2023年8月8日火曜日

Hiby R6III & R6PRO II DAPの試聴レビュー

新作DAPが続々登場しているので、いくつか個人的に興味があるものを試聴してみました。まずはHiby R6 III & R6PRO II、続いてAK SE300とFiio M15Sについて感想を書いておきます。

Hiby R6 III & R6PRO II

個人的にHiby RS6というモデルを長らくメインのDAPとして使ってきたので、そろそろ買い替える頃合いなのか検討してみたいと思います。

2023年のDAP

ヘッドホンやイヤホンと比べて、DAPのレビューというのはなかなか難しいです。ここ数ヶ月で、Hiby R6 III & R6PRO II、AK SE300、Fiio M15Sといった新作DAPを試聴してみたのですが、どれも単体であれこれ書くほどの内容が思い浮かびませんし、似たような文章を繰り返す事になってしまいます。

よっぽど不具合があるとか音質のクセが強いモデルなら、それなりに書く事も見つかるのですが、自分が気に入らなかった製品をあえてブログで取り上げるのも気が引けます。

近頃のDAPはインターフェースにAndroid OSを採用するのが定着しており、メーカーごとの再生アプリよりも各自サブスクリプションストリーミングを使っている人が増えてきて、それらアプリの出来栄えに依存する部分が大きいです。

シャーシデザインは機能性というよりはデザインの好き嫌いが分かれますし、D/A変換やヘッドホンアンプもバッテリー駆動の限界がある以上、出力面では結局のところコンセント電源の据え置きシステムとの格差は拭えません。回路次第で瞬間的な最大電圧は引き上げられたとしても、バッテリーの持続時間も考慮すると、省電力重視の設計にならざるを得ません。

そんなわけで、どのメーカーもアプリ対応のための大画面とSoCの高速化といった、いわばスマホの進化と同じ実用性のメリットを重視しており、肝心のオーディオ性能に関しては伸び悩んでいるというか、旧型や他社との差別化に苦労している様子が伺えます。

そんな中で、2021年頃に旭化成マイクロエレクトロニクス(AKM)を中心に半導体IC部品の供給難が発生したことで、多くのメーカーが既存の設計方針を考え直す機会が生まれたのは、不幸中の幸いというか、DAP界隈に新たな風を送り込んでくれました。

とりわけD/A変換回路において、従来の旭化成 対 ESSという二社の独占状態から、シーラスロジックやロームといったチップメーカーも新たな選択肢として採用されるようになったり、汎用FPGAとディスクリート回路を用いた独自のD/A変換回路も模索され、HibyのDARWIN R2R回路やCayinの1bit DSD回路などが登場、保守的なAstell & Kernも新作SE300にてディスクリートR2R回路を導入しています。

これらディスクリートD/A変換回路というのは、D/Aチップと比べて必ずしも優れているというわけではありませんが、それでも独特のサウンド解釈を生み出せるため、他社との差別化という点では大きなメリットとなっています。

そうは言っても、やはりディスクリートD/A変換はコストパフォーマンスが悪いですし、半導体供給も安定してきて、新世代のD/Aチップもちらほら登場しているわけで、やはり2023年最先端の性能とサウンドを体験するには、ディスクリートよりもD/Aチップ搭載機の鳴り方も気になってしまうわけです。そんな中で登場したのが今回のHiby R6 IIIとR6PRO IIです。

Hiby R6 III & R6PRO II

中国のDAPメーカーHibyは個人的にずいぶん愛着があります。2019年に初代R6PRO、2021年にRS6と、普段使いのDAPとして選んできたので、買い替えのタイミングとしても、2023年新作というのは結構気になっています。

RS6、R6 III、R6PRO II

ネーミングに関しては、かなりわかりにくいので、どうにかしてもらいたいです。

現在のラインナップを見ると、グレード順にR2、R5、R6、R8というモデルがあり、その中のR6が今作で第三世代という事でR6 III(R6 Gen 3)と呼ばれているわけですが、それとは別に、R6とR8の間にR6PROというモデルがあり、そちらは今作で第二世代になるので、R6PRO II(R6PRO Gen 2)になります。

以前のモデルでは、R6とR6PROでシャーシデザインを共有していて、内部のオーディオ回路にのみ差があったので、PROという命名も理解できたのですが、今回はR6 IIIが5インチ(1280x720)、R6PRO IIは5.9インチ(2160x1080)と、画面サイズやデザインまで全然違うため、関連性が見えません。

これならPROというのはやめて、R7とかに名前を変えた方がわかりやすいと思います。

しかもR6 IIIの方はRS6と全く同じシャーシ形状を使っているため、さらに分かりづらくなっています。

RSというのはHiby独自のディスクリートR2R DACを搭載しているシリーズで、現在RS2、RS6、RS8の三機種があります。RS6は銅、R6 IIIはアルミという違いはあるものの、デザインが全く同じで、ケースなど付属品にも互換性があるため、一見して違いがわかりにくいですし、モデルごとの上下関係もややこしいです。

そんなわけで、今回試聴してみたR6 IIIとR6PRO IIは同世代で、しかもRS6も現行モデルという点を理解してもらえると幸いです。

発売価格は、R6 IIIが約76,000円、R6PRO IIが12万円、RS6は20万円くらいですので、似たようなデザインでも結構な価格差があります。最上位のRS8ともなると55万円だそうです。

ちなみにシャーシデザインに関しては、R6 IIIはブラック、ガンメタル、ネイビーの三色、R6PRO IIIはテーマカラーとして派手なパープルが印象的ですが、ブラックも選べます。

画面サイズが5インチと5.9インチというのは、iPhoneのSEと標準サイズを想像してもらえるとわかりやすいと思います。アプリの視認性や操作性を優先するなら5.9インチの高解像大画面が良いですし、片手操作やポケットに入れるのを重視するなら5インチの方が有利です。

画面サイズの差は結構気になります

どちらもアルミなので、重量は285g・250gとそこまで大差ありませんし、SoCはSnapdragon 665でAndroid 12なので、アプリの互換性なども変わりません。

デザイン以外で根本的に異なるポイントとして、D/A変換チップに、R6 IIIはESS ES9038Q2M、R6PRO IIは旭化成AK4191EQ + AK4499EXを採用しています。とくにAK4499EXはAK SP3000にも採用された最新チップなので、気になっている人も多いだろうと思います。

ヘッドホンアンプ回路には、どちらもOPA1652オペアンプからバイポーラトランジスタという基本構成は同じです。ただしR6PRO IIはAK4499EXを採用しているため、これは電流出力DACなので別途I/V変換回路が必要となり、その分コストがかかっています。R6 IIIのES9038Q2Mは電圧出力を内蔵しているのでI/V変換回路は不要です。

D/Aチップ単体のコストはそこまで違わなくても、このような周辺回路の要求の差によって製品全体のコストが変わってきますし、それ以外でも、R6PRO IIの方が高価な分だけ、電源回路など細部にわたって回路の作り込みや上級部品を採用している可能性もあります。つまりD/Aチップの型番だけを見てどちらが高音質か語るのは短絡的です。

R6 IIIのクリアケースとR6PRO IIのレザーケース

レザーケース

デザインは良いのですが

その他に価格相応の違いとして、R6 IIIは透明プラスチックケース、R6PRO IIは本体と色を合わせたレザーケースが付属しています。このレザーケースはスエードでかなり高品質なのが嬉しいです。最近はAK DAPとかレザーケースが別売なモデルが増えてきてるので、購入の際には考慮する必要があります。

レザーケースの注意点として、私が借りた試聴機はケースがかなりキツく作ってあり、装着すると側面ボタンが勝手に押しこまれてしまうトラブルが発生しました。使っているうちにケースが広がってきてボタンの誤動作も減ったのですが、第一印象としてはあまり良くありません。

RS6とR6 III

さすがにRS6の方がカーボンで高級そうです

クリアケース

R6IIIにはRS6用のレザーケースが使えます

シャーシデザインについて、まずR6 IIIの方はRS6と全く同じなので、私としてはずいぶん見慣れた形状です。レザーケースも互換性があるので、クリアケースは安っぽくて嫌ならそちらを別途購入できます(RSのロゴがついてますが)。

王道なDAPデザインです

ボリュームエンコーダー

マイクロSDカードスロット

R6 IIIは極めて王道なDAPデザインといった感じで、これといって珍しい事も無い、ごく一般的な形状です。R6PRO IIと比べてエッジがそこまで鋭角ではないので、手触りもそこそこ良いです。

ボリューム調整には上面のエンコーダーを使っており、シャーシがエンコーダーノブを保護するようなデザインになっていますが、カリカリと軽く回転できるタイプなので、とても使いやすいです。他には電源ボタンとトランスポートボタンのみで片面に集中しているので、単純明快でよくできたデザインだと思います。

出力端子

どちらも底面に3.5mmと4.4mmの出力端子がヘッドホン用とライン出力用でそれぞれ用意されているのはありがたいです。

間違えてヘッドホンをライン出力端子に接続すると、一応画面上に警告が出ますが、それでもやはり心配なので、私は普段使わないライン出力の方にはシリコンゴムのプラグを買って挿しています。

R6 IIIとR6PRO II

画面サイズの差です

発色は結構違います

左右に並べると同じようなサイズに見えますが、重ねてみるとたしかにR6PRO IIの方が画面サイズの分だけ大きいです。ただし厚さはほとんど同じなので、使いづらいわけではありません。

それと、並べて比べてみないとわからない事ですが、画面の色合いやコントラストはR6PRO IIの方が明らかに良いです。価格差はこういうところにも現れるのでしょう。

Hiby R6PRO II

前衛的なデザイン

R6PRO IIの方は完全新設計で、R6 IIIとは一味違った鋭角なデザインです。シンプルな前面と比べて、背面から見るとS字にひねったような側面の面取りや、ヒートシンク的な縦溝が印象的です。

実物を触ってみると、この縦溝の部分は別部品の薄いフタになっており、叩くとパコパコ音がしてちょっと安っぽく感じるのは残念です。軽量化と考えれば良いのでしょうけれど、オーディオの観点からは振動対策したくなります。

カードスロットとトランスポートボタン

ボリュームボタンを押し間違いやすいです

R6 IIIがボリュームノブなのに対して、R6PRO IIはボリュームがボタン操作なのが意外でした。ノブの方が直感的ですが、ボタンならカチカチと細かく上下調整が可能なので、どちらが良いかは好みが分かれると思います。

ただし、実際に使ってみると電源ボタンとボリュームボタンの間隔が狭く、どちらも同じような形状なので、指で同時に押してしまうことが多々あったので、慣れるまでは面倒です。

R6PRO & R6PRO II

自前の初代R6PROと並べて比べてみました。ここ数年のDAPにおける画面サイズの肥大化が一目瞭然です。

残念ながら故障してまともに使えなくなってしまったR6PROですが、あらためて手にしてみると、ここまで小さかったのかと驚かされます。そういえばこちらもボリュームはエンコーダーではなくボタンだったので、PROはボタン式という社内ルールでもあるのでしょうか。

インターフェース

どちらもAndroid 12でGoogle Play対応なので、スマホと同じような感覚で使えます。

音楽ファイルを再生する場合は純正のHiby Musicアプリがインストールされているので、それを使うのが最善ですが、オーディオ関連の詳細設定はAndroidの設定画面で行えるので、ストリーミングアプリなどでもしっかり反映されます。

Androidのオーディオ設定画面

クラスA・AB

R6 IIIとR6PRO IIのどちらもアンプの設定でクラスAとクラスABの二種類から選べるようになっています。公式スペックによるとクラスAの方が電力消費が大きいためクラスABと比べてバッテリー再生時間が二時間ほど短くなるようです。

デジタルフィルター設定

デジタルフィルターはD/Aチップに依存するので、R6 IIIはESS、R6PRO IIはAKMで、それぞれ異なるタイプが選べます。

Hiby Musicアプリ

Hiby Musicアプリは悪くありませんし、たとえばUSB OTGトランスポートとして使う場合の詳細設定などもアプリ内で充実しているので、私は普段これを使っています。

Hibyはソフト開発のOEMから始まり、今でも多くの中華系DAPメーカーのアプリを提供しているメーカーなので、純正アプリの機能はかなり充実しています。

MSEB

プラグイン

アプリのユニークな点として、まずMSEBというイコライザー機能が有名です。周波数の数値ではなく、Bass TextureやFemale Overtonesなどのキーワードで調整できるので、直感的でわかりやすいです。

さらにプラグインというのもあり、荒削りですが空間エフェクトなど面白い機能があります。

今回使ったアプリのバージョン

アプリ内でもQobuzが使えるようになったそうです

アルバムアートがなぜか表示されないのは致命的です

ところで、つい最近のアップデート(v2.0.7)をして以来、私のRS6を含めて、どのDAPもファイル埋め込みアルバムアートが正常に表示されなくなってしまいました。一応バグ報告はしましたが、私としては結構致命的なので、はやく修正してもらいたいです。

カテゴリーで「アルバム」を選べば表示されるのに「ジャンル→アルバム」だと表示されないとか、キャッシュをクリアしたりカードを再スキャンすると一部が表示されたり、されなかったりなど、法則が見いだせません。

とくにクラシックだと全部似たようなタイトルで、ジャケットを目当てに観覧する事が多いので、こういった初歩的なバグは早く直してもらいたいものです。もちろん同じカードをAKやFiioなど他社のDAPに挿入すれば問題なくアルバムアートが表示されますし、Hiby DAPでもNeutronなど別アプリでもちゃんと表示されるので、Hiby Musicアプリのみのバグです。

追記:これを書いた後にv2.0.8アップデートが出たのでインストールしてみたのですが、やはりアルバムアートが正しく表示されません。

Android設定からアプリを初期設定(v2.0.6)にダウングレードするとアルバムアートは全部完璧に表示されるので、今後どうにか修正してもらいたいです。

出力とか

いつもどおり、0dBFSの1kHzサイン波ファイルを再生しながらヘッドホン出力に負荷を与えていって、歪みはじめる(THD >1%)最大出力電圧(Vpp)を測ってみました。

まず出力ゲインをHighに設定して、これまでのHiby DAPと比較してみたグラフです。実線がバランス、破線はシングルエンドです。

比べてみると、R6 IIIとR6PRO IIのアンプ特性はピッタリ同じで、しかも従来のモデルと比べると最大電圧がずいぶん低いです。出力でいうと100mWくらい下がった感じです。

次世代機なのに出力電圧が下がっている製品はかなり珍しいですが、これについては公式サイトでもしっかりと公言しており、音質最優先で設計した結果だそうで、理解した上での判断のようです。電圧ゲインがもっと高いアンプを設計するのは難しくないのですが、昨今のDAPのトレンドを見ると、高出力を主張するばかりで音質についての話が蔑ろになっている印象もあったので、こうやってちょうどいい妥協点を見出すのは良い傾向かもしれません。

もちろん高インピーダンスの大型ヘッドホンを鳴らす場合には不利になります。私の場合、普段の用途でゲイン設定をHIGHで使うこと自体がほとんど無いため、大した問題にはなりません。

上のグラフはR6PRO IIのみで、出力ゲイン設定による違いを測ってみました。R6 IIIもほぼ同じ結果になります。

グラフの青い実線はバランス、破線はシングルエンド出力で、それぞれHigh/Med/Lowの三段階、緑はライン出力です。ちなみにライン出力端子ではゲインは選べません。グラフでは見切れていますが、無負荷時ライン出力はバランスで3.6Vrms、シングルエンドで1.9Vrms程度なので、一般的なラインDACとして使うにはちょうど良いです。

ちなみにクラスAとABモードはプリ回路のバイアスの違いだけなのか、最終的なヘッドホン出力に変化は見られなかったので、純粋に音質の好みで選ぶべきです。

参考までに、いくつか他のDAPと最大出力電圧を比べてみました。どれもバランス出力にて最高ゲイン設定での数字です。Fiio M15Sのみ、USBケーブルで給電するとパワーアップする方式なのですが、他のメーカーとの比較のためにもバッテリー駆動時のデータです。

それにしても、どれも現行世代のDAPなのに、各メーカーでヘッドホンアンプ設計に対する考え方が大きく異なるのがわかります。最高出力ならFiio M15Sが圧倒的ですが、AK SE300は低インピーダンスのイヤホンなどではパワー不足が懸念されるものの、高インピーダンスでは十分高い電圧が引き出せるので、ヘッドホンなども視野に入れた設計かもしれません。ソニーは相変わらずわが道を行く感じですね。

さらに最近のUSBドングルDACはDAPと比べてどの程度健闘しているのか確認するためにiBasso DC04PROも比べてみました。DAPと違ってバッテリー非搭載で、スマホのUSBバスパワー給電に依存するので、やはりそこそこ弱いですが、20Ω以下くらいならAK SE300とほとんど変わりません。

これら他社DAP勢と比較すると、Hibyはかなり無難な設計だという事がわかります。特に10~30Ωくらいのイヤホンを多用する人にとっては、これくらいがちょうど良いのではないでしょうか。

同じ1kHzテスト信号で、無負荷時にボリュームを1Vppに合わせてから負荷を与えていって電圧の落ち込みを測ったグラフです。

こちらもHibyと他社DAPとの比較という二種類のグラフで確認してみたところ、近ごろのDAPやドングルDACはどれも出力インピーダンスが1Ω前後と非常に低いため、優劣の差がほとんどありません。わずかに確認できる上下の差も、グラフ右側を見ればわかるように、デジタルボリュームなので1Vピッタリに合わせられないという理由が大きいです。

Hiby勢ではR6 PRO IIのバランス出力、他社との比較ではFiio M15Sがそれぞれ落ち込みが一番大きいですが、それでも出力インピーダンスは2Ω程度なので実用上たいした問題にはなりません。

音質

今回の試聴では、普段RS6で聴き慣れているUE Liveや64Audio Nioイヤホンなどを中心に聴いてみました。Hiby Musicアプリを使ってSDカード内のファイルを再生しています。

UE Live

まず、気になっている人も多いだろうと思う音量の差について、RS6と比べて測定上ではパワーダウンしているわけですが、実用上そこまで気になるほどではありません。

グラフでは大きな差のように見えても、聴感上の音量差に対する電圧差は指数的に上がるので、同じ楽曲を交互に聴き比べる際にも、画面上のボリューム数値は1、2ステップ変える程度です。私の場合ゲイン設定はLowかMedで使う事が多いので、音量が足りなくて困るという事はありませんでした。もちろん音質面で何らかの影響はあるかもしれません。

2023年にもなって意外にもミンガスのAtlantic後期アルバム集がボックスで登場したので、それを聴いてみました。

ボックスのタイトルにもあるChanges I & IIや、Me Myself an Eye、Cumbiaなど70年代の七枚セットです。現在Atlanticの版権元はワーナーで、復刻担当のRhinoサブレーベルから出ており、Air Studioによる96kHz最新リマスターだそうで、パワフルで迫力のあるサウンドはミンガスを楽しむのにぴったりです。アルバムごとに作風がかなり違うので好き嫌いは分かれると思いますが、逆に言うとどれも同じような曲ばかりでないのは嬉しいです。(個人的にはChanges Iがおすすめです)。


三つのDAPの音質について、結論から言ってしまうと、実はそこまで大きな差は感じられません。ブラインドで聴き分けられるくらいの違いはもちろんありますが、どれも「Hibyっぽい音」という印象の方が強く、特に今回聴き比べたAKやFiio DAPとは明確な差があります。

ようするに、どのDACチップを搭載しているかなどはそこまで重要ではなく、むしろヘッドホンアンプ回路や電源回路など、Hiby DAP全体で設計思想が共通している部分がサウンドを決定づけているのだと思います。

アンプ回路にもモデルごとの違いはあるとは思いますが、同じチームが設計しているなら基本的なレイアウトなどに共通する部分も多いでしょうから、モデルのグレードや世代を超えたメーカーの独自色としてサウンドに現れるのだと思います。

それでも三つのDAPの音質差について、細かい点ですが聴き比べてみたいと思います。

一通り聴いてみたところ、個人的に一番好みのサウンドは、私が現在持っているRS6という結論に至りました。ひとまず買い替えを急ぐ必要もないとわかっただけでも一安心です。実際のところRS6も現行モデルなので陳腐化したわけではありませんし、現在DAPの購入を検討している人にとっても、音質面ではかなり有力な候補だと思います。

また、クラスAとABモードに関しては、そこまで違いがわかりません。まあ違うかな、と思える時もあれば、何度も切り替えてもイマイチよくわからないという事も多いです。なんとなくクラスABの方がスッキリしていて個人的には好みです。クラスAだと最初は厚みがあるようで良いのですが、長く聴いていると音と音の間の無音がなく詰まっているような感じがして、クラスABに戻してしまいます。私なら、普段クラスAをバッテリー消費が増してまであえて選ばないと思います。

この中で一番ベーシックなR6 IIIは、サウンドにおいても一番標準的で無難な選択肢だと思えたので、そのあたりはしっかり考えられているようです。低価格なモデルというとノイズが多くてアグレッシブ、もしくは厚みで押し切るようなスタイルのDAPが多い中で、R6 IIIはむしろ逆に、かなり高解像で緻密なサウンドを目指している印象です。なんとなくRMEやMytekなどを連想するようなドライで淡々とした鳴り方なので、悪く言えば面白みが無いのですが、クセが少ないので末永く安心して使えるDAPだと思います。

ドライなサウンドというと、平坦でダイナミクスに乏しい、いわばスマホの付属ドングルみたいな眠たい鳴り方を想像するかもしれませんが、R6 IIIはアンプのパワーも十分あるので、イヤホンのドライバーをしっかり駆動して、音を押し出す力みたいなものが実感でき、充実した音楽体験が得られます。特に高音の伸びや低音のコントロールが上手にできているので、たぶん回路に変なオーディオグレード部品や高級線材などの小細工を入れたりせず、素直な設計なのでしょう。

派手にギラギラした鳴り方でもないので、試聴に使った70年代のリマスター楽曲でも、高音ノイズが耳障りに飛び出したり、低音の歪みが気になったりということがありません。RMEなどと似ているというのは、たとえばリマスターを行ったスタジオエンジニアが判断したベストな塩梅が素直に伝わってくるという感覚です。

R6 IIIはヘッドホンアンプ出力の優秀さ以外にも、独立したライン出力専用端子や、USB OTGトランスポートとしてなど、多目的に使える汎用性の高いDAPとして10万円を切る価格でよくできた製品だと思います。

AccentusレーベルからHrusa指揮Bamberger Symphonikerの「Liebestod」を聴いてみました。

「愛の死」をテーマにした企画盤で、トリスタン序曲と愛の死、マーラー葬礼(2番1楽章初稿)と5番2楽章、そして最後に死と変容という、濃い内容の一枚です。まさに最近のフルシャとバンベルクが得意とするジャンルで、音質も実に聴きごたえがあります。


DAPというのは、ここからさらに高価になっていくにつれ、モデルごとの音色の個性が際立ってくるので、必ずしも価格相応の音質向上を期待すべきではないと思います。

それを踏まえた上でRS6とR6PRO IIを比べてみると、これら二機種はR6 IIIを基準点として別々の方向へと二手に分かれたような印象です。そう考えると、モデルシリーズのネーミングについてもなんとなく理解できます。R6 IIIの無難さに対して、RS6とR6PRO IIはそれぞれ鳴り方にもう少し魅力が増して、個性によって音源をさらに引き立てるような効果を発揮してくれます。

まずRS6の方は、長らく使ってきたので愛着がある鳴り方で、そろそろ新鮮味を求めたい頃合いだと思ったところ、今回色々と聴き比べてみると、やっぱり自分好みの良い音だと再確認できました。

R2R DACと言われて想像するような鳴り方が当てはまり、低域から高域まで全体的に音が太く、声や楽器といった音色そのものに力強さや実体感がある印象です。特に先ほどのジャズなどには最適で、中低域の土台がしっかりしているおかげでベースの演奏も芯が通っていて、フワフワと漂わず、乱雑な楽曲でも聴くべきポイントにフォーカスしてくれます。帯域の広さや精密な解像感では一歩劣りますし、情報の単純化みたいな側面もあるので好き嫌いは分かれると思いますが、まるで古いハイエンドCDプレーヤーを彷彿とさせるようなどっしりした安定感が好印象です。

一方R6PRO IIの方は、低音と高音の両方向に空間が広がっていく印象です。RS6と比べると低音楽器がかなり弱いように感じるのですが、もっと集中して聴いてみると、実際の低音の量にそこまで違いはなく、RS6でひとかたまりになっていたものが、R6PRO IIでは前方遠くへと距離感を持って、広い空間に分散している感じです。クラシックのオーケストラ、特に試聴に使った重厚な後期ロマン派作品のような作風において、アンサンブルの広がりや臨場感はR6PRO IIの方が良いです。

高音側も同じようにR6 PRO IIの方が空気感の広がりを意識させる鳴り方です。コンサートホールの音響を最新のハイレゾ音源で楽しむための性能としては申し分なく、キンキンと響かせず、自然な情景が味わえます。

R6PRO IIはAK SP3000と同じD/Aチップを搭載しているということで、鳴り方も近いものがあるのかという期待があるかもしれませんが、残念ながら全く同じというわけではありません。R6PRO IIは広がりがある反面、楽器の線が細いため、たとえば手前の楽器の音色と、奥の臨場感といった対比はそこまで感じられません。そのあたりSP3000の方が音色の色彩を描きながら、背景の広い空間を意識させてくれるあたり、一枚上手だと思います。

私自身、RS6を買う前は初代R6PROを使っていたので、その後継機としてのR6PRO IIに興味があったのですが、初代と比べても繊細すぎる感じもあり、自宅でじっくり楽しむなら良いのですが、屋外の騒音下で力強く鳴らすのには向いていないと思いました。

初代R6PROはもうちょっと肉厚で音色の色艶がクッキリ出る感じだったので、そのへんはむしろRS6の方が近いのかもしれません。

あえて考察するなら、初代R6PROのシャーシはステンレスで、R6PRO IIではアルミに変わったのも何らかの影響があるかもしれません。

納得のいく説明はできませんが、個人的に昔からステンレスシャーシのDAPに魅力を感じています。プラセボ効果の可能性もありますが、これまで購入してきたAK240SS、AK SP1000、Hiby R6PROと、どれもステンレスでした。RS6のみ例外的に銅です。

それぞれステンレス以外のバージョンと並べて比較試聴すると、ステンレス版の方がなんとなく音が良いような気がして選んだわけですが、初代R6PROも発売時はステンレスのみで、後日アルミ版が登場したところ、試聴してみたらやはり音が違うように感じました。全体的に、ステンレスの方がなんとなく音色に安定感や鮮やかさが生まれるようです。

今回のR6PRO IIはアルミのみの販売ですが、もし後日ステンレス版なんかが出たら、個人的にかなり気になる存在になりそうです。

そんなわけで、R6 III・R6PRO II・RS6という三モデルの話に戻すと、まずベーシックなR6 IIIの面白みの無さというのは、結局なんなのかと改めて考えてみると、RS6とR6PRO IIと比べると、音楽の描き方が平面的なのだと思えました。どちらが原音忠実かという話は別として、RS6は楽器そのものが太く立体感があり、R6PRO IIは高音と低音に空間の距離感や奥行きが感じられ、それぞれ異なる表現方法でありながら、音楽に立体感を生み出すという点でR6 IIIよりも一枚上手であり、上級モデルであることに納得がいきます。

そして肝心の音色の部分は、アンプ設計に共通点が多いためか、Hibyらしいサウンドとしての一貫性があり、三機種のどれもHiby DAPとしての独自色を保っているあたりが面白いです。つまり三者三様で全く異なるサウンドというわけではなく、メーカーのアイデンティティみたいなものが確立できているあたり、優れたオーディオブランドに求められる要素だと思います。

また、三機種ともR6シリーズというのも、なんとなく納得がいきます。私の勝手な感想になりますが、たとえばR6 IIIのユーザーが買い替えを検討するなら、RS6やR6PRO IIでは劇的なアップグレードとまではいきません。私自身RS6からR6PRO IIに買い替えるのを躊躇したのも同じ理由です。もし逆にR6PRO IIを買っていたら、RS6に買い替えずそのままで満足していたでしょう。そういった意味で、同じR6シリーズという枠組みに収まる三機種だと思いますし、同じHibyなら、ここからだとR8やRS8といった上位モデルとの差別化も十分にできています。私では、さすがにR8・RS8のサイズではアップグレードする気が起きず、今のところRS6で満足できています。

おわりに

今回はHibyの新作R6 III・R6PRO IIを聴いてみたのですが、どちらもHibyらしい王道なDAP設計でした。デザインも他の中華系メーカーと比べてクセも強くなく、どれもおすすめできます。

唯一の不満点として、Hibyだけに限った話ではありませんが、Hiby Musicアプリの今後の開発について、機能追加よりもむしろバグ修正や最適化を重視して、もうちょっと頻繁に行ってもらいたいです。

ここからさらにAK SE300とFiio M15Sも聴いてみたので、記憶が新しいうちに、つづけてそれらの感想も簡単にまとめてみようと思います。