2020年1月19日日曜日

USB DACをネットワーク化

今回はちょっと趣向を変えて、Raspberry Piを使ってUSB DACをネットワークオーディオ化してみました。

USB DACを手軽にネットワーク化

内容自体はこれといって新しくも珍しくもなく、むしろ使い古された技術ですが、とりあえず一万円くらいの低価格で気軽に試してみたいという人には参考になるかもしれません。


ネットワークオーディオの魅力

ほんの最近まで、オーディオマニアにとってデジタルオーディオといえばUSB DACが主流でした。

1980年代のCDプレイヤーから始まり、SACD、S/PDIF DAC、Firewireオーディオインターフェースなども流行りましたが、ハイレゾPCMやストリーミングサービスが定着してからはやはりUSB DACの利便性に敵うものはありません。

WASAPI・Core Audioのおかげで「とりあえず挿せば動く」というトラブルフリーな動作が得られるようになったのが人気の理由だと思います。

一方で、最近のオーディオ雑誌を読むとネットワークオーディオが盛んに紹介されるようになっており、一流ブランドの100万円もするような最上位機種でさえネットワーク機能が重要視されています。

私自身はオーディオ再生用のパソコンからDACまでUSBケーブルで十分届く距離にあるので、そこまでネットワークオーディオに興味はありませんでした。これまで何度かオーディオNASとかを導入してみてはいるのですが、使い勝手に不満があったりして、どうしてもパソコンに戻ってしまいます。

長年愛用しているiFi Audio Geminiケーブル

今回ちょっと試してみようと思ったきっかけは、自宅に新たなUSB DACを導入した結果、これまで使っていた1.5m USBケーブルでは長さが足りなくなったのが原因です。パソコンを移動するのも面倒なので、適当な3mケーブルを買って使ってみたら音が悪く、DSD256で音飛びも発生したので、新たに高価なUSBケーブルを新調するよりも、せっかくだからネットワーク接続でも試してみようかと思い立ったわけです。

同じデジタルなのに、なぜ3mのUSBケーブルはダメで、3mのLANケーブルなら大丈夫なのかと不思議に思う人もいるかもしれませんが、中身は全く異なります。

ギガビットイーサネット

ギガビットイーサネットLANケーブルの中身は厳重にシールドされた差動データ信号線が4ペア(8本)あり、データは5bit相当の複雑な多重アナログ波形として分割送信され、受信後にエコー除去、波形イコライザー、エラー訂正などを経てからデジタルデータとして復号されます。つまり、長距離でも絶対に送受信ミスが起こらないよう、ものすごく複雑な事をやっています。(100Mbpsの頃は、もっとシンプルに2ペアで直接デジタルビットを送受信する方式でした)。

機器のイーサネット端子も差動で受けてアイソレーション(絶縁)されているため、機器のグラウンド電位に依存しません。つまり、遠く離れたコンセントに接続されている二つの機器同士をつなげても問題無いため、スペックでも最長100mが保証されています。

WikipediaよりUSBケーブル

一方、USBケーブルも差動ケーブルペアなのですが、デジタルビットのまま、一つのケーブルペアで送信と受信を交互に行ったり来たりしています。(USB 3.0になって信号線が増えましたが、ほぼ全てのUSB DACはUSB 2.0を使っています)。

USBケーブルにはさらに0Vグラウンド基準と5V電源(いわゆるバスパワー)用の配線があり、これらを機器間で基準電位として扱わないといけない点がイーサネットとの大きな違いです。

優れたUSB DACであれば、信号線のみをアイソレーションして受けており、バスパワーは使わず、つまりDACの電位がパソコンの電源に依存しないように作られているのですが、バスパワータイプのDACでは機器そのものの基準電位がパソコンとケーブルに依存するため、パソコンの0Vが揺れたり、ケーブルに外来ノイズが混入すると、それがそのままDAC回路に影響を与えてしまいます。

据え置き型USB DACであっても、実際にUSBケーブルを受ける回路はサードパーティのOEM基板をそのまま取り付けただけの場合が多く、それらはUSB DAC本体の電源とは別に、USB DACケーブルのバスパワーに依存した設計もあります。

とくに距離が長くなると「コンセント → パソコン → USBケーブル → USB DAC → RCAケーブル → アンプ → コンセント」という長大なグラウンドループが生まれてしまい、不安定要素となってしまいます。

また、USBケーブルも、一部の高級品を除いては、信号線ペアと電源線ペアが隣接して(最悪、合わせて編み込んだり捻ってあったりして)、信号線に流れるデータビットが電源線に飛び移りノイズになることも、以前このブログで紹介しました。とくにケーブルが長くなるほど、電源線は電圧降下が起こり、データ線や外来ノイズ(近くのスマホやACアダプターなど)による劣化も顕著になります。

典型的な例では、ノートパソコンを充電中や、ビデオカードに負荷がかかるとチリチリとノイズが聴こえたり、スマホやスイッチング電源が間近にあるとプツプツと音飛びしたりなどです。すぐに分かるくらいのノイズなら対策のしようもありますが、音楽の最弱音くらいのレベルで影響を与える微細なノイズだと、気が付かず無意識に「なんか音が悪い」と感じてしまいます。実測-70dBくらいのノイズだとほぼ気が付きません。またオーディオ機器の公式スペックのS/NやTHD+Nというのはノイズフリーな理想的なラボ環境での話なので、実用上は外部の要因でもっと悪くなりがちです。

個人的な経験では、一般的なUSBケーブルでは、2mを超えたあたりから挙動が怪しくなり、とくにDSD256やDXDなど高レート通信ではチリチリと音飛びしたり、正しく認識しなかったりなどのトラブルが多発しました。PC・DAC・ケーブルの全てが優秀であれば良いのですが、どれか一つでも問題があると、それがボトルネックになってしまいます。

オーディオブランドなどによる高価なUSBケーブルは、何重にもしっかりシールドされて、信号線と電源線を分けているものなど、ちゃんとしたメリットがありますし、さらにUSB信号や電源をクリーンアップするフィルターのようなガジェットも色々売っていますが、それらに何万円も払うのならば、そういったメリットがすでに盛り込まれてあるイーサネットを使った方が良いかもしれない、というのがネットワークオーディオの魅力です。

ネットワークDAC

2020年現在、USB DACをネットワークDACに置き換えるとなると、おおまかに三通りの方法が思い浮かびます。

意外と忘れがちなDLNA

まず一番メジャーなのはUPnP・DLNA接続です。古くからAVアンプなどに搭載されており、Apple AirPlayなど、類似の独自規格も続々と登場しました。

UPnP(Universal Plug and Play)というのは、ネットワークに接続するだけで他の機器が自動的に見つけてくれて、どんな用途の機器なのか判別してくれる技術です。たとえばUSBプリンターをパソコンを挿せばPlug and Playで勝手にプリンターだと認識してくれますが、それと同じようなアイデアをネットワークでもやろうという事でUPnPと名付けられています。

DLNA(Digital Living Network Alliance)はそのUPnPを利用して、ネットワーク経由で映像や音楽のリアルタイム再生を行おうというアイデアで、2003年にインテル主導で始まったプロジェクトです。

役割をサーバー(音楽ファイルがあるPCやNASなど)、レンダラー(いわゆるDAC)、コントローラー(いわゆるプレイヤーソフト)の三つのどれかに属して、それぞれをネットワークで繋げるという仕組みです。

発表当初は未来の希望に溢れた素晴らしいアイデアだったのですが、初期の対応機器は信頼性が低く、しかも各家庭のネットワーク環境、ルーター、ファイアウォールなどに影響されるので、「買ったけど動かない」というトラブルが多く、あまり爆発的なヒットとはなりませんでした。

とくにAV機器メーカーはそれまでネットワーク機器の専門家では無かったので、製品への実装も知識不足で間違いが多かったり、適当なサードパーディ製OEM基板を詰め込んだだけで、社内で誰も理解しておらずアフターサポートができなかったりなど、問題が山積みでした。

Naim Unitiシリーズはかなり先見性がありました

現在一番成功している独自規格はRoonでしょう

このような状況に痺れを切らした多くの大手メーカーは、自社製品もしくは協賛製品のみで通信できる独自の「DLNAっぽい」システムを生み出しました。Apple AirPlay、Linn OpenHome、Naim Uniti、Roon RAATなど、様々なブランドがありますが、根本的にはDLNAのアイデアを独自に推し進めたものです。

たとえばOpenHomeなどは一応UPnP・DLNAと互換性があり、さらにいくつかの追加情報(メタデータ、プレイリストとか)を独自に通信している、一種のカスタム拡張です。

本家DLNAも進化しており、どんどん拡張機能が追加されているのですが、実際どの機器がどのバージョンに対応しているかわかりにくいため、これも互換性トラブルの元になっています。

意外と、すでに持っている機器が対応しているけど使っていなかった、という人も多いかもしれません。特にAirPlayなど古い規格はあくまでカジュアルユーザーを想定しているため、サンプルレート固定でハイレゾPCMやDSD未対応など、オーディオマニアにはあまり魅力的ではありません。

最近のDLNA規格通りに正しく設計されていれば、DSDネイティブやハイレゾPCMなども問題なく送れるので、上手くいけば一番手軽な方法です。

Dante対応オーディオインターフェース

二番目にメジャーなのはDanteです。とくにレコーディング製品ではずいぶん普及しており、昔のAES/EBU(AES3)と、その民生用バージョンであるS/PDIFのように、メーカー同士の互換性を保つためAES67という業界規格が制定されています。

さらにSMPTE 2110規格とも互換性を保っているため、映像と音声制作現場の両方でスタンダード化されているので、ミックスコンソールやコンサートホール設備などではほぼデファクトスタンダードとして、数百社から対応製品が出ています。
https://www.audinate.com/products/dante-enabled?lang=ja

MergingのRavenna対応DAC

他にもAES67を独自拡張したMerging Ravennaなどもありますが、どれも基本的な目的は一緒で、一本のイーサネットケーブルでマルチチャンネル・ハイレゾPCM・DSDを送受信する規格です。上の写真のMerging NADACは一本のイーサネット入力で8chのアナログ出力が出せるDACです。

以前よく使われていた光や同軸のADATやMADI(AES10)の後継という扱いなので、対応DAWソフトやオーディオインターフェースも安価なデスクトップ機器から一流スタジオ機器まで様々なものが手に入ります。

ただし、シンプルな一対一のステレオ再生にはオーバースペックすぎるため(というか音楽プレイヤーソフトの互換性が悪いため)、いわゆる家庭用オーディオではほとんど使われていません。

Dante、Ravennaなどの最大の魅力は低遅延でタイムコード同期されたマルチチャンネル・ハイレゾPCM・DSDを送れる事なのですが、本来の用途はサラウンドというよりはむしろマルチトラック録音のためなので、もし家庭用サラウンドで使うとなると「ではDolby Atmosはどうなるんだ」などと不満が出るので難しいです。

オリオスペックDiretta Target PC

三番目に、近頃話題に上がる事が多いのが、日本の独自規格Direttaです。これは極力シンプルにイーサネットケーブルをUSBの代用として使う技術で、パソコンに特殊なASIOドライバーをインストールすることで、あたかもUSB DACを接続しているかのように振る舞うけれど、実際のデータはイーサネット経由でDACに送られる、という感じです。

Sforzato DSP-Vela

高音質リスニングに特化するというシンプルなコンセプトに基づいているのが大きなメリットですが、今はまだ時期尚早といった感じで、対応機種は限られています。フリーウェアではあるものの残念ながらライセンス制なので、今のところSforzato DSPシリーズ、オリオスペック Diretta Target PC、近日発売のラックスマン Audio Osechi Boxなど特定の対応製品を買うことになります。


そんな感じで、USB DACの代わりとしてネットワークオーディオが有用になってきたのは確かなのですが、残念ながら世界的に通用するデファクトスタンダードは生まれていません。

先駆者のApple Airplayがそうだったように、ライセンス制で認められた装置間でしか通信できなかったり、もしくはDLNAのように、公式規格がアップデートされるよりも先に、ギャップレス、プレイリスト、ハイレゾ対応など各メーカーが独自規格を作り出してしまい、メーカー間の互換が失われてしまったり、かなり混沌としています。

将来的に「UPnP・DLNAの仕切り直し」として、S/PDIFのような「違うメーカー同士でも、とりあえず挿せば絶対動く」互換規格が生まれるのが望ましいのですが、どうでしょうね。理想的にはWindows・Mac・Androidなど全てのプラットフォームにて、内蔵オーディオやUSB DACと別け隔てなくネットワークオーディオ機器が使えればベストです。

一方で、ピュアオーディオ界隈では、高価な商品として売れなければ商売にならないので、オープンソースとは言っても実際は柔軟性に乏しく、一部のメーカーや雑誌などの内輪だけで盛り上がっているような閉鎖感があり、ちょっと気持ちが悪いです。

優れたアイデアがあるなら、XMOSのようにレファレンス基板を大量に安価でバラ撒くことで普及させるのが最善だと思うのですが、あまりに保守的すぎると、結局後発の安価な代用品に足をすくわれそうです。

オーディオサーバー・NAS

上記のような「USB DACの代用」とは別の使い道として、オーディオサーバーやオーディオ用NASというのが流行っています。

Aurender N100

SoTM SMS-200

AurenderやDELAなどハードディスクを内蔵しているものと、SoTM SMS-200など外部NASにアクセスするものに分かれますが、どちらも行っている事は同じです。安価な物ではI-O DATA Soundgenicなどが有名です。

中身は小型コンピューターで、音楽ファイルを事前に読み込んでライブラリー化しておき、再生時にUSB DACに送る、という用途に特化したサーバーOSを動かしています。ユーザーはスマホアプリやウェブブラウザーなどからアクセスして選曲再生するという使い方です。

高価なモデルになるほどインターフェースの機能が充実して、タグ編集や各種ストリーミングサービスとの連動など、使い勝手が良くなります。Aurenderのように本体に画面があり、リモコン操作で選曲できるタイプもあります。

QNAPやSynologyなど大手の汎用NASにも似たような機能が搭載されていますが、そういうのは大抵USB Audio Class 1のみで、アシンクロナス通信やハイレゾファイルに対応していないなど、あくまでカジュアル用途を想定しているものが多いです。そんな中で、バッファローDELAやI-O DATA fidataなどは自社製汎用NASの技術を応用した真面目なオーディオNASを開発したことで、一躍ヒット商品になりました。

すでに大量の音楽ファイルを持っていて、オーディオNASに移行すべきか悩んでいる人も多いと思います。単なるトランスポートとしてはずいぶん高価に思えますが、逆に安価で良さそうな物もなかなかありません。

とくにNASは大事なデータを保管する場所でもあるので、たとえばNAS故障時に内蔵ハードディスクから音楽をリカバリーできるのか、ディスク破損時にはホットスワップで即座に別のディスクに入れ替え可能か、リビルドの頻度は、SSHは、など、NASっぽい部分が曖昧なまま、制振ゴムとか、いわゆるオーディオっぽさのみ主張する製品でありがちです。

つまり、現実的に考えると、本命のバックアップにはちゃんと真面目なビジネスNASを使い、聴きたい音楽だけをオーディオNASにコピーしておくという二度手間(ようするにDAPと同じような使い方)として割り切ってしまえば、それが一番気楽だと思います。そうすれば容量の小さいけれど高速で低ノイズなSSDタイプなどでも十分です。そういうのが煩わしいからサブスクリプションストリーミングサービスに移行したという人も多いでしょう。

ネットワーク機器

USBやS/PDIFは一対一のケーブル通信でしたが、ネットワークは多数の通信が行き交うので、色々と考えるべき事が増えます。

DSD256のUPnPストリーミングで30Mbpsくらいです

一般的な96kHz・24bitハイレゾPCMなら3Mbpsくらいなので、無線LANでも余裕で流せますが、DSD256やDXDくらいになると30Mbps程度必要なので、無線だとちょっと厳しいので、やはり専用のLANケーブルを使ったほうが安心します。

一般的な家庭のネットワークにおいて、実は意外な盲点なのがネットワークスイッチだと思います。私は仕事柄けっこうスイッチやルーターを酷使する方なのですが、同じギガビット・イーサネットスイッチでも、数千円の安物と数万円の高級品では高負荷時の性能に大きな差があります。

業務用でも小さいやつは安いです

私は今のところスイッチはHPE(3COM・Aruba)の1810や2530、ルーターはCISCO RVシリーズなど数万円台のモデルに落ち着きました。もっと安い物でさんざん苦労して、これくらいでようやく24時間安定できるようになりました。

音質が違うとか、そういったオカルトな意味ではなく、一対一の一方向通信なら安物でもスペック通りの速度が出るのですが、3,4台くらいの機器が同時に双方向通信していると負荷に耐えきれず転送速度が落ちたり、ランダムに不安定になったりします。とくに、安価な無線ルーターの裏面についてるイーサネットポートとかは問題が多いです。

動画編集などでは光の10Gbpsに移行している人が多いですが、音楽はそこまで高速伝送は不要なので、まだまだギガビットで十分です。枯れた技術なので、高品質な業務用スイッチでも2万円くらいで買えますから、他のオーディオ機器と比べたら、それくらいは投資する価値はあると思います。どこかの会社が倒産した時に大量の業務用スイッチが中古ジャンクとして出回る事も多いので、そういうのも狙い目です。

こういうので何度もトラブルに遭遇しました

他に、ネットワークオーディオのトラブルで多いのが、古いLANケーブルを使いまわしている事です。とくに金持ちの豪邸とかで、10年以上前に流行ったフラットタイプのCAT5 LANケーブルを埋め込みで張り巡らせていたりしているのが一番困ります。ギリギリ1Gbps出せずスイッチが誤動作したり、放射ノイズに弱く急に通信が落ちたり、接続機器が現れたり消えたり、ランダムに起こる問題の多くがケーブルのせいだったりします。ちゃんとしたメーカー製のCAT6eケーブルでも数百円単位で買えるので、この際一気に捨てて全交換するのも良いと思います。とくにオーディオブランドの変なLANケーブルを後生大事に使っている人は要注意です。

これはLANに限らず、USBやHDMIケーブルも同様です。たとえば2019年になって新しいテレビを買ったのにDolby Visionが映らないという問い合わせが何件もあり、よくよく調べたらHDMI 2.0に対応していない昔のHDMIケーブルを未だに使っていたとか、古いAVアンプやスイッチャーを通していた、なんて事が非常に多いです。コネクター形状が同じなので、言われなければわかりません。たとえAudioquestとかの高級HDMIケーブルでも、古いタイプだと4KやHDRが誤動作します。

こういったデータ通信に使われるケーブルは単純にOFC純銀や削り出しコネクターとかで済む話では無いので、必要に応じた正しいケーブルを買う必要があります。オーディオ専門店スタッフがそのあたりの知識に疎いのも問題かもしれません。

Raspberry PiとVolumioで安上がりに試す

現在、ネットワークオーディオがブームということで、様々な機器が手に入りますが、せっかくなので今回は「とにかく低価格で試してみる」ために、一万円弱で済むRaspberry PiとVolumioを使ってみました。

安価にネットワーク化

これを選んだのは、値段が安くて、開封から音楽再生まで30分で済むから、という理由からです。高価なオーディオ製品に手を出す前に、まずこれを導入して自宅のネットワークでの動作を検証してみるのも良い経験になるかもしれません。

VolumioでDSD256ネイティブ再生

ミキサーバイパスなどオーディオマニアに特化してます

VolumioはシンプルなオープンソースのフリーOSなので、UIはシンプルですが、「お試し」用途としては最適です。とくにオーディオマニアに特化したOSなので、機能はしっかりしており、主なメリットとして:
  • USB Audio Class 2 DACなら挿せば動きます。DSD・DXD・ハイレゾPCMにも対応
  • UPnPレンダラーとして、パソコンやスマホなどの再生ソフトから再生先として選べます
  • ミュージックサーバーとして、外部NASにある音楽フォルダーをスキャンしてデータベースを構築して、ウェブブラウザー上で選曲・再生できます
といった感じで、つまり上述した二種類の用途(USB DACの代用、・ミュージックサーバー)のどちらとしても使えるため、テスト用途に適しています。

Volumioの欠点として思い当たるのは、今のところHTTPSやログインパスワード保護に対応していないため、同じネットワーク上にいる誰でも勝手に接続できてしまう点です。一人暮らしとか、オーディオ専用のネットワークを組んでいる人ならむしろ手軽で好都合なのですが、家庭や職場のLANに組み込む場合などはちょっと困ります。

Raspbery Pi 4

Raspberry Piは現時点で最新のRaspberry Pi 4 4GBバージョンを選びましたが、もっと安いやつでも動きます。本体8,000円、ケースは1,000円くらいで買えます。

USBとイーサネットはありがたいです

カード型コンピューターは他にも色々売っていますが、やはり一番有名なRaspberry Piは安心できますし、未だにちゃんとLANとフルサイズUSB端子が4つもついているのがオーディオ用途に嬉しいです。無線LANも内蔵しています。

さらにこの上に追加するDAC基板モジュールとかも大量に売っているので、これだけで完結したネットワークオーディオDACにも改造できます。

HDMI端子はレアなmicro HDMIですが(よくデジカメについているやつです)、今回はウェブサーバーとして使うため、接続は不要です。

注意点として、電源は3A(15W)のUSB Cタイプが別途必要です。最近のノートパソコンとかスマホ充電器ならほぼ3A対応だと思います。実際は3A以下でもギリギリ動くようですが、接続するUSB DACがバスパワータイプなら、その分の電力消費も加算されるので、しっかりした電源が必要になります。ためしに1.5Aの電源を使ってみたら、電源ランプは点灯するものの、OSが起動せず通信できませんでした。

micro SDカードにOSを入れます

あとはOSを入れるために適当なmicro SDカードが必要です。私は手元に余っていたSandisk Extreme Pro 64GBを使いました。

カードが遅いせいでソフトの性能が落ちるのも嫌なので、そこそこ読み書き両方が速いカードを選びましたが、最近はこういったハイスペックなカードもずいぶん安くなっています。DAPを使っている人なら、きっと古い32GBとかのカードが余っているでしょう。

組み立て

インストール手順は至って簡単なので、慣れれば5分で済みます。

公式imgをダウンロード

公式サイトの指示通りBalena Etcherでimgをmicro SDカードに書き込み

まずVolumioの最新版イメージファイルを公式サイトからダウンロードしておいて、サイトの指示通り、Balena Etcherというフリーソフトを使って、イメージファイルをmicro SDカードに書き込みます。

それが済んだら、カードをRaspberry Piに挿入して、LANケーブル、電源ケーブル、USB DACを挿すだけで終わりです。

完了

volumio.local/ でページが開きます

数分間待って、パソコンのウェブブラウザー上で「volumio.local/」の初回設定ページが開いたなら成功です。以降、事前にUSB DACを接続しておけば、起動完了時にメロディが流れます。

DNSがちゃんと通っていない場合はルーターなどからVolumioのIPアドレスを調べて開く必要があるかもしれません。

メニューは右側

私は有線LANで使うので無線はOFFにしておきました

日本語にしても半分くらい英語です

UIは日本語も選べますが、表示翻訳は半分くらい英語のままです。設定項目は少ないので、そこまで困ることは無いと思います。

USB DAC接続

Volumioの最大の魅力はUSB Audio Class 2に対応していることです。つまりドライバー不要で、DSDやハイレゾPCM対応DACを接続するだけで、ちゃんとネイティブ再生してくれます。

USB DACを接続するとOutput Deviceに現れます

Chord Qutest

Chord

dCS

iFi Audio micro iDSD BL、nano iDSD BL、Chord Qutest、dCS Debussyなど、自宅にあるUSB DACを色々接続してみたところ、どれも問題なく認識して使えました。いわゆる最近のCore Audio・WASAPI対応DACなら大丈夫だと思います。

一度接続してしまえば、長時間の再生も安定して、再起動後もちゃんと接続を覚えていてくれます。ただし、今回テストのために色々なDACを頻繁に入れ替えていると、何らかのきっかけで認識しなくなることもありました。その場合、Raspberry Piの電源ケーブルを抜いて再起動したら治りました。

DSD再生

DSD再生については、ちょっと注意が必要です。

DSD DirectとDoP

設定オプションでは「DSD Direct」と「DoP」が選べるのですが、まずDSD DirectというのはWindowsにおけるASIO DSD Nativeと同じようなもので、もしDACが対応可ならDSDデータがそのままDACに送られますが、もし未対応ならVolumio側で勝手にPCMに変換されて送られます。

ただし、PCM変換されてもVolumio画面では1bit再生中と表示されるため、DAC側に表示が無いと実際DSDで送られているか確認できません。

たとえばiFi Audio micro iDSD BL、nano iDSD BL、Chord QutestはどれもDSD Direct対応で、DAC本体にもDSD再生時に特殊なランプが点灯するため、ちゃんとDSD再生だということがわかります。

一方dCS Debussy DACはDoPのみ対応なので、もしVolumioを「DSD Direct」に設定してDSDファイルを再生すると、ちゃんと音楽は鳴るのですが、実はPCMに変換されて送られています。

dCSの場合、Volumioを「DoP」に設定しておけばDSDで再生されていることが確認できました。ただしdCSはDoP DSD128 (5.6MHz)までのみ対応なので、DSD256を再生すると、音楽は鳴るのですが、Volumioが勝手にPCM 384kHzに変換しています。

ちゃんと理解していれば便利でありがたいのですが、知らないと混乱するかもしれません。

UPnPレンダラーとして使う

VolumioをUPnPレンダラーとして使いたいなら、設定画面でそれがONになっていることを確認するだけです。

UPNP RendererをOnに

ONにして一分ほど待てば、同じネットワーク上にあるパソコンのJRiverやAudirvanaなどにVolumioが勝手に表示されるので、それを選んで音楽を再生するだけです。

もし表示されないなら、パソコンのファイアウォールかルーターの問題でしょう。

MacのAudirvanaにVolumioが現れました

Audirvana上のデバイス設定画面

Audirvanaの設定は比較的わかりやすくて簡単です。右下のスピーカーアイコンをクリックして、Volumioが現れていればそれを選択すれば設定画面に行けます。

Audirvana自体がオーディオマニア向けソフトなので、設定もあまりいじらずにハイレゾやDSDネイティブで送れました。

JRiverでは左上のPlaying Nowに現れます
JRiverの設定画面

JRiverはわかりづらいです。まず[Tools > Options > Media Network > Use Media Network to share this library and enable DLNA]にチェックを入れると設定画面が現れますが、ここで[Generic DLNA]を選ぶと48kHzにサンプルレート変換されてしまうので、[Audiophile 24-bit DAC]を選びます。

確認のため、[Tools > Options > Media Network]にて[Add or configure DLNA servers...]を開き、AudioのModeがOriginal、FormatがPCM 24-bitになっていればOKです。ちなみにAdvanced項目に[Bitstream DSD (requires DoPE compliant renderer)]というのがありますが、Volumioの場合このチェックは外しておくべきです。チェックを入れているとDSD再生が動きませんでした。

この設定後に画面左上のPlaying Nowに行くとVolumioが現れます。

JRiverはものすごく多機能で高速な素晴らしいソフトなのですが、こういった設定があまりにもわかりにくいのが困ります。長年の開発による蓄積があるのはわかりますが、そろそろユーザーインターフェースを第三者の目でシンプルに作り直すべきだと思います。

なんにせよ、再生ソフト側が正しく設定してあれば、DSDやハイレゾPCMなどもちゃんとネットワーク経由で再生してくれます。

私の場合、音楽ファイルはNASにあるので、データの流れがNAS→PC→Volumioという余計な回り道をしていますが、DSD256とかでも余裕で安定して鳴ってくれます。VolumioをDLNAミュージックサーバーに設定しても良いのですが、それは後述する理由から諦めました。

ミュージックサーバーとして使う

もしVolumioをミュージックサーバーとして使いたいなら、Source設定画面にて音楽ファイルがあるフォルダーを指定すると、勝手にスキャンしてデータベースが構築されます。

こんな感じにSMBパス登録

私の場合は同じネットワーク上にあるQNAP NASのSMB(CIFS)マウントなので、それのアドレスとフォルダパスを入れます。NASはパスワード保護されているので、Advancedボタンを押してユーザーネームとパスワードを入力します。

Plugins

他にもプラグインでSpotify連動などもできるようです。

かなりシンプルです

Volumioはシンプルなフリーソフトなので、現時点でミュージックプレイヤーとしての機能はまだまだ未熟です。選曲画面はかなり原始的で、ソートやカラムブラウザも無いので、たくさんの音楽を持っているとかなり使いづらいです。

アーティストやアルバム名など、全てアルファベット順のみなので、絞り込みやソートはできません。ようするに、ポータブルDAPと同じレベルの操作性です。

アルバムジャケット埋め込みは未対応で残念です

さらに、アルバムジャケット画像も、メタデータ埋め込みタイプは表示してくれず、ネット取得もしくは古典的な「アルバムフォルダ内にあるJPGファイル」のみ対応しているようです。

こういったインターフェース部分に独自の機能や味付けを追加することで付加価値を高めるのが、ROONなど高級オーディオメーカー製サーバーのメリットだと思います。今回はあくまで無料のテストとして遊んでみるには十分です。

音楽ファイルブラウザの限界

Volumioで外部のNASにある音楽フォルダーをスキャンして、ミュージックプレイヤーとして使う場合の性能限界をテストしてみました。

色々テストしてみたところ、30,000曲程度までならサクサク快適に動きますが、それを超えるとだんだんとUIの挙動が遅くなってきます。

初回スキャンも20分程度で済み、新曲追加時などの再スキャンは3分以下で済みました。十分実用範囲です。パソコン上でタグを変更しても、再スキャン後にはしっかり変更が反映されてました。

30,000曲を超えたくらいから、挙動が明らかに遅くなりました

ここまで多いとフリーズしました

私のメインNASから120,000曲(7.8TB)をスキャンしてみたところ、約1時間55分で完了しましたが、インターフェースが頻繁にフリーズするようになり、使い物になりませんでした。

これはVolumioに限らず、SoTMやAurenderなど高価なネットワークオーディオ機器でも同じような問題を体験しているので、小型PCの性能限界でしょうか、もしくはデータベース処理の効率が悪いのかもしれません。もしどなたか100,000曲以上でも快適に使えるオーディオNASを知っていたらぜひ教えて下さい。

ちなみにWindowsのJRiver Media CenterやiTunesなどは同じ量の音楽データでもサクサク快適に使えているので、やはりパソコンはまだ当分手放せないようです。JRiverだと、NASの120,000曲は初回スキャンに約一時間、新曲追加後の再スキャンは2分程度で終わりますので、ネットワーク速度やNAS側の問題ではありません。

やはりオーディオNASというのは、ポータブルDAPのように、近々聴きたいアルバムだけを一時的にコピーして入れておくのがベストなのかもしれません。

おわりに

今回は一例としてRaspberry PiとVolumioの組み合わせを紹介しましたが、非常に安上がりで手軽なので、ネットワークオーディオの導入を検討しているなら試してみる価値はあると思います。

とくに、家庭のネットワーク環境によるトラブルや、NAS・USB DACの互換性などについて、高級機に手を出す前に、事前のチェックとしても有意義です。

今回はあえて音質に関しては言及しませんでしたが、このようなデジタル機器の場合は様々な要因が絡んでくるので、単純に「ネットワーク化したら音が良くなった」と断言できるようなものではありません。

ただし、音質面において、LANケーブルにすることで上流機器から確実に絶縁できるので、パソコン、USBケーブル、電源周りのトラブルなどで悩まされている人なら十分メリットがあると思います。

個人的に今回のRaspberry Piによるテストでは、少なくともUSBと遜色無いサウンドが得られましたし、音質面では長いUSBケーブルを使うよりはマシだったので、このまま使い続けても不満はありません。逆に言うと、USBと比べて飛躍的に良くなったわけではないので、あまりモチベーションは湧きません。

とりあえずの機能面ではRaspberry Piでも十分ですが、以前DELAやAurenderなどを借りた時は、たしかにパソコンからよりも音が良く感じたので、音質面では上を目指す価値は十分あると思えます。

たとえば、もし今回使ったようなシステムを真剣にオーディオ向けに改良するとしたら、まずは低ノイズの安定化電源、電磁シールドされたケース、制振のための強固なシャーシ、など色々足していくと、5,6万円くらいになってしまいます。

さらに、もっと深く考えれば、USB回路は別電源、ARM SoCは高性能・低電力消費、潤沢なメモリーバッファー、電流スパイクを低減させるためにデータのフロー制御、プロセッサーの並列化処理など、考えれば尽きません。そういった性能面ではRaspberry Piでは不満が出るので、もっと高価な組み込み用サーバーPCをベースに選びたいですし、将来的にはDLNAではなくDirettaみたいなオーディオに特化した通信方式も検討したいです。

オーディオNASとしても、ユーザーインターフェース面はVolumioでは不十分なので、自分なりに使いやすさや拡張性を求めるとすれば、そういうのが得意なプログラマーを二人ほどアルバイトで雇って、完成後は四半期ごとにパッチやアップデートをやってもらって、なんて考えていくと、結局10万円でも足りません。

こだわればこだわるほど、やっぱり定評のあるオーディオメーカー製のやつを買った方がいいや、という結論に至ってしまいますので、世の中にはなかなか美味い話というのは無いものです。