2015年3月23日月曜日

ソニー NW-ZX2を試してきました

ソニーNW-ZX2のデモ機を借りる機会があったので、ちょっと使ってみました。

OPPO HA-2・iPod Touchとの比較
10万円の超高級プレーヤーなのでそう簡単に買えるものではないのですが、現在使っているNW-ZX1からのアップグレードということで気になっています。

結果、買わないことにしたので、簡単なインプレッションを書き留めておきます。

今回、NW-ZX2との比較対象になったのは、NW-ZX1と、最近購入したOPPO HA-2です。以前のレビューでも書きましたが、このHA-2は非常にコンパクトながら優れた音質で、とても満足しています。

最近HA-2をiPod Touchと重ねて使っているのですが、写真のようにNW-ZX2と並べてみると外寸も厚みも重量もほぼ一緒という、面白いことになりました。

写真でわかるように、Oppo HA-2の場合は筐体の下部にLightningケーブルを接続しないといけないので、実際はNW-ZX2よりも多少大きく、取り回しも面倒です。バッグの中などでケーブルを壊さないように気をつける必要があるのも問題点です。


ソニーのNW-ZX2についてですが、これまでNW-ZX1をずっと使ってきたユーザーとして、まず驚いたのがその重さと大きさです。NW−ZX2は235gという数字以上にずっしりとくるので、ポータブル用途ではNW-ZX1の後継機として対等には考えられないなと思いました。

たとえば、雑誌などの記事で高音質DAPに興味を持って、139gのNW-ZX1を手にとってみて「これくらいなら、持ち歩いてみようかな・・」と購入した人は多いと思いますが、今回買い替え目的でNW-ZX2を手にとったら、「これはちょっと重すぎ・・」と思うのではないでしょうか。IriverやHiFiMANなど海外のオーディオマニア向けメーカーがオーバースペックな巨大DAPを作るのは歓迎しますが、これまでコンパクト・最薄、最小を推し進めてきたソニーの製品とはイメージが異なる気がします。

個人的な思いつきですが、この大きさならもうちょっとデザインを派手にして、ソニーの高級ブランド「ES」シリーズとして販売するのが良いのではないでしょうか。

NW-ZX1のようなアルミ削りだしのメカ感はどちらかというとESシリーズっぽいデザインだと思うのですが、NW-ZX2、PHA-3などが一新してどれもイメージチェンジしたのは、どういった理由なのでしょうか。新イメージのずんぐりむっくりで黒いシボ加工というのは、お金持ちのオジサンが大好きなヴィンテージカメラを想定しているのかと思いますが、それにしてはアクセントや遊び心が足りない、ただの黒い箱なので、所有する満足感はあまり高くないです。それに対してOPPO HA-2はボリュームのローレット加工や赤インクの掘り込み数字などのディテールがゴージャスで気に入りました。

NW-ZX2唯一のデザインアクセントとして、3.5mmジャックの真鍮リングが、NW-ZX1から比較して更に大きくなりました。この真鍮リングはNW-ZX1を使っていて一切メリットが無いということに気づきましたので、今回オーバーサイズになったのも多少冷ややかな目で見てしまいます。NW-ZX1の3.5mmジャックはとてもユルユルでかっちりしたホールド感が無いので、接続しても不安定ですし、実際どのヘッドホンを使ってもとても外れやすいです。NW-ZX2で多少良くなりましたが、DIYで使われる高級ジャックと比べるとまだパッとしない感じです。

ボタン類はNW-ZX1の突起型から、今回は凹んだ形状に変わったので、誤動作防止という意味では悪くないと思います。押しにくいなどというコメントをネットで散見しましたが、実際使ってみるとボタンが大きくなったため使い勝手は良好です。ただ、NW-ZX1はポケットの中で手探りで操作していたのですが、NW-ZX2はその大きさからポケットに入れて使うのは諦めて、バッグに入れる方が多いのではないでしょうか。

もう一つNW-ZX2の大きなメリットとして、新たにマイクロSDスロットが追加されました。これについてはデメリットは無いので、大いに歓迎したいです。個人的にはNW-ZX1の内蔵128GBで十分なのですが、最近ハイレゾ音源が増えてくると、容量は多ければ多いほうが嬉しいです。

ひとつ、スマホやDAPメーカー各社に声を大きくして伝えたいことは、どうにかそろそろUSB3などでデータ転送レートを速くして欲しいという切実な願いです。最近のマイクロSDカードはUSB2.0の480mbpsをはるかに凌駕する速度が出せますし(Sandisk Extreme Proで実測700mbps以上出ます)、ソニーお得意の内蔵メモリーならなおさら高速化できます。それなのにウォークマンケーブルは未だにUSB2ですし、ましてやソニー謹製の転送ソフトMedia Goなどはあまりにも速度が遅いので使っていません。音楽を管理してウォークマンに転送するための専用ソフトなのに、エクスプローラやFinderでフォルダドロップしたほうが速いっていうのはおかしいです。毎回DAPの曲を総入替えするたびに数時間待たなければいけないのは苦痛です。

ともかく、NW-ZX2にはマイクロSDスロットが追加されたので、Xperiaで使っていたカードを挿入してみたところ、数分間のライブラリ同期を終えて無事に問題なく曲が再生できるようになりました。


音質についてですが、ソニー MDR-Z7、ゼンハイザー HD800、そしてゼンハイザー IE80、Westone UM-Pro30を使って試聴しました。

結論を言うと、総合的なサウンド・クオリティはNW-ZX1やOPPO HA-2よりも優れていると思いました。

とくに、HA-2については個人的な評価がかなり高かったため、NW-ZX2がさらにその上を行くというのは正直驚きました。HA-2のレビューで、iPodとHA-2をセットで買えば7万円程度でハイエンドの音が楽しめるといったことを書きましたが、実際のハイエンドDAPであるNW-ZX2は侮れないということです。

具体的にNW-ZX2がどう良かったかというと、まずNW-ZX1とは根本的に音の深みが違います。深みというのは単純に低域重視の厚みという意味ではなく、楽器そのものの彫りが深い、空間から浮き出るような存在感のことです。NW-ZX1ではふわっとしていた楽曲も、NW-ZX2では存在感を増して音楽的な表現の充実感が良好です。

音圧が強いとか、前に出てくるといった感じではなく、あくまでも距離感のある繊細な空間表現を維持した上で、さらに内容の濃さを表現出来ているので、これには脱帽しました。

OPPO HA-2と比較した場合、まずはっきりと違いが聴き取れるのはNW-ZX2の中域の滑らかさです。HA-2は、さほど音圧やパワー系の音色ではないのですが、NW-ZX2と比較すると中域が派手で弾けるような表現が気になりました。例えばオーケストラ録音でヴァイオリンが演奏している場合、OPPO HA-2ではオンマイクではっきりと聴き取れるので、一聴して良い音だと思うのですが、NW-ZX2は本来距離をとるべきものは余裕を持たせて聴こえるので、明瞭に聴き取れるのに奥行きがあり押しが強くないという、高級オーディオのようなイメージです。

NW-ZX2の試聴はすべてClearAudio+, DSEE HXはオフの状態でしたが、NW-ZX1でも感じたように、DSEEは好印象です。これをONにするとオーディオ的にあまり破綻せずに音色にツヤが増すのは、とくに古い録音などで重宝します。ClearAudio+の方は基本的にハイレゾ演出ギミックだと思います。


音質がとても優れているということで、これで購入に至るかと考えますが、NW-ZX2にはひとつ致命的な問題があります。それはNW-ZX1でも問題だった、出力パワーの低さです。
とにかく、音量が稼げません。低インピーダンスのポータブルヘッドホンやIEMならば十分に鳴らせますが、大型ヘッドホンなどは無理です。MDR-Z7でさえボリューム位置は常にMAX付近で聴いていました。これは他社の高級DAPにも言えることですが、筐体を大きくしたのに最大電圧も十分にとれないような貧弱アンプなのは残念です。ポピュラー楽曲とくらべて、普段聴くクラシックなどはダイナミックレンジを稼ぐために平均音量を低くしてあることが多いので(ポップスと比較して-10dB以上低い場合もあります)、そういうダイナミクスの大きい音質重視の楽曲を聴く場合にはボリュームが不足してしまいました。

ソニー自身も、大型ヘッドホン駆動にはデジタル出力で別売のヘッドホンアンプPHA-3と組み合わせてください、などと説明していますが、それは本末転倒です。音質ももちろん外部アンプによって変わりますしNW-ZX2の内部回路の良い部分が全部バイパスされます。NW-ZX1でも思いましたが、PHA-3を使うことによってウォークマン内蔵のS-Master DAC回路を完全に無視して、PHA-3の一般的なESS Sabre DAC経路のアンプ回路を使うことになるので、これだったら、例えばOPPO HA-2など他社製でも色々選択肢があります。いったいなんのための高音質DAPでしょう。

IriverのAK120などでも言えることですが、せっかく高級DAPを買ったのに、低能率のヘッドホンには、さらにその上にアンプが必要というのはバカみたいですね。

少なくともOPPO HA-2を買った理由は、高出力なのでポータブルでも家庭用でも、どんな環境のどんなヘッドホンでも十分に駆動できて高音質を楽しめる、という目的だったので、その点ではNW-ZX2は中途半端すぎて購入を断念しました。もう少しバッテリーとアンプ回路に力を入れて、どんな難儀なヘッドホンでもカンタンに駆動できますよ、というオーバースペック気味な設計コンセプトのほうがフラッグシップにふさわしいと思います。

ソニーが今後もしPHA-3などの外付けアンプ路線を行くなら、例えばUSB OTGやSPDIFでハイレゾPCM・DoPを出力するためのトランスポート専用機と、それとドッキングできるPHA-3系のDAC・アンプを別売すれば人気が期待できるのではないでしょうか。

例えば現在各社から出ているポータブルUSB DAC・ヘッドホンアンプを、だれもが少なくともひとつは持っていると思うのですが、それらを手軽にDAPとして活用できるトランスポート端末というのは、探してもなかなか良いものが無いです。スマホだと値段が高く機能過多ですし、電池の持ちも気になります。NW-Aシリーズなどの廉価ウォークマンではDoPが不可能ですし、iPodは容量不足です。

私が考える最強のDAP、というのがあるとすれば、マイクロSDスロットを2つ備えて、USB3で高速伝送に対応していて、アンドロイドOSで、WalkmanアプリやオンキョーHF Playerが使えて、OTGで192kHz・DoPが使えれば、文句なしです。あとはお好きなUSB DACアンプを接続してください、なんていう装置が欲しいです。どこか中国のメーカーとかが作ってくれませんかね。

というわけで、残念ながらNW-ZX2は購入しませんでした。今後のDAPは、もうじき発表のFiio X7に期待してます。