前回はイヤホン・ヘッドホンの感想でしたが、DAPやアンプでも面白い変化が見られた一年でした。とくに低価格モデルのスペック底上げは相変わらず目覚ましく、さらに据え置きオーディオの充実が特に目立ちました。
正月休みのあいだに色々書いておこうと思っていながら、ダラダラしていたらもう仕事が始まってしまい、機会を逃してしまいました。そんなわけで、とりあえず適当に思いついた事をまとめておこうと思います。
普段から趣味の一環として様々なオーディオ機器を試聴したりするのですが、さすがに全部をブログで紹介するヒマもなく、とくにDAPやアンプというのは組み合わせや相性によって評価も変わるので、感想を思いつくのが難しいです。
しかも近頃はどのモデルもよく出来ており、相性問題が酷かったり不具合バグまみれのようなものに出くわすことは少なくなりました。おかげで純粋に音質のみで勝負する土俵がようやく出来上がってきたようにも思います。
もちろん気に入ったものを全部買うわけにもいきませんし、個人的に興味はあるものの、まだ評価が定まっていないモデルも多いです。それらも含めて、忘れないうちにまとめてみようと思います。
DAP
2017のポータブルDAPは、目立った変化は無いものの、例年通りに優れたモデルが順当に登場した一年でした。技術的にも過渡期を過ぎて、成熟した市場になったのでしょうか。もはや中途半端なスペックのモデルでは通用しないため、各メーカーの競争が激しくなり、良いものを安く買えるようになりました。我々消費者にとっては嬉しい時代です。とくに2017年は5万円以下の低価格DAPのスペック底上げが顕著で、もはや安いからといって機能性を妥協するような必要はありません。
Fiio X3 Mark III ・X5 3rd Gen ・X7 Mark II |
コストパフォーマンスの高いDAPメーカーといえば、やはりFiiOが定番ですが、2017年も続々ニューモデルを投入してきました。X3、X5、X7のDAPラインナップが全て更新されたのですが、それぞれ2、3、8万円台と価格帯は据え置きなのが嬉しいです。
2万円台の新作「X3 Mark III」でさえ、2.5mmバランス出力、Bluetooth、USB DAC、同軸デジタル出力など豊富な機能を搭載しており、さすが初代X3から5年以上のキャリアを積んできた貫禄があります。私は初代X3を未だに雑用(エージングとか測定信号とか)に重宝しているので、安くても信頼がおけるメーカーです。
トップモデルX7も「X7 Mark II」に進化しました。D/AチップがES9018SからES9028PROになり、本体サイズも若干小さくなって、堅実なアップデートです。音色や出力に応じてアンプモジュールが交換できるというのがウリですが、初代のモジュールもそのまま使いまわせるのは良い判断です。さらにMark IIは2.5mmバランス出力に対応するAM3Aという新型アンプモジュールを同梱しているので、初代のユーザーでも重複することが無く、買い換え需要もしっかりカバーしています。
さらに大幅な進化を遂げたのが中堅モデルの「X5 3rd Gen」で、3万円台の価格帯でありながらX7さながらのAndroidタッチスクリーンを導入しました。D/AチップはX7がESSでX5 3rd Genが旭化成という違いはあり(どちらも超優秀です)、アンプモジュールも取り外しできませんが、機能面ではほとんど同じでこの値段はお買い得です。
FiiOの素晴らしい所は、どのモデルを見ても、他社のような大袈裟な高級化や重厚化に走っていないことです。ニューモデルになるごとに、より低価格・軽量・多機能を実現していることにメーカーとしての技術力の高さを感じます。
個人的にX5・X7はAndroidインターフェースの完成度がイマイチ好きになれず、開発当初からのゴチャゴチャした名残があるので、そろそろ一新してもらいたいです。サウンド面では、個人的な好みの問題ですが、旧X5のアナログポタアンみたいな中域の充実したサウンドが好きなので、新型は高解像・繊細ですが、個性的な魅力というのは薄れている気がします。近頃、他社のDAPは音色の個性を伸ばす方向に進化しているので、それとは逆行しているように思います。あと気になるのは、ネーミングが「Mark II」「3rd Gen」「Mark III」と統一性が無いのはなぜでしょう。
FiiOは日本での流通がイマイチ不透明で、海外と同じタイミングで販売されるモデルもあれば、X7 Mark IIのように海外発売から半年経ってもまだ国内版が出ていない場合もあるのが困ります。
iBasso DX200 |
FiiOのライバルiBassoからも、トップモデル「DX200」が登場しました。試作機の情報は以前から小出しに公開していたので、ようやく待望のといった感じです。初代トップのDX100は2012年発売で、それの後継という位置づけのようですが、完全な新作なので、共通する部分は少ないと思います。D/AチップはES9018SからES9028PROに更新され、独自の交換可能なアンプカードモジュールなど、X7 Mark IIとよく似ていていて価格は割高な11万円なので差別化が難しいところです。残念ながらアンプカードのオプションを含めてまだじっくり試聴できていません。
Plenue J・Plenue R・Plenue 2 |
韓国Cowon Plenueシリーズは2017年も活気があり、低価格から高価格まで3モデルが登場しました。3万円の「Plenue J」、6万円の「Plenue R」、14万円の「Plenue 2」です。
それだけならFiiOなどと同じ松竹梅ラインナップなのですが、Cowonは旧モデルも継続して販売しているので(まだ製造しているのか、在庫限りなのかは不明ですが)、ここに3万円のPlenue D、9万円のPlenue M2、13万円のPlenue 1、24万円のPlenue Sとあるので、なかなか相関図やロードマップが見えにくいメーカーです。
私自身はPlenue SをメインのDAPとして一年半ほど愛用しており、音質の良さはもちろんのこと、タッチスクリーンインターフェースの使いやすさは未だに他社を圧倒しており、起動レスポンスの速さやSDカードスキャンの速さなど、なぜPlenueにできて他社はできないんだと疑問に思います。
音質面では、Plenue M、1、Sなどの初期モデルは温厚でマイルドな(あまりメリハリの無い)サウンドなのですが、次世代Plenue R、2はそこにカチッとしたクリアさや分離の良さも加わって、DSDやバランス出力が大幅に進化したこともしっかり実感できました。どちらにせよ音楽再生第一の使いやすさと誇張の少ないサウンドが気に入っています。
Plenueといえば今年は「Plenue X40」という4BAイヤホンが登場して、これも綺麗で飾らないPlenueブランドらしいサウンドでけっこう良かったです。8万円というライバルの多い価格帯の中で地味な存在ですが、見かけたら試聴してみてください。
ソニー NW-ZX300 |
ソニーからは、2016年に本命のNW-WM1A・NW-WM1Zが登場したので、2017年もそれらの余波を感じる一年でした。とくに黄金のWM1Zが意外なほど好調に売れています。一流技術者達が手間をかけただけあって、商品自体はたしかに完成度が高く、サウンドもしっかり個性を持っている(しかも不快に感じない)良いDAPなのですが、流石にこの価格でこの重さだとニッチだろうと思っていた所、いたるところで愛用しているマニアに出会います。黒いWM1Aの方も「色々考えると、意外と安い」「WM1Zよりもこっちのサウンドが好き」という人が多く、好評を得ています。WM1Zをあえて個性的なサウンドにすることで、より汎用性のあるWM1Aを選ぶことに劣等感を感じさせないことが上手な戦略だと思います。
2017年はそんなNW1シリーズのコンセプトを従来のZXシリーズに投影したNW-ZX300が登場し、旧モデルZX100と同じ65,000円という価格で、新たにタッチスクリーンや4.4mmバランス端子、ネイティブDSD対応S-MASTER HXアンプ搭載と、飛躍的に進化しました。これを見ると、ようやくソニーのような大手企業も、これまでの悪しき企業体質だった「下位モデルは意図的にスペックダウン・機能制限」という文化を払拭し、純粋に音質での上下関係を築き上げるという、オーディオメーカーの基本に気がついたようで、嬉しいです。
さらに2~3万円台のAシリーズもA30からA40系列に世代交代し、音質向上やUSB DAC機能など、順当に進化しました。
ソニーのDAPは総じて今後もうちょっと出力を上げてソニー以外のハイエンドヘッドホンも駆動できるオーバースペックを目指して欲しいです(それでも過去モデルよりは随分良くなりましたが)。あと、相変わらずWMC-MWH10ケーブルは「大きさ・固さ・消費電力の高さ」と三重苦が酷いですし、いいかげんウォークマンWM-PORTケーブルを廃止して、急速充電・高速転送対応のUSB C端子にしてくれませんか。
AK70 MkII・KANN・SP1000 |
DAPの大御所iRiver Astell & Kernも活気があり、5月に9万円のAK KANNと、40万円のトップモデルA&ultima SP1000ステンレスを発売、さらに8月にはSP1000のカッパー(銅)バージョンも登場しました。他社を見ると2017年は既存モデルの後継機が多かった中、全く新しいモデルを投入する試みは珍しいです。
まずKANNは、従来のAK300+AMPモジュールを一体型ボディに組み込んだようなモデルで、まるで黒板消しのような分厚いビッグボディです。上位モデルを凌ぐ圧倒的な高パワーを発揮でき、鳴らしにくい大型ヘッドホンでも悠々駆動できます。ただしゲインが高い分だけ超高感度なイヤホンでノイズが目立つこともあり、そこがハイエンドになりきれない部分でした。できればアンプ回路にノイズ低減モードも搭載して欲しかったです。
私自身もKANNを数ヶ月使っており、概ね満足だったのですが、気軽に携帯するには持て余すオーバースペックでした。しかしUSB DAC・USBトランスポートとしても優秀なので、家庭メインの万能デバイスとしては使い勝手が良いです。できればデスクトップ用として自立するスタンドとかが付属していてればさらに良いのに、なんて思いました。
SP1000は、40万円の予算と400g近い重量を許容できる人ならば大本命になりうる、凄いDAPだと思いました。とにかく音抜けが良く高音の空気感が異常なほどに出るので、DAPでここまで出来るのかと衝撃を受けました。フラッグシップでありながら、ありふれた堅実なモニター調サウンドではなく、あえて際立つ個性を持っているのが良いです。一新されたインターフェースというのも使いやすかったです。
旧モデルAK240にはアルミとステンレスモデルがあり、それぞれサウンドがかなり違う事を体験済みだったので、SP1000でもステンレスと銅という二種類のモデルから選べるのはハイエンドの娯楽として嬉しい配慮です。実際に聴いてみるとやはり音が違うのだから不思議です(ステンレスはシャープで銅は響きが豊かで緩いです)。
私はAK240のサウンドがとても好きだったのですが(今でも持ってます)、AK300世代はちょっと普通すぎて興味を持てなかったので、SP1000でまたAKファンに戻れました。40万円はちょっと手が届きませんが、AK300シリーズがすでに生産完了で公式サイトのラインナップから消えているので、今後の進展が気になります。
10月にAKはもうひとつ優れたモデルを出してくれました。7万円台の「AK70 MKII」です。大好評の小型DAP AK70の上位機種として、若干の本体サイズ拡大を伴う音質アップが図られたモデルです。
操作性やサイズ感はAK120II・AK240などに近く、サウンドは今回MKII化でよりパワフルなエネルギーが感じられるようになりました。DSD再生はAK240の方が優れていますが、PCMではこっちのほうが良いのではと思います。スペックや機能性は一切妥協せず、旧世代モデルの使用感とSP1000世代のサウンド設計を上手に融合させたような、2017年のDAPのあるべき姿を象徴するようなモデルです。一応AK300シリーズのほうが上位ですが、個人的には、この値段でここまで優れたDAPを出してしまったら、もうこれで十分と思えてしまいます。
Onkyo DP-S1A・Pioneer XDP-20 |
オンキヨー&パイオニアからは、3月には小型DAPの「DP-S1」「XDP-30R」さらに12月にはそれらの上位機種という位置付けで「DP-S1A」「XDP-20」が登場しました。
3月のDP-S1・XDP-30Rは、4万円台の超小型ボディにツインDAC・バランスアンプと、かなり頑張ったモデルだったので、AK70のライバルとしてかなり好評でした。
大型DAPのDP-X1はDP-X1Aが後継機という扱いでしたが、今回DP-S1とDP-S1Aはあくまで上下関係で、並行して販売していることがちょっと紛らわしいです。値段が約二万円アップで、オンキヨーの方は外観、機能、スペックはほぼ一緒で、オーディオ回路の高品位化のみ徹底したということなので、「違いが分かる人にはわかる」というアプローチは、これまでのオンキヨーらしくなくて面白いです。一方パイオニアはデザインが丸型でポップな印象に生まれ変わりました。これまではむしろパイオニアの方がマットブラックで直角なブランドイメージがあったので、興味深い試みです。
ただ、あまりに短期間でのリリースなので、私の友人はすでに3月にDP-S1・XDP-30Rを購入した人が多く、このタイミングで買い換えるのは乗り気ではないみたいです。また、DP-S1・XDP-30Rともに発売から一年を待たずして市場価格が急落し、今や半値の2万円台になってしまったので、その辺の「たたき売り」感もオーディオメーカーというより家電ガジェットというイメージが先行してしまいます。こういう前例があると「とりあえず最安値まで待とう」という考え方になってしまうので、あまり良い売り方では無いと思うのですが、メーカー側としてはどうなんでしょう。
他にもDAPは色々あります |
他のメーカーからもいくつか面白そうなDAPが登場しましたが、ほとんどが従来機の後継モデルだったので、メーカーのファンでなければそこまで注目する気になれませんでした。ヘッドホンと比べると旬のガジェット感が強いので、メーカー保証とかを考えるとマイナーブランドはちょっと心配です。
LUXURY & PRECISION L3やCayin N5ii、The BIT Opus#1Sなど、全体の傾向として、アルミブロック削り出しの長方形でクリーンなデザインが増え、以前のような奇抜で近寄りがたい雰囲気のモデルは少なくなりました。CayinもN6、N5、N5iiと進化を重ねるごとに洗練されてきていますし、L&P L3も以前のColorfly C4と比べると随分大人になったなと思います。タッチスクリーンとなるとデザインが似てしまうのは仕方が無いので、その中で各メーカーが個性的なデザインを捻出しています。
内部的には、2.5mmバランス出力、PCM352.8kHz・DSD256ネイティブ再生、USB DAC&トランスポート機能などは価格を問わず標準的なスペックになっており、これより高スペックである意味は薄いです(たとえばDSD512とか、そもそもスタジオ録音機器が無いので)。あとはタッチスクリーンOSの使いやすさ、無線LANやBluetoothなどのネットワーク機能などで優位性を主張している感じですが、どのメーカーもそこまで目立った独自性や格安価格というわけでもないので、どれも同じに見えてしまいます。
Questyle QP2R |
私が2017年に衝動買いしてしまったDAPがQuestyle「QP2R」です。Questyleは中国の新興ヘッドホンアンプメーカーで、これは2016年の初代「QP1R」の後継モデルなのですが、私は初代はほとんど聴いておらず、単純にQP2Rのみ試聴したら凄く良かったので、思い切って買ってしまいました。値段は16万円と見た目以上に高価です。
インターフェースは旧iPod Classicをさらに悪くしたような感じで、無線LANもBluetoothも無く、基本的に初代FiiO X5と同じ操作性なのですが、オーディオ部分だけは一級品で、CD音源、ハイレゾPCM、DSDと、どんなファイルを聴いても素晴らしい仕上がりです。中高域が派手な傾向ですが、それでいて下品でなく色彩豊かです。
とくにアンプ設計が優秀で、イヤホンでもヘッドホンでもグイグイ駆動できる信頼性の高さで死角が無いという事も、購入を決める上で重要でした。
そんなのQuestyle QP2R以外でも、たとえばソニーNW-WM1ZやAK SP1000など、そこそこ高級なDAPというのは、どれも音色にしっかりとメーカー独自の個性を表現できていることが成功の秘訣のようです。それでしか得られないサウンドがあればこそ、ちょっとくらい操作性や機能が劣っていても、オーディオ製品としての魅力は損なわれません。
サウンドの個性が単なる「悪いクセ」にはならず、あくまで高音質でありながら、「他では味わえない、凄い音」と直感で訴えるようなサウンドを実際に作ることができる事自体が凄いと思います。結局DAPの中身は電気回路なわけですが、設計次第で(回路的にはほとんど同じ結果が出るはずなのに)、優秀なメーカーがここまでサウンドを追い込む事ができるのは、これまでの開発努力の賜物でしょう。
数年前までは、AKなど大手メーカーのDAPでも、まだ音質設計において手探り感があり、たとえ高級モデルといえども、アンプ出力スペックやデジタル信号処理など、不完全と思えることが多かったです。そのため、後続するメーカーから「安くて音が良い」DAPの追い上げが凄まじかったです。
それが今では、ベテランメーカーは十分なノウハウを蓄積し、インターフェースや対応フォーマットはそこまで労力が要らないので、オーディオ設計に集中することが可能になり、突き詰めた音質向上を実現できています。
一方で数万円の低価格モデルでは、もはや単純に銘柄D/Aチップで教科書的回路を組むくらいのことはどの新参メーカーでも出来るので、今の時点でもうコストパフォーマンスの上限に来ていると思います。「この価格ならここまでできる」というスペック目安が確立してしまった現在、同価格帯で他社をリードするためには、教科書設計に頼らない優れた音質と、斬新なアイデアが必要となってきます。
Chord Mojo+Poly |
斬新なアイデアといえば、11月にはChordから「Poly」が登場しました。マイクロSDカードスロットやWiFi・Bluetoothなどを搭載しており、Chord Mojoと連結することでDAPのようなプレイヤーになるというオプションパーツです。画面が無いので、ほとんどの操作はペアリングしたスマホから行います。
海外では9月頃からちらほらと発売を開始しており、それを購入した友人のを何度か試してみたのですが、当時まだスマホアプリが未完成だとか、機能的に発展途上のような部分が多かったです。そのうち真面目に評価しようかと思っているうちに、機会を逃してしまったような感じです。
Polyはアイデアとしては悪くないのですが、75,000円という価格は安くないですし、グラグラなので専用ケースは必須ですし、冷静に考えると、これは利便性ギミックのみの商品であって、オーディオ的なメリットはあるのか、と考えると躊躇してしまいます。Hugo 2用に同様のモジュールもそろそろ登場するらしいですが、高価になりそうです。
操作系やナビゲーションはスマホで行う、いわゆる「画面の無いDAP」というのは画期的で良いアイデアだと思います。ただし、現状で最大の難関は、スマホとの連携にBluetoothが使えない事です。
Polyの場合、スマホとPolyのどちらかがポータブルホットスポットになることで無線LANで通信します。(一応Bluetoothは搭載してますが、無線LANを設定するためのアプリ用です)。PolyのマイクロSDカード内の曲も、無線LANのAirPlayかDLNAアプリでアクセスします。ポータブル用に使いたくてPolyを買った友人によると、常時WiFiホットスポットモードにしているのでスマホの電池が持たないと悩んでました。ちなみにAK DAPの同様の技術「AK Connect」も無線LANのみです。
もし将来的に、気軽にBluetoothペアリングでDAPを操作できる技術が一般的になったら、DAPとポタアンの境界線は薄れ、Polyと同様のデバイスは続々登場すると思います。そういった意味で、Polyはかなり前衛的なデバイスなのかもしれません。
DAC&ヘッドホンアンプ
Chord Polyの話題から続きますが、2017年はいわゆるポタアンの新作は少なかったですが、私の個人的なトップは、圧倒的に「Chord Hugo 2」でした。ただし残念ながら27万円という値段がハードルになって買っていません。Chord Hugo 2 |
誰でも気軽に買える値段ではないですし、外観や機能面では初代Hugoと似ているので、意外と話題にならなかったHugo 2ですが、音質面では見違えるほどに進化していて驚かされました。ポータブルも自宅のメインシステムもこれで十分満足できると思います。鮮やかでクリアで、しかもアタックがよく分解され、高解像なのに細さやシャープさを感じさせません。録音の奥底まで見通せる気がします。
しかも私自身は初代Hugoはそこまで好きではなかったので、別に熱心なChord信者というわけでもありません。Mojoも素晴らしいと思いますが、あれはあの値段とサイズで、という感じです。Hugo 2はそういった条件無しで、とにかく凄いDACで、凄いヘッドホンアンプだと思います。
さらにUSB接続やWindowsドライバーまわりも初代より断然安定しており、見えない部分で全く別物と言える新作です。唯一嫌いなのは未だに混乱する虹色ボリュームノブくらいでしょうか。
Chord DAVE + Blu MkII |
Chordはさらに、2015年の超弩級DAC「DAVE」と組み合わせるトランスポート・アップサンプラー「Blu MkII」を5月に発売しました。二つ合わせて300万円超だそうです。これを読んで「よし買おう」という人も少ないと思うので、多くは語りませんが、試聴してみたら、とにかく凄いサウンドでした。聴き慣れた古いCD音源でも、奥行きが信じられないくらい深くなり、衝撃的です。もし宝くじでも当たったら真っ先にBlu MkII+DAVEの組み合わせを買おうと思います。
iFi Audio micro iDSD Black Label |
私自身は2016年末からiFi Audio 「micro iDSD Black Label」を使っており、職場のデスクで様々なイヤホン・ヘッドホンを鳴らす日常の友として活用しています。出力がパワフルすぎてすぐ爆音になりがちなのが唯一の不満です。旧モデルmicro iDSDよりもサウンドの艶や質感がよく出てオーディオファイル的な進化が感じられます。これもHugo 2に勝るとも劣らないよく出来たDACアンプで、75,000円くらいなので、たとえばもしDAPしか持っていないのだったら、こういうのも検討する価値があると思います。
iFi Audioといえば、よくわからない謎のガジェットを定期的にリリースすることで有名ですが、2017年もそのペースは衰えず、2016年末からの新作だけでざっと並べると:
- micro iDSD Black Label - 現行トップモデルDACポタアン
- iDefender 3.0 - USB電源ノイズフィルター
- iSilencer 3.0 - USBデータノイズフィルター
- nano iDSD LE - nano iDSDの廉価版
- nano iONE - USB&BluetoothエントリーDAC
- nano iDSD Black Label - nano iDSDの高級版
- micro iTube 2 - 真空管ラインバッファー
- Pro iESL - Pro iCAN静電ヘッドホン用モジュール
- nano iGalvanic 3.0 - USB電源&データノイズフィルター
- Gemini 3.0 - 電源分離型USBケーブル
- Mercury 3.0 - USBケーブル
これだけの製品をそれぞれ開発製造するのは並大抵のことではありません。しかもどれも怪しい手作り感ではなく、コストダウンを徹底した工業製品っぽいのが良いです。
nano iDSD BLも良かったです |
とくに個人的に2017年はmicroとnano iDSDのBlack Label版はどちらも値段相応に凄くよく出来た商品だと思います。
そして2018年も新作が続々登場する予定です。とくにコンセントに挿すと高周波ノイズを検出して逆相キャンセル信号でカットするというAC iPurifierなんか気になります。実際効果があるかは謎ですが、原理がそれっぽく書いてあると、変なトルマリンパワーとかよりも信憑性があります。ただしiFi Audioのガジェットはそれぞれ数万円とそこまで安くないので、値段を聞いて思いとどまってしまうことが多いです。とくに私は旧タイプのGeminiというUSBケーブルを気に入って使っているのですが、後継のGemini 3.0というのが出たので買い換えようかと思ったら、7万円以上もするらしいので怖くて止めました。違いがあるか真面目に比較してみたいです。
さらに2016年に登場した据え置き型ヘッドホンアンプPro iCANも音が良く、トランジスター・真空管モードが切り替えられるため、気分や相性次第で鳴り方を変えられるのが嬉しいです。これに組み合わせるPro iDSDというUSB DACが出るはずだったのですが、まだ発売されてません。私自身micro iDAC2というUSB DACを自宅のメインDACとして使っているので、Pro iDSDがどんなものか期待が大きいです。
Oriolus BD-10 + BA-10 |
2017年でちょっと気になったブランドの中国Oriolusは、数年前にiBassoのエンジニアが独立して立ち上げた新興ポータブルオーディオブランドで、デビュー作の「Oriolus」IEMイヤホンは好評を得ています。地味ながらマニア受けする良い商品を作っていると思います。
7月には「BD-10」と「BA-10」という二機種を発売しました。BD-10はUSB DACヘッドホンアンプで、BA-10は真空管アナログヘッドホンアンプです。どちらも単体で機能するのですが、二つをバランスラインケーブルで連結することも出来るというユニークなアイデアです。
とくにDACアンプのBD-10は、7万円くらいでES9018PRO x2搭載でDSD256、PCM 352.8kHz対応、USB、光、同軸、アナログライン入力とフルスペックで死角が無いです。唯一ネックなのが、2.5mmバランス出力は真空管アンプBA-10のみという点です。外出時はBD-10、自宅ではBA-10合体なんて考えると、バランスケーブルは後者のみというのは面倒です。
Oriolus NT-1 |
さらに9月にはNutubeを搭載したヘッドホンアンプ「NT-1」が登場しました。
Nutubeというのは、スーパーのレジやCDプレイヤーの表示とかで使われる、青緑にボーッと光る蛍光表示板の製造技術を応用して真空管(直熱双三極管)を作った画期的な増幅素子で、KORGとノリタケ伊勢電子の共同開発として一年ほど前に発表されました。
発表後、DIY自作キットのヘッドホンアンプが登場しましたが、メーカー製オーディオアンプでの音質は未知数だったので、完成品としての商品を待ち望んでいました。NT-1は38,000円くらいという値段も良いですし、ヘッドホンオーディオにとって久々の新鮮なニュースです。実際スペックを見ると、真空管増幅なのにオペアンプ並の電池寿命やスペックを示しているので、やはり次世代の名は偽り無かったようです。
Nutubeの弱点は、ずばり「真空管っぽく見えない」ことだと思います。たぶん世間の多くの自称真空管ファンは、見えない真空管に興味を示さないでしょう。大きな真空管をオレンジ色のLEDで発光させたほうがバカな客はコロッと騙されます。Nutubeはそうではない純粋なオーディオ用増幅素子の新たな選択肢として、今後ハイエンドからポータブルまで様々な分野で活躍することを願ってます。
Beyerdynamic Impacto Essential・Ultrasone NAOS |
DAC・ポタアンの部類に入るのかわかりませんが、スマホで使うための小型デバイスも続々登場しています。Beyerdynamic Impacto essentialは36,000円、Ultrasone NAOSは22,000円と、3.5mm端子を廃止したiPhone用に、ヘッドホンメーカーが自社製品のためのアクセサリーとして発売しているケースが多いようですが、もちろんAndroidでも使えます。これまでAudioquest Dragonfly、Resonessence Herus、Meridian Explorerなどありましたが、それらはポケットに入れるには大きいので、さらにコンパクトでリモコン感覚で使えるDAC・ヘッドホンアンプというのは重宝するユーザーも多いと思います。
スマホをオーディオに使う最大の難関は、アップデートごとにコロコロ変わるシステムのサポートに追われることでしょう。Androidはそこそこ安定していますが、iOSはオーディオメーカー泣かせです。昨日までちゃんと動いていたDACが、アップデート後に急に認識しなくなった、音飛びする、アプリが落ちる、なんて事に一度でも悩まされると、もうDAPしか使いたくなくなります。
据え置きシステム
ポータブルと据え置き型の境界線は曖昧ですが、個人的には内蔵バッテリーやスマホ給電で駆動するのがポータブルで、PCバスパワーやACアダプターなどが必要なのは据え置きと呼んでいます。据え置きの場合、省電力を気にしなくても良いので、より理想的なオーディオ回路設計を尽くせるというメリットがありますが、その一方で、接続する周辺機器との相性や、電源周りのノイズなども考慮する必要があり、よりオーディオ設計の経験と技量が要求される分野でもあります。
据え置きといっても予算に応じて数千円から数百万円まで幅広い選択肢がありますし、アナログヘッドホンアンプやDACアンプ複合機など、メーカーごとに得意分野や理想とする構成が異なります。
PCオーディオの最初期には、高音質なハイレゾ対応USB DACというと、プロスタジオ用モデルを買う人が多く、Benchmark DAC1やRME Firefaceなどがとくに有名でした。最近ではコンシューマー製品が増えた事により、わざわざプロ機の難解な設定に煩わされることもなくなりましたが、それでも「プロ」「スタジオ」というミステリアス響きと優越感に惹かれるものです。
RME ADI-2 Pro |
2017年はドイツRMEからADI-2 Proのオーディオファイル向け限定版Anniversary Editionが21万円で登場しました。RMEとしては異例の黒いボディに、内部も電磁シールドなどアップグレードされています。スタジオA/D-D/Aというとほとんどが8チャンネルなどで必然的に多機能・高価になってしまうため、音質に特化した2チャンネル限定というのは珍しい存在です。古くからアンチ・オカルトオーディオを貫いている技術派RMEなので、このAnniversaryデザインは本気なのか揶揄なのか、謎めいているモデルです。
PrismSound Callia |
プロスタジオというと、Prism SoundのCalliaも魅力的です。同社はOrpheusやAtlasなど大型ラックA/Dコンバーターで定評があるメーカーですが、CalliaはA/D無しの2ch DACプリのみで、高音質ヘッドホン出力回路を搭載して27万円と(それでも高価ですが)、コンシューマー機と肩を並べられる価格帯に収まってます。イベントでこれをプリアンプとして、もしくは単体でヘッドホンアンプとして何度か聴きましたが、従来のPrism Soundらしく独特の高音の色気や煌めきみたいなものがあり、十分楽しめました。
AK ACRO L1000 |
DAPで有名なAstell&Kernも据え置き型への参入に興味を示しているようで、12月には「ACRO L1000」という卓上DAC・ヘッドホンアンプを投入してきました。スピーカー出力端子も搭載しており、小型パッシブくらいならこれで駆動できるという多機能な製品です。値段は約11万円ということなので、ポータブルでAK300やAK70 MkIIなどを使い、自宅に戻ったらL1000に接続するという感じでしょうか。最近じっくり試聴してみたので、またいつか機会があれば感想とかを書いておこうと思います。
Questyle CMA400i |
据え置きDAC・ヘッドホンアンプの複合機はそこまで多くなかったのですが、個人的にDAPでQuestyle QP2Rを買ったよしみで、11月に登場した11万円のDACアンプ「 CMA400i」も試してみたところ、そこそこ良かったです。サウンドも上位モデルCMA800iほどの空間のスケール感は無いものの、過度の誇張を避けてしっかり作られた製品なので、新参ながら一番古典的なオーディオ製品っぽさを大事にしている面白いメーカーだと思います。
Sennheiser HDV820 |
ゼンハイザーからはHDVD800の後継機「HDV820」が登場しました。機能的には旧モデルと同じUSB DAC+ヘッドホンアンプですが、DAC回路が大幅な進化を遂げ、試聴してみたところ高域の伸びやかさが特に改善されていると思いました。値段は30万円と高価ですが、ゼンハイザーが自信を持って作り上げただけのことはあると思います。このモデルから4.4mmバランス端子を積極的に導入したことにも驚かされました。なぜHDVD800SではなくHDV820なんて中途半端なネーミングなのか不思議に思ったのですが、その後に新型ヘッドホンHD820がデビューしたので、なるほどと納得しました。
Luxman P-750u |
アナログ入力のみの純粋なヘッドホンアンプは珍しくなってきましたが、ラックスマンはP-700uの後継機「P-750u」を投入してきました。相変わらず圧倒的な物量投入で、一度聴けば忘れられないラックスサウンドを繰り広げます。音質面の細かいリファインのみならず、スタンダードな4ピンXLRバランス端子も付けてくれたのが嬉しいです。アナログアンプのみで約28万円と高価ですが、あえて複合機にしないことで、同社DACやフォノアンプなどと柔軟に組み合わせる事ができるのはラックスマンならではの強みです。ちなみに同クラスのDAC DA-06が2013年登場でそろそろ年季が入ってきたので、今後新作を期待したいです。
McIntosh MHA150 |
さらに高価なクラスになると、2016年末にアメリカのMcIntoshからMHA100の後継機「MHA150」が登場しました。主にDAC部分が最新スペックに更新されており、値段は60万円くらいなので、同社フルシステムを組んでいるレベルの人なら釣り銭で買えそうです(一千万円パワーアンプとか作っているので)。堂々と「ヘッドホンアンプ」と言いながら、12kgの巨体で50W相当のスピーカーアンプとしても使えるというオーバースペックは、さすが同社のファン層をしっかり把握している、McIntoshらしい設計です。
ー
ヘッドホンアンプを接続するトランスポートやDACなどを見ると、2017年のトレンドとして、ネットワーク対応機器が急激に増えてきた事が印象的です。ただのUSB DACではもうダメで、イーサネットや無線LANに対応していないと売れないという時代になってきたようです。
OPPO Sonica |
一番手軽な部類ではOPPO 「SONICA DAC」があり、11万円でネットワークやUSBなど全部入りで、あとはアンプを接続するのみという製品です。2月のデビュー当時は在庫があったり無かったりで混乱させられましたが、今は安定しているようです。
ディスク再生はUDP-205、パソコンやネットワークはSONICA DACとソース機器が充実するOPPOですが、そこから繋げるヘッドホンアンプHA-1は公式サイトのリストから消えているので、今後どうなるのか気になります。ハイテクを得意とするメーカーですから、次世代を象徴するような新型ヘッドホンアンプを期待したいです。
Pioneer N-70AE |
意外と見落としがちですが、ネットワーク対応DACに特に注力しているのがパイオニアで、2016年にコテ調べで出した4万円の「N-30AE」が手応えがあったようで、2017年は上位機種で8万円の「N-50AE」、13万円の「N-70AE」が出揃いました。これもフロントディスプレーを駆使して、パソコンや外付けHDD、ネットワークストレージなどの楽曲にアクセスして再生できるDACです。ソニーがHAP-Z1ES以降は動きがないところを上手に引き継いだ優秀なモデルです。
時代の流れを振り返ってみると、90年代にはそこそこ良いCDプレイヤーを買うことが主流でしたが、2000年代にはそれがUSB DACに世代交代して、そして最近はネットワークストリーミングDACというのが同じ位置にいるようです。
Esoteric N-01 |
たとえば日本のハイエンドを象徴するエソテリックも、最上位一千万円コースのGrandiosoシリーズのみCDプレイヤーに固執していますが、それ以外ではこれまでCDプレイヤーがあった位置がN-01・N-05ネットワークオーディオプレイヤーに世代交代しています。
単純に考えると、CDプレイヤーの円盤回転部分が無くなり、USBやネットワークモジュールに変わっただけで、送られてくるデジタルデータのD/A変換やアナログアンプ回路の考え方はこれまでどおりで良いのでしょう。
また、ネットワークストリーミング機能自体はメーカー自作ではなく外注のOEM既製品を入れているブランドも多いので、既存のUSB DACでも追加オプションでネットワーク対応カードを後付出来るといったものが現れています。
Sforzado DSP-Vela・Meridian UltraDAC |
2017年のオーディオ雑誌を読んでいると、160万円のSforzato 「DSP-Vela」や270万円のMeridian 「UltraDAC」など、ネットワーク対応DACが話題の中心となって、音が素晴らしいと絶賛されているなど、もはやネットワークはハイエンドオーディオの一部として市民権を獲得する時代になったようです。ほんの数年前までは雑誌の片隅のコラムで「若者に人気のPCオーディオにチャレンジ」なんて、貧乏人の見世物小屋みたいな扱いを受けていた存在だったのが、いまやトップメーカーがフラッグシップにネットワークDACを置いてNASと連動させる時代になったことに感動します。
一方で、ショップなどで話を聴くと、最近話題になった高齢者向けパソコンショップの横暴みたいに、「高音質用パソコンセットアップ」とか巧妙な手口で、ハイエンドオーディオにネットワーク機能を導入したいけどよくわからない富裕層をカモにした商売も成立しているようです。以前訪問したマニア宅では、オーディオショップに組んでもらった、といって別室の巨大な空冷ラックにDELLのブレードサーバーを一枚だけポツン置いて、たぶん市場価格の10倍は払ったと思われます。ストレージは2.5インチハードディスク一枚なのにイーサネットケーブルはキラキラ輝くオーディオブランド物を数十メートルです。もちろんちゃんと音は出るので、良いものを買ったと満足でしょう。
私自身は自宅が狭くてネットワークの恩恵が少ないため、未だにASUSTORの汎用NASにゲーム兼用パソコンを接続して、JRiverからUSB DACで鳴らしているシンプルな構成を使っています。唯一金をかけたのは、DSD256では帯域が危うかったので、ギガビット2本のリンクアグリゲーション対応NASとロードバランスが安定しているそこそこ良いスイッチを買ったのみです。パソコンの電源とかも気休めで上級モデルを使っていますが、オーディオ製品と比べたら安い投資です。
ー
2017年は色々なオーディオマニアのお宅を訪問して、特に驚いたのは、オーディオ専用NASを導入している人が急激に増えていることです。
実際QNAPやSYNOLOGYなどの汎用NASでも、良いやつは空箱で5万円くらいするので、そこにHDDを入れたら安くは仕上がりませんし、オーディオ的な感覚だと、チープなACアダプター電源とか不安要素は多いです。
DELA N1 |
国内メーカーではBuffaloブランドで有名なメルコ社のDELAはとくに多く見ます。オーディオマニアが熟考して開発しただけあって、中身も結構しっかり作られてます。最下位モデルであれば10万円台で買えるのと、下手に保守的なオーディオブランドと違い、NASのみでなく外付けUSBで再生やバックアップもOKと、ユーザー目線の機能が多いのも好感が持てます。
Aurender N100H |
さらに40~100万円といった高価なAurenderも定番NASとして売れており、フロントパネルの表示やボタンはいわゆる古典的なCDプレイヤーっぽく操作できるよう作られており、一度セットアップが済んでしまえば、悩むこと無くパソコンやスマホでスイスイ操作できました。音質面で効果があるかどうかは後続するDACに依存する部分が大きいと思いますが、雑誌レビューの測定によると少なくともバスパワーDACとかでは十分明らかな音質差が出ています。
この手のオーディオNASで唯一気に入らないのは、内蔵SSDやハードディスクが自前でアップグレードできないモデルが多いことです。しかもちょっと大容量なバージョンを選ぶと飛躍的に高価になるようなのもあります。変な粗悪品ディスクを入れられたら困るという理由もあるのでしょうけど、もうちょっと一般的なNASのように、レバーでガシャンとディスクを入れ替え出来るような柔軟性を持ったオーディオサーバーみたいなものがあれば末永く使えるので良いなと思っています。
こういうのが本当に便利になりました |
結局、この手のネットワークトランスポートが普及したのは、ひとえにオーディオメーカー製やサードパーティROONのようなオーディオ管理再生ソフトが、ようやく一般人がまともに使えるレベルに進歩したからだと思います。これまではドライバーや設定やプラグインなどで散々悩まされて諦めた人も多いと思いますが、今ではあっけないほど簡単にハイレゾ・DSDネイティブ対応システムが構築できるようになりました。
つい先月ヘッドホンマニアの友人宅に行ったら、「好きな曲を聴いていいよ」と言われて「Tidalや個人ライブラリと連携したアプリの入ったiPad」を渡されて、スイスイ選曲操作したその行き先は「Aurender→アキュフェーズDC-37 DAC→STAX SRM-007tA」といったシステムだったので、「もはや時代はここまで来たか」なんて感動しました。
おわりに
2017年の私が使っていたシステムを振り返ってみると:- DAP1:Cowon Plenue S
- DAP2:AK240SS → Questyle QP2R
- メインシステム:iFi Audio micro iDAC2 + Violectric V281
- サブシステム:JVC SU-AX01 → iFi Audio micro iDSD BL
あいかわらずPlenue Sが好きです |
ポータブルDAPというのは場所もとらないですし、なんとなく手元に2台持つことにしているのですが、相変わらず一年を通して一番頻繁に使ったのはCowon Plenue Sでした。操作性の素晴らしさと音質の綺麗な暖かさは代用が効きません。そろそろ後継機が来ると思っていたのですが、まだその気配はありません。たとえばPlenue Sと同じ音で、2.5mmバランスで、DSDがもっと歯切れよく鳴るようなDAPだったら買い替えたくなると思います。
Questyle QP2Rはまったく想定外の買い物でしたが、購入後ずっと満足して使っています。Plenue Sには無い新鮮な中高域の鮮やかさに聴き惚れたのだと思います。操作性は最低で、大量のアルバムを入れても探すのに一苦労なので、毎週の新譜だけ数枚入れてすぐ聴く用途がメインです。これでもしPlenue並のタッチスクリーンなら価格も二倍になってただろうと想像すると我慢できます。AK240SSは大好きなDAPなのですが、QP2Rのおかげでお蔵入りになりました。
自宅はずっとこれで満足です |
自宅でHIFIMAN HE-560やFostex TH610など大型ヘッドホンを鳴らすためのメインヘッドホンシステムは、Violectric V281アンプがまだまだ現役で、自分なりのベストとして愛用しています。
そこに接続するUSB DACのiFi Audio micro iDAC2は、一年前も同じことを言ったと思いますが、色々聴き比べてもやっぱりこれが良くて、代用が見つからないため、ずっと使い続けています。PCM 352.8kHzやDSD 11.2MHzなども安定して再生できるため、音楽鑑賞の妨げにならないのも良いです。値段やルックスの高級感とかに惑わされず「やっぱりこれが一番好きだ」と思えるオーディオ製品というのは珍しく、良いものに巡り会えたと思っています。そういえば、もうすぐ発売するChord Hugo 2のライン出力版「Chord Qutest」なんかはどんなものか気になってます。
どっちも良いので悩みます |
ポータブルDACアンプはJVC SU-AX01もすごく良いのですが、iFi Audio micro iDSD BLも買ってしまい、どっちも手放せず悩んでいます。自宅で愛でるならJVC、オフィスデスクにポンと置ける手軽さならiFiなので、後者を使うことが多くなります。とくにiFiはフルサイズUSB端子や6.35mmヘッドホン端子など、堅牢で乱暴に扱える信頼感が気に入っています。もう半年くらい電源を入れっぱなしですが、これといって問題も起こっていません。サウンドもコッテリ系のJVCとパッチリ系のiFiといった感じで、類似性が少ないのも、どっちかに絞りきれない難しさです。
ー
2017年ニューモデルでなにか買い換えるとすれば、DAPは現状で満足なのですが、やはり全体的に見て唯一買いたいなと思ったのはChord Hugo 2のみでした。これは完成度やマニアックな独自性など色々な視点から、もっとじっくり聴いて真価を引き出したいという気持ちがあります。また、単なる一発屋のマグレではなく、Chord DAVE+Blu MKIIでさらに上のサウンドを示してくれたことも説得力がありました。
それ以外でも、各ジャンルで良かったと思える商品は、DAPではAK70 MKIIがとくに優れたモデルだと思いました。これまでのAK DAPの良い部分だけを凝縮したような、創立5周年にふさわしい節目を象徴するようなモデルだと思います。
低価格のDACアンプでは、やはりiFi Audioが総合的に優れていると思えます。乱雑なラインナップですが、実は「nano iDSD LE」「nano iDSD Black Label」「micro iDSD」「micro iDSD Black Label」の順番で2万円から8万円まで的確に価格設定がされているため、どれを買ってもその価格帯なら間違い無いという絶妙なポジションです。
2017年のDAP・ヘッドホンアンプなどの新作を振り返ってみると、すでに市場は成熟化しており、あまり冒険心が無いというか、低価格モデルのスペック底上げと、高価格モデルのさらなる高額化という、二極化が特に目立ってきました。
この「二極化」というのはオーディオの趣味でよく問題視されているやつです。つまりスペックや性能がそこそこ近しいモデルであっても、ブランドの意向で極端な価格差が生まれ、さらに我々ユーザー側も無意識に「自分はエントリーかハイエンドか」どちらかに属するようになる現象の事です。
機能やカタログスペックがほぼ横並び状態になり、値段の違いというと、目に見えない部分での音質、もしくは目に見える部分でのゴージャズな手触り、といった売り方になってしまうため、傍から見れば近寄りがたい宗教的なものになってしまいます。
そういった状況の中で一体何を求めるのか、基準が曖昧になってきたことで、むしろ各ユーザーごとの性格や趣味趣向がわかりやすく見えてくるのも趣味の面白さです。
とくにUSB DACなど、パソコンに依存するオーディオ機器というのは、これまでデスクトップのヘッドホンユーザーがトレンドを牽引してきた部分が大きかったわけですが、それらが高級スピーカーオーディオマニアにも完全に浸透してきたことも、高額化の原因の一つです。
これまでまだまだ時期尚早と保留していた大手ハイエンドメーカー勢が、「これなら自社製品として自信をもって出せる」と判断したことは、PCオーディオが過渡期の開発ラッシュやスペック競争を抜け出た象徴的な時期なのかもしれません。
つまりDACやソーストランスポートを中心として、大型据え置きのスピーカーオーディオと、デスクトップのヘッドホンオーディオという境界線が曖昧になってきたようです。DAPやNASがソースとして対等に扱われるようになりましたし、ヘッドホンにフルサイズオーディオ機器を使うことにも抵抗が無くなりましたし、それだけ投資するマニアも増えています。
また、メーカー側も、McIntoshのようにスピーカー用ラインナップと遜色無いヘッドホンアンプを開発したり、AK ACRO L1000のように簡易ながらスピーカーも駆動できる小型DACアンプというのも増えています。フルサイズ、デスクトップの双方から歩み寄りが感じられる一年でした。
10年前を振り返ってみると、液晶テレビやDVDの普及でAVレシーバーアンプというのがオールインワン集合体だったわけで、オーディオにこだわるなら、一家に一台そこそこ良いAVアンプが鎮座していました。それが今や、映像端子が無い「ネットワークオーディオ・DAC・ヘッドホンアンプ」という複合機が新たなオーディオの主流になったように思います。
私の予想では、2017年はESS・旭化成を抜け出して、FPGAなどを駆使した自社製D/A変換というのがもっと増えてくるかと期待していたのですが、その分野はまだまだChord社の一人勝ちの状態が続いています。それ以外ではMeridianやdCSなど超ハイエンドがやってますが、どれも英国メーカーなのが面白いですね。自社製にすることで、D/A変換とアナログアンプ回路を区別せず一括して設計できる柔軟性が生まれます。インスタントラーメンと本格派ラーメン店の違いみたいなものでしょうか。手打ち麺と自家製スープが美味い保証はありませんが、それを美味しく作れるのが一流の証です。日本では自己流といえばソニーのS-MASTERが唯一の存在みたいな感じですが、2000年ごろから着々と育て上げて、2016年のNW-WM1AやTA-ZH1ESでようやく花咲いたような地道な成果が感じられます。FPGAはマランツが頑張っているようなので、今後我々の手が届く価格帯のモデルを期待したいです。
そして2017年のもう一つのトレンドだと思ったのは、新製品のネットニュースなどを読んでいると、MQA、DSD、デジタルフィルターなどオーディオ技術の単語が難解になるにつれて、その反発として、反知性主義というべきジャンルがハイエンドビジネスとして成立するようになってきたように思います。これは「知性が無い」という意味ではなく、「そういった小難しい論理には自分は属さない」と自己主張したい人が共感を持てるビジネスという事です。
横並びのスペック競争の中で、あえて単一機能やレトロ調などを全面的に押し出すことで、これまでのトレンドガジェットを追うのに疲れたユーザー達に、安息の地として人気があります。常に新製品を意識せずに済む、実際に自分が満足できる商品というのは、案外非論理的で、ハイテクメーカーが競い合っているものとは別のところにあるのかもしれません。
私のヘッドホンアンプもそれに該当するのかもしれませんが、これまで買い替え乗り換えの連続で、ようやくしっくり落ち着いたシステムというのは、単機能で、壊れなくて、パソコンで再生ボタンを押せば確実に音楽が流れる、というだけのシンプルな物です。
これをはやく引退させたいです |
余談になりますが、個人的に、ここ数年ずっと欲しがっているのに未だに登場していないのが、ちゃんとしたサラウンド対応ヘッドホンシステムです。最近は疑似サラウンド技術を導入したヘッドホンなんかが話題になっていますが、そういう事ではなくて、単純にHDMIサラウンドソースが扱える高音質ヘッドホン環境が欲しいです。
私の場合、パソコンやPS4・Switchでゲームやブルーレイ鑑賞など、どれもHDMI・マルチチャンネル・ハイレゾ・サラウンドなのに、それらを十分に活用できるヘッドホン環境がありません。未だに2013年のソニー「MDR-HW700DS」を使っていて、音は現代のハイエンド水準に到底及ばず、もうイヤーパッドはボロボロで、内蔵バッテリーは死にかけているのに、HDMI切り替え入力ヘッドホンはこれしか選択肢が無いのでずっと使い続けています。
実際、ゲームや映画のサラウンド音響を、ちゃんとしたハイエンドオーディオシステムで体験したことがある人はかなり少数派だと思います。それらの臨場感は映画館以上に凄く、没入感は感動的です。音楽でも、ブルーレイやハイレゾダウンロードで、クラシックからアニソンまで高音質サラウンドコンテンツが充実していて、下手なハイレゾ云々よりも絶大な快感効果があるのに、それらをしっかり楽しめる環境が身近に無いという残念な状況です。NativeDSDなどハイレゾショップで、安いからと思ってステレオ&サラウンドのファイルをセットで買ったのに持て余している人も多いのではないでしょうか。本格派スピーカーシステムを組んでいる人でも、リスニングルームをサラウンド化するのは困難ですし、せめてヘッドホンでなら、と思うかもしれません。
ヘッドホンでサラウンドというのは音響的に難しい、なんて言いますけど、そこはソニーとかが高度な技術を駆使して、HW700DSの超進化版みたいなHDMI入力プロセッサーとセットで連動するハイレゾ高性能ヘッドホンを開発してくれたらな、なんて思っています。そういえば最近ソニーがSRS-WS1というネックスピーカーを発売して、光デジタル入力でワイヤレスでゲームに最適ということで、「ついにサラウンドか!」と期待したのに2chステレオだったので落胆しました。天下のソニーがゲームは2chステレオで十分というならば、PS4のコンテンツクリエイターはさぞかし悲しんでいるでしょう。あれだけ映画や映像コンテンツを持っているのに、なぜ「サラウンドの臨場感もハイレゾで」という売り出し方が出来ないのか不思議に思います。
任天堂Switchのデザインはまさに卓上DAPの理想だと思います |
もうひとつ余談になりますが、私は以前からタブレットサイズのDAPがあれば良いなと思っているのですが、今年は任天堂Switchで遊んでいて「このサイズのDAPがあれば・・・」なんてつくづく感じました。肥大化するDAPはもはやポケットサイズにこだわる意味は無いと思いますし、そもそもAK SP1000やソニーNW-WM1ZはSwitchより重いです。Switchくらい大画面で、大型バッテリーと高出力アンプ回路を搭載して、インターフェースはAKやWalkmanと同じようなタッチ操作で、卓上スタンドがあって、USBトランスポートやネットワークでも使えて、ドックでUSB-C急速充電&XLRバランス出力、そんな夢のようなタブレットDAPを誰か作りませんかね。
そんなわけで、各自それぞれ将来への夢と希望は多いと思いますが、2017年もヘッドホンオーディオで大いに楽しめた一年でした。少なくともまだまだ市場が縮小しているようには思いませんし、毎月毎週の新作で飽きることがありません。過度な買い替え買い足しは控えるようにしていますが、試聴や交流の連続で、ブログでなにか書くヒマも無いくらいです。
オーディオ趣味の面白さは、良い機器があれば、自然と音楽を聴く時間が増えるということです。音楽を毎日楽しんで聴けているならば現状のシステムで十分ですし、私も今のところそんな感じです。最近はめっきり音楽を聴かなくなったな、なんて思うようなら、なにか良い機器と出会うことで、また気分新たに音楽と付き合えるようになり、それの繰り返しで、最終的に落ち着く構成が見つかると思います。