2015年12月30日水曜日

2015年 個人的ベストなヘッドホンとか

年末は実家で暇を持て余しているので、前回「2015年 ヘッドホン製品のまとめ」を書いてみましたが、今回は個人的に使用頻度が高かった製品などについて書き留めてみます。

今年は色々使った一年でした

2015年に発売された新製品に限らず、一年にわたってプライベートで多用したヘッドホンやDAC・ヘッドホンアンプなど、話題は尽きません。今年買ったどのモデルも、非常に高音質なものばかりでしたが、実際長期間使うとなると、「無意識に手が伸びる、手元においておきたい」商品というのは、ほんの一握りに限定されます。

というわけで、今年一年、何を使っていたか振り返ってみようと思います。


ヘッドホン

ヘッドホンというと、家庭用の大型ヘッドホンや、出先で気軽に使えるポータブルモデルなど、色々とジャンルが分かれますが、今年はそれぞれ個人的に多用したモデルがいくつかありました。

仕事中に使うヘッドホン

今年、職場のオフィスでパソコン業務などを行う際に使ったヘッドホンは、Ultrasone Performance 880、フォステクス TH600、オーディオテクニカ ATH-MSR7の3つに絞られました。周囲に音が漏れず、エアコンなどの環境ノイズも遮音してくれるヘッドホンとなると、必然的に密閉型ヘッドホンになります。

Ultrasone Performance 880

Fostex TH600

Audio Technica ATH-MSR7

使用したアンプは、パソコンのJRiver Media CenterからUSBケーブルでResonessence Herus DACを通してLehmann Linearヘッドホンアンプを接続してあります。Herusは単独でも手軽に使えるヘッドホンアンプとして優秀なUSB DACですが、こういったライン出力用途でも重宝します。

私の職場はオーディオとは無関係なのですが、今年は社内でBose QC25を使っている人をとても多く見かけました。大型ヘッドホンのQC25よりもイヤホンのQC20のほうがポピュラーなのかと思いきや、やはりとっさに着脱ができるヘッドホンを選ぶケースが多いみたいです。私自身も、職場でイヤホンを使うことはめったにありません。イヤホンの1メートルケーブルではデスクワークにはギリギリ短かすぎるというのも理由の一つです。

では、Performance 880、TH600、ATH-MSR7の3つをなぜ使い分けていたかというと、何度も取っ替え引っ替えしても、なかなかベストを決めかねているからでした。フィット感と音色の楽しさはPerformance 880が優勢ですが、音色の飽きが来るのも早いので、気が付くとフラット系サウンドのTH600を使いたくなります。しかしTH600はケーブルが太く邪魔になり、開放型かと思うくらい密閉具合が最悪なので、作業中に片手間で使うには不都合が多いです。

ATH-MSR7はこの二機種とくらべて格下に見えるので、なぜあえて選んでいるのか不思議に思えるかもしれませんが、実はこのヘッドホンは密閉型の中でも格別に良好な遮音性を持っており、他のヘッドホンでは微かに聞こえるエアコンの騒音なども、MSR7では十分にカットしてくれます。特別そんなに遮音性が高いデザインには見えないので、私自身も驚いています。ただMSR7は音質面で今ひとつPerformance 880などに追いついていないので、数日間使っていると音色のクセが気になりすぎて、別のヘッドホンに変えたくなる、という堂々巡りを繰り返した一年でした。

もう一つ遮音性が高いヘッドホンとして、ゼンハイザーHD8DJがあるのですが、側圧がATH-MSR7以上に強く、メリハリの強い音質なので、仕事中のBGM用途には刺激的すぎました。

↓ レビューとか
Ultrasone Performance 880
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/05/ultrasone-performance-880.html

Fostex TH600
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/03/fostex-th600.html

Audio-Technica ATH-MSR7
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/03/ath-msr7.html



真面目なリスニングヘッドホン

自宅でまじめに音楽鑑賞をする場合はスピーカーを使うことが多いのですが、それでも夜間などはヘッドホンを使いたくなることもあります。

今年一番多用したのは、AKG K812でした。個人的に開放型モニターヘッドホンの素直さが好きなため、K812以外にもゼンハイザーHD800、ベイヤーダイナミックT1などを持っているのですが、なんだかんだでフィット感が良好、ケーブル片出し、そして音質もスタジオモニターにしては温かみがあり美音系なK812をついつい選んでしまいます。

この中では、快適で美音系なK812を選んでしまいます

実際、いつも超高音質のアルバムばかり聴いているわけではないので、HD800やT1の分析力はシビアすぎて、録音に由来する不快感が現れることもありました。その点K812は、音質が悪いアルバムでも美しく鳴らしてくれるような懐の深さがあります。

K812以外では、今年発売されたヘッドホンで一番気に入ったのはGrado GH-1でした。Gradoらしさ満開のサウンドなので、好き嫌いはわかれると思いますが、今Gradoを買うならこのモデル以外考えられない、と断言できるほとの完成度です。限定品だったのですが、あまり売れ行きは芳しくないようで、まだ通販の在庫などを見かけます。GH-1はまさにGradoらしさの集大成といった濃密で刺激的な生々しいサウンドで、音楽の素晴らしさを引き出してくれる魅力を秘めています。

Gradoの傑作GH-1

ちなみに、こういった真面目なリスニングヘッドホンを使う場合のヘッドホンアンプは、過去3年間ずっとGrace Design m903を使ってきました。このm903はUSB DACを内蔵していますが、あまり音質が良くないため、アナログヘッドホンアンプのみとして使っており、これに接続するDACはUSB、S/PDIF用など、試聴を兼ねて色々入れ替えています。個人的に一番好みの音質で、レファレンス用として使っているDACは、古くなりますがApogee Rosetta 200というやつですが、これはDSDネイティブ再生ができないため、DSDリスニングの場合は、もっと新しいiFi Audio micro iDSDやChord Mojoなどに切り替えています。

↓ レビューとか
AKG K812
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/08/akg-k812.html
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/08/hd800t1akg-k812.html

Grado GH-1
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/08/grado-gh1-heritage-series.html


手軽なヘッドホン

自宅でヘッドホンを使う機会というのは、じっくりと正座して音楽鑑賞するような場面ばかりではないので、もっと気軽に扱えるヘッドホンというのも重要になってきます。

パソコンで動画を見たり、DAPでちょっと音楽を聴いたり、ポータブル機でゲームをしたりなど、何かと役立つ場面が多いため、実は一年を通して一番使用頻度が高いヘッドホンかもしれません。

以前ブログ記事にて、一番使用頻度が高いのはソニーMDR-HW700DSというワイヤレスサラウンドヘッドホンだということを書きましたが、あれはテレビのHDMIサラウンド映画・ゲーム用というニッチ過ぎる商品なので、欲しい人には絶対おすすめしますが、あまり汎用性はありません。

よく使うのに、未だに名前を覚えられないMDR-HW700DS

音質面で一番気に入っている小型ヘッドホンは、昨年購入したオーディオテクニカATH-ESW9LTDというウッドハウジングのオンイヤーヘッドホンです。オーテクらしい繊細な解像感に、ウッドの美音が重ねあわさり、絶妙なチューニングの逸品だともいます。

しかし、このESW9LTDはケーブルが異様に細く断線が心配で、美しいウッドハウジングに傷がつく心配もあり、手軽に常用するには気を使うヘッドホンでもあります。

というわけで、今年一番よく使ったのは、ESW9LTDではなく、ベイヤーダイナミックT51pでした。

ウッドのハウジングも、音色も美しいATH-ESW9LTD

ベイヤーダイナミックの万能ヘッドホンT51p

T51pは2014年に発売されたモデルなのですが、実は今年になるまで存在を知らなかったため、私が購入したのは2015年になってからでした。それ以前のモデルT50pとDT1350はそれぞれ癖が強く音楽的に満足できる音質では無かったのですが、T51pはそれらの教訓を元にチューニングを追い込んで、完成度を高めたモデルです。

T51pはESW9LTD同様に左右出しケーブルなので、たとえば片出しのHD25などよりも使い勝手は劣りますが、ドイツ製のオールメタル構造は使用感がとても良好で、しかも同梱のナイロンケースはコンパクトで堅牢ながら出し入れが容易ということで、咄嗟の時にパッとケースから出して使うというスタイルに一番適しているヘッドホンでした。音質面においても、これといって特筆すべき個性は無いものの、T1、T5pなどのテスラテクノロジー譲りの素直な高域表現と、若干多めの低音が、カジュアルなリスニング用途にマッチしています。

私自身は1年間通して飽きずにずっと使ってこれたため、それだけ無意識に満足しているのだと思います。2万円台でカジュアル・シリアスリスニングを問わず、室内・出先のどちらでも使えるヘッドホンをお探しの方には、このベイヤーダイナミックT51pを是非お薦めしたいです。

↓ レビューとか
Sony MDR-HW700DS
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/10/mdr-hw700ds.html

Audio-Technica ATH-ESW9LTD
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/04/ath-esw9ltd.html

Beyerdynamic T51p
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/04/beyerdynamic-t51p-dt1350.html


イヤホン

これまで外出先で使うイヤホンは、5万円以下の中堅モデルをコロコロと買い換えることが多かったのですが、今年はほぼ2種類にしぼりました。AKG K3003と、ベイヤーダイナミック AK T8iEです。しかし、どちらも高価なわりに音色のクセが強く、絶賛してお勧めできるといったような製品でもないため、ベストと言えるかどうかはわかりません。

AKG K3003

Astell & Kern Beyerdynamic AK T8iE

K3003はもう発売されて数年経っているため、市場での評価はおおよそ固まっているとおもますが、AK T8iEは今年発売されたばかりで、まだ使用頻度が高いとは言えない状態です。確かにIEMイヤホンの常識をくつがえすような傑作だと思いますが、コストパフォーマンスは悪いので、来年以降、似たような傾向でもっと安い製品が出るかもしれません。たとえば、ゼンハイザーIEシリーズの後継機が出るとしたら、こんな感じにの音色なるのかもしれないな、なんて思ったりもします。

実際、自宅で寝る前にベッドで横になっている時などに使っているイヤホンは、高級イヤホンを誤って壊したりしないように、Shure SE215SPEや、ゼンハイザーIE60の使用率が一番高いです。

コンパクトで使いやすいゼンハイザーIE60

とくにIE60はシェルが非常にコンパクトで、耳から出っ張らない形状、しかも開放型で鼓膜が圧迫されない快適さがあるため、寝ている時に装着するイヤホンとして最高だと思います。遮音性は悪いので通勤や飛行機内での仕様はお勧めできませんが、気軽にゴロゴロしながら使うイヤホンとしてはIE60がトップクラスだと思います。上位機種のIE80はシェルが大ぶりになるので圧迫されると不快感があります。また、ShureやWestoneのIEMは、耳が枕などで圧迫されると音がミュートされる感じを受けるため、快適さという意味ではIE60に敵いません。ただSE215は安い割にそこそこ高音質ですし、IE60と違い万が一の際はケーブルが交換が可能なので、そのまま寝てしまって誤って断線しても大丈夫という安心感があります。

もう一つ、今年ベストだと思えたイヤホンは、意外性という意味ではソニーMDR-EX1000でした。「なにをいまさら」と言われそうですが、実はこのEX1000は発売当時に勇み足で購入したものの、ハードでシビアな音質についていけずお蔵入りになったという苦い思い出があります。しかし最近iBasso DX80などの暖かみのあるアンプで再生してみたら、とびきり素晴らしい音色を奏でてくれたので、やはりイヤホンとアンプの「相性」は重要なんだなと再確認できました。

また、それまで使っていたコンプライの低反発スポンジから、ソニー純正のハイブリッドイヤーピースに戻したのも良い効果があったと思います。これまでコンプライで遮音性優先の密閉状態でリスニングしていたのですが、ソニーのシリコンで若干緩めの装着感で音楽を聴くと、なんともいえない開放型ヘッドホンのような魅力があり、ようやくEX1000の素晴らしさに開眼しました。もちろんゆるいフィットで損なわれる低音は、DX80のような低音が豊かなDAPで補うことが前提です。それ以来、これまで戸棚の奥にしまいこんでいたEX1000を出来るだけ使う機会を増やすように心がけています。

このように、古かったり、価格が安めのイヤホンでも、存分に楽しい体験ができた一年だったので、10万円オーバーのK3003やAK T8iEなどの絶対的な支持者にはなれないのがイヤホンの面白いところです。もちろん真剣な音質比較で言ったら高級機種のほうを選びますが、それ以外のモデルでも、用途や相性次第では価格以上の楽しみ方を発見できたりします。

↓ レビューとか
AKG K3003
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/08/akg-k3003.html

Beyerdynamic AK T8iE
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/10/beyerdynamic-astell-ak-t8ie.html

Sennheiser IE60
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/07/ie80ie60.html


USB DAC・ヘッドホンアンプ

今年は各社から多種多様なUSB DACが登場した豊作な一年でした。しかし実際使ってみると色々と不具合や不都合がある製品が多く、ベストと呼べる製品はなかなか選ぶのが難しい一年でもあったと思います。

たとえば、明らかに話題性のあるChord Mojoがトップを飾るのが一般的かもしれませんが、個人的にMojoは色々と使い勝手や初期不良などの問題を経験しており、素直におすすめできる製品とは断言できません。

高出力・高音質を兼ね揃えたChord Mojo

音質に限って言えば、Mojoはとても素晴らしいのですが、製品としては若干ツメが甘い印象があります。たとえば、職場で使っているノートパソコンの2015 DELL XPS 13では、未だにUSBハードウェアの相性問題でちゃんと動作せず盛大なノイズが出ますし、デスクトップパソコンで充電しながら利用するとハムノイズが出るなど、なにかとパソコンとの接続に問題が多いようです。別のパソコンに接続すれば問題なく動作したりするので、パソコンの方が悪いと言えるかもしれませんが、他のUSB DACではこのような問題は稀なので、結局Mojoの互換性検証が甘いと思えてしまいます。

昨年購入してから、ずっと使い続けているのは、iFi Audio micro iDSDです。Mojo同様に超高出力でハイスペックなポータブルDACなので、とにかく出先などでこれさえあれば心配いらない、という安心感があります。音質は若干高域がキツく、好みの音とは言えないのですが、なんというかヘッドホンの素性を暴くような分析力も持っているため、新型ヘッドホンの比較試聴などで非常に重宝します。とにかく、一台持っておいて損は無い製品です。

今年一番優れていると思ったDACは、OPPO HA-2でした。これはChord Mojoとは対照的に、製品としての完成度が異常に高いです。また、これだけの性能と品質に対して、値段が非常にリーズナブルです。

完璧な完成度を誇るOPPO HA-2

OPPO HA-2の素晴らしいことは、かれこれ一年近く使っていて、まだ一度もトラブルや不具合を経験していないということです。スマートフォンやパソコンに接続すると確実に動作しますし、ノイズや相性問題なども皆無でした。抜群の安定具合でありながら、DSD256やPCM352.8kHzなどの最高レートハイレゾ音源をも軽々と再生するという高性能っぷりには、素直に感心します。

音質面でも、価格以上の性能を持っており、流石にNW-ZX2やAK120IIなどの10万円超DAPなどと比較するとHA-2は味気ない音色に思えますが、この価格帯のポータブルアンプやDAPなどと比較すると、HA-2が一番素直で無駄なクセが無く、アンプの理想形である「原音を増幅する」役割に忠実な音作りだと感じました。響きにもうちょっと厚みと色気が欲しいところですが、この無個性なサウンドは上位機種の大型アンプOPPO HA-1でも同様に感じられるため、単純に安いアンプのサウンドというわけではなく、OPPOの意図しているサウンドチューニングなのでしょう。

とにかく、DAPではなくスマホやタブレット主体の音楽鑑賞を楽しむユーザーであれば、OPPO HA-2は決して損はさせない素晴らしい製品だと思います。

DAPに関しては、今年は色々と物色した結果iBasso DX80を購入しましたが、実際のところ消去法で流れ着いたような感じで、完全に満足しているというわけでもないため、どれもお勧めできる製品とは言えません。

コスパは高いけれど、未完成感があるDX80

新製品が続々と登場しており、新たなDAPが出るたびに既存モデルを上回る音質やスペックを実現出来ているようなので、現状ではあえて末永く使うことは考えず、とりあえず中堅モデルを頻繁に買い換える方が、技術革新の恩恵を得られるように思えます。

↓ レビューとか
Chord Mojo
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/10/chord-mojo-dac.html

iFi Audio micro iDSD
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/05/ifi-audio-idsd-micro.html

Oppo HA-2
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/03/oppo-ha-2dac.html

iBasso DX80
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/11/ibasso-dx80-dap.html


欲しかったけど買わなかった商品

やはりどれだけヘッドホンや音楽鑑賞が趣味だと言っても、気に入った商品のすべてを購入することは不可能です。金銭的な事情はもちろんのこと、一番大きな理由は、それよりも上位機種をすでに持っているため、「せっかく買っても使う機会は少ないだろうな」と考えて自制してしまうことです。

それでも、試聴するたびにどうしても好みに合わないような製品もあれば、欲しいけど買う理由が無い、といった製品もあるのが悩ましいところです。

その中で、2015年で記憶に残った製品がいくつかありました。

まず一つ目は、ALO Campfire Audioの「Lyra」です。米国ブティック系メーカーALOが、今年新たにデビューしたイヤホンシリーズCampfire Audioのデビュー作で、10万円のシングルダイナミック型IEMです。

Campfire Audio Lyra


同じラインナップにあるシングルBA(Orion)やマルチBA(Jupiter)モデルは気に入らなかったのですが、このLyraだけは特別で、10万円という高値に十分見合った高音質イヤホンだと思いました。現在使用しているAKG K3003やベイヤーダイナミックAK T8iEはどちらも癖が強く、万人受けしがたいイヤホンなので(だから両方を使い分けているのですが)、このLyraはダイナミック型としては非常にバランスが良い音質特性で、若干高域がマイルドな仕上がりですが、それが逆に音楽的魅力を引き出している芸術的逸品だと思いました。また、装着感も良好、イヤピースもソニー系で汎用性があり、ケーブルもMMCXで、同梱品がALOが誇る高品質ケーブル、ケースもゴージャスということで、パッケージとしてのお買い得感もあり、至り尽くせリな素晴らしいイヤホンだと思います。

残念ながらAKG K3003とベイヤーダイナミックAK T8iEをすでに所有している身なので、どうしてもLyra購入に踏みきれず、逆にLyraの音色はバランスが良すぎてK3003 T8iE双方の特出した魅力を補うほどの個性が見いだせない、という落としどころで、購入意欲を押さえ込んでいます。

大型ヘッドホンでは、「欲しいけど買わなかった」製品は2つあります。まずは2014年にデビューしたHiFiMAN HE-560です。大型の平面駆動ドライバ開放型ヘッドホンで、10万円超という高価な商品なので、いつか買おうと心に決めていながら、なかなか購入に踏み切れなかったヘッドホンです。

マイナーチェンジ後のHiFiMAN HE-560


2015年後半からHE-560は若干のマイナーチェンジがあり、これまでサブミニチュア同軸端子だったケーブルが、一般的な3.5mmジャックに変更されたため、リケーブルが容易になりました。

このHE-560は現行ヘッドホンの中でも特筆して能率が悪く、生半可なアンプでは満足に駆動できないのですが、それなりのアンプを通すと素晴らしい音色を奏でてくれます。HE-560の魅力は、派手なきらびやかさとは無縁な、ダークで奥深い音色です。一見地味で無個性なサウンドかと思いきや、じっくり聴いてみると実にリズム感や音楽性が高く、繊細なモニター調のようでありながら、音色の彫りが深い、絶妙なチューニングです。なんというかHD800などとは違った意味で、「高音質」というフレーズが似合うヘッドホンだと思います。

ちなみにHiFiMAN上位機種のHE-1000やEdition Xは価格相応の「高音質」ですが、HE-560とは方向性が若干異なり、ちょっと高価過ぎて購入意欲すらわきません。

もう一つ、大型ヘッドホンで「欲しいけど買わなかった」のは、ベイヤーダイナミック「Custom Studio」です。これはHiFiMANとは真逆で、2万円台というあまりにも低価格帯の商品なので、すでに密閉型ヘッドホンをたくさん所有している私にとっては、無用の長物になりそうだったことが、購入しなかった理由です。

見かけによらず高音質なBeyerdynamic Custom Studio

このCustom Studioは、ベイヤーダイナミックの低価格密閉型ヘッドホン「Custom One」シリーズのひとつで、名前の通りスタジオユースに特化したモデルです。通常の「Custom One Pro Plus」との違いは、外観上ではケーブルがストレートではなくコイルケーブルだということのみですが、実はドライバそのものが異なっており、通常版の16Ωではなく、80Ωという高インピーダンスドライバが搭載されています。このドライバのせいか、通常モデルよりも繊細で高解像系の音色に仕上がっており、上位シリーズのDT880などに近い音作りです。

また、DT880の弱点である低域の量感不足が、Customシリーズのセールスポイントである「低音調整スイッチ」により3段階にブーストできるというメリットがあります。低音調整スイッチは驚くほど効果的で不快感を与えない良好な低音なので、重低音を敬遠しているスタジオモニター信者でも、楽曲に合わせてついつい低音をブーストしてみたくなってしまうギミックです。

一台のヘッドホンで音の幅が広がるというのは、コストパフォーマンスが非常に高いヘッドホンです。日本でももっと取り扱って欲しい優秀モデルだとおもうのですが、なぜ販売していないんでしょうね。楽器屋の片隅で稀に見かけるくらいで、日本での流通在庫はほとんど無いのですが、もし機会があればぜひ試聴してもらいたい傑作です。安い製品なので、いつかふらっと衝動買いしてしまいそうです。

ヘッドホン以外で、欲しいけど買わなかった商品はあまり無いのですが、強いて言えばFiio X5 2nd Generationです。これまで初代X5をずっと使っており、音質面では価格を超越できる最高クラスのDAPだと思っているのですが、ジョグダイヤルとテキストオンリーの操作画面に辟易しており、新作の2nd Generationが今年発売された時に、もうFiioは買うまいと心に決めていました。

X5 2nd Generationは音質面で一番気に入っているDAPです


結果、ちょっと後に発売されたライバル社のiBasso DX80に目移りしてしまい、実際タッチスクリーンの操作性には非常に満足しているのですが、やはり音質面の個人的な好みではFiio X5 2nd Generationに軍配が上がるということは、試聴するたびに薄々感じていました。DX80がアナログアンプっぽい暖かく広がりの豊かなサウンドであれば、Fiio X5は解像感とダイレクトなパンチを持ったアメリカンハイエンドのような音色です。とくに初代X5から2nd Generationになって、音色が若干硬質になったのですが、根本的なサウンドの魅力は変わっておらず、なおかつ出力アップ、ネイティブDSD対応、コンパクトな筐体など、プラスの要素が多いです。

将来的にFiioがジョグダイヤルを廃止して、新生フラッグシップのX7に習ったタッチ画面操作に移行してくれれば嬉しいのですが、その時の第三世代X5が、現行と同じサウンドを維持してくれている保証はありません。やはり操作性を犠牲にしても、X5を買うべきか、未だに悩んでいます。

ようするに、あまり操作性やOS画面に関してこだわりがない方であれば、X5 2nd Generationは音質面での費用対効果が高い(GUIに余計なコストがかかっていない)傑作です。タッチ操作などが必要であれば、AKなど、操作性が向上するほど価格が上昇することは避けられないのが実情のようです。

今年欲しかったけど買わなかった商品は、ざっとこんなところでしょうか。他にも魅力的な製品はたくさんありましたが、財布の紐が緩みかけた商品は上記くらいだったと記憶しています。