2018年11月19日月曜日

Fiio M3K & BTR3 ACTIVO CT10 DAPの試聴レビュー

Fiio M3K・BTR3と、ACTIVO CT10を試聴してみたので、感想とかを書いておきます。

Fiio M3・BTR3 ACTIVO CT10

近頃は、DAPに求められる基本スペックが定まってきたおかげで、低価格帯でも十分実用的なモデルが続々登場しており、それらすべてをチェックすることは難しくなってきました。そんな中で、今回使う機会があった三機種を紹介しようと思います。


Fiio M3K

Fiio M3Kは昨年登場した「M7」の弟分といった感じで、価格帯ががぐっと下がったのと同時に、サイズもかなり小型化されました。US$260のM7に対してM3KはUS$90くらいなので、既存のエントリーモデル「X1 II」のUS$130よりもさらに安い価格設定です。

ちなみに2015年に「M3」というDAPがあったので、それの後継機とも言えますが、共通点は皆無なほどに全くの別物です。

M3K

付属シリコンケース

搭載チップは旭化成AK4376A、重量は77.5g、バッテリー26時間再生、USB DACとしても使用可、という優秀なスペックです。

低価格モデルなのでマイクロSDスロットのみで内蔵ストレージはありません。またUSB OTGトランスポートとしても使えません。(スペックシートではOTGと書いてあるのですが、スマホからファイル転送ができるだけだそうです)。Bluetoothも無いので、そのあたりがX1 IIとの差別化でしょうか。

さらに、省電力設計を徹底したおかげで、スタンバイ状態で38日も充電を保持するそうです。DAPは久しぶりに使おうと思ったら自然放電で空だったというのがよくあるので、こういった努力はかなり嬉しいです。

ようするに、このM3Kは、日頃の通勤などであまり大きなDAPを持ちたくない(でもスマホとは別にプレイヤーを持ちたい)という人にピッタリのポケットサイズDAPです。とくに近頃の高級DAPは巨大化が進み、洋服のポケットに入れるのはほぼ不可能になってきているので、こういったコンパクトDAPがあると、なにかと重宝します。

さらにユニークなギミックとして、本体にマイクが内蔵されており、マイクロSDへの録音機能というのもあります。ちょっとしたボイスレコーダーとして使うためでしょうか。私は興味が無いので今回はテストしませんでした。

ウォークマンとサイズ比較

私も普段はCowon Plenue Sなど大きなDAPを使っていますが、ちょっと徒歩でカバン無しで出かけたい場合には、Shanling M1という小さなDAPを使うことが多いです。移動中に選曲するわけではなく、アルバムを再生しっぱなしにするだけなので、操作性の悪さはあまり気になりません。そんな用途にM3Kはピッタリだと思います。

側面のボタン

ソニーっぽいです

Fiio M7は明らかにAK100IIなどと似せたようなデザインでしたが、今回M3Kはどことなくソニーっぽいです。寸法は違いますが、たとえばウォークマンWM-ZX300などと意匠が似ており、アルミ押出で円形に丸めた側面や、ヘッドホンジャックのリングなど、低価格モデルといっても質感は高いです。X1 IIと比べてもこっちの方がよく出来ていると思います。

下半分はタッチセンサーボタンです

一見フロントガラス全体がタッチスクリーンに見えるのですが、いざ電源を入れてみると、画面は上半分のみ(タッチ操作不可)で、下半分にタッチセンサーボタンが白く点灯するという、若干ガッカリな仕組みです。

実際に使ってみると、過去のFiioでは円形ダイヤルだったところが、M3Kでは上下に指をスライドさせる方式に変わっただけのようです。それ以外のボタン類は旧式のFiioからそのまま引き継いでいます。

旧モデルM3は低価格モデルゆえにインターフェースのレスポンスが遅くイライラさせられたのですが、今回M3Kの公式サイトを読むと、最新CPUチップを採用することで省電力と高レスポンスを実現できたということを掲げています。実際に使ってみても、確かに選曲などはキビキビと動いてくれます。

液晶は荒いです

いわゆるFiioインターフェース

設定メニュー

カード楽曲読み込み

インターフェースソフトは旧式の(Android以前の)Fiioとほぼ同じなので、使い慣れている人であればすんなり操作できます。奇をてらわないというか、ここまでくると古臭いというより、むしろレトロな趣すら感じます。

DSD256は再生不可

公式スペックによるとフォーマットはPCMは192kHzまで、DSDはDSD64のみ再生可能と書いてあります。実際DSD256ファイルを再生してみたら「not supported」とエラーが出ました。カジュアルな製品なのであまり多くを期待するのも酷です。気軽に使うにはこれで十分でしょう。

Fiio BTR3

Fiio BTR3は厳密に言えばDAPではないのですが、オーディオ回路がM3Kと共通の、兄弟モデルのようなものなので、今回は合わせて試聴してみました。価格はUS $80くらい、日本でも1万円前後で販売しています。

M3KとBTR3

BTR3はストレージや画面を持たないBluetoothレシーバーDAC・ヘッドホンアンプです。つまりパソコンやスマホから音楽をBluetoothで飛ばして再生するための装置です。

最近こういった「ワイヤレスじゃないイヤホンをワイヤレス化する」機器も増えてきましたが、このBTR3は「AAC・SBC・aptX・aptX LL・aptX HD・LDAC・LHDC」と、現状で考えうるすべてのBluetoothフォーマットに対応しているという全部入りモデルです。とくにaptX HDとLDACに両対応というのは珍しいです。

ちなみに下位モデルでBTR1K (US $50)・uBTR (US $32)というのもあり、それぞれ搭載チップの組み合わせが異なり、スペックや対応フォーマットに差があります。

一番安いuBTR(uはマイクロのμでしょうか・・)はBluetoothレシーバーがQualcomm CSR8645でヘッドホンアンプはTPA6132A2という構成で、aptX対応・9時間再生のベーシックなモデルです。

BTR1KはQualcomm QCC3005チップでaptX LLにも対応し、オーディオチップはM3K・BTR3と同じ旭化成AK4376Aです。このモデルのレシーバーチップのみBluetooth 5.0世代なので、対応スマホがあれば恩恵を受けることができるそうです。ちなみに以前BTR1というモデルがあったのですが、あれは個人的に接続不良の音飛びが酷くて使い物にならなかったです。BTR1Kは新型チップによる改良品のようです。

そして今回使ってみたBTR3はQualcommの高級チップCSR8675を採用しており、LDACコーデックに対応しています。このチップはBluetooth 4.2世代ですが、受信感度が高く、高速演算DSPでオーディオ性能に特化した最高級Bluetoothレシーバーだそうで、音質的には一番良いらしいです。

つまり、ジョギングや動画鑑賞などカジュアルな用途であればBTR1K、真面目なイヤホンリスニングならBTR3といった選び方ができます。

BTR3は音質重視ということで、家庭のステレオに接続して音楽を飛ばすためにも使えそうですし、あとカーオーディオなどでも、車載オーディオのBluetoothは感度がショボくて音飛びしやすい車が多いので、そういう時はBTR3で代用するのも良さそうです。

USB DACとして

もう一つBTR3の珍しい機能として、USB DACとしても使えます。つまり外出時はスマホとBluetooth接続して使い、自宅に戻ったらパソコンとUSB接続で、充電しながらDACとしてカジュアルに音楽が楽しめるということです。

ちなみにスマホからOTG接続も可能です。最初に試聴機を借りたときはうまく接続できなかったのですが(認識するけれど音が出ない)、以降ファームウェアアップデートしたら接続できるようになりました。

さらに最近のファームウェアでは、ペアリング後に専用スマホアプリからいくつかの設定が変更できるようになりました。

Fiioロゴが光ります

側面ボタン

クリップはかなり開きます

本体はシンプルな長方形で、Fiioロゴが多色LEDなので、コーデックのインジケーターとして機能します。LDACだと白、aptX HDだと黄色に光ります。

背面のクリップは結構大きく開くので、ジャケットやバッグなどでも挟めます。重量は約26gと軽量ですから、最近よくあるMMCXケーブルにBluetoothレシーバーがついてるやつとかと比べても遜色なく身軽に使えると思います。

ヘッドホン端子とUSB Cが隣接しているので・・・

太いと入りません

ヘッドホン出力は3.5mmアンバランスのみ、USBはUSB-C端子です。今回使ってみて唯一不満に思ったのが、USBとヘッドホン端子がかなり隣接していることです。そのため、USB DACとして使いたい場合は、大きめのヘッドホンプラグは挿せません。

それと、BTR3本体のボリュームボタンは、スマホのシステムボリュームと連動していないため、それぞれ別々に調整しなければならないのはちょっと意外でした。つまりまずスマホ側のボリュームは最大に上げておかないと、BTR3のボリュームを上げても十分な音量が得られないということです。これを知らないでいて「BTR3は音量が足りない」なんて思った人も結構多いかもしれません。

ACTIVO CT10

最後にACTIVO CT10ですが、これはAstell&Kern (AK)ブランドのiRiver社が新たに立ち上げたブランドです。同じ会社の音楽ダウンロード・ストリーミングサービスGrooversとのコラボという形で、AKよりも低価格でカジュアルに(名前からしてアクティブに)使えるDAPというのを目指しているようです。

昔からiRiverブランドでもMP3プレイヤーなどを作っていた会社なので、今回AKとは別にACTIVOを出したのもあまり違和感はありません。

ACTIVO CT10

CT10は、3.4インチタッチスクリーン、112g、10時間再生、無線LAN、Bluetooth aptX HD対応、内蔵16GB、といった感じで、フルスペックなDAPとして十分な機能を持っています。D/AチップはシーラスロジックCS4398をシングルで搭載しています。

発売価格は46,000円くらいで、これを書いている時点では実売35,000円くらいで流通しています。AK DAPの中で一番安いAK70 MKIIがおよそ55,000円、その上のSR15が90,000円くらいで売っているので、それらと比べてもずいぶん安価です。

実売4万円以下ということは、フルスペックなタッチスクリーンDAPとしては最安値に近いです。最近続々登場している中華ブランドのエントリークラスAndroid DAP勢と対抗できるあたりを狙ったのだろうと思います。

ちなみに、個人的な見解ですが、なぜ4万円が「低価格」と言えるのかというと、大昔のカセットウォークマンやポータブルCDプレイヤー、MP3プレイヤー・iPodの時代から、本格的なポータブルプレイヤーといえば、だいたいこのくらいからが相場だったからです。

丸みをおびたデザイン

裏側はシンプルなプラスチック

CT10のデザインは、外観だけ見ればAK DAPとはかなり異なり、フロントガラスを含めて丸くツルッとしたイメージです。

この愛嬌があるポップなフォルムのせいで、なんだか昔のSansa Clip、Microsoft Zune、Creative ZenのようなMP3プレイヤーを彷彿とさせます。あの頃は初代iPodを筆頭に、なんでも角を丸くするのが流行ってました。

再生画面

一般的なDAPと比べると幅広ですが、液晶画面は左側に寄せており、ホームボタンは画面下ではなく右下にあります。

プラスチックを多用しているのでチープな印象はありますが、AK DAPのように豪華ハウジングをレザーケースに包んで慎重に扱うよりは、これくらいベーシックな方が気兼ねなくバッグに放り込んだりするには合っています。

とはいえ、じっくり観察してみると、構造自体はAK DAPの意匠を多く取り入れています。

ボリュームエンコーダーノブ

AKっぽいボタン配列です

右側のボリュームエンコーダー、左側のトランスポートボタン、マイクロSDカードスロットやマイクロUSBコネクターなど、物理的にはAK SR15とそっくり同じなので、なにも悩まずにスイスイと使いこなせました。

USB Cではなく、マイクロUSBです

バランス出力はありません

こうやってAK SR15と並べてみると、CT10はAK DAPを極限まで簡素にアレンジした製品のように見えてきます。

AK DAPに必須の2.5mmバランス出力を排除し、3.5mmアンバランス出力のみに絞られています。

さらにD/A変換はシーラスロジックの旧世代チップCS4398をシングルで搭載しています。AK DAPと比べてみると、AK70 MKIIは同じくCS4398をデュアル搭載、SR15は次世代のCS43198をデュアル搭載なので、それらと比べるとコストダウンが伺えます。

公式サイトから、AK TERATONアンプモジュール

一番肝心なヘッドホンアンプ部分は、TERATONという名前のモジュールを搭載しています。これは、AK DAPのアンプ設計コンセプトをiRiverがモジュール化して、他社へOEM販売するために作られたものだそうです。

経験が浅い新興ブランドがDAPやポタアンを作りたいときに、iRiverからTERATONモジュールを買って組み込めば、即席で手軽に高音質と高出力駆動が得られるというアイデアです。

つまりこのCT10というDAPは、そのアンプモジュールを採用するレファレンスデザイン用デモ機のような扱いかもしれません。

ボリューム調整はタッチスクリーンでも行えます

ブラウズ画面もAKそのままです

画面上端のショートカットも

設定メニューも

液晶画面の発色も良く、ソフトウェアインターフェースはSR15とほぼ同じなので、これも第四世代AK DAPを使い慣れている人ならすぐに使いこなせます。動作が鈍いということもありません。

左端スワイプからライブラリー選曲、上端スワイプで各種ショートカットボタンなど、さすがに長年DAPメーカーの最大手だけあって、インターフェースの使い勝手は素晴らしいです。

USB OTGトランスポートとしてDSD256を送信

家庭用USB DACのトランスポートとして

CT10はAK DAPと同様にUSB OTGトランスポートとして活用できるので、外部のUSB DACと合わせて使うことが可能です。

DAP単体ではDSDはPCM変換になりますが、トランスポートしてはちゃんとDSD256 (11.2MHz)までネイティブでUSB DACに送れます。快適な操作性と合わせて、家庭で手軽に使えるトランスポートしても活用できそうです。

出力とか

いつもどおり、1kHzの0dBFSフルスケール信号を再生して、ヘッドホンインピーダンス負荷に対してヘッドホン出力が音割れするまで(THD < 1%)の最大電圧(Vpp)を測ってみました。

ヘッドホン出力

想像していたとおり、Fiio M3KとBTR3の出力カーブはぴったり一致しています。ちなみにBTR3はテスト信号をBluetooth(LDAC)で飛ばして測ったのですが、それでもM3Kと一致しているのは面白いですね。

CT10は第四世代AK DAPらしい特性で、SR15のアンバランス出力とほぼ重なります。アンプ回路の設計コンセプトがよく似ていることがわかります。

CT10は無負荷時5.5Vppくらい出せるので、一般的なイヤホン・ヘッドホンを駆動するには十分な高出力ですが、Fiio M3K・BTR3は2.5Vppくらいが上限なので、とくにインピーダンスが高くて能率が低いヘッドホンでは十分な音量が出せないかもしれません。上位モデルM7の方が高い電圧が出せますが、本体サイズも大きくなるので、用途に応じて選ぶことが大事です。

無負荷時1Vppに合わせた出力

無負荷時にボリュームを約1Vppに合わせて負荷を変えていったグラフです。

どれも横一直線で十分に低い出力インピーダンスなので、一般的なマルチBA型IEMなどを使う場合でも問題なさそうです。

グラフを見るとCT10はSR15と比べて電流出力がちょっと弱いようなので、電源回路などに価格なりの差があるのかもしれません。些細な違いですが、こういった部分が音質に影響を与えたりします。

それにしても、Fiio M3K・BTR3は出力がずいぶん低インピーダンスまで安定しています。これらが搭載している旭化成AK4376Aというチップは、D/A変換とヘッドホンアンプをワンチップで提供する最先端ICチップです。そもそもM3Kのカタログスペックである25mW (32Ω)というのはAK4376Aチップのデータシートそのままです。

僅か25mWといえど、デジタル入力からヘッドホン端子まで、ボリューム操作も含めてすべて、豆粒程度のICチップのみで完結してしまうのは凄い時代ですね。古典的なオペアンプなどが不要になったおかげでBTR3ほどのコンパクトさが実現できたわけですし、さらにチップ内に高度な保護回路があるおかげで、アンプの過負荷を心配せずしっかり定電圧駆動できています。

大型ヘッドホンを駆動するような大出力電圧が必要でない限り、もはや下手なオペアンプ回路とかを組むよりはオールインワンICに任せたほうが良いのかもしれません。

音質とか

この手の低価格帯DAPで音質についての感想を書くのはなかなか難しいです。やはり上位モデルと比べると一歩劣る部分が色々と見つかるのですが、それらばかり指摘して、音が悪いという印象を持たれるのも困ります。かといって手放しで絶賛するわけにもいかないので、そのへんのバランスが難しいです。結局「値段を考えると十分優れたサウンド」なんてありきたりな結論に至ってしまいます。

Fiio、ACTIVOともに、どちらも直系の上位モデルが存在するので、それらと比較することで、各モデルのサウンド傾向がなんとなくわかるようになります。

まずFiioですが、M3KとBTR3のサウンドはとてもよく似ています。とくにBTR3をUSB DACとして使った場合、両者はほぼ同じだと思いました。サウンドの特徴は、太く丸く、派手さを控えたアナログっぽいサウンドです。これはコンセプトとしてM7と変わっていないので、シリーズとして一貫性を持っています。Fiioの主力シリーズX5やX7などが、最近はどちらかというとシャープでいわゆるデジタルっぽい高解像さを求めているのに対して、Mシリーズはもっと落ち着いたサウンドを目指しているようです。

とくに近頃のエントリークラスのマルチBA型イヤホンなどの多くは、店頭試聴で興味を引くためにわざとパンチの効いた派手なサウンドに仕上げがちなのですが、いざ購入してから実際に使ってみると聴き疲れしてしまうイヤホンが多いです。そんな時にM3K・M7と合わせることで派手さが緩和されて良い具合になると思います。

アナログ的といっても、M3K・BTR3のサウンドは真空管のように響きを増幅して芳醇な鳴り方を演出するという感じではありません。ここでいうアナログ的というのは、たとえば1980年代のラジオやカセットテープのような、帯域がカマボコ型で中域が聴き取りやすい、素朴なオーディオという意味です。

私の勝手な解釈ですが、とくに屋外でポピュラー音楽を聴く場合には、帯域・音量ともに、あまり派手にワイドレンジさを強調するようなハイレゾ風の志向だと、ジャカジャカと耳障りでかえって音楽が聴きづらく感じます。その点M3K・BTR3のような音作りのほうかえって心が落ち着きます。カーラジオやカセットテープウォークマンなんかを聴き慣れた世代の人なら、そのメリットを思い出してくれると思います。

上位モデルのM7と比べると、M3Kのサウンドはそこまで大きく劣るわけではないものの、音色の響きが素朴すぎて、面白味がないように感じました。録音されている音はちゃんと実直に鳴っているのですが、キラッと輝くような美しさだとか、熱くワイルドな響き、もしくは空間を立体的に使った情景といった、もっと優れたDAPで味わえるような音楽の楽しみが欠けていて、ただ淡々と鳴っているようです。

外出時に使う場合はそこまで熱心に聴かないので、さほど気になりません。ここで欲を出してもっと音質向上を目指すとなると、持ち歩きにくい巨大なDAPになってしまうので本末転倒です。

音量はそこそこ出せますが

大型ヘッドホンはちょっと厳しいです

M3K・BTR3ともに最大出力電圧はそこまで高くないため、合わせるイヤホン・ヘッドホンで相性の差が現れやすいです。

高効率で鳴らしやすい、マルチBAやハイブリッド型イヤホン、もしくはポータブルに特化したヘッドホンなどであれば問題ありませんし、そういったモデルはアンプの優劣にあまり影響を受けない(イヤホンそのものの個性が強い)傾向があります。

しかし、上の写真のダイナミック型イヤホンFinal E5000や、大型ヘッドホンFostex TH909とかを鳴らしてみると、音量はそこそこ出せるのですが、音質はメリハリや迫力の無い、乾いたパンのような音になってしまいます。特に低音はボリュームを上げていっても力強さが追従してくれないため、モコモコと布団をかぶったような鳴り方です。単純にパワー不足で空気(振動板)を動かすレスポンスが悪いのでしょう。


M3Kと比べて、BTR3の方はBluetooth接続がメインになるので、こっちのほうが面白いです。不思議なもので、最近色々とBluetoothオーディオを試聴する機会が増えてくると、機種をまたいで、接続コーデックによってそれぞれ音質傾向の特徴みたいなものが感じられるようになってきました。

CT10からBTR3にaptX HD接続

XperiaスマホからLDAC接続

まずSBC接続は一番ベーシックなサウンドだと思います。BTR3をUSB DACとして接続した時や、M3Kのサウンドと比べると、もっと鈍く、フォーカスが定まってくれないため、一音一音が必要以上に太くなる印象です。長時間聴いていると、押しが強くて暑苦しい感じがします。

aptXの方がもうちょっとマシですが、高音に無駄な音が多いようで耳障りで聴き疲れしやすいです。高音に明確なオンオフが無いというか、ダイナミックレンジが感じられず、常になにか余計な空気音で埋め尽くされているような感じです。aptX HDの方も相変わらず高音が情報過多ですが、もうちょっとクッキリして「HD」っぽく感じます。

LDACは一番感じが良いですが、有線接続と同じというわけではなく、LDAC特有の味付けみたいなものが常に感じられます。実はBTR3の場合、これが上手く作用してくれて、M3Kよりも好印象に思えることが多かったです。LDACはBluetoothっぽい悪影響は他のコーデックと比べてそこまで感じられないのですが、中低域のたとえばチェロやウッドベース付近の音色にちょっとした響きの厚みや色付けが感じられ、全体的に余韻がリッチになる感じです。聴かせかたは悪くないのですが、ちょっと脚色が強くも感じられます。

なぜコーデックごとに聴こえ方が違うのか、不思議にも思うのですが、各方式ごとに、圧縮データを展開復元する際に失われた部分を補正するDSPロジックがそれぞれ異なるのでしょう。その昔、MP3・AAC・ATRACなど圧縮音源で、それぞれ音質の違いが論議されていた時代を思い出します。

それと、もう一つ気づいたのは、コーデックごとに、接続が危うくドロップアウトしそうになる時の挙動が違います。SBCは明らかにブチッと切れ、aptXはパチパチ・チリチリとなり、LDACはキュルキュルと、まるでカセットテープが故障した時の回転ムラのように、時間軸でおかしな事になります。つまりバッファが追いつくまで何らかの補完をしているのでしょうか。

Bluetoothオーディオというのは常に一定のデータ量ではなく、接続環境に応じてクオリティを可変させているので、aptXやLDACだからといって、環境が悪ければ音質も悪くなります。(駅や電車内など、周囲にBluetoothや無線LANデバイスが多いほど悪くなります)。DAPでFLACを聴く時とは違い、常に細かな補完やビットレートの変化が臨機応変に起こっているので、その頻度や方式ごとに、コーデックによる音質差というのが現れてくるのかもしれません。


最後にACTIVO CT10ですが、Fiio M3K・BTR3とは傾向が全く異なり、ワンランク上のサウンドです。1万円から4万円へのステップアップですから、値段相応という言葉がつくづく実感できました。AK由来のアンプモジュールを搭載するだけあって、全体的なサウンドもAKの、特にSR15に近いです。

CT10のサウンドは「SR15が軽くなった」という表現が一番しっくりきます。SR15と共通しているのは、中域から高域にかけて明るく新鮮な音色が味わえます。空間の立体表現や奥行きはあまり感じられないので、クラシックとかジャズ生録とかを精密に聴きたい人はもっと上級DAPが必要かもしれませんが、普段そういうのではなくボーカル主体のスタジオ楽曲を聴く人は、CT10を気に入ると思います。

全体的に、音の見通しが良いのですが、下手なDAPでありがちなスカスカな細さや、金属的な硬さが無く、ヴァイオリン、フルート、トランペットなど、どんな楽器でも高音の音色が充実しています。女性ボーカルなんかも同様に色気があり、聴いていてリズム感が良く、とにかく楽しいです。

一方、中低域はSR15のような立体感や芯の太さが感じられず、特に男性ボーカルあたりは不満がありました。浮足立っているとか不安定というわけではないのですが、音色の主張が弱く、当たり障りのない地味な音色です。中低域に限って言えば、スマホなどと同じような鳴り方に近いです。

DAPにはそれぞれ音色の個性や方向性がありますが、CT10はSR15と同類であることは確かです。たとえばCT10とAK70 MKIIでは、同じD/Aチップを採用しているものの、方向性は大きく異なります。

AK70 MKIIは力強い迫力やエネルギーがあり、ハードロックとかのドライブ感がよく出てくれて、逆に落ち着いた繊細さは不足しているので、たとえばシンプルなボーカル曲とかはSR15の方が一枚上手です。CT10はそれに近いものの、完成形まではあと一歩といったところでした。

CT10はAK由来のアンプモジュールを搭載しているだけあって、駆動力は申し分無く、M3・BTR3よりもパワフルです。先程のFinal E5000やFostex TH909などもそこそこ満足に駆動できました。もちろんこれらはさらに本格的なアンプで鳴らせばもっと凄い音で鳴ってくれますが、CT10でもその片鱗は体験できます。

余談になりますが、私の勝手な考えで、「ハイエンド」なイヤホン・ヘッドホンというのはどういうものかというと、DACやアンプなどをレベルアップしていくにつれて、どんどん音質の良さを引き出せるものが「ハイエンド」だと思っています。つまり値段はあまり関係ありません。逆に、どんなに高価で、ハッタリが効いていても、アンプのグレードが上がるにつれて潜在的な悪いクセや不具合が露見してしまうイヤホンは、ハイエンドとは言えません。

個人的にE5000・TH909ともに、そんなハイエンドにふさわしいモデルだと思っているので、ポテンシャルを十分引き出すためには、最低でもCT10がスタート地点だと思いました。

おわりに

今回試聴した三機種はどれも最新モデルだけあってよく出来ており、スペックの範囲内であれば目立った不具合もなく快適に使えました。

やはり一番感じたのは、値段相応というか、価格が上がるごとに明確なアップグレードが体感できた事です。オーディオ機器は、ある程度の価格以上になると、あとは単なる味付けの違い、なんて言われたりしますが、1~4万円ではまだそのレベルに到達していないようです。

個人的にこの中で一番興味を持ったのがBTR3です。AptX HD・LDAC対応など優れたスペックで、値段も安いので、イヤホンのみでなく色々な用途が思い浮かびます。家庭用ハイエンドオーディオシステムを組んでいる人でも、来客や家族のためにとりあえずBluetoothに対応させるにも便利です。家庭のオーディオで、本格派CDプレイヤーと、同じ音源をパソコンからBluetoothで飛ばしたものを聴き比べてみるのも一興です。

M3Kも悪くないですが、近頃カジュアルユーザーはワイヤレスヘッドホンへの移行が顕著なので、まだこういった古典的ポケットDAPの需要があるのか気になります。欲しい人はウォークマンなりをすでに持っていると思うので、それらを買い換えるほどの技術進歩は感じられません。音質・パワーともにスマホに毛が生えた程度ですが、パッケージとしてのは熟成度は高いと思います。入門DAPというよりは、マニアが二台目にサブ機として「とりあえず」持っておくようなものかもしれません。

CT10はDAPの入門機としては上出来で、AK由来のアンプモジュールがしっかり力を発揮してくれています。まずなにかDAPを買いたいのであれば、M3Kは通り越して、これくらいを検討した方が、機能や音質面でのメリットがちゃんと実感できると思います。2-3万円のそこそこ良いイヤホンを買った後に、スマホよりもうちょっと良い音で楽しみたいと思った人は検討すべきです。バランス出力は対応していませんが、実際のところバランスケーブルは結構な出費になるので、この価格帯ではバランス対応は無くて正解だと思います。(イヤホンやDAPはショボいままで、変なアップグレードケーブルをあれこれ買い漁るのは良くないと思います)。

CT10のサウンドの延長線上にSR15があるので、個人的な意見としては、ある程度高級なイヤホン・ヘッドホンをすでに持っているならば、一気にそのあたりを検討するのも良いです。その上にももっと高価なDAPはいくらでもありますが、スペックや機能性はほぼ頭打ちですし、音質面でも、味付けの違いでマニアがあれこれ言うだけの世界に足を踏み入れます。