良いので、総合的に見てこちらに入れました。

ブルガリアとロシア出身の若手デュオで迫力満点の演奏を繰り広げてくれますし、録音もMirareらしく音色が透き通っていて、細部まで見通せます。

上記のBoris Kusnezowというピアニストは伴奏者として最近色々なアルバムで目にします。たしかにタッチの明確さや演奏を引っ張る力などは本当に上手いです。

SWRレーベルからJanina Ruhとの「Mon Rêve Familier」もデュオの掛け合いが最高に上手いです。Ruhはチェリストとソプラノ歌手の二刀流で活躍している新人で、2020年はSWRからKusnezowとのデュオで二枚アルバムが出ています。こちらのアルバムはストラヴィンスキーのプルチネルラのチェロ編曲、そしてヴァスクスの無伴奏の途中から歌い出し、ポルドフスキの歌曲を数曲歌って、締めにミャスコフスキーのチェロソナタ2番、というかなりの異色盤です。新人といっても派手派手しく主張するのではなく、チェロも歌唱も落ち着いて心のこもった演奏なので、とても気に入りました。

奇遇にもほぼ同じタイミングで別のアーティストもプルチネルラのチェロアルバムを出していて、最初はそちらの方に期待していたのですが、いざ両方聴き終わってみると、私は断然こっちが好きでした。2020年のベストアルバムに選ぼうかと悩んだのですが、もう一枚凄く気に入ったアルバムがあったので、そちらに譲りました。

室内楽で2020年の個人的ベストアルバムは、Odradek Recordsから水谷川優子&黒田亜樹のヴィラロボス・チェロ作品集「Black Swan」です。

このレーベルは、イタリア・アドリア海に面したペスカーラにて、納屋を改造した素晴らしいレコーディングスタジオ「The Spheres」を運営しており、カフカを引用したレーベル名からもわかるように、クラシック、ジャズ、ワールド系など多方面のアルバムを出しています。

今作の日本人デュオによるヴィラロボスはアグレッシブな迫力と優雅さを兼ね揃えた、目が覚めるようなパフォーマンスです。チェロとピアノがどちらも主張が強いのに、しっかり分離してくれて、とくにチェロをここまで迫力満点に表現できている作品というのはなかなか類を見ません。もし自分がチェリストだったら、こんなにもカッコいい作品が作れたら本望だろうな、と思わせてくれます。演奏者とレーベルの思惑が一致した銘盤です。

ピアノソロ

ピアノソロは録音設備が比較的シンプルで、練習も一人でできるため、コロナ下でもレコーディングが行いやすいジャンルです。コンサートツアーがキャンセルになったので、これまで構想を練ってきたプロジェクトに取り掛かるきっかけになったというピアニストも多いでしょう。


まずはちょっと風変わりな作品から紹介します。MirareレーベルからMatan Poratというイスラエルのピアニストの「Carnaval」です。

タイトル通りシューマンの謝肉祭をメインに置いて、各曲のあいだにバッハやクープランからウェーベルン、クルタークまで、クラシック史をまたぐ小曲を挟んでいます。一流のピアニストなのでメインの謝肉祭も真っ当な演奏ですが、これらの小曲がパンチを加えてカルナバル感を盛り上げてくれます。ちゃんと各曲想と連動するよう狙っているのが上手いです。クラシックファンなら真面目なシューマンピアノ曲集なんて沢山持っていると思うので、こういう面白い企画の方が楽しめそうです。

オーディオマニアがピアノソロ作品を聴く上で、Harmonia Mundiレーベルは特に面白い存在です。オケや室内楽作品では大手スタジオで行う事が多いのですが、ピアノソロは各作品ごとにレコーディングに使うホールやプロデューサー、エンジニアなどのチームもバラバラで、サウンドの傾向がまるで異なります。

レーベル主導というよりも、むしろアーティストとプロダクション主導で作った作品をレーベルが流通を受け持つといった感じでしょうか。たとえば2020年の新作でも、Julien LibeerはAlphaレーベルでの作品と同じAline Blondiauがフリーランスプロデューサーとして受け持っており、Nikolai LuganskyであればNaïveレーベル時代からLittle TribecaスタジオのNicholas Bartholomée/Maximilien Ciupによる制作、Vadym KholodenkoはBrad Michelのスタジオといった具合です。

プロダクションチームごとにサウンドに対するセンスやポリシーが異なるので、簡単に言うと、Libeer/Blondiauだと厚めにアナログっぽく、Lugansky/Bartholoméeはタッチや出音のクセが強調される刺激、Kholodenko/MichelはDSD/DXDでホール音響を広く録る、といった具合です。

録音セッションに使った楽器やホールはその都度違うので、そちらの聴き比べも面白いですし、このように多方面で見ることで自分の好みのサウンドを発掘しやすいです。このあたりはポップスの有名プロデューサーの感覚とよく似てますね。たとえば私はPhil Rowlandsという録音エンジニアが最高に好きです(OnyxのマンゼRVWやNaxosのペトレンコショスタコーヴィチとか)。

2020年ピアノソロの個人的ベストアルバムを挙げようと思ったのですが、どうしても三枚から絞りきれませんでした。これから紹介するアルバムはどれも本当に素晴らしいので、ぜひ聴いてみてください。

まずはHyperionからStephen Houghのブラームス後期ピアノ集です。一月に発売して以来、何度も繰り返し聴き、オーディオ機器のデモ用としても重宝しました。

ブラームスファンならわかってくれると思いますが、Opp.116-119はよく他のアルバムの穴埋めに使われる事が多く、このように全部一枚に収めてくれることは稀です。とりわけピアニストごとに演奏の解釈にバラつきの多い作品群なのですが、Houghは神秘的で奥深く、これまでも、この先も、この録音を超えることは無いのでは、と思えるほど素晴らしいです。ピアノはヤマハCFXで録音はDavid Hinitt、まさにHyperionレーベルらしさの結晶とも言えるアルバムです。

続けて、OnClassicalからJacopo Salvatoriのドビュッシー・ピアノ曲集Vol.4です。名盤の多いドビュッシー前奏曲集の中でも、見事な演奏と高音質が両立している奇跡的な一枚です。

先ほどZaccariaのベートーヴェンでも取り上げたOnClassicalはイタリアのヴェネトにある新興レーベルで、プロのチェンバロ奏者だったAlessandro Simonetto氏が社長兼プロデューサー兼エンジニアとして、郊外にある小さな一軒家にスタインウェイを設置したレコーディングスタジオを運営しています。ジャズでいうところのヴァンゲルダースタジオみたいな雰囲気でしょうか。

すでに四作目になるこのアルバムは、ピアノの響き(とくに低音)が前代未聞の広大なスケールで録れており、霧のように響きが厚いのにタッチはクリアという、一体どうやったらこんな録音ができるのか、なぜ他の誰もできないのか不思議に思います。特に七曲目「Ce qu'a vu le vent d'ouest」が象徴的です。

そして三つめのオススメは、スペインIBS ArtistレーベルからJavier Rameix「Impressôes」です。さきほどヴァイオリンとチェロのデュオアルバムでも名前が挙がったレーベルなので、今後の活動も必見です。

こちらのアルバムはグラナダのAuditorio Manuel de Fallaにてヒナステラとヴィラロボスのソナタ集で、ベネズエラ出身ヨーロッパで活動しているRameixの堂々とした演奏です。

ヒナステラの精巧な機械仕掛けのような作品と、優雅で熱狂的なヴィラロボスが対照的に交互に演奏されており、良い効果を生み出しています。ヴィラロボスは先ほどチェロソナタのオススメ盤でも取り上げましたが、まだ著作権が生きているためなかなか演奏や録音が少ないものの、大作曲家だと思うので、布教も兼ねての紹介です。このIBSレーベルは地味ながら中々センスの良い選曲リリースが多く、録音品質においても、ピアノという楽器の魅力を引き出すセンスの高さは大手レーベルをも凌駕するということが、このアルバムを聴いてみれば伝わると思います。

おわりに

私にとって、2020年のクラシックはこのような感じで、毎週金曜日に新譜がショップに並ぶたびに、どれを買うか財布と相談して悩まされたので、クラシックファンとして充実した一年でした。

今回紹介しきれなかった作品もまだまだ沢山ありますし、もちろんリリースされた新譜を全部聴けたわけでもないので、今後も新たな発見があるかもしれません。

とくに今回各ジャンルで挙げた個人的ベストアルバムは、演奏の技術やセンスが良い事はもちろんのこと(そうでなければ聴いてられません)、どれも音質が素晴らしく、スピーカーやヘッドホンで聴いていて「これは凄いぞ・・・」とドキドキさせてくれた作品ばかりです。

ストリーミングでは聴けない優れたレーベルやアルバムも沢山ありますから、できればストリーミングに無いからといって諦めたり敬遠せず、ぜひ専門誌、タワーレコード・HMVなどのサイト、ダウンロードショップ、各レーベルやオケの公式サイトなど、多方面へ視野を広げてリリースをチェックしてもらえると嬉しいです。

2021年はストリーミングによるビジネスモデルの変化や、コロナの影響が本格的に現れてくると思うので、このままクラシックは好調なリリースを続けられるのかという不安は拭えませんが、できるだけアーティストや業界全体が持続できる方法が見つかるとよいです。

メジャーレーベルの庇護で安泰なところもあれば、趣味の延長で赤字覚悟で運営しているところもあるでしょう。実際どのレーベルやオケなどが比較的安定していて、逆にどれが経営の苦境に立たさせれているかというのは素人目ではわかりませんが、未だに芸術を第一に置いて、あまりビジネス的にガツガツしていないのがクラシック音楽業界の魅力だと思うので、今後もそれだけは死守してもらいたいです。

次回は2020年によく聴いたジャズのアルバムを紹介したいと思います。