2020年1月2日木曜日

2019年 個人的に気に入った最新イヤホン・ヘッドホンとかのまとめ

2019年も終わりなので、個人的なイヤホン・ヘッドホンオーディオの一年を振り返ってみようと思います。

2019

ヘッドホンオーディオの人気は健在で、今年も新製品が大量に発売されました。もちろん全部試聴できているわけではありませんが、自分が聴いた中で気に入った作品、もしくは過去のモデルでも一年を通してよく使った物などを紹介したいと思います。


2019年

2019年は、とりわけワイヤレスイヤホンの爆発的普及から始まり、定額ハイレゾストリーミングサービスの登場など、音楽の聴き方を取り巻く環境が大きく変化した一年だったと思います。

WF-1000XM3

オーディオ機器の方では、数年前にiPhoneから3.5mm端子が廃止されて以来、紆余曲折がありましたが、「完全ワイヤレス+アクティブノイズキャンセリング」というフォーマットの登場によって、ひとまず着地点に到達できたと思います。とくにソニーWF-1000XM3と、続いて登場したアップルAirPods Proは、それ以前の試行錯誤を一蹴するような高い完成度を誇っているので、今後はこれら二つのモデルを手本として、各社から多くの類似品が出ることになるでしょう。

ほんのすこし前までは、個性的かつ中途半端なワイヤレスイヤホン・ヘッドホンが続々登場して、まさに「過渡期」といった感じがしましたが、それもようやく収束に向かいそうです。うまくペアリングできないとか、音が途切れるとか、あれだけ文句ばかりだったのが、よくこの短期間でここまで急激に進化できたと、大手メーカーの技術力に関心します。

価格.comを見ると、2019年だけで400種類以上の新作イヤホンが発売され、その半数以上がワイヤレスタイプです。国内で流通していないモデルも含めればもっと多いでしょう。

Amazonのセールなどでも、怪しい無名中華ブランドのワイヤレスイヤホンの乱立や、それらの偽レビューや割引率の誇大表示の問題などが話題に上がりましたし、やはりそれだけみんなが欲しがる2019年ハイテクガジェットだったようです。

そんなワイヤレス全盛期の中でも、しぶとくワイヤードイヤホン・ヘッドホンを愛用している私のような古いオーディオマニアにとって、2019年はちょっと停滞気味な一年でした。ブログで挙げる回数が減ったことにも現れていると思います。

自分自身の環境は例年とそれほど変わっておらず、相変わらず毎週ブログで紹介するよりも5-6倍の新作を試聴しているのですが、面白い商品に巡り合う機会が減ったようです。音質が良い悪いというよりも、主に低価格帯では、なにか斬新な技術とか、おもわず買いたくなるような刺激的なチャレンジが減ったのかもしれません。あまり動きが無い一年でした。

イヤホン

ワイヤードイヤホンは、あいかわらず中国メーカーが強い一年だったのですが、その動向がすこし面白くなってきました。

低価格な大量生産品が多かった以前と比べて、大手メーカーは5万円超の上級グレードに挑戦しはじめて、その一方で、無名の新興ブランドはいきなりゴージャスな数十万円の超高級グレードで一攫千金を狙っています。

Fiio FH7

中国メーカーの中でもいち早く世界展開に踏み出したiBassoやFiioは好調に進化を続けており、初期の一万円エントリーモデルから、今では5万円台くらいまで進出してきており、このジャンルの定番だったオーテクやShureなどと肩を並べる存在になっています。

これくらいの価格帯だと、個性よりもむしろドライバーを何基搭載しているかといったスペック競争が激しいので、大量に低価格で量産でき、市場の動向に素早く対応できる中国メーカーは強いです。

iBassoやFiioなどの先駆者を模倣するように中国国内では膨大な数の新興ブランドが覇権争いを行っています。それらのいくつかは代理店や並行輸入で日本にも入ってきていますが、やはり長期的な供給や成長が予測できないので扱いが難しい面もあります。

私自身の方も、ここ数年で中国メーカーから無償提供でのレビュー依頼がとても多くなってきました。その手の物はすべて断っているのですが、ようするにネット市場自体がそのように回っているので、ちょっと距離を置きたいと思えた一年でした。

イヤホンに限らず、アマゾンやソーシャルメディア、Youtubeなどでも、無料の試供品が欲しくて積極的にメーカーにアプローチする「物乞いレビュアー」と、それを最大限に利用したい新興無名メーカーとの「持ちつ持たれつ」のコミュニティがあります。

街角の専門店や家電量販店に試聴機がズラッと並ぶ日本と違って、米国や中国など、広大な国土で、そこそこ大きな都市でも実店舗に恵まれず、信頼できる雑誌やニュースサイトも無いような国では、個人ネットレビュアーが絶大な支持を得るような社会が生まれているのが面白いものです。奇抜な事をやる著名なユーチューバーだけでなく、もっと地味なレベルでも、意外なほどに大きな市場効果があるという事が感じられます。

中国から数十万円の高級機もずいぶん増えてきて、あちらでは好調に売れているのですが、世界展開していないので、中国語が読めないと全貌が計り知れません。

よく友人のツテで試聴してみたりしますが、まだ音作りの面では今ひとつ未熟さがあると思える事が多いです。たとえばドライバー数やハイブリッド構造などスペックの主張は大きいですが、高音にBAを追加したから高音が派手に、低音ダイナミックドライバーが大型化されたから低音が盛り上がり、など、あえて「違いを強調」するような音作りに陥りがちで、肝心な声の帯域にクロスオーバーのクセがあったり、ドライバーごとに質感が明らかに変わったり、音像サイズが変わったり、別の空間に動いてしまったりなど、単純な測定グラフだけではわからない音楽・楽器の再現上の不満が多いです。

まだプラスチックシェルにドライバーを大量に詰め込む手法が主流で、音も10年前のカスタムIEMっぽさから脱却できていないので、最新の音響設計に追いつくにはまだちょっと時間がかかりそうです。品質管理は十分良くなっているので、あとは音楽センスが軌道に乗れば世界制覇も夢ではないかもしれません。

そんなわけで、2019年の新作イヤホンですが、どれも価格スペック競争に陥っているわけではなく、あいかわらずそれらとは別の次元で音質を追求しているメーカーも多いです。

Final B1



五万円以下では、昨年に続きFinal Eシリーズを凌駕するのは困難です。私はE5000が好きですが、どのモデルも高音質・快適・堅牢・コンパクト・低価格と、完璧すぎて文句の言いようがありません。

さらに2019年には新たにBシリーズが登場して、新生Finalのラインナップもずいぶん増えてきました。ハイブリッド型のB1、1BAのB2、2BAのB3という三種ですが、グレードの上下ではなく、それぞれ異なるサウンド表現を目指しています。

大量のドライバーを搭載する高価なイヤホンにもそれぞれ独特の魅力がありますが、クロスオーバーの位相ズレなどの問題は回避できないため、最終的には物量に頼らずに最小単位で高音質イヤホンを作るところが一流の証でしょうか。

`日本の高級機がようやく出てきました



コストパフォーマンスの高い渡来モデルに押されるかのごとく、今年は特に日本メーカーは低価格帯の新作が薄く、2018年末のJVC HA-FW10000から、3月発売のソニーIER-Z1R、9月にオーディオテクニカATH-IEX1、11月にはFinal A8000、テクニクスEAH-TZ700といった具合に、10万円超の国産高級イヤホンが次々と登場しました。

やはり現状マルチBAの限界が見えてきたので、ダイナミックドライバーを自社製造できる国産メーカーの強みが再浮上してきました。こういう製造技術は見様見真似でコピーできるものではありません。

そう気軽に買えるものでもありませんし、毎月のように新作が登場するので、興味はあっても結局いつどれを買っていいのかわからないという人も多かったと思います。

個人的にはFinal E5000とD8000が大好きなので、新作イヤホンA8000もすごく気になっているのですが、まだ身近に無いので試聴できていません。ソニーIER-Z1Rは持っている人が多いので何度もじっくり聴いていますが、やはりさすが完成度が高いです。イヤホンであっても「ソニーらしさ」を極限まで突き詰めた音になるのはさすがだと思います。ジルコニウム製という重量級ボディも意外とすんなり装着できたのは意外でした。

実際このような10万円超のイヤホンがどれくらい売れているのか興味があります。ライバルが5社現れたからといって、市場規模が5倍になるわけではないので、単純にシェアが分散されているのでしょうか。それとも、どれも少量生産なので、需要が上回るのでしょうか。

ステレオサウンド誌などを読むと、国内や中国などではあいかわらずアキュフェーズやエソテリック、DENONやマランツなど日本のオーディオメーカーへの支持は絶大なようで、この不景気とは対照的に100万円クラスのシステムが好調に売れているそうですが、しかしスピーカーに関してはあいかわらず海外メーカーが圧倒的に強いという現状があります。

イヤホンでも海外メーカーの方がハイエンド製品の実績が長いため、市場をリードしている感覚はあります。しかし海外勢はあまりにも商品サイクルが短いため、いざレビューをじっくり読んで買おうと思ったら、もう生産中止、もしくは後継機の噂が濃厚、という事が多いです。

Noble Audio Khan

個人的に、海外ブランドの2019年新作で一番印象に残ったのはNoble Audio 「Khan」でした。新設計ピエゾドライバーを搭載したハイブリッドデザインで、30万円近い超ハイエンドイヤホンなので購入はできませんでしたが、音には純粋に関心しました。ピエゾは色艶が出にくいため音色はかなり特殊なので、常用したいと思えるサウンドではありませんし、まだまだ改良の余地があると思えましたが、高音空間の圧倒的な広さを実現できたことで今後新たなイヤホンの未来が見えてきたようです。

新たなドライバー技術というのは次世代イヤホンにおけるテーマらしく、BAとダイナミックドライバーのありふれたサウンドを打破するために各社が進化を模索しているようです。

Oriolus Percivali JP

たとえばOriolusから発売されたPercivali JPも、約25万円と高価ですが、高音に静電(コンデンサー)ドライバーを搭載しています。こちらは試聴機が無かったので音は不明ですが、興味はあります。

UM Mirage Maven

私が普段使っているハイブリッド型イヤホンは2017年モデルのUnique MelodyのMavis IIで、自分の求めている音にピッタリ合うので、発売時から長らく愛用しています。

そんなUnique Melodyからは2019年はメタル3Dプリンターを活用したチタンハウジングの新作モデル「Maven」「Mirage」が登場しました。3BAで約10万円と、11BAで約20万円です。Unique Melodyらしいセミオープン型デザインとメタルハウジングのおかげで、かなりスッキリした空間余裕を持ったイヤホンです。メタルデザインは往年のFinal Audio Designとかと似ていて好き嫌いが分かれると思いますが、個人的には今後ハイブリッドとかで中低域重視のモデルが出てくれればと願っています。

Ultrasone Saphire

もうひとつ異色なリリースとしては、ドイツのUltrasoneから「Saphire」というイヤホンが出ました。ドイツといえばゼンハイザーIE800SやベイヤーダイナミックXelentoといったイヤホン名機があるので、このSaphireも期待大なのですが、36万円という、いわゆる「Ultrasone価格」なので真剣には検討できません。そろそろ廉価版も出るみたいですが。

AK T9iE

ベイヤーダイナミックからは、Xelentoの兄弟機でAstell&Kernとのコラボモデル AK T8iEが後継機AK T9iEにモデルチェンジしました。価格は14万円くらいです。

ダイナミック型らしい濃密なサウンドは初代の良さを維持しながら、低音の自然さや見通しの良さといった部分で進化が感じられます。AK T8iEの方は私もずっと使っているので、この新作に買い換えるべきか検討していますが、新たな付属ケーブルが太く使いづらいのはちょっと困りました。(ケーブルを変えれば済む話ですが)。

Campfire Audio Io

Campfire Audio Polaris II

派手なデザインと奇抜な音質でいつも注目を集めるCampfire Audioから、2019年の新作は4万円弱の「IO」と7万円の「Polaris II」でした。

IOの方は以前のエントリーモデルOrionやNovaよりもクセが少なく使いやすいチューニングです。Polaris IIは初代Polarisの威圧的な低音ブーストサウンドも好きでしたが、Polaris IIになって全体的にバランス良くまとまって、意外なほどに綺麗な中高域に魅了されました。相変わらずデザインもカッコいいので万人に勧められるイヤホンメーカーです。

さらに年末には限定モデル「C/2019 Q4」や、ベストセラーAndromedaも限定カラーやマイナーチェンジ、アレンジ版が出たりなど、少数ロットで発売が多いので、まさに即決が求められる一期一会なメーカーです。やはり初代Andromedaが革新的なモデルだったようで、私もそれだけ持っていて十分満足できているので、今のところ買い足していません。

Audeze LCDi3

イヤホンの項目に入れてよいのかわかりませんが、平面駆動型ヘッドホンのAudezeからは12月に新作LCDi3が11万円で発売しました。

大きな平面振動板の開放型イヤホンという無謀なデザインですが、すでに発売されているiSINE10・iSINE20・LCDi4は一定の支持を得ています。今回のLCDi3は最上位LCDi4への価格の隔たりを埋めるようなモデルで、すでに何度か試聴したので、また来年ブログで紹介しようと思います。私はiSINE20を持っていますが、やはり奇抜すぎて使い所が難しいです。

Dita Dream XLS

ダイナミック型イヤホンでは個人的に史上最高峰だと思っているシンガポールDitaのDreamも、2019年11月には後継機Dream XLSが登場しました。

2017年発売の初代Dreamは私にとっては特別なイヤホンですが、かなり出音がシャープで硬いので、録音の不備がバレてしまいがちで、自然な優秀録音でないとポテンシャルが引き出せません。その点XLSは(まだちょっとしか聴いてませんが)もうちょっと汎用性が高まって美音系に仕上がって、初代とは別物の作品とも言えます。もしDitaイヤホンを未体験ならぜひ試聴してもらいたいイヤホンです。ケーブル末端を3.5mm・2.5mm・4.4mmなど付け替えられるのも画期的で便利です。

ちなみに私のDita Dreamは純正アップグレードケーブルOSLOというのに交換しました。友人が買ったけど手放したいということで安く買い取りました。たしかに付属ケーブルの硬派な感じと比べると若干中高域に滲みや厚みが出る感じなので、好みが分かれますが、針金のようだった付属ケーブルと比べて物理的な取り回しが圧倒的に柔らかくなったので満足しています。

UM Pro 50

あと、新作ではないので余談になりますが、私は今年Westone UM Pro 50を意外なほどに多用しました。かなり丸くソフトなサウンドなので、古いアルバムとかでもよく鳴ってくれて、遮音性も高いので騒音下でリラックスしたい時には一番良いです。Dita Dreamとはまさに正反対のモデルだからこそ重宝しています。

しかしそのままではあまりパッとせず、色々とアップグレードした結果なので、一例として紹介したいです。

ケーブルは悩んだ末にALO Reference 8というやつが個人的に一番相性が良く、ぬるいWestoneにクリアさを与えてくれました。取り回しも純正ケーブル並みに軽快なので、Westoneのコンパクトなボディと合わせて、まるで装着していないような快適さが得られます。



さらにイヤピースはComply P-Series P100というやつで、これはかなり驚きの盲点でした。これまでコンプライ・スポンジというと、耳栓みたいな詰まった感触と、サウンドから残響が吸い取られる感じがして嫌いだったのですが、友人から「このP-Seriesだけは格別だから、試してみろ」と勧められたところ、たしかに他のコンプライとは全く違います。現在ShureやWestone用の細いタイプしか存在せず、ソニーサイズは出していないので、これまで存在すら知りませんでした。

サウンドはわずかにモコモコしますが、もどかしさや変なクセが無く、遮音性や快適具合も良好で、圧迫感が全然無いので、これまで使ってきたイヤピースの中でも最高クラスでに優秀です。詰まったり蒸れたりしないのが不思議です。このおかげで自分だけのゆったりしたリスニング空間が創りやすく、長時間聴き疲れせず音楽に没頭できます。個人差があるので効果の保証はできませんが、安い投資なので、Shure・Westoneを使っている人は是非試してみてください。

そんなWestone UM Pro 50 + ALO Reference 8 + Comply P100の組み合わせでようやく一段落ついたので、まさに趣味としてのオーディオの面白さを体現するような話です。

ヘッドホン

2019年はBluetoothワイヤレスヘッドホンが大流行しているわけですが、私はケーブル有りのワイヤードヘッドホンばかり使っている、と言いながら、実は一台だけ、かなり頻繁に使ったワイヤレスヘッドホンがあります。

GW100

Grado GW100です。私はGradoが好きなので贔屓目だと思ってください。他のメーカーでも同じようなワイヤレスヘッドホンが色々ありますが、とにかくこのGW100は別格で、動画を見たりなど日頃の雑用に本当によく使いました。

約3万円弱で、aptXもLDACも未対応の、ただのオンイヤー型ヘッドホンです。電源とボリュームボタンのみで、しかもマルチペアリングにすら対応していないため、説明書によると、別のデバイスとペアリングしたい場合は、前のデバイスからペアリングが外れるまで離れろ、と書いてあるくらい原始的なヘッドホンです。

サウンドはGradoらしからぬ中低音寄りの落ち着いた仕上がりで、開放型なので閉鎖感が無く、着脱も容易、音飛びもほとんどなく、家庭でカジュアルに使うには「必要十分」でした。当初は買うつもりはなく「開放型のワイヤレスなんて、一体誰が買うんだ」なんてバカにしていたのですが、ショップにて開封済みB級品を安く売っていたので買ってみたところ、これを意外なほどに活用しています。それまでワイヤレスは未体験だったわけでもなく、すでに様々なメーカーのワイヤレスヘッドホンが家に何台もあるのですが、どれもお蔵入りになってるので、このGradoだけが異例です。

5万円以下で2019年のベストヘッドホンを挙げるなら、真っ先にGW100を選びたいと思います。

Grado White

同じくGradoから、2019年限定モデルでGrado Whiteという大型モデルと、HF3という小型モデルが登場して、ファンの私も購入しました。

どちらも個性的なのでGrado初心者なら素直にRS2eとかを買ったほうが良いと思いますが、Gradoらしい素朴な木材の雰囲気は悪くないです。特に2019年はGrado米国公式ウェブサイトやソーシャルメディアが一新されて、注目を集める存在になりました。Gradoはまだ手を出してないという人は、ぜひ観覧してみてください。

Hifiman HE6se、Arya

開放型ヘッドホンで、自宅で真面目に音楽を聴く場合、私は2019年も相変わらずHifiman HE-560をメインで使いましたが、2019年には同じような円形デザインの新作HE6se・HE5seが登場しました。

ついに私もHE-560から買い換える時期が来たかと期待したのですが、比較的ダークで地味なHE-560と比べて新作HE6seはシャープな鳴り方で、性能のポテンシャルは高いものの、アンプやソース、音源などにかなりシビアなので使いづらく断念しました。高解像という意味では他社も含めて現状トップクラスの商品だと思いますが、もっと気楽に楽しみたいです。

対してAryaの方は最上級のHE1000v2をベースにした廉価版という位置づけで、サウンドも広く柔らかく繊細で聴きやすいです。膨大な数のモデルがありモデルチェンジも頻繁なので、相対関係がわかりにくいメーカーですが、このAryaこそが現在のHifimanを象徴するモデルと言えると思います。

Hifiman Jade II

もう一つ、Hifimanからは静電型でJade IIというのが出ました。一見HE1000やAryaと同じ楕円形デザインですが、STAXのような静電振動板を搭載しており、アンプユニットとのセットでUS$2500くらいなので、同社としては意外と悪くない価格設定です。

何度か試聴してみたところ、静電型らしく楽器の音色がものすごい美音で、一目で惚れ込んでしまい、ぜひ買いたいと思ったのですが、複数の試聴機にて振動板からチリチリ、ピーピーというような微小の異音が聴こえたので、レビューでも扱うのを断念しました。

静電型ヘッドホンを作るには高度な職人技が要求されるということを以前STAX工場見学の記事で読んだので、Hifiman製というのはやはりちょっと心配です。

Dan Clark Audio Ether 2

Dan Clark Audio Aeon 2

Hifimanと同じく平面駆動型ヘッドホンで有名なMrSpeakersは、2019年末に社名を「Dan Clark Audio」に変えました。

創設者のDan Clarkが代表を退いて、新たにAndrew Reganが社長の役についたことで、新たな時代を迎えています。Regan氏はBeats、Cardas、JH Audioの社長、そしてHifimanの開発担当を経て、現在Dan Clark Audioに来たというのが面白いです。メーカーというのは常に一枚岩ではなく、時代ごとの責任者で製品や方針がガラリと変わることが伝わってきます。特にヘッドホンオーディオにおいてはそのペースが速いです。

2019年は初期の出世作Dogシリーズが廃番になり、その代わりに現行機種Ether・Aeonとも第二世代に進化しました。どちらも初代の個性的なワイルドさが抑えられ、よりバランス良く広範囲で使えるヘッドホンになったと思います。

とくにEther 2は個人的にとても欲しかったけれど値段がちょっと高すぎて買えなかったヘッドホンの一つです。これなら毎日のメインヘッドホンとして使っても申し分ないと思いました。初代モデルEtherもまた独自の個性が魅力的でファンも多いので、並行して販売されています。下位モデルAeon 2も値段が意外とリーズナブルで、ポテンシャルが高く侮れません。

SR-L700 Mk2

日本のメーカーも負けておらず、2019年はSTAXの主力ラムダシリーズSR-L500とSR-L700がMk2に進化したのが印象的でした。見た目は例の長方形のまま変わっていないので、興味が無い人は気が付かなかったかもしれません。最下位のSR-L300のみMk2はまだ出ていません。新技術を低価格に落とし込むのが難しいのでしょうか。

音質面ではとくにSR-L500 Mk2の進化が目覚ましいです。初代ではL500とL700に大きな隔たりが感じられ、約二倍の価格差でもやっぱりL700を選びたいと思えたのですが、Mk2ではL700はそこまで大きく変わっておらず、むしろL500がかなりL700に近づいたと思います。価格はそれぞれ7万円と14万円程度なので、最近のハイエンドヘッドホン勢と比べるとむしろ手頃にさえ思えてしまいます。

STAXは専用アンプが必要なのですが、2018年のSRM-D10・D50から続いて、2019年はクラシックな設計のSRM-700T・700Sも登場したのが嬉しいです。真空管のT、半導体のSと、どちらも30万円くらいですが、STAXは以前からSRM-007tA・727Aの12万円クラスから最上位SRM-T8000の60万円まで、あいだに何も無いということが指摘されていたので、新たな上級アンプの登場は歓迎したいです。

あいかわらず日本らしい高度な職人技術レベルを誇るSTAXですが、経営が新生復活したおかげで新製品開発にも注力できるようになったので、今一度再考してみる価値のあるヘッドホンメーカーだと思います。

LB-Acoustics Mysphere

以前はSTAXと競うような最高級機を作っていた、欧州大手メーカーのオーストリアAKGが数年前に廃業してしまい、新製品の開発が見込めない事に多くのヘッドホンマニアが嘆いていましたが、2019年には旧AKG開発エンジニアの数名が独立して、LB-Acousticsという新しいブランドを発足しました。

最初の商品として、往年のフラッグシップ機AKG K1000のコンセプトを現代に体現させた進化系Mysphereを発売しました。K1000同様、ヘッドホンでありながらドライバーが宙に浮いて耳に押し付けられないデザインです。価格は55~77万円と、常人では手が出せないプレミアムモデルですが、それでも欲しいという人も多いでしょう。AKG K1000は四半世紀前のモデルですが、大手レコーディングスタジオでの最終マスター用モニターとして未だに需要が高く、しかも脆く経年劣化で壊れやすいため、中古品の値段が高騰しています。このMysphereがようやく待望の後継機として認められることを期待しています。

値段が高すぎて私のまわりに借りられる試聴機が無いのが非常に残念です。

Focal Stellia

2019年はハイエンドな密閉型ヘッドホンの新作が増えてきました。多くのヘッドホンマニアがすでに優秀な開放型ヘッドホンを持っている事、DAPなどによるポータブル需要が増えてきた事、そして開放型とはまた別の高音質設計を実現できるようになった事などが理由に挙げられます。

とくにフランスFocalのStelliaには衝撃を受けました。2019年の新作は他にありませんでしたが、これ一台だけで凄いインパクトがあります。派手なオレンジ色と30万円という価格で、どうせ成金趣味のドンシャリなカジュアルヘッドホンかと想像していたのですが、いざ音を聴いてみると、派手な誇張の無い、バランスのとれた素晴らしいヘッドホンでした。

スピーカーブランドとしての方が有名なFocalですが、ヘッドホンでは2015年の参入から現在まで統一したデザインコンセプトで、クセや不満点を着実に対処して、横道にそれず着々と進化を遂げています。つまりFocalの場合、価格が高いよりもむしろ最新モデルの音が一番良いと思えます。

ATH-WP900

オーディオテクニカからも、密閉型ヘッドホンの新作が三機種登場しました。ATH-AWAS・ATH-AWKT・ATH-WP900です。

それぞれ個性的な木材をハウジングに使っている事が印象的ですが、ドライバー技術もモダンなAWASとトラディショナルなAWKTと使い分けているため、性格が異なります。ちなみにASでアサダ桜、KTで黒檀と、日本人にはわかりやすいネーミングに笑ってしまいました。個人的には唯一のポータブルモデルATH-WP900に一番興味を持ちました。サンバーストのメイプル材で、ギターが好きな人には非常に魅力的です。

近年のオーディオテクニカは、ATH-ADX5000・ATH-AP2000Tiの頃から(ちょうどウィングサポートヘッドバンドが廃止された頃から)サウンドのチューニングが一新され、個人的にかなり好きな傾向になりました。残るはATH-AD2000Xとかの開放型シリーズをそろそろ更新してもらいたいですね。


やはり2019年のヘッドホン市場は、ハウジングを有効に使うなど、独自の技術と個性に特化したハイエンドヘッドホンが増えてきた事が一番印象に残ります。

これまでも無かったわけではありませんが、以前なら、たとえば大昔からあるGradoなどを見ても、1万円台から10万円超まで幅広いラインナップを取り揃えないと存続できませんでしたが、現在は、いきなり20万円もするようなこだわりぬいた高級ヘッドホンだけを単発で発売するメーカーでも上手くいっています。

低価格帯ではどうしてもプラスチック部品、OEM供給ドライバー、汎用ケーブルなどに頼る事になってしまうところ、そういった縛りから開放されることで、デザイナーの個性が最大限に発揮できます。万能なレファレンスモデルではなく、音楽の魅力を強める意図があり、メーカー独自の個性が付加しやすいですが、それだけサウンドも一筋縄にはいかないため、試聴することが肝心です。

Spirit Torino Radiante

イタリアのSpirit Torinoもいきなり現れた新興ハイエンドメーカーのひとつですが、発表当時は一見「Gradoがまた変なモデルを出したか」と思ったら、まったく別のメーカーです。少量生産のこだわり溢れるデザインに、イヤーパッドによる可変選択フィルターなど面白い機能も搭載しており、価格も20万円超とかなり高級志向なメーカーです。こういうのを見ると、まるでスピーカー業界のように、各国様々な小さな工房メーカーが競い合っている未来が想像できるので、非常に楽しみです。

焼き直しと横並び感が強い新興ハイエンドイヤホンブランド勢と比べると、実はヘッドホンの方の進化が顕著な一年でした。

再生機器

音楽再生においては、以前から普及していたサブスクリプションストリーミングサービスが、2019年になって96kHz/24bitなど高音質フォーマットでの配信の普及が始まりました。

CD相当のロスレス配信は以前からありましたが、大手AmazonやMoraがCD以上のマスタークオリティでのサービス開始したのは、オーディオマニアにとって意義が大きいです。オーディオ雑誌などでも広く取り上げられました。

これまでハイレゾ・オーディオといえばハードディスクやSDカード内のFLACファイルが中心だった再生方法から、ネット環境とスマホアプリのみで完結するシンプルな方法に切り替わっていきます。

インターネット回線の高速化や、モバイルデータ通信のプラン容量が増えてきたおかげで、リアルタイムなロスレス再生が可能になってきたというのも凄いです。数年前だったらインフラ側の帯域が追いつかず、これだけのデータ量を瞬時に大勢に送るのは不可能だったでしょう。また、それが可能なデータインフラを持っている大企業のみが実現可能なサービスですから、まさに弱肉強食の世界です。

別の見方をすれば、オーディオデータの場合、ロスレスでリアルタイムストリームできるインフラが実現できるようになったので、データ量を減らすために考案されたMP3・AAC・MQAなど数多くの非可逆圧縮技術はその役目を終えてしまったと言えそうです。もちろん一般用途においてデータ量を減らすことのメリットはあるので、その分野では使い続けられるでしょうけれど、あくまで音楽鑑賞のためには、ロスレスでできるならロスレスでいいじゃないか、という地点に到達したという事です。

あれだけ議論が繰り広げられたハイレゾ・高サンプルレートの必要性も、現在ほとんどの新曲が96KHz・24bitで制作されているという現実があるので、それらをそのままで配信できるのなら、あえて44.1kHzのCD相当にダウンコンバートしたり、MP3・AAC・MQAなど圧縮する二度手間のメリットは薄いです。しかも今後データ通信速度がどんどん速くなっていくことは必須です。

もし、ハイレゾ不要論を主張する理由が残るとすれば、それは「メリットが曖昧なのに、金銭的な付加価値をつけるべきなのか」という点です。つまり、スタジオマスターが96kHzだから96kHzで配信するのは当然で最善という事実があったとしても、配信サービスなどが、通常プランはCD相当、プレミアムプランを払わないと96kHzは聴けない、という二重価格を続けるのであれば、それは音楽制作者の本来の意図とは異なってしまうため、それは変だという事です。配信でもダウンロードでも、オリジナルマスターが44.1kHz・16bitならそのままで、96kHz・24bitならそのままで、ロスレスであれば同じ価格で配信する形が音楽鑑賞としては理想だと思います。

個人的に今後どうしても回避してほしいのは、動画配信のようなリアルタイムで圧縮率を変えるような細工です。NetflixやiTunes Movieなど、プレミアム価格で4K HDRストリーミングといっても、実際は圧縮が酷く、さらにネット回線速度によってリアルタイムで低画質モードに切り替わったりします。どれだけ高速なインターネットであっても、家族と共有している場合などは帯域が不安定なので悲惨です。

オーディオマニアというと、電力会社で音が変わるとか、マイ電柱だとかでバカにされていましたが、ストリーミングが主流になってくると、マイルーターとか、マイ主配線盤、集合住宅だと光ケーブルの音が悪い、オーディオグレード国産桜材削り出し5Gモデム、なんてことも話題になってくるのかもしれません。MELCOとかヤマハが上手くやれば成功しそうな分野ですね。

ちなみにDSDやDXD(PCM 352.8kHz)といった超ハイレゾファイルで制作販売しているミュージシャンやレーベルも多くありますが、それらはリアルタイムでストリーミングするにはまだ厳しいですし、あくまでニッチなレーベルのダウンロードショップという形で継続するだろうと思います。

2019年は新作DAPにてDSD512といったものすごい高レートなフォーマットへの対応もありましたが、現状ではまだ最高峰スタジオの録音機器でもDSD256が主流なので、販売されているDSD512アルバムはアプコン処理によるものばかりです。DSD512対応はスペックとしてアドバンテージになりえますが、実際「聴きたい新譜を買ったらDSD512だったからどうしても対応プレイヤーを買わなければ」という事は起こりにくそうです。

それ以前の話として、音楽そのものが、シンセサイザーやサンプラー、デジタル音源ライブラリーやデジタルエフェクトを活用しているなら、現状ほとんどの機材やソフトが96kHz・24bit処理で動いているため、それ以上を求める意味は薄くなります。

マイクから直接DXD・DSDレコーダーに生録音して、ポストプロセスは極力行わない、という高度な作品でない限り、これら超高サンプルレートのメリットは活かせません。

DAPとか

私自身の2019年は、主にHiby R6 Pro とQuestyle QP2R DAPを使い分けていました。色々買ったり借りたりしていますが、音質重視で、自分の予算に見合うものとして、最終的に残ったのがこの二台でした。

Hiby R6 PRO

Hiby R6 Proは今年4月に買った新作DAPです。中国の新興メーカーですが、これまでOEM開発元としての実績が長いためか、これまで使ってきたDAPと比べても完成度が高いです。ハード・ソフトの両面が快適なので、日々不自由せず使えています。

たとえばカードのファイルスキャンやアルバムブラウザ表示が高速、充電が速く、電源を切らなくても画面消灯だけでバッテリーがほとんど減らない、USB OTGトランスポートとしてDSD256・DXDも安定している、ノイズが乗りにくい、めったにフリーズ・クラッシュしない、などです。他社の高級DAPでは意外とこういった初歩的な部分がダメだったりします。

Hiby R6 PRO AL

Hiby R6 Proの唯一の欠点はステンレス製で重いことだったのですが(私はステンレスが好きで、あえて選んだのですが)、11月にはアルミ版のR6 ProALが出ました。価格もステンレスが10万円・アルミが7万円くらいです。2019年は他にも低価格のR3・R5などが登場して、ラインナップが充実してきました。

Questyle QPM

Questyle QP2Rは極めて異色なDAPで、機能性は最低ですが、音が個性的なので、なかなか手放せません。2017年発売で、価格は16万円でした。

2019年には上位モデルで25万円のQPMが登場しました。バランス出力端子が2.5mmから4.4mmに変わり、アンプ回路が改良され高出力・低ノイズ化されたそうです。買い換える気もあるのですが、まだじっくり聴く機会が無く決めかねています。

Astell&Kern SP1000M

Astell&Kern SP2000

新製品の試聴とかでは、借り物のAstell&Kern SP1000を使う機会が一番多かったです。単純に身の回りのショップや友人が持っている確率が非常に高いからです。高価ですが、音質が良く信頼性が高く使いやすく、死角の無いモデルです。濃すぎないサウンドはイヤホン・ヘッドホンの音質を評価するために向いています。

そんなSP1000ですが、2019年1月には低価格化・小型化されたSP1000M (28万円)、5月には上位モデルSP2000(44万円)が登場しました。

どんどん高価になっていくので、一体どこまでユーザーはついてこれるのかと疑問に思っていたのですが、ショップでは好調に売れているそうです。実際のところ、ITガジェットとしては高価ですが、スピーカー用のハイエンドオーディオでは40万円でも入門機レベルという世界なので、そういう領域に足を踏み込んでいるのだろうと思います。

Astell&Kern SP1000 AMP

Astell&Kernから、4月にはパワフルな巨大DAPのKANN CUBE(18万円)、12月にはミドルクラスのSA700(16万円)が登場と、あいかわらず活気があります。大型ヘッドホンも鳴らせるKANN CUBEのパワフルさには関心しましたが、6月に登場したSP1000用追加強化アンプ(10万円)も圧倒的なパワーに驚かされました。

Fiio M11 Pro

中国Fiioからも、Xシリーズが一旦終了して、現行Mシリーズが好調に展開されています。個人的には2018年のM6が2万円の低価格にしては完成度が高くて良いと思いましたが、2019年は1万円台のM5と、6万円のM11が登場しました。M11は位置づけとしてX5-IIIの後継のようで、バランス出力端子が2.5mmと4.4mmの両方を搭載しているので悩まなくて済むのが良いです。

M11は発売当時に借りてちょっと使っていたのですが、サウンドとソフトの不具合が多くて断念しました。アップデートなどで色々と修正されたとは思いますが、再度チャレンジしようと思った矢先に「もうすぐM11 PROが出るよ」と言われて、気が失せてしまいました。やはり発売当日の完成度というのは肝心だと思います。

年末には8万円のM11PROと、ステンレス製で11万円のM11PRO-SSが登場したので、そろそろ試聴してみようと思いますが、そんな矢先に「もうすぐM15が出るよ」と言われて、また気力を削がれています。

iBasso DX220

ライバルiBassoのDX220・DX160や、他の中華メーカーShanling、Cayinなども、現在は機能と紙面スペック最優先の新作ラッシュで価格競争を行っており、どれも優秀だと思うのですが、ある程度ペースが落ち着いてくれないと、あまり急いで検討する気が起きません。iBassoは2020年にDX220Maxという変なモデルが出るそうなので、それは怖いもの見たさでちょっと気になっています。

最近の低価格DAP発売ラッシュでひとつだけ気がついた事は、以前と同じ価格帯で想定してしまうと、音質にガッカリする、という事です。

数年前なら、5万円台でもFiio X5やiBasso DX80など、それぞれサウンドに強いクセがあるものの、どれも「音楽的に」楽しく聴けたのですが、現行でそのあたりの価格帯では音質面が不十分な事が多く、結果的に10万円超の高価なDAPばかり目が移ってしまいます。自分の耳が高級志向になったのではなく、初代X5なんかは今聴いても良い音だと関心します。

最近の5万円DAPは以前の2万円DAPとよく似ており、音質が高解像なだけで空間表現のリアルさや楽器音の魅力が無かったり、たとえばスマホを近づけるとチリチリ、BluetoothやWiFiがONだとプチプチと異音が聴こえたりなど、スマホやパソコン直差しとそんなに変わらない、オーディオとしての基本要求がないがしろになっているモデルが多かったです。

DACチップやオペアンプなどの部品が安くなったわけではありませんから、たとえば過去の5万円台DAPと同じオーディオ回路に、さらに高解像タッチスクリーンやAndroidアプリ対応、Bluetooth・WiFiモジュール、そしてそれらが全て快適に動く高速プロセッサーと上乗せすると、やはり適正価格は10万円台になってしまうのかもしれません。最近は大手メーカーの低価格DAPを聴いてみても「え?この程度の音なの?」と驚くことが多いです。

ちょっと悲観的になってしまいましたが、やはり2019年はサブスクリプションストリーミング対応などが最優先で、機能性の過渡期と言えます。もう少し待てば落ち着いてくると思いますし、スペックやICチップの銘柄だけ羅列してプレミアム感を強調するような売り方はそろそろ飽きられる事を期待しています。実際に音の良さを決めるのはそれだけではありません。逆に、それら低価格高機能DAPを買って「なんだ、この程度ならスマホでいいや」とオーディオから離れてしまう人が出てくることが心配です。

ソニーNW-ZX507

2019年のDAPで、個人的にとても嬉しかったのは、ついにソニーが旧式のWM-Portケーブルを廃止して、新作NW-AシリーズとNW-ZX507にてUSB-Cを採用した事です。

一方、やはりアプリインストールの要望が高いため、OSもフルAndroidになり、NW-WM1ZやZX300などで比較的好評だったソニー独自のインターフェースOSが一代限りで廃止になってしまったのはちょっと残念です。また、AndroidのせいでWalkman独自の魅力だったバッテリー持続時間が大幅に短くなったのもマイナスです。

それでもやはりサブスクリプション・ストリーミングの魅力が上回るので、ソニー自身が初の「ストリーミングWALKMAN」と呼んでいるほどの意気込みです。(ただし公式でウォークマンとワイヤレスイヤホンとのセット割引を行っているのは、なんだか不思議な気持ちになります・・・)。

最安のAシリーズでも、ストリーミングアプリをインストールして、USB-Cで別途DACへロスレスで送る、というトランスポート用途にも便利なので、ソニーもそろそろPHAシリーズの後継機や、TA-ZH1ES・DMP-Z1よりも安い据え置きDACアンプを出してもらいたい頃合いです。

心機一転の新作ウォークマンなのですが、ところが、肝心のソニーのハイレゾサブスクリプションサービスMora Qualitasは現時点でパソコンのみで、スマホアプリがまだ登場しておらず、ウォークマンDAPではサービスが使えない、という冗談みたいな状況です。「使えて当然だと思ったから買ったのに・・・」という人もいるかもしれません。

本来なら、ストリーミング・ウォークマンの発売に合わせてQualitasアプリをプリインストールしておいて、3ヶ月の無料体験でも同梱すれば一気に集客できたと思うので残念です。

ウォークマンに限らず、Android OSとアプリ間でハイレゾ再生に対応させるのは難しいらしく、現状でほとんどのDAPでは社外アプリを使うと48kHzにサンプルレート変換されてしまいます。今後ハイレゾ・サブスクリプションアプリが各DAP上でちゃんとハイレゾ・ネイティブ再生できるか検証するのは大変です。そのあたりのサポート対応の早さがDAPメーカーの優劣を分けることになりそうです。

Fiio Q5s

DAP以外のポータブル機では、Fiio Q5sが旧X7のアンプモジュールと互換性があるため、その流れを継承しています。昔のOPPO HA-2っぽいカードスタイルのポタアンは長らく不在だったので、その穴を埋めるモデルになりそうです。



Audioquest Dragonflyも、内部にJitterbugを組み込んだような新作Dragonfly Cobaltが出て、ちょっと話題になりました。あとはiBassoのスマホ用アダプターDC1・DC2も、Appleの白いやつよりも高音質で良いです。

やはり2019年はDAP全盛期で、ポタアンは流行らない時代になってしまったようですね。今後もうちょっとDAPではできないような高度なオーディオ設計を目指すメーカーが増えてくれると良いのですが。

私自身もあいかわらずポータブルではChord Hugo 2・iFi Audio micro iDSD BLが最強だという思いは変わらず、機能・音質共に古くなったとは感じません。もし今買うとしても、これらのどちらかを選びます。

欲を出して無理難題を言うとすれば、ChordはMojoとHugo 2の価格・性能に大きな隔たりがあるので、そろそろMojoの後継機みたいなものを期待したいです。

ストリーミングアプリなど、DAPにスマホ的機能がどんどん要求される時代になってきたわけですから、ポータブルもあえて一体型ではなくセパレートする事も考えてもらいたいです。DAPはスマホのような大画面USBトランスポートのみで、DACとアンプはオーディオ回路重視で、それらを連結できれば、音質面でも、買い替えや構成の自由度でも有利だと思うのですが(USBケーブルが邪魔なのだけ、どうにか改善してもらいたいですが)、もしかすると今後そのような需要も再燃するかもしれません。

据え置きシステム

2019年は私の自宅の据え置きヘッドホンシステムにあまり大きな変化は無く、DACは2018年に購入したChord Qutest、ヘッドホンアンプは2016年からずっと変わらずViolectric V281を使っています。

今の所まだV281から買い換えようと思えるヘッドホンアンプに遭遇していないので、アップグレード欲求が全くありません。毎日使っていますが満足できています。さらにラインプリとしても優秀なので、ここからパワーアンプにXLRでつなげてスピーカーを鳴らしたりしています。

Chord Qutest DACは価格やサイズの割にかなり音が良いので、導入して正解でした。とくにCD音源、ハイレゾPCM、DSD256、DXDなど、どんなフォーマットでも満足できるのが良いです。他のメーカーでここまで全般的に完成度が高いDACは知りません。上級機種と比べて弱点として思い当たるのはACアダプター電源で音が結構変わってしまう事です。

DACはスピーカーオーディオ用製品と兼用できるので、それなりに新製品も多いのですが、ヘッドホンアンプはそういうわけにはいきません。ヘッドホンは新製品が続々登場しているのに、それに見合った据え置きヘッドホンアンプというのは変わりばえしないですね。

もうちょっと大手オーディオメーカーとかも参入してくれるかと期待していたのですが、相変わらず米国ではもう10年くらいHeadAmpやWoo Audio、Schiit Audioなどガレージ系が頂点に君臨しています。

とくに米国では英欧と比べてクラシックのハイレゾオーディオとかを聴く人が少なく、R2RのNOS DACや真空管など古典的伝統工芸が重宝されているので、なかなか新しいことも求められていないのでしょう。

英国ではChordやiFi Audioなどが頑張っていますが、ドイツやフランスなどを見ると、ヘッドホンオーディオの娯楽にそこまでのこだわりを主張するようなメーカーは現れていないようです。

日本からも、従来のような10万円以下のDACアンプ複合機はほとんど見なくなりました。DENON・マランツ・ティアックなどの新作は一体いつになったら出るのでしょうか。個人的にはヘッドホンアンプにはまだ未参入のヤマハやパナソニック(テクニクス)にも期待したいです。唯一ハイエンドオーディオから撤退したソニーのみが80万円のDMP-Z1ヘッドホンアンプを作っているのは面白いです。

エソテリックのマスターサウンド・ディスクリートDAC

国産メーカーは最近100万円クラスのオーディオ製品が盛況で、とくにDACにおいては、昨年はマランツ、今年はエソテリックと、上位モデルから続々と独自ディスクリートD/A変換が生まれているので、そういった独自技術が低価格DACアンプにも活かされる日も近いかもしれません。

Questyle CMA400i CMA Twelve CMA Twelve Master

中国のQuestyleはヘッドホンアンプ回路にずいぶん力を入れているので、個人的に好きなメーカーです。数年前のCMA400iはあいかわらず10万円の複合機としてはおすすめです。

2019年にはUS$1500のCMA Twelveと、US$2000のCMA Twelve Masterが登場しました。この価格帯の据え置きDACアンプ複合機は選択肢が少ないので歓迎したいです。サウンドは落ち着いていてどっしり構えるタイプで、ドライブ力も申し分ないので、新作ヘッドホンの比較試聴などでよく使いました。

個人的な感想として、これくらいの価格帯までなら複合機の方がコストパフォーマンスの面で優れているようで、これよりも上を目指すとなると好き嫌いの範疇になってしまうため、好みのDACとアンプをセパレートで別々に揃えた方が満足できるようです。

Chord M-Scaler

唯一の例外というか、ものすごい高価な複合機としてヘッドホンユーザーから支持を得ているのがChord Hugo TT2ですが、2019年には追加モジュールのChord M-Scalerが登場し、合計130万円と、買えもしないのに試聴してみたところ、その効果には素直に関心しました。デジタルデータをDACに送る前に補完するアップスケーラーですが、スピーカー・ヘッドホンのどちらで使っても確かなメリットが感じられます。

iFi Audio Zen DAC

個人的に支持している英国iFi Audioからは、今年はxDSDやPro iDSDほどの派手な新製品はありませんでしたが、二万円弱の低価格据え置きDACアンプ「Zen DAC」が出ました。

奇抜なデザインですが、中身は定評のあるポータブル機をベースに、高コストなバッテリーなどを排除し、さらに4.4mmバランス出力も追加するなど、意外と真面目な製品です。ライン出力DACとしても優秀なので、古いオーディオシステムにストリーミングを導入するにも最適かもしれません。この価格帯で安心して勧められる据え置き商品というのは、ありそうでなかったので、とくに入門機として広く知れ渡ってほしいです。


10万円を超えるようなハイエンド機器というのは、趣味をどこまで突き詰められるのか把握するためにも、存在意義はあると思いますが、個人的にはやはり10万円以下の選択肢がもっと増えてほしいです。ポタアン・据え置き型のどちらも、これくらいの価格帯であってもメーカー独自の音作りを追求することは可能だと思います。

「どうせ100万円無いとスタート地点にすら立てないのか」なんてユーザー離れが起こるのが一番心配なので、その点ハイエンドだけに走らず、しっかり裾野を広げるために低価格モデルも頑張っているメーカーは尊敬できます。

とくにサブスクリプション・ストリーミングのおかげで音楽を聴く時間が増えたという人も多いでしょうし、パソコンやスマホ・タブレットと直結できる「自宅でのちょっとした贅沢」のための据え置き機の需要が高まる事を期待したいです。

おわりに

2019年のイヤホン・ヘッドホンを振り返ってみると、普及価格帯での音質の底上や、センセーショナルな革新技術はあまり感じられなかったのですが、一方で高級志向なプレミアムブランド市場は一気に拡大しました。

つまり10万円以下を考えているなら、音の良さという点では数年前のモデルでも十分優れており、あえて2019年の最新モデルにこだわる必要は無いと思います。

10万円以上になると最新の選択肢が豊富になり、とくに密閉型ヘッドホンの高級機では技術進化が感じられるので、そういうのに興味があるなら新しめのモデルをチェックしてみる価値は十分あります。

DAPなどの再生機器はサブスクリプションストリーミングへの対応と需要に急かされ、最新のソニーを含めて、ほぼ全てのモデルがスマホのような最新Android OSインターフェースに世代交代しています。年配の人なら、80年代のコンポや、2000年代のAVアンプの熾烈な競争を思い出すかもしれません。

ただし激しい価格競争に直面すると、カタログスペック以外の部分での音質向上努力はカットされてしまうという側面もあり、多機能になるほどオーディオ回路以外の製造コストも上昇しています。もし買い換えるなら以前よりも高価なモデルを検討すべきですし、発売当初はバグなども多いので、発売前情報で期待を膨らませるのではなく、一息入れて、発売後ある程度レビューなどで定評のあるモデルを選ぶ方が良いかもしれません。

また、私自身が良い例ですが、試聴した時は感動して即決購入したのに、数週間後には全く使わなくなってしまったモデルや、逆に最初は印象が薄かったのに、いざ使ってみると手放せなくなってしまった「隠れた名作」もあります。たとえばHifiman HE560、オーディオテクニカATH-R70x、フォステクスTH610、ベイヤーダイナミックDT1770PRO、Grado GW100なんかが良い例です。もちろん第一印象からずっと凄いと思い続けているFinal E5000、Dita Dream、iFi Audio micro iDSD BLなんかは傑作の部類です。

オーディオや自動車、楽器、カメラ雑誌などでは、発売時のレビューだけでなく、ライターが半年くらい使い続けて毎月の感想を書く長期レビューコラムというのもあり、購読者としてはとても参考になります。

一方イヤホンは手軽に携帯できて、見せびらかす対象にもなるので、近頃の売り方はまるでモンブランやロレックスなどが大成功を収めている限定デザイン商法を真似ているようです。それらとイヤホン大きな違いは、中古価値が上昇する可能性があるかどうかなのですが、もしかすると将来的には投資転売目的でイヤホンを買うような市場になるのかもしれません。

意外と忘れがちですが、音楽鑑賞を趣味として考えるなら、スペックやデザインも大事ですが、やっぱり自分にとっての「音の良さ」が最重要なので、長期間じっくりと音楽を聴いてみる事が肝心です。意外と、普段一番頻繁に使いたくなるモデルが、自分が持っている一番高価なモデルではない、ということも大いにあります。

今回もあいかわらず内容の薄いまとめでしたが、なにかこれまで知らなかったメーカーとかも興味持って試聴してみたくなったなら幸いです。