Volk Audioという新しいメーカーのイヤホンEtoileを聴いてみたので感想を書いておきます。
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| Volk Audio Etoile |
2025年11月発売の最新作で、いかにも高そうな見た目からも予想できるように、約60万円という非常に高価なモデルです。最先端のハイエンド機にふさわしい10ドライバーハイブリッド型だそうなので、どのようなサウンドか気になります。
Volk Audio
私自身Volk Audioというメーカーはこれまで聞いたことがなかったのですが、それもそのはず、今作Etoileがデビュー作になるそうです。
初回でここまで高価なイヤホンを出すなんて、よほど自信があるのだなと思ったら、設立したのはEmpire Ears創業一家の一人だそうで、本拠地も同じアメリカのジョージア州アトランタに置いています。
IEMイヤホンメーカーでこういった暖簾分けみたいな話はよくありますが、今後Empire Earsとの関係性や差別化はどうやっていくのか気になるところです。少なくとも外観のデザインはEmpire Earsとだいぶ異なります。
それにしても、アメリカのメーカーで、社名のVolkはドイツ語、イヤホンEtoile(Étoile)はフランス語でこんがらがります。
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| Volk Audio Etoile |
今作EtoileはレコーディングエンジニアMichael Gravesとのコラボレーションだそうです。このコラボのために設立したブランドなのか、それともこれからフルラインナップに展開していくのか、どうなるのでしょう。
普段こういった著名人コラボは個人的によく知らない人でそこまで刺さらないのですが、このMichael GravesのDiscogs履歴を見るとOmnivore RecordsやCraft Recordingsのリマスターを手掛けている人なので信頼が持てそうです。少なくとも音圧ギラギラのEDMプロデューサーとかではないので安心しました。
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| メーカーとモデル名がはっきり書いてあるのが良いです |
ここ数年のイヤホン市場において、ハイエンド機の大半がハイブリッドマルチドライバー構成に移行しています。まずマルチBA型の設計思想が基礎にあり、そこにBAが不得意とする低音側のダイナミックドライバーを追加したのがハイブリッド型の始まりだと思いますが、最近ではさらに高音域の解像力やプレゼンスを補うために静電型(EST)ドライバーも追加するモデルが増えてきました。
今作Etoileでは、1DD + 4BA + 4ESTの上に静磁ツイーター(MST)というユニットを追加して、合計10ドライバー構成に仕上げてあります。ただドライバーを束ねただけでなく、6WAYクロスオーバーでしっかり役割分担を行っています。
公式解説によると、この静磁型MSTというのは二つの永久磁石の間に薄型ダイヤフラムをと書いてあるので、平面駆動型みたいなものでしょうか。音質面で静電型ESTとどう使い分けているのか気になります。
ほんの数年前まで、こういったハイブリッド型というと、ドライバー間の摺合せの悪さや質感の違いが目立つキワモノ扱いでしたが、最近になってそのあたりがだいぶ克服されてきたようで、各社スムーズな繋がりを実現できています。このあたりは中国市場の拡大が貢献していると思いますが、それにしても急速な進化を遂げているので、ついていくだけでも大変です。
デザイン
EtoileはVolk Audioのデビュー作ということで、パッケージもかなり気合が入っているので紹介しないわけにはいけません。ちなみに今回借りたのはFounder's Editionという初回350台限定モデルだそうです。
Volk AudioはEmpire Earsと繋がりがあると先程言いましたが、そのEmpire Earsも新作イヤホンの初期ロットはLaunch Editionという高級ケーブル付属のパッケージで出して、それから通常版に移るという体制になっています。Volk AudioのFounder's Editionも似たような試みでしょうか。
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| 外袋 |
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| パッケージ |
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| 内箱 |
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| 本体と下段の引き出し |
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| 下段の中身 |
アリエクで調達したようなジェネリックな袋ではなく、しっかりメーカーエンブレムがエンボスされており、リボンもブランド名が入っているこだわりです。
Volk Audio × Michael Gravesと大きく書いてあるスリップケースの内箱は上面にイヤホン本体が入っており、下の引き出しに収納ケースやアクセサリー類があります。引き出しの側面というさりげない位置に手書きの感謝メッセージがあるのも嬉しい演出です。
いかにも高級そうなケーブルと収納ケースが付属しています。ちなみにケーブルは一般的な2ピンで4.4mmバランスタイプのみです。ロゴのピンバッジとシリコンイヤピースの他にはSymbio Fという低反発スポンジも試供品みたいな形で付属しています。
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| 付属ケース |
収納ケースは間接照明のラウンジのテーブルに置いておくならカッコいいと思いますが、ポータブルで活用するにはちょっと小さくて不便な感じなので、自前のペリカンケースなどを調達した方が良さそうです。
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| 明らかに高級そうです |
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| 立体的なシェルハウジング |
イヤホン本体は一般的なIEMシェル形状なので、Empire Earsなどを使い慣れている人ならフィットに違和感は無いと思います。
ここ数年でユニバーサルIEMにおけるシェル形状の最適解がだいぶ収束してきたのか、この手のデザインでフィットが悪いモデルは昔と比べてだいぶ少なくなりました。カスタムIEMメーカーが膨大な数のユーザーの耳穴3Dデータを収集しているおかげでしょう。
さらにEtoileではノズル先端に突起があるのでシリコンイヤピースが滑り落ちないのが嬉しいです。意外と多くのメーカーがこの部分がただの円筒形で、イヤホンを耳から外す時にイヤピースが耳穴に残ってしまうことがよくありますが、Etoileではその心配がありません。
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| 深みのある金色です |
フェイスプレートはだいぶ印象的です。好き嫌いは分かれるとして、かなり独創的でインパクトがあることは確かです。このあいだForte Earsの時にも言いましたが(あちらもかなり奇抜なデザインです)、この手のプラスチックIEMシェルタイプのイヤホンはどれもキラキラしたラメ入りとかの似たようなデザインばかりで、ブランドの差別化が難しくなっています。
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| Empire Ears Odin IIといい勝負です |
Empire EarsのOdin IIも金ピカでしたし、やはり最高級機ともなると、その風格に怖気づかないくらいの大人物が装着するのでしょう。私にはちょっと派手すぎると言っても、そもそも私では手が届かない価格帯というわけです。
フェイスプレートの黒い部分は遠目だと通気メッシュのように見えたのですが、よく見ると凹凸のある型押しレザーみたいな質感です。装着時の手触りを考慮しての選択でしょうか。
金色の枠組みも深みのある滑らかな輝きを放っているので、高級感はあるものの、意外と落ち着いたデザインです。なんとなくベルトバックルとか腕時計の革バンドとバックルを連想します。
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| 付属ケーブル |
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| 普通の2ピンタイプです |
ケーブルは布巻きタイプなので、太いわりにそこまで硬くなく、扱いやすいです。細い編み込みビニールケーブルと比べると摩擦が少ないので絡まりにくいですし、実はこういう大きめのIEMシェルの場合、ケーブルが重い方が下に引っ張られる力がかかるのでフィットが安定しやすいです。Y分岐に重い部品を使うのも同じ理由です。
余談になりますが、最近のハイエンドIEMは4.4mmバランスケーブルのみ付属というケースがだいぶ増えてきました。当然の事として、そこまで気にしていなかったのですが、Chord Hugo/Mojoなど3.5mm出力のみのデバイスを使っている人は困るでしょう。そんなことを思っていたら、Mojo 2がようやく4.4mm対応にマイナーチェンジするというニュースを見たので、業界全体が4.4mmに統一される流れは確実なようです。
全体的に見て、フェイスプレートのデザイン以外は世間の一般的なIEMデザインなので、これ以上書く内容も思い浮かびません。むしろ逆に、こういった小規模ブティックメーカーにありがちな、社長の自画自賛が強すぎて本人にしかフィットしない金属削り出しとか奇抜な形状といった不具合が無いのが嬉しいです。
装着感については一つだけ注意点があります。耳穴に装着する時の圧力でドライバーからパリッというかペコッという音がします。これはEmpire Earsでも昔から言われてきた事なので、内部設計に共通した部分もあるのでしょう。
これまで私はそこまで意識していませんでしたし、このせいでドライバーが壊れたというような経験もありませんが、結構気にする人もいるようです。またユーザーの耳穴形状とシェル通気孔位置の関係で、左右どちらかのパリッという音が大きいという事もよくありますが、不具合ではないようです。
ただし、今回あえて注意点として挙げたのには理由があります。私がこれまで使ってきたEmpire Earsと比べても、このVolk Audio Etoileのドライバーのパリッという音は結構大きく感じますし、装着後のちょっとしたフィット調整でも音がします。最悪、音楽を聴いている間に頭を動かすとパリッという音がすることもあったので、ここまでくると音楽鑑賞を妨げることになるので、じっとせずに屋外の移動中とかに使いたい人は要確認です。イヤピースも影響するので自分に合うものを選んでください。
インピーダンス
再生周波数に対するインピーダンスの変化を確認しました。参考までに他社のイヤホンと比較してみます。
最近のハイブリッド型イヤホンらしく、帯域ごとのドライバーユニットでインピーダンスが大きく変動します。
Etoileの公式スペックは8Ωだそうです。一般的にこの手のアップダウンが激しいイヤホンでは1kHzでの測定値をスペックに掲示するのですが(この場合だと9-10Ω)Etoileの場合は10kHzまでの可聴帯域内で8Ωを下回らないので安心できます。
低域と高域の挙動はForte Ears Macbethに似ていますね。Vision Ears VE10のように中高域でインピーダンスが一気に下がるモデルもあれば、Empire Ears Ravenのように全体が2Ω付近と極端に低いモデルもあり、どちらもアンプにとっては過酷な負荷になるので、それらと比べるとEtoileは比較的扱いやすい部類になると思います。
同じグラフを電気的な位相変動で見るとこんな感じです。他社モデルと比べるとEtoileは意外と位相差が狭い範囲に収まっているのが良いです。
音質とか
今回の試聴ではAK SP3000 DAPを主に使いました。
実は前回ブログで紹介したAKの新作SP4000と同じタイミングでEtoileの試聴機が届いたので、そちらで鳴らしてみてもよかったのですが、両方とも慣れていない組み合わせでは、それぞれの特徴を掴みにくいと思ったので、聴き慣れているSP3000でEtoileを試聴してみました。
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| AK SP3000 |
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2017年頃にペッパーのアルバムを続々リマスター復刻したシリーズでしたが、どれも旧盤と比べて断然音が良くなっており、私ももちろん全部買いましたし、当時このブログで絶賛した覚えがあります。演奏の内容では1956年Tampaのモノラル盤「The Art Pepper Quartet」が強烈ですし、有名な1979年Artists Houseセッション「Promises Kept」も極上ですが、個人的には最晩年1980年「West Coast Sessions!」シリーズ、中でもVol.2 Pete Jollyが好きです。
全体的にこれらは旧盤でのシャリシャリ感がだいぶ緩和されて、CDリリースでありながらアナログの太さや温厚さを蘇らせることに成功しており、それでいて暑苦しくならずリラックスした雰囲気を保ち、まさにペッパーにふさわしい、センスが良いリマスターだと思いました。
そんなわけで、これらを改めてEtoileで鳴らしてみると、まず第一印象から、Etoileの出音はありきたりな高解像レファレンス系ではなく、だいぶユニークな鳴り方で、古いモノラルやステレオのジャズ復刻を良い具合に仕上げてくれます。
高級イヤホンは色々聴いてきたつもりですが、他にEtoileと似たようなサウンドのイヤホンは思い浮かびません。「これならもっと安い〇〇を買えばいい」という類似品がパッと思いつかないので、気に入った人には唯一無二の存在になりそうです。
ユニークといっても不自然な音ではなく、特定のプレゼンテーションに向けて全体のバランスを入念に調整したような、時間と空間のまとまりの良さがあります。
音色に関しては比較的コントロールを効かせているというか、余計な色艶は加えない方針なのは、マスタリングエンジニア的な要求でしょうか。金ピカなデザインとは裏腹に、意外と真面目な表現です。モニター系と言えるかもしれませんが、傾向としてはUE-RRとかの解像力重視よりもゼンハイザーIE600などのバランス感覚に近いです。派手な重低音ブーストとかも無いので、ベースの音色もジャズバンドの自然なバランスに収まっています。
空間展開は横に広く、縦は狭く、前後のばらつきが少ない平面的なプレゼンテーションで、開放感と統一感を上手く両立できています。音の渦に飲み込まれる没入感というよりも、数メートル離れたテレビ画面、もしくはシネマスコープで映画を見ているようなパノラマが体感できます。このあたりが古いアルバムに向いているのかもしれません。
ハイブリッドマルチ型にありがちな、各ドライバーの自己主張や役割分担が明確に感じられるタイプではなく、むしろ先程ゼンハイザーIE600と言ったようにシングルドライバー型の良さに通ずる感覚があり、プレゼンテーションの統一感という点ではヘッドホンに近いような印象すらあります。
ヘッドホンで例えるならDan Clark Audio E3を連想します。とりわけ前後のばらつきが少ない平面的な鳴り方はDan ClarkのAMTSモジュールの効果に似ています。そちらはドライバーの前に蜂の巣のようなフィルター板を置くことで出音を調整する手法ですが、Etoileもドライバーの出音から鼓膜に届くまでの過程がダイレクトではなく、ハウジング内でなにか一工夫を経ている感覚があります。
たとえば64AudioのTia方式など高音BAユニットを耳の間近に配置して輪郭を強調するのとは正反対の音作りです。Etoileはそういったシャープネスやプレゼンスを強調するタイプのイヤホンと比べると若干地味でぼやけている感じもあるのですが、描画力が粗いわけではなく、派手に散乱しない程度に抑えるために、耳に届くまでの過程で一旦ブレンドさせている感覚があります。
このEtoile独自の音作りは、相性の良い楽曲とそうでないものの差が明確に分かれるようで、自分が普段聴いている音楽にピッタリはまるか確認が必要です。
私が試してみた中では、たとえばハウスやテクノなどのEDM系は意外と上手くいきませんでした。Etoileは低音のタイミングが遅れないように入念に調整しているようで、リズムのテンポ感は良いのですが、EDMに求められる体を震わせる重低音サブウーファー演出は希薄です。
そういったジャンルでは、私自身はUM MEXTやSymphonium Titanのような低音が強烈なモデルや、もしくはUE Liveみたいに鮮明な音像の周りに厚い響きでクラブPA感を演出してくれるタイプの方が向いています。Etoileは音像自体の鮮明さをあえて一段下げても全体のバランス感を優先して、低音も含めた全体が同じ質感にブレンドされている感覚なので、没入感が低いというか、目まぐるしいシンセ空間を体で浴びるような聴き方には向いていません。
また、クラシックやジャズの最新ハイレゾ録音も、そこまで相性が良いとは思えませんでした。
ジャズでも上で紹介したようなアナログ旧盤のリマスターではなく、ECMみたいなアンビエント感や、Smoke Sessionsのライブ盤のような空気に包みこまれて熱気を浴びたい作風では、Etoileでは平面的に均されてしまい、一歩離れた場所からソロ演奏を鑑賞するような聴き方になります。個人的にはこの手の音楽を聴くなら以前紹介したForte Ears Macbethが好きです。
クラシックのピアノソナタとかは、あいかわらずハイブリッドマルチドライバー型よりもシングルドライバー型の方が得意なようで、Madoo/Acoustune、Final、ゼンハイザーなどを使いたくなります。Etoileは全体のバランスの統一感は良いのですが、ピアノであれば打鍵のアタックから響板がホールに響き渡るまでの時間経過や空間展開といった、一つの楽器の表現はシングルドライバーの方が得意なようです。
そんなわけで、Etoileがどのような音楽ジャンルに合うのかと考えていて、私の周りの人の意見を聞いてみたところ、十中八九「ロックやポップスに合う」という答えが返ってきます。私もたしかに同意できるのですが、ではなぜそう感じるのか具体的な理由が掴めません。
私が普段聴くようなクラシックの独奏や室内楽の最新録音とEtoileはそこまで相性が良いとは思えなかったので、その原因を考えてみたところ、逆に古いジャズや、ロックやポップスに合うと言われる理由も同時に掴めてきました。
Etoileでクラシックのピアノやヴァイオリンのようなシンプルな生楽器録音に集中してみると、まるで音が二重に、ほんの僅かな時間差で鳴っているような感覚があり、楽器本来のアタックの質感を滲ませている印象を受けます。この最初の数ミリ秒は楽器固有の指紋みたいなもので、演奏者も録音する側もできるだけ忠実に収録するわけですが、Etoileで聴くと、このあたりが楽器本来の音とは微妙に違っています。奏者の指使いや生楽器の質感を堪能したい人には向いておらず、最小単位まで解像しようと集中するほど、まるでピントの合っていないカメラのように、アタックがダブっているようでもどかしく感じます。
アタック後の響きを増強させるリバーブチャンバーのような効果ではなく、本当にソロが二重奏になったような、一発のアタックが二つの低い山に分散されている感じで、たとえばドラムのスティックを二本掴んで叩いた感じといえば伝わるでしょうか。そのためソロ楽器のクリアな立ち上がりや前方へ浮かび上がる主張が弱まり、情景に溶け込みやすくなるため、これが冒頭で言ったような、Etoile特有のテレビや映画のような平面パノラマ的なプレゼンテーションに繋がるのだと思います。
肝心なのは、それが「ロックやポップスに合う」という話にどう関わってくるのかという点ですが、この時間差がいわゆるダブルトラックのような良い効果を生んでいるようです。
ダブルトラッキングはポップス系のスタジオミックスでは広く活用される手法で、一つのパートを複数重ねることで太さや存在感を強めるために使われます。ステレオ左右に振って合成したり、コンプレッサーやEQを通した複数経路を合成するなどの手法もありますが、もっとシンプルに、アナログテープ録音であれば、ただそのまま合成しただけでもピッタリ同じ信号が重なるわけではないので、その微妙なゆらぎが良い効果を発揮します。アナログ録音は音が太いと言われる理由の一つです。
Etoileで聴くと、そんなスタジオマジックと似たような効果が体感できます。これは金属シェルに反響させるようなイヤホン素材由来の色艶とは違いますし、ユーザー側がイコライザーや真空管の歪みなどを加えることでも真似できない、時間軸方向での声や楽器の厚みで、複雑かつオーガニックな質感を加えてくれるようです。Etoileはそんな特別な効果のおかげで他のイヤホンとは違うユニークなサウンドだと感じるようです。
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一例として、つい先日プリンスの1985年「Around the World in a Day」リマスター復刻盤が出ました。カタログの中でもそこまで有名ではないのでリマスターも後回しになっていたようですが、彼の研ぎ澄まされたファンク感が凝縮された一枚なので、昔からのファンとして待望のリリースです。
オリジナル盤の時点でかなりスッキリした爽快感を持ったアルバムでしたが、今回の最新リマスターでは広いダイナミックレンジを活かして、よりパーカッシブなリズムやグルーヴ感が増しています。こういうのはまさにEtoileが得意とするところです。
この時代のアルバムは歴史的な名盤が多いので今でも愛聴している人が多いと思いますが、やはり当時のメインストリームな再生環境を想定して仕上げてあるので、現在のモニターヘッドホンで聴くと、だいぶ線が細くスカスカしたサウンドに聴こえますし、逆に最近のポップス向けのドンシャリ系ヘッドホンを使っても刺激が強すぎてしまいます。当時みんなが使っていた中低音モコモコの大口径スピーカーやカーステレオで聴いた方が雰囲気が出ます。年配の方ならサンスイの組子とかで鳴らしたのを思い出す人も多いのではないでしょうか。
そんなアルバムをEtoileで聴いてみると、ボーカルやギターソロなどが、イコライザーで持ち上げたわけでも金属的な刺激を加えたわけでもなく、俯瞰で見ると普通にミックスの中に収まっているのに、なぜかリスナーの視点を引き付けるような存在感や力強さが生まれます。輪郭だけが浮かび上がるのではなく、中身の質量が増したような充実感があり、しかもEtoileのプレゼンテーションがパノラマ的に横に広いおかげで、それらが窮屈にならずに深みのあるドラマが展開されます。
歌詞や心象表現の体験を優先して聴きたい人には素晴らしい効果があり、なんとなく漠然と聴いているだけでも演奏者の熱量や感情が伝わってくる気がしてきます。ありふれた表現をあえて使うなら、歌手が自分個人に向かって語りかけてくるような感覚でしょうか。
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そんなわけで、Etoileはスタジオポップス専用イヤホンなのかというと、実は今回色々な音楽で試してみた結果、もうひとつ意外なジャンルとの相性が良かったです。
それは荘厳な教会合唱曲や、合唱入りのオーケストラ楽曲で、これらもEtoileで聴くことで、他では味わえないユニークな体験ができました。一例としてHarmonia Mundi新譜でV. Petrenko指揮ロイヤルフィルのラフマニノフ「鐘」は予想外に相性が良かった一枚です。
オケに合唱とソロ歌手という大規模な作品ですが、一曲がそこまで長くないのと、それぞれオケだけの導入と合唱やソリストが活躍する場面に分割されているので、重苦しく退屈にならなず人気の作品です。もっと荒々しい旧ソヴィエトの録音とかも良いですが、今作はペトレンコのサンクトペテルブルクの伝統とイギリス合唱の伝統が見事に融合している良盤です。
たしかに今作のような大編成の合唱やオケであれば、独奏楽器と違ってアタック成分はそこまで重要ではありませんし(そもそも全員がぴったり揃っていないから厚みが出ているわけで)、しかもEtoileの広いパノラマ空間が実力を発揮してくれます。
ソリストはオケと同じ平面でブレンドするので、そこまで明朗に張り出す感覚は得られませんが、空間が広いおかげで楽器や声楽パートがクリアに分離してくれますし、冒頭で述べたような、ドライバーから一旦ハウジングでまとめられて出音される感覚があるため、至近距離のオンマイクではなく一旦ホール音響を経て観客席に届いた音響が堪能できます。第1楽章「銀の鐘」のクライマックスの盛り上がり方なんかは最高です。
横に広く、縦に狭く、前後に飛び出さないというEtoileの特徴は、まさに合唱やオケがステージ上に整然と並んでいるイメージにピッタリ合います。縦に狭いというのはマイナスのように思うかもしれませんが、むしろ天井と床方向には余白が生まれるため、ホールのパノラマ感を強調してくれます。このあたりが下手なイヤホンだと、バスだけ耳元でとか、ソプラノだけ上空で歌っているといった非現実的な三次元展開になりがちです。
これがたとえば協奏曲やオペラになると、ソリストをもうちょっと前に引っ張り出すようなサウンドが欲しくなるので、Etoileではなく別のイヤホンを使いたくなります。私がこれまで聴いてきた他社のハイブリッド型イヤホンは、そういったソリストを引き立てるタイプが多いので、候補はいくらでも思い浮かぶのですが(たとえば最近だとForte Ears Macbethはオペラには抜群に良かったです)、しかしEtoileの鳴り方はかなりユニークなので、なるほどハイエンドでもこういう解釈ができるのかと関心しました。
おわりに
今回Volk Audio Etoileを聴いてみて、つくづく最先端ハイエンドイヤホンにおけるルネサンスを実感しました。
ハイブリッド型の到来と、EST静電型ドライバーなど構成パーツの選択肢が増えたこと、シェルや内部チャンバーの空間設計が洗練が進むなど、様々な要因のおかげで、まるで開発者のリミッターが外れたかのように凄いモデルが続々登場しています。
以前紹介したForte EarsやEmpire Earsもそうですが、どれひとつとして完璧な万能選手というわけではなく、それぞれに具体的な長所と短所が際立ち、メーカーごとに理想とするサウンドへの熱意と、それを実現できる技術力が伝わってきます。
逆にもうちょっと安い価格帯のイヤホンの方が、なんでもこなせる万能選手と呼べそうなモデルが多いです。それらで物足りないと感じた人だけが、特出した魅力を求めて手を出すのがEtoileのような超高級機だと思うので、必ずしも測定グラフのフラットさや五角形グラフの高スコアを参考に買うものではありません。
せっかく高級イヤホンにアップグレードしたのに、自分が普段聴いているアルバムがどうにも刺激的すぎて聴き疲れするとか、線が細く、空間が乱れて、落ち着いて聴いていられないという人は多いと思います。Etoileはまさにそういう人に向いています。
ポピュラー系のスタジオミックス作品に向いている仕上がりですが、第一印象の派手さで勝負せず、長年の愛聴盤をあらためてじっくり聴き直すことで良さが伝わってくるようなイヤホンです。
近頃は多くのレーベルから往年の名盤のリマスター版が続々リリースされており、若者がそれらの凄さを体験する機会を生むだけでなく、当時のオリジナル盤を聴いていた人にも、最新の機材を使ってあらためて再来する楽しみがあり、そういった場面でEtoileが活躍してくれそうです。
EtoileはエンジニアMichael Gravesとのコラボレーションというのを全面的に強調しているわけですが、Volk Audioにとって今作は安易なマーケティングではない意義のあるコラボ企画だったと思いますし、それをしっかりとサウンドに反映させる技量を持ったメーカーだということが実感できました。
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