2015年3月4日水曜日

OPPO HA-2 ポータブルDAC・ヘッドホンアンプのレビュー

OPPO HA-2 ポータブルDAC・ヘッドホンアンプのレビューです 

2015年3月発売の、OPPO初めての小型機です。これまでのOPPOの快挙を追ってきた人たちにとっては待望の新製品ではないでしょうか。






この手のポータブルDAC兼ヘッドホンアンプというのは、国産・海外ともに各社色々と出していますが、どれも似たり寄ったりで、スペックも大差無いため、どれを買うか選ぶための決定打が足りません。

性能的にはPCMは192kHz/24bit以上、なおかつDSD対応なら、それで必要十分で頭打ち状態ですし、中身も、「電池、USBインターフェース、DACチップ、オペアンプ」くらいを選択すれば、あとは初心者でもそこそこ作れるくらい簡単です。逆に言うと、どの部分に重点を置いて音質を追い込むかによってメーカーの個性が出てくるため、現在の市場は、面白い戦場になっていると思います。

その点、このOPPOは、実測12.5mmという凄まじい薄さで、セールスポイントがはっきりとしている商品です。もちろんただ薄いだけで、音質が悪いようでは、わざわざポタアンを買う意味が無いですので、実際どんなものなのかレビューしてみます。

内部については、USBレシーバは自社開発なのか汎用のXMOS等かはわかりませんが、DACはESSのSabre 9018K2Mを使ってます。据え置きヘッドホンアンプのOPPO HA-1には無印のSabre 9018を採用しているので、きっと使い慣れているのでしょう。廉価版のK2Mだからといってネットで文句を言っている人も見かけましたが、実際バランス駆動などで多チャンネルや電流稼ぎが必要でない限り、2chの9018K2Mで十分だと思います。4万円台の価格では、ここよりアンプ回路に金を回したほうがよっぽど有意義でしょう。

アンプはオペアンプOPA1602とOPA1662で差動増幅後にTPA6120とパンフレットに書いてありました。TPAの後にトランジスタと書いてあるのですが、単なるバッファ段なのか詳細はよくわかりません。内部写真などは見ていませんが、ぎゅうぎゅう詰めだと思います。

パッケージは高級な感じで、Apple製品というよりは、黒レザー+メタルということで、B&Wのヘッドホンなどの印象です。実際B&W P7などと合わせるととても似合いそうです。



充電器と、中敷きの下には色々と付属品が入っています。

この充電器ですが、ただのUSB充電器に見えますが、なんかケーブルが特殊で高速充電に対応しているらしいです。充電用USBケーブル(白いやつ)は4ピンのUSB-A規格ですが、プラス・マイナスのターミナルが通常の2倍くらい太いです。充電器の方は、なぜか5+4ピンのUSB3端子になってます。どういう仕組みか知りませんが、まあ普通のUSBのケーブルも挿せるので、あまり気にしなくても良さそうです。

(追記:調べてみたところ、VOOCという名称で、OPPO独自の急速充電規格で、OPPOのスマホなどに使われているそうです。ステップ定電流制御で、バッテリ残量にもとづいて最大4.5Aまで流せるため、通常のUSBの倍以上の高速充電が可能だとか。ただしこの専用の充電器・ケーブルを使った時のみです。通常のUSBケーブルでの充電もできますが、その場合もちろん充電時間は遅くなります)


付属品は珍しいものが入っているので、嬉しいです。マイクロUSB→マイクロUSBケーブル、そしてUSB(A)→Lightningケーブル、どちらも10cm程度の短いやつなので、OTGやAppleカメラコネクションキットを必要とせずに、そのままスマホが挿せるようにという配慮でしょう。非常に便利です。

あとはOPPOロゴ付きのシリコンバンド2本と、3.5mmステレオミニ端子のアナログケーブルです。



早速自分のXperia Z3 Compactに接続してみました。開封後すでに50%くらい充電されてありました。

残念ながら、XperiaはUSBコネクタが横に付いているので、付属のケーブルだと上手に重なりません。これはしかたがないですね。Onkyo HF Playerを立ち上げて、USBをつなげると、すぐに認識しました。

まずDSFの2.8Mhz(シングルレート)DSDを再生してみましたが、問題なくDoP接続でDSD再生できました。ハイレゾPCMももちろんバッチリです。

ひとつ注意しなければならないのは、USB接続端子がAとマイクロBの2種類あるのですが、どちらの端子を使うかによってスイッチを切り替えないといけません。開封後、スイッチが正しい位置でなかったため、音が出なくて焦りました。

また、本体の電源を入れないとUSBレシーバICが起動しないため、電源OFFの状態だとPCやスマホ側でデバイスを認識してくれません。

他社のUSB DACだと、レシーバ部分はバスパワーで認識するタイプが多いため、これはちょっと意外でした。たとえばWindowsなどで、USBが切断されると別のサウンドデバイスに自動的に切り替わるような挙動だと、毎回ヘッドホンアンプの電源を切るたびにUSBが切断されるのは不便なケースもあります。

(よくよく考えてみると、USBレシーバがバスパワーだと、常時OTGケーブルからスマホの電力を吸い取ってしまうため、電池消費が問題になりますね。そう考えるとこのHA-2の設計は理に適っています。)

パソコン(Mac)に接続してみたところ、やはり電源がOFFだとデバイスとして認識されませんが、電源投入後すぐに表示されます。384kHz 24bitまでOSで対応しています。

ちなみにパソコン上のボリュームも使えます。これはDAC内蔵のデジタルボリュームと連動するらしいです。つまりHA-2のボリュームノブのアナログボリュームとは連動していないため、2種類のボリュームが存在することになります。デジタルボリュームと言っても、往年のビット落ちするようなものとは違うので、用途によって使い分けするのが良いでしょう。通常はパソコン側のボリュームはMAXで、アナログボリュームを使うほうが多いと思います。



筐体のデザインはシンプルですが非常に高品質です。アルミのシャーシはiPhone 5シリーズを似せて作られているようで、スイッチ類などもそっくりです。ボリュームノブのギザギザ・ローレット加工はとても重厚ですし、目盛りが赤文字で彫ってあるのがカッコイイです。ボリュームノブは若干ケースよりも小さいため、テーブルに置いた状態でも指でボリュームを回せますし、結構トルク感があるのも更に高級感を演出します。ちなみに電源スイッチはボリュームノブと一体式で、グリーンのランプが点灯します。




筐体の側面にはハイ/ローゲインスイッチと低音ブースト、そしてバッテリ残量メータがあります。このゲインスイッチはちょっとおもしろくて、切り替えると急に音量が変わらず、スーッとミュート状態からフェードインします。メーカーのこういう細かな配慮はとてもかっこいいと思います。

ベースブーストは、あまり良い効果が得られなかったためOFFにしています。効き具合は結構強いです。中域にもかなり被ってくるブーストなので、女性ボーカルなども野太くなるのですが、なぜか水中のようなステレオエコー感も付加されるような気がします。使いどころによっては有用かもしれません。



音量についてですが、70Ω 102dB/mWのMDR-Z7ではローゲインでボリューム位置40%で十分な音量がとれています。AKG K712 Proでは、ハイゲインにする必要がありましたが、十分余裕があります。簡単に出力電圧を計測してみたので、グラフを作りました。他のヘッドホンアンプのデータは2月のブログ記事に載せたので、それと比較してみると面白いかもしれません。


グラフの入力は0dBFSの1kHzサイン波を192kHz/24bitのPCMで入力した際にHA-2のボリュームノブを最大にした状態です。電圧は最大振幅を知りたいのでVrmsではなく、Vp-pです。

ハイゲインとローゲインでは、かなりの電圧差があります。ハイゲインモードでも一応50Ω程度までクリッピング無しに安定して定電圧駆動できているので、とても優秀だと思います。負荷インピーダンスが下がると駆動が辛くなってくるのですが、常識的な音量で再生する際にはどうでもいいことです。ローゲインモードだとほぼフラットに定電圧駆動しています。計算だと出力インピーダンスは1Ω程度になります。

ちなみに、ラインアウト出力は無負荷時2.8Vp-pですが、かなり出力インピーダンスが高いので(200Ωくらい)、当然ですが一般的な47kΩ受けなどのライン用途に限定されます。

こう見ると、大型ヘッドホンから小型IEMまで、色々な用途で問題なく使える、死角の無い近代的な万能アンプですね。

余談ですが、このHA-2のアンプ回路は無負荷状態(ジャックに何も刺さっていない)だとミュートする機能があるようなので、無負荷状態での出力電圧を計測するときにちょっと戸惑いました。一旦100Ω程度の負荷を接続してやると出力がONになるので、その状態で負荷を徐々に外していけば、OFFにならずに出力を維持してくれました。

つまり、ヘッドホンジャックを高インピーダンス受けのライン入力などに接続してもONにならない可能性があるので、気をつける必要があります。まあ、そのためにラインアウトがあるのですが。



セールスポイントであるケースの薄さですが、自分のXperia Z3 Compactと比較するとこんな感じです。レザーの質感はすごく良いですし、滑り止めにもなります。きっと将来的に限定カラーなどを出すんでしょうね。



肝心の音質についてですが、実はこのHA-2は、デモ試聴した際に非常に好印象だったため、その場で衝動買いしてしまいました。それくらい良い音です。

自分のよく使っているiFi iDSD Microを持参して、AKG K712 ProとソニーMDR-Z7、ゼンハイザーIE80で試聴してみたのですが、自分の意見としてはiFi iDSD Microよりも音楽的な表現は優れていると思いました。

具体的には、中高音の楽器の彫りの深さや瑞々しさが際立っていました。iDSD Microのほうが繊細なディテールなどを全部聴き取れると思いますが、どうもその「包み隠さず」といったプレゼンテーションが、聴き疲れにつながります。特にiDSD Microは高域がちょっと固めでキツイかな、と思うことが多々あります。その点、OPPO HA-2の方は中高域の魅せ方がとても上手で、楽器のタッチやアタックに存在する音のツヤっぽい部分を上手に表現しています。また、空間表現も一枚上手です。変な言い方ですが、良い感じにユルいので、この手の音作りが好きな人にとっては、聴いてみて「おっ!」と思う部分があると思います。

とくに私の場合、1950年代などの古い楽曲を聴くことが多いのですが、録音がシンプルで、メイン楽器や歌手が堂々と演奏して、背景にはテープノイズや環境ノイズが多い、などといった録音の場合、iDSD Microだとノイズ部分やエッジ感がギラギラと表に出てくるのですが、OPPO HA-2の場合、演奏者の生っぽい表現が際立っています。

まだあまり長い時間使っていないので、HA-2の悪い点などはあまり気がついていないのですが、音作りは結構独特なので、気にいらない人もいると思います。あまり派手に発散せず、低域も被らないため、中高域寄りのカマボコ型といえるかもしれません。この価格帯で、このデザイン、そして、薄さ、トータルで考慮すると、かなり良い買い物だと思います。

逆に、もっと解像度が高く、すべてを聴きたい、分解能重視の人はiDSD Microのほうがオススメです。私も、最新録音の大編成オーケストラなどは、細部まで聴き取るためにiDSD を使うと思います。あとiDSD Microには、HA-2に無いクロスフィード機能があります。


欲を言えば、せっかくOPPOはPM-1などのバランス対応ヘッドホンを作っているのですから、HA-2にもAK式の2.5mmバランス出力があればよかったと思います。オペアンプからTPA6120アンプまでは差動で来ているのですから、そこを最後まで4chアンプで出してくれれば、なんて想像したりもします。というのも、今この価格帯のヘッドホンアンプに手を出したいユーザーにとっては、バランスというのは結構興味の湧くトピックではないでしょうか。購入決定の最後のひと押しになると思っています。

個人的な意見ですが、OPPOは上位にHA-1という巨大な据置型DAC・ヘッドホンアンプを販売していますが、今回のHA-2はあえてHA-3という名前にして、その中間に中型の据え置きヘッドホンアンプとしてHA-2を作って欲しかったです。そのほうが、ヘッドホンの据え置きPM-1、廉価版PM-2、ポータブルPM-3と整合性もありますしね。

HA-1はいつも欲しいと思っているのですが、電源トランスなどのせいで非常に大きく重く(6kg)またBluetoothや大型カラーディスプレイなど自分にとってあまり必要の無い機能が多いため、それらをカットした廉価デスクトップDAC・ヘッドホンアンプが開発されるのを期待しています。とはいっても、大半の用途ではこのHA-2で十分に良いと思います。

Oppo HA-2は、自宅ではパソコンに接続して充電しながら音楽を聴いて、出先ではスマホに接続して高音質をポータブルする、というコンセプトに非常に適している素晴らしい製品だと思います。

↓後日の追記がちょっとあります。
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/03/oppo-ha-2.html