2015年12月26日土曜日

2015年 ヘッドホン製品のまとめ

2015年も年の瀬ということで、今年一年の個人的なヘッドホン生活について振り返ってみようと思います。

今年は色々試聴してきた一年でした

年末は実家に帰省して暇を持て余しているので、思い当たるまま2015年のヘッドホン関連製品について書きまとめてみます。商品ごとの写真を探すのも面倒なので、申し訳ないですがアマゾンリンクを貼っておきます。広告OFFにしていると見えないのであしからず。



例年のごとく、気に入って購入した新製品もあれば、試聴のみだった商品もありますが、今年一番強く感じたことは、どのメーカーの製品も例年より完成度が高く垢抜けてきており、音色や使い勝手において、悪い意味での「個性」や「クセ」が少なくなってきたように思えました。

過去5年間で、バランスド・アーマチュア(BA)型イヤホンの到来から、高級大型ヘッドホンの発売ラッシュ、そしてUSB DACとハイレゾ配信ブームなどを経て、2015年は繁栄と拡大の一年でした。

ソニーら国産メーカーの熱心な広報活動により「ハイレゾ」という単語が広く知れ渡り、私自身も、これまでオーディオとは一切無関係だったような友人から、「最近ハイレゾが流行ってるみたいだけど、買ったほうがいいかな?」なんて尋ねられることが多くなりました。それだけ社会的に広く浸透しているというのはオーディオマニアとして嬉しいかぎりです。とくに、ネット配信、USB DAC、ポータブルDAPという三本の矢で、パソコンやガジェットに敏感な客層を鷲掴みにできたことが成功の秘訣だったと思います。

オンキョー配信サイト「e-Onkyo」の快進撃とともに、ソニーの配信ショップ「Mora」の2015年ハイレゾダウンロード数が前年比315%上昇というニュースを読みましたが、自分周辺のカジュアルリスナーの動向を見ていると、あながち大袈裟でも無いと思えます。

極端な解釈かもしれませんが、これまで「リビングにある90年代に買ったミニコンポ(本人は高級だと思っている)で、自分のお気に入りの決まった愛聴盤CDをたまに聴いている」ようなライフスタイルだった人たちが、雑誌や店頭で紹介されている「高音質」を味わうためにシステムを新調して、毎月数枚のダウンロードアルバムを購入しているというスタイルに変貌したのを多々見てきたので、これは明らかな経済効果になってそうだと感じます。それまで、その人達のオーディオ・音楽への年間投資はゼロだったわけですから。

ソニーとか

ということで、まずハイレゾオーディオを牽引しているソニーの2015年を振り返ってみると、意外と地味で堅実な一年だったように思えます。

まず据え置き型のプレイヤー主力商品HAP-Z1ESとHAP-S1の二機種が2013年に登場して以来、着実に売れつづけており、今年こそはそろそろアップデートや上位モデルなど出るという予測に反して、新製品は何もありませんでした。

ポータブルでも、ウォークマンNW-ZX1の上位機種NW-ZX2は2014年にデビューしましたし、同様にポータブルDACアンプ「PHA-3」も2014年です。今年はフラッグシップ系は控えめで、あえてNW-ZX1の後継機NW-ZX100という6万円台の売れ筋モデルや「PHA-1A」という廉価DACアンプを投入してきました。

これらはハイレゾの裾野を広げるという意味では重要な商品だと思いますが、海外勢などが20万円を超えるポータブルDAPを続々と発売しており、スペックの陳腐化が加速した2015年としては、革新性を売りにしたいソニー製品は勢いのペースが落ちた印象があります。

ただし、一つだけはっきりとわかるのは、海外勢のDAP製品などは見切り発車の発売もいいところで、バグや不具合が山積みの製品が溢れかえっている中、ソニーのDAPは基本的に信頼性が高く、パソコンマニアではなくても十分に使いこなせる堅実性の裏には、開発努力の積み重ねがあることを再確認しました。

この「裾野を広げる」延長線上で、今年ソニーはh.earという新シリーズを展開しており、MDR-100Aを筆頭にMDR-EX750APなど、カラフルなポップスタイルを提案しており、ハイレゾの普遍化、そしてマニアのオタクイメージの払拭に焦点を当てているようです。

逆に言うと、それ以外のいわゆる「メカっぽい黒と銀のソニー製品」ラインナップは変わっていないため、一般的なイメージのソニーらしいMDR-1Aなどのヘッドホンを求めている消費者にとっては、私などがどんなに勧めても、カラフルなMDR-100AがシリアスなMDR-1Aとかと同じくらい高音質だということが信じてもらえないという残念な状況でもありました。

個人的にはプロオーディオ部門の銘機MDR-EX1000やZ1000などが風化する前にそろそろブラッシュアップしてほしいと思いますし、必ずしも完璧とは言えないコンシューマフラッグシップイヤホンのXBA-Z5に続くものを検討して欲しいです。多くのメーカーが10万円超のイヤホンを展開している中、ソニーのイヤホンは今となってはローミドルクラスに急落下しているため、今この時点で15万円くらいでマニアが満足できるレベルのイヤホンを投入する必要があると思います。いわゆるコストパフォーマンスを言い訳にできない「ステートメント・モデル」というやつですね。

大型ヘッドホンにおいても同様で、既存のフラッグシップMDR-Z7はカジュアルリスナーには好評ですが、更に上を行くゼンハイザーHD800などのハイエンドヘッドホンとは勝負相手にされにくい位置づけと音作りなので、早急に高級ヘッドホンでソニーの技術力の高さが健在だということを披露して欲しいです。
 
その点、2015年は国産メーカーではパイオニアがSE-MASTER1という25万円の超ハイエンドヘッドホンをいきなり投入してきたのが驚きでした。私自身は残念ながらまだじっくり試聴する機会に恵まれてないのですが、この鳴り物入りの意気込みと度胸に敬意を払いたいです。

国産メーカー


というわけで、ソニー以外の国産メーカーも頑張っていた一年ですが、まずソニーのライバルであるオーディオテクニカは相変わらずATH-M50xが飛ぶように売れており、ハイレゾ普及機ATH-MSR7も市場で好意的に受け入れられています。2015年は密閉型ART Monitor ATH-Aシリーズが全面アップグレードされ、ATH-A2000Zなどと名称が「Z」シリーズになりました。また、Ear SuitシリーズもメジャーアップデートのATH-ESW950が登場しましたが、私自身は2014年に発売されたATH-ESW9LTDに大変惚れ込んでいるため、まだニューモデルのESW950は手を出していません。オーテクの開放型ヘッドホンATH-ADシリーズは2012年モデルから続投で、そろそろ古くなってきています。今年のオーテクが一番プッシュしていたのがミドルクラスの「Solid Bass」シリーズで、2万円台のイヤホンATH-CKS1100とヘッドホンATH-WS1100はどちらもエキサイティングでありながらマニア的にも満足できるワイドレンジな仕上がりで、昨年のCKS10とMSR7とはひと味違った演出が魅力的です。

オーディオに関しては消極的なパナソニックも、2015年は「テクニクス」ブランド復活を掲げて再参入ということで、据え置き型のレファレンスR1シリーズは良く出来ていると思いました。試聴した印象ではTADなどと張り合える十分な実力が期待できそうですし、日本国外でも英国の雑誌等で広く取り上げられており、日本人の想像以上に世界中で「テクニクス」への期待が高まっているようです。残念ながらヘッドホン界隈はまだなにも出ていない状態ですが、2016年1月末には待望の高級ヘッドホンEAH-T700が発売予定です。これはヘッドホンとしてはかなり珍しい2WAY構成ということで興味がわきます。将来的にテクニクスブランドで、現在のティアックやフォステクスなどと対抗できるようなDACアンプなども投入してくれれば、R1ハイエンドシステムで培ったノウハウを最大限に活かせると思います。

メーカーにとってハイエンドの存在は極めて重要で、例えば同じ10万円のヘッドホンアンプでも、チープな製品ばかり作っているメーカーの10万円アンプよりも、100万円クラスのハイエンドで実績がある(つまりそのレベルでの音作りに卓越している)メーカーの10万円アンプでは意味合いが違ってくるということです。

往年ヘッドホンの権威だったDENONは、2014年に木材ハウジングを取り入れた3万円台のAH-MM400を最後に、今年は「AH-GC20」というワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホンを出したのみでした。2012年、フォステクスから離れたあとに登場したハイエンドヘッドホンAH-D7100はカタログから消えてしまったので、やる気があるのであればそろそろ新作を期待したいです。AH-MM400は癖が強いものの好印象でしたので、これの延長線で空間表現を充実させたフラッグシップなんかあれば良さそうです。

ティアック・オンキョー・パイオニアは同グループ傘下の企業になりましたが、年末には本気の高性能DAP「DP-X1」「XDP-100R」をデビュー、日本では注目を浴びています。オンキョーは国産大手では初めてカスタムIEMの受注サービスを開始し(ソニーもJust Earがありますが、あれは異例のスタイルです)、しかもカスタムながらベーシックモデルは6万円から、国産なので納期は速いと、かなり魅力のあるサービスです。また、ハイレゾ楽曲ダウンロード販売のe-Onkyo Musicが相変わらず日本で大きなシェアを持っており、また同社のiPhone・Android用音楽再生アプリHF Playerは、DACなどと組み合わせる際のスタンダードになっています。

オンキョーHF Payerのライバルといえば、2015年はRadiusのNePLAYERが登場、とくにiPhone版は優れているため私も愛用しています。Radiusというと家電量販店の片隅においてある低価格イヤホンを想像しますが、高級モデルも着々と開発しており、今年は3~4万円台の「ドブルベ」シリーズを展開しており、結構音質のコストパフォーマンスが高いモデルだと思いました。

同様に、これまで低価格モデルのみだったロジテック・エレコムなどもハイエンドモデルを投入するなど、これまで地道にOEM生産で技術力を培ってきたメーカーが、新参勢に負けじと市場に参入してきているのも面白い時代だと思います。逆に、これまでOEMに頼ってきた大手オーディオメーカーなどは競争力が弱まり厳しくなってきたかもしれません。

技術力の塊のようなJVCは、2015年に新ラインの「Signa」シリーズヘッドホンを堂々デビューしました。まず9月登場の一発目「HA-SS01・02」の二機種は、3~4万円という価格帯において質感・音質に対して若干割高感がありましたが、11月にはハウジングとドライバにJVC御家芸の木材を採用した「HA-SW01・02」が登場しました。ウッド振動板はイヤホンのHA-FXシリーズで大好評を得ているため、今後の展開が期待できます。マニアの集いなどでは、未だに2005年のフラッグシップHP-DX1000を愛用しているユーザーを見かけるので、Signaシリーズもこのようなロングセラーになることを願っています。また、JVCというと2014年のUSB DAC「SU-AX7」が高音質で定評があります。しかし発売当時からスペックが限定的な印象があったため、高音質は維持したまま最近流行りのバランス駆動やPCM352.8kHz、ネイティブDSDなどに対応した上位機種を出して欲しいです。バランスやDSDなど、JVC的にプッシュしていない規格でも「とりあえず」対応させておくのは重要だと思います。また、JVCの「K2」プロセスというのは我々のような古いオーディオマニアにとって絶大なブランド力を持っているため、「ウッド振動板」と「K2」という二本柱をこのまま上手に育てていって欲しいです。

2014年までは活気があったヤマハは、今年はなぜか消極的で、これまでかなりプッシュしていたカジュアルラインのヘッドホンも停滞気味です。製品自体は良い物なので、正直売れているかどうか心配になります。独創的なイヤホンEPH-100以降、HPH-M82やPRO500など、印象的なモデルが続いたのですが、2015年は2万円のスタジオモニターヘッドホンHPH-MT220の後継機「HPH-MT7」のみが気になる存在で、それすら存在感が薄いです。

日本の国産ハイエンド・ヘッドホンメーカーというと、STAXの静電駆動システムが長年トップに君臨していましたが、35万円のSR-009を最後に、2012年に中国資本に買収されてから音沙汰無しで、時代の終焉を予感させていました。しかし2015年には中堅モデルSR507、407などの後継機として、13万円のSR-L700と、7万円のSR-L500を発売することで、STAXは未だ健在だということを見せつけてくれました。これらの新モデルは従来機と比べると優等生的なサウンドで、なんとなくゼンハイザーHD800などを彷彿させるバランスの良い鳴り方だと思ったので、これまでSTAX特有の独特のクセで敬遠していた人たちも、ぜひ試聴してみることをおすすめします。

海外メーカー

高級ヘッドホン市場というのは、昔から海外勢が影響力を持っており、日本の国産メーカーの多くは後を追いかける立場だったと思いますが、2015年になってももそれは変わらず、さらにネット直販、個人輸入や販売代理店各社の尽力のおかげでより一層海外ブランドが手に入りやすくなった一年でした。

個人的に注目度が高かったメーカーはALOで、20万円で真空管搭載の高級ポータブルアンプ「Continental Dual Mono」は素晴らしい音質でしたし、新たにイヤホンブランド「Campfire Audio」を立ち上げ、デビューラインナップの三機種、シングルBAのOrion、ダイナミック型のLyra、マルチBAのJupiterと、幅広いサウンドの製品を揃えてきました。個人的にはダイナミックドライバ搭載のLyraがとても良かったです。

韓国Astell & Kernは2014年のハイエンドDAP「AK240」は25万円という高価格ながら想像以上に売れており、今年はさらに上を行く45万円の「AK380」が登場、これもまた驚くほど好調なようです。こういったハイエンド製品が売れるという事実が、ポータブルオーディオがカメラや腕時計のような趣味性を持っており、スマホやノートパソコンなどのハイテクガジェットとの格差を示しているように思えます。2015年にはAK240の特別版「AK240 SS」や、5万円の廉価モデル「AK Jr」も登場し、ベストセラーAK120IIの後継機「AK320」も出るなど、より幅広い客層に愛用されるメジャーブランドの地位を確立しています。

AKはヘッドホンの分野でも圧倒的な話題性を発揮しており、ベイヤーダイナミックとのコラボモデル「AK T5p」「AK T1p」「AK T8iE」といった高級モデルを続々投入しました。中でもベイヤーダイナミック初の高級イヤホン「AK T8iE」は個人的に非常に気に入ったため、試聴後真っ先に購入しました。ベイヤーダイナミックはAKモデル以外ではテスラテクノロジー搭載の密閉型ヘッドホンDT1770と、フラッグシップ「T1」の後継機「T1 2nd Generation」が登場しました。まだ発売から日が浅いため、真剣な評価はこれからといった状態です。

AKのDAPよりも低い価格帯ではFiioがX3、X5をリニューアルして好調に売れていますが、フラッグシップDAP「X7」の発売に手間取っており、ファームウェア問題などで年末商戦までに出荷がギリギリといった怪しい状態です。iBassoは11月に待望の新開発DAC「DX80」を発売、これはコストパフォーマンスが良く私自身も購入しました。また、同系列でハイエンドの「DX200」も予定されています。AKのライバルCowonは従来のPlenue P1、Mは続投で、3万円台のコンパクトDAP「Plenue D」を発売し、来年は超高級機「Plenue S」を予定しておりAKとの直球勝負になりそうです。これらDAP老舗メーカー以外では、2014年にいきなり高級機で市場参入した中国のLotooが、廉価モデルのPAW5000を出したり、コスパの高いCayin N5や、高級アンドロイドDAPのAcoustic Research AR-M2など、自分の予算と音色に合ったプレイヤーを見つけやすくなった一年です。

海外ヘッドホンメーカーの大手では、ゼンハイザーは相変わらず小粒なモデルを着々と出しており、まずMomentumの第二世代が発売、音質がかなり良くなっており驚きました。一方、同時発売予定だった「Momentum Wireless」は塗装剥がれやノイズなどの不良が相次ぎ一旦在庫が撤回され、修正ロットが11月まで遅れかなり痛手を負ったようです。2015年後半には普及モデルのHD400番台が完全リニューアルされ、1万円台の低価格ながらこれまでのHD558などに一層近づいたようです。また、高級密閉型ヘッドホンHD630VBも発売されました。2016年にはHD800のニューモデルHD800Sや、700万円と言われているステートメント・モデル「Orpheus」を控えているため、まだまだ楽しませてくれそうです。

AKGは非常に消極的で、K3003イヤホン、K812ヘッドホンが続投、2015年はハイエンド的な製品は何も発売されませんでした。今年はプロ・コンシューマモデルのラインナップが整頓され、親会社のハーマン・グループ内で系列企業JBLなどとの戦略配置があるため、将来的にAKGがどのような方向に進むのか一抹の不安があります。

Shureは大好評イヤホンSE846を新たにカラーバリエーション展開した以外に、いきなりの静電駆動型IEM「KSE1500」を発表、36万円という価格で話題を呼びました。年末に初回在庫が出回ったらしいですが、評価は来年に持ち越されそうです。また、私自身はShure初のポータブルDAC・ヘッドホンアンプ「SHA900」が期待以上に高音質だったため、13万円という高値も納得の仕上がりでした。

Noble Audioは年末に21万円の「Kaiser 10 Universal Aluminum」を発売し、従来のKaiser 10を高く評価している私としては気になる存在です。しかし、それよりも6月に発売された8万円の「Savant」がとても良好で驚きました。ネット掲示板では「Savantの中を開けたらめちゃくちゃチープだった」という写真が笑いのネタになっていますが、それでも他社製品より音が良いので文句は言えません。イヤホンにおいては製造コストと音質は比例していないという格好の例です。

IEMから離れて、大型ヘッドホンでは、中国のHiFiMANが意外と健闘していることが喜ばしいです。個人的に2014年の中堅モデルHE-560を非常に高く評価していますが、2015年には最安モデルのHE-400S($300)と、超高級モデルHE-1000($3000)、さらにはそれの廉価版Edition X($1800)が登場するなど、とくに米国ではアマゾンを中心に、もはやメジャーブランドとして高く評価されています。DAP関係はトラブルの連続であまり多くを語りたくないですが、今後も精進して欲しいです。残念ながら日本国内では代理店の事情で流通在庫が無く、またHiFiMANはネット直販がセールスポイントなのに国内価格はサポートの事情で価格が割高など、色々と諸事情がありましたが、2016年にはどうにかなりそうなので期待されます。
 
他にも、欧州、米国から多くのオーディオ(とくにスピーカー)企業がヘッドホン市場に参入しましたが、Focal、NAD、KEF、Mcintoshなど、そうそうたる顔ぶれながら、どれも大反響を呼ぶ程には影響力が無いようです。やはり新参では多くの部分をOEM製造に頼らざるを得ないため、なかなか独自技術のみでベテランのマニアを唸らせるような商品を作ることは難しそうです。同様にケーブルメーカーとしてヘッドホンファンにも大人気のAudioquestは自社製ヘッドホンの初号機「NightHawk」をデビューしました。ダークでまったりしているため個人的にあまり好みの音色では無いのですが、幾つかの珍しい製造技術を導入しているらしいので、今後の展開やチューニング次第では化けるかもしれません。

米国ヘッドホンの第一人者Gradoは、2014の「eシリーズ」への移行は個人的な意見として完璧な成功ではなかったように思えるのですが、2015年には単発で登場したヘリテージシリーズ「GH-1」ヘッドホンの素晴らしさに心を奪われてしまいました。(限定モデルだったので残念ながらアマゾンリンクはありません)。今後もブレずに、この路線で頑張ってくれることを期待しています。余談ですが、今年はフォノカートリッジシリーズもさり気なくフルリニューアルしているため、保守的に見えていろいろと努力を怠らないメーカーだと思います。

米国のもう一つの老舗KOSSは、相変わらずPorta Proの人気が衰えませんが、今年はKoss Pro4S SP330 SP540といった、3万円以下のマジなヘッドホン製品を出して現役っぷりを主張してくれました。音質はKOSSらしい誠実で力強い音色なので、ぜひ一聴することをおすすめします。内事情として2010年にKOSS社内の横領事件で会社が倒産寸前になりましたが、立てなおしているようで嬉しく思います。しかし未だに財務管理の体制問題についてニュースなどで目にするので、完全復活とは行かないようです。ちょうどヘッドホンブーム到来のタイミングでこのような管理不届きがなければ、今頃ヘッドホンの世界的権威になっていたかもと思うと、非常に残念に思います。
 
続いて米国のヘッドホンメーカーでハイエンドを象徴するAudez'eは、これまで20万円超の大型平面駆動型ヘッドホンのみのラインナップでしたが、今年は外装コストを下げた13万円の廉価モデル「LCD2 Bamboo」や、10万円以下で密閉・開放型の二種類を同時展開するポータブルヘッドホン「EL-8」を発売しました。このEL-8はポータブルと言うには重くて扱いづらく、音質もLCDシリーズとは一線を画するため購入意欲はわきませんでしたが、製品そのものの魅力は十分あると思います。また、LCDシリーズも着実に進化しており、最新バージョンの「LCD4」が11月にデビューしました。50万円という高価格ながら、需要に生産が追いつかない現状で、残念ながらまだ未聴です。Audez'e社はLCDシリーズとマッチングすることを想定しているのか、ついにヘッドホンアンプも手掛けるようになり、DECKARDという据え置き型USB DACアンプを発売しました。これもEL-8同様BMW Design Worksが外装デザインを手がけたため、クラシカルながらメカ的な魅力の溢れる製品です。

海外勢が得意なIEM、カスタムイヤホンなどのジャンルはあまりにも新製品が多すぎて、すべてを網羅するのは不可能ですが、JH Audio、Ultimate Ears、64Audio、Unique Melodyなど、メジャーブランドはどれも魅力的な製品を出し続けています。

USB DACの動向

2015年は、USB DACにとっては「世代交代」の一年だったと思います。

これはどういう意味かというと、2010年くらいからパソコンで音楽鑑賞を楽しむ「PCオーディオ」がオーディオマニアに浸透し始めたころに存在していた数少ないハイレゾUSB DACの各種が、そろそろ年式やスペック的に古くなっており、その当時から愛用していたユーザーも買い換えを検討している時期だということです。

もちろんマニアの中には半年ごとにDACを買い換えているような人もいますが、一般的な「音楽鑑賞」を楽しむ人にとって、一旦組み上げたシステムをアップグレードするのは一大決心を要します。

そういった中で、2015年で気になったのは、黎明期を代表していた先駆者ブランド各社が、後継機への引き継ぎにあまり成功していないように思えるところです。具体的に、家庭用USBオーディオの初期に売れていたコルグ、RME、M2Tech、Benchmark、MytekなどのDAC各社のニューモデルがあまり市場で受け入れられていないという現実があります。

Benchmarkの例を挙げると、当時はもはやオンリーワンといえたBenchmark DAC1の後継機DAC2は、プロモーションに数値や測定スペックで勝負しすぎたため、半分以下の価格で必要十分なスペックを誇る中華メーカーなどと単純比較され、コストパフォーマンスが悪い印象がありました。もっと感性的な音質云々でプッシュしていればこうはならなかったと思います。
 
RMEも大人気のBabyface後継機「Babyface Pro」が登場しましたが、ほとんどオーディオ媒体で取り上げられず、初代Babyfaceデビュー時の熱気を考えると肩透かしをくらった感じです。Babyface購入者の多くがリスニングオンリーだったのに、後継機でもマイクプリ内蔵のA/D D/A兼用なので依然リスニングのみでは手に余る商品です。RME社のそのストイックさを賞賛しますが、このヘッドホンブームを機に廉価版で再生用高音質DACオンリーの製品を出していれば、と惜しまれます。
 
コルグは今年DS-DAC10Rという6万円のバスパワーDSD対応DACをリリースして、これまでの業務用然とした(もしくはDS-DAC100のような奇抜な)デザインから一転して垢抜けたルックスになりました。このDS-DAC10Rは通常のUSB DACとしての機能以外に、パソコンでDSD録音が可能、しかもフォノアンプ内蔵でレコードをDSD化するというニッチな製品です。単独DACとしての性能も素晴らしいと思うのですが、A/D変換というギミックが存在すると、どうしても価格の何%くらいがDACとしての音質に割かれているのかと邪推してしまいます。

このLPレコードのデジタル変換というギミックは、コルグ以外でも、今年はフルテックADLがSTRATOSという14万円のDACを出したり、海外では2014年にPS AUDIOのA/D変換型フォノアンプNuWave Phonoが大人気だったり、一部でちょっとしたブームになっているのかもしれません。

私自身もレコードのオリジナル盤コレクションを頻繁に出し入れするのも億劫なので、いっそA/D変換するのも悪く無いと思っていますが、セットアップの手間を考えると手が回りません。

フォステクスは、2012年の「HP-A8」で、卓上USB DAC+高性能ヘッドホンアンプという、いわゆる「デスクトップ全部入り」システムを確立しており、当時からOppo HA-1やパイオニアU-05、マランツHD-DAC1などと並んでこのジャンルの代表格なのですが、2015年も継続して販売しています。入門価格のヘッドホンアンプHP-A4は今年12月にバランス駆動対応のHP-A4BLが登場して、ラインナップに厚みが出たので、今後A8も何らかの動きがあるかもしれません。フォステクスというとスピーカードライバの大手メーカーでありながら、少数精鋭でフットワークの軽い会社として有名ですが、来年以降も面白い動きが期待できそうです。昨年はいきなりの真空管ポータブルヘッドホンアンプでみんなを驚かせたHP-V1が記憶に新しいですが、これから超高級の据え置き型真空管ヘッドホンアンプHP-V8が登場するということで、一体どんな音がするのか興味があります。

また、フォステクスはヘッドホンにおいても、高級モデルTH-900とTH-600は世界中で売れ続けており、今年12月にはサプライズで米Massdropにて廉価版のTH-X00が登場、そしてTH-900はケーブル着脱可能なTH-900MK2に変更など、面白いことをしてくれます。TH-X00はデンオン時代を彷彿させるマホガニーハウジングがファンに喜ばれていますが、製造ラインの見直しで廉価版も展開することで、将来的にオーテクのように高級ヘッドホンラインナップの幅を広げていきそうです。フォステクスが誇る平面振動板モデルは、2015年初頭にT50RPが生産中止というニュースを受けて驚きましたが、その後待望のT50RP MK3として生まれ変わったので嬉しい限りです。上位モデルのTH-500RPは個人的に微妙な印象だったのですが、今年発売されたMr Speakers Etherを試聴する限りこの平面振動板にはまだまだポテンシャルがありそうなので、さらなる音響チューニングを徹底したハイエンドモデルを本家フォステクスに作ってもらいたいです。
 
ティアックは2012年からヘッドホン再生に本腰を入れており、据え置き型UD-501、ポータブルDACアンプHA-P50、DAPのHA-P90SDと着々と守備範囲を広げており、今年はようやくUD-501のリニューアルモデルUD-503が登場、さらに液晶画面などを廃した廉価モデルUD-301と、常にトレンドの期待に応じたハイスペックでリーズナブルな製品を続々提供し続けています。また、同列企業のオンキョーからは、HA-P90SDの兄弟機DAC-300SDが一足遅れて2015年に発売しました。ヘッドホン市場は成熟化しており、ハイエンドなフルシステムを持つユーザーの多くもヘッドホン再生に感心を持っているため、そろそろエソテリックブランドでなにか象徴的な製品を、と期待しています。

ハイエンドに消極的なティアックと裏腹に、もう一つの国産の長ラックスマンは古くからP-1U、P-700Uといった20万円クラスの据え置き型ヘッドホンアンプを作っており、これと合わせて28万円のUSB DAC「DA-6」をヘッドホン用途に活用しているユーザーも多く見ます。2015年には、これらの技術を15万円の低価格に落とし込んだDAC・ヘッドホンアンプ兼用モデルの「DA-250」を発売し、さらなるラックスサウンドのファンを増やしそうです。

こういった国産ハイエンドというのは、これまで予算や家庭の事情で大型スピーカーシステムが持てなかったオーディオマニア予備軍からも、ヘッドホンとDACアンプという省スペースで、憧れのあの高級サウンドの片鱗が味わえる、というブランド戦略も十分生かされているように思えます。

個人的に2015年はポータブルDAC・ヘッドホンアンプの飛躍的な性能向上に驚きを隠せません。未だに2014年に購入したiFi Audio 「micro iDSD」を愛用していますが、今年iFiはこのモデルからバッテリーを廃して据え置きDACとしての機能に専念した廉価版の「micro iDAC」を発売したのみです。しかしmicro iDSDは未だに業界トップクラスの音質と対応スペックを誇っているため、これ以上多くは望めません。

ポータブルDACで一番関心したのは今年3月に発売されたOPPOの「HA-2」でした。実際手にとって使ってみた人であれば絶対共感できると思うのですが、おしゃれで薄型のデザインとは裏腹に、高音質、高出力、おまけにPCM384kHz、DSD256など驚異的なフォーマット対応、そしてOTGやCCKケーブル不要という、スマホとの完璧な連携、同梱の超急速充電器など、まさに死角なしの完璧具合で、万人に勧められる最強モデルです。音質は価格以上ですが若干味気ないモニター調なので、もうちょっとサウンドにクセのあるアンプを求める人も多いかもしれません。
 
また、年末には電撃アナウンスで英国からChord Hugoの廉価モデル「Mojo」が発売。日本に限らず世界中で熱狂的な話題を呼びました。私自身も購入しましたが、使い勝手ではHA-2に劣るものの、Hugoに肉薄する、かつIEMがなどのポータブルリスニングにチューンされた音質は圧巻でした。しかも大型低能率ヘッドホンも楽々駆動できる高出力も備えており、ポータブルヘッドホンアンプもついにここまで来たか、と心底感心しています。

このように、DACやアンプは据え置き、ポータブルを選ばずどちらも素晴らしい発展を遂げているため、これ以上何を望めばよいのか、といった状態になっています。また、これまで「安くてもパワーがあればいいか」と短絡的に見ていたポータブルアンプ製品についても、OPPO HA-2やChord Mojoの登場で、コンパクトでも中途半端な音質は許されない時代になってきたように感じます。

おわりに

2015年の新製品まとめということで、適当に思い当たるままに書き連ねてみました。取りこぼしたブランドはまだまだたくさんあると思いますが、さすがにそれら全部を試聴出来てはいないため、個人的にあまり縁のない製品は2016年に改めて挑戦してみようと思います。

このヘッドホンブームはいつまで続くのかわかりませんが、少なくとも2015年は豊作の一年であり、2016年も快進撃が続くと予想されます。

これからも、実力やマーケティング力が無いブランドは淘汰されていくと思いますが、その反面、多くのハイエンドオーディオメーカーがようやく興味を示してきたため、ヘッドホンにおいてもスピーカーリスニング同様に、ミニコンポのようなコンシューマ機と、仏壇のようなハイエンドピュアオーディオとの二分化が極端になりそうです。

私自身は今年一年いろいろな製品を使ってみましたが、話が長くなってしまったため、個人的な2015年のベスト商品や音源などについては、また別の日にまとめてみようと思います。