UE Liveというイヤホンを手に入れたので、感想とかを書いておきます。1DD + 7BAのハイブリッド型で、現時点ではUE PROシリーズの最上級モデルです。
UE Live |
通常はカスタムIEMとして販売していますが、こちらはシリコンイヤピースを使うユニバーサル型の「UE Live To Go」というタイプです。
UE Live
UE LiveはUltimate Ears PROシリーズの最上級というだけあって、日本での発売価格は279,000円と尋常でなく高価なイヤホンです。
私も以前試聴してみて「凄いイヤホンだな」とは思ったものの、値段を見てさすがに怖気づいてスルーしました。しかし少し前にオンラインショップDropにて数量限定でかなり魅力的なセールがあったので、思わず手を出してしまいました。廉価版とかB級品ではなく正真正銘の正規品です。
Dropにて |
こういったバーゲンはDrop以外のショップでも稀に出現するので、こまめにチェックしています。ただし高額商品ですから海外からだと関税手続きの費用なども考慮しないといけませんし(しかもDropは配送会社がしょっちゅう変わるので予測できません)、海外からだと修理保証も期待できませんし、慣れていない人は思わぬトラップがあるので注意してください。
Drop
米国のオンラインショップDrop(旧Massdrop)は不定期に面白い限定モデルや格安放出品が現れるので、ポータブルオーディオマニアにとっては無視できない存在です。
数年前まではいわゆるグループ購入サイトとして運営していましたが、最近は売れ筋のモデルは常時在庫を持つようになり、一般的なオンラインショップとしての側面が強くなってきたようです。これまでは注文から生産が始まって発送まで半年待たされるのが普通だったのが、今回は二ヶ月程度で手元に届きました。
毎年なにかしらユニークな独自企画モデルが現れるので、私もなんだかんだで一年に一回くらいのペースで買いたいものが見つかります。これまで紹介してきたものでは、ベイヤーダイナミックDT177XやKossの静電型ESP95Xなど「有名なモデルに若干のアレンジを加えた廉価版」という企画が多く、特にゼンハイザーHD6XXやAKG K7XXなどはベストセラーとして定番化しており広く知られています。
HD8XX |
2021年はHD800Sの廉価版「HD8XX」がメイン企画だったようですが、個人的にHD800はそこまで好んで使うヘッドホンでもないので、わざわざ買い足す必要も無いかなと、あまり興味が湧かずスルーする事にしました。
そんなタイミングでUE Liveの特売が現れたので、私にとっては毎年恒例の福袋みたいな感覚でテンションが上がって購入したわけです。
ちょうど一年前の2020年には、同じくDropにてUE5ProからUE Liveまでユニバーサルタイプの全ラインナップから選べる特売企画があり、私は以前から欲しかった3BAのUE Reference Remastered(UE RR)というモデルを手に入れて、このブログでも紹介しました。
その時もなんとなくUE Liveの事が気になっていたのと、実際にUE RRを手に入れて使ってみたところ、やはりUEのイヤホンは優秀だという確信が持てたので、今回は躊躇せずにUE Liveを購入しました。
UE PRO
音楽鑑賞メインの人にとって、Ultimate Earsというと「いわゆる典型的なマルチBA型カスタムIEMを作っている、無数のメーカーの中の一つ」といった程度のイメージかもしれませんが、ミュージシャン用のステージモニターとしては、たぶん世界最大手ではないでしょうか。
実際のシェアについては不明ですが、欧米も日本も、有名な歌手やバンドのライブ映像を見ると、必ずといっていいほどの高確率でUEのIEM(イヤモニ)を装着しています。
公式サイトよりUE 5Pro |
たとえばバンド関連の雑誌のバイヤーズガイドを見ると、シュアーとゼンハイザーは本来ステージマイクを作っているメーカーですから、ライブ演奏のワイヤレスシステムの大手メーカーという側面が強く、イヤホンもそれの延長線上で製造しているという印象があります。
つまり、ひとまずマイクとワイヤレスシステムとのセットでユニバーサル型IEMを使って、ある程度大きなステージに立てるようになったらUEのカスタムIEMにステップアップするというのが定着しているようです。カスタムIEMのメーカーは多数あれど、失敗が許されない過酷なライブ現場での実績があるメーカーとなると、やはりUE、JH、Westoneなどの老舗が強いようです。
とりわけUEは欧米の大手楽器フェアやイベントで積極的にブースを開いて、小型の3Dスキャナーで来訪者の耳型を採って、後日完成したカスタムIEMを郵送するというプロモーションをよくやっています。それまでイヤモニには興味が無くて、わざわざ耳鼻科に行ってまで耳型を取るようなヒマも無かったようなアーティストでも、イベントの余興でスキャンして郵送してもらったのを使ってみて、以来UEのファンになった、という話をよく聞きます。
そんなわけで、UEはカスタムIEMがメインなのですが、一応ユニバーサル型も「To Go」という名前で販売しており、今回私が買ったのもそちらです。
公式サイトからUE18+Pro |
メインのラインナップはUE5Pro・UE6Pro・UE7Pro・UE11Pro・UE18+Proの五種類と、特殊モデルとして私が買ったUE RR・UE Liveがあり、それぞれにカスタムとユニバーサルタイプが選べます(どちらでも値段は変わりません)。
注意点として、モデル名の数字はドライバー数ではないので、たとえば一番ベーシックなUE5Proは2BAで切れ味重視、その上のUE6Proは2DD+1BAで低音重視といった具合に、価格はドライバーのコストに比例するものの、必ずしも高価なモデルの方が高音質というわけではなく、ボーカルやドラマーなど、ミュージシャンごとに特化したモデルを意識しているようです。
UE公式サイトの説明によると:
- UE5Pro:ライブ、スタジオ、ストリーミング
- UE6Pro:ドラム、ベース、エレクトロ、DJ
- UE7Pro:ギター、ボーカル、ジャズ、クラシック
- UE11Pro:ハイエナジーロック、ポップ、メタル、ヒップホップ
- UE18+Pro:ドラム、ピアノ、ジャズ、クラシック
- UE RR:プロデューサー、ミックス、マスタリング、放送
- UE Live:ライブミックス、マスタリング、放送
という紹介になっているので、つまりUE6ProとUE11Proがガンガン鳴らす系で、UE7ProとUE18+Proが生楽器ミュージシャン用といった感じでしょうか。UE RRとUE Liveは裏方モニター用のようなので、試聴してみた中でこれらのサウンドが私の好みに合ったのも納得できます。
デザインは期間限定で色々あるみたいです |
今回私が買ったのはユニバーサルタイプですが、日本で過去に店頭在庫として売っていたユニバーサルタイプはクリアシェルのみでフェイスプレートが選べなかったり、米国UE PRO公式サイトではユニバーサルタイプ自体が存在しなかったり、たまに海外通販サイトに現れると数種類のデザインから選べたりなど、とにかく入手経路が混沌としています。
なんにせよ、本筋はカスタムIEMのメーカーなので、ユニバーサルタイプはそこまで積極的にプロモーションしていないようです。在庫状況もいつも不安定で、なんとなくカスタムの片手間でとりあえず作っているような感じでしょうか。
デザイン
私自身がUE RRを一年ほど使ってきた上で、他のユニバーサルIEMと比べてUEのデザインが特に優れていると感じたポイントを挙げてみると、
- カスタムIEMのような安定したフィット感
- 遮音性の高さ
- 新たに導入されたIPXケーブルの取り回しの良さ
といった点が思い浮かびます。音質に関しては各モデルごとに個人の好みがあると思いますが、さすが老舗だけあって、フィットや使い勝手においては私の理想に近く、不満は一切ありません。
これらの点について、もうちょっと詳しく見ていきます。
UE LiveとUE RR |
UE Liveのシェル形状は昨年手に入れたUE RRと全く同じで、重量も気になるほどの差は無いため、一旦装着すればどちらかわからないくらいです。
Color Wave |
今回フェイスプレートはUE Liveの広報写真でよく使われている「Color Wave」というやつを選びました。個人的にUE Liveといえばこのデザインを連想します。
公式画像でのデザイン |
ちなみにショップの宣材写真を見ると、実際に届いたものとは違うロゴデザインでした。個人的にはどちらでも構いません。
公式サイトより、UE SWITCH |
さらに余談になりますが、UEは最近フェイスプレートを任意に着脱交換できる「UE SWITCH」というシステムを新たに導入したようですが、私が買ったのはそれではありません。
UE SWITCHはカスタム注文時の追加オプションとして3万円くらいするらしいので、結構高いようにも思いますが、実際多くの人が購入時に悩むところだと思うので、良いアイデアかもしれません。今後ユニバーサルでも導入する予定なのかは不明です。
UE Liveは1DD+7BAです |
ダイナミックドライバーが確認できます |
透明なシェルから中身を覗いてみると、8ドライバーというだけあって、ずいぶん詰め込まれています。
一昔前のマルチBA型イヤホンでは、単品のBAドライバーを複数まとめてゴムやワイヤーで縛り上げて搭載するのが一般的でしたが、このUE Liveなど最近のモデルでは、ひとつの銀色の箱に複数のBAドライバーをまとめたようなユニットが増えてきています。そのため、中身を見ても実際にいくつドライバーがあるのか判別しにくいです。
公式サイトからUE Liveの内部構造 |
公式サイトによるとUE Liveは5WAYクロスオーバーで、最低音用の6mmダイナミックドライバーと、LOW、LOW MID、HIGH MID用BAドライバーがそれぞれ2基づつ、そして最高音用にTrue Tone+という独自設計の小型BAドライバーを搭載しているそうです。(上のイラストでは一番下の小さいやつがTrue Tone+です)。
UE LiveとUE RR |
シェル形状は同じようです |
UE RRと並べて比較してみると、3BAのUE RRはずいぶん中身がスカスカに見えますね。
ところで、UE RRの方が透明シェルが濁っていて黄色っぽく見えるのですが、はじめからそうだったのか、それとも紫外線や経年劣化で変化したのかは、購入当時にレビューで撮った写真と見比べてみてもイマイチよくわかりません。
パッケージ
Dropから送られてきたパッケージはこのようなシンプルなものでした。
パッケージ |
説明書 |
ケースとアクセサリー |
黒い紙箱の中にはイヤホンが入っている円筒形のプラスチックケースとイヤピース類が入ったトレイがあります。
ケースを見ると「Handcrafted for: UE LIVE」と書いてありますが、本来カスタムIEMであればここにオーナーの名前が印刷されているのでしょう。
かなり高価なイヤホンなので、個人的にはもうちょっとしっかりしたペリカンケースみたいなものを付属してもらいたかったですが、どうせケースは自前で調達するから付属品はゴミになるという人もいるでしょうから、これくらい簡素なのでも別に構いません。
装着感
UEのIEMはユニバーサル型であってもイヤピースさえ選択すればカスタムにかなり近いフィットが得られます。もちろん今回はセール価格だったからユニバーサルを選んだわけで、もし同じ値段なら私もカスタムを選んだろうと思いますが、これまでUE RRのユニバーサル型を使ってきて一切不満はありませんでした。
UE LiveとUE RRのどちらもシェル側面に通気ポートが無い完全密閉設計で、しかも耳穴に入るノズルがとても長いため、まるで耳栓のように優れた遮音性が得られます。外出時に屋外で使えるイヤホンを探していて、アクティブNCでは音質に満足できないけれど、カスタムIEMを作るのは面倒、という人にとってUEは有力な候補になりそうです。
ちなみにUEのカスタム版ではAmbient Featureという通気孔があるタイプのシェルも有料で選べるようです。完全な耳栓状態だとコンサート中に観客との一体感が得られないから、あえて外部音を取り込みたいというアーティストも結構多いようです。
SE535、S8、UE Live |
Shure SE535とMoondrop S8と並べて比較してみた写真です。UEのシェルは厚く耳の外に突き出しているため、枕に横になって寝るような使い方には向いていません。その点Shureのような薄型デザインは耳のくぼみの中に収まるので寝る時に重宝します。
ちなみにMoondrop S8はノズルに段差が無いので、着脱時にイヤピースがスポッと抜けて耳穴に残ってしまうのに悩まされました。その点UE Liveはノズルに引っ掛かりがあるのでイヤピースをしっかり保持してくれます。
Xelastic Sサイズ |
こんな感じです |
イヤピースは自分の耳穴に密着してくれる最小サイズを見つけるのが肝心です。私はUE RRにてSedna XelastecのSサイズを愛用してきたので、今回もそれを使いました。最近はSedna Crystalも試していて、そちらも気に入っています。
イヤホンはモデルごとにノズルの長さや角度が違うので、必ずしもひとつのイヤホンと相性が良かったイヤピースが別のイヤホンにも合うとは限りません。
Xelastecの「SS・S・MS」三サイズパックを買って試してみると、私の耳だとSSでもギリギリ耳穴に密着してくれましたが、イヤホン本体をちょっと傾けたりケーブルを引っ張ると隙間ができてしまい、低音の量や遮音性が損なわれるのでダメでした。
MSだと逆に大きすぎて、シェルが耳に密着するよりも先にイヤピースがそれ以上奥に入らず、シェルが宙吊りになってしまい、上下にフラフラ傾斜するような状態です。つまり出音ノズルと耳穴が並行を保ってくれず、たとえば歩行中には本体が上下に傾いて、うねるような変な音になってしまいます。
SSとMSの中間のSサイズであれば、シェルが耳に密着するのとシリコンが耳穴に密着するポイントが一致するので、これが私にとって正しいサイズです。UEに限った話ではなく、どんなイヤホンでも正しいサウンドを得るには、この二点を同時に両立することが肝心です。
もちろんこれはUEのシェルが人間工学に基づいた優秀な形状だから実現できる事で、たとえばIE800みたいな棒状のイヤホンでは、イヤピースの大きさによってドライバーから鼓膜までの距離や角度が変わってしまうので、サウンドの印象もずいぶん変化します。
ケーブル
2019年頃にUEがIPXコネクターを採用した時は「また変な独自規格か」と懐疑的に思いましたが、実際に使ってみると確かに優れたコネクターです。
IPXコネクター |
最近ではWestoneの新型でもIPXを採用しましたし、これからプロ用として定着してくれる事を願っています。IPX以外にも、ゼンハイザーのプロモデルではPentaconn Earコネクターを採用するなど、ようやく古典的なMMCXや2PINから離れていく傾向は喜ばしいので、できれば各社で統一してもらいたいです。
MMCXとの比較 |
カジュアルなコンシューマー用途では気がつかないかもしれませんが、過酷なライブステージで活躍するプロ用イヤモニではMMCXや2PINは故障の原因になりやすいです。どちらも防水ではないので汗や雨が入り込んで腐食しやすく、さらに2PINは横曲げに弱く、MMCXはクルクルと回転するため接点の摩耗で接触不良になりやすいです。
UEが採用したIPXコネクターはMMCXとよく似ていますが、差し込みがプラスチックのOリングで防水効果があり、しっかりと圧入されて、意図的に回さないかぎりは勝手に回転しないため、耳から外してもケーブルの耳掛けが正しい位置に固定されているため、装着に手間取りません。
かなり細くて柔軟です |
Y分岐のスライダー |
UE Liveに付属しているケーブルはSuperBaXという銀メッキ銅リッツ線だそうです。アップグレードケーブルとしても定評のあるデンマークLinum EstronのOEM品で、単品で2万円もするような高級ケーブルです。UE RRにも同じものが付属していたので一年ほど使ってきて、一見貧弱そうですが断線トラブルなども無く良好です。
UEの現在のラインナップを見ると、一番安いUE5Proでも同じSuperBaXケーブルを付属してくれているようなので、イヤホン購入時にケーブルのアップグレードを考えなくても良いのは嬉しいボーナスです。
このケーブルは内部に強化繊維を織り込む事で強靭な引っ張り耐性を持ちながら、0.9mmという驚異的な細さなので、取り回しが容易でタッチノイズも無く、プロ用としては好評なのに、外観が地味なせいでオーディオマニアに人気が出ないのが残念です。
IPXコネクターはLinum以外ではほとんど見かけませんが、UEのカタログを見るとIPXのBluetoothケーブルを発売したようなので、今後の盛り上がりを期待したいです。
Effect AudioのConXシステム |
つい最近Effect AudioがConXシリーズにIPXコネクターを追加したそうなので、今後は同社のConX対応ケーブルなら対応可能になるのが嬉しいです。
DiabloとSuperBaX |
IPXコネクター |
今のところLinum以外で容易に手に入るIPXケーブルということで、Nobunaga LabsのDiabloというのを買ってみました。4.4mmバランスケーブルが欲しかったので、ちょうど良いです。
こちらのIPXコネクターはLinumと互換性を確認しているそうで、実際に接続してみても、緩くも硬くもなく、付属ケーブルと同じ感触です。今後IPXコネクターが普及することになれば、きっとMMCXなどがそうだったように、互換性が悪い(本体を破損するような)粗悪なメーカーのケーブルとかも出回るのでしょうから、それだけは心配です。
Diablo |
さすがにSuperBaXと比べると8芯編み込みのDiabloは太いですが、それでも他の一般的な高級ケーブルと比べて柔らかく滑らかな手触りで、タッチノイズもほとんど無い、優れたケーブルだと思います。
Nobunaga Labsといえば、数年前に銀銅ハイブリッド型のケーブルを買ってみて、音は良かったものの、外皮が硬くベタベタして扱いづらく、それ以来ちょっと敬遠していたのですが、この最新ケーブルはずいぶん進化したなと関心しました。
音質に関しては、Diabloの方が中域が柔らかく色彩豊かに鳴ってくれる感じがするので(バランス化の影響もあるかもしれません)、SuperBaXよりも好みの鳴り方ですが、SuperBaXの細さと取り回しの良さは捨てがたいので、どちらを使うべきか悩ましいです。今回の試聴では付属SuperBaXケーブルを使いました。
インピーダンス
まずUE LiveとUE RRのインピーダンスを比較してみました。公式スペックによると、UE Liveは10Ω、UE RRは35Ω (1kHz) と書いてあります。
インピーダンス |
UE RRは3WAYの3BAなので、低域はシングルBAで90Ωくらいに落ち着いていて、クロスオーバー付近に差し掛かるとかなり複雑になっているのが見えます。
一方UE Liveの方は5WAYで「1・2・2・2・1」の8ドライバー構成になっており、二つのドライバーが並列化されている帯域が多いため、インピーダンスも総じて低くなっています。こちらは公式スペックの10Ωというのはグラフを見ても妥当ですね。
インピーダンス |
UE RRと同じグラフだと縦軸の詳細がわかりにくかったので、UE Liveと似たような構成の64 Audio Nio (1DD + 8BA)と比較してみました。
こうやって見ると、UE Liveも8~14Ωのあいだで複雑な山谷があるのがわかります。中低域は安定していて、9kHz付近にクロスオーバーの谷を持ってきているのはUE RRと似ています。
Nioの方がインピーダンス変動が平坦ですが、こちらは全体的に5Ω程度と低いので、ヘッドホンアンプの出力インピーダンスに周波数特性が左右されやすいので注意が必要です。
どちらにせよ、最近のDAPとかなら出力インピーダンスが1Ω以下のモデルが多いので問題ないと思いますが、UE Liveも13~8Ωくらいの振れ幅があるので、出力インピーダンスが高めの古風なアンプだとUEが意図したサウンドから離れてしまうので、試聴の際には気をつけてください。
イヤホンはイヤピースの装着感などで不確定要素が多いですので、せめてアンプくらいはそういった音質変化の懸念が無いものを選びたいです。
位相 |
電気的な位相で表した方が三者の違いがわかりやすいかもしれません。やはり3BAのUE RRが一番急激で、UE LiveとNioはどちらも可聴帯域内の位相シフトが少ないです。
音質とか
今回の試聴では、普段から使い慣れているHiby R6 Pro DAPとiFi Audio micro iDSD Signatureを使いました。先日R6 ProからRS6へ買い替えたので、そちらでも聴いています。
iFi Audio micro iDSD Signature |
UEのイヤホンはこのようなDAPやポータブルアンプで鳴らすのにちょうど良いくらいの感度なのも、気に入っている理由のひとつです。micro iDSDのNormalモードやRS6 DAPではボリュームを30%くらい上げたあたりが適正音量でした。
あまりにも感度が高すぎるイヤホンだと、ボリュームの微調整が難しかったり、左右のギャングエラーが目立ったり、さらにインピーダンスが低すぎるとボリュームが頭打ちするよりも先に音が歪んで割れたりするので、UE Liveの10Ω・105dB/mWというのは絶妙に扱いやすいスペックです。
肝心の音質についてですが、具体的な不具合や不満はほとんど見つからず、感想を書くのが難しくて困ります。もっと明らかなクセがあったほうがわかりやすいのですが、ここまで来ると完全にアラ探しの世界です。毎日使っていればそのうち何か気がつくだろうと思っていたら三ヶ月も経ってしまいました。
とにかくワイドレンジで高解像、空間も広いです。美しい倍音を強調するような感じではなく、たとえば金属ハウジングや金属ドライバーにありがちな光沢や艶っぽさが一切無いため、ボーカルの美しさを引き立てるような演出を求めている人にはあまり向いていないと思います。どちらかというとスケール感と安定感重視で、録音本来の音質を評価したい人や、複雑なオーケストラやマルチトラックなジャンルで、細部まで余すことなく体感したい人におすすめしたいです。
ダイナミックドライバーと高音専用の小型BAドライバーを搭載しているとなれば、低音ドスドス、高音キンキンの、刺激的な打ち込みEDM用サウンドかと思いきや、実際はむしろ逆に、良い意味で通常のマルチBAの両端の限界を補ってワイドレンジ化する役割に徹しています。
どの帯域も比較的柔らかめで、解像感が損なわれないギリギリのところを保っており、高音はそこまで耳障りではないのにしっかりと上の方まで伸びているという点は、これまで聴き慣れているUE RRとも共通しています。UE RRの線の細い精密さをわずかに犠牲にして帯域と空間に余裕を持たせているような印象です。
さらに低音のダイナミックドライバーが素晴らしい効果を発揮してくれています。よくある空気ポンプのような耳元間近の音圧効果ではなく、奥行きの距離感があり、しかもモコモコしておらず、しっかり解像して、マルチBAだけでは描ききれない音像まで余裕を持って再現してくれます。クロスオーバーの繋がりが良好なので、明確な境界線は感じられないのですが、普段BAイヤホンで聴いている以上に楽曲に含まれる低音の魅力を意識させるような聴かせ方です。
そんなわけで、UE Liveは確かに凄いイヤホンだという説得力は十分実感できたものの、これまで聴いてきた他のIEMイヤホンとはずいぶん違うけれど、具体的な理由がわからず、ずっと不思議に思っていました。そんな状態で数ヶ月間使っていて、ある新譜アルバムを聴いていた時に、ようやく気が付きました。
クリーヴランド管弦楽団の自主レーベルからウェルザー=メスト指揮のプロコフィエフ交響曲2番のアルバムです。
2番は突拍子も無い作品なのでなかなか好んで聴く人も少ないと思いますが、今作のように精密で明瞭に聴かせる録音だと、その素晴らしさの片鱗が掴めてきます。カップリングのシュニトケとの共通点も感じられる奥深い作品です。
このアルバムを何気なく聴いていた時に気がついたのが、UE Liveの鳴り方はベイヤーダイナミックのT1やT5p(とりわけ2nd Gen)ヘッドホンとかなり似ている、という印象です。
IEMイヤホンと大型アラウンドイヤーヘッドホンでは根本的に感覚が違うのは確かですが、一旦類似性を意識するようになると、以降他の楽曲を聴いていても「たしかに似ているな」と納得できてしまいます。ベイヤーのヘッドホンは個人的に長らく愛着があるため、今回UE Liveが自分の好みに合うのも納得できます。
特に高音がマルチBAにありがちなキンキン響かせる効果と違い、独自のTrue Tone+高音用ドライバーによる上の方までスッキリ伸びる感覚は、ベイヤーのテスラテクノロジードライバーの特徴を連想させてくれます。さらに低音の鳴り方も密閉型ヘッドホンT5p 2ndのドライバーから発せられる力強い低音とよく似ています。
特にベイヤーとの共通点を感じるのは、このプロコフィエフ交響曲のような高音質オーケストラ録音の全帯域を余すことなく演じきってくれるという点です。
オケには最高音から最低音まで様々な役割の楽器が存在しており、それら全てが同じステージ上空間にあり、それぞれが定位置から動かないというのが大前提です。特にプロコフィエフのように譜面の縦方向を柔軟に往来する作風の場合、クロスオーバーが下手なイヤホンだと、個々の楽器のソロだけなら綺麗に聴こえても、楽器間でメロディの受け渡しや合奏時に不自然な捻じれが感じられてしまいます。
たとえば第2楽章変奏曲の冒頭で、弦セクションのどんより曇った不穏な空気の上でクラリネット、オーボエ、フルートが突き抜けるようなメロディを描いていくコントラストであったり、変奏曲6でコントラバスのリズムに対するコントラファゴットとチューバの重低音や、同終盤でティンパニーの打撃に合わせて全楽器fffの場面などでもUE Liveは難なくこなせます。
全編を通して、どんな場面でもリスナー前方にあるコンサートステージというイメージを崩すことが無く、しかも響きが長引かず時間軸方向でスッキリしているので、オンとオフのメリハリがハッキリとしていて、プロコフィエフ特有のリズミカルな抑揚がしっかり体験できるところが優秀です。
ベース奏者Diego ImbertのレーベルTrebim Musicから新譜「Porgy & Bess」を聴いてみました。タイトルどおりポーギーからの選曲によるピアノトリオのジャズです。
ポーギーなんて使い古された企画ではありますが、今作はAndre Ceccarelliのドラムを押し出しているようで、単なるムーディーなトリオ盤では終わらず、かなりトリッキーな作風に仕上がっています。しかも変なフュージョンではなくスウィング感はしっかりしているのでジャズファンでも聴き応えがあります。
UE Liveで聴くと、ウッドベースの重厚な響きはもちろんのこと、特に5曲目「I got plenty o' nuttin'」などドラムがパシャパシャと奔放に打ち鳴らしている場面では、打楽器の表情が豊かで、単なる刺激音ではなく、質感のバリエーションに富んでいます。同じ演奏をハウジングの金属の鳴りに頼っているようなイヤホンで聴くと、高音の打撃は全て同じ金属音に変換されて耳障りになりがちですが、UE Liveでは高音用ドライバーの能力が高く、ハウジングに余計な小細工が無いためクセが少ないです。
おかげで「もうちょっとボリュームを上げたら高音が刺さって耳障りになるだろうな」という領域に差し掛かっても、実際にボリュームを上げてみると、豊かな質感を維持したままで、ハウジングやドライバーが負けて破綻する気配がありません。つまり一般的なリスニング音量に対してヘッドルームが異常に高いです。このあたりも、やはりベイヤーのテスラテクノロジーの鳴り方と似ています。
また、先程のオーケストラ作品と同様に、特定の帯域が遅れずに全体のタイミングがピッタリ揃っていることで、演奏の情景が掴みやすく、たとえばドラムの激しい演奏の中でも、ピアノがインテンポよりも若干遅らせる事で、焦らずにレイドバックな雰囲気を与えているのが伝わってきます。
このアルバムは44.1kHz・16bit音源だったので、特にドラムやピアノのアタック成分に関してはDACの性能やオーバーサンプリングフィルター設定が質感に影響を与えます。そのあたりも含めてUE Liveで聴くと違いがわかりやすいので、つまりイヤホン由来のクセが少ないという事なのでしょう。
私としては、UE Liveのポテンシャルを最大限に体感できるのはこのジャズアルバムくらいが限界で、もっと極端にギラギラなコンプをかけまくっている作品になってくると耳障りになってしまうところもベイヤーなんかと似ています。ベイヤーのテスラ系ヘッドホンというと、ポップスを聴く人にとっては刺激的すぎるという不評もある一方で、私みたいにクラシックやジャズをメインに聴いている人にとっては管弦楽器の広大なレンジを最大限まで引き出してくれる希少な存在でもあるので、そのあたりの線引きもUE Liveにも当てはまるようです。
おわりに
UE Liveを入手してから三ヶ月ほど毎日使ってみたところ、かなりの高級機ではあるものの、さすがプロ用メーカーらしく堅牢で壊れる気配が無く、ケーブルも含めて使い勝手も良いため、気負いせずに出先でカジュアルに使えています。
公園で歩きながらDAPで聴いていたりして、ふと我に返ってみると、こんなに凄いサウンドがここまで手軽に体験できているという事自体が「良い時代になったな」と実感させてくれます。特にUE Proシリーズの遮音性の高さはポータブル用として威力を発揮してくれるので、色々なイヤホンを持っている中でも外出時に積極的に選びたくなります。
ところで、カーオーディオに凝っている人の話を聞くと、自宅で音楽を聴く環境が無いので、通勤などのドライブ中が音楽を一番じっくり楽しめる時間だから、という理由をよく耳にします。それと同じように、私自身も実際に思い返してみると、毎日忙しい中でも通勤などの移動時だけは必ずイヤホンで音楽に没頭できています。自宅のスピーカーシステムにどれだけ散財しても、平日は帰宅が夜遅くなって大音量で鳴らせない、眠くて集中できない、なんて人も多いでしょう。楽しみにしていた新譜がリリースされて「せっかくだから自宅のオーディオシステムで堪能しよう」なんて思っても、結局時間が無くて先延ばしになってしまうという事がよくあります。
そうなると、遮音性と音質が優れているイヤホンというのは高級スピーカーと同じくらい大事な存在かもしれません。今回のUE Liveくらい文句無しに満足できるイヤホンがあると、心理的にも気兼ねなくDAPで新譜を聴いて楽しめるようになります。
価格的にUE Liveくらい高価なイヤホンを買わないとダメだ、という意味ではなく、すでにスピーカーや大型ヘッドホンのシステムで満足できている人でも、今回の私のように、自分の好みのヘッドホンサウンドと似ているイヤホンを見つける事ができれば、音楽鑑賞をじっくり堪能する機会が増えるという話です。イヤホンはあくまで手軽な代用品として軽くあしらうのはもったいないということを今回UE Liveが教えてくれました。